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バイオミメティクスを超えて
最先端科学技術と豊かさの在り方
生物の構造や機能、生産プロセスなどから着想を得て、新しい技術の開発やものづくりに生かすバイオミメティ
クス(生物模倣技術)への注目が高まっている。そして、省エネルキー・省資源型モノつくりなど、持続可能性
社会実現への技術革新をもたらすものとしても期待されている。東京農大「食と農」の博物館で開催中の開館10
周年記念展示第 2 弾「バイオミメティクスを超えて!─昆虫などの生き物や自然に学ぶものづくり─」は、我々
の生活とバイオミメティクスとの関わりを再認識させ、心豊かな暮らしのスタイルを追求する中でテクノロジー
はどうあるべきなのかを考えさせる示唆に富んだ企画となっている。
バイオミメティクスが生んだもの
バイオミメティクスの取り組みは古く、1950年代後
半にオットー・シュミットによって提唱された。バイ
オミメティクスとして初めて製品化されたのは、果実
に多数の棘があるオナモミをヒントにしてつくられた
「マジックテープ」で知られる面ファスナー(開発者
はジョルジュ・デ・メストラル)。
ナノテクノロジーの進化とともに“新しいモノ”が
生み出されているが、今回の展示では──
■タマムシとモルフォチョウの構造色 タマムシは色
素をもたないのに、薄い膜が何枚も重なっている羽が
異なった波長の光を反射することで、さまざまな色を
タマムシ発色の金属加工品
作り出す。この層状構造を金属表面に作ることで、塗
る。この非常に細かい溝に水がたまって薄い水の膜が
料を使わずにタマムシのように自ら発色する金属が実
作られ、ベトベトした油などが付きにくくなっている。
現した。また、チョウはほとんどが色素による色だが、
青く輝く羽を持つモルフォチョウの鱗粉が放つ構造色
を模倣した繊維も誕生した。
このメカニズムを利用して汚れないタイルが開発され
た。
■ハスの撥水 ハスの葉は数ミクロンスケールの規則
に起こす定型的な行動(ジグザグクルリン)とそれに
的な凹凸があり、この構造によって水玉が形成される。
関わる神経回路を解明しデータ化することで「匂い源
雨が降れば葉の表面の汚れは水玉にくっついて転がり
探索ロボット」作り出した。
落ち、葉は常にきれいな状態を保つことができる(ロー
■蚊の針の構造 蚊の針は先端が細かいギザギザに
なっていて、皮膚との接触面積を減らし細胞の損傷面
タス効果)。このハスの表面構造を模倣して撥水する
布が生まれた。テーブルクロス、レインコートや帽子
などロータス効果をもつ商品が開発されている。
■ガの目(モスアイ) ガの目の乳頭状突起は外部か
■カイコガの匂い感知 カイコガの匂を感知するたび
積を最低限にとどめて皮膚に滑り込んでいく。そのた
め、刺された人は痛みを感じにくい。蚊の針の形状を
ら入ってきた僅かな光を無駄なく神経細胞に伝える機
まねて生まれたのが、“痛みのない”注射針。
■ハチの巣から学んだ軽量、高強度のハニカム構造
能を持っている。模倣したフィルムはガの目のように、
輸送機器、建築材料、音響機器など多くの分野で使わ
可視光線の波長より小さい周期の突起が存在するため
れている。
に、屈折率の変化が緩やかになり光をほとんど反射し
なくなる。無反射フィルムを博物館、美術館、水族館
■トンボの翅の構造を真似て作られた微風で回る風車
──など初期のものから最近の開発品までが紹介され
などのガラスに利用すればさまざまな角度からみても
ている。
良く見える。
■カタツムリの殻 炭酸カルシウムから成るカタツム
リの殻を電子顕微鏡で観察すると規則的な凸凹があ
このほか、「高速で水中に飛び込んで魚を獲 る際、
空気中と水中で1000倍もの抵抗差が生じているにもか
かわらず、水しぶきが極めて少ないカワセミの嘴 か
新・実学ジャーナル 2014.11
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