解析学特論@神戸大学理学部数学科・可積分系 A@神戸大学 - So-net

2005 年度前期
神戸大学集中講義 講義メモ (暫定版)1
桑野泰宏2
http://www2.suzuka-u.ac.jp/quanoy/quano.htm
email: [email protected]
1
2
神戸大学理学部・神戸大学大学院自然科学研究科, 2005 年 5 月 30 日{6 月 3 日.
〒 510-0293 三重県鈴鹿市岸岡町 1001-1 鈴鹿医療科学大学臨床工学科
2
はしがき
本書の主題は , 「 8 頂点模型の相関函数と形状因子」であり, 8 頂点模型を例にとって可解格子
模型に関する諸物理量を計算する方法を解説するのがその目的である. ここで, 可解格子模型
の数学的に厳密な定義はない . ただ , いくつかの具体例と多少の結果があるだけである. 従っ
て, 他の多くの物理学の分野と同じ く, 一般論があるようでいて, その実いくつかの顕著で際
立った具体例の集合体が可解格子模型の理論を形成し ているのである . 個々の模型ご とに 異
なった工夫を要することも多く, たとえば 8 頂点模型では 6 頂点模型と同じような意味での代
数解析的な解法が確立しているわけではない. ただし , 多くの可解格子模型がその性質をもつ
ため, 本書では , Yang{Baxter 方程式の解から定義できる模型のことを可解格子模型と呼ぶこ
とにする.
ではなぜ可解格子模型を扱うかというと, それはもちろん面白いからだが , 表向きの理由と
してはそれを理解することが , 実際的な非可解の理論を理解するための手助けとなるから , と
いうのが模範解答である. 大学 1 年で講義される力学を思い出して欲しい. ここでは , 単振動
(r2 ポテンシャル) と惑星の公転運動 ( 1=r ポテンシャル) をかなりの時間を割いて教わるは
ずである. これら, 特に後者の問題が力学の重要な教材になっているのは , それが Newton 力
学誕生の原点であるからである. しかしそれは表向きの理由で, 教える立場からすればそれら
が数少ない可解な例だからである. 実際, 非可解な例は講義でも試験でも取り上げにくいのが
実情である.
さらに物理関連の専門学科に進むと, 量子力学で調和振動子 (r2 ポテンシャル) や水素原子
( 1=r ポテンシャル ) をかなりの時間を割いて教わるが , これらもまた可解な数少ない具体例
である. しかし ながら , その副産物として, 角運動量の量子化やスピンの合成など , 後々役に立
つ概念を学習することになるし , また摂動論など でも厳密にエネルギー固有値や固有函数が求
まる場合を知っておくことは無駄ではなかったと知ることになる.
さらに場の量子論に進むと, 粒子と波動の二重性は , 時空の各点に量子化された波動場をお
くことにより表現される. しかし それでは自由度が非可算無限個となって, 数学的に厳密な取
扱ができない. そのため, 時空を格子に切って, その各点に量子化された波動場をおいて , 自由
度を可算無限個にしたのが , 構成的場の量子論である. 可解格子模型は , 格子上の模型という
点で可算無限自由度の場の理論であり , その上で Yang{Baxter 方程式の解として特徴付ける
ことができるのである. 可解格子模型の代表選手とし て 2 次元 Ising 模型があるが , これ以外
にも臨界点直上の理論である共形場理論など が独自の可積分系の世界を形成している. 8 頂点
模型は , これら可積分系の世界の中心にいて, 他の可積分系模型と密接に関連している模型で
ある.
本稿は , 神戸大学において 2005 年 5 月 30 日から 6 月 3 日にかけて行われた集中講義の内
容に基づいている. この集中講義は, 神戸大学理学部数学科の「 解析学概論」と神戸大学大学
院自然科学研究科「可積分系 A 」を兼ねて行われた. 私が学生の頃は, 集中講義と言えば 最新
のトピックスを紹介するための授業, という性格があったように思う. しかし 一方で, 集中講
義を履修して単位を取ろうとする学生もいるので , 学部の 4 年生にも十分理解できる授業でな
ければならないとも考えられる. ついでに言えば , 私が学生の頃は講義が分からないのは学生
のせいとされていたように思うが , いざ 教える側に立ってみると, 授業評価が花盛りで , 講義
が分からないのは教員の教え方が悪いとされていて, いつの世も浮かばれない .
そんなことやら 受講者の予備知識など を考えながら集中講義の準備をしていたところ, 基
本的な説明にかなりの時間を要し , とても最新のトピックスを紹介する時間的余裕がないこと
が予想された. というわけで , 本書の内容にはほとんど オリジナリティーがない . 全然ないの
では申し 訳ないので , 最後の方に少しだけ自分の仕事の内容を付け加えたが , この部分は集中
講義では詳し く触れることができなかったことをお断りする. また, 集中講義では触れなかっ
たが , 数学科の学生が必ずし も熱力学に精通しているわけではないことに気付いたので , 付録
に「 熱力学をものすごい勢いで復習する試み」を挿入することにし た.
;
;
3
繰り返しになるが, 本書のもととなったのは , 神戸大学における集中講義のために準備した
講義ノートである. 神戸大学にお招きいただくにあたって大変お世話になった山田泰彦氏に感
謝し ます. また, 集中講義に先立って, 日程調整やシラバス作成など で中西康剛氏にお世話に
なりました. 集中講義期間中に暖かく迎えていただいた神戸大学大学院自然科学研究科・神戸
大学理学部数学科の方々, 特に, 野海正俊氏, 齋藤政彦氏, 樋口保成氏, 太田泰広氏, 増田哲氏に
感謝し ます. また, 事務スタッフの方々には各種の事務手続き等でお世話になりまし た. その
おかげで , あらゆる面で快適な神戸滞在ができたことを感謝し ます.
2005 年 6 月
桑野泰宏
Contents
1
可解格子模型 はじめの一歩
1.1 統計力学ことはじ め . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1.2 Yang{Baxter 方程式と可解格子模型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1.3 可換な転送行列と保存量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1.4 6 頂点模型から 8 頂点模型へ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
8
10
12
14
2 8 頂点模型と 8 頂点 SOS 模型
17
3
29
2.1 テータ函数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.2 8 頂点模型の導入 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.3 8 頂点 SOS 模型の導入 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.4 Tail operator の導入 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
A
ブート スト ラップ 解析
3.1 角転送行列 I|8 頂点模型の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3.2 角転送行列 II|SOS の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3.3 I 型頂点作用素と相関函数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3.4 8VSOS から 8V へ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3.5 II 型頂点作用素と形状因子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
ボソン化といくつかの結果
4.1 8VSOS の自由場表示 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4.2 8V への翻訳 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4.3 トレースの計算法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4.4 トレースの計算 II . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4.5 トレースの計算 III . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4.6 これまでのまとめといくつかの問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
付録
A.1
熱力学をものすごい勢いで復習する試み
5
18
22
24
26
30
32
35
37
39
41
42
44
45
49
52
54
55
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56
Chapter 1
可解格子模型 はじめの一歩
7
CHAPTER 1.
8
1.1
可解格子模型 はじ めの一歩
統計力学ことはじめ
この講義では , 2 次元格子上の統計力学模型を扱う1. 統計力学は , 巨視的な物理現象を微視的
な相互作用の協働現象として理解しようとする営みである. 鉄の磁性を理解する統計力学模型
に Ising 模型があるので , これを例に説明しよう.
Ising 模型では, 各格子点上にあるスピンがあり, その向きは + または である. 隣り合う
格子点 i; j におけるスピンの向きをそれぞれ i ; j とすると, i; j 間に
;
E(i ; j ) = ;J(i j ; 1); i ; j = (1.1.1)
のエネルギーが蓄えられる. この相互作用は局所的であり, 隣り合わないスピン同士は相互作
用しないものとする. このとき, 系全体のエネルギ ーは (1.1.1) の総和
E(fg) =
X
i;j
E(i ; j ) = ;
X
i;j
J(i j ; 1)
(1.1.2)
で与えられる. 統計力学における重要な量とし て, 次で定義される分配函数がある:
Z=
X
f g
e;E (fg)=kB T :
(1.1.3)
ここで, , T は系の温度である. 温度 T の熱浴において系のエネルギーが E の状態の Boltzmann
重率が e;E=kB T で与えられるので, 分配函数はあらゆる物理的状態 にわたる Boltzmann
重率の総和である.
fg
法則
1.1 (Boltzmann の原理) ある物理的状態 fg が実現する確率は
(fg) = Z1 e;E (fg)=kB T
に等しい.
(1.1.4)
fg
Boltzmann の原理は, 物理的状態 が実現する確率が Boltzmann 重率に比例すること
を主張している. また, 各物理的状態に対してその実現確率が与えられれば , 物理量 の期待
値は
hOi =
X
fg
O
O(fg) = Z1
X
f g
Oe;E fg =kB T
(
)
(1.1.5)
により定義される.
熱力学で現れる重要な物理量とし て, エントロピ ー S があるが , これは情報理論における
エントロピ ーに Boltzmann 定数 kB を比例定数とし て乗じたものとして定義される:
S = ;kB
ここで ,
X
f g
(fg) log((fg)):
(1.1.6)
log((fg)) = ;E(fg)=kB T ; logZ であるから, (1.1.6) と (1.1.5) とを合わせて ,
S = hET i ; kB log Z
(1.1.7)
1 この講義メモを作成するに当たり, [1, 2, 3, 4] を大いに参考にさせていただいた. 尚, 本稿の性格に鑑み, 講義録
や総合報告以外の原論文の引用は必要最低限に限ったので , ご了承いただきたい (関係各位).
1.1.
9
統計力学ことはじ め
を得る. 以後, 熱力学の通常の記法に合わせて , U
ぶことにする. Helmholtz の自由エネルギー F を,
ら , F と分配函数との間に,
= hE i と記し , これを内部エネルギーと呼
F = E ; TS 2により定義すると, (1.1.7) か
F = ;kB T log Z
(1.1.8)
の関係式が成り立つことが分かる. 熱力学における完全微分式
dF = ;SdT ; pdV
(p; V はそれぞれ系の圧力と体積) により直ちに
@F ;
p
=
;
S = ; @F
@T V
@V T
(1.1.9)
(1.1.10)
が得られ る. 尚, 上の第 2 式は , 状態方程式と呼ばれる f(p; V; T) = 0 の形の関係式を導く.
従って, 分配函数を計算することが , その物理系の解析にあたって重要なステップであること
が理解できたと思う.
ここまでは , 次元や格子の形状に関係ない話だが, 以下簡単のため J > 0 とし , 十分大きな
2 次元正方格子で周期的境界条件をつけて考える. このとき, ある格子点 i におけるスピンの
向き i は ど ちらの値を取りやすいだろうか . これに答えるには , i の期待値3
hi i := Z1
X
fg
ie;E (fg)=kB T
(1.1.11)
を計算すればよい.
エネルギーは解析力学や量子力学では Hamiltonian の固有値と考えるが , (1.1.2) はすべ
てのスピンを一斉に逆向きにしても不変である. し たがって, Hamiltonian の対称性により
i = 0 が直ちに従うように思える. しかし ながら, ある臨界温度 Tc より低温 T < Tc では
non-zero であることが知られている. これが鉄の強磁性の, 統計力学による理解の仕方である.
このように, 系の Hamiltonian のもっている対称性が系の物理的状態全体の集合 (Hilbert
空間) を不変にしないとき, 対称性が自発的に破れたという. 2 次元 Ising 模型では , すべての
スピンが + である状態とすべてのスピンが である状態の 2 つの基底状態が存在する. その
うち何らかの理由ですべてのスピンが + である状態が実現したとする. 温度 T = 0 では分配
函数 (1.1.3) への寄与うち, すべてのスピンが + である状態以外の寄与が無視できる. 次に, 温
度を T = 0 とし たとき, t = e;2J=kB T とし て, 分配函数は
h i
;
6
Z = 1 + N 2 t4 + 2N 2t6 + という摂動展開をもつ . ここで , N は正方格子の 1 辺の格子数である. 温度 T(したがって t)
を上げるに従って, 上の展開の高次の項が効いてくる. しかしながら展開の各項に現れるのは,
常に , 有限個のスピンが である状態のみである. このことは , 周期的境界条件で考える代わ
りに無限に大きな 2 次元格子上で考えたとき, Hilbert 空間の元とし て十分遠方では基底状態
と同じ (この場合スピンが +) もののみを考慮すればよいことを示唆する.
;
U (S;V ) から F (T; V ) への Legendre 変換である.
1 つの格子上の力学変数の期待値を 1 点函数という.
2 数学的には
3
ある
付録参照のこと .
CHAPTER 1.
10
可解格子模型 はじ めの一歩
1.2 Yang{Baxter 方程式と可解格子模型
次に格子模型が可解であるとはど ういうことか , 簡単に定義する. といっても数学的に厳密な
定義はない. ここではプラクティカルに, 分配函数や Sec.10 以降で定義する相関函数・形状因
子のような基本的な物理量の (一部でも) 解析的に閉じた表示が求まる場合, 格子模型が可解
であるということにする.
2 次元可解格子模型 (SLM) は , 知られている限り次の Yang{Baxter 方程式 (YBE) の解で
ある:
R12(u12)R13(u13 )R23(u23) = R23(u23)R13(u13)R12(u12):
(1.2.1)
この方程式は頂点模型に対する YBE で, 面模型にも対応する YBE がある. では , 頂点模型と
は何か 4.
前節の Ising 模型は各格子点上に力学変数が乗っていたが , 頂点模型では各辺上にある. そ
ij
して各格子点 (頂点) に集まる 4 辺上の力学変数 i; j; k; l に対して, 局所相互作用 Ekl が定まり,
ij
Rij = e;Ekl =kB T により局所 Boltzmann 重率が定まる:
kl
k
R(u12)ijkl := j
u
l
u
?1
i
尚, 縦横の各線には固有の rapidity または spectral parameter と呼ばれる変数が付随して
いる. 縦横の spectral parameter を u1, u2 とするとき , 多くの SLM で局所 Boltzmann 重率
Rklij は (i; j; k; l) 以外にM
u12 = u1 ; u2 による函数である. いま, I を力学変数の取り得る値の
(有限) 集合とし , V = C vi とおく. このとき, V V 上の変換
2
i2I
R(u)(vk vl ) =
X
k;l2I
(vi vj )R(u)ijkl
を R 行列という. 式 (1.2.1) は V
V V 上の等式であり , また, Rij (u) は左から i 番目と
j 番目には R(u) で作用し , 残りの成分には自明に作用する作用素である. 上で定義した意味
での 2 次元 SLM はすべて YBE(1.2.1) またはその面模型版の解であるので, 2 次元 SLM とは
YBE の解により定義できる格子模型といってよい.
系全体のエネルギーは局所相互作用の総和で , よって, ある状態の Boltzmann 重率は局所
Boltzmann 重率の積である. こうして得られた Boltzmann 重率を取り得るすべての物理的状
態にわたり足し 上げたのが頂点模型の分配函数である. 以下に YBE の解の例を挙げる.
例
1.2 R(u) = P .
YBE は
ここで ,
P は互換 P (x y) = y x.
P12P13P23 = P23P13P12
より従う.
4 面模型については
この例では,
Sec.7 で説明する.
R 行列は u によらず,
1.2. YANG{BAXTER 方程式と可解格子模型
11
1.3
例
R(u) = P + uI . ここで , I は恒等作用素 I(x y) = x y. この例では , (1.2.1) は u1
に関する 2 次関係式, よって u1 の相異なる 3 点で成り立てば 恒等的に成り立つことが分かる.
ここで , R(0) = P ( 初期条件 ), R12(u)R21( u) = (1 u2)I( ユニタリ性 ) に注意すれば ,
(1.2.1) は 3 点 u1 = u2 ; u3; で成り立つ. よって, YBE は証明された.
;
1
1.4
例
V = C v+
きの表現で
;
C v; とし , V V の基底を v v ; v v; ; v; v ; v; v; としたと
+
+
0 sin( + u)
B
sin u sin R(u) = B
@
sin sin u
;
+
+
sin( + u)
1
CC :
A
;
(1.2.2)
;
例 1.3 と同様に , R(0) = sinP , R12(u)R21( u) = sin( + u) sin( u)I = sin2 sin2 u)I
が成り立つのは容易に分かる. これらにより, (1.2.2) が YBE をみたすことは各自確かめよ .
( レポート 問題 )
1
CHAPTER 1.
12
1.3
可解格子模型 はじ めの一歩
可換な転送行列と保存量
さて, YBE の解により定義される格子模型がなぜ可解かということを簡単に説明する. N N
の正方格子で周期的境界条件をみたしているとする. このとき , V0 ; V1;
; VN を V のコピ ー
VN 上のモノド ロミー行列と呼ばれる作用素を
とし て, V0 V1
T (u) := R N (u) R (u)
0
で定義する. モノド ロミー行列の auxiliary
01
(1.3.1)
space V0 上のトレース
T(u) = trV T (u) 2 End(V1 VN )
0
(1.3.2)
により, 転送行列が定義できる. 簡単な考察により, 分配函数は
Z = trV VN T(u)N
1
(1.3.3)
となり,
N が十分大きい場合, 格子点あたりの自由エネルギ ーは
1 log Z = ;k T lim 1 log
f := ;kB T Nlim
(1.3.4)
B N !1 N
1
!1 N 2
と書ける. ここで , 1 は転送行列 T(u) の最大固有値である5 . また, 1 点函数は , 1 に対応す
る固有ベクトルがわかれば求めることができる.
では , 転送行列の最大固有値や対応する固有ベクトルはど のようにすれば求められるのか.
その処方箋の 1 つに量子逆散乱法がある.
まず,
1
2
T (u) = T (u) I; T (u) = I T (u)
とおくと,
R(u12)T (u1 )T (u2) = T (u2 )T (u1)R(u12):
1
2
2
1
(1.3.5)
が成り立つことに 注意する. この関係式は,
YBE を N 回繰り返し 使うことにより示せる. ま
2
2
1
た, R 行列は generic には可逆なので , T (u1 )T (u2) と T (u2)T (u1) は相似である. よって, そ
れらのトレースを取ることにより,
1
[T (u1 ); T (u2)] = 0
(1.3.6)
が成り立つ. 可換な作用素同士は同時対角化できるので , T (u) の固有ベクトルは u によらな
い. この u によらない固有ベクトルと対応する (u による) 固有値を求めるには, Bethe Ansatz
方程式 (BAE) と呼ばれる (一般には超越的な) 連立方程式を解けばよい. BAE は (1.3.5) を繰
り返し 何度も使うことにより導出できるが , その詳細は省略する6.
いま, log T(u) が u = 0 のまわりで
log T(u) =
1
X
n=0
unTn
T (u) の固有値を絶対値の大きい順に j1j > j2 j > とすると, Perron-Frobenius の定理により, 1 > 0, ま
た, 対応する固有ベクトルはすべての成分を非負にとることができる.
6
詳細についてはたとえば [5] を見よ.
5
1.3.
13
可換な転送行列と保存量
のように Taylor 展開できるとすると,
(1.3.6) により,
[Tn; Tm ] = 0
(1.3.7)
が成り立つ. logT (u) の展開係数のうち特に T1(必要ならばその定数倍) を, 対応する 1 次元量
子スピン系の Hamiltonian という. Hamiltonian と可換な量を保存量7 といい, 保存量を生成
子とする変換8 に対して系が不変, すなわち対称性があるという. 関係式 (1.3.7) は , スピン系
に無限個の保存量, すなわち無限次元の対称性が存在することを示している. この無限次元の
対称性こそが , YBE の解により定義される格子模型の可解性の根拠と考えられている.
ではこの節の最後に例 1.3 と例 1.4 に関して, 対応する 1 次元量子スピン系の HamiltonianH
を導いておこう. ただし , 例 1.3 でも例 1.4 と同様に , V = C v+ C v; とする. 一般に,
d logT (u) = T(0);1 T 0 (0)
T1 = du
u=0
に注意する. 例 1.3 では
R(0) = P
より,
T(0) = trV (P01 P0N ) : v" v"N 7! v"N v" v"N ; :
0
また,
1
1
1
R0 (0) = I より,
HXXX = T1 = T (0);1
=
N
X
trV (P01 R00j (0) P0N ) =
N
X
Pj j +1
j =1
N ;
1X
y
y
x
x
z
z I
I
j
j
+1 + j j +1 + j j +1 + j j +1
2 j =1
j =1
0
となる. Hamiltonian(1.3.8) をその形から
例 1.4 でも同様の計算により,
(1.3.8)
XXX Hamiltonian という.
N ;
X
HXXZ = T1 sin = 21
jx jx+1 + jy jy+1 + ((Ij Ij +1 + jz jz+1) (1.3.9)
j =1
を得る. ここで ,
= cos である.
7 時間並進に対し不変な量を保存量という. Hamiltonian は時間並進の生成子なので, Hamiltonian と可換な量は
時間変化しない (保存する) ということになる.
8
たとえば 運動量なら空間並進, 角運動量の 成分なら 軸周りの回転がそれにあたる .
z
z
CHAPTER 1.
14
1.4
可解格子模型 はじ めの一歩
6 頂点模型から 8 頂点模型へ
氷の模型とし て 6 頂点模型 (6V) がある9 . 2 次元正方格子の格子点上に酸素原子があり, 各格
子点のまわりの 4 辺のうちちょうど 2 辺上に酸素原子と共有結合した水素原子が存在する. 格
子点 i, j を互いに隣り合う格子点とし , i, j を結ぶ辺上に i 上の酸素原子と共有結合している
水素原子があるとすると, 同じ 辺上には j 上の酸素原子と共有結合する水素原子を配置するこ
とはできないとする. このような制約条件の下では , 水素原子の配置を各辺上の矢印の配置に
翻訳することができる. さらに , 右または上向きの矢印を + スピン, 左または下向きの矢印を
スピンと翻訳すると, 各頂点において次のスピン和の保存則, すなわち ice condition が成り
立つ:
;
"01
u2
R(u12)""0 ""0 = "2 1 2
1 2
?u
"02 = 0
unless "1 + "2 = "01 + "02.
1
"1
また, 各頂点のまわりのスピンを一斉に逆向きにしても, 局所 Boltzmann 重率は不変であ
ると考える. このとき, 局所 Boltzmann 重率の値は次の 3 種しかない:
;;
+;
;+
;+
+;
a(u) = R(u)++
++ = R(u);; ; b(u) = R(u)+; = R(u);+ ; c(u) = R(u)+; = R(u);+ :
(1.4.1)
例 1.4 の R 行列はまさに (1.4.1) の形をし ているから, 実は 6V の R 行列であったことが分
かる.
6V は a : b : c によって, いくつかの相に分けられる. a; b; c のうちの 1 つが他の 2 つの和
より大きい場合, および , そうでない場合とで計 4 つある:
強磁性相 1 :
強磁性相 2 :
反強磁性相 :
a >b+c
b> a+c
c >a+b
1 (a + b + c) > a; b; c
無秩序相 :
2
このうち, 強磁性相についてはゆらぎが全く存在しない, という問題がある. たとえば , 強磁性
相 1 ではすべて a タイプのスピンの配置が基底状態となる. 2 つの可能性があるが , このうち,
すべて + スピンの基底状態が選ばれたとする. 次に , 励起状態を実現しようとすると, 左下か
ら右上の方向にスピン和が保存するため, 無限に多くの b または c タイプの頂点が現れ , エネ
ルギーが発散してし まう. Sec.1 で述べたように, Hilbert 空間の元は基底状態と高々有限個の
スピンのみが食い違う状態であるため, Hilbert 空間は基底状態のみからなる自明な空間とな
るからである.
また, 無秩序相は , 相関函数が距離のべきで減衰する臨界点上にあることが知られている.
しかしながら, 現実的な物質では, たとえば水の三態の相図を思い浮かべれば分かるが , 固相・
液相・気相など の相は領域 (p T 平面で不等式で表される点の集合), 臨界点は曲線 (p T 平
面で方程式で表される点の集合) となって 2 つの相の境界となるのが通例で , 臨界点集合が相
(領域) を形成していて非物理的である10 .
;
.
6V 自体が非物理的であるというのはおくとして.
9 あくまで模型である
10
もともと
;
1.4. 6 頂点模型から 8 頂点模型へ
これらの非物理的性質は ,
に緩和する:
15
ice condition が強すぎ たために起こったので , これを次のよう
R(u)""0 ""0 = 0 unless "1 "2 = "01 "02 .
1 2
1 2
このとき,
(1.4.2)
(1.4.1) に加えて, 次のタイプの局所配置も許される:
;;
d(u) = R(u)++
;; = R(u)++
(1.4.3)
これを 8 頂点模型 (8V) という.
8V は a : b : c : d によって, 6V と同様にいくつかの相に分けられる:
強磁性相 1
強磁性相 2
反強磁性相 1
反強磁性相 2
:
:
:
:
無秩序相 :
臨界点 :
a> b+c+d
b> a+c+d
c> a+b+d
d> a+b+c
1
2 (a + b + c + d) > a; b; c; d
a = b + c + d; b = a + c + d; c = a + b + d; d = a + b + c
8V の分配函数 Z(a; b; c; d) には次の対称性がある [7]:
Z(a; b; c; d) = Z(b; a; d; c) = Z(b; a; c; d) = Z(c; d; a; b) = Z(a; b; c; d):
(1.4.4)
ここで , 最後の等式は複合任意である. また, 次の対称性もある:
8 a0
>
< 0
Z(a; b; c; d) = Z(a0 ; b0; c0; d0); > cb0
: d0
=
=
=
=
(a + b + c + d)
(a + b ; c ; d)
(a ; b + c ; d)
(a ; b ; c + d)
(1.4.5)
(a ; b + c ; d)
(a ; b ; c + d)
(a + b + c + d)
(a + b ; c ; d)
(1.4.6)
1
2
1
2
1
2
1
2
(1.4.4) と (1.4.5) より, 次の双対変換の対称性が従う:
8a
>
< bDD
Z(a; b; c; d) = Z(aD ; bD ; cD ; dD ); > c
: dDD
=
=
=
=
1
2
1
2
1
2
1
2
双対変換 (1.4.6) は, 反強磁性相 1 と無秩序相とを入れ替える変換になっている.
Chapter 2
8 頂点模型と 8 頂点
SOS 模型
17
CHAPTER 2. 8 頂点模型と 8 頂点 SOS 模型
18
2.1
テータ函数
8 頂点模型 (8V) と 8 頂点 SOS 模型 (8VSOS) を導入する準備とし て, テータ函数について簡
単に復習する. 以下, 次の無限積の記号を多用する:
(z; q1; ; qn)1 :=
定理
Y
(1 ; zq1k qnkn ):
1
k1; ;kn>0
2.1 (Jacobi の 3 重積公式)
p (z) := (z; p)1 (pz ;1 ; p)1 (p; p)1
とおくと, 次が成り立つ:
p (z) =
X
Z
n2
pn(n;1)=2(;z)n :
(2.1.1)
[証明] まず , 次の定理を示す:
定理
2.2 (Cauchy) 次の等式が成り立つ:
1 (a; q)
(az; q)1 = X
n n
(z; q)1 n=0 (q; q)n z ;
[証明] (2.1.2) の左辺を
f(z) =
とおくと,
より,
系
n=0
1
(2.1.2)
An (a; q)z n
q)1
(1 ; z)f(z) = (az;
(qz; q) = (1 ; az)f(qz)
An に関する漸化式
を得る. よって ,
1
X
(a; q)1
(a; q)n = (aq
n ; q)
1
n;1
An = 1 ;1 ;aqqn An;1
A0 = 1 から , (2.1.2) が従う. 2
2.3 (Euler) 次の等式が成り立つ:
1 zn
X
= (z; 1q)
(q;
q)
n
1
n=0
1 (;z)n qn(n;1)=2
X
= (z; q)1
(q; q)n
n=0
(2.1.3)
(2.1.4)
2.1.
19
テータ函数
[証明] 定理 2.2 で a = 0 とおくことにより,
き換えると, (2.1.2) は
(2.1.3) を得る.
また,
a, z をそれぞれ a=b, bz と置
1 (b ; a)(b ; aq) (b ; aqn; )
X
1
n
n = Y 1 ; azq
z
2
n
n
n=0 (1 ; q)(1 ; q ) (1 ; q )
n=0 1 ; bzq
に帰着する. そこで , a = 1, b = 0 とおくことにより, (2.1.4) を得る. 2
いよいよ, 定理 2.1 の証明に取り掛かる. (2.1.4) より,
1+
1
(z; p)1 =
1 (;z)n pn n;
X
(
(p; p)n
n=0
である. 上の式の第 2 の等式で ,
に (2.1.4) を適用して,
(z; p)1 =
1 (;z)n pn n;
X
(
となるから , これに
=
1 (;z)n pn n; =
X
n
(p; p)1 (p ; p)1
(
1) 2
+1
n=;1
n < 0 からの寄与は消えることを用いた.
1 (;pn+1 )r pr(r;1)=2
= X
1) 2
(p; p)1
n=;1
=
1) 2
(p; p)r
r=0
=
さらに,
1 (;z)n pn n;
X
(
(p; p)1
n=;1
=
1) 2
(pn+1; p)1
X (p=z)r
r=0 (p; p)r
(2.1.3) を用いれば , (2.1.1) を得る. 2
1 と (Im > 0) を 2 つの擬周期とする Jacobi のテータ函数は次で定義される:
a
X
p
Z
# b (u; ) := exp ;1(m + a) [(m + a) + 2(u + b)] :
m2
ここで ,
a; b 2 R である. テータ函数の基本的性質とし て, 次の擬周期性が成り立つ:
p
# ab (u + 1; ) = exp(2 ;1a)# ab (u; );
p
p
# ab (u + ; ) = exp(; ;1 ; 2 ;1(u + b))# ab (u; ):
;
また, 定理 2.1 より, (2.1.5) は, u = 12 b + m + ( 21
分かる.
以下のように 1 から 4 を導入する.
1
2
3 (u; ) = # 0 (u; );
4 (u; ) = # 1=2 (u; ):
これらは定理 2.1 より, 次の無限積表示をもつ:
p
1 (u; ) = ;1q ;1 q (z); 2 (u; ) = q ;1 q (;z);
3 (u; ) = q (;qz);
4 (u; ) = q (qz);
1
4
2
2
(2.1.6)
; a + n) (m; n 2 Zに零点を持つことが
1=2 1=2 (u; ) = # ;1=2 (u; ); (u; ) = # 0 (u; );
0
0 ここで ,
(2.1.5)
1
4
2
2
p
p
q = exp( ;1), z = 2 = e2 ;1u , また次の記号を用いた:
CHAPTER 2. 8 頂点模型と 8 頂点 SOS 模型
20
補題
2.4 [6] 整函数 f が恒等的に 0 でなく, 次の擬周期性
f(z + ) = exp[;2p;1(A + A z)]f(z);
p
f(z + 1) = exp(;2 ;1B)f(z);
1
をもつとき,
2
A2 は正整数で , C =(Z+ Z) における f の零点の数に等し く, 零点の和は
A
X
(zero)i = A22 + B ; A1 ; mod Z+ Z:
i=1
2
で与えられる.
有用な公式
1 2 (u; ) = 1 (2u; 2)4(0; 2); 21 4 (u; 2) = 1 (u; )2(0; );
3 4 (u; ) = 4 (2u; 2)4(0; 2); 22 3 (u; 2) = 2 (u; )2(0; ):
により, さらに
212 3 4 (u; ) = 1 (2u; )23 4 (0; )
(2.1.7)
(2.1.8)
を得る.
いくつかの加法定理を挙げておく:
1 (u; 2)4(v; 2) 4 (u; 2)1(v; 2) = 1 ( u2 v ; )2( u2 v ; );
4 (u; 2)4(v; 2) 1 (u; 2)1(v; 2) = 4 ( u2 v ; )3( u2 v ; );
2 ( u+2 v ; )2 ( u;2 v ; );
3 (u; 2)2(v; 2) 2 (u; 2)3(v; 2) =
u;v
1 ( 2 ; );
1(( uu++2 vv ;; )
)3 ( u;2 v ; );
3
2
3 (u; 2)3(v; 2) 2 (u; 2)2(v; 2) =
u
+v
( ; ) ( u;v ; );
(2.1.9)
1 (u; )2(v; ) 2 (u; )1 (v; ) = 21 (u v; 2)4 (u v; 2);
2 (u; )2(v; ) 1 (u; )1 (v; ) = 2
2 (u v; 2);
32(u (uv;+2)
v;
2)
4
4 (u ; v; 2);
4 (u; )3(v; ) 3 (u; )4 (v; ) =
2
(u
+
v;
2)
; v; 2);
1
2 (u + v; 2)1(u
3
3 (u ; v; 2);
3 (u; )3(v; ) 4 (u; )4 (v; ) =
2 (u + v; 2) (u ; v; 2):
(2.1.10)
4
2
4
2
2
2
Jacobi の虚変換公式
p
p
p
p
1 (u; ;0 1 ) = p; 01 exp(; 0 u2 )1 ( ;1 0u; ;1 0 );
p
p
p
p
2 (u; ;0 1 ) = 0 exp(; 0 u2)4 ( ;1 0 u; ;1 0);
(2.1.11)
p
p
p
p
3 (u; ;0 1 ) = 0 exp(; 0 u2)3 ( ;1 0 u; ;1 0);
p
p
p
p
4 (u; ;0 1 ) = 0 exp(; 0 u2)2 ( ;1 0 u; ;1 0):
により公式群 (2.1.10) は公式群 (2.1.9) より導け , 逆もまた同様である. さらに次の加法定理も
次節以降でしばしば用いる:
2 (x + u)2 (x ; u)3 (v + y)3 (v ; y) ; 2 (v + u)2 (v ; u)3 (x + y)3 (x ; y)
= 1 (v + x)1 (v ; x)4 (u + y)4 (u ; y);
3 (x + u)3 (x ; u)3 (v + y)3 (v ; y) ; 2 (v + u)2 (v ; u)2 (x + y)2 (x ; y)
= 4 (v + x)4 (v ; x)4 (u + y)4 (u ; y):
(2.1.12)
2.1.
21
テータ函数
ここで , 擬周期 は共通なので,
2.5 (Poisson
依存性は省略した.
)
! 1
! C の区間 (;1; 1) におけ
定理
の和公式 連続かつ有界変動な函数 f : R
で単調に 0 に収束するとき,
る広義積分が絶対収束し , x
X
Z
m2
が成り立つ.
[証明] F(x) =
数を
Xb
b :=
f(n); f(n)
Z
f(m) =
n2
X
Zf(x + m)
とおくと,
m2
cn =
Z
1
0
Z1
;1
p
f(x)e;2 ;1nxdx
(2.1.13)
F は周期 1 の函数となる. そこで , F の Fourier 係
p
F(x)e;2 ;1nx dx
とおくと, 積分と無限和を交換できるから ,
cn =
を得る. よって ,
XZ
Z
m2
1
0
p
f(x + m)e;2 ;1nxdx = fb(n)
Fourier の展開定理より,
F(x) =
Xb
p
f(n)e2 ;1nx
Z
n2
(2.1.14)
が従う. (2.1.14) で x = 0 とおくと, (2.1.13) を得る. 2
定理 2.5 の系として, Jacobi の虚変換公式 (2.1.11) は得られる. 実際, たとえば 3 について,
p
3 (u; ;0 1 ) =
に対し ,
であるから ,
b =
f(n)
X
p
f(m)
exp ; 0 m2 + 2 ;1mu =
m2
m2
X
Z1
;1
p
p
0
3 (u; ;0 1 ) = 0 e; u
2
となるからである.
Z
Z
p
p
f(x)e;2pi ;1nx dx = 0e; 0 (u;x)
2
X
p
p
p
0
0
0
e; n e2 nu = 0 e; u 3 ( ;1 0 u; ;1 0 )
Z
n2
2
2
CHAPTER 2. 8 頂点模型と 8 頂点 SOS 模型
22
2.2
8 頂点模型の導入
この節では , まず , 反強磁性相 1 における,
R 行列の表式を与える:
2a(u)
3
d(u)
77 ;
1 R(u)
b(u) c(u)
~ = 1 R(u) = 1 664
R(u) = ~(u)
5
c(u)
b(u)
(u)
(u)
d(u)
a(u)
ここで , ~ と は次の正規化函数
; r;r (z) ; (z = 2 = x2u; x = e; )
(u)
=
~(u) = [1 [1]
; u]
(z ;1 )
2
x4; x2r )1 (x2r+2 z; x4; x2r )1 ; [u] = x ur ;u r (x2u);
(z) = (x(xz;
x
4 z; x4 ; x2r ) (x2r z; x4 ; x2r )
1
(2.2.1)
(2.2.2)
2
1
である.
R 行列の各成分は
p
2
1
p
p
p
u ; ;1 ) ( 1;u ; ;1 )
( u ; ;1 ) ( 1;u ; ;1 )
a(u) = 2 ( 2r 2pr;1 1 12r p2;r1 ; b(u) = 1 2r 2pr;1 2 12r p2;r1 ;
2 (0; 2r )1 ( 2r ; 2r )
2 (0; 2r )1 ( 2r ; 2r )
p
p
p
p
2 ( 2ur ; 2pr;1 )2 ( 12;ru ; p 2r;1 )
1 ( 2ur ; 2pr;1 )1 ( 12;ru ; p 2r;1 )
c(u) =
; d(u) = ;
;
2 (0; 2r;1 )2 ( 21r ; 2r;1 )
2 (0; 2r;1 )2 ( 21r ; 2r;1 )
である. ただし , (1.4.4) により d < 0 とし た.
レポート 問題 4 次の等式を示せ.
q
p
; 1 ( ur ; r;1 ) = r exp ; r4 [u]:
(2.2.3)
(2.2.4)
8V の R 行列のみたす性質のうち, 何と言っても最重要なのは YBE(可解性の根拠) である.
R12(u12)R13(u13 )R23(u23) = R23(u23)R13(u13)R12(u12):
(2.2.5)
レポート 問題 5 YBE(2.2.5) が成り立つことを示せ.
次に, (2.2.2) より, ~(0) = 1 = (0) が成り立つ. これと (1 ; u) = (u) とを合わせると,
(1) = 1 が従う. よって, R 行列の特殊値
3
3
2
21
7
7
6
6
(2.2.6)
R(0) = P = 64 1 1 75 ; R(1) = 64 11 11 75 :
1
が得られる. (2.2.6) の第 1 式は初期条件と呼ばれる. また, ユニタリ性
R12(u)R21(;u) = 1;
(2.2.7)
および 交叉対称性
Rt21(1 ; u) = 1x R12(u)1x
1
(2.2.8)
2.2. 8 頂点模型の導入
も重要な性質である.
さて, 3 つのパラメータ u,
23
, r が次のいわゆる principal regime に存在するとする.
> 0; r > 1; 0 < u < 1;
ただし , と r は固定して考え,
0 < p1=2 = xr < x < < 1:
u のみを変数とし て扱う. (2.2.3) より,
c > a + b + jdj
が成り立つため,
principal regime は反強磁性相 1 に属する. 次の 2 つの極限: 1) 6V 極限
r ! +1 (d ! 0); 2) 臨界極限 ! +0 (c ! a + b + jdj) はそれぞれ重要である.
さらに低温極限 ! +1 (c a + b + jdj) を考えると, c タイプの配置のみが許される.
従って, principal regime には 2 つの基底状態が存在する.
上方に無限に長く伸びた半無限の列上で, 半無限の pure tensor vector v" v" v"
を考えよう. 基底状態は, "j = (;1)j +i (i = 0; 1) で与えられる状態である. i でラベルされた
基底状態のうち, ど ちらか一方を選び固定する. すると, 有限温度 > 0 では , i でラベルされ
た基底状態から有限個のスピンのみを入れ替えた状態のみが励起状態とし て現れる. (無限個
食い違うような状態ではエネルギ ーが発散してし まうから . ) よって, 状態空間 Hi は ,
3
2
1
v" v" v" ; "j = (;1)j i (j 1):
3
2
1
+
で張られる半無限テンソル積空間の部分空間である.
次節での都合上, 双対変換するとど うなるかも調べておこう. いま, a; b; c; d が
えられるとき, 変換 (1.4.6) を施して得られる aD ; bD ; cD ; dD は次で与えられる:
p
p
p
p
u 2 ;1
1;u 2 ;1
aD (u) = 4 ( r ; 2rp;1)1 ( 1r 2;p;r1 ) ;
4 (0; r )1 ( r ; r )
1;u 2 ;1
u 2 ;1
cD (u) = 4 ( r ; 2rp;1)4 ( 1r 2;p;r1 ) ;
4 (0; r )4 ( r ; r )
レポート 問題
(2.2.3) で与
p
p
p
p
u ; 2 ;1 ) ( 1;u ; 2 ;1 )
bD (u) = ; 1 ( r 2rp;1 4 1r 2p;r1 ;
4 (0; r )1 ( r ; r )
u 2 ;1
1;u 2 ;1
dD (u) = ; 1 ( r ; 2rp;1)1 ( 1r 2;p;r1 ) :
4 (0; r )4 ( r ; r )
(2.2.9)
6 (2.2.9) を示せ.
4 種の Boltzmann 重率 aD ; bD ; cD ; dD により定義される 8V は ,
1 (a + jb j + c + jd j) > a ; jb j; c ; jd j
D D D D
2 D D D D
が成り立つので , 無秩序相にある.
CHAPTER 2. 8 頂点模型と 8 頂点 SOS 模型
24
2.3
8 頂点
SOS 模型の導入
量子逆散乱法を適用するにせよ何にせよ, 8V を解くのは 6V を解くよりはるかに困難である.
これは明らかに , 模型を物理的にするために導入したスピン和を保存しない d タイプの配置の
せいである. Baxter はこの困難を克服するため, 8V をある面模型にマップして解くことを考
えた. これが 8 頂点 SOS 模型 (8VSOS) である.
面模型は , 各格子点 j に力学変数 kj が乗っており, 8VSOS の場合 kj Z+ である. こ
こで , はある適当な無理数である1 . さらに , 隣り合う格子点上の力学変数はちょうど 1 だけ
違ってなければならない . 各基本正方形の 4 頂点における力学変数の値から局所 Boltzmann
重率が定まると考える. このとき, 基本正方形の右下の格子点における力学変数の値を固定し
たとき, 6 種類の局所配置があり得る. その各々の場合について , 局所 Boltzmann 重率の値を
次のように定める:
2
k 2 k 1 1 = 1 [1 ; u] ;
u
=
k1 k
~(u) (u) [1]
k k 1 1 [1][k u] = 1 [k u] ;
W k 1 k u = ~(u)
[1 ; u][k] (u) [k]
k k 1 1 [u][k 1] = ; 1 [u][k 1] :
W k 1 k u = ; ~ (u)
[1 ; u][k]
(u) [1][k]
W
このとき, 面型の YBE
X c d W g e u W
g
X d e =
W g f u W
g
12
23
g
a
c
b
c g b a u
b g u :
a f e f u13 W
d u W
g 13
(2.3.1)
23
(2.3.2)
12
局所 Boltzmann 重率 W の u
W
= 0(初期条件), u = 1 における特殊値は
c d 0 = ; W c d 1 = b ; a [d] bd
b a
b a
d ; c [a] ac
(2.3.3)
である. ユニタリ性, 交叉対称性はそれぞれ
X c d c g W g a u W b a u = bd ;
g
12
21
c d b ; c [d] b c b ; a [d] d a W b a u = d ; a [c] W a d 1 ; u = d ; c [a] W c b 1 ; u
(2.3.4)
(2.3.5)
である.
Baxter により Regime III と名づけられた領域 (0 < u < 1) においては , 基底状態は , 南西
から北東へのななめの線上は同一の値を取り, 西から東へと向かうにつれ l, l + 1, l, l + 1,
のように取る配置であり, この場合 l でラベルすることができる. そこで , ある l でラベルされ
1 あとの都合上
だけずらしてある.
2.3. 8 頂点 SOS 模型の導入
25
る基底状態を取ると, 励起状態はその基底状態から有限個の格子点において力学変数の値を変
えたものとなる.
そこで , 数列 p = (k1; k2; k3;
)で
kj 2 Z+ ;
jkj ; kj j = 1 (j = 1; 2; 3; )
+1
をみたすものを許された道と呼ぶことにしよう.
k1 = k;
kj =
で張られる許された道の空間
l
k; l 2 Z+ とし , i k ; l (mod 2) に対して,
if j 1 ; i (mod 2)
l + 1 if j i
(mod 2)
(j 1):
(2.3.6)
Hl;ki (i = 0; 1) は , 8VSOS の Hilbert 空間と同型である.
( )
Baxter は 8V を解く過程において, 無秩序相における 8V と
の間をつなぐ 次の intertwining ベクトルをみつけた:
Regime III における 8VSOS
tD (u)kk1 = f(u)
ktDukk21(u);
p p k
tD (u)k1 = 2 r ; r;1 v+ + 3 kr u ; 2 r;1 v; :
(2.3.7)
ここで正規化函数 f(u) は
; ur + r;r u+
4+2u
4
2r
2r +2;2u
4
2r
f(u) = xp 2r 2r (x(x2+2;ux; x;4x; x2)r1) (x(x2r;2u; x; x4; x; x2r ) )1
C (x ; x )1
1
1
2
2
2
1
1
4
で与えられ , 次の関係をみたす:
C [u]f(u)f(u ; 1) = 1;
2
レポート 問題
C=
r r
; r4 :
e
(2.3.8)
(2.3.9)
7 次の頂点・面対応が成り立つことを証明せよ.
X
RD (u12)tD (u1)dc tD (u2)ad = W
b
c d a
b
b a u tD (u )b tD (u )c :
12
1
2
(2.3.10)
ここで , RD (u) は aD ; bD ; cD ; dD により定義される R 行列である.
この講義では, 反強磁性相 1 における各種物理量を計算するのが目標である. そのために
は , (2.3.7) で与えられた Baxter オリジナルの intertwining ベクトルをそのまま使うわけには
いかない. そこで , 十分遠方で l でラベルされる基底状態と同じ 配置を取っているとして,
k ;l
t" (u)kk0 = "p (t+D (u)kk0 + "t;D (u)kk0 )
2
とすると, 次が成り立つ. (レポート 問題
(2.3.11)
8 (2.3.12) を示せ. )
X
R(u12)t(u1 )dc t(u2)ad = W
b
c d a
b
b a u t(u )b t(u )c :
12
1
2
(2.3.12)
CHAPTER 2. 8 頂点模型と 8 頂点 SOS 模型
26
2.4 Tail operator の導入
頂点・面対応 (2.3.12) で
u12 = 1 とおくと,
1 2
1
2
1
1 2
2
0
より, intertwining ベクトル t(u)kk と直行する dual
ることが予想できる. 実際, 次の公式
p
[d] W cb da 1 = bd ;; ac [a]
ac
R(1)""0 ""0 = 0" +" "00 +"0 ;
intertwining ベクトルが t(u ; 1)kk0 で書け
p
p
3 ( ur ; 2 r;1 ) + (;1)i 2 ( ur ; 2 r;1 ) = 3+i ( 2ur ; 2r;1 ): (i = 0; 1)
を用いて, 直接
X
"=
0
X
0
t" (u)kk t" (u)kk00 = kk00 ;
0
k0 =k1
t" (u)kk0 t"0 (u)kk = ""0 ;
(2.4.1)
を解くと, 次の表式が得られる:
t (u; ; r)kk0 = t (u)kk0 =
X
"=
k;l 0
t" (u)kk0 = (;) [k(]k ;k) tkk0 (u ; 1);":
t" (u)kk0 v" ;
(2.4.2)
逆関係 (2.4.1) により, 双対頂点・面対応が従う:
X
t (u1 )b t (u2)c R(u12) = W
a
b
ここで , 8V の状態空間
素を用意しよう.
d
Hi
T (u0)lk
12
と 8VSOS の状態空間
( )
T (u0)lk
c d c d
b a u t (u )d t (u )a :
1
Y
=
1
j =1
1
Y
=
1
j =1
1
(2.4.3)
2
Hl;ki (i k ; l (mod 2)) とを結ぶ作用
( )
t"j (;u0 )kkjj : H(i) ! H(l;ki) ;
+1
t"j (;u0 )kkjj+1 : H(l;ki)1
1
!Hi
( )
(2.4.4)
:
Sec.11 以降で , 8V と 8VSOS の相関函数や形状因子を頂点・面対応で変換させる際, のりのよ
うな役目を果たす非局所作用素である tail operator は上の 2 つの作用素の積で与えられる:
(u0 )llk0 k0 = T(u0)l0 k0 T(u0)lk (k0 k; l0 l mod 2)
k
=
k0
6k
_
^
^
1
_
;u
k10
0
k2
k20
_
^
k3
l
k30
l0
(2.4.5)
_
^
l+1
l0+1
_
^
l
l0
2.4. TAIL OPERATOR の導入
Tail operator は
27
0 0 X
0
L kk2 kk1 u := t" (;u)kk t" (;u)kk0
2
1
"=
を用いて,
1 k0
Y
= L j
0 0
(u0)llkk11
+1
kj +1
j =1
と書ける.
初等的な計算により
2
1
(2.4.6)
1
2
kj0 u
kj 0
(2.4.7)
k;k ][u k+k ]
0
0 00
[ k+k ][u k ;k ]
L kk 11 kk u = 2 [k][u] 2 ; L kk 11 kk u = [ 2 [k][u] 2 (2.4.8)
0
0
0
0
が成り立つ. また, 逆関係 (2.4.1) からも明らかであるが ,
0 0
L kk11 kk u = kk
(2.4.9)
(u0 )llk0 k = ll0
(2.4.10)
(u0)llk0 k0 = 0 if k < k0, l > l0 or k > k0 , l < l0
(2.4.11)
が成り立つ. これより直ちに
が従う. さらに, k < k0 (k > k0 ) かつ l >
で , (2.4.9) に矛盾してし まう. よって,
1
1
l0 (l < l0) とすると, 途中の j で kj = kj0 が成り立つの
である.
また,
8V と 8VSOS の状態空間 H(i) と H(l;ki) の間の対応を確認し ておく.
e; ! 0 で, 後でわかることであるが , 0 < Re u < 2 を用いると,
;x2u (" > 0)
l
+1 "
l
t" (;u0)l t (;u0 )l+1 = 1
(" < 0)
1
> 0)
t" (;u0)ll+1 t" (;u0 )ll+1 = ;x2u ("
(" < 0)
低温極限
x=
0
(2.4.12)
0
1 では , l(i + j が奇数のとき ), l + 1(i + j が偶数のとき) を繰
"j = (;1)i j をみたす 8V の基底状態とが 対応していることが
となる. よって, 十分遠方 j
り返す 8VSOS の基底状態と
(2.3.6) をにらむと分かる.
+
Chapter 3
ブート スト ラップ解析
29
CHAPTER 3.
30
3.1
角転送行列
ブートストラップ解析
I|8 頂点模型の場合
Baxter は hard hexagon 模型に関する数値実験に基づく物理的議論を通して, SLM を解析す
る道具とし て角転送行列が有用であることに気付いた. 角転送行列とは, 正方格子を 90 ずつ
4 つの部分に分けて得られる次の転送行列である:
u1
u2 "1
i) (u )" " =
A(SE
12 "0 "0 u2
1 2
1 2
u2
u2
u1
"01
"
"
"
u1
"02
u1
"03
?
2
?. .
3
..
.
"04 ?
4
.
?
i
H
i
i
ここで十分遠方では , (i) の基底状態が実現されているものとする. 他の ASW , ANW , ANE
も同様に定義できる.
(0)
いまここで, i = 0 の境界条件をとることにし , ASE (u) を有限の大きさ N に切って定義し
たものを
( )
( )
( )
A(0)
SE (u)N とおくと, N = 1 では v+ , v; を基底に取ると,
1 a(u)
ASE (u) = (u)
c(u) ;
(3.1.1)
(0)
1
N = 1 では v+ v+ , v+ v; , v; v+ , v; v; を基底に取ると,
2 ac2(u)
acd(u)
2
6
1
a
c(u)
abc(u)
(0)
ASE (u)2 = (u)3 64
abc(u) c3 (u)
acd(u)
a3 (u)
3
77
5
(3.1.2)
となる. このようにサイズ N を大きくしていったとき, 角転送行列の固有値はどのような分布
をとるだろうか.
そのための手がかりとし て, = xu を固定した上で低温極限 x
0 を考える1 . この極限で
2
66
1
lim
R(u)
=
4 1
x!
0
である. (レポート 問題
3
77
5
9 (3.1.3) を示せ. ) つまり,
lim R(u)""0 ""0 = " " ""0 ""0
1
!
x!0
1 2
1 2
1 2
2
1
1
2
Principal regime では , 0 < u < 1 であったが , ここではそのような制限は取り外して考えている.
(3.1.3)
3.1.
角転送行列 I|8 頂点模型の場合
31
が成り立つので ,
i) (u)" " HCT M (") " " ;
A(SE
"0 "0 "0 "0
1 2
1
2
1 2
1
2
(3.1.4)
ここで ,
(i)
(i)
HCTM
(") := HCTM
("1 ; "2 ; ) =
1
X
j =1
j"j "j
(3.1.5)
+1
! 0 における表記ではあるが , その固有値が の非負整数べき
である. (3.1.4) は低温極限 x
であることから , 有限温度 0 <
対称性 (2.2.8) を用いると,
x < 1 でも相似の意味で成り立っていると考える2 .
i) (u) = (x )
1 A(i) (1 ; u);
A(SW
SE
i) (u) = (x )
1 A(i) (u)(x )
1 ;
A(NW
SE
i) (u) = A(i) (1 ; u)(
x )
1
A(SW
SE
また, 交叉
(3.1.6)
が成り立つ. よって ,
i
i) (u)A(i) (u)A(i) (u)A(i) (u) x2HCTM
(i) = A(NE
NW
SW
SE
(3.1.7)
( )
を得る. ここで (3.1.5) をみると, 十分遠方 j
和である. そこで ,
Hi =
M
Z
( )
とおくと,
Hni
( )
の次元は
n2 >0
1 では "j = (;1)i
j であるから実際には有限
+
i v = nvg
Hni ; Hni = fv 2 H i jHCTM
( )
( )
( )
(3.1.8)
( )
n を相異なる自然数の和因子
n = j1 + j2 + + jr ;
(j1 > j2 > > jr > 0)
(3.1.9)
に分割する仕方の総数 p1(n) に等し く, 従って各和因子が奇数であるような n の分割の仕方の
総数 p2(n) に等しい. よって, (i) の指標は
H
i
(i) := trH i (x2HCTM ) =
( )
( )
1
X
n=0
dim H(ni) x2n = (;x2; x2)1 = (x2; 1x4)
1
(3.1.10)
で与えられる.
レポート 問題
p1 (n) = p2 (n) であることを , 母函数を用いずに , すなわち相異なる自然
数の和因子への n の分割と各和因子が奇数であるような n の分割の間の 1 : 1 対応を見つける
ことにより示せ.
(hint: 分割 (3.1.9) で各和因子を jk = 2lk mk (lk 0, mk 2Z>0 + 1) とし てみる. )
10
>
2
R(u) は = x を通して u 依存性が入っているので, A( ) (u) の固有値は u 7! u + 2p;1= log x で不変であ
( )
る. よって, A (u) の固有値は (n 2 Z
) の形になり, x が連続的に変化しても n の値や重複度は変化しないと
考えられるからである.
2
i
u
i
SE
SE
n
CHAPTER 3.
32
3.2
角転送行列
ブートストラップ解析
II|SOS の場合
SOS 模型に対して, 角転送行列を計算しよう. 前節で述べたことから分かるように, 角転送行列
の方法とは , 分配函数計算の方便であり, 通常の転送行列が , 格子を矩形とし て計算し , サイズ
無限大の極限で分配函数を計算するのに対して, 45 傾いた正方形に対して計算してから極限
を取るという違いがある. この節では , SOS 模型の分配函数を計算するに当たって, Boltzmann
重率に対し , いわゆるゲージ変換を施すことにする:
p c d p
[b]
c
d
b
;
d
W b a u 7! ( ;1) p W b a u
[d]
(3.2.1)
この変換を施した後の W に対して分配函数を計算すれば , (3.2.1) 中のスカラー因子は次々と
打ち消しあって, 境界からの寄与だけが残り, その境界からの寄与も境界条件からすべて打ち
消しあう. 結局, 変換後の W に対する分配函数は元の W に対するそれと等しい. そこで , こ
の節では変換後の W を用いて議論することにする.
前節と同様, = xu を一定に保ちながら , x
0 の極限を取ると,
!
k 1 u gk (u) ;
k gk (u)gk (u)
k 1 u gk (u) ;
k gk (u)
k 1 u gk (u)gk; (u) x ; :
k gk (u)
2
W kk 1
2
1
2
k
W
2
1
k1
2
k
W
+1
k1
1
2
(3.2.2)
1
ここで ,
gk (u) = x;
である3. よって,
W
k(r;k)u
2r
= ;
k(r;k)
2r
c d g (u)g (c)
a
c
b a u gb(u)gd (u) 1
2
(3.2.3)
ja;cj
(3.2.4)
l;k) (u)j に対して,
N
が成り立つ. よって , 今サイズ N で切った角転送行列 ASE
(
l;k
l;k) (u) = gl (u)N +1 z HCTM
A(SE
;
N
N g (u)g (u)
k
1
(
l2
が成り立つ. ただし , k1 = k, kN +1 =
また, ゲージ変換後の交叉対称性
)
N
X
HCTM = 14 j jkj ; kj +2j
j =1
(3.2.5)
l1 , kN +2 = l2 とする.
c d s [b][d] b c s [b][d] d a a b W b a u = [a][c] W a d 1 ; u = [a][c] W c b 1 ; u = W d c u
(3.2.6)
, 各頂点の状態を一斉に r シフトする不変性を利用して, k = nr + k0 (0 < k0 < r) として得られる k0
を改めて k とおいている .
3 正確には
3.2.
角転送行列 II|SOS の場合
より,
l;k) (u)
ASW
N
(
=
l;k) (u)
ANE
N
(
=
33
s [k][l ]N
[l ]N ;
l;k) (u)
ASE
N
(
1
l;k) (u) = A(l;k) (u) (3.2.7)
A(NW
SE
N
N
2
+1
gk (u)gk (1 ; u) = gk (1) に注意すると,
N gl (1)2(N +1)
Ek ElN 4HCTM
2]
4HCTM
x
(3.2.8)
(Nl;k) = [k][l
x
=
[l1]N +1 gk (1)2 gl (1)2N
ElN +1
を得る. ここで ,
Ek = x r (x2k ) = (x2k ; x2r )1 (x2(r;k); x2r )1 (x2r ; x2r )1
である.
次に ,
XN (k; l1; l2 ) = qHCTM
(3.2.9)
を計算する. まず小手調べに N = 1; 2 に対して書き下してみると,
X1 (k; k 1; k) = 1; X1 (k; k 1; k 2) = q ;
X2 (k; k; k 1) = 1 + q; X2 (k; k 2; k 1) = q ; X2 (k; k 2; k 3) = q
一般の N に対する表式を書き下すために , 次の記号を用意しよう. N > 0, M 2 Zに対し ,
N (q; q)1
(q)N
M q = (q)M (q)N ;M ; (q)n := (qn+1 ; q)1
N を定義する. (q)n の定義により, M < 0, M > N のとき
M q = 0 であることを注意する.
また,
N N ;1 N N ;1 M N ;1 ;
N ;M N ; 1
;
=
q
;
=
q
M q
M ;1 q
M q
M q
M q
M ;1 q
(3.2.10)
が成り立っている. XN (k; l1 ; l2) が次の初期条件と漸化式
X0 (k; l1; l1 1) = kl ; XN (k; l1; l1 1) = XN (k; l1 1; l1) + q N XN (k; l1 1; l1)
(3.2.11)
により定義される. すると, (3.2.11) をみたす解として,
XN (k; l1; l2 ) = q k(k;1); kl+ l(l+1) 1 (N +Nk ; l ) ; l = 12 (l1 + l2 ; 1) (3.2.12)
1
2
q
4
を得る . よって, (3.2.8) と (3.2.12) より,
Ek ElN k(k;1);2kl+l(l+1) N
(l;k )
N = N +1 x
(3.2.13)
1
(N + k ; l1 ) x
El
2
が成り立つ.
1
2
1
1
2
1
2
1
2
2
1
1
4
3
2
1
2
1
4
2
4
1
r
; ; ; に制限した RSOS 模型について議論して
[10] の対応する結果 (2.3.5) とは少し異なる
4 著名な Andrews{Baxter{Forrester の論文 [10] では ,
=4 5 6
いる . ここで与えられた (3.2.12) は generic な に対する表式なので,
が , 本質的な部分, 証明すべきポイントは同じである .
r
CHAPTER 3.
34
ElN =ElN +1 の因子があって N ! 1 の極限が取れない.
となる. この式では ,
格化された確率
Pk := Nlim
!1
ブートストラップ解析
2
1
l;k)
XN
(
kl+i(2)
=
(l;k )
N
そこで , 次の規
k(k;1);2kl+l(l+1) Ek (x4 ; x4);1
1
xk(k;1);2kl+l(l+1) Ek (x4; x4);1
Xx
(3.2.14)
1
kl+i(2)
k ; l1 を固定したとき,
N
= 1
lim
N !1 21 (N + k ; l1 ) q (q; q)1
が成り立つことを用いた. 確率 (3.2.14) の分母を計算すると,
X k(k;1);2kl+l(l+1)
1
El0 = E 0 (i)
x
E
=
k
l
(x4 ; x4)1 kl+i(2)
(x2; x4)1
を計算してみよう. ここで ,
(3.2.15)
となる. ここで ,
El0 = x r; (x2l ) = (x2l ; x2r;2)1 (x2r;2;2l; x2r;2)1 (x2r;2 ; x2r;2)1
2
であり, また,
ものを以後,
2
(i) は前節で求めた 8V の指標である.
確率 (3.2.14) の分子に
x rl; ;l を乗じた
k(k;1);2kl+l(l+1)
r; k ;2kl+ r l
r
r;
[k]x
=
4
4
(x ; x )1
(3.2.16)
2
l;k) = x rl;1 ;l Ek x
(
と記し , これを
X
kl+i(2)
(x4; x4)1
1
2
1
2
2
1
Hl;ki の指標と呼ぶことにする. こう定義しておくと, 規格化の式 (3.2.15) は,
( )
(l;k) = x rl; ;l El0(i) = [l]0(i) ;
と書くことができる.
2
1
[l]0 := x rl; ;l El0 = [l]jr7!r;1
2
1
(3.2.17)
3.3. I 型頂点作用素と相関函数
35
3.3 I 型頂点作用素と相関函数
半無限モノド ロミー行列
(u) =
X
"=
" (u) v" := Rt02t (u)Rt01t (u) : H(i) ! H(1;i) V
0 2
により I 型の頂点作用素 (VO) を定義する
関係
" (u1 )" (u2) =
1
を得る.
2
(3.3.1)
0 1
[8]. YBE を繰り返し 用いることにより, 次の交換
X
"01 ;"02
R(u12)""0 ""0 "0 (u2 )"0 (u1)
1 2
2
(3.3.2)
1
1 2
(3.3.1) とは別の半無限モノド ロミー行列
0(u) =
X
"=
v" 0" (u) := R02(u)R01(u) : H(i) ! V H(1;i)
も同様に定義できる.
いま, ある行における連続する n 個の縦の辺上のスピンが "1 ;
i) (u)
A(NW
i) (u)
A(SW
" (u1)
????
?
?
?
?
"n (un )
1
?
"1
?
0" (u1)
1
?
"n
(3.3.3)
; "n である確率を考えよう.
i+n) (u)
A(NE
????
?
? ASEi n (u)
?
?
?
0
( + )
"n (un )
ここで ,
ASE と ANE の上付き添え字の (i + n) は mod 2 で考える.
YBE を繰り返し 使うことにより,
i) (u)A(i) (u) = A(1;i) (u)A(1;i)(u);"j (u ; 1);
0"j (uj )A(SE
j
NE
SE
NE
(3.3.4)
;i)
(i)
(i)
0
;"j
A(1NW;i)(u)A(1
SW (u)"j (uj ) = (uj + 1)ANW (u)ASW (u)
(3.3.5)
が成り立つ. よって ,
" (u)(i) = (1;i)" (u ; 2)
(3.3.6)
CHAPTER 3.
36
ブートストラップ解析
が従う. また,
Pn(i)(u1; ; un)" "n = 1(i) trH i (" (u1 ) "n (un )"n (un) " (u1)(i) );
" (u) = ;" (u ; 1)
(3.3.7)
1
において, u1
一般に ,
( )
1
1
= = un = u とおいたものが求める確率である.
G(ni) (u1; ; u2n)" " n = 1(i) trH i (" n (u2n) " (u1)(i) )
1
2
( )
2
(3.3.8)
1
とおくと, 次のブ ートストラップ 方程式が成り立つ:
R 行列対称性
1.
G(ni)( ; uj +1; uj ; )"j "j =
+1
2.
X
0 0
R(uj j +1)""j0j ""j0j G(ni) ( ; uj ; uj +1; )"j "j :
+1
"0j "0j+1
+1
+1
(3.3.9)
差分関係式
G(ni)(u1 ; ; u2n;1; u2n ; 2)" " n; " n = G(ni) (u2n; u1 ; u2n;1)" n " " n; : (3.3.10)
1
3.
2
1 2
2
1
2
1
正規化条件
X
"=
G(ni)(u1 ; ; u2n;2; u; u ; 1)" " n; ";" = G(ni;) 1(u1 ; ; u2n;2)" " n;
1
2
これらのうち, 最初の 2 つより, レベル
式が従う:
2
1
G(ni)(u1 ; ; u2n) =
X
"1 "2n
v" v" n G(ni)(u1 ; ; u2n)" " n
1
2
(3.3.11)
;4 の量子 Kunizhnik{Zamolodchikov(q-KZ) 方程
G(ni)(u1 ; ; uj + 2; ; u2n) = Rj j ;1(uj j ;1 + 2) Rj 1 (uj 1 + 2)
Rj 2n (uj 2n) Rj j ;1(uj j +1)G(1n ;i)(u1 ; ; uj ; ; u2n):
ここで ,
2
1
2
2
(3.3.12)
(3.3.13)
である.
(3.3.12) を n = 1 のとき解くことにより, 8V の自発磁化に相当する量 [9]
h z ii =
X
"=
2
; x2)21 (;x2r ; x2r )21 :
"G(1i) (u; u ; 1)";" = (;1)1;i (x
(;x2 ; x2)2 (x2r ; x2r )2
を導出することができる5 . (レポート 問題
5 導出の仕方は
[8] を参照のこと.
1
11 (3.3.14) を導出せよ . )
1
(3.3.14)
3.4. 8VSOS から 8V へ
37
3.4 8VSOS から 8V へ
8VSOS でも I 型 VO を半無限モノド ロミー行列として定義することができる:
k k0 k k0 0
k
(u)k := W k2 k20 u W k1 k10 u : H(l;ki) ! H(1l;k;0 i) ;
1
1
0
0 (u)k := W
k
k0 k k0 k
k0 k u W k0 k
1
1
2
2
1
交換関係は次の通りである:
X
(u1 )ab (u2)bc = W
d
(3.4.1)
u : Hl;ki ! Hl;k;0 i :
( )
1
(1
(3.4.2)
)
c d a
d
b a u (u )d (u )c
12
2
8VSOS でも同様に角転送行列が定義され 6 , 交叉対称性により,
0
0
(3.4.3)
1
0
0
l;k) (u)A(l;k) (u) = (;1)k;l (k0 ; k)[k]A(l;k ) (u)A(l;k ) (u)(u ; 1)k ;
0(uj )kk A(SE
j
k
NE
SE
NE
0
(3.4.4)
0
l;k ) (u)A(l;k ) (u)0(u )k0 = (;1)k;l (k0 ; k)[k0](u + 1)k0 A(l;k) (u)A(l;k) (u)
A(NW
j k
j
k NW
SW
SW
が成り立つ. Andrews{Baxter{Forrester の著名な結果 [10] によれば ,
(3.4.5)
l;k
(l;k )
l;k) (u)A(l;k) (u)A(l;k) (u) = [k]x4HCTM
(l;k) := ANW
(u)A(SW
;
SE
NE
(
l;k)
(
:= trHl;ki (x
4
( )
)
(3.4.6)
r ;1 2
r 2
r;1 l ;2lk+ r k
(l;k)
x
HCTM
)=
(x4 ; x4)1
が成り立つ. また, これらをあわせて
0
l;k)
l;k)
(u)kk x4HCTM = x4HCTM (u ; 2)kk
(
(
0
(3.4.7)
を得る.
いま, ある行における連続する n + 1 個の頂点における力学変数が k0(=
ある確率を考えよう. この確率は, 前節と同様の議論により,
k); k1; ; kn で
Pl(i)(u1 ; ; un)kk kn = [k]
tr i ( (u1 )kk (un)kknn; (un )kknn; (u1)kk (l;k) )
(l i) Hl;k
(3.4.8)
で , u1 = = un = u とおいたものに等しい. ここで ,
(u)kk0 = (;1)k;l (k0 ; k)[k](u ; 1)kk0
(3.4.9)
である. また, 正規化因子は
0
X
(l i) :=
[k](l;k) = [l]0(i) = (x2;[l]x4) ; [u]0 := [u]jr7!r;1
(3.4.10)
1
kl+i (2)
1
( )
1
1
6 実際には事実は逆で , hard hexagon 模型などの面模型に対して
模型版が , [8] で導入されたのである .
1
1
Baxter が角転送行列を導入した後に, その頂点
CHAPTER 3.
38
ブートストラップ解析
で与えられる7.
レポート 問題
12 (3.4.10) を示せ.
(i)
いま, 8V における (i) = x2HCTM と 8VSOS における (l;k) =
lk
lk
よう. (u0)lk = T(u0) T (u0)lk = 1 とトレースの性質を用いて,
[l]0trH i (i) =
( )
X
kl+i (2)
X
trHl;ki (l;k) =
( )
であるから ,
(i) =
kl+i (2)
X
l;k)
[k]x4HCTM
(
trH i (T(u0 )lk (l;k) T(u0)lk )
( )
l;k)
T (u0 )lk [l]0 T (u0 )lk
(
kl+i (2)
との関係を調べ
(3.4.11)
(3.4.12)
を得る. 頂点・面対応 (2.3.12,2.4.3) を繰り返し 使うことにより,
X"
0
0
t (u ; u )kk (u)kk T(u )lk ;
k
X
k "
T (u0 )lk0 " (u) =
0
T(u0 )lk0 (u)kk0 =
となるから ,
"
0
t" (u ; u0)k0 (u)T(u0)lk
8V の相関函数は 8VSOS の相関函数を用いて,
G(ni) (u1; ; u2n)" " n
= 1(i) trH i (" n (u2n) " (u1 )(i) )
(l;k )
X
= 1(i)
trHl;ki T(u0 )lk " n (u2n) " (u1)T (u0 )lk [l]0
1
( )
2
2
1
2
( )
kl+i (2)
1
X X
X "n
= 1(i)
t (u2n 0 )kk n t" (u10)kk
kl+i (2) k n =k1 k =k 1
(l;k )
k
lk
k
trHl;ki (u2n)k n (u1 )k (u0)lk [l]0
と表せる.
2
2
1
( )
7 証明は
(3.4.13)
[11] の Appendix B を参照せよ.
2
2
1
1
2
2
2
1
1
(3.4.14)
3.5. II 型頂点作用素と形状因子
39
3.5 II 型頂点作用素と形状因子
O
形状因子とは , ある局所作用素 の行列要素である. ここで行列要素というとき , 行列の添え
字に当たるものとし て, 基底状態から生成作用素により励起させた状態をとる. すなわち, 2 つ
の励起状態間の遷移確率にあたるものである. 励起状態をつくるための頂点作用素は, Sec.10
で定義した I 型 VO と少し 性質が違うため, II 型の頂点作用素 (VO) と呼ばれる:
(u) : V H(i) ! H(1;i) ;
" (u) = (u)(v" ):
(3.5.1)
II 型 VO の交換関係に現れる S 行列を導入しておこう. いま, r > 1 に対して,
c d c d S(u) = ;R(u)jr7!r; ; W 0 b a = ;W b a 1
により
により
r7!r;1
S 行列と W 0 を,
;
t0 (u)kk0 := t (u; ; r ; 1)kk0 :
(3.5.3)
II 型 intertwining vector を定義する. このとき, (2.4.3) により,
X 0 c d 0 c 0 d
0
b
0
c
t (u1)a t (u2)b S(u12 ) = W b a u12 t (u1 )d t (u2)a
d
が従う. ここで ,
(3.5.2)
(3.5.4)
(3.5.2) における正規化因子は
~ (u) = ;~(u)jr7!r;1 = r;r (z(z)
;1 ) ;
(3.5.5)
1
(x2 z; x4; x2r;2)1 (x2r z; x4; x2r;2)1
(z) = (z;
x4; x2r;2) (x2r+2 z; x4; x2r;2)
1
で与えられる.
II 型 VO は次の交換関係をみたす:
X
" (u2 )" (u1 ) =
2
1
"01 ;"02
(3.5.6)
1
01 02
"0 (u1 )"0 (u2)S(u12 )"" ;"" ;
1
1 2
2
" (u1 )" (u2 ) = (u12)" (u2)" (u1 );
" (u)(i) = (i) " (u ; 2):
1
2
1
2
(3.5.7)
ここで ,
(u) := ;1 x(;(;xzxz)
;1 ) ;
z = 2 = x2 u
4
x
4
である.
いま,
(3.5.8)
E"(jj ") 0j を j サイトにおける行列単位とし , 次の形の局所作用素を考える:
O = E" "0 E"nn"0n ;
(1)
1 1
( )
(3.5.9)
CHAPTER 3.
40
ブートストラップ解析
この形の局所作用素は
O^ = " (u) " (u)"0 (u) "0n (u)
(3.5.10)
のように I 型 VO で表すことができる [2]. 局所作用素 O の 2m 点形状因子は次のように定義
1
1
1
できる:
Fm(i)(O; u1 ; ; u2m ) m = 1(i) trH i m (u2m ) (u1 )O^ (i) :
1
( )
2
ここで , 局所作用素 (3.5.9) は
2
1
(3.5.11)
(u)(u ; 1) = 1
により,
II 型 VO と可換である.
8VSOS でも同様の定義ができる. II 型 VO
;i)
(u)ll0 : H(l;ki) ! H(1
l0 ;k
は次の交換関係をみたす:
(u2)ad (u1 )dc =
(3.5.12)
X c d a b
W b a u (u )b (u )c ;
b
12
1
2
k0
(u1)kk0 0(u2 )ll0 = (u0 12) (u2)ll0 (u
1 )k ;
0
(u)ll (l;k) = (l ;k) (u ; 2)ll :
(3.5.13)
さて II 型 VO は, T(u0 )l;k や T(u0)l;k とど のような intertwining relation をもつべきか. I
型のように絵が描けないので , consistency から決めざ るを得ないが , 次のように考えられる.
" (u)T(u0 )lk =
(u)ll0 T(u0 )lk =
ここで ,
X
T(u )l0 k (u)ll0 t0" (u ; u ; u )ll0 ;
l0
X
l0 k 0"
l0
0
"
0
0
T(u0 ) " (u)t (u ; u0 ; u0)l
(3.5.14)
u0 は後で決まる定数シフトである.
レポート 問題
13 consistency check とし て, 次の命題を証明せよ.
命題 3.1 [12, Appendix A] (3.4.12), (3.4.13), (3.5.14), (3.4.3), (3.5.13) から , 次の homogenity conditions
" (u)(i) = (i) " (u ; 2);
が成り立つ.
" (u)(i) = (i) " (u ; 2):
(3.5.15)
Chapter 4
ボソン化といくつかの結果
41
CHAPTER 4.
42
ボソン化といくつかの結果
4.1 8VSOS の自由場表示
8VSOS の VO など の自由場表示を復習する. まず次のボソンを用意する:
p
x [(r ; 1)m]x [m ; n] = m [m][2m]
(4.1.1)
m+n;0 ; [Q; P] = ;1;
[rm]
x
x
ここで , [m]x は x-整数と呼ばれる量で次で与えられる:
m
;m
[m]x := xx ;;xx;1 :
いま, Fl;k := C [;1 ; ;2; ]jl; ki を jl; ki (k; l 2 Z+ ) を最高ウェイト
n jl; ki = 0 (n > 0); P jl; ki = (1k + 2l)jl; ki:
(4.1.2)
とする Fock 空間とする. ここで , 1 < 2 は次の 2 次方程式の根である:
ここでは
t2 ; 20 t ; 12 = (t ; 1)(t ; 2) = 0;
次に
3 つの自由場 'j (j = 1; 2; 0) を導入する:
p
s
0 = r(r 2; 1) :
X m
z ;m ;
m
m6=0
X m [rm]x ;m
p
z
'2 (z) := 2( ;1Q + P log(;z)) +
m6=0 m [(r ; 1)m]x
X m [2m]x ;m
p
'0 (z) := ;0( ;1Q + P log z) ;
z :
m6=0 m [(r ; 1)m]x
'1 (z) := 1( ;1Q + P logz) ;
(4.1.3)
(4.1.4)
以下にみるように , これらを指数にもつ作用素を考えると 8VSOS の VO を得る.
先ず, z = x2u, w = x2v とし て,
r ;1
r ;1
+ (u) = z r : exp('1 (z)) :; A(v) = w r : exp(;'1 (xw) ; '1 (x;1w)) :;
とおく. すると, Fock 空間 Fl;k 上の I 型 VO は次で与えられる:
1 (u); (u)k;1 = 1 (u)X(u) = 1 Y (u) (u);
(u)kk+1 = [k]
+
+
k
[k] +
[k]
ここで ,
I dw
[v ; u + 21 ; (rL ; (r ; 1)K)]
p
X(u) = 1
;
A(v)
[v ; u ; 12 ]
C 2 ;1w
I dw
3
1
p
Y (u) = A(v) [v ; u + 2 ; (rL ;1(r ; 1)K)]
[v ; u + 2 ]
C 2 ;1w
4
; ;
(4.1.5)
(4.1.6)
(4.1.7)
である. また, (4.1.7) で現れる周回積分の経路 C は, 分母の [v u 21 ] から来る極 w = x1+2nr z
のうち, n Z>0 なる点を内に , n Z<0 なる点および + (u)A(v) の normal ordering に起因
2
2
4.1. 8VSOS の自由場表示
0
する極 w = x;1;2n r z
と の逆関係
43
(n0 2 Z>0) を外にみる反時計回りの経路である.
X
k0
正規化因子 は ,
(u)kk0 (u)kk0 = 1
(4.1.8)
より, 次のように定まる:
;r
r
(x4 ; x4; x2r )1 (x2r+4 ; x4; x2r )1
x
= ; [1] (x2r;2; x2r )1 (x
2 ; x4 ; x2r ) (x2r +2 ; x4 ; x2r )
1
1
Fock 空間 Fl;k 上の CTM Hamiltonian は
1
2
(l;k )
HCTM
= P2 +
2
で与えられる.
レポート 問題
次に ,
r
1 [2m] [rm]
X
x
x
[m]x [(r ; 1)m]x ;m m
m=1
(4.1.9)
(4.1.10)
14 (4.1.10), (4.1.6), (4.1.8) から , (3.4.3), (3.4.7), (4.1.9) を示せ.
+ (u) = z r; : exp('2 (z)) :; B(v) = w r;r : exp(;'2 (xw) ; '2 (x;1w)) : : (4.1.11)
とおくと, Fock 空間 Fl;k 上の II 型 VO の自由場表示は次で与えられる:
(u)ll+1 = + (u); (u)ll;1 = + (u)X 0 (u) = Y 0 (u)+ (u);
(4.1.12)
4(
1)
1
I
1
0
X 0 (u) = 10 0 pdw B(v) [v ; u ; 2 + (rL ;1(r0 ; 1)K)] ;
u + 2]
IC 2 dw;1w [v ; u ; 3[v+;(rL
; (r ; 1)K)]0 :
1
2
Y 0(u) = 0 0 p B(v)
[v ; u ; 21 ]0
C 2 ;1w
(4.1.13)
ここで , (4.1.13) に現れる周回積分の経路 C 0 は, 分母の [v u+ 12 ]0 による極 w = x;1+2n(r;1)z
のうち n Z>0 なる点を内に , n Z<0 なる点および + (u)B(v) の normal ordering に起因
0
する極 w = x1;2n (r;1) z (n0 Z>0) を外にみる反時計回りの経路である. 正規化因子 0 は
と の逆関係
2
2
;
2
l0
0
(u1 )ll (u2 )ll00 = 1 u ;l00 u
1
2
から , 次のように定まる:
r
x 2(r;1) (x2r ; x2r;2)1
2
4
2r ;2
2r
4
2r ;2
0 = [1]0 (x2r;2; x2r;2) (x(x4; x; x4; x; x2r;2) )1(x(x2r;;2x; x;4x; x2r;)21) :
1
1
1
レポート 問題
(4.1.14)
(4.1.15)
15 (4.1.10), (4.1.6), (4.1.14) から, (3.5.13), (4.1.15) を示せ.
次節のために , もうひとつ別の作用素を導入してこの節を終わることとする:
W; (u) = W(u ; r;2 1 );
W (u) = z r r; : exp('0 (z)) : :
(
1
1)
(4.1.16)
CHAPTER 4.
44
ボソン化といくつかの結果
4.2 8V への翻訳
頂点・面対応 (2.3.12,2.4.3) を使うことにより,
X k k0 0
0
= L k k00 u ; u (u)kk (u )llkk
k
00
0 0
(u0 )llkk00 (u)kk
1
0
1
0
1
(4.2.1)
1
u ! u0 とすると, (2.4.8) より,
X
0
0 0
l0 k0+1 :
(u
)
0=
(u)kk0 (u0)llkk = + (u) [k0 1; 1] (u0)llkk ;1 + [kX(u)
0
lk
0 + 1]
k =k0 1
さらに , (2.4.10) により, l0 = l のとき
0
(4.2.2)
(u0)lklk0 = (;1)s [k[k]] X s (u0 ); (k0 = k ; 2s)
(i)
が従う. これは k0 6 k の場合であり, k0 > k のときは, Hl;k を Fock 空間 F;l;;k 上に実現
する別の表現を取らなければならない [4]. 相関函数を求める場合は , (3.4.14) により, これで
8VSOS の VO 等の自由場表示から , 8V の相関函数を求める準備が整った
.
0 0
次に , 形状因子を求める場合であるが , このとき, tail operatorllkk で l0 6= l のときの自由
場表示が必要となる. そこで次の関係式に注意する.
00 0 X
(u)ll000 (u0)llk00 k0 = (u0)ll0 kk0 (u)ll L0 ll ll u0 + u0 ; u :
(4.2.3)
1
l
が成り立つ. ここで ,
1
1
1
1
1
1
ここで , L0 は L の定義 (2.4.6) で r を r ; 1 に置き換えたものである. (4.2.3) で, k0 = k ; 2,
l0 = l ; 1, l00 = l とおくと,
0[u0 + u0 ; u + l]0
(u)ll;1 (u0 )lklk;2 = (u0)ll;;11kk;2 (u)ll;1 + (u0)ll;+11kk;2 (u)ll+1 [1]
[l + 1]0[u0 + u0 ; u]0
である. いままで得られた自由場表示を代入して,
0[u0 + u0 ; u]0
[k ; 2] 0
(u0)lkl;2k;2 = [1]0[u[l] +
u ; u + l ; 1]0 [k] [Y (u); X(u0)]:
0
0
ここで , Y 0 と X は一見可換なように見えるが , 左にある作用素が原点からみてより外側を回
らなければならないという制約から , 1 つの周回積分は 2 点における留数に置き換えられる.
さらに , 残りもう 1 つの周回積分も 2 点における留数に帰着できる. この計算ののち,
[l]0 [k ; 1][k ; 2] W (u )
(u0)llk;2k;2 = (x ; x1;1 )0 [1]
; 0
0 @[0][k]
@[0] = (x2r ; x2r )31 , また, この計算の過程で
u0 = ; 12
l0 k0 を用いて,
でなければならないことが分かる. 一般には適当な定数 Dlk
を得る. ここで ,
(4.2.4)
(4.2.5)
llk0 k0 (u0) = Dlkl0 k0 X 0 t;1(u0 + u0)W; (u0)Y s;1(u0); u0 = ; 21 ;
(4.2.6)
と書ける. ここで , k0 = k ; 2s, l0 = l ; 2t である.
(2.4.11) により, k0 > k のときには l0 > l であるが , この場合は H(l;ki) を Fock 空間 F;l;;k
上に実現する別の表現を取らなければならない.
4.3.
45
トレースの計算法
4.3
トレースの計算法
この節では, いくつかの簡単な場合にトレース計算を実際にやってみせることにする. 先ず最
初に , CTM Hamiltonian(4.1.10) から 8VSOS の指標 (3.4.6) を導いてみよう.
n1 n2
いま, [;m ; ;n ] = 0 に注意すると , Fock 空間 l;k は ;
l; k で張られているこ
1 ;2
とが分かる. また,
F
r
r
;
1
2P jl; ki = jl; ki r ; 1 l ; 2lk + r k
2
であるから ,
j i
2
]x
Am = [m[2]xm[(]rx;[rm
とおいて,
1)m]x
l;k
r;
trHl;ki (x4HCTM ) = x r;r l ;2lk+ r k
(
)
1
( )
2
1
r;
= x r;r l ;2lk+ r k
1
=
2
1
2
2
2
1 X
1 hl; kj n x Am ;m m n jl; ki
Y
m
;m
4
m1=1 n1
=0
YX
r;1 2 m=1 n=0
2
x r;r 1 l ;2lk+ r k
hl; kjmn ;n m jl; ki
x4mn
(4.3.1)
(x4 ; x4)1
を得る.
相関函数や形状因子のトレ ース計算はもう少し 複雑になる. たとえば , サイト
ける z
z =
の期待値 (相関函数) を計算しよう.
X
X
X
"=
j = 1 にお
";" (u ; 1)" (u)
(3.4.14) により,
X
X
hz ii = 1i
"
t;" (u ; u ; 1)kk t"(u ; u )kk
" kl i k k k k l;k
[k] x HCTM
trHl;ki (u ; 1)kk (u)kk (u )lklk [l]
0
( )
=
+ (2) 2 =
( )
1 1= 2
2
1
2
0
0
2
0
2
1
1
4
1
(
)
(4.3.2)
k2 = k ; 1 とおいて, " に関する和を実行すると,
k;l fk ; 1gfu ; u0 g
X ;"
(
;
1)
1 = k のとき )
k
"
k
;
1
"t (u;u0 ;1)k;1t (u;u0)k = [u ; u ] f0gfk ; 1 + u ; u g (k
(k
0
1 = k ; 2 のとき )
0
"=
と表せる. まず ,
1
となる. ここで ,
fug = x ur ;u x r (;x u)
2
2
2
である. 次に ,
k1 に関するの和を実行する. このとき ,
[v ; u + 12 ; k] fk ; 1gfu ; u0 g ; [v ; u0 + 12 ; k] f0gfk ; 1 + u ; u0g
[k ; 1][u ; u0]
[v ; u ; 21 ] [k ; 1][u ; u0 ]
[v ; u0 ; 12 ]
1
1
f
v ; u0 ; 2 gfv ; u + 2 ; kg
= ;
[v ; u ; 1 ][v ; u ; 1 ] =: g(v; u; u0)
0
2
2
に注意すると, 求める期待値は
hz ii = (;x ;1x ) (Hl i + H;il );
2
2
1
( )
( )
(4.3.3)
CHAPTER 4.
46
i
Hl =
( )
X
kl+i (2)
ボソン化といくつかの結果
1 I pdw g(v; u; u ) (u ; 1) (u)A(v) x4HCTM
0
+
+
C 2 ;1w
[l]0
(
trFl;k
i
のように書ける. ここで , Hl はそれぞれ
さて, 次の作用素積展開
( )
l;k)
!
(4.3.4)
k2 = k 1 からの寄与である1 .
2
4
2r
2r +2
4
2r
r;
2 =z1 ; x ; x )1
: + (u1 )+ (u2) :;
+ (u1)+ (u2) = z1 r (x(xz42z=z=z1; x; x;4x; x2)r1) (x(x2r z z=z
4
2r
2
1
1
2
1 ; x ; x )1
(4.3.5)
2
1
2r ;1
w=z; x2r)1 : (u)A(v) : :
+ (u)A(v) = z ; r;r (x(xw=z;
+
x2r )1
(4.3.6)
1
に注意すると,
+ (u ; 1)+ (u)A(v) = : + (u ; 1)+ (u)A(v) :
4
; x4; x2r )1 (x2r+4 ; x4; x2r )1 x r;r z ; r;r (x2r;1w=z; x2r )1
(x
(x6; x4; x2r )1 (x2r+2 ; x4; x2r )1 1 ; xw=z (x3 w=z; x2r )1
である. ここで , Bm = ;(x2m + 1)z ;m + (xm + x;m )w;m とおくと,
1 (u ; 1) (u)A(v) = ; [1] (x2 ; x2r )1 x r;r (2v;2u+ )
+
+
x ;rr (x2r;2; x2r )1 1 ; xw=z 0
1
z 2 P
2r ;1
2r
X
(x
w=z;
x
)
1
m
(x3w=z; x2r )
: exp @
Bm A :
m
1 xw
m6=0
1
1
1
3
2
1
2
1
2
1
となる. よって , 計算したいのは次のトレースである:
l;k 1 tr i (u ; 1) (u)A(v)x4HCTM
2l(v ;u+ );2 r ;
r k(v;u+ )
=
;
x
+
+
H
l;k
r;
r
2
2r
2 r;
r (v;u+ ) r; l ;2lk+ r k
[1];rr (x(x2r;;2x; x2)r1) x 1 ; xw=z x
(4.3.7)
[l]0
1
x
;
m
m
1
1
2r ;1
w=z; x2r )1 Y X hl; kjmn e; m B;m e m Bm ;n m jl; ki x4mn :
(x(x3 w=z;
x2r)1 m=1 n=0
hl; kjmn ;n m jl; ki
ここで ,
n
x[(r ; 1)m]m B
e; ;mm B;m e mm Bm ;n m jl; ki = e; ;mm B;m ;m + [m][2m]
m jl; ki: (4.3.8)
x[rm]x
n jl; ki の係数に x4mn を掛けて n に関する和を実行すると,
に注意する. 式 (4.3.8) の ;
m
1
n C [m] [(r ; 1)m] B B s
X 4mn X
m ;m m
n s ; x
x
s!
[2m]
[rm]
m
x
x
n1
=0
s=0
1
s
X
X
1 ; [m]x [(r ; 1)m]m B;m Bm
(4.3.9)
=
n Csx4mn
s!
[2m]
[rm]
m
x
x
s=0
x4m [m] [(r ; 1)m]n=sB B 1
x
m ;m m
= 1 ; x4m exp ; 1 ; x4m [2m]
[rm]
m
(
)
1
2
( )
1
1
4
1
2
1
2
1
2
x
1
k2 = k + 1 のとき , F; ;
l;
k
上でトレースをとることから
H;
(i)
l
x
の形に書ける .
1
1
2
4.3.
47
トレースの計算法
であるから ,
1 X
1 hl; kj n e; ;mm B;m e mm Bm n jl; ki
Y
;m
m
mn
x
hl; kjmn ;n m jl; ki
m n
1 x m [m] [(r ; 1)m] B B !
X
1
x
m ;m m
= (x ; x ) exp ;
m
1
;
x
[2m]
[rm]
m
1
x
x
m
=1
=0
4
4
4
(4.3.10)
4
4
=1
(x2; x2)21 (xz=w; x2r )1 (x3 w=z; x2r )1
= (x4; 1x4) (x
1 2; x2r )21 (xz=w; x2)1 (x3 w=z; x2)1
Hl(i) のトレース実行後の表式は次のようになる:
X I dw fv ; u0 ; 21 gfv ; u + 12 ; kg
(i)
p;1w [v ; u ; 1 ][v ; u ; 1 ]
Hl =
2
0
C
2
2 1
kl+i(2)
r l ;2lk+ r; k
r
;
r
:
x2l(v;u+ );2 r;r k(v;u+ )+ r;r (v;u+ ) x
[l]0
を得る. よって ,
1
1
2
1
1
2
1 2
2
1
2
1
2
(4.3.11)
ここで ,
[u]1 = [u]jr!1
である. まず , (4.3.11) で k に関する和を実行しよう. w = v ; u + 12 とおいて,
fw ; kg = x w;rk
(
より,
X
fw ; kgx lw;
2
kl+i(2)
=
2
)2
;(w;k) X xrn(n;1)(x2(w;k))n
n2
Z
r ;1 2
r 2
r;1 kw+ r;1 w2 x r;1 l ;2lk+ r k
r
r
X x r;r l ; lk k lw; kw
x
0
[l]
kl i
x rl; l w ;w X r; n n;
[l]0
1
2
2
+ 2
2
2
+ (2)
2
=
2
1+ +
Z
[l]0
n2
x(
1) (
w ;w+k X xrn(n;1)x2(w;k)n
n2
+ 2
1)
x;2ln
Z
X
kl+i(2)
x(k;l;n)(k;l;n+1);2(k;l;n)w
(4.3.12)
となる. ここで , 二重和が絶対収束し , 和の順序が取り替えられることを用いた. さらに , (4.3.12)
の n に関する和を偶奇に分けて足し 上げると,
x rl; +l+w ;w
[l]0
2
1
X
2
+
Z
Zx
n2
X
x(r;1)2n(2n;1)x;4ln
(
X
Z
Z
x(2k;i)(2k+1;i);2(2k;i)w
k2
!
r;1)2n(2n+1)x;2l(2n+1) X x(2k;1+i)(2k+i);2(2k;1+i)w
k2
n2
(i)
ここで , (4.3.13) と H;l の対応する二重和を加えると,
X
X
x rl; +l x(r;1)2n(2n;1)x;4ln ; x rl; ;l x(r;1)2n(2n;1)x4ln = ;[l]0
Z
2
1
n2
2
1
Z
n2
(4.3.13)
CHAPTER 4.
48
など から ,
xw2 ;w
;
X
Z
k2
x
ボソン化といくつかの結果
!
k;i)(2k+1;i);2(2k;i)w + X x(2k;1;i)(2k;i);2(2k;1;i)w
k2
Z
(2
= (;1)1;i[w]1
を得る. この結果と (4.3.3), (4.3.11) とを合わせて,
; x )1
hz ii = (;1)i ((x
;x ; x )
2
2 2
I
pdw;1w f[vv ;; uu ;; g]
2
C
0
1
2
1
2
(4.3.14)
0
1
を得る. ここで , (4.3.14) の積分は , w = x;2r w0 とおくことにより, x2r C 上の周回積分と等
2
2 2
しいが , 被積分関数が逆符号になることから ,
きる:
hz ii
これは
w = xz0 における留数により次のように評価で
I
2
dw fv ; u0 ; 21 g
; x2)21
p
= (;1) ;i ((x
;x2 ; x2)21 x2r C 2 ;1w [v ; u0 ; 12 ]
i
(x2; x2)21 Res dw fv ; u0 ; 12 g
= (;21) (;
x2 ; x2)21 w=xz0 w [v ; u0 ; 12 ]
(x2 ; x2)21 (;x2r ; x2r )21 :
= (;1)1;i (;
x2 ; x2)21 (x2r ; x2r )21
1
Baxter{Keland の表式 [9] に一致する.
(4.3.15)
4.4.
トレースの計算 II
4.4
49
トレースの計算
II
次にこの節では , 局所作用素 z の形状因子の計算について紹介する.
X
F (i)(z ; u1; ; u2m ) m = 1(i) "
1
X
l1 =l2 1
X
X
X
2
"= kl+i(2) k2=k+1 k1 =k2 +1 l2m =l1
t;" (u ; u0 ; 1)kk2 t"(u ; u0)kk21 t02m (u2m ; u0 + 12 )ll2m t01 (u1 ; u0 +
trHl;ki
( )
X
2m 点形状因子は
(l;k)
4HCTM
[k]x
l
k
l
2
k
2
1 k1
(u1 )l1 (u ; 1)k2 (u)k1 (u0)lk
2m
[l]0
(u2m )ll
と書ける. いま簡単のため,
!
1
2
)ll
1
2
(4.4.1)
m = 1 の場合を計算する:
X X 0
F (i)(z ; u1; u2) = 1(i)
t (u20 + 21 )ll t0 (u10 + 12 )ll F (i)(z ; u1; u2)l l l ;
l =l1 l =l 1
(4.4.2)
1
2
2
2
2
F (i)(z ; u1; u2)l ;l ;l =
1 2
1
X
"
1
1
2
X
X
X
t;"(u ; u0 ; 1)kk t" (u ; u0 )kk
"= kl+i(2) k2 =k+1 k1=k2 +1
!
(l;k)
4HCTM
[k]x
l
k
l
l
2
k
2
1 k1
trH(l;ki) (u2 )l2 (u1 )l1 (u ; 1)k2 (u)k1 (u0)lk
[l]0
;
;
式 (4.4.3) で, l2 = l 1, l1 = l 2 とおくと, (2.4.11) により,
ればならない. よって, k2, k1 , " に関する和は実行できて,
X
"=
1 2
2
2
2
1
(4.4.3)
k1 = k ; 2, k2 = k ; 1 でなけ
k;l
"t;" (u ; u0 ; 1)kk;1t"(u ; u0)kk;;12 = ([u;;1) u ] f0gfk ; 1 + u ; u0g
0
である. 次に , 有用な作用素積展開を揚げておく:
4
2r ;2
r
)1 (x2r+2 z1 =z2 ; x4; x2r;2)1 : (u ) (u ) :
1 =z2 ; x ; x
+ (u2 )+ (u1) = z2 r; (z
(x2z1 =z2 ; x4; x2r;2)1 (x2r z1 =z2 ; x4; x2r;2)1 + 2 + 1
(4.4.4)
2(
1)
3
z=zj ; x4)1 : (u ) (u) :
+ (uj )+ (u) = zj (x
(xz=zj ; x4)1 + j +
(4.4.5)
2r ;2
)1
0 =zj ; x
+ (uj )W; (u0 ) = zj; r; (x(xz
;1z0 =zj ; x2r;2)1 : + (uj )W; (u0) :
(4.4.6)
x2r )1 : (u)W (u ) :
+ (u)W; (u0) = z r (x(z20z=z;
+
; 0
2r
0 =z; x )1
(4.4.7)
1
2
1
1
1
CHAPTER 4.
50
ボソン化といくつかの結果
F (i)(z ; u1; u2)l;2;l;1;l は次のように表される:
X f0g
F (i)(z ; u1; u2)l;2;l;1;l =
fl;k (u1; u2; u; u0)g(u1 ; u2; u; u0);
[u
;
u
0]
kl+i(2)
よって,
(4.4.8)
ここで ,
u
u
r;
(i)
fl;k
(u1 ; u2; u; u0) = xk( r (u;1);(u +u )+ r );l(2(u;1); r;r (u +u )+ r;
x r;r l ;2lk+ r;r k fk ; 1 + u ; u0 g;
2(
1
1)
1
2
1
2 0
2
1
1
2
2 0
1)
4
4
2r 2
g(u1 ; u2; u; u0) = x; r r z r r (x(x2r+2; x; x;4x; x2)r1)2 (z0 =z; x2r )1 (x2r z=z0 ; x2r )1
1
4
4
2r ;2
)1 (x2r+2z1 =z2 ; x4; x4; x2r;2)1
1 =z2 ; x ; x ; x
(z
(x42 z1 =z2; x44; x44; x22rr;;22)1 (x22rr+6
z1=z2 ; x4; x4 4; x4 2r;2r2;)12
z2 =z1; x ; x ; x )1 (x z2=z1 ; x ; x ; x )1
(x
(x6 z2 =z1; x4; x4; xr2;r;2)1 (x2r+4 z2=z1 ; x4; x4; x2r;2)1
Y2
zjr;
(x2r ; x2r ; x2r;2)1
;1
4
5
4
2r +2 ; x2r ; x2r ;2)
1
j =1 (x z=zj ; x )1 (x zj =z; x )1 (x
2
2
r
+3
4
2
r
;
2
4
2
r
;
2
Y (xz0=zj ; x ; x )1 (x zj =z0; x ; x )1
;1
4
2r ;2 )
1 (x2r+1 zj =z0; x4; x2r;2)1
j =1 (x z0 =zj ; x ; x
+1
(4.4.9)
2
+3
2
1
(4.4.10)
である. 式 (4.4.9) を k について足し 上げると,
fl(i) (u1 ; u2; u; u0) :=
=
=
となる.
X
(i)
fl;k
(u1; u2; u; u0)
kl+i (2)
2
2u
(u;u0 ;1)2
;(u;u0;1)
;1 ;l(2(u;1); r;r 1 (u1 +u2 )+ r;01 ) x
r
x rrlX
X
2
k
;
2lk +2k (u;1);k (u1+u2 +1)
rn
x
x (n;1)x2n(k;1+u;u0)
n2
kl+i(2)
l2 ;l+ l (u1 +u2 ;2u0) (u;u0 ;1)2 ;(u;u0 ;1)
r;1
r ;1
xX
x r
X (k;l+n)(k;l+n;1);2(k;l+n)(u; u1+2 u2 ;1)
u +u
(r ;1)n(n;1) 2n(l+ 1 2 2 ;u0 )
x
x
x
n2
kl+i(2)
Z
Z
fl(0) fl(1) を計算すると,
u1 +u2
u1 +u2
;u ) +(
;u ) x;(u;
(fl(0) fl(1) )(u1 ; u2; u; u0) = x; r; (
u
+u
u
+u
0
f[ll++ u +2u ;;uu00]g0[ uf +u2 ;;u]u1g1
2
2
1
1
0
2
1
1
2
0
2
2
1
2
1
u1 +u2 ;1)(u; u1 +u2 ;2)
2
2
2
2
一方,
t0; (u20 + 21 )ll;1 t0+ (u10 + 12 )8ll;;12 t0 + (u20 + 12 )ll;1 t0; (u10 + 12 )ll;;12
p
p u u
>
1 l+ r;1 ;u ; r;1 1 u2(;ru;1)+1 ; r;1
<
l+ u u ;u p = ;f 0 (u10 + 21 )f 0 (u20 + 21 ) ;1 4 u ;u +1 ; p;1
>
;
: 4
r ;1
r
2(r ;1)
r
1+ 2
2
0
2
1
1+ 2
2
0
2
1
4.4.
トレースの計算 II
51
であるから ,
F
i (z ; u1; u2); = G(u1; u2; u)
( )
u1 +u2
u +u
1
2
(;1) ;i [ u22;u1;+1u]0 1 + f u22;u1;+1ug0 1
[
]
f
g
1
2
を得る. ここで ,
[u]1 := [u]jr=1;
また, G は c を適当なスカラー函数とし て,
Y
!
2
fug := fugjr ;
1
=1
r;2
z r;
G(u1 ; u2; u) = c(u1 ; u2; u) (x;1z=z ; x4)j (x5 z =z; x4)
j
1
j
1
j =1
4
4
2r ;2
2r +2
4
4
2r ;2
(z
=z
;
x
;
x
;
x
)
(x
z
=z
;
x
;
x
;
(x12 z 2=z ; x4; x4; x2r;12) (x2r z1 =z2 ; x4; x4; xx2r;2))1
1
2
1
1
2
1
2
である.
1
(4.4.11)
CHAPTER 4.
52
4.5
トレースの計算
III
c
この節では, 前節に引き続き, z の 4 点形状因子 (m
1; 2; )2 上で計算する.
(i)
次の Fl;2;l;3;l;2;l;1;l (u1;
; u4) を計算する:
F (i)(z ; u1; u2; u3; u4)l;2;l;3;l;2;l;1;l =
X
"
ボソン化といくつかの結果
= 2) の計算を, 無反射点 r = 1 + N1 (N =
X
X
X
t;"(u ; u0 ; 1)kk t" (u ; u0 )kk
2
"= kl+i(2) k2 =k+1 k1=k2 +1
!
(l;k)
4HCTM
k
l
;
2k1 [k]x
l
;
1 l
;
2 l
;
3
l
k
2
trH(l;ki) (u4)l;1 (u3 )l;2 (u2 )l;3 (u1)l;2 (u ; 1)k2 (u)k1 (u0)lk
[l]0
(4.5.1)
前節で使わなかった有用な作用素積展開を挙げておく:
2r ;1
w=zj ; x2r;2)1 : (u )B(v) :
+ (uj )B(v) = z ; r;r (x(x;1 w=z
j
+
j ; x2r;2)1
(4.5.2)
1
B(v)+ (u) = w 1 ; wz : B(v)+ (u) :
(4.5.3)
;2 =w; x2r;2)1
B(v)W; (u0) = w r; (x(x2zz0=w;
(4.5.4)
x2r;2)1 : B(v)W; (u0) :
0
式 (4.5.1) で, l1 = l ; 2 < l より, k1 = k ; 2, k2 = k ; 1 でなければならない. そのため,
tail operator は llk;2k;2 となり , W; (u0 ) に比例する. 結局, oscillator modes に関するトレー
スを実行すると, 次の形の 1 重積分が残る:
2
c
Y
i<j
G1(ui ; uj )
1
Y
4
j =1
G2(u ; uj )
G (u ; v)G (u ; v)
3
ここで ,
4
0
Y
4
j =1
I
dw [v ; u ; + l]0
p
0 2 ;1w [v ; u + ]0
5
2
1
C
1
1
2
G5(v ; uj ):
G1(u) = g1 (z)g1 (x4z ;1 ); z = x2u;
x4; x4; x2r;2)1 (x2r+2 z; x4; x4; x2r;2)1 ;
g1(z) = (z;
2
(x z; x4; x4; x2r;2)1 (x2r z; x4; x4; x2r;2)1
G2(u) = (x;1 z; x4) 1(x5 z ;1; x4) ;
1
1
G3(u) = (x;2 z; x2)1 (x4 z ;1; x2)1 ;
G4(u) = (x;2 z; x2r;2)1 (x4z ;1 ; x2r;2)1 ;
2r ;1
4
2r ;2
2r +3 ;1
4
2r ;2
G5(u) = (x (x;1z;z;xx4;;xx2r;2))1 (x(x3 z ;z1; x4; ;xx2; rx;2) )1 :
1
1
0
0
また, c は 1= に比例し , 従って [1] に比例しているから , r ! 1 + 1=N における極限値は 0 で
ある. 一方, 被積分函数と積分路の条件から , w = x1;2(r;1)z1 ( = 0; 1; ; N) で pinching
r
S
Su
2 をこのようにおくと,
行列 ( ) =
取り替えることにより系を無反射にできる.
;R(u)j 7! ;1 が対角または反対角になるので, 必要なら基底を適当に
r
r
2
1
4.5.
トレースの計算 III
53
が起こる. よって , これらの点における留数を評価することにより, (4.5.1) の積分は実行でき
る. 実際, これらの点の留数からのみ , c に含まれる [1]0 を打ち消す因子が出てくるからである.
結果は次の通りである:
[l ; 2]0
Y
i<j
G1 (ui ; uj )
Y
4
j =1
G2(u ; uj )
G (u ; u ; + (r ; 1))
4
ここで ,
0
1
2
1
Y
4
j =2
N
X
=0
c G3 (u ; u1 ; 21 + (r ; 1))
G5(u1 ; uj + 21 ; (r ; 1)):
c は zero-mode からの寄与も含めて , 次のように計算できる:
(4.5.5)
c = c0 ( l + u +u +u2 ;u ;1 ; u0 0 u ; u +u +u2 ;u ;1 ; r0
l + u +u +u2 ;u ;1 ; u0 0 u ; u +u +u2 ;u ;1 ; r0 1):
4
4
3
2
3
2
1
1
4
ここで , c0 は定数である.
式 (4.5.5), (4.5.6) は intertwining
X
1 2 3 4
4
3
3
2
2
1
1
(4.5.6)
1
vectors の直交関係より,
t0 (u40 + 21 )ll;1 t0 (u30 + 21 )ll;;12 t0 (u20 + 12 )ll;;23 t0 (u10 + 21 )ll;;32 F (u)
3
4
2
1
1 2
3 4
に 等し くなければならない. そこで , 結果が u0 にはよらないはずであることを 利用し て,
u0 = u3 +2 u4 2 とおこう. すると, 形状因子の成分のある線型結合に対して,
;
(F +;+; + F +;;+ + F ;++; + F ;+;+ )(u1; ; u4)
=
Y
i<j
G1(ui ; uj )
G (u
4
u
3+ 4
2
Y
4
j =1
G2(u ; uj )
N
X
=0
; u ; + (r ; 1))
5
2
1
c G3(u ; u1 ; 12 + (r ; 1))
Y
4
j =2
u
4 +u3 +u2 ;u1 ;1
[u ;
; (r ; 1)]1 :
2
u
1 +u2 ;u3 ;u4
0
; 1] [ u4 ;u3 +1 ]0
[
2
(4.5.7)
G5(u1 ; uj + 21 ; (r ; 1))
2
を得る. また, 他の線型結合に対して,
(F +;+; + F +;;+ + F ;++; + F ;+;+ )(u1; ; u4)
=
Y
i<j
G1(ui ; uj )
G (u
4
u
3+ 4
2
Y
4
j =1
G2(u ; uj )
N
X
=0
; u ; + (r ; 1))
5
2
1
c G3(u ; u1 ; 12 + (r ; 1))
Y
4
j =2
(4.5.8)
G5(u1 ; uj + 21 ; (r ; 1))
u u u ;u ;
fuf;u u ;u ;u ; 1g;0[ u(r;;u 1)]0g :
4+ 3+ 2
1+ 2
1
2
2
3
1
4
を得る. これらの結果は , 無反射点直上 r
再度指摘しておく.
1
4
2
3 +1
= 1 + N1 (N = 1; 2; ) においてのみ正しいことを
CHAPTER 4.
54
4.6
ボソン化といくつかの結果
これまでのまとめといくつかの問題
この講義では 8V と 8VSOS を例に SLM にまつわるいくつかの量を計算したが , この分野を
勉強するための文献をいくつか紹介する. まず何と言っても Baxter の本 [7] を挙げなければ
ならないが , 残念ながら絶版中である. 次に , 神保・三輪の本 [2] はほぼ全編 6V を例に取って
アフィン量子群の表現論を用いた SLM の代数解析的手法が詳述されている. また, この本の
中で詳し くは書いてない結晶基底を基本とし た解説 [3] が中屋敷により与えられている. ただ
し「 数理物理 95 」の予稿集なので , 一般の学生・研究者が入手できるルートは限られていると
思われる.
本講義の主題である 8V と 8VSOS については , Lashkevich の京大数研における集中講義
[4] に詳し い. もちろんこれは [11] と [12] に基づくものだが , これらの論文は正直よく分から
なかった. よく分からなかったので , 自分なりにブート ストラップ方程式を解いたりして [13]
ができたりしたのだが, [4] を聞いてようやく疑問が氷解した. 矢印の向きに VO が掛けられて
いると思ったら大間違いで, 矢印とは逆向きに掛けられていたのである. もちろんそれは表面
的なことで , なぜ逆向きにすべきかはそのときもよく分からなかったが , この集中講義を準備
する間に何となく分かった気がする.
この講義を理解したとして, 転んでもただでは起きないためには, どのような方向に研究を
進めればよいであろうか. ひとつは 8V の高ランク版である Zn 対称模型 (Belavin 模型) に進
むことである. 上で掛け算の向きと矢印の向きについて触れたが , 実際のところ 8V にはかな
り高い対称性があって, 矢印を縦横同時に逆にしても R 行列は不変であった. そう思えば , 向
きの不一致にも一応目をつぶって計算を進めることができた3 . しかし Zn 対称模型であれば矢
印の向きを勝手に逆にはできないから , 論文が書ける頃には作用素積をどの順番で行うべきか
といったことが本質的に分かるはずである. ただし , 少し考えてみればわかるが, 本稿の X; Y
や X 0 ; Y 0 に相当する量が複数現れてやりとげるのはかなり大変なことになるはずである.
別の拡張として, 8V の高スピン版がある. これは最近, 小島・今野・Weston によるプレプ
リント [14] が出たのでそちらに任せたほうがよいかも知れない. また, 境界付きの半無限格子
上の 8V で相関函数や形状因子を計算するということも, 面白いかど うかはど もかくこれから
の問題ではある.
では問題を 8V の通常のスピン 12 で + と の 2 種類の状態しかない場合に , ど のような問
題が解かれるべく待っているだろうか. ひとつは 8V のパラメーター r を特殊化するというこ
とである. これは [13] でも触れたが , r Q のとき, generic な r のときとは違う相関函数の積
分表示を構成することができる. 思い起こせば Baxter も, 8V を可換な転送行列法を用いて解
くときは , r Q としないとうまく最後まで解析できなかった. だから , おそらく相関函数や
形状因子も r Q でないと「よい解析的表示」を得るのは難しいのではないだろうか. 白石に
よる変形 W 代数の表現論に基づく 8V の解析 [15] も r Q における話である. ただし 今のと
ころ 8V と変形 W 代数の間の本質的な関係は分かっていないように思われる. そこで急がば
回れとばかりに , Lashkevich の構成法から出発し , r の値を特殊化することにより白石の結果
が導出できないかと現在 Lashkevich と共同研究中である. ただし , r Q とはいかず , 手がつ
) の場合についてである.
けられつつあるのは無反射点上 r = 1 + 1=N (N = 1; 2; 3;
本書のもととなった神戸大学での集中講義の期間中, 神戸大学のスタッフの方々とピザ屋
に行ったところ, その店のメニューに X.Y.Z という名のカクテルを見つけたので思わず注文
してしまった. アルコールに弱い私にとって決して容易ではなかったが , なんとか X.Y.Z を飲
み干すことができた. いつの日か , 8 頂点模型を飲み干すことができるだろうか.
;
2
2
2
2
3 とはいえ単純に矢印の向きを縦横同時に逆にしても
つまり矢印と掛け算の向きが逆なのは本質的である .
2
consistent には掛け算の向きと一致させることはできない .
Appendix A
付録
55
APPENDIX A.
56
A.1
付録
熱力学をものすごい勢いで復習する試み
この説では , 熱力学の基本事項を復習する. と言っても , それだけで一冊の本になるくらいで
あるから , 詳細は [16] など の教科書を読んでもらうこととして, ここでは熱力学の骨格につい
ての必要事項のみ述べることとする. 以下, 熱力学に限らず , 物理学の諸法則はすべて経験則
であって, 数学の意味での証明をつけることはできないことを注意する.
熱力学, 特に熱平衡状態における熱力学で基本的な概念を挙げるとすれば , 熱平衡状態と状
態変数 (状態量とも言う) ということになると思う. ここで , 熱平衡状態とは , 熱的に時間変化
しない状態のことである.
法則 A.1 (熱力学第 0 法則) A と B が熱平衡状態にあるとき , A B と記すことにすると,
は同値関係である.
したがってたとえば , A B かつ B C ならば A C が成り立つ. 同値関係 による同値
類に固有の量, すなわち, 互いに熱平衡状態にある系に共通の値が存在して, これを温度とい
う. ここでいう温度とは経験温度のことであるが , 後でわかることを先取りして, 以下, 絶対温
度と同一視することとする.
次に , 熱力学の教科書に現れる主な物理量を , 教科書 [16] での登場順にならべると , Q(熱
量), T(温度), p(圧力), V (体積), W(仕事量), U(内部エネルギー), H(エンタルピー), S(エン
トロピ ー), F (Helmholtz の自由エネルギ ー), G(Gibbs の自由エネルギー) である. これら 10
個の登場人物のうち, Q と W を除く 8 種類の量が状態変数と呼ばれる量である. 状態変数と
は , 熱平衡状態を指定すると決まる変数のことである. また, Q と W が状態変数でないとは ,
熱量と仕事量は熱平衡状態を指定しても一意に決まることはないことを意味する.
逆に, 熱平衡状態を指定するにはいくつの状態変数を指定すればよいのであろうか. 経験
によれば , T, p, V の 3 つの量を指定すれば決まることが 知られている. 熱力学の対象となる
1024 個程度の分子運動であり, 分子の内部構造を無視しても, 自由度は
系は , 微視的には N
その位置や運動量で 6N 次元と高いにもかかわらず , 熱平衡状態を指定するのにただ 3 つの状
態変数を指定するだけで十分だというのである. それだけでも驚愕の事実だが , その上, 3 つの
状態変数のうち独立な量は 2 つだけである. なぜなら, T, p, V の間には ,
f(T; p; V ) = 0
(A.1.1)
という形の状態方程式が成り立っているからである. たとえば , 理想気体の状態方程式は,
f(T; p; V ) = pV ; NkB T = 0 である. ここで , kB = 1:38 10;23J/K は Boltzmann 定数で
ある. よって, たとえば T と p を指定すれば熱平衡状態が定まり, これにより他の状態変数も
定義により定まる. さらに言えば , 8 つの状態変数の任意の 2 つを指定すれば , 熱平衡状態は定
まり, 従って他の 6 つの状態変数も決まることになる. このように密接に関係した状態変数で
あるが , 熱力学の多くの教科書では「 南総里見八犬伝」の八犬士よろし く, 後から少しずつ登
場するので , なかなか全体像がつかめない . こんなところにも, 熱力学のわかりにくさの理由
があるのかもしれない .
熱力学第 1 法則は , 熱を含めたエネルギ ー保存則である.
法則 A.2 (熱力学第 1 法則) 内部エネルギ ー U の増加量は, 外部から系に移った熱量 Q と外
部から系になされた仕事 W の和に等しい.
いま, エンジンのように, ある状態から出発して, 膨張や圧縮など を繰り返すことにより, 再び
元の状態に戻る過程を繰り返すとき, その過程をサイクルという. 第 1 種永久機関とは , 外部
からの熱補給なし に外部に対し 正の仕事をするサイクルのことをいう. この夢のサイクルさ
え発明されれば , エネルギ ー危機は一挙に解決する. しかし , 熱力学第 1 法則の教えるところ
によれば , そのような都合のよいサイクルが存在しない . 実際, U は状態変数なので 1 サイク
A.1.
熱力学をものすご い勢いで復習する試み
ル後, 元の状態に戻れば , U = 0. よって, 熱補給なし (Q
W = W = 0 となるからである.
熱力学第 1 法則を, 微小変化の過程について適用すると,
;
57
= 0) では 外部に対し てする仕事
dU = d0 Q + d0W
(A.1.2)
となる. 右辺の微分にプライムがつくのは, 不完全微分を表す. 実際, 仕事量は , 最初と最後の
状態だけでなく, 一般にその途中の過程にもよる. また, 左辺の量は, U が状態変数であるか
ら , 最初と最後の状態だけで決まり, 完全微分で表せる. よって, dU ; d0W は最初と最後の状
態だけでなく, 途中の過程にもよるので不完全微分で表せるのである.
さて , いま微小変化を考えたが , T; p; V; U をはじ めとする状態変数は, 熱平衡状態を指定し
て初めて決まるのであるから , 熱平衡状態を保ちながら, 状態を変化させる必要がある. そこ
で , 熱平衡状態を保ちながら , ゆっくりじ わじ わと少しずつ変化させる過程に , 準静的過程と
名前をつけておこう. 簡単な考察から , 準静的過程では ,
d0W = ;pdV
が成り立つことが分かる.
熱現象の本質はその不可逆性にある.
A.3 (Clausius
(
法則
の原理 熱力学第 2 法則
源から高温熱源に移すことはできない.
(A.1.3)
)) 他に何の変化も残すことなしに , 熱を低温熱
この原理と数学的に等価な原理として, 第 2 種永久機関の存在を否定した次の原理がある:
A.4 (Thomson
)
1
法則
の原理 1 個の熱源から熱を吸収して, そのすべてを仕事に変えるサイ
クル (第 2 種永久機関) は存在しない.
熱力学第 2 法則を, 理想的な準静的可逆熱機関2 に適用してみる. 高温熱源から得た熱量の
うち, 外部に対する仕事に回る割合を熱効率というが, この値が , 使用し た気体等の物質によ
らず, 高温熱源と低温熱源の温度のみによること, これにより, 物質の種類によらない絶対温
度の存在が示される. これをさらに一般の準静的過程に適用することで, 新たな状態変数 S(エ
ントロピ ー) の存在が示される3 . 微分形で書くと,
d0Q = TdS
(A.1.4)
である.
以上のことから , 準静的微小過程では ,
dU = TdS ; pdV
(A.1.5)
が成り立っている. 状態変数のうち独立なのは 2 つだけであったから , 関係式 (A.1.5) は , 内部
エネルギー U が , S と T の函数 U = U(S; T ) であることを表している. また, (A.1.5) が完全
微分の式であることから ,
@U T = @U
;
;
p
=
(A.1.6)
@S V
@V S
が従う.
, Carnot サイクルと呼ばれている.
, エントロピーは直接観測可能な量ではないので, 統計力学でその意味付けをしないと, 何となくイメージ
がわきにくい量である.
2 等温膨張・断熱膨張・等温圧縮・断熱圧縮を繰り返すサイクルで
3 ただし
APPENDIX A.
58
付録
上の U = U(S; T) で, エントロピ ー S を状態変数に取るのは実際には難しい. そこで , い
ろいろと Legendre 変換してみる. まず , H = U + pV とおくと,
dH = T dS + V dp
が成り立つ. よって ,
(A.1.7)
V = @H
@p S
T = @H
@S p ;
が従う. 次に F = U ; TS とおくと,
(A.1.8)
dF = ;SdT ; pdV
が成り立つ. よって ,
@F ;S = @T
が従う. 次に
@F ; p = @V
;
V
(A.1.9)
G = H ; TS = F + pV とおくと,
が成り立つ. よって ,
(A.1.10)
T
dG = ;SdT + V dp
(A.1.11)
@G (A.1.12)
;S = @T
p
;
@G V = @V
T
が従う.
8 種の状態変数がすべて揃ってみると, 仁義礼智忠信孝悌の玉に合
わせ, 状態変数 UV FTGpHS を配置した右の Born の図式にまとめ
られる. ここでたとえば , U の辺の両端点にある S と V が U の自
然な独立変数であることを意味する. また, U の完全微分の式にお
ける dS の前に T がかかるのは S の矢印の先端が T であることか
ら, dV の前に p がかかるのは V の矢印の根元が p であることか
ら分かるようになっている.
;
さらに, 状態変数が C 2 級であることを仮定すれば ,
ら , 次の Maxwell の関係式が成り立つ:
@p @T ;
=
;
@S V
@V S
@V @T ;
=
@S p
@p S
S
H
p
U
@@ ;;
;@
;
; @@R
G
V
F
T
(A.1.6), (A.1.8), (A.1.10), (A.1.12) か
@S @p ;
=
@V T
@T V
@S @V :
=
;
@p T
@T p
(A.1.13)
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