Hong Kong Tax alert

22 November 2013
2013 Issue No. 17
Hong Kong
Tax alert
給与所得税 - 株式報酬及び退職時に受領する
特定の収入に対する税務の明確化
今年初めに開催された内国歳入庁(以下「IRD」)と香港会計士協会(以下「HKICPA」)との
2013年度年次会合において、IRDは、特定の状況のもとで従業員が受領した標記報酬
に関する税務的基礎を明確化しました。
特定の状況におけるこれらの項目に対するIRDの税務的取り扱いの明確化は歓迎され
るべきものですが、他の多くの状況については言及されていません。これらの税務的問
題は複雑な案件ですので、貴社に該当する問題があります場合は専門家へのご相談を
ご提案申し上げます。
権利確定期間での雇用形態の変更に伴う株式報酬に対する税務
HKICPAの質問
HKICPAは、IRDが給与所得税において、雇用主から従業員に支払われた株式報酬によ
る利益の査定の慣行に、矛盾している実例があることに着目しました。
株式報酬が、グループ会社内で一定期間の役務を終了する(権利確定期間)ことを条件
としている場合で、期間中に従業員が、グループ会社内にて雇用形態の変更が行われ
た場合、ある特定の矛盾が発生しました。
最初のシナリオは、香港外での雇用のもとで外国会社に雇用され、2008年1月1日から香港での就労のため派遣された従業員
のものです。2009年1月1日付で、雇用主は、権利確定期間が3年の株式報酬を従業員に与えました。権利確定期間において、
この従業員の雇用形態は2011年10月1日に外国会社による雇用が終了し、現地採用となり、雇用主のグループ会社である香
港会社による香港での雇用となりました。
上記の事象は以下の時系列で表示されています。
香港駐在開始
2008年1月1日
現地採用化
受領日
2009年1月1日
2011年10月1日
非香港雇用期間
権利確定期間
2011年12月31日
香港雇用期間
IRDによる回答
課税対象時期の決定
IRDは、株式報酬が従業員に与えられるのは、権利確定時
の2011年12月31日となるため、株式報酬による収入は
2011/12税務年度において課税対象になることを最初に説
明しました。
(ii) $Ax92/1,095は、香港雇用期間に得た収入であるため、
従業員に日割計算申請の資格がなく、全額が課税対象と
なります。2
以上のことから、2011/12年度における株式報酬金額の課
税対象金額は、$Ax1,003/1,095xF + $Ax92/1,095となりま
す。
課税対象額の決定
さらに、IRDは2011年12月31日付で従業員に支払われる株
式報酬額$Aを例に挙げました。
IRDは$Aが権利確定期間内に従業員が行った以下の2つ
のサービス期間に帰属すると説明しました。(合計1,095日)
(i) 2009年1月1日~2011年9月30日における非香港雇用
期間(合計1,003日)
(ii) 2011年10月1日~2011年12月31日における香港雇用
期間(合計92日)
従って、株式報酬$Aは以下2つの要素で構成されていま
す。
(i) $A x 1,003/1,095 及び (ii) $A x 92/1,095
(i) $A x 1,003/1,095は、非香港雇用期間に得た収入である
ため、従業員は日割計算申請(香港外で提供した役務に起
因する収入を除外する申請)によって、香港で役務を提供
した部分に起因する収入のみを課税対象とする要件を満
たしています。このため、(i)の部分の課税対象額は
$Ax1,003/1,095xF(Fは権利確定年度の日割係数)となりま
す。1
雇用主による報告義務
IRDは、(i)の部分は2011/12年度に関して、海外グループ
会社に対して雇用主の申告様式IR56F3 による報告義務が
あり、 (ii)の部分は、2011/12年度に関して 、香港会社に対
して雇用主の申告様式IR56B4による報告告義務があると
助言を行いました。
1.
IRDは株式報酬が従業員に与えられるのは、権利確定日である2011
年12月31日となるため、権利確定年度の日割申請係数については、
サービス期間よりも権利確定期間(つまり2011年4月1日~2011年9
月30日)に係数を適用することが必要であると考えました。この点に
つきましては、内国歳入庁の解釈と実務指針38号(改訂)の64項をご
覧下さい。
2.
内国歳入法8条(1A)(b)(ii)及び8条(1B)のもとでは、査定期間におい
て香港外で提供したサービスから獲得した収入、または査定期間で
の香港訪問日数が60日を越えない場合、そのサービスから獲得した
収入は香港課税対象から除外することができます。
3.
申告様式IR56F – 雇用を終了する従業員に対して雇用主が行う申
請。申告書2011/12年度において、海外グループ会社により届け出
された申告様式IR56Fは、追加申請となります(香港外での雇用契約
のもとで2011年10月1日付で雇用契約が終了した場合、当該年度に
既に海外会社が届出したIR56Fに追加する形で提出します。)。
4.
申告様式IR 56B – 従業員の報酬及び年金に関する雇用主による
申告書
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下記の表は、雇用主からの報告義務と共に、2011/12年度において課税対象となる上記の株式報酬金額について要約したも
のです。
権利確定期間
日数
雇用形態
課税対象金額
雇用主による申告書
2009年1月1日 –
2011年9月30日
1,003
非香港雇用
$Ax1,003/1,095xF
追加のIR56F3
2011年10月1日 –
2011年12月31日
92
香港雇用
$Ax92/1,095
IR56B4
HKICPAによる第2のシナリオ
HKICPAが提示した第2のシナリオは、第1のシナリオと同様であるものの、2010年10月1日付(権利確定期間内)で従業
員が香港駐在を開始したというものでした。関連の事象は以下の時系列で表示されています。
香港駐在開始
現地採用化
権利確定期間
受領日
2009年1月1日
2010年10月1日
2011年10月1日
非香港雇用期間
非香港雇用期間
2011年12月31日
香港雇用期間
IRDの回答
IRDは以下のように説明しました。
課税対象時期の決定
第1のシナリオと同様に、IRDは、株式報酬が従業員に与え
られるのは、権利確定となる2011年12月31日となるため、
株式報酬による収入は2011/12税務年度において課税対
象になることを最初に説明しました。
(i)
(i) $Ax638/1,095部分の収入は、香港駐在に基づいて
従業員が香港で提供する役務が始まる以前のサービ
ス期間に起因しており、香港課税対象から除外されま
す。これはこの収入が当該期間に従業員によって香港
で提供された役務に起因していないためです。
課税対象額の決定
(ii)
(ii) $Ax 365/1,095部分の収入は、従業員が香港での
就業のために派遣された2010年10月1日から2011年9
月30日のサービス期間に起因しています。更に従業員
は、香港外での雇用契約のもとにあるため、従業員は
香港外で提供した役務に起因する収入を除外すること
ができる日割計算申請の要件を満たしています。この
結果、 (ii)の$Ax365/1,095xF部分のみが課税対象(Fは
権利確定年度の日割係数)となります。1
IRDは再度2011年12月31日付で従業員に支払われる株式
報酬額$Aを例に挙げました。
IRDは$Aが権利確定期間内に従業員が行った以下の3つ
のサービス期間に帰属すると説明しました。(合計1,095日)
(i) 従業員が香港での就労のために派遣される以前の
2009年1月1日~2010年9月30日における非香港雇用
期間(合計638日)
(ii) 従業員が香港での就労のために派遣された後の2010
年10月1日~2011年9月30日における非香港雇用期間
(合計365日)
(iii) 2011年10月1日付で従業員の雇用が現地化された後
の2011年10月1日~2011年12月31日における香港雇
用期間(合計92日)
(iii) (iii) $Ax92/1,095部分の収入は、従業員の雇用が現地
化された2011年10月1日から2011年12月31日の期間
に起因しており、全額が課税対象となります。2 これは
この期間において従業員が香港雇用契約のもとにあり、
この収入のいかなる部分も税務的に日割計算の要件
を満たすことができないためです。
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下記の表は、2011/12年度において課税対象となる上記の株式報酬金額について要約したものです。
権利確定期間
日数
雇用形態
課税対象金額
2009年1月1日 –
2010年9月30日
638
香港駐在前の非香港雇用期間
無
2010年10月1日 –
2011年9月30日
365
香港駐在後の非香港雇用期間
$Ax365/1,095xF
2011年10月1日 –
2011年12月31日
92
香港雇用期間
$Ax92/1,095
承認された退職金制度から受領した金額に対する比例的
な優遇規則
承認された退職金制度(香港のものと同様に海外で承認さ
れたものを含む)から従業員が受領した金額は、条件によ
ってはその一部または全額を、香港の課税対象から除外
することが可能です。
特に従業員のサービスが停止された際に受領する金額及
び雇用主が当該制度に対して任意的に拠出した金額に起
因する受領金額には、「比例的優遇」規則が適用されます。
一般的に「比例的優遇」規則のもとでは、従業員が雇用主
に10年間雇用されている場合、その全額を所得税計算よ
り除外することが可能です。雇用期間が10年以下である
場合は、除外される金額が比例的に減少します。
HKICPAから提起された質問について、IRDは「比例的優
遇」規則が特定の条件のもとで適用できることを明らかに
しました。雇用形態に変更がない場合、例えば従業員が
同一雇用のもとで香港で就業するために派遣された場合、
香港でのサービス期間に加えて、香港駐在以前のサービ
ス期間も「比例的優遇」規則の適用対象であることを、IRD
は確認しました。
しかしながら、香港での就業開始にあたって雇用条件が
変更された場合、例えば従業員の雇用主が、外国会社か
ら香港のグループ会社に変更された場合、香港雇用に先
立った雇用に基づくサービス期間は、「比例的優遇」規則
の対象とは認識されません。
5.
しかしながら、海外会社によって運用されているスキーム
の未払給付が、香港グループ会社によって運用されてい
るスキームへ移転する場合には異なる考察が適用される
可能性があります。
この点について、内国歳入庁の解釈と実務指針23号(改
訂)の27項では、「旧雇用主が運用していたスキームから、
現雇用主のスキームに給付金を移転する場合、要件を満
たすサービスとして現雇用主が認識している前雇用主へ
のサービスは、その全ての月数(または年数)の計算を考
慮に入れることができる(「比例的優遇」規則の適用時)。」
と述べています。
解雇手当及び退職金に対する税務
HKICPAの質問
HKICPAはIRDに対して、雇用条例(以下「EO」)第7条に基
づく雇用の停止に対する解雇手当が、雇用条件の一部で
あるとみなされ、当該支払の提供が香港課税対象となる
理由について明確にするよう質問しました。一方HKICPA
は、当該支払が雇用契約に基づく従業員の権利破棄に対
する賠償あるいは補償であるのは疑う余地がなく、当該支
払が香港課税対象とはならないと考慮していました。
この点においてHKICPAは、Fuchs, Walter Alfred Heinz 対
CIR 5の案件を引用しました(2011年に香港の最終法院
(以下「CFA」)によって判決が行われた「Fuchs」案件)。
Fuchs案件では、もし当該報酬が過去のサービスに対して、
あるいは将来のサービスを行うための雇用締結に対する
報酬の支払ではなく、他の理由により支払われている場
合、当該報酬は雇用に基づいて受領しておらず、香港の
給与所得税の対象にはならないと主張しました。
[2011] 2 HKC 422
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HKICPAは、 Fuchs案件では、退職金が雇用契約書の中
で特定されており、納税者にとって雇用契約を締結する動
機になったとも言えるため、これが課税対象になっており、
EO第7条に基づいた解雇手当とは同じではないと述べま
した。
HKICPAは、EO第7条が暗黙の雇用条件と解釈されている
としても、EO第7条の根拠によって雇用契約を締結する動
機とはならないと理由付けました。
更にHKICPAは、EO第7条に基づいて支払われた解雇手
当が暗黙の雇用条件であるとみなされ、この支払が香港
において課税対象であるなら、EOに基づいて支払われた
退職金も同様のことが言えるであろうと理由付けました。
HKICPAはIRDに対して、IRDの査定の慣行の問題として、
EOに基づいて支払われた退職金が課税対象とはならな
いのに、EO第7条に基づく解雇手当が課税対象となる理
由を説明するよう求めました。
IRDの回答
IRDは、雇用契約条件に準じて解雇手当の課税性が考慮
されたイギリス控訴院におけるEMI Group Electronics 対
Coldicott6案件で採択された方法について、香港もこれに
従うべきであると述べました。
EMI案件において、イギリス控訴院は、問題となっている
雇用契約が、契約上の解雇手当を支払い、雇用主によっ
て停止されたことを確認しました。このため、イギリス控訴
院は、雇用主が雇用契約に違反しておらず、雇用契約の
もとで従業員のいかなる権利も撤回されなかったと判断し
ました。その後、イギリス控訴院は、このような解雇手当は
雇用当初から契約上の合意が行われており、課税対象の
報酬であると裁決しました。
その後IRDは、EOのもとでは、雇用主または従業員のい
ずれも、要件を満たす期間内での通知、またはEO第7条
に従った解雇手当の支払により、雇用契約を停止すること
ができると述べました。
このため、香港の法律に基づく雇用契約を雇用主が通知
を行わず停止した状況においては、従業員はEO第7条に
従って、解雇手当を受領する権利を法的に実行すること
ができます。この案件では、雇用契約にこの権利が明記さ
れていませんでした。従ってIRDはEO第7条は雇用契約上、
暗黙の条項と解釈されるべきであると考えました。このた
め、上記に引用した判例法に基づいて、IRDはEO第7条に
基づいた解雇手当は香港で課税対象であると主張しまし
た。
EO第7条が、従業員が雇用契約を結ぶ実際の動機になっ
たか否かに係わらず、IRDは上記のEO第7条に基づいた
解雇手当への課税方法が適用されるだろうと付け加えま
した。
EOに基づく退職金の支払については、IRDはこのような支
払の背景にある法的な意図は、解雇手当と異なると述べ
ました。
IRDは、EOに基づいて支払われた退職金は、従業員自身
に過失のない契約の喪失に対して賠償を行う意図があっ
たと説明しました。それは単に喪失を補うためのもので、
長期勤続に対する報酬や、善行に対する報酬やボーナス
ではありません。これは余剰人員の解雇から発生したもの
であり、従業員の意志や過失という要素はありません。
更に、IRDは、「雇用から報酬を受領する代わりに、これを
補う支払であり、雇用時に可能であった生計が継続できな
くなった従業員」を救済することが退職金の本来の性質で
あると判断したイギリスの Mairs 対 Haughey7案件につい
て言及しました。
EMI案件での裁決は、従業員の契約締結を誘発した雇用
契約条件に基づいた支払であるFuchs案件でのCFAの裁
決とも一致しており、たとえ雇用の停止の際の支払であっ
ても、香港で課税対象になるであろうと考えられます。
6.
[1999] STC 803
7.
[1994] 1 AC 303
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IRDは、上記で説明した退職金の法的意図及びMairs 対
Haughe案件をもとに、EOのもとで計算及び支払が行われ
た法定の退職金が香港課税対象とはならないとするのは
IRDの査定の慣行であるというアドバイスを行いました。
しかしながら、IRDは、EOにおいて法定金額を越す退職金
が支払われ、この超過分が実際には提供した役務に対す
る報酬であった場合、香港で課税対象となると付け加えま
した。
この点において、IRDは、従業員によって提供された役務
に関して支払われた退職金に契約上の条件や金額交渉
があったかを解明するため、雇用主によって支払われた
超過金額に関する全ての状況確認を行うことを示唆しまし
た。
論評
上記の例で説明されるように、グループ内で従業員が雇
用形態を変更した場合の権利確定期間に関係する株式
報酬から発生する利益に対する税務は複雑です。IRDに
よる査定慣行の説明は、この件に含まれる問題を明確化
することに役立つでしょう。
またIRDは、雇用契約の明示的または黙示的な条項に準
じた雇用の停止によって支払われる特定の金額に関する
特定の状況の税務を明確にしたものの、他の多数の状況
については言及しませんでした。
例えば、EOではなく外国法に基づいた退職金や解雇手当
の支払は異なる税務取扱いとなるか、もし解雇手当が契
約に含まれていない場合の税務判断はどうなるか、過去
に提供された役務以外に、EOのもとで法定金額を超える
退職金はどう証明するか、などです。
これらは複雑な問題ですので、貴社に該当事項がありま
す場合は専門家へのご相談をご提案申し上げます。
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