法人コンサルティング部 会社法務コンサルティング室 平成 28 年 9 月 28 日日 No.132 No.132 『証券代行ニュース』No.132 では、トピックスとして「犯罪収益移転防止法の一部改正」を、特 集として「取締役の善管注意義務違反等が判断された事例」をご案内いたします。 (8 月のニュース) 8/1(月) 8/24(水) 8/26(金) 日本取締役協会、指名委員会等設置会社リスト更新 http://www.jacd.jp/news/gov/160801_post-152.html 経産省、持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会初会合を開催。 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jizokuteki_esg/001_haifu.html 証券取引等監視委員会、「金融商品取引法における課徴金事例集~開示規制違反編~」を公 表。http://www.fsa.go.jp/sesc/jirei/kaiji/20160826.htm (トピックス)犯罪収益移転防止法の一部改正~マネー・ロンダリング対策の強化 平成 28 年 10 月 1 日に改正犯罪収益移転防止法が施行されますので、改正の概要をご紹介いたし ます。改正後の犯罪収益移転防止法の概要等については、下記 URL をご参照ください。 http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic /hourei/law_com.htm 項目 主な改正内容 ①疑わしい 疑わしい取引の 取引の届出 判断方法の明確化 特定事業者に義務付けられる疑わしい取引の届出について、 疑わしい取引の判断方法を明確化 具体的には、一般的取引の態様との比較、過去の取引との比 較、取引時確認との整合性から、疑わしい点があるかどうか を確認する方法等が規定された 本人特定事項の 他の本人確認書類又は公共料金の領収書等の提示、取引関係 確認方法の厳格化 ②取引時確認 取引担当者の代理 文書を転送不要郵便等で送付する等の追加的措置を要する る確認が認められるのは取引担当者が法人を代表する権限を 厳格化 等を的確に行 うための措置 体制整備等の努力 義務の拡充 法人の取引担当者が正当な取引権限を持つことを確認する方 法として、社員証等を有していることは削除され、登記によ 権等の確認方法の ③取引時確認 自然人の対面取引で顔写真のない本人確認書類を用いる場合、 有する役員として登記されている場合に限定された 顧客管理措置の実施に関する内部規程の策定、顧客管理措置 の責任者の選定等に努める義務が規定された 【特集】取締役の善管注意義務違反等が判断された事例 本稿では、子会社の管理について善管注意義務違反等を問われた事例と、インサイダー取引が発 生した際にその防止体制等につき取締役の責任が判断された事例をご紹介いたします。コーポレ ートガバナンス・コード原則 4-14 では、上場会社に対し取締役等に適合したトレーニングの機 会の提供等を行うべきとされています。取締役の善管注意義務違反が問われた事例の意義等につ いて、トレーニングの一内容として確認することも考えられます。 1. A 社株主代表訴訟事件 (福岡地裁 平成 23.1.26, 福岡高裁 平成 24.4.13, 最高裁 平成 26.1.30) 本件は、親会社 A 社が、「グルグル回し取引」と呼ばれる取引を行ったこと等で不良在庫 を抱えた子会社 B 社に対して、この問題に関する B 社調査結果について何ら検証すること なく多額の貸付等を行ったことから、A 社の代表取締役であり B 社の非常勤取締役を兼任 していた Y らの善管注意義務違反等を理由に、回収不能となった 18.8 億円の損害賠償を求 める株主代表訴訟が提起されたものです。 <取引の概要> 平成 9 年頃~ B社は商品製造の原料である鮮魚の仕入れをC社に依頼していた。 鮮魚は、特定のシーズンにまとめて仕入れてもらう必要があった。 B社は、資金豊富な仕入れ業者であるC社にまとめて在庫を抱えてもらい、一定の預かり期間に 売却できなければ期間満了時に買い取る旨を約束した取引を平成9年頃から開始した (ダム取引) 。 その後、B社の不良在庫や資金不足を解消する目的でも、ダム取引が行われるようになった。 平成 11 年、B社の在庫に異常に高額なものがあり、調査の結果、かなりの在庫不良品が判明した。 平成 14 年頃~ 不良在庫を一時的に解消する手段として、新しい取引を開始した。 ダム取引で満期買取した在庫について、さらに一定期間売却できなければ期間満了時に買い取る 旨を約束して複数の業者に売却し、往復取引が行われるようになった(グルグル回し取引)。 A 社取締役会で公認会計士から子会社の在庫管理について指導があったが、特段対応しなかった。 その後、B 社の不良在庫が異常に多いと報告を受けた A 社は、調査委員会を立ち上げて調査した。 グルグル回し取引を経て、評価額が異常に高い在庫が増加した。 B 社の在庫が増えた時期に、銀行からの借入金も大幅増加した。 その後、B 社の再建計画が作成され、資金援助を A 社に申込むこととなった。 <貸付の概要> 平成 16 年 6 月 B 社は含み損を 14.8 億円とする再建計画を A 社へ提出 平成 16 年 6 月 A 社の取締役会で 20 億円の貸付枠承認を決議 (再建計画の調査方法等確認せず) 平成 16 年 6 月 A 社は B 社に対し、合計 19.1 億円を貸付 ~12 月 平成16 年12 月 調査委員から Y に対して、実際の含み損が約 22.6 億円と報告 平成 17 年 2 月 A 社取締役会で、15.5 億円を債権放棄する旨を決議 平成 17 年 4 月 A 社は B 社へ 3.3 億円を新規貸付 ~5 月 平成 17 年 6 月 A 社定時株主総会で 15.5 億円の支援を含む貸借対照表、損益計算書、利益処分案 を承認する旨を決議 <原告の訴えと判決の概要> <本判決の意義> 親会社取締役による子会社の監督義務違反を理由に損害賠償責任が認められ、注目された判断 です。本件では、親会社の代表取締役が子会社役員も兼任していたことや、公認会計士から在 庫問題に関する指導があったにもかかわらず具体的かつ詳細な調査を行っていなかったという 個別事情もありますが、グループ会社管理における親会社取締役の法的責任について検討する うえで、参考となる裁判例と考えられます。 2.X 社株主代表訴訟事件(東京地裁 平成 21.10.22) 本件は、X 社の従業員が、平成 17 年 8 月頃から平成 18 年 1 月までの間、同社が管理する コンピュータ内の広告主の法定公告に関する情報を利用したインサイダー取引を行い、その 一部について刑事責任を問われたことについて、同社の株主らが、平成 14 年 3 月から平成 18 年 2 月までの間に在任した同社の取締役を被告とし、インサイダー取引を防止すること を怠った任務懈怠があるとして、被告らに対して同社に連帯して損害賠償金 10 億円の支払 を求めたというものです。 <概要> <本判決の意義> 取締役の善管注意義務について判断された事例です。 取締役の構築すべき「内部統制システム」や内部統制システム下での監視・監督義務がどの範 囲まで及ぶかについて、社内の実態を踏まえて具体的に示されています。 本件を踏まえると、取締役が善管注意義務違反を問われる可能性を下げるためには、「インサ イダー取引規制に関する規定」や「情報管理規定」などの規定を確実に定めることが1つのポ イントになると考えられます。また、これらに基づき社内研修を実施することや、機密情報を ID 入力必須のサーバーで管理することなど、リスクに対する具体的対策の実施が重要であると 考えられます。
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