専門的な知識や技能を高める高大連携教育の一考察 福岡市教育

平成 25 年度
研究紀要
(第941号)
H3-03
専門的な知識や技能を高める高大連携教育の一考察
-工業科科目「課題研究」における
大学生との「ものづくりバトル」を通して-
本研究では,工業科科目「課題研究」の授業における専門的な内容を通
して,継続的に高大連携教育を行うため,クリスマスイルミネーションを
製作テーマとした大学生との「ものづくりバトル」の取組を行った。その
結果,生徒が主体的に学習活動を行う姿や積極的に大学生と意見交換する
姿が見られた。このことは,小規模な組織においても高大連携教育が可能
であることや,相互に競い合う手法が生徒の知識や技能を高める上で有効
に作用するという,高大連携教育の一方途を明らかにすることができた。
福岡市教育センター
高等学校教育
長期研修員
植田
隆夫
目
第Ⅰ章
1
次
研究の基本的な考え方
主題について ····················································· 高・長研‐
1
(1)主題設定の理由 ··············································· 高・長研‐
1
(2)主題及び副主題の意味 ········································· 高・長研‐
2
2
研究の目標 ······················································· 高・長研‐
3
3
研究の仮説 ······················································· 高・長研‐
3
4
研究の構想 ······················································· 高・長研‐
4
(1)高大連携教育に関する実態把握・検討 ··························· 高・長研‐
4
(2)連携内容の実践 ··············································· 高・長研‐
4
(3)連携内容の考察 ··············································· 高・長研‐
4
研究構想図 ······················································· 高・長研‐
5
5
第Ⅱ章
研究の実際
1
研究の概要 ······················································· 高・長研‐
6
2
高大連携教育の実態と考察 ········································· 高・長研‐
6
(1)高大連携教育の取組内容 ······································· 高・長研‐
6
(2)本市における高大連携教育の現状 ······························· 高・長研‐
7
3
取組の実際 ······················································· 高・長研‐10
(1)連携のポイント ··············································· 高・長研‐10
(2)高大連携教育の協力大学の条件 ································· 高・長研‐10
(3)連携内容の協議 ··············································· 高・長研‐10
(4)取組内容の検討 ··············································· 高・長研‐10
(5)課題設定 ····················································· 高・長研‐12
(6)作業工程の検討 ··············································· 高・長研‐12
(7)調査 ························································· 高・長研‐12
(8)製作 ························································· 高・長研‐12
(9)点検 ························································· 高・長研‐14
(10)第三者からの投票 ··········································· 高・長研‐14
(11)作品発表会 ················································· 高・長研‐15
第Ⅲ章
研究のまとめ
1
研究の成果 ······················································· 高・長研‐17
2
研究の課題 ······················································· 高・長研‐17
資料等 ······························································· 高・長研‐19
第Ⅰ章
1
研究の基本的な考え方
主題について
(1) 主題設定の理由
ア
福岡市立高等学校の現状から
本市には,市立高等学校は4校あり,a 高等学校は普通科及び家庭に関する専門学科を4学科,
国際に関する専門学科を1学科,b 高等学校は総合学科,c 高等学校は工業に関する専門学科を
6学科,d 高等学校は普通科を設置している。今までに学科改編や類・コース制の導入,学校規
模適正化等,市立高等学校の教育の活性化をめざし,改革の推進を図ってきた。
「新しいふくおかの教育計画」では,重点施策の一つに「市立高等学校の活性化」が挙げられ
ている。その中で,「進路意識の多様化,進学希望者の増加等社会的なニーズが変化しており,
各学校の特色を活かして中学校や保護者から必要とされる魅力ある高校づくり」や「工業科や家
庭科の専門学科では,企業がより専門的な知識や技能を求めるようになっており,地域の企業等
と連携した専門教育の推進等学科の教育内容の見直しや進路指導の更なる充実」が課題となって
いる。また,この施策を効果的に推進するため,「福岡市立高等学校活性化に向けた取組方針」
がまとめられた。
「福岡市立高等学校活性化に向けた取組方針」によると,活性化の方向性の一つとして「進路
実現を図り,多様なニーズに対応した教育を推進するため,教育に関するネットワークを強化す
る」とされている。この中で,重点取組の一つとして「大学・企業との連携」が挙げられている。
具体的には,「高大連携検討委員会」を設置し,「大学出前授業の充実,大学施設の活用」「教
員同士の交流」「キャリア教育での取組」「大学生,大学院生による授業支援」等の取組内容を
検討することである。
福岡市立高等学校4校は f 大学との間で連携協定を結んでいる。進路ガイダンス等での取組は
講師を招聘し実施されているが,出前授業や体験学習等の取組はそれほど多くなく,他大学と比
べて同程度である。f 大学では,今後福岡市立高等学校との連携の取組内容として,工業科科目
「課題研究」における課題設定での助言や発表会での評価を行うことや,外国人講師や留学生と
の語学に関する交流を行うこと,理学部と協力した理科教育の推進を図ること,部活動における
指導を行うこと等を検討することにしている。
各高校とも独自に高大連携教育に取り組んでいるが,大学の教育内容の説明や高校主催の進路
ガイダンスでの講師招聘等単発的なものが多く,高校の学習内容に関する高大連携教育の取組が
非常に少ない。このことから,生徒が主体的に取り組み,継続性をもった高大連携教育の内容を
検討する必要があると考えられる。
イ
全国の高大連携教育の取組から
高大連携教育は,平成 11 年 12 月の中央教育審議会の「初等中等教育と高等教育の接続の改善
について」で,高等学校教育と大学教育の円滑な接続について答申されたことに始まる。それま
では,高等学校と大学の接続は,学生の選抜に関するものがほとんどであった。しかし,高校生
の大学への進学率が上昇してきたことや,高等学校や大学の教育内容が多様化したことで,大学
へ進学する学生の能力等も多様化し,選抜以外内容でも連携することが求められるようになって
きた。また,この答申では連携の具体的な取組例として,高校生が科目等履修生等で大学の講義
高・長研‐1
4500
を受講して一定の成績を修めた場合は高
4000
校の単位として認定されること,キャン
3500
パス見学会や模擬講義等に参加すること,
3000
高等学校関係者と大学関係者の情報交換
2500
等が挙げられており,全国に取組が広が
るきっかけとなった。当初は,大学の情
2000
報は,偏差値や大学のネームバリューが
1500
ほとんどだったため,生徒は「行ける」
1000
大学を選択し,合格したとしても大学の
500
1094
2302
3877
4123
教育や研究の内容が合わず,学習意欲を
平成12年
平成15年
平成18年
平成21年
失うこともあった。そこで,大学が高校
0
図-1
高大連携の実施学校推移(校)
(文部科学省)
生に教育内容等の情報を提供し進路選択
の材料を与える目的で,体験入学やセミ
ナーの参加や研究室見学が一部の大学で
始まり,現在は公立,私立を問わず多くの学校で模擬講義や出前授業,高等学校の学習内容に関
する指導・助言等の様々な取組が行われている(図-1)。
文部科学省が平成 20 年 12 月に発表した「学士教育課程の構築に向けて」では,「高等学校段
階から科目等履修生として大学の授業科目を履修させること」及び「大学進学後に既修得単位と
して認定を受けること」が,「生徒の能力の伸長を図る上で有効」と分析している。さらに,
「専門的な知識や技能の効果的な向上を図る観点から,専門高校等と大学が連携して,学習の連
続性に配慮した高大連携を推進することも望まれる」とある。これは,生徒にとって,大学の高
度な知識や技能に触れることにより,進路選択や現在学習している知識や技能を定着,深化する
ことに対して有効であると考えられる。
以上より,福岡市立高等学校活性化のためには,大学と連携して生徒の学習内容に深く関連し,
継続的に行う高大連携教育が必要であると考える。そのため,本研究で「ものづくりバトル」を
実施することを通して,生徒の知識や技能を高め,市立高等学校の活性化のために十分貢献でき
るものであると考え,本主題を設定した。
(2) 主題及び副主題の意味
ア
「専門的な知識や技能」とは
国語,数学,理科,社会等の普通教科に対し,農業,工業,商業,水産,家庭,看護等の産業
に直結する教科を「専門教科」という。特に専門教科が置かれた高校を「専門高校」といい,そ
れぞれの分野のスペシャリストを養成する場として,重要な役割を果たしている。本研究では,
専門教科のうち,「工業」に関する教科に焦点を当て,工業に関する知識や技術のことを指す。
イ
「高大連携教育」とは
高校生が大学を訪問し,オープンキャンパスに参加すること,学内で開講されている公開講義
を受講すること,または,大学教員が高校へ出向き,出前授業や学校説明を行うこと,さらに,
大学教員と高校教員同士で研修会等を実施することである。1999 年に中央教育審議会が「初等
高・長研‐2
中等教育と高等教育との接続の改善について」を答申して以降,「高大連携の取組は一気に拡大
した」(大滝,2013)。1990 年代より各地で行われてきた高大連携教育は,「高校と大学が連
携して行う教育活動」とされ,その目的として,「高校教員の能力や大学教員の高校に対する理
解の向上」「生徒の知識や技能のさらなる深化,進路意識の向上」「大学や高校の活性化」等さ
まざまである。高校側としては,大学の情報が手に入り,生徒の将来を見据えた進路に関する意
識付けを早期に行うことができる。大学側としては,高校へ情報を提供することにより,高校生
の大学に対するイメージと大学の教育・研究内容とのミスマッチを解消することに有効である。
これは,高大連携教育は高校生にとって,進路選択の動機づけとなるだけでなく,知識や技能を
向上させる上で大変有効な手段であると考えられる。
ウ
「工業科科目『課題研究』」とは
工業科科目「課題研究」は,各専門学科に設定されている科目である。通常は,普通高校の
「総合的な学習の時間」の代替科目として設定されていることが多い。この科目の目標は,「工
業に関する課題を設定し,その課題の解決を図る学習を通して,専門的な知識と技術の深化,総
合化を図るとともに,問題解決の能力や自発的,創造的な学習態度を育てる」ことであり,学習
内容としては,「作品製作」「調査,研究,実験」「産業現場等における実習」「職業資格の取
得」の4項目で構成している。本研究では,4項目の学習内容のうち,「作品製作」に焦点を当
て,前述の目標の達成を図ることとする。
エ
「大学生との『ものづくりバトル』」とは
高校生は専門科目に関する基本的な学習内容,電子情報科であれば電子回路素子の名称や使用
方法,回路の計算方法等習得している。工業高校において,知識や技能を高めるためには,「も
のづくりなどの体験的学習を通して実践力を育成する」(高等学校学習指導要領解説:工業編)
ことが必要であると考えられる。また,大学との連携を考えたとき,出前授業等のような多くの
取組で行われている,「大学生や大学教員に教わりながら」というスタイルは,生徒が「受け身」
での参加になりやすいため,主体的な学習を促す取組を行う必要があると考えた。そこで,両者
に使用する部品やその個数等,条件を指定した課題を提示し,それぞれが創意工夫をこらした作
品を製作する「ものづくりバトル」を検討した。作品を完成させた後,文化祭等に展示し,第三
者により機能面や技術面等について評価してもらうことや,お互いが工夫したところや特徴を発
表し意見交換する場の設定,大学教員による指導・助言を行うことを指す。
2
研究の目標
工業科科目「課題研究」における大学生との「ものづくりバトル」を通して,生徒の専門的な知識
や技能を高める高大連携教育の考察を行い,一方途を示す。
3
研究の仮説
工業科科目「課題研究」の時間において,高校生が大学生との「ものづくりバトル」を以下の視点
で行えば,生徒の専門的な知識や技能を高める高大連携教育の一方途を示すことができるだろう。
○
条件設定における作品製作
○
第三者による作品の投票審査
高・長研‐3
○
生徒と大学生の意見交換
○
大学教員による作品の指導・助言
4
研究の構想
(1) 高大連携教育に関する実態把握・検討
ア
市立高等学校の高大連携教育に関する調査
イ
他自治体高等学校の高大連携教育に関する調査
ウ
実態分析に基づく連携内容の検討
(2) 連携内容の実践
ア
高校生と大学生へ製作テーマ及び条件の提示
使用する部品やその数量等の製作条件を設定し,高校生は,「課題研究」の時間を,大学生は
空き時間を利用して創意工夫をこらした作品を製作する。
イ
第三者による作品の投票
製作した作品を文化祭等に展示し,市民等の第三者により機能面や技術面について評価を行っ
てもらう。
ウ
作品についての意見交換
製作した作品について,プレゼンテーションソフト等を利用して,お互いが工夫したところや
特徴等を発表し意見交換する。
エ
大学教員による作品に対する指導・助言
大学教員は,それぞれの作品について指導・助言を行う。
(3) 連携内容の考察
今回実施した連携内容について,生徒の専門的な知識や技能が高まったか,また実施形態の有効
性について生徒の発表やインタビューで明らかにする。
高・長研‐4
5
研究構想図
生徒の専門的な知識・技能を高める高大連携教育
ものづくりバトル
生
評
徒
価
・大学教員による作
品に対する指導・
助言
の
知
・第三者による投票
識
や
技
能
製作・発表
の
・意見交換
・作品製作
・材料の特性調査
・作品の計画立案
高
ま
準
り
備
・製作条件を設定
・製作テーマの決定
・連携先大学選定
高大連携教育の実態
福岡市立高等学校,他自治体高等学校
高・長研‐5
第Ⅱ章
1
研究の実際
研究の概要
高大連携教育の取組として,下記の手順で取組を行った。
4月~5月
本市,他自治体高校の事例調査
9月中旬:連携内容の打合せ
・目的
・対象
6月
・製作テーマ
連携する大学の検討
・製作期間
・製作条件
・活用予定
9月下旬~11 月中旬
作品製作
11 月中旬:投票の打合せ
・展示場所
・評価方法
11 月下旬
第三者による投票
11 月下旬:作品発表会の打合せ
・目的
・期日
12 月上旬
・会場
作品発表
・日程
意見交流
大学教員からの指導・助言
2
高大連携教育の実態と考察
(1) 高大連携教育の取組内容
高大連携は,全国で多く取り組まれている。連携内容を見てみると,出前授業や体験学習,公開
講座,SPP,SSH等の取組が見られる。
ア
出前授業・授業体験・公開講座
出前授業は,大学の教員を高校へ講師として招き大学の基本的な内容を講義してもらうことで
ある。体験学習や公開講座は,高校生が大学へ出向き,実際に大学生が受講する講義に出席する,
もしくは大学生とは別に受講することにより,大学という新たな学びを知ることである。これら
の取組は,普通科を中心にほとんどの高校で見られ,進路指導の一つとされている。比較的高大
連携教育の取組として始めやすいが,多くの場合,年1回程度しかなく,内容の深化や継続性を
もたせることが難しい。大学の教育内容の説明や進路ガイダンスは,大学側から一方的に情報提
供が行われる場合が多く,高校生の興味関心とかみ合っていないという現状もある。
イ
SPP,SSH
SPPは,高校を含む学校等と大学・科学館等と連携して「科学技術,理科,数学に関する観
高・長研‐6
察,実験,実習等の体験的・問題解決的な学習活動を支援」(理数学習支援センター)する制度
である。例えば,長野県松本工業高等学校では,早稲田大学先進理工学部応用物理学科や明治大
学理工学部電気電子生命工学科等と連携する取組を行っている。三重県立津工業高等学校電子科
3年生では,課題研究の授業において日本大学理工学部精密機械工学科と連携する取組を行って
いる。SSHは,「学習指導要領によらないカリキュラムの開発・実践や課題研究の推進,観
察・実験等を通じた体験的・問題解決的な学習等の支援」(文部科学省)のように,先進的な理
数教育を実施する制度である。この制度には,理数教育においてカリキュラムを開発することや,
実験や観察等の問題解決の支援を行う取組もある。例えば,福岡県では,明治学園中学高等学校,
福岡県立小倉高等学校,福岡県立城南高等学校,福岡県立香住丘高等学校,福岡県立嘉穂高等学
校,福岡県立八幡高等学校,福岡県立鞍手高等学校,福岡県立明善高等学校,福岡県立東筑高等
学校の9校が指定され,近隣大学の講演会に参加することや体験学習に参加する取組を行ってい
る。SSHの制度を利用した高大連携教育では,大学等と学習内容での連携が行いやすくなるた
め,生徒の質の高い学びにつながると考えられる。一方で,活動が大掛かりになることや,授業
時間外での活動を考慮しなければならない等の負担が懸念される。
ウ
学習支援,技術指導,実験実習の支援
工業高校等の職業に関する学科等を中心に取り組んでいる内容で,課題研究での学習支援やそ
れに対しての大学教員による指導・助言,技能検定等の技術指導,実験実習の支援が行われてい
る。例えば,長野県松本工業高等学校では,課題研究で制御の基礎を習得するため,長野県工科
短期大学校と高大連携教育の取組で実習授業を受けている。青森県立弘前工業高等学校電気科で
は,2年生が技能検定の技術向上をめざし,ポリテクセンター青森の電気エネルギー制御科と高
大連携教育の取組で技術交流を行っている。このような先行研究では,次のよさが見られる。
○
それぞれの科の専門分野と学部の教育内容が似ていることにより取り組みやすい。
○
学習支援や技術指導,実験実習には,希望して参加するため意欲的に活動する生徒が多い。
○
大学生や大学院生が補助として参加することが多く,生徒との交流の中で,互いに「高校
生には負けられない」という気持ちが醸成される。
○
生徒に教えたいという思いが,大学生や大学院生にとって知識や技能を向上させるよい機
会になる。
○
生徒は,大学で学習した内容を高校の授業の中で生かすことで,知識や技能が定着し学習
意欲もより向上する。
以上の分析により,このような「学習支援」「技術指導」「実験実習の支援」は,高大連携教育
にとって有効な取組であると考えた。
(2) 本市における高大連携教育の現状
各校の高大連携教育の取組について現状を調査した。
ア
a 高等学校の現状
a 高等学校での高大連携教育の取組状況を資料-1に示す。他の3校と比べて取組内容が多く,
学科独自の取組もみられる。大学を見学することや,説明会に参加することはほぼ全員が対象と
なっている。学科によっては,大学から講師を迎えて専門的な内容に関して講演会を実施してい
る。その他,大学の連携協議会に参加する,大学主催の大会へ教員が審査員として参加する,高
校生が大会へ参加する,帰国子女の高校生への指導で大学生をサポータとして依頼する等の取組
がみられる。専門教科の学習内容に関する取組は,講演会の出張講義にとどまっている。
高・長研‐7
資料-1
内容
進路ガイダンス
(見学及び
大学説明会)
出張講義
a 高等学校の高大連携の取組(平成 25 年度)
大学
対象
時期
聖マリア学院大学
第一薬科大学
筑紫女学園大学
1年生全員
7月
福岡大学
1年生普通科
5月
西南学院大学
福岡大学
2年生全員
中村学園大学
西南学院大学
中村学園大学
聖マリア学院大学
純真学園大学
福岡国際大学
西九州大学
福岡工業大学
3年生全員
九州国際大学
久留米大学
福岡女学院大学
筑紫女学園大学
宇部フロンティア大学
九州産業大学
西九州大学 等
中村学園大学短期大学部幼
希望者
児保育学科
その他
7月
6月
7月
「先生になるために」,授業
参観の受け入れは9月
香蘭短期大学
服飾デザイン科
ファッションに関する講演会
西南学院大学
保育福祉科
福祉に関する講演会
高大連携の協議会に参加 中村学園大学
教育実習生の受け入れ
西南学院大学
福岡大学
日本語弁論大会へ審査
九州大学
員として職員の派遣
中国語暗唱大会への参加 福岡国際大学
大学生サポータを受け入れ
イ
福岡女学院大学
九州産業大学
国際教養科の生徒4名
帰国子女
帰国子女の指導を依頼
b 高等学校の現状
b 高等学校での高大連携教育の取組状況を資料-2に示す。一般的に,総合学科では,自分の
能力や適性に応じて学習したい科目を選択できるが,この高校では,大学進学に焦点を当てた科
目を選択するようになっている。1年生において,科目「産業社会と人間」で大学をはじめ専門
学校等から講師を迎えてキャリア教育に取り組んでいる。2年生や3年生では,進学を見据え進
学ガイダンスや入試説明会を行っている。高大連携教育の取組が科目で取り扱われているのは,
この高校のみである。
資料-2
内容
b 高等学校の高大連携の取組(平成 25 年度)
大学
西南学院大学
福岡大学
中村学園大学
対象
時期
3年生全員
1学期
進路ガイダンス
2年生全員
1月
キャリア教育
1年生全員
入試説明会
高・長研‐8
その他
大学就職課より講師を依頼
科目「産業社会と人間」で大
学より講師を依頼
ウ
c 高等学校の現状
c 高等学校での高大連携教育の取組状況を資料-3に示す。1・2年生の進学希望者に対し,
年度末に進学ガイダンスを実施している。また,教育実習生の受け入れ等も行っている。平成
26 年度以降に,一部の学科と部活動でサイエンスパートナーシッププログラム(以下:SPP)
が検討されているが,大学との連携は全校的な取組となっていない。また,専門教科の学習内容
に関する取組も少ない。
資料-3
c 高等学校の高大連携の取組(平成 25 年度)
内容
大学
進学ガイダンス
福岡大学
九州産業大学
福岡工業大学
福岡女学院大学
教育実習生受け入れ
福岡教育大学
SPP
久留米工業大学
福岡大学
エ
対象
時期
その他
1・2年生進学希
3月
望者
自動車工学科3年及 平成 26 年
び省エネルギー研究 度以降で検
部計 10 名以上
討中
d 高等学校の現状
d 高等学校での高大連携教育の取組状況を資料-4に示す。2年生で「スタディツアー」とし
て,学年8クラスを2クラスずつ4グループに分け,それぞれのグループが私立大学と公立大学
それぞれ1校ずつ午前と午後にバスで訪問し模擬授業を受けて大学での学びを体験する。3年生
では,放課後に1~1.5 時間使い入試説明会を1週間実施している。また,部活動でのSPPの
取組が平成 25 年度から行われている。さらに,スーパーサイエンスハイスクール(以下:SS
H)の取組を検討中である。現在,生徒の学習意欲や学力を効果的に向上させるために,SPP
やSSHを,カリキュラムの中にどのように位置付けるのが望ましいか等が検討されている。
資料-4
内容
スタディツアー
(大学めぐり)
入試説明会
d 高等学校の高大連携の取組(平成 25 年度)
大学
九州大学
福岡大学
西南学院大学
九州工業大学
佐賀大学
福岡教育大学
福岡工業大学
中村学園大学
九州大学
福岡大学
西南学院大学
九州工業大学
佐賀大学
福岡教育大学
福岡工業大学
中村学園大学
対象
時期
その他
7月
2クラス×4グループに分か
れて私立大学と公立大学1校
ずつ午前及び午後模擬授業を
受ける
3年生全員
6月
高校にておよそ1週間かけて
放課後(16:00~)1時間ま
たは 1.5 時間程度実施。大学
によっては文系と理系に分か
れる
2年生全員
等
等
SPP
九州大学
サイエンス同好会
九州大学カーボンニュートラ
8・11・12
ル・エネルギー国際研究所と
月
水素ガス自動車等の製作
進路講演会
桜美林大学
1年生全員
11 月
高・長研‐9
3
取組の実際
今回の高大連携教育は,小規模で,かつ深い専門教科の学習内容に関する取組をめざして研究を実
践した。
(1) 連携のポイント
高大連携教育「ものづくりバトル」を行う上で,大学との連携ポイントを4つとした。
○高校生と大学生が指定された条件を基に製作を行う
○第三者による作品の投票審査をする
○高校生と大学生は作品について苦労した点や特長等について発表し意見交換する
○大学教員はそれぞれの作品について指導・助言を行う
(2) 高大連携教育の協力大学の条件
今回,高大連携教育の取組に協力を依頼する大学の条件を次の5点とした。
○
高校との連携に協力的である
○
ものづくりのための施設や設備が充実している
○
研究協力高等学校から進学実績がある
○
ものづくりに関する研究室がある
○
学生のものづくりのスキルが高い
k 大学では,「ものづくりコンテスト」を開催している。また,情報ネットワーク工学科に所属
する m 研究室では,「ものづくり教室」を開催してロボットを製作する高校生を支援する等の取
組を行っている。また,この大学では,研究協力高等学校より毎年進学希望者がおり,条件を満た
しているため,この大学を高大連携教育の協力大学とした。
(3) 連携内容の協議
検討した連携内容「ものづくりバトル」において,製作テーマのルールについて協議を行った。
「クリスマスイルミネーション」においては,次の点を考慮し高校生のチームと大学生のチームに
分かれて製作することにした。
○
製作期間として9月 26 日(木)から 11 月 19 日(火)の 55 日間とすること
○
LEDは赤,緑,青の3色を各 100 個ずつ使用すること
○
LEDの点灯はマイコンで制御すること
大学と協議する中で,LEDの点灯の仕方が分かるよう土台を共通にすることや,LEDを複数
個使用して制御させるようオーナメントを製作すること等の項目を追加することにした。
○
土台は市販されているクリスマスツリーを使用し,形状を変化させない
○
LEDの配置は自由でオーナメントとして作成してよい
○
LEDやオーナメントはモータによる動作やセンサによる検知によるものとしてよい
(4) 取組内容の検討
高大連携教育の取組内容を検討するにあたり,学習内容の計画を行った(資料-5)。
高・長研‐10
資料-5
過程
生徒に対する学習計画
学習活動
留意させる点
課題設 定
○「ものづくりバトル」について概
要を知る。
○高校生と大学生が指定された条件を基に
「ものづくりバトル」の概要をつかませ
る。
作 業工 程 の 検 討
○作品の制作計画立案
○製作の一例として,他のイルミネーション
・作品の完成予想図
の写真等を見せて,完成予想させながらス
・LEDの点灯パターン
ケッチさせる。
・完成までの作業工程
○作業工程やグループ分け等の話し合いを行
○製作グループ分け
う場面では,司会や記録を決めさせ主体的
・配線を行うグループ
に活動させる。
・プログラムを考えるグループ
○教科による関連
○配線のグループでは,はんだ付けや絶縁方
・教科書やノートの見直し
法が失敗するとLEDが点灯しないので,
○専門書及びインターネットの活用
・プログラミングの命令や電子回
調査
路素子特性の調査
要領を説明し練習させる。
○プログラムのグループでは,命令の意味等
を説明し,1個のLEDの点灯制御から
徐々に制御するLEDの個数を増やしてプ
ログラムの書き方を理解させる。また,非
常に多くのLEDを制御できる「マトリク
ス点灯制御方式」へ応用させ生徒が考えや
すいようにする。
○作品の製作
○配線のグループでは,ツリーに取り付ける
・配線を行うグループは,考えた
際にプログラムで使用するよう決めた端子
配線パターンをもとに配線を行
に間違えないように配線させる。この時,
う
断線させたりしないよう注意させる。ま
製作
・プログラムを考えるグループ
は,構成をもとにプログラムを
作成する
た,配線に使用した電線は,外から見えな
いように隠させる。
○プログラムのグループでは,先に説明した
「マトリクス点灯方式」の内容をもとに複
雑な点灯パターンを考えさせる。また,点
灯パターンの数を5種類程度考えさせる。
○作品の点検
○配線のグループでは,配線したLEDが全
点検
・ツリーですべてのLEDがマイ
コンに接続され点灯状況を確認
する
て点灯しているか確認させる。
○プログラムのグループでは,点灯パターン
が考えた通りに実行されているか確認させ
る。
高・長研‐11
(5) 課題設定
高校教員は生徒に,条件に沿った作品製作を課題として与え,その課題に対してどのように解決
していけばよいかについて考えさせた。
(6) 作業工程の検討
資料-6
完成予想図の作成
生徒は,300 個のLEDを使用することやその
点灯制御方式や製作期間等の課題を解決するため
次のような計画について話し合いを行った(資料
-6)。
○作品の完成予想図
○LEDの設置場所や設置間隔
○LEDの点灯パターン
○班員の役割
○55 日間の作業工程
(7) 調査
ア
配線を行うグループ
LEDは,流す電流の大きさにより光る強さが異なるので,生徒は適切な光の強さになるよう,
電源装置やブレッドボードを用いて,直列や並列等の接続の仕方や個数を変えながら,適切な電
流の量を調査した。
イ
プログラムを作成するグループ
生徒は,コンピュータで作成したプログラムを使って装置や部品を動作させる経験が少なく,
また,マイコンのプログラムについて知識が乏しいため,専門書や教科書,インターネットを活
用して命令の意味やプログラムの構成の仕方を調査した。
(8) 製作
ア
配線を行うグループ
LEDはツリーの枝の先端に飾り付けるため,2本ある端子にそれぞれ電線を接続し,配線し
やすくした(資料-7)。その際,電線を端子に接続するときにうまく作業が進まない生徒が多
く,高校教員が端子に電線を巻きつけるように
資料-7
はんだ付け作業
接続する方法を実演して説明したところ,生徒
の作業効率が上がった。また,2つの端子同士
は非常に間隔が狭く,端子同士が接触して電流
を流すとショートする恐れがあった。高校教員
は,熱を加えると収縮するビニル素材のチュー
ブを端子に取り付けることにより,端子同士が
接触しないよう実演しながら説明した。生徒は,
最初は熱の与え方が不十分でチューブが収縮し
なかったり,逆に熱を与えすぎてLEDが点灯
高・長研‐12
しなくなったりしたが,生徒同士で教えあっ
たり高校教員が指導することにより,手早く
資料-8
ツリーに配線
作業ができるようになった。当初,LEDは
複数個を並列接続して点灯する予定だったが,
プログラムを製作するグループが1個単位で
の点灯制御の仕方を作成できることになり,
配線をマイコンの端子に合わせて行った。ツ
リーに配線する際は,断線しないよう生徒が
互いに注意深く作業を行った。電線は外側か
ら見えにくいよう配線したが,電線の長さを
間違えた個所があったため,一部隠れない部
分があった(資料-8)。
イ
プログラムを作成するグループ
クリスマスツリーとしてどのような点灯パターンがきれいに見えるかを生徒同士で話し合った
(資料-9)。その結果,色を交互に並べて
順番に点灯させる,1個おきに交互に点灯さ
せる,全てを一定時間おきに点灯と消灯を繰
資料-9
点灯パターンの話し合い
り返す等のパターンを組み合わせるときれい
に見せることができるのではないかという意
見が出た。高校教員は,LEDを点灯及び消
灯するプログラムを生徒に理解させるため,
1個の制御から始め,2個の場合,3個の場
合と個数を増やしながら,プログラムの命令
の使い方等を実演しながら説明した。生徒は,
命令の使い方やプログラムの考え方を理解し
て,個数を増やしながら1個おきに点灯制御
したり,すべてを一定時間おきに点灯,消灯
資料-10
プログラム開発
を繰り返したりするプログラムを作成するこ
とができるようになった。しかし,300 個の
LEDを制御するにはマイコンの台数が多く
なることが分かった。生徒はより少ない台数
で制御する方法を話し合い,LEDの端子を
格子状に配線することにより,使用するマイ
コンの端子の数を節約できる「マトリクス点
灯制御方式」でプログラムを作成することに
した。生徒は,この点灯方式の原理を教科書
や高校教員に尋ねる等して理解し,応用させ
て点灯制御プログラムを作成できた(資料-10)。マイコンの台数は3台使用することとし,ツ
リー上部の飾り,ツリーの横向き,ツリーの縦向きのプログラムを作成した。
高・長研‐13
(9) 点検
資料-11
ツリーに取り付けたすべてのLEDが点灯する
点灯点検
か確認を行った(資料-)。配線のグループでは,
配線したLEDがすべて点灯しているか点検した。
全体的に見ると点灯しているように見えたが,詳
しく見るといくつかは点灯していなかったため,
生徒が配線を調べると断線しているものがあった。
はんだ付けをし直すと点灯するようになった。プ
ログラムを作成するグループは,点灯パターンが
設計したとおりに実行されているか点検した。点
灯は設計したとおりに点灯した。
(10) 第三者からの投票
生徒及び大学生が製作した作品について,学外に展示して市民等の第三者から評価を受ける場を
設定した。
ア
展示の概要
展示日時
11 月 21 日(木)~24 日(日)、11 月 29 日(金)
展示場所
福岡市役所 1 階、c 高等学校職員室
評価の視点
○工夫を凝らした飾り付けであるか
○イルミネーションとして点灯のパターンが工夫されているか
○総合的に見てどちらがよいか
○2つの作品の具体的な感想(記述式)
資料-12
投票用紙
資料-13
投票を呼び掛けるポスター
なお,作品のそばには投票用紙(資料-12)を設置し,投票を呼び掛けるポスター(資料-13)
を掲示した。
高・長研‐14
イ
投票結果について
資料-14
c 高等学校内での展示
作品に対する意見については,A(高校)は
派手,華やか,点灯パターンがきれい等の「見
た目」の感想が中心で,B(大学)はマラカス
を振ると,猫の顔を模した飾りの点灯パターン
が変わるのが面白い等の「アイディア」の感想
が中心であった。
(11) 作品発表会
生徒と大学生が,共通のテーマで製作した作品
について,工夫したところや特徴を発表し意見交
換する場を設定した。
資料-15
ア
生徒の発表用スライド
作品発表会の概要
作品発表会は,製作に関する工夫点や特徴をプレゼン
テーションソフトを使用してそれぞれ 10 分程度で発表
すること,お互いの発表の内容や作品の出来具合で疑問
に思ったこと等を質問しあうことを行った。日時は,12
月2日(月)13:00~13:45,場所を研究協力高等学校
実習室とした。
イ
製作に関する工夫点や特徴の発表
生徒は,LEDをマイコンで制御する原理や,プログ
ラムの構成,LEDの接続の仕方などをアニメーション
や写真などを交えて発表した(資料-15)。生徒の発表
の後には,大学生の発表も行った(資料-16)。生徒は,
大学生の説明をメモをとりながら一生懸命に聴いていた。
ウ
意見交換
お互いの発表を行った後,生徒や
資料-16
大学生は 15 分程度の時間で疑問に
思ったことや知りたいことを話し合
った。生徒は,それぞれが疑問に思
ったことや知りたいことを,作品を
見たり発表の内容をメモをとりなが
ら考えていた。生徒は,「大学生が
使用したプログラムは自分でも扱え
るようになるのか」や「きれいに見
える配線とするにはどのようにした
高・長研‐15
大学生による説明
らよいか」などの質問を行った。大学生からは,「LabVIEW は C 言語を理解できれば簡単に扱う
ことのできるプログラム」や「LEDのカソードは幹の部分に集めてアノードは別に集約すると
きれいに配線ができる」等の技術に関する回答を得た。
エ
大学教員からの指導・助言
研究協力大学の2人の大学教員より,生徒
資料-17
大学教員からの指導・助言
や大学生の作品や発表に関して指導・助言を
していただいた。生徒に向けて,「一生懸命
さが伝わった」や「チームワークでハード面
やソフト面にバランスよく取組み,動作が安
定している」等の評価をいただいた。一方で,
「コンセプトをはっきり出した方が良い」や
「制御用のボードについては自作するとより
面白い」等の指導・助言があり,生徒はそれ
を興味深く聞いていた(資料-17)。
オ
生徒及び大学生の感想
作品発表会後,生徒と大学生にインタビューを行った。
【生徒の感想】
クリスマスツリーを作るこということで,プログラミングを任されました。
プログラムの知識がゼロから,先生に夜遅くまで教えてもらったり,自分で教科書を見た
りして,知識を埋めていって,なんとか完成できたので,本当に良い経験になりました。
今回,高大連携ということで,大学側に来てもらって,話をいろいろ聞かせてもらっ
て,大学側が使っている LabVIEW というすごい技術と知りました。
僕たちが使っている Arduino マイコンは,一つ一つキーボードを叩いてプログラミン
グしていたのですが,LabVIEW は,規格化してブロックとブロックをつないで,プログラ
ミングをやっていたので勉強になりました。
【大学生の感想】
最初は,コンセプトを固めることに結構苦労しました。そのコンセプトをどう実現して
いくかというのも色々苦労しましたが,今思えば本当にいい経験だったと思います。普通
の学校生活で過ごしていてもこういう機会はなかなかいただけません。高校生とこのよう
な機会があった方が,今 3 年生なのですが,自分の将来の就職先にも希望がもてるのでは
ないかと思いました。
生徒の感想から,「プログラムの知識がゼロ」という自覚のもと,自ら「知識を埋め」,
LabVIEW のプログラミングに至るというように,生徒の専門的な知識が大学生との意見交換を通
して,徐々に高まっていっていることが分かる。このことから,製作したクリスマスツリーの特
徴を交流させたことは,生徒が専門的な知識を高める上で有効であったと考えられる。
高・長研‐16
第Ⅲ章
1
研究のまとめ
研究の成果
工業高校で実施されている科目「課題研究」の時間において,生徒の専門的な知識や技能を高める
ために,高校生と大学生がものづくりで「競い合う」「意見交換する」「第三者から評価や指導助言
を受ける」等の高大連携教育の取り組みを行い,考察した結果,次のような成果が得られた。
(1) 小規模な組織において高大連携教育が可能である
工業科科目「課題研究」は,1クラス約 40 名の生徒を5班に分け,それぞれの班で作品製作や
実験等に取り組む授業である。1班あたり約8名の生徒に対し,1名の教員が担当し,少人数で取
り組んでいる。今回は,この少人数に分かれた1班を利用して研究に取り組んだ。通常,高大連携
教育を行おうとすると,大学の授業担当者や高校の引率担当者以外に,事務を担当する教員または
職員にも連絡をする必要がある。ところが,授業を担当する大学教員と引率を担当する高校教員の
数名からなる小規模の組織で行うと,直接打ち合わせや連絡をしやすく,事務処理の負担も軽減で
き,連絡等も短時間で行うことができた。また,遠隔地でもインターネット会議等を活用すれば,
いつでも打ち合わせや連絡を行うことができる。このことは,生徒を校外へ引率する必要を減らし
たり,高校教員や大学教員の打ち合わせや連絡等での出張の回数も減らしたりすることにつながり,
実践に移す際の大きな利点となる。以上のことより,小規模な組織において高大連携教育が可能で
あることから,高校内で複数の学科がそれぞれの大学と同時並行して実施できると考える。
(2) 「ものづくりバトル」が生徒の知識や技能を高める方法の一つとなりうる
今回の研究では,「受け身」ではない「バトル」,つまり「競い合う」というスタイルを仕組ん
で取り組んだことにより,生徒自身が「学ばなければ」という主体的な心構えで,専門書等でプロ
グラムに関して調べたり,効率的に配線作業を行う方法を話し合ったりする等,主体的に学習に取
り組む姿がみられた。さらに,作品発表会では,生徒が自分たちの取り組んだ作品の製作について,
工夫した点や特徴等を図や写真,動画等を用いて分かりやすく説明するよう努力する姿も見られた。
意見交流では,高校生が配線やプログラムで不明な点や疑問に思ったことを積極的に大学生に質問
する姿が見られた。このことは,学習指導要領の「課題研究」に掲げられている目標「専門的な知
識と技術の深化,総合化を図るとともに,問題解決の能力や自発的,創造的な学習態度を育てる」
ことを達成するための手立ての一つとして,「競い合い」という手法が,生徒の知識や技能を高め
る上で有効に作用し,効果が得られたと考える。
2
研究の課題
(1) 「クリスマスイルミネーション」製作以外で「競い合う」内容を検討すること
今回の研究では,「クリスマスイルミネーション」の作品製作に取り組んだ。使用した主な部品
は,LEDとマイコンの2種類であり,電子情報科の学習内容としては基本的な内容であった。他
に考えられる競い合いの内容として,この内容を応用させて,例えば,センサを搭載し障害物を避
けて進んだり,無線通信で制御するロボットの製作等での競い合いが考えられる。他の科で考えら
れる競い合いの取組例としては,機械系では,決められたテーマにおいて旋盤作業で作品を製作し,
その精度での競い合いや,自動車整備や機械整備での競い合い,建築系では,橋梁や建物の模型を
製作し,その出来具合や強度試験での競い合い,家庭科では,決められた食材を生かした料理での
競い合いや,テーマを決めたファッションショーでの競い合い等が考えられる。普通科では,化学
高・長研‐17
分野での実験等,英語分野でのスピーチコンテストでの競い合い等が考えられる。
(2) 高大連携教育が可能な大学を教員同士で情報共有すること
高校教員が,高大連携教育が可能な大学教員を探し出し,連携を申し入れて実践まで行うことは,
その方法を知る同僚や資料が少なく,なかなか容易ではない。高大連携教育を検討したい大学があ
ったとしても,協力できる研究室や,取り扱うことのできる内容,実際に活動するまでの打ち合わ
せの内容や回数,時期等,高校教員が「分からない」と感じる内容が多い。これには,大学の担当
教員と打ち合わせた内容や回数,時期等,実施した情報を高校教員が蓄積していき,教務や進路指
導にあたる担当部等の教員が,年度や学科等で集約してガイドブック等にしておくと便利ではない
かと考えられる。また,大学においても高大連携教育に関して,研究室や取組内容をリーフレット
等にしておくことは,高校教員に非常に有益な情報となると考えられる。このことにより,どの教
員でも高大連携教育に取り組みやすくなり,高大連携教育が校内全体,さらには他校へ広げること
ができると考えられる。
高・長研‐18
資料等
引用文献
1
大滝夏美
「高校生の進路選択に関する志向性と今後の高大連携施策のあり方について」
P17
立命館大学 HP
<http://www.ritsumei.ac.jp/acd/ac/itl/outline/ki
yo/kiyo13/02_ootaki.pdf>
2
文部科学省
「高等学校学習指導要領」
(平成 25 年)
P136
(平成 21 年)
参考文献
1
福岡市教育委員会
「福岡市立高等学校活性化に向けた取組方針」
福岡市教育委員会
(平成 24 年)
2
文部科学省
「高等学校教育」ホームページ
文部科学省
(平成 24 年)
3
文部科学省
「高等学校学習指導要領」ホームページ
文部科学省
(平成 25 年)
4
国立教育政策研究所
「国立教育政策研究所紀要第 138 集」
名取
(平成 21 年)
5
独立行政法人科学技術振興機構
「サイエンスパートナーシッププロジェクト」HP
p/cpse/spp/>
6
一好
<http://www.jst.go.j
(平成 25 年)
独立行政法人科学技術振興機構
「スーパーサイエンスハイスクール」HP
<https://ssh.jst.go.jp/>
(平成 25 年)
研修員
植
田
隆
夫
(博多工業高等学校教諭)
昭
(研究支援課
研究指導者
長
﨑
主任指導主事)
高・長研‐19