大正期における俸給生活者および職工の家族収入

甲子園短期大学紀要 31:9-15.2013.
大正期における俸給生活者および職工の家族収入
永 藤 清 子*
Family Income of Salaried Worker and the Worker's in the Taisho Era
Kiyoko EITOH*
Abstract
By using the presentation of cooperative research report took place at the end of Taisho era was a salaried
worker and the worker's family income. As a result, household income only a salaried worker, the worker's ,
can't live. Many household family income are insignificant of all spending was. Average household income of
the salaried man is higher than the worker's .Household primary income, found that many family income other
than income. On the other hand, Tokyo and Osaka area compared to the lower is household income, the income
of the entire household Tohoku and Tyugoku area with. Percentage of family income in salaried 11.0% and 15.0%
the worker's . The worker's was that a high percentage of family income. Taisho era was being encouraged by
avocation. Handicraft has been encouraged as a side job family. Want to analyze the side job of the family were
encouraged as a national policy on future
要 旨
大正末期に行われた協調会調査報告資料をもとに俸給生活者・職工の家族収入の分析をおこなった。その結果、
俸給生活者世帯、職工世帯ともに、世帯主の収入だけでは家計が賄いきれていなかったこと、家族収入を入れても
総支出を賄えない世帯が全国に多くあることが分かった。ここで取り上げた俸給生活者、すなわち官吏、教員、会
社員の世帯は、化学飲食物、機械器具といったいわゆる工場労働者を中心とする職工世帯に比べて、平均世帯収入
が高く、世帯主・家族収入以外の収入が多いことも分かり、家計収入の質的差異があるのではないかと思われた。
一方、東北地方や中国地方と大都市を抱えた東京地方・大阪地方との世帯収入、世帯主収入との格差もみられた。
世帯収入に占める家族収入の割合を平均でみると、俸給生活者世帯11.0%、職工世帯15.0%と職工世帯の家族収入の
割合が高かった。大正期の家族収入の背景として、副業・家庭内職の奨励が政策として展開されていた。なかでも、
家庭内職としての副業には、手芸がとくに奨励された。今後は、政策として奨励された副業・家庭内職の実態を分
析したい。
Key Words : household income、side job、handicraft
キーワード:世帯収入 副業 手芸
析から、大正期の俸給生活者および職工世帯の家族収
1. 緒 言
入の比重が比較的高い水準にあることを前報で報告し
協調会による『俸給生活者職工生計調査報告』の分
た(永藤、2011)
。その背景には、生活の困窮、職業
*
本学教授
論文(原著)
:2012年12月5日受付 2013年1月16日受理
―9―
意識の変化、産業発展による働く場の拡大等さまざま
は限定的であり、大切な家庭の事務(家政の整理、小
な要因が考えられる。とくに明治後期から大正期を通
児の保育、食物の調理、室内の掃除など)を放棄して
じて実施された農家の副業推進施策で、女子に家内工
外に出て職業につくのではなく「家庭事務の外、日々
業への従事を奨励していること、婦人の新しい職業や
空費する時間無きようにするにあり、
(中略)下等社会
女子に適当とされる内職が婦人雑誌等で紹介され始め
の婦人が職業につくは大抵家計の困難より止むを得ざ
たことが、婦人の職業意識に影響を及ぼし、俸給生活
るに出ものなり(中略)中等以上の家庭にて家計の余
者・職工世帯における家族収入に寄与しているのでは
裕ある人にても、閑なる時間あらば進んで職業に従事
ないかと思われる。
すべし、斯くする時は閑の罪悪の基となるを防御する
本稿では、はじめに家族収入の社会的背景につい
のみならず、時間を活用し、身体を運動し、たとえ些
て、農家の副業奨励、婦人の職業(労働を論ずるとき、
少なりと雖も其の賃金を貯蓄し、不時の準備となし、
「女性」と表現するのが一般的であるが、ここでは、大
これのみならず手工によりて僅少なる賃金を得る習慣
正期に使用された「婦人」を用いる)から、若干の考察
をつくれば、金銀を粗末にせぬ徳を養うに至る、金銭
をおこなう。次に、俸給生活者・職工の家族収入の分
を粗末にせざるは婦人にとりては大いなる美徳なり。
析をおこない、大正期の労働者の経済生活実態を明ら
かにする。
(中略)時間の空費を忌み、飽くまで婦人の内職を主張
する。
」として、中等以上の家庭で、家事に支障をきた
さない程度の内職の勧めがなされている。
2.方 法
第2章では、
「婦人には婦人がなすべく天より授けら
タチヌイ
協調会が、1921(大正10)年6月から1922(大正11)
れたる適当の職業あり」として、裁縫、編物、養蚕、美
年5月までの1年間、東北、東京、名古屋、大阪、中
術、造花、縫取、押絵、慈善事業(看護婦)
、産婆、文
国、九州各地方12府県の俸給生活者世帯および職工世
学、教育、事務家の12職業を紹介している。
帯651世帯を対象に実施した生計調査をまとめた『俸
なかでも家庭内で子女の衣服を調える裁縫は、
「最
給生活者職工生計調査報告』を用いて、収入項目のう
も婦人に大切なるもの」とし、家が経済的困窮に陥っ
ち特に家族収入に焦点をあて分析した。
た場合は、裁縫師として生活していけると紹介、編物、
俸給生活者世帯・職工世帯においては、世帯員数が
造花、押絵も作業の具体的内容の記述とともに、女性
約4人、内訳は、おおよそ男2人、女2人であり、家族
の家庭内職業として説明されている。
収入は世帯主収入を補完する程度の低い収入であった
大正期に入ると、内職に関する新聞記事が登場、主
ことを前報で報告した。補完的な収入である家族収入
な記事の見出しを列記すると下記のとおりである。
には、配偶者の収入が少なからず含まれていると思わ
1917(大正6)年に第一次世界大戦が終結、戦後の生
れる。そこで、大正期の家庭における家族収入の背景
活困難解消に向けて、中流以上の家庭も、給料で生計を
を考察するために、婦人の職業および農家の副業に関
立てている家庭(俸給生活者、職工はこの中に入る)も
する図書・新聞記事を参考とした。
内職で家計を補完する必要が生じた。
シ タテ ヤ
1919(大正8)年4月29日報知新聞記事では、
「外に出
3.結果と考察
て勤める者ばかりでなく内職者も戦前に比べて優に7
(1)俸給生活者・職工世帯におけ
る家族収入をめぐる社会的背景
明治大正期を通じて、婦人が職
業を持つことについて、様々な議
論が展開された。1895(明治28)
年発行の民友社家庭叢書第10巻
「婦人と職業」は、早い時期から婦
人職業という表現を用いて書かれ
た本であるが、そこでは、婦人は
「職業を持つことは可」であると
容認している。しかし、その内容
1919(大正8)
年
4月29日
報知新聞
女子が求むる職業の二筋道 会計事務は男子
より安全 内職は中流以上の家庭にも
1919(大正8)
年
6月4日
京都日出新聞
初日来成績の好い市設職業紹介所 内職要求
者は月給取りの細君計り 雇傭主の方が多数
1919(大正8)年
8月23日
国民新聞
驚くべき数字を見よ 東京府人一日一銭の内
職 物価騰貴に伴う自覚
1919(大正8)年
8月24日
国民新聞
内職の実演 中流家庭向きの三十種 亀井孝
子女史の組立てた中央家庭職業紹介所の主催
1921(大正10)
年
9月12日
国民新聞
紹介所に来る婦人の半分は内職の志望者
外交貿易の不振から思うような仕事もない
1921(大正10)
年
12月5日
中外商業新報
田村女史の肝煎で内職の奨励館と内職練習者
の寄宿舎を 麻生に来春までに建上げる
― 10 ―
倍からの増加で、近頃は中流以上家庭でも留守を守る
廃物利用等の副業が細部にわたって紹介されている。
婦人たちが盛んに従事するようになった」と書いてい
とくに手芸色染法の編では、
「女子の副業に適当なる
る。また、1919(大正8)年8月24日国民新聞では、中流
手芸を以て、之を家庭副業とし、主として女子がこれ
家庭向きの内職として、練習に日数を要しないもの、
に当りて幾分の収益を得ることは、これ適者を適所に
場所を取らないもの、手が汚れないもの、品が無限に
置きたるものにして以て家庭経済を潤沢ならしめ、生
供給されるものを紹介している。
活難救済の一策」であるとして、裁縫、袋物、編物、刺
また、
「レースやタッチングレースやバテンレース
繍、造花、眞田等が、図や寸法入りで作り方を紹介し
や刺繍編物等は1時間漸く45銭というところである。
ている。そして、海外への輸出で有望であるとされて
(中略)ミシンや刺繍や編み物やつまみ細工等の家庭手
いるレース編みや刺繍など「婦人衣服の装飾となるべ
芸の技術を磨いて、立派なものを製作して労力に対す
き、カラー、カフス、胸当等、卓子掛け等、
(中略)編
る相応の報酬を受けるという方向へ導かねばならぬ」
物製作をして全国の女子が副業として之に従事せんこ
(1921(大正10)年9月12日、国民新聞)
「婦人の天職で
とを奨励するとともに、是迄細民の子女にのみ委せら
ある編物刺繍その他裁縫等の内職を全国に奨励して生
れたる斯業を、今後中流以上の家庭に於て、副業とし
活上の能率を増進せしめ副業の発達を促そうという
て之に従事」してとの記述があり、中流以上の家庭婦
主旨で」
(中外商業新報 1921(大正10)年12月5日)と
人の副業として手芸が奨励されていることがわかる。
いった記事の内容は、民友社の「婦人と職業」で展開し
これ以降、農家の女子の副業にとどまらず、手芸が都
た婦人内職の考え方が基盤にあると考えられ、家庭手
市の中流以上の家庭の副業へと拡大することとなるこ
芸関連が婦人の内職として奨励されていくこととなる。
とは、先に見た新聞記事等で明らかである。
農業においても副業が奨励された。1905(明治38)
年日露戦争終結後、大戦の紀念事業として造林の奨励
(2)俸給生活者および職工世帯における家族収入
が行われたが、国の生産を増加するものとして農業に
これまでみてきたように、明治大正期を通じて都市
おける副業の興起も紀念事業として提唱された。
生活者および農業者に対して副業奨励がなされた。と
1905(明治38)年刊行の『農家之副業』では、
「我が
くに家庭にある婦人の副業が、家庭経済の困窮救済の
国の農業は、穀物栽培が主となって居るゆえ、他の営
側面から積極的に推奨されており、
「中流以上の家庭」
む業務において、季節により甚だ繁閑がある。即ち、
の副業としての家庭内職に携わった人々がかなり見ら
夏中の多忙に比して、冬期間には甚だ閑散である。こ
れたのではないかと推察される。
の閑散なる時を利用する副業を起し、あるいは夜間に
『俸給生活者職工生計調査報告』では、婦人(妻)を
取るべき業務を起し或は野に出でて働く間、家にあり
抽出して収入を見ることができないが、家族収入の中
て留守居をなすものの業務を起し、或は忙中多少の時
に、家庭内職が含まれていることを想定して、大正期
期によりて利を得らるる業務を起し、以て時間と労力
の俸給生活者および職工世帯における家族収入の状況
とを利用したならば、また其の得るところの利少なか
を分析する。この調査における家族収入とは、
「継続的
らずして、農家の経済を助くること少なからぬこと」
と一時的とを問わず、家族の働きより得たる収入一切
として、農閑期や夜間、家で留守番をしているものが
を含む」もの、世帯主収入とは「世帯主の収入から生
副業で生計の補完することの必要性が説かれている。
ずる収入、恩給その他」である。
1913(大正2)年には、大日本副業奨励会から『日本
の副業』が刊行された。当時、日本で行われていた副
1)世帯主収入からみた収支過不足
業から有望なものを調査収集したものであり、副業の
はじめに、世帯の支出が世帯主の収入で賄えている
発展を意図して編集されたものである。同書の校閲者
かどうかをみると、表1、表2の通りである。職業・地
として、農学博士、林学博士の農業林業関連の専門家
域により調査世帯数にばらつきがあることを考慮する
等が名を連ねているが、家政学者であり、当時日本女
必要があるが、職業別・地方別ともに世帯主収入だけ
子商業学校学監である嘉悦孝子の名も見られることに
で世帯の支出を賄えていないことが分かる。とくに俸
注目したい。
給生活者においては、東京・大阪・九州地方など大都
この本では、栽培及び農産製造、蔬菜園芸、花卉園
市を抱える地方に比べ、東北地方の福島・秋田の2県、
芸、家禽、養蚕、林産、水産、家庭工業、手芸色染法、
中国地方の岡山県のマイナスが大きい。
― 11 ―
表1 世帯収入過不足(俸給生活者 地方・職業別)
地方・県
東北地方
東京地方
名古屋地方
大阪地方
中国地方
九州地方
福 島 県
世帯主収入より
支出合計差引
職 業
官公吏
教員
会社員
−32.46
−29.41
−28.46
−55.27
秋 田 県
−25.32
−27.45
−24.97
−15.63
東 京 府
−16.97
−13.13
−20.41
−18.20
神奈川県
−15.63
−3.46
−56.34
−1.68
静 岡 県
−20.52
−4.99
−18.55
−25.09
愛 知 県
−14.94
−39.06
−12.54
−1.04
大 阪 府
−16.50
−14.65
−3.64
−44.43
兵 庫 県
−3.59
−3.87
−4.38
−2.93
岡 山 県
−32.07
−35.62
−34.04
−26.84
広 島 県
−19.68
−18.07
−24.13
−13.74
福 岡 県
−16.49
−10.41
−25.46
−15.16
長 崎 県
−11.98
−24.61
−13.13
−6.29
表2 世帯収入過不足(職工 地方・職業別)
地方・県
東北地方
東京地方
名古屋地方
大阪地方
中国地方
九州地方
世帯主収入より
支出合計差引
化学飲食物
平均・円
職 業 平均・円
機械器具
染織
福 島 県
−25.81
−17.79
秋 田 県
−26.81
−46.48
−20.26
東 京 府
−17.41
−20.39
−15.26
神奈川県
−17.01
静 岡 県
−8.92
−29.95
愛 知 県
2.82
−2.22
大 阪 府
−21.30
−21.88
−3.92
−38.12
兵 庫 県
−10.91
−12.35
−11.49
−5.53
岡 山 県
−10.54
2.89
7.99
1.05
広 島 県
−4.86
−39.41
−2.81
−25.64
福 岡 県
−15.14
13.58
−13.16
長 崎 県
1.62
交通
鉱業
雑
−65.89
−26.59
−17.01
−6.52
−28.39
3.45
−201.3
−95.9
−59.58
−6.37
−16.05
1.62
2)世帯収入に占める世帯主および家族収入(職業別)
また、世帯主と家族の収入合計が世帯収入に占める
世帯主収入だけで世帯の支出が賄えない状況の中で
割合をみると、俸給生活者世帯では平均76.5%、職工
は、他の収入とくに家族が収入を得、その上で足りな
世帯では84.8%となっている。世帯収入には、借入、入
い部分は借入や入質、貯蓄引出ということになる。そ
質、貯蓄引出のほか、実物、その他(屑物売却・親元
こで、世帯収入に占める世帯主収入および家族収入が
より仕送り補助・貸間賃・商品小切手類)が収入項目
占める割合を職業別・地域別に分析する。
として分類され集計されている。前報で示したが、俸
表3、表4は、世帯収入に占める世帯主収入および家
給生活者世帯は、実物収入、その他収入が職工世帯に
族収入の割合を、職業別に示したものである。世帯収
比べ2倍近くもあることがわかった。俸給生活者と職
入に対する世帯主収入についてみると、俸給生活者は
工では、世帯主収入が平均21.75円の差がみられるが、
平均65.5%、官公吏は60.0%である。これに対し、職工
贈答手土産等の到来品等の実物収入、部屋に余裕のあ
のそれは平均69.8%、染織の60.4%以外は60%後半∼
る家庭での貸間収入等、世帯主および家族収入以外の
70%前半の割合を示しており、俸給生活者世帯より職
世帯収入が両者の格差を拡げていると言えよう。
工世帯の方が世帯主収入の割合が高い。
― 12 ―
3)世帯収入に占める世帯主および家族収入(地域別)
古屋地方が家族収入が低くなっている。大阪地方にあ
表5に俸給生活者世帯における世帯主収入と家族収
る兵庫県は、世帯主収入72.7%、家族収入2.8%であり、
入の地域別割合を示した。俸給生活者世帯では、大阪2
家族収入が最も低い。表1でみたように、兵庫県の俸給
府県と長崎県を除いた地方では、世帯主収入で支出を
生活者世帯では、世帯主収入から支出合計を差し引い
賄えない不足分を家族の収入を入れても、まだ不足す
た過不足がマイナス3.59円と調査世帯中最も低く、家
る実態が把握できた。
族収入はその過不足分を十分に賄える収入額となって
東京地方、名古屋地方、大阪地方が、他の地方に比
いる。
べて世帯主収入の割合が高く、そのうち東京地方と名
逆に、世帯主収入の割合が低いのは、東北地方と中
表3 世帯収入に占める世帯主及び家族収入(俸給生活者 職業別)
世帯収入
平均 円
世帯主収入
収入平均 円
家族収入
比率%
収入平均 円
比率%
官 公
吏
187.49
112.55
60.0
16.08
8.6
教
員
151.83
101.09
66.6
17.71
11.7
員
150.02
97.63
65.1
14.08
9.4
均
149.79
98.13
65.5
16.44
11.0
会
社
平
表4 世帯収入に占める世帯主及び家族収入比率(職工 職業別)
世帯主収入
家族収入
世帯収入
平均 円
収入平均 円
比率%
収入平均 円
比率%
化学飲食物
94.24
66.08
70.1
8.97
13.6
機械器具
117.18
83.25
71.0
10.78
12.9
染
織
88.43
53.40
60.4
16.79
31.4
交
通
121.53
83.38
68.6
17.77
21.3
鉱
業
115.21
80.06
69.5
11.08
13.8
60.79
43.87
72.2
4.59
10.5
均
109.49
76.38
69.8
11.46
15.0
雑
平
表5 世帯収入に占める世帯主及び家族収入比率(俸給生活者 地方別)
東北地方
東京地方
名古屋地方
大阪地方
中国地方
九州地方
世帯主収入
家族収入
世帯収入
平均 円
収入平均 円
比率%
収入平均 円
比率%
福 島 県
139.11
81.78
58.8
19.71
14.2
秋 田 県
118.06
73.71
62.4
16.75
14.2
東 京 府
174.58
124.36
71.2
8.83
5.1
神奈川県
158.30
106.96
67.6
7.30
4.6
静 岡 県
133.80
90.33
67.5
9.77
7.3
愛 知 県
117.53
83.46
71.0
7.95
6.8
大 阪 府
168.46
114.29
67.8
21.37
12.7
兵 庫 県
153.14
111.26
72.7
4.26
2.8
岡 山 県
145.91
83.28
57.1
14.83
10.2
広 島 県
143.29
85.41
59.6
16.86
11.8
福 岡 県
150.02
97.63
65.1
14.08
9.4
長 崎 県
162.99
100.87
61.9
15.44
9.5
*東京府1世帯、兵庫県1世帯計2世帯は、数値不明のため集計から省いた。
― 13 ―
国地方である。なかでも福島県、岡山県、広島県は
べて、平均世帯収入が高く、俸給生活者世帯・職工世
50%台後半であり、これらの地方では家族収入が比較
帯の家計収入の質的差異があるのではないかと思われ
的高くなっている。
た。一方、東北地方や中国地方と大都市を抱えた東京
表6は職工について示したものである。世帯主収入
地方・大阪地方との世帯収入、世帯主収入との格差も
が50%台であったのは、秋田県の57.2%のみである。
みられた。
全般的に世帯主収入が高いのは、東京地方、大阪地方
世帯収入に占める家族収入の割合を平均でみると、
であり、70%台を占めている。最も高い割合を示して
俸給生活者世帯11.0%、職工世帯15.0%と職工世帯の
いるのは、愛知県の85.9%であり、とくに家族収入は
家族収入が多い。現代の家計調査結果と一概に比較で
3.9%と最も低い結果を示した。
きないが、2011(平成23)年の総務省家計調査結果か
家族収入の割合が低いのは、他に東京地方の東京
ら、家族の収入(世帯主の配偶者と他の世帯員の収入
府、神奈川県、大阪地方の兵庫県、九州地方の長崎県
を合計した金額)が実収入に占める割合をみると、勤
である。これらの県は、俸給生活者・職工世帯ともに
労者世帯では10.2%となっている。大正期の俸給生活
家族収入の割合が比較的低い地域となっている。
者、職工世帯の家族収入の割合が現代を上回っていた
逆に家族収入の割合が高いのは、東北地方の福島
ことが分かる。
県、秋田県、大阪地方の大阪府であり、20%以上の割
大正期の家族収入の背景として、副業・家庭内職の
合を示している。
奨励が政策として展開されていたことを述べた。なか
でも、家庭内職としての副業には、新聞や雑誌を通じ
(3)まとめと今後の課題
て手芸がとくに奨励された。本稿では触れなかった
本稿では、大正末期に行われた協調会調査報告資料
が、1917(大正6)年に発刊され、中流家庭を中心に多
をもとに俸給生活者・職工の家族収入の分析をおこ
くの読者を得た雑誌『主婦之友』には、
「上品で利益の
なった。その結果、俸給生活者世帯、職工世帯ともに、
多い家庭内職」
「家事の傍ら出来る家庭内職」といっ
世帯主の収入だけでは家計が賄いきれていなかったこ
た見出しのもと、具体的な副業・内職例が多数紹介さ
と、家族収入を入れても総支出を賄えない世帯が全国
れている。今後は、大正期の婦人雑誌等の分析をおこ
に多くあることが分かった。
ない、副業・家庭内職がどのように展開されていった
また、ここで取り上げた俸給生活者、すなわち官
かを整理するとともに、俸給生活者および職工の支出
吏、教員、会社員の世帯は、化学飲食物、機械器具と
の実態について、協調会調査資料等から分析・考察し
いったいわゆる工場労働者を中心とする職工世帯に比
たい。
表6 世帯収入に占める世帯主及び家族収入比率(職工 地方別)
東北地方
東京地方
名古屋地方
大阪地方
中国地方
九州地方
世帯主収入
家族収入
世帯収入
平均 円
収入平均 円
比率%
収入平均 円
比率%
福 島 県
77.96
48.58
62.3
20.14
25.8
秋 田 県
93.46
53.50
57.2
19.60
21.0
東 京 府
132.17
97.03
73.4
5.37
4.1
神奈川県
120.63
85.78
71.1
9.32
7.7
静 岡 県
82.50
54.99
66.7
15.81
19.2
愛 知 県
74.98
64.41
85.9
2.91
3.9
大 阪 府
102.49
81.19
79.2
21.29
20.8
兵 庫 県
117.52
84.07
71.5
10.74
9.1
岡 山 県
105.97
69.49
65.6
11.67
11.0
広 島 県
110.92
80.21
72.3
11.45
10.3
福 岡 県
82.41
51.39
62.4
13.03
15.8
長 崎 県
130.40
85.42
65.5
11.58
8.9
― 14 ―
引用文献
1)㈶石川文化事業団お茶の水図書館、カラー復刻
『主婦之友』大正期総目次、2006
2)永藤清子、大正期における俸給生活者と職工の生
活実態−協調会調査から−、甲子園短期大学紀
要、No.30、2012
3)家庭叢書第10巻、婦人と職業、民友社、1895
4)協調会、俸給生活者職工生計調査報告、1925
5)総務省、
「家計調査」
、2011
6)千葉敬止、川井甚平、農家の副業、博文館、1905
7)大日本副業奨励会編纂、日本の副業、大日本副業
奨励会、1913
― 15 ―