「多様性を受け入れる街ポートランドから学んだこと」 茨城県桜川市 近納

「多様性を受け入れる街ポートランドから学んだこと」
茨城県桜川市
近納裕政
米国オレゴン州ポートランド。多様な個性を緑が包みこんで調和しているかのように思えたこ
の街は、人口約60万人の都市とは思えないとても静かな街だった。9日間という短い期間で
あったがたくさんの気づきや学びを得ることができた。この場を借りて報告したい。
「個性」
日曜日、私たちはレンタサイクルで町に飛び出した。しばらく走っていると、目に入ってく
る人々や建物がとても個性的なのに一体感を感じることが不思議でたまらなかった。しかし、
その不思議な気持ちは町の人へのインタビューを通じて徐々にクリアになっていった。
ひとりの女性が興味深い話をしてくれた。
「ポートランドが緑豊かなのは、もともと自然が豊
かだったからとか気候が良いからという理由だけではない。ポートランドに住む一人一人が緑
を大切にしているから緑豊かなのだ。
」ポートランドでは、たとえ自分の敷地に生えている木で
も切るためには地域や行政の許可が必要なのだという。また、インタビューをした全員から「ポ
ートランドの人は他の人の迷惑にならないようにしている。みんなを尊敬している。」という言
葉を聞くことができた。
私は、これまで「個性」とは独り善がりなことだと思っていた。自分の都合で発言したり行
動したりしている人に対して個性的という言葉を使っていた。しかし、本当の個性とは他人を
思いやる気持ちの上に成り立つということをポートランドの人々から学ぶことができた。多様
な個性が調和されているのは、それぞれが周りの迷惑にならないように、みんなが気を遣って
いるから成り立つのだ。これは、まちづくりにおいてもとても大切なことだと思う。それぞれ
の個性を活かす事は必要だ。しかし、お互いが尊敬しあう謙虚な気持ちが無いとひとつの大き
な力となることは難しい。一即全、全即一の精神がポートランドには根付いていた。
「傾聴」
深く心に残ったことの一つに、ポートランド市の聞く(意見を集める)姿勢が挙げられる。
様々な事例を学ぶ中で、ポートランド市が積極的に市民の声を聞こうと努力していることを感
じた。言語や人種、考え方が違う様々な市民の意見を聞くために、ポートランド市はアプロー
チの仕方や意見の収集方法などを工夫し、多種多様な取り組みを行っている。
市内散策中に行政に対する町の人の意見を聞くことができた。
「ポートランド市は私たちの話
を聞く努力をしてくれている。私たちの意見全てが実現されるとは思っていないが、話を聞い
てくれることがとても嬉しい。」また、イブニングサイトビジットで訪問した、マルトノマカウ
ンティのボネラさんはこう話してくれた。
「以前は行政に不信感を抱いていた。しかし、行政が
自分たちの話を一生懸命聞こうと努力していることを感じてから関係が変わっていった。そし
て、その積み重ねから信頼関係が生まれた。今では行政とエンゲージの関係を築いている。」
私はこれまで、自分が考えるみんなにとって良いまちを実現しようとしてきたのではないか
と反省している。みんなにとって良いまちをみんなと一緒になって作っていくためには、みん
ながどういうまちを作りたいのかをまず知る必要がある。そして、それは数の多少や声の大小
で判断してはならないということを学んだ。市民を信頼し、真摯に耳を傾け市民と丁寧に対話
をすること、情報をオープンにすること、マジョリティの意見だけを集約するのではなく、マ
イノリティの意見も交えて合意形成をしていくことが大切なのだ。
「挑戦」
私たち行政職員は、失敗してはいけないというプレッシャーと常日頃戦っていると思う。そ
のため、課題を解決するために考えたはずの政策はいつしか角が取れ、いざ取り組む時点では
失敗しないための政策に様変わりしていることがないだろうか。しかし、今回の研修を通じて
感じたのは、市民はそもそも行政が全てを完璧にこなすことができるなどと誰も思っていない
ということだ。
では、市民は行政に何を望んでいるのだろうか。そのヒントをオーク・グローブのチップス
さんからいただくことができた。チップスさんが必要としていたのは、自らがやりたい事を実
現するために必要な知識や情報を持っていて、課題解決に向けて一緒になって議論してくれる
専門家の存在だった。私たちは、行政のプロとしてその役割を担うことができるはずだし、担
わなければならない立場にあると思う。そして、そのためには、まず、市民が何をしたいと考
えているのか良く知る必要があると思う。
チップスさんは教えてくれた。大切な事は、みんなが分かる言葉で地域の人と話し、失敗し
たとしてもそこから何かを学び、粘り強く諦めずに小さな成功を積み重ねることだ。そして、
その一歩を踏み出すことだ。私たち行政職員は、失敗を恐れずチャレンジをしなければならな
い。
日本、ポートランドという色眼鏡を外してみたら同じものが見えてきた。ポートランドでで
きる事は日本でもきっとできるはずだ。公(public)の課題をみんなで解決していくために、
行政職員として、一市民として、力強い一歩を踏み出したいと思う。