H O P E ワインに含まれる添加物 ―ワインの安全性を考える― 横山 弘和 横山 弘和 / よこやま・ひろかず 1930年兵庫県生まれ。 65年ホテル・オークラ(東京)入社。 95年に退社す るまでソムリエとして30年間一貫してワイン関係業務に従事する。 88年11月ブルゴーニュ・シュヴァリエ・デュ・タートヴァン(利き酒騎士)叙 任。 現在佐多商会業務室在籍。 前 回は、ワイン法によって守られているワインの質について触れ 物が 多く含まれています。しかし、市 販 のワインについては全て安 ましたが、今回はさらに具体的にワインの成分の内容について考え 全 性が確 認されていますので、赤ワインでも白ワインでも特に心 配 てみようと、ワインに含まれる添 加 物について取り上げてみました。 する必要はありません。 みなさんが酒 販 店でワインを購 入するとします。ここで一 番の関 心は、そのワインの素 姓でしょう。通 常ワインの顔ともいうべきラベ 添加物と表示について ルから、そのワインの生 産 地 名、生 産 者 名、収 穫 年 度などの事 柄を 日本において許 可されている亜 硫 酸 の 最 大 許 可 量は、 トータル 知ることができます。さらにビンを裏 返してみると、そこにも小さな S 0 2として、3 5 0 p p mと規 定されています。貯 蔵 中のワインの亜 硫 バックラベルが貼られています。そのラベルを注 意して見ますと、輸 酸をたえず分析測定して不足量を補い、酒質を保護し、 トータルS0 2 入 業 者 名、住 所、ワインの容 量、アルコール 分、そして“ 飲 酒は2 0 の範 囲 内で品 質 管 理をしていくことになります。一 般のワイン中に 歳を過ぎてから”などの警 告 文が記 載されています。そしてもう1つ、 あるトータル S 0 2は、通 常は最 大 許 可 量より少なく、5 0∼ 1 0 0 ppm 「酸 化 防 止 剤( 亜 硫 酸 塩 )」の表 示が目につきます。多くの人は、ワ インのようなロマンチックな飲み物に化 学 成 分が入っていることに 驚くでしょう。 程度です。この使用量をさらに少なくする努力が現在行われています。 参考までに、フランスを含めたEU国のワインに含まれるS0 2 の最大 許可量は 赤ワイン 160ppm未満 ■ Sulphur dioxide(S0 2) <二酸化硫黄、亜硫酸ガス> 亜 硫 酸は、古くローマ時 代からワイン生 産の過 程で、硫 黄を燃や 白、ロゼワイン 210ppm未満 ■ ただし、残糖分が5グラム / 1リットル以上の場合は次のようになります。 して使用され、欠くことのできない成分とされてきました。現在もワイ ■ ンを生 産する世 界 中の国々で、酸 化 防 止、殺 菌などの目的で使 用 ■ されています。それは最近評判の有機栽培によるワイン生産におい ■ 赤ワイン 210ppm未満 白、ロゼワイン 260ppm未満 極甘口ワイン 400ppm未満 ても同様です。問題は、この化学物質を多く使用したワインを飲むと、 特に白ワインの 含 有 量が 多いのは、白ワインは一 般に酸 化しや 人によっては頭 痛 の 原 因になることです。そこで、おいしい優れた すい傾向にあるためです。アメリカでは日本と同様に350ppm未満 ワインを造ろうと努力する生産者は、その添加量を少なくするよう努 とされています。 めています。しかし、それにより有 益な効 果が 薄れてしまうことも事 実です。最 悪 の 場 合、ワイン本 来 の 味さえ損なわれて、つかみどこ 以前のワインは現在に比べるとずっと品質が劣るものでした。2世 ろのない代物になってしまう可能性もあるからです。 紀 前 半 頃は、生 産 国フランスやスペインから輸 出されたワインが 亜 硫 酸には、果 汁やワインの成 分の酸 化を防 止する作 用と殺 菌 小さな船にぎっしりと積み込まれ、はるばるイギリス海 峡を経て当 時 性があります。ワインの品質に悪い影響を及ぼすカビ、好ましくない から大消費国であったイギリスヘ 運ばれました。大きな波のうねりを 細 菌( 酢 酸 菌、バクテリアなど)に対し作 用します。ぶどうの皮に付 乗り越えて運ばれたワインの 多くは、振 動や 温 度 の 差で色は濁り、 着したカビを消滅させ、野生酵母の活動を止め、培養酵母の活動を 味はすっぱくてそのまま売れる状 態ではありませんでした 。そこで 活発にするのに役立ちます。 当 地のぶどう以 外の果 物ジュースと混ぜて、多 少 新 鮮な飲み物に 亜 硫 酸は普 通、ぶどうをつぶす時 点で加えられます。添 加 量は1 仕立てて販売されていたのです。その後、ワインの生産技術は徐々 ヘクトリットル当たり3∼5グラムで、収穫されたぶどうの健康状態の に改 良され進 歩しました。また運 搬 方 法も近 年 著しく向 上しました。 善し悪しで変わります( 状 態が悪く腐 敗のおそれが強いと2 倍まで 現 在 のワインは、過 去 に比 べると格 段 によい 扱いをされています。 増やされます)。通 常白ワイン、特に甘 口デザート・ワインには添 加 発 酵 活 動 中も、ワインが出 来 上がって熟 成の段 階でも、亜 硫 酸な 13 1905年当時のブルゴーニュのワイン生産者たち 毎日ぶどうの糖度を測定し記録する どの 化 学 物 質 の 助けを得て始めて販 売できる品 質となり、消 費 者 ブルゴーニュでは が楽しめる嗜 好 品になるのです。もはや近 代のぶどう酒なるものは、 今 回 のテーマであるワインと添 加 物について、ブルゴーニュ・ワ その昔、収 穫された新 鮮なぶどうを足で踏んで絞り自然に発 酵させ インの品 質、取り引きなどを取り締まる機 関 B l V B( Buroau Inter- て造った純 粋なその 土 地 の 飲み物ではなく、輸 送に耐え得る品 質 professionnel des Vins de Bourgogne)に問い合わせをした にまで高められた飲み物となったのです。 ところ、下記のような返事をいただきました。 現在ブルゴーニュには全体で約 4,500のワイン生産者が存在する。 ■ 添加が許されているもの B l V Bに所属するワイン醸造研究所によると、全てのワインが酸化 ■ まず、収 穫されたぶどうのマスト( 果 汁、果 皮、種など)に添 加が 防 止 剤を含んでいる。使われる薬 剤は亜 硫 酸か、アスコルビン酸と 許されているものとして下記のものがあります。 の併 用である。これらはワインの酸 化を防ぎ保 存する目的で使 用さ ■ 酵 母の添 加(ルヴュラージュ、l e v u r a g e ) :発 酵を起こす、もしく れる。酸化防止剤は、一般には生産者によってワインが出来上がった は促進するために酵母を添加すること。 時 点で添 加される。そのことにより、そのワインが 輸 出 向けか国 内 ■ 補 糖(シュークラージュ、s u c r a g eもしくはシャプタリザション、 消費かの区別なく、決まった割合を含有することになる。BIVB所属 chaptalisation) :ぶどうの糖分が少ないとき、アルコール度を増加 の 醸 造 研 究 所は酸 化 防 止 剤を使 用していない生 産 者を全く認 知 させるために糖 分を添 加すること。ワイン生 産 地では、ワインとして していない。酸 化 防 止 剤の使 用は、生 産 者がワインの高 品 質を維 認められるの に 十 分なア ルコール 度 数を得るために、人 工 的 に 持するために欠かせないことである。ただし、ビオロジック・ワイン(*) 砂 糖を加えることが許されています。糖 分を添 加する比 率が厳しく 生産者の中には、酸化防止剤の割合を低く抑えたり、全く使用しな 制限されているにもかかわらず、規定を超えている例が稀にあります。 いワインを販売しているところもある。しかし、それらのワインは酸 化 もちろん、産地や収穫年によって糖分の追加が必要ない場合もあり 防止剤を使用したワインに比べ保存期間が短くなる。 ます。規定量は産地によって変わりますが、普通アルコール度数2% まで高めることができます。シャプタリザションは行き過ぎるとワイン ワインと添 加 物は切っても切れない 関 係です 。しかし、あくまで の品質に悪い影響を及ぼし、魅力の乏しいワインになってしまいます。 ワインの 高 品 質を維 持するために使 用されているものであり、厳し ■ 硫 黄の添 加 (スルフィタージュ、s u I f i t a g e ) :亜 硫 酸を添 加する い取り締まりのもと、適 正 使 用 量が管 理されています。消 費 者のみ ことで異 常な発 酵、酸 化を防ぎ、発 酵をコントロールすること。最 近 なさんも、正しい知 識を持つことで不 必 要に警 戒 心を抱くことなく、 はだんだん控えめになってきています。これが頭 痛の原 因になると 楽しくワインとつき合っていただきたいと思います。 非難する人もいますが、実際に亜硫酸の助けなしで貯蔵したり遠地 への輸送に耐えるのは困難なことです。 (*)有機栽培のぶどうによって造られたワインのこと。 ときに酸 味 の 強いジュースにはカリウムあるいは炭 酸カルシウ ムを加え酸 度を下げます 。逆 に酸 味が 低い 場 台は酒 石 酸を加え ブルゴーニュへ 、ようこそ 中世がいまだに息づいているブルゴーニュヘいらっしゃいませんか。 高めます。 極上の銘酒を生み出すぶどう畑、グルメレストランの数々、 中世そのままの街なみ、美しく広がる大地や、小さな村々、 ワインに関するフランスの 法 制 度は世 界 中で最も厳 格な法 の 豊かな生命力と「はだのぬくもり」を感じる地方、 それがブルゴーニュです。 お問い合わせ (株)佐多商会業務室 担当: 岩沢 一つであることは以 前にも紹 介しましたが、品 質についての事 故を 防ぐよう、専 門 の 特 別 取 締 委員会が 常 時 品 質 のチェックも行って Tel. 03 3582 5087 います。 14
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