Hong Kong Tax Alert

Hong Kong
Tax Alert
15 April 2016
2016 Issue No. 6
給与所得税 - 雇用契約終了時に受領した所
得・手当への課税
先日、Poon Cho-ming John v CIR [HCIA 2/2015]の案件で、初
級法院(以下「CFI」)は、納税者が雇用契約終了時に受領した特定
の報酬や手当(約5千万香港ドル相当)が、契約上の権利の破棄に
よる非課税の補償ではなく、「給与所得」として香港で給与所得税
が課されると判断しました。
当該判決では、実質的な内容として、支払金額が従業員としての
行為または従業員であることの引き換えとして、または雇用契約や
将来のサービス提供を誘引する場合、当該支払金額が課税対象
になると解説しています。
しかしながら、このような支払金額は「他の事象」に起因する可能
性がある状態や契約解除の条件によっては、課税対象とならない
可能性があります。
解除契約の条件を最終決定する前に、関連する全ての条件を判
別するために、税務専門家のアドバイスを受ける旨をご提案申し
上げます。
概要及び論点となっている問題
初級法院の決定
1999年10月20日付の雇用契約(以下「サービ
ス契約」)に基づいて、納税者はある香港上場
会社(以下「会社」)に、エグゼクティブ・ディレク
ター、会社秘書役及び副会長として雇用され
ました。
雇用を即日付で終了させるために、納税者と
会社が書面による合意(以下「解除契約」)を
行い、サービス契約は、2008年7月20日付で停
止されました。
解除契約に基づいて、納税者には、6ヶ月前の
事前通知及び他の法定上の権利に代わる支
払に加えて、2008年6月30日終了事業年度に
かかる50万ユーロの変動賞与相当の支払(以
下「合計額D」)が行われました。
また、解除契約において、3回分の株式オプ
ションの付与期間が、2008年7月20日の雇用
終了日まで繰り上げられました。これらのオプ
ションは、納税者によって行使され、結果的に
名目所得が行使日付の株式の市場価額と行
使価額との差額(以下「シェア・オプション所
得」)として、税務上計算されました。
納税者は、合計額D及びシェア・オプション所
得に関する内国歳入庁副長官の決定に対して、
調停機関(以下「BOR」)に訴えを起こしました。
納税者は、これら2件の金額が、サービス契約
に基づいた自己の権利の終了に対する補償
金額であると主張しました。 このため合計額
D及びシェア・オプション所得が、自己の給与
所得を構成しておらず、香港の給与所得税の
対象にはならないという主張を行いました。
BORは、合計額D及びシェア・オプション所得
がいずれも給与所得で、香港の給与所得税対
象になるという決定を行いました。その後、納
税者はCFIに訴えを起こしました。
「給与所得」の構成を判定するための法的テスト
何が「給与所得」を構成するかを判定させる法的原
則については、CFIが、2011年の最終法院における
Fuchs v CIR (2011) 14 HKCFAR 74での判決から
以下を引用しました。
“稼動テストは、常に以下の通りであるとされて
います。
納税者が雇用され、雇用が終了された状況を考
慮すると、当該金額が実質上、「給与所得」であ
るか?
当該金額が、納税者の行為または従業員であ
ることの引き換えとして支払われているか?
過去のサービスや雇用契約への誘引による結
果として与えられた給付金であるか?
上記に該当する場合、当該金額は課税対象とな
り、それが言語学的に許容されていたり、「職務
の喪失に対する補償」または他の類似の言語と
して表現されているかどうかは問題ではありま
せん。 一方、適切な分析に基づいて、上記に該
当しない場合、当該金額は課税対象となりませ
ん。上記の事例で「破棄」の事例として言及され
ている通り、支払が雇用契約に基づくものでは
なく、既存の契約上の権利を放棄することに合
意することに対して行われた場合がこれに該当
します。“
納税者が既存の契約上の権利を放棄したか?
上記の稼動テストに加えて、CFIは、納税者は、不
当解雇に対する訴訟の権利や、雇用者グループに
おける全ての役職を放棄することを含む、サービス
契約の下での全ての権利を放棄したという、法廷
弁護士の訴えを、却下しました。
裁判官は、会社が納税者への6ヶ月前の通告に代
わり、別途支払を行った結果、会社が2008年7月20
日に即日付でサービス契約を合法的に終了するこ
とになり、言い換えると、会社がこの条件下でサー
ビス契約に違反していないことに言及しました。こ
のように、納税者はサービス契約に基づいていか
なる権利も放棄したのではなく、不当解雇のために
訴訟を起こす権利もありませんでした。
納税者がグループ内で全ての取締役の職位を放
棄したことに関して、裁判官は、納税者と会社との
雇用契約が終了した際に、納税者はサービス契約
の条件に基づいてそれを行う義務があることに言
及しました。
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合計額Dおよびシェア・オプション所得は、サー
ビス契約または解除契約から派生していたか?
また、裁判官は、合計額D及びシェア・オプショ
ン所得がサービス契約ではなく解除契約から
派生しており、これら2件の金額が「給与所得」
として課税対象にはならないという納税者の主
張に関する、法廷弁護士の訴えを否決しまし
た。
裁判官は、当該オプションの権利付与日が早ま
ることは、シェア・オプション所得の課税性に影
響が無いと考慮しました。 これは、本来の権利
付与スケジュールに基づいて、納税者が雇用契
約の終了時に特定のオプションを全額獲得して
いなかったとしても、繰上付与が、雇用終了に
際して納税者の合法的な資格として追加された
金額として判断されます。
この点について、まず裁判官は、「2008年6月
30日付の変動賞与相当としての支払金額-
50万ユーロ」に関してBORが承認した証憑を再
調査しました。証憑は、事業年度(7月1日から
6月30日)終了時に会社の監査人が作成した
財務諸表でした。会社の経営陣は監査結果を
検証し、その後毎年8月頃、報酬委員会にボー
ナス可能額について提案を行います。 その後
報酬委員会は、会社の取締役会に提案を行い
ます。雇用期間の各年度(1997年から2007年)
において、サービス契約の特定の条項に基づ
き、納税者は会社から変動賞与を受領してい
ました。
いずれの場合においても、裁判官は、合計額D
及びシェア・オプション所得がサービス契約ある
いは解除契約から派生しているかどうかは、上
述の Fuchs v CIRの案件で、何が「給与所得」を
構成しているかを判別する稼動テストには影響
を与えないと判断しました。
裁判官は、2008年に上記の行為が完了する
前に、納税者の雇用が終了されたことに言及
しました。しかしながら、納税者は、2008年6月
30日終了年度に会社の従業員としての義務を
遂行しました。このため、納税者の変動賞与の
資格が、サービス契約まで遡れる可能性があ
ります。
また、裁判官は、合計金額Dは、変動賞与に代
わる支払金額であり、雇用終了が行われな
かったら納税者に支払われていたはずの課税
対象となるボーナスとして取り扱われるべきだ
と考慮しました。
シェア・オプション所得については、裁判官は、
これらのオプションが2003年及び2004年に納
税者の雇用条件の一部として与えられ、会社
及び関連会社のために継続して勤務するため
の奨励金として、納税者に支払われたことに
言及しました。また、納税者が会社との雇用を
継続し、問題となっているオプションは雇用の
過程で権利が確定した場合、オプションの行
使からの名目所得は給与所得税対象となるこ
とは、異論がありませんでした。
上記に基づいて、CFIは納税者の訴えを却下し
ました。
論評
この案件は、従業員への雇用終了時の支払が、
従業員の行為または従業員であることの引き換
えとして、または雇用契約や将来のサービス提
供を誘引する場合、当該支払金額が「給与所
得」として香港で課税対象になると説明していま
す。
前述の税務上の取扱いは、当該及び他の類似
案件において、当該金額が、「職務の喪失に対
する補償」、または「全ての請求及び権利に対
する金額及び最終金額」として解除契約に記載
されていたとしても変わりありません。この点に
おいて、当該支払の性質は実質的問題であり、
形式上の問題ではありません。
これは特に、雇用主による契約不履行なしに、
雇用契約が合法的に解除された場合にあては
まります。このような状況では、雇用契約のもと
で破棄された従業員の権利に対する補償が「給
与所得」ではなく、非課税であるとは、支持され
ない可能性があります。
しかしながら、このような支払金額は、雇用終了
後の従業員の再雇用等の雇用形態の制限条項
のような「他の事象」に起因する可能性がある状
態や契約解除の条件によっては、課税対象とな
らない可能性があります。
解除契約の条件を最終決定する前に、全ての
関連条件を識別するため、税務専門家のアドバ
イスを受ける旨をご提案申し上げます。
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