講義テキスト 4章 vdW - 名城大学 農学部 有機物性化学研究室

4章
ファンデルワールス結合とファンデルワールス結晶(分子性
結晶)
出典 有機物性化学の基礎、斉藤軍治、化学同人 2章(2006)
物性化学、松永義夫、裳華房(s60 年)4章 (高学年向き)
復習と目的
水素、酸素、炭酸ガスなどの分子は、共有結合(7章)で形成された分子である。
共有結合を、ハサミなどを用いて切断して、バラバラの原子にすることは不可能で
ある。ところが、これらの分子の集合体でできた固体、たとえば CO2 の固体であ
るドライアイスを布巾でつつんで、硬い部分に打ち付けて粉砕したり、ドライバー
などで削りとることは簡単である。同様なことが 水についても言え、水分子を酸
素原子と水素原子に素手で切断することは不可能であるが、水の固体である氷を粉
砕するのは容易である。黒鉛(図 3.5 参照)は、ベンゼン環が蜂の巣状に結合した共
有結合板状平面が何枚も積み重なった層状化合物である。鋭利なカミソリを用いて、
黒鉛の層に沿って層を切り離すこと、また、セロテープで表面一枚をはがし取り黒
鉛一枚の物質(グラフェン)を得ることは簡単であるが、共有結合平面を切断する
のは極めて難しい。
分子の集合体である分子性結晶(ファンデルワールス結晶、例えばドライアイス、
ワックス)において、個々の分子は、一般に大きな結合エネルギーをもつ共有結合
やイオン結合(3 章)
、配位結合(6 章)で形成されているが、分子間をつなぐ結
合は人の指でも十分切断できるほど弱い結合である。この弱い結合をファンデルワ
ールス結合とよび、ファンデルワールス力が主要なものである。結晶を形成するの
1
に必要なエネルギーの目安は格子エネルギー(=成分分子やイオンに分離するに必
要なエネルギー、昇華熱)である。ファンデルワールス結晶の格子エネルギーは数
10 kJ mol1 であり、イオン結晶(この結合も人の手で切断可能なものが多い)の
格子エネルギー250~1000 kJ mol1 に比べてかなり小さい(表 4.1)。
この章の主題は、ファンデルワールス力である。ファンデルワールス相互作用の
なかで最も重要な分散効果(ロンドンの分散力として知られる)の起因となる瞬間
的電場とそれによる分子間相互作用エネルギーの大きさを示す[1]。また、分子が
充填して結晶を形成するときの最密構造と各原子のファンデルワールス原子半径、
さらには有機分子性結晶でのいくつかの重要な特徴を述べる。
表 4.1 代表的な4種の結晶と例
結晶の種類
代表
Ar
分子性結晶
O2
NaCl
イオン結晶
CaF2
共有結合結晶 C(ダイヤモンド)
Si
Hg
金属
Na
Cu
Ti
W
凝集エネルギー / kJ/mol
7.74
7.1
764.0
1680
711
446
65
107
336
468
859
融点 /C
189.4
219.1
803
1360
3572
1410
38.8
97.8
1083
1725
3400
4.1) ファンデルワールス力
4.1.1) 分散効果
全ての原子、分子に働く弱い力である。瞬間的電場 E により誘起分極 p (~E、
:分極率)が生じることにより、分子間相互作用エネルギーが発生する。生体組織
の形成にきわめて重要な分子間相互作用である。無極性の原子や分子にも働き、分
子や原子が接近して電子雲がある程度重なり合うと強く現れる。
表 4.2 にハロゲン、
リン、硫黄、希ガスの融点・沸点を示す。分子量が大きく、電子雲が広がって分極
2
率が大きい右側の分子ほど分子間相互作用エネルギーが大きく、融点、沸点が高い。
表 4.2 ハロゲン分子、リン、硫黄の沸点、希ガスの融点・沸点
F2
Cl2
Br2
I2
P4 白燐(黄燐)[猛毒] 紫燐[無毒]
113.7
44.1
589.5
融点/C -223 -101 -7.3
184.5
280
沸点/C -187 -34.1 58.8
He
融点/C
沸点/C
-268.9
Ne
-248.6
-246.0
Ar
-189.4
-185.9
Kr
-157.2
-153.2
Xe
-111.9
-108.1
Rn
-71
-62
ヘリウム
通常の He は4He(スピン 0)でボーズ統計に従う[光子(スピ
ン 1)、質量数が偶数の原子核、中間子、2 個の電子が対を形成したク
ーパ対などスピンが整数の素粒子や複合粒子が従う統計,
f 
硫黄 S8
119.0
444.6
囲み1
図 4.1 He の相図
1
、:粒子のエネルギー、kB:ボルツマン定数、
 
exp
1
k BT
液体
:化学ポテンシャル]。ボーズ統計に従う粒子は、ある臨界温度 Tc 以下
の温度で、エネルギー最低の 1 粒子状態を巨視的な数の粒子が占有でき
る。このような時、系はボーズ凝縮を起こしているという。4He は特異
なガスで、25 気圧以上で固体となるが、常圧では液体のままである(沸点 4 K)
。また、2 種
の液相を持ち、約 2.2 K で HeⅠ(通常の液体 He)から超流動を示す液体 HeⅡに転移する。超流
動は HeⅡのボーズ凝縮状態である。超流動相の熱伝導率は銅の 800 倍、粘度は気体水素の 100
分の 1 になる。HeⅡは容器の壁を這い上がる。状態図(図 4.1)の a(2.19 K, 38.65 mmHg)と
b(1.75 K, 29.9 atm)とを結ぶ線を線といい、これを横切る転移を転移とよぶ。点 c(5.1 K, 2.3
atm)は臨界点である。ヘリウムは商業的価値、戦略的価値を持つガスであり、宇宙の中では水
素についで大量に存在するが地球上では、極めて少ない。寒剤、気球用ガス、ダイビング用混
合ガスなどに用いられる。超伝導材料の超伝導転移温度が低い限り、ヘリウム寒剤は不可欠で
あり、世界的なヘリウム需要は価格とともに上昇し、2007 年の消費量は 2002 年比倍増となっ
た。需給バランスの変動により、将来は深刻なヘリウム不足と価格高騰が予測される。産地は
アメリカ、カナダ、ポーランド、ロシア、アルジェリアである。
図 4.2 に、距離 r 離れた無極性 2 分子(○)に生じる誘起分極 p を矢印で示す。
電場 E がかかったときの分子の電子雲の歪みやすさの目安である分極率は、物質
の誘電率や光(電磁波)が通る際の媒質の屈折率と 4.1~4.4 式で関係する。
r
電場 E
図 4.2 無極性 2 分子に生じる誘起分極
誘起分極 p は矢印で示される
p = nE/40
n:単位体積中の分子数 NA/cm3, 0 :真空の誘電率
3
(4.1)
n/0 =  -1
(4.2)
 =2
(4.3)
2-1=n/0
(4.4)
詳しくは、個々の分子に実際に作用する分子電場を E, 外部電場を E’
、単位体
積中の分子数を n, 誘起双極子能率を, その平均を<>とすると、 = E, p =
n<>で, 電気変位 D は、D = 0E'+p である。誘電率は  = D/0E' であり、E = E'
+p/30 と表される。したがって E = (+2)E'/3 である。E' が余り大きくないときは、
<> = E /40 つまり p = nE/40 となり、
下線付きの式より  1 = nE/0E' で、
  1 n
  1 M N A
となる。n = NA/M (: 密度 M: 分子量)より、
(クラジ


  2 3 0
 2 
3 0
ウス-モソッティの式)となる。E' = E のとき  1 = n/0 である。
1920 年以前は、無極性分子間に働く力が何に由来するのかが不明であった。重
力によるものではないかとの見解もあった(4.1.4a 参照)。この力は 1923 年のロンド
ン(F. London, 1900~1954)による提案(ロンドンの分散力)により明確になり、す
べての原子や分子の間に働く弱い力の根源と見なされた。2 分子間に働くロンドン
力は弱いが、それらが集まると、有機物の結晶、ローソク、さらに生体組織まで、
柔軟性をもつ集合体や固体を形成する力になる。ロンドンの分散力は短距離で初め
て働く力であり 1/r7 の関数である(クーロン力は遠方でも働く 1/r2 の関数)
。ポテ
ンシャルエネルギーは 1/r6 の関数である(4.5 式 0: 分子の固有振動数(第 1 イ
オン化電位)
)
。
U 
 2 0
3  2 h 0

4 (4 0 ) 2 r 6
r6
(4.5)
4
*************************
ルドルフ・ユリウス・エマヌエル・クラウジウス
(Rudolf Julius Emmanuel
Clausius, 1822 年 1 月 2 日 - 1888 年 8 月 24 日)
は、ドイツの物理学者。
熱力学第一法則・第二法則の定式化、エントロピーの概念の導入など、
熱力学の重要な基礎を築いた。1850 年、熱力学に関しての初の論文と
なる「熱の動力、およびそこから熱理論のために演繹しうる諸法則に
ついて」を発表した。 同年、ベルリン王立砲工学校の物理学教授、お
よびベルリン大学私講師となった。クラウジウスは 1850 年の論文で、
エミール・クラペイロンが導いた式とヘルマン・フォン・ヘルムホル
ツの理論を組み合わせて、クラウジウス-クラペイロンの式と呼ばれる式を導き出した。この
式は現在、ある温度での飽和蒸気圧を求めるときなどで使われている。1851 年、ジョン・ティ
ンダルと知り合い、生涯を通しての友人となった。ティンダルはクラウジウスの論文の英訳を
行い、私生活においても、クラウジウスの最初の子供の名付け親になっている。 1854 年には
論文「力学的熱理論の第二基本定理の1つの改良型について」を発表。熱力学第二法則を確立
させた(5 章参照)。1865 年にチューリヒ哲学会で発表した論文では、初めて「エントロピー」
という単語を使用した。1870 年、普仏戦争が起こり、ボン大学では学生が義勇団を結成した。
クラウジウスはその指導者となったが、
訓練中に膝を怪我して、
その傷はその後も永く残った。
さらに 1875 年には妻アーデルハイトが 6 番目の子供を出産中に亡くなった。そのため、クラウ
ジウスは子供を育て上げながら研究を続けることとなった。1879 年、クラウジウスの業績に対
しロンドン王立協会よりコプリ・メダルが授与された。1884 年から 1885 年まで、クラウジウ
スはボン大学の学長を務めた。1888 年に貧血症にかかり、同年に亡くなった。
熱力学以外の業績 [熱力学については6章参照]
気体運動論の分野では、気体分子は並進運動に加え、回転運動と振動運動をするという内部自
由度の概念を導入(1857 年)し、空気中の酸素が二原子分子であることを示した。また、気体
の内部エネルギーの研究から、気体分子の平均自由行程の概念を導入し(1858 年)、気体の比
熱、拡散などに関する理論的な基礎を構築した。また、電解質の解離の概念を提出(1857 年)。
電流によって水溶液中の物質の解離が引き起こされるとした。この概念をもとに、スヴァンテ・
アレニウスは電気分解論を確立した。
クラウジウスとエネルギー問題:クラウジウスは 1885 年に講演を行い、その内容を論文『自
然界のエネルギー貯蔵とそれを人類の利益のために利用すること』
にまとめた。
この論文では、
蒸気機関が発明されて以降の人類のエネルギー利用の歴史に触れた後で、論文執筆当時の主な
エネルギー資源であった石炭はいずれ枯渇すると述べている。そして、将来的には滝の落下に
よる水力発電など、太陽によって得られる自然エネルギーに移行しなければならないと結論し
ている。この論文はクラウジウスのエネルギー問題に対する先見性を示すものとして科学史の
分野でしばしば取り上げられている。
5
フリッツ・ロンドン(Fritz Wolfgang London, 1900 年 3 月 7 日 - 1954
年 5 月 30 日)はドイツ生まれの物理学者。弟に同じ物理学者のハイン
ツ・ロンドンがいる 1927 年ヴァルター・ハイトラーと非分極分子の分
子間力について量子化学的な取り扱いを行い、力の起源を解明した(ロ
ンドン力)
。1933 年から 1936 年までオックスフォード大学で研究し、
その後パリ大学へ移った。1939 年アメリカに渡りデューク大学の教授に
なり、1945 年に市民権を得た。低温での超流動などの研究を行った。
サティエンドラ・ナート・ボース(Satyendra Nath Bose 1894 年 1 月 1 日
- 1974 年 2 月 4 日)は、インドの物理学者。ボース=アインシュタイン統
計を光子の統計として導入。ボース粒子(ボソン、ボーズ粒子/ボゾンと
も)として名を残す。1894 年に英領インドのカルカッタに生れ,1909 年に
カルカッタのプレジデンシー大学に入学し、1916 年から教職に就き、ダッ
カ大学(1921 年~1945 年)を経てカルカッタ大学(1945 年~1956 年)の
教授となった。ボースはダッカ大学時代の 1924 年、アインシュタインのも
とに「プランクの放射法則と光量子仮説」と題する論文を送った。それを読んだアインシュタ
インは非常に高く評価し、ドイツ語に翻訳して物理学雑誌に掲載させた。ここからボースによ
る光子の統計法の理論が広まり、アインシュタイン自身によって発展させられた。
誘電分極(dielectric polarization)とは、帯電した物体を絶縁体(誘電体)に接近させるこ
とで、帯電した物体に近い側に、帯電した物体とは逆の電荷が現れる現象。電気分極 (electric
polarization) とも言われる。電場によって微視的な電気双極子が整列することで引き起こされ
る。正負の電荷の組が無数に並んでいる状態であるため、内部にも電位差が生じている。良く似
た現象に静電誘導があり、こちらは導体の場合に起きる現象である。自由電子のない不導体では
電荷が移動出来ないため、その表面に電荷が生じるなど有り得ない現象のようにも思えるが、実
際には分子自体が電荷の偏りをもっていて(極性分子)これが整列したり、あるいは分子内の中
の電子がプラス側に偏るため、引き起こされる。
電子、イオン、分子、電荷における分極:誘電性の源は誘電体内部に電気双極子が生じることで
ある。これを誘電分極と呼び、電子分極、イオン分極、配向分極、空間電荷分極に分類される。
誘電体内部では電子は自由に動くことができない。このような誘電体に外から電界を与えると誘
電体中の原子(あるいは分子)はプラスの電荷に偏った部分と、マイナスの電荷に偏った部分に
分かれる。これを電子分極と呼ぶ。NaCl のようなイオン結晶の場合、外から電界を与えると Na+
と Cl-が相対的に変位して双極子が発生する。これはイオン分極や原子分極と呼ばれる。配向分
極は誘電体を構成する分子が極性を持っている場合に考えられる。 電界がかかっていない場合、
分子はランダムな方向を向いているため全体としては電気双極子を持たないが、電界を与えると
分子が配向するために双極子が生じる。配向分極では一般に双極子モーメントが電子分極やイオ
ン分極よりも大きい。さらに電界を充分に長時間かけていると電荷単体が誘電体の中を移動して
双極子を生じる。これを空間電荷分極と呼ぶ。
強誘電体や焦電体と呼ばれる特定の誘電体の内部では、外部から電界がかけられなくても、分極
した原子や分子が全てランダムな方向を向いているのではなく、プラスの電荷の部分とマイナス
の電荷の部分が互いに引きつけ合うために整然と並んである程度の大きさの分極した区域を作
り、それぞれの分極区域同士がランダムな方向を向いている、という構成をしている。これによ
ってエネルギーを最小化して安定している。こういった分極区域は自発分極(spontaneous
polarization)と呼ばれる。
**********************
6
4.1.2) 電場の大きさ
真空中における 2 つの単位電荷(–e:e = 1.610–19 C, 距離 3 Å とする)間のポテ
ンシャルエネルギーは 7.7×10-19 J であり、この値は CO2 (直径 3.24 Å)が接したと
きの 2 分子のポテンシャルエネルギー(1.410-20 J)より大きい。水中の 2 電子間では
10-20 J であり、帯電していない分子間のポテンシャルエネルギーは水中の電子間の
ポテンシャルエネルギーにほぼ等しい。
つまり、これらの電場の大きさは約 108 Vcm1 つまり E~1 VÅ1 で非常に大き
い電場である。ちなみに、水素原子中のボーア(r = 0.529 Å)の第 1 軌道の電子には
60 VÅ1 の電場がかかっており(図 2.6)
、分散力を誘起する瞬間的電場は原子内部
の電場の数十分の一である。
4.1.3)
ファンデルワールス式
気体分子の体積や分子間の相互作用をゼロ(ファンデルワールス力=0)とする理
想気体 n モルの体積 V、圧力 P の間で P V = nRT とするのがボイル・シャルルの
法則である。しかし、現実の気体では、気体分子の体積や分子間の相互作用を考慮
した圧, 体積を用いる必要がある。
圧力: 外壁にぶつかり圧力を示す分子は壁内側にある分子と相互作用を持ち内
側に引き寄せられ理想気体での圧より小さい圧力となる。圧力の低下は、外壁にぶ
つかる分子の濃度(n/V)と内側にある分子の濃度(n/V)に比例するので、分子間
A
B
2r
図 4.3 排除容積。分子を半径 r の球とし、
分子 A と分子 B が接するときの排除容積は
半径 2r の球に相当する。
7
相互作用のない時の圧は、P + a(n/V)2 となる。
次に、気体分子が動き回る実際の体積は容器の体積より小さい。体積の減少は、
気体分子自体に加え、他の分子がどこまでその分子に接近できるかを考えることが
必要である。分子の半径を r とすれば、他の分子はその分子の中心から 2r まで近
寄れる(接する 図 4.3)が、それ以内に入ることは不可能である。1 個の分子が
他の分子を近寄せない範囲は 4(2r)3/3 であり、2 分子でその範囲を共有するので、
1 分子あたり 2(2r)3/3 で, n モル当たり 2n(2r)3/3=nb である。従って、体積は V 
nb となる。4.6 式、図 4.4 がファンデルワールスの式である。
(P 
a
)(V  b)  RT
V2
( V :モル体積, R = NAkB)
臨界点
T↓
(4.6)
図 4.4 ファンデルワールス等温曲線
[1] V に関する 3 次式で V がbに近ず
くと P 軸に平行な点線 H となる。
Gは
曲線Ⅲの飽和蒸気圧である。負の圧力
は液体が張力を受けているような準安
定状態を示し、張力の極大の点は極小
点 J である。
D
B
A
b
その特徴は
● 高 温 で 曲 線 Ⅰ の よ う に (P / V ) T は 常 に 負 で 、 V に 関 す る 3 次 式
P
RT
a
 2 の 1 根は実数で他の 2 根は虚数となる。
4.6 式を変形すると P V
V b V
= RT + (b – a/RT)P となるので、a = bRT の温度で理想気体の挙動を示す。
●温度の低下に伴い等温曲線が点 C で水平となり(曲線 V)
、3 根は等しくなる。
8
C 点 臨界点:
(P / V )T  0,
( 2 P / V 2 )T  0 ,
T = Tc
(4.7)
この時の気体と液体のモル体積は等しい。この点での温度、圧力、モル体積を臨界
温度、臨界圧力、臨界体積といい、まとめて臨界定数という。臨界温度以上で、液
化は起こらない。臨界点は(P/ V )T = 
2RT
6a
 4 0
3
(V  b) V
より、Vc = 3b,
RT
2a
 3 0,
2
(V  b)
V
Tc = 8a/27Rb,
( 2 P/ V
2
)T =
Pc = a/27b2、PcVc/Tc = 3R/8,
a = 27R2Tc2/64Pc, b = RTc/8Pc となる (表 4.3)。
●臨界温度 Tc より下で、 V の 3 つの値は実数(曲線Ⅱ、Ⅲ)である。
●水平部分の等温線は気体―液体の平衡を示す。A 点:気体、B 点で液化が開始し、
圧力は液体の蒸気圧で、液化中は一定で、点 D で液化は終了。温度が上がると液
化開始点と液化終了点は近づき(図 4.4 中、曲線 II の水平部分は省略)
、曲線 V で
B 点、D 点は一致する(C 点)
。
●さらに低温(曲線Ⅳ)で、V 軸と交わる。V 軸の下は負の圧力である。
●V の小さな領域で、破線を漸近線(V = b)とするように、P は発散的に増加する。
囲み 2
超臨界流体(supercritical fluid)
Tc, Pc を越えた温度、圧力の状態(超臨界状態)のガスは、密度が急激に上昇するため、気体と
も液体ともつかぬ流体の状態にある。超臨界流体は化学的親和性のある物質を溶解する能力をも
つ。これを利用して物質の分離、生成、分解が可能となる(コーヒー、タバコからカフェイン、
ニコチンの除去。産業廃棄物の分解)
。流体として二酸化炭素、エチレン、プロパン、トルエンが
利用される
9
表 4.3 気体の臨界定数
水素
ヘリウム
窒素
酸素
塩素
アルゴン
メタン
アンモニア
水
二酸化炭素
4.1.4)
Pc/atm
12.8
2.26
33.5
50.1
76.1
48.0
45.8
111
218
72.7
Tc/K
33.2
5.21
126.3
154.8
417.2
150.7
191.1
405.5
647.4
304.2
Vc/cm3 mol-1
65.0
57.8
90.1
78.0
124
73.3
99
72.5
55.3
94.0
PcVc/RTc
0.305
0.306
0.291
0.308
0.226
0.285
0.289
0.241
0.227
0.274
分子間力の起源
4.1.4a 重力か?
1920 年以前、ファンデルワールス力の起源は重力かとの議論があった。結果は否
である。
証明] 帯電していない粒子 CO2 間の相互作用エネルギーは–E0 = 14.010-21 J で
ある。一方、2 分子の CO2 (分子直径 約 3.24 Å)が接したときの重力は、
-E0*= -
[( 44  10 3 / 6.02  10 23 ] 2  6.67  10 11
 1.1  10 51 J
10
3.24  10
となり、重力は分子間力に寄与しないと結論できる。しかし、重力は r-2, 分子
間力は r-7 の関数であるから 分子が十分離れると重力  分子間力となる。
r~0.5 mm で E = E0*となり、2 隣接 CO2 分子が 0.5 mm 以上離れると重力のほうが
大きくなる。
4.1.4b
1923 年 ロンドンの提案
無極性分子の平均電場は 0 であるが、ロンドンは、正電荷から負電荷に向かう力線
をもつ電場が瞬間的に存在するはずで、電荷 q の 電場は q/r2 であるなら、双極子
能率 p(qr の次元)の双極子の電場は qr/r3 = p/r3 であろう(r:双極子からの距離)
10
と推論した。すると電場中の他の分子の分極ポテンシャルは Ep = –p2/2r6 となり、
ロンドン力の引力は 1/r7 の関数となる。分散効果は 4.5 式(分極率の 2 乗、距離の6
乗に比例)で示された。以下で、双極子モーメントをもつ分子による効果を考察す
る。

d
図 4.5 の双極子モーメント p (= ed)が点 O に
O
つくる 静電ポテンシャルは以下のようになる。
V (r ) 
e
r’
4.1.5) 双極子がつくる電場
-e
r
図 4.5 双極子 ed が作る
静電ポテンシャル
e
1 1
(  ) , d<<r より、
4 0 r ' r
1
1


r'
(r  d cos ) 2  d 2 sin 2 
(r 2  2rd cos  d 2 ) 1 / 2 
∴ V (r )  
1
2rd cos  d 2 1 / 2 1
d cos
(1 
)
 (1 
)
2
r
r
r
r
ed cos
p cos
, したがって、O 点での電場の強さ E は

2
4 0 r
4 0 r 2
r方向の成分 
V
2 p cos

r
4 0 r 3
これに垂直方向(y方向)の成分 (dy  rd )

V
1 V
p sin 


y
r 
4 0 r 3
従って、O 点に誘起される電場は 4.8 式である。
E  {(
2 p cos 2
p sin  2 1 / 2
p(1  3 cos2  )1 / 2
)

(
)
}


4 0 r 3
4 0 r 3
4 0 r 3
(4.8)
4.1.5.1) 誘起効果
図 4.6 に示す、双極子 ed から距離 x 離れた位置 O にある誘起双極子を考える。
ed
1
x
O
2
図 4.6 双極子 ed が作る誘起双極子
11
点 O での電場 E に存在する分子に生じる誘起双極子モーメントは pi = ex = E で、
x
x
e2 x
0
0

モーメント pi を生じるに必要な仕事は  eEdx  
dx 
e2 x2 1
 E 2 , 生じた
2
2
双極子モーメントのもつポテンシャルエネルギーは–piE = –E2 で、それらの和に
4.8 式を代入する。
1
1
p(1  3 cos 2  )1 / 2 2
p 2
2
} 
(1  3 cos 2  )
全エネルギー:  E    {
3
2 6
2
2
4 0 r
2(4 0 ) r
分子の向きが無秩序であると
<cos2 > = 1/3
なので、 U 12
(4.9)
p 2

となり、同種 2 分子間の相互作用エネルギーは
(4 0 ) 2 r 6
U  U12  U 21 より、4.10 式で表される(分極率の 1 乗、双極子モーメントの 2 乗、
距離の6 乗に比例)。
2p 2
p 2
U 
 6
(4 0 ) 2 r 6
r
(4.10)
4.1.5.2) 配向効果
双極子モーメントが熱的にゆらいでいるときの分極率は,

p2
となるの
3k BT
で、4.10 式に代入すると、1 対の双極子同士の相互作用エネルギーは 4.11 式(双極
子モーメントの 4 乗、温度の1 乗、距離の6 乗に比例)となる。
2
p4
p4
U 
 6
3 (4 0 ) 2 k BTr 6
Tr
(4.11)
4.1.6) ファンデルワールス相互作用
ファンデルワールス力による相互作用エネルギーは、4.5 式の分散効果, 4.10 式の
12
誘起効果および 4.11 式の配向効果(この項のみが温度依存を示す)の加算で示され
る。表 4.4 で、2 分子間ポテンシャルを比較し(20C)、その特徴をまとめる。
表 4.4 2 分子間ポテンシャルエネルギー(-Ur6 J m6/10-79)*)
30
/1040 Kg1 S4 A2 h0/ eV 配向効果
分子 p/10 C m
He
0
0.22
24.5
0
Xe
0
4.45
11.5
0
CO
0.40
2.21
14.3
0.0034
HCl
3.44
2.93
13.7
18.6
HBr
2.60
3.98
13.3
6.1
HI
1.27
6.01
12
0.35
NH3
5.0
2.46
16
83
H2O
6.14
1.65
18
189
誘起効果
0
0
0.057
5.60
4.34
1.57
10
10.0
分散効果
1.2
221
67.8
114
204
420
94
48
*単位)p について: 1D(デバイ) = 1018 esu cm = 3.361030 C(クーロン) m; について:Kg1 S4 A2 = C m/ V
m1 を 40=1.1131010 m3 Kg1 S4 A2 で割ると、単位は m3
1) 表中の NH3 と H2O 以外は、分散効果が相互作用エネルギーの大部分を占めてい
る。
2) 永久双極子モーメントをもつハロゲン化水素において、ヨウ素のように分極率
の大きなイオンを含む HI での分散効果は(配向+誘起)効果の 200 倍程度、臭素の
場合は 20 倍程である。HCl でも、(配向+誘起)効果より分散効果のほうが5倍程度
大きい。
3) NH3 においてもまだ分散効果の方が配向効果より少し大きい。
4) H2O 分子での配向効果は分散効果の 4 倍程度である。
このように、瞬間的電場によって引き起こされる引力(分散効果)は、分子性化合
物の凝集に大きな寄与をしている。
単原子分子 Ne, Ar, Kr, Xe は面心立方格子(次節参照)をとる。1 原子当たりの凝集
エネルギーは 4.5 式の 6 倍、さらに遠くの原子との相互作用を加味すると 7.38 倍と
なる。従って、1 モルあたりの結晶の引力ポテンシャルエネルギーは 7.38NA(4.5
式)となる。式中の r(格子定数 a の面心立方格子で r = a/2)は固体密度(= 4M/a3NA)
13
を零 K に外挿して求める。これらの引力ポテンシャルエネルギーと電子雲間反発
エネルギー(~r-12)により、全ポテンシャルエネルギー(固体では格子エネルギ
ー=昇華熱)が決まる。Ne, Ar, HCl, HI の計算で求めた引力ポテンシャルエネルギ
ーは 1.67, 7.66, 16.9, 27.2 kJ mol-1 で、表 4.5 中の実測昇華熱との一致はよい。
表 4.5 Ne, Ar, HCl, HI の実測蒸発熱と昇華熱
Ne
Ar
HCl
6.4
16.1
蒸発熱(kJ mol-1) 1.7
-1
8.49
21.1
昇華熱(kJ mol ) 2.47
HI
19.8
26.0
分子間ポテンシャルエネルギーの引力項を r-m で、斥力項を r-n で代表したのが
レナード・ジョーンズ・ポテンシャルで、そのうち m=6, n=12 が気体運動論や統計力学
でよく使われる。
***************************
囲み記事1に関連して:粒子が従う分布に大きく 3 種類があり、原子、分子などの大きな粒子
の分布はボルツマン分布(5章参照)、金属電子はフェルミ分布、電子が 2 個対をなしたクーパ
ー対(超伝導の起因)はボース・アインシュタイン分布である。これらは次式で示される。
f 
1
 
exp
x
k BT
x = 0, = 0
x=1
x = -1
がボルツマン分布(またはマクスウェル・ボルツマン分布で、気体、低密度の
粒子が従う、式として exp(-/kBT)である)
がフェルミ分布(半導体の電気伝導に寄与する電子の密度は低いので、ボルツマ
ン分布に従う)
、
がボース・アインシュタイン分布
化学反応速度の研究に類似の表式 exp(-/RT)が多
くみられる(アレニウスの化学反応速度、E は活性
化エネルギー、右図では E a, R=NAkB)
。
活性化エネルギーとは、反応の出発物質の基底状態
から遷移状態に励起するのに必要なエネルギーであ
る。化学反応においては、出発物質と生成物のエネ
ルギーに差がある場合には、最低限そのエネル
ギー差に相当するエネルギーを外部から受け取
らなければならない。しかし、実際の反応にお
いてはそれだけでは十分でない場合がほとんど
で、二状態のエネルギー差以上のエネルギーを
必要とする。大きなエネルギーを受け取ること
14
触媒の有無に伴う活性化エネルギー(Ea)と生成エ
ンタルピー(ΔH)の関係。最も高いエネルギー位
置(頂点)は遷移状態を表す。触媒の存在下(赤の
破線)では、遷移状態へ移行するために必要なエネ
ルギー(活性化エネルギー,Ea)は減少し、その結
果、反応の進行に必要なエネルギーは減少する。
で、出発物質は生成物のエネルギーよりも大きなエネルギーを持った遷移状態となり、遷移状
態となった出発物質はエネルギーを放出しながら生成物へと変換する。これは発熱反応の場合
にも当てはまり、たとえ出発物質よりも生成物のエネルギーの方が低いとしても、活性化エネ
ルギーの壁を越えられなければ反応は進行しない。例えば炭素と酸素を常温・常圧で混ぜても、
それだけでは二酸化炭素などにならない。なお適切な触媒があれば、反応に必要な活性化エネ
ルギーを下げることが可能で、それにより反応が進みやすくなる。
****************************
エンリコ・フェルミ(Enrico Fermi、1901 年 9 月 29 日 – 1954 年 11 月
28 日)は、イタリア、ローマ出身の物理学者。統計力学、核物理学および
量子力学の分野で顕著な業績を残しており、
放射性元素の発見で 1938 年の
ノーベル賞を受賞している。実験家と理論家との 2 つの顔を持ち、双方に
おいて世界最高レベルの業績を残した、史上稀に見る物理学者であった。
1918 年、ピサ高等師範学校に入学し、物理学を学ぶ。ここで非凡な才能を
発揮し、すぐに教師達を追い越してしまった。教師から相対性理論につい
て教えを請われたこともあった。1922 年に学位を取得。1926 年、「フェル
ミ統計」に関する理論を発表し、世界的な名声を得た。フェルミ統計は、
電子の振る舞いにパウリの排他原理を導入した新しい統計力学だった。同時期にポール・ディ
ラックも同様の結論を導き出していたため、フェルミ統計は「フェルミ=ディラック統計」と
も呼ばれる。電子や陽子など、フェルミ統計に従う素粒子を総称してフェルミ粒子と呼ぶ。フ
ェルミ統計は、
金属の熱伝導や、
白色矮星の安定性に関する理論的な基礎を与えるものである。
1926 年、20 代半ばにしてローマ大学の理論物理学教授に就任した。ここで、ニュートリノの存
在を導入したベータ崩壊の理論を完成させた。また、自然に存在する元素に中性子を照射する
ことによって、40 種類以上の人工放射性同位元素を生成した。さらに、熱中性子を発見し、そ
の性質を明らかにした。これらの成果によって、1938 年にノーベル物理学賞を受賞した。この
ノーベル賞受賞の為、ストックホルムを訪れた際に、夫人(ユダヤ人)と共に、アメリカに亡
命する。1939 年、コロンビア大学の物理学教授となった。このアメリカ亡命直後、フェルミは、
ドイツで、ハーンが、核分裂の実験に成功した事を知る。アメリカでは核分裂反応の研究に従
事し、1942 年、シカゴ大学で世界最初の原子炉「シカゴ・パイル 1 号」を完成させ、原子核分
裂の連鎖反応の制御に史上初めて成功した。この原子炉は原子爆弾の材料となるプルトニウム
を生産するために用いられた。アメリカ合衆国の原子爆弾開発プロジェクトであるマンハッタ
ン計画でも中心的な役割を演じ、1944 年にロスアラモス国立研究所のアドバイザーとなった。
しかし、その後の水素爆弾の開発には倫理的な観点から反対をしている。第二次世界大戦後は
シカゴ大学で宇宙線の研究を行った。1954 年、癌により死去。死の床においても、点滴のしず
くが落ちる間隔を測定し、流速を算出していたという。彼がイタリアで率いた同年代の研究仲
間たち(ラガッツィ・ディ・ヴィア・パニスペルナ)は、後にアメリカやソビエトへ渡り、米
ソの素粒子物理学の基礎を築いた。エンリコ・フェルミにちなみ、原子番号 100 の元素はフェ
ルミウム (Fermium)と命名されている。また、10 のマイナス 15 乗メートルは 1 フェルミとさ
れた。小惑星のひとつもフェルミと名付けられた。正確な計算ではなく、おおよその値を計算
する「概算」の達人であったといわれ、原子爆弾の爆発の際、ティッシュペーパーを落とし、
その動きから爆風を計算し、爆発のエネルギーを見積もったという逸話がある。「宇宙には沢
山の生命体が存在し、知的生命体も多数あると考えられるのに、なぜ地球に飛来した痕跡が無
いのか」という「フェルミのパラドックス」を提示。後のドレイクの方程式に繋がる。
**************************************
15
ジョン・ポープル(Sir John Anthony Pople、1925 年 10 月 31 日 - 2004 年 3 月 15 日)はイ
ギリス生まれで主にアメリカで活躍した理論化学者である。1998 年に「量子化学における計算
化学的方法の展開」でノーベル化学賞を受賞した。
生涯 1925 年、サマセットで生まれる。レナード・ジョーンズの下で学び、1951 年ケンブリッ
ジ大学で数学の学位を得る。その後、英国立物理学研究所を経て、1964 年にアメリカに渡りカ
ーネギー・メロン大学の物理化学科の教授を務めた。1986 年からはノースウェスタン大学の化
学科教授を務めている。
研究 主な業績は分子軌道法の理論を作ったことである。1953 年にルドルフ・パリサー、 ロバ
ート・パールとともに Pariser-Parr-Pople 法(PPP 近似)と呼ばれるπ電子系の近似法を考案
した。1965 年頃からは同じく半経験的分子軌道法の、分子の主要構成価電子全体をあつかう
CNDO 法(Complete Neglect of Differential Overlap 法)
、INDO 法(Intermediate Neglect of
Differential Overlap 法)を開発した。一方で、半経験的な CNDO 法や INDO 法には、同時に複
数のパラメータの信頼性を上げる事や d 電子系への応用などが困難だという欠点があった。こ
れを克服する手法として非経験的分子軌道法(ab initio methods)の開発を進め、1970 年に
は GAUSSIAN 70 を開発している。GAUSSIAN は量子化学交流プログラム機構を通じて世界中に普
及し、4 年ごとの改訂ではウォルター・コーンの提唱した密度汎関数法を取り入れるなどの改
良が続けられた。今日、ab initio 計算プログラムとして最も広く用いられている。
ウォルター・コーン(Walter Kohn、1923 年 3 月 9 日 - )はオー
ストリア生まれの理論物理学者。1998 年のノーベル化学賞を、ジ
ョン・ポープルと共に受賞した。受賞理由は、化学物質の性質や
反応過程の量子化学理論の構築に対する貢献。特に密度汎関数法
に関する研究で主導的な役割を果たしたことを評価された。
生涯 1923 年にウィーンで生まれる。ナチスの迫害を受けて 1939
年にイギリスを経てカナダに移住するが、両親はアウシュヴィッ
ツで亡くなった。ハーバード大学でジュリアン・シュウィンガー
の指導を受け、1948 年に博士号を取得した。1950 年からカーネギ
ーメロン大学に移り、
「Kohn の変分法」という手法で核子散乱の
研究をした後、KKR 法の提案などを行なった。1952 年にアメリカ合衆国に帰化している。1960
年にカリフォルニア大学サンタバーバラ校に転勤した。1964 年にはパリの高等師範学校を訪れ
た際に密度汎関数法を提唱し、これが 1998 年のノーベル化学賞受賞につながった。ピエール・
ホーヘンベルグとともに同年に発表した不均質電子ガスについての論文では、基底状態の電子
密度分布が与えられれば系に与えられた不均一な外場を再現することが出来ることを証明し、
また基底状態の電子密度を見いだすために必要なホーヘンベルグ・コーンのエネルギー密度汎
関数を与え、密度汎関数法の理論的根拠を確立した。1965 年には、リュウ・シャムとともに発
表した論文において、多電子系の電子密度を非相互作用系の電子密度を求めることによって再
現するコーン・シャム方程式を導いた。また、これに前後して金属フォノンにおけるコーン異
常などを研究した。現在は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の教授、国際量子分子科学
アカデミーの会員である。世界平和に関する学部学生向けの講義なども担当し、ロナルド・レ
ーガンのスターウォーズ計画には反対の姿勢を示していた。
16
4.2) 結晶中での分子の充填
4.2.1) 六方最密構造と立方最密構造(章末の単位格子を参照のこと)
同じ大きさの球(パチンコ玉を考えるとよい)を箱に詰めることをする。第 1 層
に隙間なく詰めた状態は、1 個の玉の周りに 6 個が配位した六方最密平面格子とな
る。その格子点を A とすると、隙間に B と C の 2 種類がある(図 4.7 上図)。2 層
目の 1 個のパチンコ玉が B 点を占めたとすると、他のすべての玉も位置 B を占め
ることにより 2 層目の六方最密平面格子(B 層とする)ができる。もし、2 層目に
置く最初の1個が C 点なら、C 点のみを占めた六方最密平面格子(C 層とする)
ができる。この段階で下層からの積層様式は AB または AC の 2 種類が可能で
ある。AB の場合、3 層目は A または C の格子点を占める六方最密平面格子が可
能となる。このように箱に満杯になるまでパチンコ玉を詰めた場合、どのような詰
め方でも個数は同じであるが、その積層方向の周期性は多彩である(図 4.7 下図)。
そのうち、
最も単純な ABABAB••の 2 層周期の積層様式が六方最密構造(hexagonal
close packing, hcp)で、ABCABC•••の 3 周期が立方最密構造(cubic close packing,
ccp)である(より長周期の積層構造をとる物質も知られている:ZnS, SiC, CdI2,
CdBr2, PbI2, NbSe2, TaSe2 のポリタイプ)
。
ともに, 1 個の玉は同じ層に属する6個、
上下の層に属すそれぞれ 3 個の玉に接しているので、配位数(coordination number)
は 12 である。配位数 12 の構造はイオン結晶では見られず、単体原子または分子
が密に詰まり安定化する系で見られる。
立方最密構造は面心立方格子(face centered cubic, fcc)(図 4.8 左)に相当し、不
活性ガス(Ne, Ar, Kr, Xe)
、貴金属類(Au, Ag, Cu, Pt)
、C60(図 4.8 右)などがとる。
図 4.8 で、球の半径をrとすると A 層中の A1 の球は B 層に属する球のうち面心に
位置する 3 個の球と接しているので、球の半径は 4r=2a (a は格子定数)を満た
17
す。単位格子中に 4 個の球があるので、球の占有率(充填率)は (4/3)(2a/4)34/a3
= 2/6 = 0.741 である。つまり、箱いっぱいのパチンコ玉を熔かすと、箱の約 3/4
弱を金属が占めることになる。
図 4.9 に示す六方最密構造の体積は 33a2c/2 (最密時の軸比 c/a = 22/3 =
1.633) = 32a3 で、単位格子中に 6 個の球があり、その充填率も2/6 となる。六
方最密構造をとる元素は、Be(軸比=1.57)、 Mg(1.62)、Cd(1.89)、 -Co(1.63)、
Ti(1.60)、 Zn(1.86)、希土類元素である。六方最密と立方最密のエネルギー差は
小さく、互変、共存などがある(例、La, Pr, Nd, Pm, Sm, Ca, Co, Sc, Ce, 図
4.10)
。図 4.10 に金属元素の充填構造を示す。最密といいながらも、体積中の約 1/4
は隙間である。この隙間(interstitial site)の形や大きさを考察することは重要で
ある(図 3.6 参照)
。というのは、この隙間に、別種の原子やイオンを入れること
により岩塩型、CsCl 型、閃亜鉛鉱型(CuCl 型)
、ホタル石型、ZnO 型などの結晶構
造が形成される。
4.2.2) ファンデルワールス半径
分子性結晶の結晶構造解析より原子のファンデルワールス半径が与えられる。多
くの論文や教科書においてポーリング(L. C. Pauling)のファンデルワールス半径が
使用されてきた。しかしポーリングの値[2a]は、有意な分子間原子接触を過大に見
積もることが明らかで、この教科書ではポーリングの値よりも一般に少し小さなフ
ァンデルワールス半径を用いる(ボンデイ(A. Bondi)[2b]、表 4.6)
。表中の Li, Na,
K, Ga, In, Sn の値は非結合状態の金属での値で、これに相当するのはほかに、Tl:
1.96, Pb: 2.02, Ni: 1.63, Cu: 1.4, Zn: 1.39, Pd: 1.63, Ag: 1.72, Cd: 1.58,
Pt: 1.75, Au: 1.66, Hg: 1.55, U: 1.86 Å がある。また、パラフィン中の H、パ
18

六方最密平面格子



















左:格子点 A(黄)と隙間
B(赤),C(緑)、右:最密充
填の2層(A 層と B 層)
:
B
A
お
よ
B
C
び
N
A
C
B
の A
最
B
C
A
B
B外
C
A
C
殻
A
C
A
B
B
C
A
C
A 電C
A
B
B
C
A
B
子
図 4.7 六方最密平面格子の積層様式と六方最密構造(
)と立方最密構造(
)。
、
ABABA( ), ABCAB( )の他に ABABC, ABACA, ABACB など 16 種の充填様式を示す。
:
F
お
図 4.8 立方最密格子(面心立方格子)と C60 単結晶 よ
B
A
び
C
R
の
a
最
外
A
殻
電
子
、
図 4.10 金属元素の充填構造
:
正
常
共
有
原
子
価
結
合
、
19
:
配
位
共
有
図 4.9 六方最密格子
A
B
c
A
a
ラフィン中の C や CH3 に、おのおの、1.35, 1.90, 2.0 Å がある。
表 4.6 ファンデルワールス半径[2](Å, 上はポーリング、下はボンデイ)
H 1.20
1.20
Li ―
C ―
N 1.5
O 1.40
F 1.35
1.82
1.70
1.55
1.52
1.47
Na ―
Mg ―
Si ―
P 1.9
S 1.85
Cl 1.80
2.27
1.73
2.10
1.80
1.80
1.75
K ―
Ga ―
Ge ―
As 2.0
Se 2.00
Br 1.95
2.75
1.87
2.1
1.85
1.90
1.85
In ―
Sn ―
Sb 2.2
Te 2.2
I 2.15
1.93
2.17
2.06
1.98
He 1.50
1.40
Ne 1.60
1.54
Ar 1.92
1.88
Kr 1.97
2.02
Xe 2.17
2.16
4.2.3) 有機分子の充填率
形状が多彩な有機分子の充填率は、最密充填構造での値(0.741)を上回るものがあ
る(表 4.7)
。これは、充填率を高めると、より多くの分子との間でファンデルワー
ルス相互作用が働き、結晶の安定化エネルギーの利得があることによる。
表 4.7 有機化合物結晶、黒鉛の充填率
結晶
充填率 結晶
0.681
ベンゼン
コロネン
0.693
p-ベンゾキノン
ナフタセン
0.704
デユレン
p-ジブロモベンゼン
アントラセン 0.722
ビフェニル
充填率
0.726
0.735
0.740
0.740
O
Cl
H3C
結晶
アントラキノン
9,10-ジクロロアントラセン
ペリレン
黒鉛
CH3
H3C
CH3
durene
デユレン
biphenyl
ビフェニル
O
Cl
anthraquinone
9,10-dichloroanthracene
9,10-ジクロロ
アントラセン
アントラキノン
20
perylene
coronene
ペリレン
コロネン
充填率
0.765
0.800
0.805
0.887
4.2.4) 芳香族炭化水素の結晶
芳香族炭化水素の結晶の例として、アントラセン、ピレン、ペンタセンをとりあ
げ、それらの結晶構造と特徴的な物性を記述する[3]。アントラセン分子の結晶は、
図 4.11 に示すように単位格子に 2 種の配向をもつ分子(Ⅰ,Ⅱ)から形成される。溶
液中のアントラセンの吸収および蛍光スペクトルを図 4.12 に示す。吸収スペクト
ルと蛍光スペクトルはおのおの振動構造をもち、26-27103 cm-1(370-385 nm)を中心
として互いに鏡像関係にある。吸収スペクトルは、基底状態の最低振動準位から励
起状態のいくつかの振動準位へのフランク-コンドンの原理による光学遷移に対応す
る。つまり、図 4.13 に示す模式的ポテンシャルエネルギーにおいて、核配置座標
を変化させずに、振動準位 = 0 から 1 重項の励起状態の振動準位 ' = 0, 1, 2, 3 への
遷移により、4本の振動構造をもつ吸収スペクトル(図 4.13 の下図、実線)が得られ
る。励起された電子は ' = 3, 2, 1 の振動状態から ' = 0 の振動状態にエネルギー失
活し、 ' = 0 から基底状態の = 3, 2, 1, 0 への発光が蛍光スペクトルの4本の振動構
造として現れる(図 4.13 の下図、点線)。
励起 3 重項状態が励起 1 重項の下にある分子においては、 ' = 0 から励起 3 重項
状態へのエネルギー移動が起こると、励起 3 重項から基底 1 重項へのリン光スペク
トルとなる。
 = 0 から ' = 0 の吸収遷移エネルギーは ' = 0 から = 0 への蛍光遷移エネルギ
ーに一致し、これらの遷移は 0-0 遷移といわれる。フランク-コンドンの原理によ
る光学遷移はフェムト秒(fs、10-15 秒)の、また励起状態から基底状態への過程は
ピコ秒(ps, 10-12 秒)の速さである。
しかし、励起状態が周囲の原子、分子と相互作用を行って励起エネルギーの一部
を熱エネルギーなどのかたちで失うと、鏡像関係は崩れ、 ' = 0 から = 0 への発光
21
囲み 3
幾つかの多環芳香族炭化水素(色、吸収
位置 nm)。左よりナフタレン(白,320)、
アントラセン(白、374)、ピレン(淡黄、
336)、ペリレン(黄橙、437)、テトラセン
(ナフタセン)(黄褐色,471)、ペンタセン
(青、580)。図にない 6 個のベンゼン環が
一列に並んだ分子ヘキサセンは緑色で
600 nm に吸収位置を持つ。
図 4.11 アントラセンの結晶構造
図 4.12 アントラセン/ベンゼン溶液の吸
収-蛍光スペクトル[6a]
Ⅰ
Ⅱ
図 4.13 ポテンシャルエネルギー
(模式図)
は、より低エネルギー側(長波長側)に
現れる。励起状態で 2 量化が起こる系で
よく見られる。このときの励起光と発光
のエネルギー差をストークス・シフト
fs
ps
(Stokes shift)という。一方、励起過程に
おいて熱励起や付加的な電子励起が加わ
ると、逆に発光スペクトルはエネルギー
の高い短波長側に現れる(反ストークス・シフ
ト)
。
純粋なアントラセン結晶は紫色の蛍光
を発する。しかし、市販のアントラセン
22
は一般に微量のテトラセン(ナフタセン)を含むため、テトラセンによる蛍光を示
す。
テトラセンの励起 1 重項は、
アントラセンの励起 1 重項よりエネルギーが低い。
アントラセンの励起状態は、隣接アントラセン分子に次つぎと移動することが可能
で(励起子または exciton, エキシトンの伝播)
、その励起エネルギーは約 200 分子離
れたアントラセン分子まで移動することが知られており、その間にテトラセン分子
が存在すると、そこに励起エネルギーはトラップされ、テトラセン分子から緑色の
蛍光を発する。
図 4.14 ピレンの結晶構造
図 4.14 にピレンの結晶構造を示す。アントラセ
ンと似たパッキングであるが、ピレン 2 量体が単位
となっている。ピレンの蛍光波長は大きなストーク
スシフトを示す。これは、励起状態のピレン分子
(M*)が基底状態のピレン分子(M)と相互作用をして、2 分子で励起エネルギーを共
有した励起 2 量体(excited dimer: excimer, エキシマー) (MM)*を形成することによる。
同種分子でない場合にも、励起状態で錯体の形成が行われる例があり、これを励起
錯体(excited complex: exciplex, エキシプレックス)という(例:アントラセンと N,Nジメチルアニリン)。励起 2 量体を含め、これらの励起錯体の発光は、分子単独で
の発光よりも低エネルギー領域に現れる。
M* + M

M1* + M2 
(MM)*
(4.12)
(4.13)
(M1M2)*
ベンゼン(無色、融点 5.4C)
、ナフタレン(無色、81C), アントラセン(無色、
216C)
、テトラセン(橙、335C)のように、1 次元状にベンゼンを接続した多環
芳香族炭化水素をアセン系という。環が増えると共役領域が広がり、
HOMO-LUMO ギャップが小さくなり、分子の吸収スペクトルは低エネルギー(長
23
波長側、図 2.5 右下)に移動し、無色から有色となる。電子部分の拡張につれ、
一般に結晶中での分子間-相互作用が増加し、色が濃くなるとともに導電性(半
導体)が増す。これは、HOMO-LUMO ギャップに由来する結晶の価電子帯-伝導
帯(8 章参照)のギャップが減少することにともない, 光や熱により結晶中に伝導
キャリヤー(電子とホール, 密度 n)が生じやすくなることと、分子間-相互作
用が強まることにより価電子帯や伝導帯の幅が大きくなり、それにとなって移動度
()が増加することによる。電気伝導度、
 = ne
(4.14)
であり、分子間–相互作用の増加は n およびの増加を誘引する(詳細は 8 章)。
ペンタセン(結晶構造を図 4.15 に示す。濃青色、融
点 270~271C)は大きな移動度(=0.01 cm2 V1 sec1
から 0.7 cm2 V1 sec1 の報告があるが、吸着酸素の影響
により大きな移動度が得られているとの実験もあ
図 4.15 ペンタセンの結晶構造
るので、まだ決着がついていない)をもつ物質である。この結晶を FET 素子に組
み込み、極めて多量のキャリヤーを強制的に注入し、超伝導を観測したとの捏造報
告があった[4](囲み記事参照)
。
囲み 4
超伝導の嘘報告 多環芳香族炭化水素の超伝導を実
現したとの嘘報告がベル研究所のシェーン(J.H.Schön)
らにより出された。図 4.16 にその嘘報告の結果を
示す。超伝導の転移温度 Tc は BCS 理論に従う場合、
格子を構成する原子イオンや分子イオンの質量(M)
が小さいほど大きな値となる[Tc~(M)-1/2]。図 4.16 は
まさにそれに一致しており、超伝導転移温度はアント
ラセン>テトラセン>ペンタセンの順で、分子量の減
少が転移温度を上昇させていた。この点は大きな説得
図 4.16 ポリアセンのFET
力があり、この嘘の実験結果が他の研究者に受け入れら
れた所以である。本人を含めだれも追試に成功しなかった。素子での超伝導の偽報告
科学に対する倫理は、欧米で非常に厳しく、それに関して優れた教材がある[5]。
24
****************************
ジェイムズ・フランク(James Franck、1882 年 8 月 26 日 - 1964 年 5 月 21 日)は、ドイツの
ユダヤ系物理学者。ナチス政権に反対してアメリカに逃れた。グスタフ・ヘルツと行ったフラ
ンク=ヘルツの実験や、核兵器の無警告での使用に反対したフラン
クレポートで知られる。
略歴 ハンブルクでユダヤ系ドイツ人の銀行家の家に生まれた。
ハイ
デルベルク大学で化学を、ベルリン大学で物理を学んだ。1912 年か
ら 1914 年にかけてグスタフ・ヘルツとともに「フランク=ヘルツの
実験」を行い、1925 年、この研究がもとでヘルツとともにノーベル
物理学賞を受賞している。1920 年からゲッティンゲン大学の第 2 物
理研究所の所長を勤めた。1926 年、ファラデー協会の紀要に、のち
のフランク=コンドンの原理のもととなる論文を発表し
た。
政権を握ったナチス・ドイツによる決定によって 1933 年 7
月に大学の職を追われた。 このときには大学の同僚 33 名
がフランクの失職に抗議し、地方紙に新政権に協力しない
という手紙を送付している。海外へとユダヤ系学者が脱出
する中、当初フランクはそうした若い研究者の職を奪わな
いようドイツに残る道を模索したが、反ユダヤ政策の急速
な広まりとともにほどなくドイツではそうした道が見出せ
ないことが明らかとなった。 1934 年、ニールス・ボーア
のいるコペンハーゲンを経由して、アメリカへと渡った。
アメリカでは、ボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学を
経てシカゴ大学の教授を勤めている。第二次世界大戦中は
シカゴ大学冶金研究所 (Metallurgical Laboratory) でマ
フランク=コンドンの原理
ンハッタン計画に協力した。1945 年 6 月 11 日にはユージ
を示すエネルギー図
ン・ラビノウィッチ、レオ・シラードらとともに、終戦後
の核兵器管理体制の確立と、そのための日本への投下に先立つ示威行動の実施を求めるフラン
クレポートを政府に提出した。
ジョージ・ガブリエル・ストークス(Sir George Gabriel Stokes, 1819
年 8 月 13 日 - 1903 年 2 月 1 日)は、アイルランドの数学者、物理学
者である。 流体力学、光学、数学などの分野で重要な貢献をした。1851
年に王立協会のフェローに選出され、1885 年から 1890 年まで会長を
務めた。1849 年から死去する 1903 年まで、ルーカス教授職も務めて
いる。
業績 ストークスの名前を冠した事柄にはつぎのようなものがある。
流体力学の分野 ◎粘性流体の式:ナビエ=ストークスの式、◎流体
の中で落下する粒子の速度:ストークスの式、◎水面波の「ストーク
ス波」
、◎粘度の単位ストークス
光学の分野 ◎ストークス散乱 - ラマン散乱に詳しく説明がある。
数学の分野 ◎ストークスの定理 - ストークスの定理の初出は、ケンブリッジ大学の数学の優
等試験(トライポス)であり、ストークスは、旅行中の友人の物理学者ウィリアム・トムソン
が書き送った手紙を受け定理を知り試験に出題したものとされる。またこのときの数学優等試
25
験では、電磁気学で有名なジェームズ・クラーク・マクスウェルが(力学で有名なラウスと共
に)首席で合格している。
鉱物の分野 ◎ストークス石 Stokesite という錫とカルシウムを含むケイ酸塩鉱物は彼の名前
に由来するものである。
サー・チャンドラシェーカル・ヴェンカタ・ラーマン(Sir Chandrasekhara
Venkata Raman、1888 年 11 月 7 日 - 1970 年 11 月 21 日)はインドの物理
学者。1930 年のノーベル物理学賞受賞者。ラマン効果 (ラマンスペクト
ル)の発見者である。タミル・ナードゥ州のティルッチラーッパッリ生ま
れ。アーンドラ・プラデーシュ州のヴィシャーカパトナムで育つ。マドラ
ス管区大学で学び、1917 年にコルカタ大学の教授となる。そこで、光学の
研究を行った。インド本国で研究したインド人研究者としては初めてのノ
ーベル賞受賞者である。1934 年にインド理科大学院の学長となった。1957
年にはレーニン平和賞を受賞する。1983 年にノーベル物理学賞を受賞したスブラマニアン・チ
ャンドラセカールの叔父にあたる。
ラマン効果(-こうか)は、物質に光を入射したとき、散乱された光の中に入射された光の波
長と異なる波長の光が含まれる現象。1928 年インドの物理学者チャンドラセカール・ラマンと
K・S・クリシュナンが発見した。ラマン効果により散乱された光と入射光のエネルギー差は物
質内の分子や結晶の振動準位や回転準位、もしくは電子準位のエネルギーに対応している。分
子や結晶はその構造に応じた特有の振動エネルギーを持つため、単色光源であるレーザーを用
いることで物質の同定などに用いられている(ラマン分光法)。
ラマン分光法:ラマン散乱光の振動数と入射光の
振動数の差(ラマンシフト)は物質の構造に特有
の値をとることから、ラマン効果は赤外分光法と
同様に分子の構造や状態を知るための非破壊分析
法として利用されている。ラマン散乱と赤外線吸
収の選択則は異なるため、赤外分光法とは相補的
関係にある。現代では、光源として単色光である
レーザー光を物質に照射して、発生したラマン
四塩化炭素のラマンスペクトル。ピーク
散乱光を分光器、もしくは干渉計で検出するこ
の各々が特定の分子振動に対応する
とでラマンスペクトルを得ることができる。通
常、ラマンスペクトルは縦軸にラマン散乱強度、横軸にラマンシフト(単位は波数、cm-1)を
とったグラフとなる。また、ラマン散乱の光学過程を含む非線形光学過程である、誘導ラマン
散乱、ハイパーラマン散乱、コヒーレント・反ストークスラマン散乱(CARS)などの非線形ラマ
ン分光法もラマン分光法の一種である。
シェーン(J.H.Schön)
26
囲み 5
有機 EL 素子•有機発光ダイオード(OLED)[6]:EL 素子、または、OLED(organic light
emitting diode)は自発発光素子
(液晶は自発発光でないためバックライトを必要とする)
で、
液晶に代わる表示素子、
水銀を用いた蛍光燈や発熱を伴う電灯や生体や有機物に有害な紫外
線を含む照明に代わる照明素子、微小サイズの発光素子としての用途が考えられている。2
つの電極の間に発光層があり、負極から電子、正極(透明電極)から正孔が注入され、それ
らが発光層で再結合して光を出す。発光効率を高めるため、幾つかの多層型が開発された
(例、
透明正極/ホール注入材料/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子
注入層/負極金属:図 4.17)
。1)電極の一方から光を得るため透明電極が必要であり、ガラ
ス基板やプラスチック基板にインジウム-スズ酸化物(ITO)を塗布した電極が用いられる。
ITO の仕事関数に近いエネルギーのHOMOをもつ分子がホール注入材料で、銅フタロシ
アニン(CuPc)がある。ホール注入には、CuPc のHOMOより下に ITO の仕事関数を
位置させる必要があり、それが正極の印加電圧となる(図 4.18)
。2)CuPc に生じたホール
がホール移動度の大きい値を持つホール輸送層を通って発光層に到達する。3)反対側に位
置する電極は有機物のLUMOに電子を注入する役目で、仕事関数の小さな金属(Ca, Mg,
Al, In など)が用いられる。仕事関数()は結晶表面から外部の真空へ電子を移す仕事で、金
属では電子親和力や光電子放出のエネルギー閾値に一致する(表 4.8)。仕事関数は金属の結
晶面や表面修飾によって著しく変化する。4)電子注入層は負極の仕事関数に近いLUMO準
位をもつ分子で、そのエネルギー差が負極の印加電圧を決める。注入された電子は次の電子
輸送層の分子のLUMOに移動する。5)電子輸送層は電子移動度の大き
図 4.17
い分子からなり、そのLUMOは電子注入層分子よりも低く、ま
た発光層分子よりも高い。6)電子輸送層から発光層へ移動した
陰極
電子は、正孔と再結合して発光する。7)負極から発光層に注入
電子注入層
DC
された電子が陽極へ抜け出ることを防ぐ電子ブロッカーやその反
電子輸送層
ホールブロック層
対の正孔ブロッカーが層として追加されることもある。各層がバ
ンドを形成し、そのバンドの中を正孔や電子が移動するとしても、
発光層
ホール輸送層
局在した考えでは、正孔の移動は陽イオンラジカル状態(励起状
ホール注入層
態)が隣接分子へ順々に移動することで、また電子の移動は陰イ
オンラジカル状態(励起状態)の順次移動である。また、発光層
透明陽極
では、1 つの分子に到達した正孔と電子の状態は、HOMOから
ガラス基板
LUMOに電子が 1 個励起された励起分子に相当し、励起 1 重項
光
または励起 3 重項からから無輻射過程と競争的に蛍光または燐光を
放射し基底状態へ失活する。した
図 4.18 3 層式での発光機構
がって、発光の外部量子収率ext
e
e
は、電極から発光層へのキャリア
ー注入効率、再結合確率xec、励
起状態の多重度(その生成確率soin)
電子
発光
、発光量子収率em で
注入
再結合
ext = axec·soin·em
e
と表される。a は発光を外部に取り
e
出す効率で、材料の屈折率に依存
し a =1/42 で、およそ 0.2 である。
ホール
xec=1, em=1 としても 1 重項
注入
(蛍光)生成効率は 1/4 であるか
電 圧
電 圧
らext (蛍光)0.05(5%)で、
印加
印加
燐光ではその 3 倍が見込まれる。
⊖
⊕
⊖
⊕
27
⊕
⊕
⊖
⊖
表 4.8 仕事関数
物質 
ITO 4.35~4.75
4.96~5.14
Ba
2.7
Na
2.75
Ca
2.87
Mg 3.66
() (eV)
物質 
物質 
In
4.12 W
4.55
N
N
N
Ag
Al
Zn
Hg
4.26 Cu
4.28 Au
4.33 Pt
4.49
4.65
5.1
5.65
N
N
M
N
N
N
金属フタロシ ア ニン
(MPc)
4.2.5) 脂肪族炭化水素の融点
融点 Tm は、生成エンタルピー(H)と融解エントロピー(S)により 4.15 式で定め
られる(エンタルピー、エントロピーは5章を参照)
。
H = TmS
(4.15)
一般に、分子間相互作用エネルギーが大きいほど(H が大きい)
、また、対称性
の高い分子ほど(S が小さい)
、高い融点を示す。図 4.19 に直鎖の飽和炭化水素
(パラフィン)
、アルコール、カルボン酸、テトラチアフルバレン(TTF)に 4 本
のチオアルキル鎖(SCnH2n+1)のついた TTCn-TTF, 片側の2本のチオアルキル鎖を
エチレンジチオ基で置換した CnTET-TTF の融点を比較する。
融点は、n の小さな領域でおおよそパラフィン<アルコール<カルボン酸<
TTCn-TTF<CnTET-TTF の順に高くなる。n の小さな領域で炭素数が偶数の系列と
奇数の系列で異なる挙動(偶奇効果)を示しながら融点が上昇し、n の大きいとこ
ろではなだらかな融点増加を示し、化合物によらず一定の値に近づく傾向を示す。
n の小さな領域(1  n  4)での TTCn-TTF では、アルキル基が TTF 分子骨格どうし
を遠ざけるように配向し(図 4.20)
、アルキル鎖の増加に伴い TTF 分子がもつ共
役部分の分子間相互作用が阻害され、融点が減少する。n4で、アルキル鎖が互い
に密に並び始め、それとともに分子中央部分の共役部分が互いに平行に、また緊
密にそろう(図 4.21)
。アルキル鎖間のファンデルワールス相互作用(赤紫矢印)が、
28
共役分子面の配向、配列、また面間距離を制御(青矢印)したもので、4  n  10
で面間距離が短くなり共役分子面間の相互作用が増加することにより、イオン化
ポテンシャルの減少、電気伝導度 T の増加、移動度の増加が見られる。このような
アルキル鎖の効果をファスナー効果という。
図 4.19 パラフィン、アルコール、カルボン酸、TTCn-TTF, CnTET-TTF の融点
1
H2n+1CnS
S
S
SCnH2n+1
H2n+1CnS
S
S
SCnH2n+1
:アルカン
2
:アルコール
3
:カルボン酸
4
:TTCn-TTF
5
TTCn-TTF
S
S
S
SCnH2n+1
S
S
S
SCnH2n+1
CnTET-TTF
:CnTET-TTF
図 4.20 TTC1-TTF, TTC2-TTF の結晶での分子の配向
パラフィン部分の
vdW 相互作用
図 4.21 TTC9-TTF の結晶構造
右図は電子部分を横方向から見た積
層形式を示す
a
–共役部分
c
b
29
囲み 6
ラングミュアー・ブロジェット(Langmuir・Blodgett)膜[7](3 章囲み記事2参照)
長いアルキル鎖のカルボン酸のように疎水基(アルキル鎖)と親水基(カルボン酸)とを共
に持つ分子を有機溶媒(ベンゼン、エーテル)に溶かし、溶液を 1 滴ずつ水面上に撒くと溶
液が水面上に広がる。溶媒はすぐ蒸発し、分子は水中に親水基を、空気中に疎水基を配置す
る。この状態で横方向から圧力を静かに加えると、分子同士が集合し、ある適当な圧力のと
ころで単分子膜(図 4.22a)が形成され、更なる加圧で単分子膜が重畳する。圧を単分子膜
が形成されている状態に保ったまま、表面を洗浄した金属板やガラス板をゆっくり入れると、
疎水基が基板に付着して(A 型とする)単分子膜を基板上にすくい取ることができる(図
4.22b)。この操作をラングミュアー(界面科学への貢献で 1932 年ノーベル化学賞)・ブロジェ
ット法という。基板を水中から引き上げると、親水基同士が互いについて A と逆向きの B 型
の膜が A 型の上にでき、この繰り返しで ABAB・・の Y 累積膜が作成される(図 4.22c、d)。
作成条件を変えると AAA・・の X 累積膜(図 4.22e)
、BBB・・の Z 累積膜(図 4.22f)が作成
される。このような多層膜を LB 膜という。実際の LB 膜は図のような欠陥の無い整然とし
た均質の秩序構造ではなく、数m2 の秩序ドメインが面内で無秩序に基盤を占めている上、
面垂直方向においても部分的重なりがある。膜中でドメインが存在しない部分は、ピンホ-
ルとして作用する。また、無秩序性は金属性や超伝導性を阻害する。したがって、金属性L
B膜の開発には、無秩序性に強い導電錯体成分の使用が不可欠で、分子間で S・・S 原子接触
が可能な Au(dmit)2 分子や S・・S 原子接触と水素結合が可能な
O
O
S
S
S
S
S
S
BEDO-TTF 分子が使用される。
Au
S
S
S
S
Au(dmit)2
S
S
O
S
S
O
BEDO-TTF
a
b
c
d
e
d
f
図 4.22 a) 疎水基(ジグザグ線)と親水基(丸)を持つ分子の水面近傍での膜形成、b) 基板
下降時のすくいとり、c)bに続く基板上昇時でのすくいとり、d)Y 累積膜、e)X 累積膜、f) Z
累積膜
囲み 7
自己組織化膜(SAMs)[8]
LB 膜での基板と基質間、および基質間の相互作用は弱いファンデルワールス相互作用であ
るが、基板と基質を強い共有結合や配位結合で結んだ膜では無秩序性や欠陥が少ないであろう
と予測された。これが自己組織化膜(self-assembled monolayers, SAMs)であるが、用語と
して何を示すのかあいまいである。一般的な組み合わせは基板 Au の (111) 面とチオール基ま
たはチオアセチル基の付いた有機物(RSH, RSCOMe)の反応により基板表面で Au・・SR を
形成するものである(生体物質に利用できる)。R としてアルキルを用いた場合は、ピンホール
の無い膜形成が可能であるが、電子をもつ複雑な構造の分子を用いた SAMsは単純に有機物
の入った溶液に金の結晶を漬けるだけで作成されており、必ずピンホールなどの欠陥を含む。
基板の特定の一端から膜形成を順次進行させる技術がない限り、このような無秩序性をなくす
ることは困難である。SAMsの他に化学結合膜や有機メッキなどといわれる膜や作成手法があ
る。これらは全て有機物と無機金属(化学結合膜はシリコン)間での共有結合の形成が基本で、
電極電位を制御するため有機物で金属電極を化学修飾(共有結合)した研究[9]の発展である。
30
ラングミュア
ブロジェット
サッチャー
アーヴィング・ラングミュア(Irving Langmuir, 1881 年 1 月 31 日 - 1957 年 8 月 16 日)は、
アメリカ合衆国の化学者、物理学者である。1932 年に界面化学の分野への貢献でノーベル化学
賞を受賞した。コロンビア大学を卒業後、ゲッティンゲン大学で、ヴァルター・ネルンストの
もとで化学を学び、1909 年からゼネラル・エレクトリックの研究所で研究を始め 1950 年まで
在籍した。また、「事実でない事柄についての科学」を病的科学として定義したことでも知ら
れている。
業績 ◎不活性ガス封入によるタングステン電球寿命の延長(1913 年)◎ラングミュアの吸着
式の提出 ◎水素プラズマの研究→プラズマの命名(1928 年)
、◎静電探針を考案 高真空水
銀ポンプの発明、◎ラングミュアの真空計の発明、◎ルイス-ラングミュアの原子価理論(1919
年)→オクテット則、◎白金の触媒作用の研究、◎単分子膜(ラングミュア・ブロジェット膜:
LB 膜)の研究(1934 年)
、◎キャサリン・ブロジェットとの共同研究、◎人工降雨の実験(1946
年)
キャサリン・ブロジェット(Katharine Burr Blodgett, 1898 年 1 月 10 日 - 1979 年 10 月 12
日)はアメリカ合衆国の女性物理学者である。アーヴィング・ラングミュアとともに研究した
単分子膜(LB 膜:ラングミュア=ブロジェット膜)に名前を残している。ケンブリッジ大学か
ら最初に学位を得た女性である。ニューヨークに生まれた。父親はジェネラル・エレクトリッ
ク社の特許部の部長であったが、キャサリンの生まれる少し前に他界した。1913 年にブリンモ
ア大学に入り、1917 年にシカゴ大学で化学の学位を得た。ジェネラル・エレクトリック社に研
究職として雇われた最初の女性となった。1924 年にキャヴェンディッシュ研究所で研究する機
会を得て、1926 年に物理学の学位を得た。1963 年に引退するまで、ジェネラル・エレクトリッ
ク社で働いた。1934 年に、水面上に合物を滴下して水面上に単分子膜をつくり、固体基板上に
移し取る手法、ラングミュア-ブロジェット法を開発した。均一な薄膜を得ることができる技術
である。
英国のマーガレット・サッチャーも化学を専攻していた当時、LB 膜の研究を行っていった。
31
参考文献、参考書
1)ファンデルワールス相互作用に関しては、デバイの講義を基にした、B.チュー著 飯島俊郎・
上平恒訳、
”デバイ 分子間力”
、培風館(1969)が面白い(上級生向き)。
2)a) L.Pauling, "The Nature of the Chemical Bond", Cornell Univ. Press, NY(1939).
b) A.Bondi, J. Phys. Chem., 86, 441-451(1964).
3)有機物の物性を扱ったものとして、
半導体低分子固体で、
a) 井口洋夫著、
”有機半導体”
、新物理学進歩シリーズ 9、槇書店版(1964)、
機能性色素として(5cを色素で特化した本である)
b) 大河原信、松岡賢、平嶋恒亮、北尾悌次郎著、 ”機能性色素”
、講談社サイエンティフ
ィク(1992)
以下は、孤立分子から集合体までの多種の機能を扱っている。
c) 吉野勝美監修、
”ナノ・IT 時代の分子機能材料と素子開発”
、NTS(2004)
d) 伊与田正彦編著、
”材料有機化学”
、朝倉書店(2002)
4) J.H.Schön, Ch. Kloc, B. Batlogg, Nature, 406, 702(2000) 解説に長谷川達夫、吉田幸大、
齋藤軍治、化学、58、12(2003)がある。
5)
「科学者をめざす君たちへ・・・科学者の責任ある行動とは」米国科学アカデミー、池内 了
訳、化学同人(1996)。
6)高分子での電界発光(EL) については
a) A. Kraft, A.C. Grimsdale, A.B. Holmes, Angew. Chem. Int. Ed., 37, 402-428(1998),
低分子では、
b) Y. Shirota, J. Mat. Chem., 10, 1-25(2000)が詳しく物質を紹介している。
現象やデバイスについては、
c) J. Kalinowski, J. Phys. D, 32, R179-R250(1999).
仕事関数はポリクリスタルでの値 H.B.Michaelson, J. Appl. Phys. 48, 4729(1977)、他に、
化学便覧基礎編(第5版)
、日本化学会編Ⅱ608-Ⅱ610(2004)
7) 導電性LB膜の参考書・論文として、
a) LB 膜とエレクトロニクス、福田清成、杉道夫、雀部博之編集、シーエムシー、1986
b)中村貴義、固体物理、24,359(1989)
8) a) A. Ulman, Chem. Rev., 96, 1533-1554(1996)
b) R. M. Metzger, Chem. Rev., 103, 3803-3834(2003)
c) J. C. Love, L. A. Estroff, J. K. Kriebel, R. G. Nuzzo, G. M. Whitesides, Chem. Rev.,
105,1103-1169(2005).
9) "Electroorganic Chemistry-電子を用いる新しい有機化学"、長哲郎、庄野達哉、本多健一編、
化学増刊86、化学同人(1980).
32
参考
晶系と単位格子
図 2’.1 7 つの晶系の単位格子
c



a
b
表 2’.1 単位格子の軸長と角度
軸長の関係
角度の関係
a=b=c
===90
a=bc
===90
abc
===90
abc
==90, 90
abc
90
a=bc
==90, =120
a=b=c
==90(<120)
結晶系
立方
正方
斜方
単斜
三斜
六方
三方(菱面体)
33
cubic
tetragonal
orthogonal
monoclinic
triclinic
hexagonal
trigonal
c
b
a
図 2’.2 単純格子、体心格子、面心格子、底心格子
図 2’.3 ブラベ(Bravais)格子
単純
体心
面心
立
方
晶
系
正
方
晶
系
斜
方
晶
系
単
斜
晶
系
三
斜
晶
系
六
方
晶
系
三
方
晶
系
34
底心