資料 - 第41回中東協力現地会議

今後の対外経済政策の重点
平成28年9⽉
経済産業省
上⽥ 隆之
1. 基本的認識
1
世界経済の牽引役不在・世界貿易の鈍化(1)
 リーマンショック後に世界経済の成⻑を牽引した新興国経済は減速。
 中国等では過剰設備問題が顕在化。
<中国の需要項⽬別GDP構成⽐>
<世界のGDP需要項⽬・国別構成⽐> <⾮⾦融⺠間企業債務残⾼対GDP⽐>
中国:166.3%(2015Q3)
家計消費
総固定資本形成
輸出
輸出
政府⽀出
⽇本のピーク:
149.2%(1994Q4)
輸⼊
資料:UN National Accounts Aggregates Databaseより経済
産業省作成
<主要コモディティ価格の低下>
(%)
<資源国経済の減速>
ロシア・ブラジルの実質GDP推移
原油
⽯炭
ロシア
ブラジル
鉄鋼
資料:Thomson Reuters EIKON から作成。
備考:各期間中の単純移動平均。2016年はIMFの予測値。
資料:IMF World Economic Outlook Database April 2016より経済産業省作成
2
世界経済の牽引役不在・世界貿易の鈍化(2)
 世界経済の牽引役が不在の中、新たなフロンティア開拓が必要に。
<主要国の潜在成⻑率は低下傾向>
<主要地域の⽣産年齢⼈⼝⽐率>
⽶国
アフリカ
ユーロ圏
OECD合計
南アジア
中南⽶
⽇本
東アジア
資料:OECD Statistics から作成。
 世界経済の成⻑の原動⼒である世界貿易は、近年、その伸びが鈍化。貿易・投資の⾃
由化の促進がますます重要に。
<世界の財貿易の伸びは鈍化>
資料:WTO Databaseより経済産業省作成
33
世界経済の牽引役不在・世界貿易の鈍化(3)
 OECD主要国に⽐べて、我が国は輸出の対GDP⽐の⽔準・伸びともに低い。
更なる輸出拡⼤の余地がある。
<輸出⽐率の⽔準・変化と⼀⼈あたりGDP>
(2000年→2014年)
<財輸出対GDP⽐の⽔準と変化>
(千ドル)
⽶国
ドイツ
⽇本
英国
韓国
<サービス輸出対GDP⽐の⽔準と変化>
備考:ドイツ(EU域外)財貿易は2005年、イギリス(EU域外)サービス貿易は
2004年からのデータ。
資料:OECD Stats, Global Trade Atlas, WTO Statistics, UN
National Accounts Aggregatesより経済産業省作成
44
多極化の進展・地政学的な変動
⾜下の状況
相対的な多極化が進み、国際秩序の形成や、世界レベルの課題に対する意思決定やルール作りが困難
に。
⽶国の対外的なコミットメントの動向、欧州の難⺠問題や英国のEU離脱問題、ウクライナ情勢、南シナ
海問題、中東の宗教対⽴の先鋭化、ISILの活動など、地政学的に様々な変動が発⽣。
多極化や地政学的変動は、企業活動、国際物流ルート、エネルギー調達、国際秩序やルール形成等に
⼤きく影響を与える。
北極海航路の可能性
エネルギー依存
⾦融システム
マイナス成⻑
難⺠問題
英国のEU離脱問題
ウクライナ情勢 過剰設備問題
成⻑率の低下
トルコ、シリア情勢
ISIL
サウジ-イラン関係
シーレーン
ISIL
⾷料問題
リバランス政策
シェール⾰命
中東への関与
マイナス成⻑
対外経済政策の⽅向性
これまで以上に、地政学的要素に関する情報を収集・分析し、各種リスクや構造変化の可能性を考慮しな
55
がら戦略を構築していくことが必要に。
「サイバー空間」が重要な領域に
⾜下の状況
伝統的な国境を越えるモノ・サービスのやりとりのみならず、データの流通・収集・分析による新しい付加価値創出が、経
済成⻑の源泉に。
政府・重要インフラ、企業の情報通信ネットワークへの依存度が⼀層増⼤していく中、サイバー攻撃によって、国家の経
済・安全保障が深刻な脅威を受ける。
SNS等による、新しい国際世論の形成の形態が出現。
TPPの電⼦商取引章など、国際ルール作りの萌芽が現れ始める⼀⽅で、サイバー防衛や体制の維持のための検閲・情
報遮断やサーバー設置要求などインターネット管理の動きも広がり、⾃由な経済活動の阻害要因に。
将来の動き
産業のプラットフォーム化、IT企業の⾃動運転・⾦融等への参⼊、ビッグデータ解析による製品関連サービスなど、産業
構造や企業の競争⼒を⼀瞬にして変える可能性。
国家間のパワーバランスも⼀気に変えてしまう可能性。
対外経済政策の⽅向性
「サイバー空間」は、経済・安全保障の観点から、陸・海・空・宇宙以上に重要な「領域」としてとらえるべき。
サイバー空間における⽇本のプレゼンスを⾼めるため、世界的なサイバー空間に関するビジョンの確⽴や産業競争⼒の
強化が重要に。
個⼈情報保護などに留意しつつ、国境を越えるデータの⾃由な流通を原則とする国際ルールや、サイバー空間における
公平な国際競争環境の整備、サイバーセキュリティーを⾼めるための国際協⼒体制の確⽴等を、国益に即して戦略的
に推進することが必要に。
6
6
付加価値の源泉が⾼度知能・専⾨性にシフト
⾜下の状況
グローバルな⼈材流動性が⾼まる中、⾼度知能・専⾨性を有する⼀握りの⼈材について、国・企業間の獲得競争が⼀
層激化。
将来の動き
IoT、ロボット、⼈⼯知能技術の進展に伴い、単純労働のみならず、⼀定程度の知能労働は技術に置き換わり、付加
価値の源泉は、更なるイノベーションを⽣み出す⾼度知能・専⾨性へとシフト。
情報通信技術の進展により、⼈による付加価値創出と⾼度知能・専⾨性の所在は、居住・職場という場所や国境に
関係なくなる可能性。
⼈⼯知能技術の進展により、⾔語の壁が消える可能性。
労働⼈⼝の多寡と国の経済⼒が⽐例しなくなる可能性。
対外経済政策の⽅向性
当⾯は、⾼度知能・専⾨性を有する⼈材の取り込みが不可⽋。
IoT、ロボット、⼈⼯知能等の技術や産業競争⼒で世界のトップレベルとなるとともに、技術を国際的に普及させていくた
めの国際ルール作りや標準化が必要。
労働⼈⼝が減少する中で、⼈⼯知能等を活⽤した新しい社会の創出により世界の先端をいくといった観点が重要に。
77
2. 具体的な取組・課題
8
メガFTA/EPA交渉の推進
 世界の経済成⻑を取り込むため、TPPの国会承認や⽇EU・EPA、RCEP等の経
済連携協定の締結に向けてスピード感を持って取り組むことが重要。
 関税分野以外でも、投資、サービス、知的財産、国有企業、電⼦商取引など幅広い分野
でルールを定める包括的かつ⾼いレベルの「21世紀型のEPA」交渉を積極的に推進。
EU
交渉中
TPP
モンゴル
発効(16年6月)
署名(16年2月)
日中韓 交渉中
スイス
発効(09年9月)
トルコ
インド
交渉中
日印:発効
(11年8月)
ASEAN
交渉延期
GCC(湾岸協力理事会):
サウジアラビア、クウェー
ト、
アラブ首長国連邦、
バーレーン、カタール、
オマーン
カナダ
韓国
米国
発効(08年12月)
ミャンマー
GCC諸国
中国
ラオス
ベトナム
日越:発効(09年10月)
カンボジア
タイ
フィリピン
マレーシア
ブルネイ
日泰:発効
(07年11月)
日比:発効
(08年12月)
日馬:発効(06年7月)
日ブルネイ:
発効(08年7月)
インドネシア
日尼:発効(08年7月)
メキシコ
日墨:発効(05年4月)
改正(12年4月)
シンガポール
交渉中
ペルー
日星:発効(02年11月)
改正(07年9月)
日秘:発効 (12年3月)
豪州
日豪:発効(15年1月)
RCEP
コロンビア
チリ
日智:発効 (07年9月)
NZ
(ASEAN10カ国+日中韓印豪NZ)
交渉中
9
投資関連協定に関する⽇本の取組状況
 投資関連協定(投資協定及びEPA投資章)では、投資保護や投資環境整備に関する
ルールを規定。
 これまで35本の投資関連協定が発効済み(署名済み5本、交渉中15本)。
 本年5⽉11⽇、「投資関連協定の締結促進等投資環境整備に向けたアクションプラン」を
策定。2020年までに100の国・地域を対象とする投資関連協定の署名・発効を⽬指す。
A. 投資協定に関する取組状況
B. 投資協定の主な内容
(1)内国⺠待遇:
(2)最恵国待遇:
(3)特定措置履⾏要求の禁⽌
(4)締約国による投資家との契約遵
守義務(「通称:アンブレラ条項」)
発効済
署名済・未発効
交渉中他
(実質・⼤筋合意等を含む)
(5)収⽤時の補償、争乱からの保
護、送⾦の⾃由といった投資保護規定
(6)締約国と投資家との間の投資紛
争解決(ISDS⼿続き)
10
「質の⾼いインフラパートナーシップ」の施策拡充
 世界のインフラ獲得競争が激化する中、⽇本企業のインフラ・システム輸出を⼀層推進するた
め、昨年11⽉に安倍総理が「質の⾼いインフラパートナーシップ」の拡充策を発表。
インフラ輸出の迅速化
スピードを重視する新興国での受注獲得に向け、いち早い案件形成が可能に。
 円借款の⼿続きの迅速化:⼿続の抜本的な⾒直しを⾏い、通常約3年かかる⼿続期間に関し、重要案件については⼿続期間を
半減し、最⼤1年半まで、それ以外についても最⼤約2年まで短縮。
現地ニーズへの対応
インフラ導⼊国の多様なニーズに対応し、⽇本のインフラ輸出を加速化。
 サブ・ソブリン向けファイナンスの創設:これまで国に対してしか投融資できなかったが、途上国の財政規律の⾼まりにより増加する政
府保証がつかないサブ・ソブリン向け案件に対しても、⼀定の条件のもと、円借款(JICA)、投融資(JBIC)、保険引受
(NEXI)が可能となる。
 ⼤型・⾼リスク案件への対応強化
 JBICのリスクマネー供給拡⼤:リスクを伴う海外インフラ案件向けの「特別勘定」を創設し、JBICのより積極的なリスク・テイクを
可能とする。
 NEXIの機能強化:NEXI貿易保険について、保険期間を⼤幅に⻑期化(15年→30年)。また、⾮常危険(カントリーリス
ク)については、100%保険でカバー。
 ドル建てファイナンスの拡充:1958年の円借款創設以降、初めて「ドル建て借款」を創設し、インフラ導⼊国の為替リスクを低減。
「質の⾼いインフラ」の提供
現地雇⽤創出や裾野産業育成などにも配慮した⽇本のインフラの普及を促進。
 「ハイスペック借款」の創設:「質の⾼いインフラ」と認められる案件について、譲許性の⾼い借款を供与し、技術⼒のある⽇本企業の
インフラ輸出を後押し。
 実証・テストマーケティング事業の実施:⽇本が優位をもつ技術等を活⽤した「質の⾼いインフラ」の⼀号案件をお試しで無償提供。
 JICAとADBの連携強化:JICAがADBと協調し、質の⾼いPPPインフラ案件に投融資を⾏う信託基⾦を創設。
11
電⼦商取引、サイバー空間におけるルール整備
 国境を越える電⼦商取引は増加。また、ビッグデータやAI、IoTの分野における技術⾰新
は、イノベーションを通じた⽣産性向上に加えて、社会構造をも変える潜在⼒を持つ。
 他⽅で、電⼦商取引を巡る国際的な法的枠組みは未整備。また、サーバー設置要求など
データの⾃由な流通を阻害する動きも⼀部で⾒られる。
 技術⾰新による潜在⼒を最⼤限に発揮するためには、 情報の⾃由な流通の促進、データ・
ローカライゼーションへの反対、ソースコードへのアクセス・移転要求の禁⽌といったことが重
要。本年5⽉のG7サミットにて「サイバーに関するG7の⾏動と原則」に合意。
A. 情報の⾃由な流通のための課題
強制現地化措置への対応 個⼈情報保護規制の調和
セキュリティの確保
・サーバー設置要求
・ソースコード開⽰要求 等
B. TPPにおけるルール形成
(1)電⼦的な送信への関税不賦課
(2)デジタル・プロダクトの無差別待遇
(3)国境を越える情報の移転の⾃由の確保
(4)サーバーなどのコンピュータ関連設備の⾃国内
設置要求の禁⽌
(5)ソース・コード開⽰要求の禁⽌
C. ⾸脳宣⾔「サイバーに関するG7の⾏動と
原則」のポイント (平成28年5⽉)
●国境を越える情報の⾃由な流通の促進
●データ・ローカライゼーション(サーバー設置要
求等)への反対
●知的財産の保護、ソースコードへのアクセス・
移転要求の禁⽌
●ICTにより可能となる営業秘密の窃盗の実
⾏・幇助の禁⽌
●重要インフラ等のサイバーセキュリティの強化
●各国のコンピューターセキュリティ事案対応
チーム(CSIRT)間のサイバー攻撃対策に
関する協⼒の強化
12
英国のEU離脱について
 国⺠投票の結果(6/23)、EUからの離脱多数となり、メイ⾸相は2017年よりEUとの離脱交渉の開始を⾔及。
英・EU関係の不透明感により、世界貿易の縮⼩、欧州のゲートウェイとして英国に進出した⽇本企業のバリュー
チェーンへの悪影響等が懸念される。
 離脱後の英・EU貿易関係の選択肢は多数。また、来年はフランス⼤統領選挙(4⽉)、ドイツ議会選挙(9⽉)もある
ことから、英・EU交渉は⻑期化の恐れがあるとの専⾨家の⾒⽅あり。
 こうした状況を踏まえ、⽇本政府は萩⽣⽥副⻑官主催の局⻑級会合「英国のEU離脱に関する政府タスクフォース」
を設置。本年9⽉2⽇、⽇本企業への悪影響を最⼩化する観点から、企業の要望事項を整理し、英・EUへの働き
かけの⽅針である「英国及びEUへのメッセージ」を取りまとめ。⽇英⾸脳会談等の際に働きかけを実施。
EU離脱をめぐる各国のスタンス
<EU27⾸脳声明(6/29)>
-離脱通知前の事前の交渉は⾏わない。
-単⼀市場へのアクセスは⼈・商品・サービス・資本の4つの全て
受⼊れなければならない。
<メルケル・ドイツ⾸相(7/20)>
-英国が交渉開始に時間を要することは理解。
-英独関係は変化するが、これまで通り緊密な関係を保ちたい。
<オランド・フランス⼤統領(7/21)>
-英国は離脱交渉をすぐに開始すべき。
-単⼀市場にとどまることは、⼈の移動の⾃由を受け⼊れることを
意味する。
<スタージョン・スコットランド⾸相(7/15)>
-国⺠投票の際には、英国のEU残留を希望。
-来年の英国からの独⽴を求める国⺠投票の実施を⽰唆しなが
ら、英EU交渉への関与を要望。
⽇本政府の対応
「英国及びEUへの⽇本からのメッセージ」
(9⽉、英国のEU離脱に関する政府タスクフォース)
○制度変更時の⼗分な移⾏・周知期間の設定
○⾃由貿易体制の維持、⽇EU/EPAの早期締結
○現⾏の関税率や通関⼿続等の維持
○必要な技能を持つ労働者へのアクセスの維持
○国境を越えた投資・サービスや連結企業間を含む資⾦
移動の⾃由の維持
○情報保護の⽔準とデータ移動の⾃由の維持
○英EU間の規制・基準の維持
等
13
3. エネルギーと中東地域
14
エネルギー調達における中東地域の重要性
⽇本は原油の8割、LNGの3割を中東地域から輸⼊
化⽯燃料輸⼊依存が続く⽇本にとって、引き続き重要な地域
<海外からの化⽯燃料に対する依存度増加>
<⽇本の原油輸⼊量(2015年)>
イラクエクアドル
1.7% 0.9%その他
インドネシア
5.6%
2.2% メキシコ
イラン
1.2%
5.0%
クウェート
7.8%
カタール
8.1%
サウジアラビ
ア
原油輸⼊量
約337万
B/D
33.4%
ロシア
8.8%
UAE
25.3%
出所:財務省貿易統計
→ 中東のシェアは82%を占める
→ 震災後、総発電電⼒量の88%に増加
2010年の86.5%に⽐べればシェアは減少
するも、引き続き、最⼤の供給地域。
出所:「電源開発の概要」等を基に作成。発電電⼒量を⽤いて%を算出。「その他ガス」とは、⼀般電気事業者において、都市ガス、天然ガス、コークス炉ガスが混焼⽤と
して使⽤されているものが中⼼。 なお、「その他ガス」は、本⽂中の「海外からの化⽯エネルギーに対する依存度」(約88%、約76%)の中に含めている。
15
中東地域での環境変化(原油価格の下落)
原油価格は2014年後半から⼤幅下落、現在50ドル/バレルを切る⽔準
産油国では天然資源から得られるキャッシュを前提にした予算の⾒直し⽅向へ
<国際原油価格の動向>
(ドル/バレル)
(7/14)
イラン制裁停⽌に向
けた包括的⾏動作
業計画の合意。
(12/4、6/2)
OPEC総会で⽣産⽬
標発表⾒送り、⾜下
の⾼⽔準⽣産容認
(1/16)イラン
経済制裁緩和
4/1
5/1
6/1
7/1
8/1
9/1
10/1
11/1
12/1
1/1
2/1
3/1
4/1
5/1
6/1
7/1
8/1
9/1
10/1
11/1
12/1
1/1
2/1
3/1
4/1
5/1
6/1
7/1
8/1
9/1
(ドル/バレル)
120
115
(9/22)シリアでISIL
に対する空爆を開始
110
105
100
95
(11/27、6/5)
90
OPEC総会で⽣産
85
⽬標据え置き
80
75
70
65
60
55
50
45
40
35
日経ドバイ(アジア市場の指標価格)
30
ブレント(欧州市場の指標価格)
25
WTI(米国市場の指標価格)
20
<産油国の政府予算均衡>
産油国
政府予算均衡
サウジアラビア
66.7
UAE
71.8
カタール
52.4
クウェート
52.1
イラン
61.5
出典: IMF「Regional Economic Outlook」
16
今後の⽯油⽣産増加量の⾒通し
⻑期⾒通しでは、⽶国のシェールオイル⽣産は2020年頃にピークに達し、その後はやはり
中東がグローバルな⽯油需要を⽀えていくと⾒られている。
⽶国、カナダ、ブラジル、中東における⽯油⽣産増加量
mb/d +15
2040年までの増加量: 14 mb/d
+10
中東
+5
ブラジル
カナダ
‐5
2013 2015
⽶国
その他の地域の生産の純減
2020
2030
2040
出典: IEA「World Energy Outlook 2014」
17
グローバルなエネルギー投資の推移
2015 年の世界のエネルギー投資は前年⽐で約8%減少。⽯油・ガスの上流投資の急
落が主な要因。投資の減少は、中⻑期的なエネルギー安全保障への懸念材料。
投資対象分野としては、省エネや再⽣可能エネルギーなど温暖化ガス排出の少ない分野
への投資が相当程度の⽐率を占めている。
グローバルな上流投資の推移
エネルギー投資(分野)
(2015年)
出典)World Energy Investment 2016 (IEA)
18
中東地域の電源構成と電気料⾦
中東地域の電源構成は、⻑期的に⽯油は減少し、天然ガスが⼤部分を占めると⾒込ま
れる。また、原⼦⼒や再⽣可能エネルギーによる発電⽐率の上昇が予測されている。
現在、中東各国の電気料⾦は⾮常に低い⽔準にあるが、発電容量の増加や再エネの導
⼊と、投資回収の仕組み等によっては、電気料⾦の上昇も想定され得る。
中東地域の電源構成
(TWh)
中東各国の電気料⾦(⽶ドル/1kWh)
業務用
一般用
サウジ
0.04~0.08
0.01~0.08
イラン
0.05~0.09
0.01~0.1
トルコ
0.09
0.1
ドバイ
0.06~0.1
0.06~0.1
1972
952
出所)JETRO調べ
出所)World Energy Outlook 2015 (IEA)
19
4. 中東地域に関する政策の動向
※中東地域:アフガニスタン、バーレーン、イラク、イラン、イスラエル、ヨルダン、クウェート、レ
バノン、オマーン、カタール、サウジアラビア、パレスチナ、シリア、トルコ、UAE、イエメン
20
中東における通商政策の⽅向性
相⼿国における課題のプライオリティが、⾮エネルギー分野による成⻑モデルへと転換しつつある。⽇本
の経済⼒や技術⼒に対する期待が⼀層強まっている。新市場獲得の好機。
エネルギーや安全保障の観点からも、経済発展を通じた中東地域の安定に寄与。
我が国のエネルギー供給源としての中東
我が国は、原油の8割、LNGの3割を中東地域から輸⼊。
今後も、エネルギー供給源として中東諸国は⾮常に重要。
エクアドル
メキシコ
その他
0.9%
1.2% イラク
5.6%
サウジアラビ
1.7%
インドネシアイラン
ア
2.2%
5.0%
33.4%
原油輸⼊量
クウェート
カタール 約337万B/D
7.8%
8.1%
ロシア
8.8%
UAE
25.3%
名⽬GDPの推移及び予測
(兆ドル)
(%)
出所:財務省貿易統計
中東
2.0
ASEAN10
2014
2019
若年層の失業率
出所:ILO ゙GLOBAL EMPLOYMENT TRENDS FOR YOUTH 2015゙
旺盛なインフラ需要
⼈⼝増⼤も相まって、電⼒など社会資本の充実も課題。
インフラの巨⼤市場としても重要に。
(兆ドル)
100
世界(右軸)
3.0
産業多角化
経済成⻑の⼀⽅で、⼈⼝の増⼤や失業率の増加等の問
題を抱えており、雇⽤創出のための産業多⾓化が不可⽋。
35
30
25
20
15
10
5
0
新興市場としてのポテンシャル
2015年の中東地域の⼈⼝は約3.5億⼈、GDP規模は約
3.1兆ドル(ASEAN地域の約1.3倍)。
4.0
我が国への期待
80
60
40
20
0.0
0
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
1.0
出所:IMF WEO、世銀
社会インフラへの⼤規模投資を含む経済ビジョンを制定。
○サウジアラビア 第9次5カ年計画(計画額3300億ドル)
○カタール 国家ビジョン2030(計画額1850億ドル)
○クウェート 国家ビジョン2035(計画額1000億ドル)
○エジプト 電源開発計画(2022年まで85億ドル)
21
サウジアラビア(ビジョン2030)
 サウジ政府は、本年4⽉、ムハンマド・ビン・サルマン(MbS)副皇太⼦が主導し、サウジの経済社
会の変⾰のため、2030年までの今後15年間で達成すべき⽬標とそのための政策アジェンダをまと
めた「サウジアラビア・ビジョン2030」(SV2030)を発表。
 SV2030では、①脱⽯油依存経済、②雇⽤の創出、③効率的な⾏政の3つの⽬標を達成する
ことで、サウジ経済が抱える課題を包括的に解決し、持続可能な経済成⻑の創出を⽬指す。
①脱⽯油依存経済/成⻑戦略
・産業の多⾓化
・再⽣可能エネルギー導⼊
・⽂化・スポーツ・エンタメ活性化
・ビジネス・投資環境の改善
・⾮⽯油収⼊1630億SR(約4.5兆円)→ 1兆SR(約27兆円)
⾮⽯油輸出の割合 16%→ 50%
・9.5GWの再⽣可能電源開発
・家計の⽂化・エンタメ⽀出 2.9%→ 6%
・GDPに占めるFDIの割合 3.8%→ 5.7%、新経済特区の建設
②雇⽤の創出
・職業教育、若者・⼥性の就業促進
・中⼩企業振興、起業⽀援
・失業率 11.6%→ 7%、就業する⼥性の割合22%→ 30%
・GDPに占める中⼩企業の割合 20%→ 35%
③効率的な⾏政
・国営企業改⾰
・医療・教育分野等の⺠営化、⺠間資本導⼊
・規制緩和・政府⽀出の効率化
・アラムコの株式(約5%)を新規株式公開。
その資⾦でPIF(公共投資基⾦)を世界最⼤の政府系投資
ファンド(資産2兆ドル規模)に。
・医療サービス改善、平均寿命を74歳→80歳
・⺠間セクターのGDPに占める割合40%→ 65%
22
サウジアラビアとの協⼒の⽅向性
 8⽉31⽇から9⽉3⽇、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太⼦が訪⽇。安倍総理、世耕⼤⾂と会談。
 ビジョン2030と⽇本の成⻑戦略の実施に向け具体的協⼒を集中的に議論すべく、閣僚級の「⽇・
サウジ・ビジョン2030共同グループ」を⽴ち上げ、10⽉に第⼀回会合を⾏うことで⼀致。
 エネルギー分野の協⼒拡充(共同備蓄等)に加え、新たな枠組の下、今後、製造業やサービス業
(⽂化・娯楽・スポーツ分野、⾷品、物流、医療・健康等)、多分野での協⼒検討を⾏っていく。
サウジ国内だけでなく、⽇本や第三国への投資も視野に、
多分野での協⼒可能性を具体的に検討。
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イランとの協⼒の⽅向性
中東地域最⼤の⼈⼝を有する⼤国であるイランには、対イラン制裁の緩和を機に、中東地域安
定化に向けた建設的な役割を期待しつつ、経済⾯での協⼒を推進。
100億ドルのファイナンスファシリティの設定や投資協定等の取組を実施。今後、⽇本企業のイラン
におけるビジネス本格化のためのビジネス環境整備が課題。
イランは世界有数の⽯油・天然ガス埋蔵量を有しており、上流権益獲得に向けた取組も⽀援。



JCPOA合意後の10⽉、岸⽥外相のイラン訪問時
に⼆国間関係強化に向けて⽇イラン協⼒協議会を
設⽴。
イラン国内で⽇本企業が関与するプロジェクト向けに
JBIC及びNEXIが最⼤100億⽶ドル相当 (約
1.2兆円)のファイナンス・ファシリティを設定。
本年2⽉、投資協定の署名により、投資を⾏う際の
法的安定性の向上、両国間の投資や⼈的交流を
促進。
 企業の関⼼分野
インフラ・プラント(製油所等のエネルギー関
連、発電所、変電所、⽯油化学、製鉄、⽔、
鉄道・都市交通)のプロジェクトや関連機器だ
けでなく、⾃動⾞、医療機器、環境機器等、
⽇本企業の関⼼分野は多岐に渡る。
 課題
受注に際してはファイナンスが重要。
多くの案件で、イラン政府保証に基づくJBIC・
NEXIの融資を期待。
※本邦⾦融機関は残る⽶国制裁を踏まえ、
慎重ながらもイラン向け取引を再開
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中東諸国の動きへの対応
 サウジだけでなく、中東産油国は、脱⽯油、産業の多⾓化を図る意向を打ち出しており、上流権益に
外資の導⼊を認めている国については、権益獲得の観点からも、協⼒を推進する。
 トルコはインフラ市場、また中東地域における⽇本企業の製造・販売拠点として引き続き重要。地域の
要衝であり、クーデター未遂後の政治経済情勢を注視していく。また、イスラエルとの経済協⼒も推進。
カタールの「国家ビジョン2030」
■計画額:1850億ドル
■概要:2020年のW杯開催に向け、サッカースタジアムや宿泊施設、メトロ、⽔・電⼒関連などのインフラ整備。
クウェートの「国家ビジョン2035」
■計画額:1000億ドル
■概要:第1次国家開発計画(2010年〜2014年)は経済成⻑、⺠間部⾨の役割の増⼤等の政策が柱。第2
次では、北部開発、電⼒、⽔、⽯油等の分野で22の⼤型プロジェクトを実施予定。
UAE(アブダビ)の「経済ビジョン2030」
■計画額:4000億ドル(注: アブダビ⾸⻑国が2030年までに⽬指すGDP規模)
■概要: エネルギー(⽯油・ガス)、⽯油化学、⾦属、航空・宇宙・防衛、製薬・バイオテクノロジー・ライフサイエンス、
観光、ヘルスケア及びサービス、輸送・商業・物流、教育といった産業分野への注⼒。
トルコ
■⽇本政府は原発、衛星、橋梁、病院等のインフラ案件の推進に加え、⽇トルコEPA交渉を継続中。
■政府間対話の「⽇トルコ経済貿易委員会」の開催に向けて調整中。
イスラエル
■総理・経産⼤⾂の訪問を受けて経済交流が活性化、⽇本企業による投資・進出事例も増加。
■経済省庁間の「⽇イ経済政策対話」、産業R&D協⼒事業の実施に加え、相互の企業ミッション派遣等を⽀援。
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今後の中東政策
 中東産油国の脱⽯油に向けた取組は、切実度や本気度を増している。この機を捉え、産業多⾓化等の
意向を踏まえ、多⾯的な協⼒を深めていく。
 新市場獲得の観点と、地域の安定確保や権益獲得を通じたエネルギー安全保障の観点が基軸。
 中東地域において、企業活動と国家間の関係は表裏⼀体。官⺠が連携してビジネスを後押ししていくこ
とが必要であるとともに、企業活動が国家間の関係構築に⼤きく寄与。
今後の主な通商⽇程
(中東関係)
【2016年】
10⽉
■ 9⽇
第1回⽇サ・ビジョン2030共同グループ(⽇サウジ合同委員会)
11⽉
■ 7〜10⽇
■ 24⽇
■ 25⽇
アブダビ国際⽯油展⽰会・会議(於アブダビ)
LNG産消会議(於東京)
⽇カタール合同経済委員会(於東京)
【2017年】
1⽉
■ 16〜19⽇ ワールド・ フューチャー・エナジーサミット2017(於アブダビ)
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【参考】 資源価格安定に向けた資源開発投資への貢献
【背景】
 油価低迷により、世界の資源開発投資は2年連続で縮⼩し、将来の急激な価格⾼騰のリスクが顕在化。G7伊勢志摩⾸脳
宣⾔での上流開発促進のコミットメントを実⾏する必要。
 他⽅、⽯油権益の資産価格も低下。また、産油国国営⽯油企業の株式を開放する動きも顕在化。我が国にとって、今後5年
程度は集中投資でエネルギー安全保障を強化する絶好の好機。2030年における⾃主開発⽐率※40%⽬標の早期実現。
※⾃主開発⽐率:⽯油・天然ガスの輸⼊量及び国内⽣産量の合計に占める、我が国企業の権益下に
ある⽯油・天然ガスの引取量(国産を含む)の割合。平成27年度は27.2%。
【課題】

中・印は、国と国営⽯油企業が⼀体となって、世界中で権益獲得や企業買収を進めている。欧⽶メジャーも買収を活発化。

他⽅、我が国上流開発企業は、財務基盤に乏しく、こうした権益獲得や企業買収をめぐる競争に⽴ち遅れ。

現⾏、(独)⽯油天然ガス・⾦属鉱物資源機構(JOGMEC)には、権益獲得への⽀援メニューはあるものの、企業買収等
への⽀援メニューは存在せず。

現状を看過すれば、欧⽶メジャーや中国・インドの国営⽯油企業との格差は致命的に。
JOGMECの機能強化(法改正も含めて検討)
(1) 上流開発企業による企業買収等への⽀援
 我が国上流開発企業が中国・インドや欧⽶メジャーとの競争に
後れを取らぬよう、⽀援メニューを拡充
①海外の資源会社の買収や資本提携への⽀援
②⽯油開発への追加⽀援
③⺠間では実施困難な産油国国営⽯油企業株式の取得
(2) JOGMECによる審査・ガバナンス機能の強化
(3) JOGMECによる資⾦調達の多様化
 政府保証付き借⼊れの対象を拡充。
①海外の資源会社の買収や資本提携への⽀援
②⽯油開発への追加⽀援
③産油国国営⽯油企業株式の取得、等
(4) その他
 専⾨家等の活⽤を含め、案件の審査・リスク管理体制を充実。  ⽯油・天然ガスの物理探査船の⺠間への貸出を可能とし、資
源開発を促進。
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