マンスリー・レター - JPモルガン・アセット・マネジメント

2007
BRICS
マンスリー・レター
2
お客様用資料
February
筆者のご紹介
門倉 貴史 (かどくら・たかし)
BRICs経済研究所 代表
1995年慶應義塾大学経済学部卒業。同大学卒業後、浜銀総合研究所
の研究員となり、社団法人日本経済研究センター、東南アジア研究所(シ
ンガポール)への出向を経験。2002年第一生命経済研究所に移籍。経
済調査部主任エコノミストとして、アジアやBRICs諸国についての論文を
数多く発表する。2005年に同研究所を退社してフリーとなる。
主な著書
「BRICs富裕層」(東洋経済新報社)
各国のトピックス
「図説 BRICs経済」(日本経済新聞社)
「大図解 インド経済の実力」(日本経済新聞社)
「インドが中国に勝つ」(洋泉社)
「BRICs新興する大国と日本」(平凡社)
ブラジル
ブラジルの通貨レアルが上昇基調にある。対米ドルでの為替レートは、2005年平均の1ドル=2.43レアルから2006
年平均では1ドル=2.17レアルへと、1年間で10.7%の上昇となった。レアル高の背景には、内外の金利差に市場の
関心が集まっていることがある。ブラジル中央銀行はインフレが落ち着きを取り戻してきたことを受けて、2005年9月以
降相次いで利下げを実施しているが、金利の下げ幅は小さなものにとどまっている。利下げの効果によって、金利に敏
感に反応する家計の住宅投資や耐久消費財、企業の設備投資など内需は回復傾向にあるが、レアルの大幅な上昇
によって穀物や資源の輸出競争力が削がれている。実質輸出は2004年頃から減速基調で推移しており、直近の2006
年7~9月期も前年同期比+7.5%にとどまった。その一方、レアル高を追い風として、ブラジル企業の海外直接投資
が活発化しつつある。他のBRICsとの国際競争に勝つためブラジルの企業は、近年、M&Aに力を入れている。自国
の通貨が上昇すれば、ブラジル企業が外国企業のM&Aをするうえで非常に有利に働く。国際収支統計によると、
2006年におけるブラジルの対外直接投資額は272.5億ドルと2005年に比べて10.8倍の規模へと拡大した。ブラジル
企業による具体的な海外M&Aの動きをみると、たとえば、ブラジルの資源最大手のリオドセ(CVRD)は、2006年8月
にカナダのニッケル大手インコを約176億ドルで買収すると発表した。また、2006年12月には、ブラジルの鉄鋼大手C
SNが英国・オランダ系の鉄鋼大手コーラスを買収すると発表。約49億ポンドの巨大買収劇となった。ただコーラスにつ
いては、インド最大の民間鉄鋼メーカーであるタタ・スチールも買収の意欲を示しており、最終的な買収額は、ブラジル
のCSNとインドのタタ・スチールの競争によって、さらに引き上げられる可能性がある。
ロシア
ロシアの米ドル離れが進んでいる。2005年2月、ロシアはユーロとドルの2通貨で構成する「通貨バスケット制」の
導入に踏み切った。「通貨バスケット制」とは自国通貨と貿易面で関わりの深い複数の通貨で構成するバスケットをつ
くり、そのバスケット全体に自国通貨を連動させる為替制度のこと。ロシアで米ドル連動制の維持が困難になった最
大の理由は、ドル安・ユーロ高の進行だ。米ドルに連動する為替システムの下でドル安・ユーロ高が進むと、ロシアの
ルーブルもユーロに対して下落してしまう。これまでロシアは最大の貿易相手国であるEUとの貿易取引において主
力の一次産品の輸出は大半がドル建てで、輸入はユーロ建てで行っていた。このため、ルーブルがドルに対して上
昇、ユーロに対して下落すると、ルーブルに換算した際の輸出代金が目減りする一方、輸入代金の負担が増加して、
ネットの貿易黒字額が減少してしまうという問題があった。当初のバスケットの構成比はドルを9割としていたが、
徐々にユーロの比率を高め、現在ではドルとユーロがほぼ半々となっている。ドルに偏重していた外貨準備の構成比
についても変更を進めている。それまで外貨準備の7割を占めていたドルの割合を5割まで低下させ、ユーロを4割、
ポンドを1割に引き上げた。さらに、EU以外の貿易取引においてもドル離れが生じている。2006年10月、ロシアは中
国との2国間貿易においてルーブルと人民元で決済することを提案した。これまでロシアは中国への原油輸出をドル
建てで行っていたが、これをルーブル建てに切り替えるというものだ。
この資料はJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社が、BRICS諸国の政治、経済、文化等の情報を提供するために、BRICs経済研究所の協力により作成したもので、証券取引法に基づいた開示書類では
ありません。この資料は特定のファンドもしくは個別銘柄への投資勧誘を目的としたものではありません。当資料は信頼性が高いとみなす情報に基づいて作成されていますが、弊社およびBRICs経済研究所
がその情報の正確性を保証するものではありません。また、当該意見・見通しは将来予告なしに変更されることがあります。またこの資料に掲載されている個別銘柄については、その売買の推奨を意図したも
のではなく、また弊社が運用するファンドへの組入れを示唆するものではありません。
お客様用資料
2007
各国のトピックス
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February
インド
インドが、中国に続く有力新興国として世界的な注目を集めるなか、欧米や中東、アジア地域などからインドを訪
れるビジネスマンや観光客の数が急増している。日本でも、インドへの進出を計画する企業の幹部などが視察団を
編成してインド各地を頻繁に訪れるようになってきた。ビジネス目的だけではない。ムガール帝国の遺跡やアゴラの
タージマハル廟など、もともとインドは観光資源が豊富な国だ。個人旅行でインドの観光地を訪れる日本人の数も増
えている。どれぐらいの人が海外からインドを訪れているのか。インド政府の統計によると、インドが高成長路線に
入り始めた2003年頃から観光客数と観光収入の増加傾向が鮮明になっている。2006年の外国人観光客数は前年
比13.1%増の445万4584人、観光収入は同15.8%増の2916億ルピーに達したとみられる。
インドを訪れる海外のビジネスマンや観光客が増加するなか、ハイデラバードやニューデリー、ゴア、チェンナイ、
コルカタ、ベンガルールウ、ムンバイなど各地の主要ホテルは、どこも大変混み合うようになり、ホテル業界からはう
れしい悲鳴があがり始めている。主要ホテルでは、平日の予約が常にいっぱいになっている状況なので、有名なホ
テルに宿泊したい場合には、早めに予約をしておかなければならない。需要と供給のバランスが崩れてきたため、
各ホテルは、客室料金を大幅に引き上げている。平均的な客室料金は、2005年度に23.7%も上昇しが、2006年度
も20.7%の上昇が見込まれている。既存のホテルの収容能力では、急増する宿泊需要に十分に対応しきれなくなっ
てきたことから、インドでは、新規のホテルの建設計画が目白押しとなっている。たとえば、タタ財閥グループのイン
ディアン・ホテルズは、今後の2年間で、高級ホテルやビジネスホテルなどを26軒建設する予定。新規のホテルが稼
動すると、総客室数は現在の9300室から1万2300室になる見込だ。宿泊施設やインフラなどの整備が進めば、イン
ドを訪れる外国人の数は、将来的に年間2000万人に達すると見る向きもある。
中国
中国の2006年10~12月期の実質GDP成長率(速報値)は前年比+10.4%となった。この結果、2006年通年の実
質経済成長率は前年比+10.7%と、政府の当初目標の+8%を大きく上回り、4年連続で2ケタの高成長を達成した。
名目GDPの水準は、20兆9407億元(約314兆円)となり、初めて20兆元の大台にのった。
2006年の高成長をけん引したのは企業の投資活動と輸出である。2006年の固定資産投資の伸びは前年比+
24.0%となった。過熱投資を抑制するための金融引き締め政策の効果が徐々に浸透してきたため、06年1~9月期
の同+27.3%に比べるとスローダウンしたが、不動産セクターを中心に投資はなお高水準にある。中国政府は、投資
の過熱をさらに抑制するために、利上げや窓口指導などによって2007年も金融引き締め政策を継続する公算が大き
い。貿易面では、通関ベースの輸出が前年比+27.2%、輸入が同+20.0%となり、輸出の伸びが輸入の伸びを大き
く上回った。貿易黒字は、前年比+74.0%増の1775億ドルに達した。
一方、個人消費の伸びは緩やかなものにとどまっている。たとえば、個人消費の伸びを示す社会商品小売総額は
2006年に前年比+13.7%となり、固定資産投資や輸出の伸びを大きく下回った。沿岸都市部では富裕層や中産階
級による消費が盛り上がっているものの、内陸の農村部では個人消費が不振となっている。この背景には、農民収
入が伸び悩み、都市部と農村部の所得格差が拡大傾向となっていることがある。なお、高成長が続くなかにあっても、
製品の値下げ競争が激しいために物価は安定して推移しており、消費者物価上昇率は前年比+1.5%にとどまった。
2007年は、個人消費の伸びと投資・輸出の伸びのバランスを是正し、高成長を維持しつつも、経済成長率の中身を
改善することが政府にとっての課題となる。
南アフリカ
中国が資源確保を目的として、アフリカ諸国との関係を深めようとしている。
中国の胡錦濤国家主席は2007年1月末、南アフリカ共和国などアフリカ8カ国(南ア、カメルーン、リベリア、ザンビア、
ナミビア、モザンビーク、セーシェル)を歴訪するために北京を出発した。昨年4月の歴訪に続いて2年連続のアフリカ訪
問となる。また、胡錦濤国家主席の出発に先立って、中国政府はアフリカ33カ国の債務を免除することも発表した。具体
的には、2005年末で期限が過ぎた33カ国、合計168件の無利子融資の返済を免除するというもの(免除額の総額と各国
の内訳は不明)。中国は2006年までにアフリカへの資金援助額を倍増する方針も打ち出している。
4年連続で2ケタ成長の続く中国では、原油をはじめ、各種の資源の消費量が生産量を上回る状態が続いており、エネ
ルギーの安定供給が急務となっている。資金援助などをきっかけとして、鉄鉱石や金、プラチナ、クロムなどの鉱物資源
に恵まれた南アフリカなどと接近することで、こうしたエネルギーの確保を図ろうとしている。
なお、中国は2006年11月にも北京で「中国・アフリカサミット」を開催し、債務免除などアフリカ支援策を打ち出している。
この資料はJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社が、BRICS諸国の政治、経済、文化等の情報を提供するために、BRICs経済研究所の協力により作成したもので、証券取引法に基づいた開示書類では
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ラム
今月のコ
February
ブラジル:最先端の科学が注目するアマゾンの密林
ブラジルには、世界最大の熱帯雨林として有名なアマゾンがある。アマゾンの奥地に広がるのは、原始的なジャ
ングルの世界だが、意外なことに、いま最先端の科学がこのアマゾン一帯に熱い視線を注いでいる。
最先端の科学とはバイオテクノロジーのことで、注目されているのはアマゾンの密林に生息する膨大な数の動植
物群だ。アマゾンの密林には、魚や鳥、昆虫、植物、微生物など私たちの想像を絶する種類の生物が生息しており、
魚だけでも2000種類以上が知られている。アマゾン全体では20万種以上の生物がいると言われる、いまだに発見
されていない新種の未確認生物も膨大な数に上る。
ところで、アマゾン河流域には、数千年も前からひっそりと生活をするインディオと呼ばれる先住民族がいる。先住
民族はブラジル全体で35万人程度と推定される。そして、先住民族の長老たちは、ブラジルが植民地になるずっと
前の時代から先祖代々受け継がれてきた土着の医療法を知っている。それらの医療法のなかには、密林の生物が
持つ様々なバイオパワーがふんだんに利用されている。
この秘密に気がついた欧米などの製薬関連企業や研究機関は、1990年代以降、新薬を開発するに際して、ブラ
ジルのアマゾンに多数の研究者を送るようになった。製薬会社などから派遣された研究者は、先住民族の長老たち
に会って、伝統的な医療法についてのヒアリング調査を行う。いずれも昆虫や植物、微生物などを新薬の有効成分
に役立てることを目的としたものだ。研究者は、さまざまな生物から抽出した成分をサンプルとして、これを自国に持
ち帰って新薬開発の参考にする。成分調査を行う件数は増えているが、それでも薬効成分がきちんと調査されたの
は、まだアマゾンに生息する膨大な生物のほんの数%にすぎない。
ただ近年では、ブラジル政府もアマゾンに眠る膨大な遺伝資源を重要視しており、先進諸国がアマゾンの遺伝資
源を国外に持ち出す場合には、特許料の支払いを要求するようになってきた。ブラジルは、1992年5月につくられた
「生物多用性条約」の国際会議において明確なルールをつくるよう先進国に求めているところだ。もっとも、肝心の先
住民族の長老たちのほうは、先進国の企業が特許料を支払うといっても、「人命に関わることに貢献しているのだか
ら、そのような報酬は不要だ」といって断るケースもある。その一方、一部の国の間ではブラジルと共同で新薬を開
発しようという動きも出てきている。たとえば、2005年には、ブラジル政府と韓国政府が協力してアマゾン一帯で新
薬を開発するプロジェクトが打ち出された。
このように、アマゾンはバイオテクノロジーの分野で無限の可能性を秘めているのだが、近年、アマゾンの熱帯雨
林は急速な勢いで消失しており、ブラジルの宝の損失につながっている。
ブラジル政府の統計によると、近年では年平均で約2万5000平方kmずつ、森林面積が消失している(図表)。直
近の2005年は1万8793平方kmの森林が失われた。森林が消失する過程で、アマゾンの生物も有効成分が確認さ
れないまま毎日100種類以上が絶滅していっていると言われる。
国際的に需要が急増している大豆などの穀物栽培を増やすために、アマゾンの森林を伐採して耕地に転換して
いる。ある調査によると、ブラジルで行われているアマゾンの伐採の8割が違法なものであるとも言われている。
このままのペースのアマゾンの破壊が進んでいけば、今後数十年の間にアマゾンの熱帯雨林はなくなってしまう
だろう。生物の保護に国境はない。先進国も資金援助などの面で積極的に協力して、バイオテクノロジーの面で無
限の可能性を秘めたアマゾンの貴重な遺伝資源を守っていくことが必要だ。
図表 ブラジルのアマゾンの森林消失面積の推移
万平方km
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
90年
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
(年)
(出所)ブラジル政府資料より作成
この資料はJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社が、BRICS諸国の政治、経済、文化等の情報を提供するために、BRICs経済研究所の協力により作成したもので、証券取引法に基づいた開示書類では
ありません。この資料は特定のファンドもしくは個別銘柄への投資勧誘を目的としたものではありません。当資料は信頼性が高いとみなす情報に基づいて作成されていますが、弊社およびBRICs経済研究所
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2007
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ラム
今月のコ
February
インド:カースト制度の功罪
インドでは、古くから「カースト」と呼ばれる厳格な階層・身分制度が適用されてきた。カーストの起源は紀元前10世
紀頃までさかのぼる。インドに定着したアーリア人が先住民族のドラヴィダ人などを支配する過程で階級分化が進み、
バラモン(僧侶など)、クシャトリア(貴族・豪族・軍人など)、バイシャ(商人・工業従事者など)、シュードラ(農業労働者
など)の4つの階層・身分からなるヴァルナ(種姓)制度を形成した(図表1)。このヴァルナ制度を基礎にバラモン教(今
日のヒンズー教)が成立しており、カースト制度とヒンズー教は密接不可分の関係にある。
ヴァルナ制度は、時代が下がるにつれてさらに多くの階級・身分へと分化し、それぞれの種姓に応じて職業・身分が
世襲されるようになり、今日のカーストへと発展した。ヒンズー教徒の間では、カーストは宇宙の神が定めた神聖な掟と
される。このため、異なる種姓間での婚姻は禁止され、居住地についても明確な区分がなされる。現在、カーストにお
けるサブ区分は、2000から3000に上るといわれる。カーストの下には、さらに「アンタッチャブル(不可触民)」と呼ばれ
る下層階級が設けられている。
イギリスから独立した後の1950年に発効されたインド憲法でカースト制度に基づく差別(とくにアンタッチャブルに対
する差別)は禁止されたが、カースト制度自体の廃止はいまだに明文化されておらず、現実には、不文律として全人口
の80.5%を占めるヒンズー社会に根強く残っている。カースト制度においてとくに問題とされるのは、「アンタッチャブ
ル」に属する人々の扱いである。彼らは社会の底辺で過酷な労働に従事しながら、カーストに属する人々から厳しい差
別を受けている。現在「アンタッチャブル」は、差別的な要素を排除して指定カースト(Scheduled caste)と呼ばれる。
カースト制度に基づく差別が禁止された後も、指定カーストの数は増加傾向で推移しており、インドの国勢調査によれ
ば、2001年時点の指定カースト人口は1億6663万7500人と、1961年に比べて2.6倍の規模(総人口は同期間中2.3倍
に増加)へと膨らんだ。指定カーストは全人口の16.2%を占める(図表2)。
カースト制度においては、各人がそれぞれの階層にとどまる限り、同一階層内で相互に助け合いが行われ、各人の
生活が保障される。その意味で、カーストは社会の安定化に寄与するというプラスの側面があるともいわれているが、
一方で、インド国内の所得格差の拡大に拍車をかけるというマイナスの側面を持っており、近年では、カースト制度の
プラスの側面よりもマイナスの側面のほうが目立つようになってきている。インドでは基本的に相続税が課されないた
め、所得格差はそのまま資産格差へとつながっていく。
経済成長の過程で国内の所得格差が縮小することが個人消費の爆発的拡大につながることはよく知られている。実
際、アジア各国におけるジニ係数と実質個人消費伸び率の間には、明確なトレードオフの関係がある。足下のインド経
済は、内需主導で高い経済成長を実現しているが、個人消費の伸びをけん引しているのはもっぱら所得水準の高い
上級カーストに属する人々である。カースト制度を背景とする所得格差の問題が解決されない限り、今後、上級カース
トの耐久財消費が飽和状態に近づいていったときに、下級カーストあるいは指定カーストの消費が伸び悩み、マクロレ
ベルでみた個人消費の中長期的な拡大余地は乏しくなってくる。
最近では、指定カーストから脱却するためにヒンズー教から仏教に改宗する若年層が増加するなど、カースト制度
が崩れる兆しが見え始めてはいるが、インドが中長期的に内需主導の高成長を維持していくには、所得分配・機会の
平等をさまたげる非近代的なカースト制度の廃止を明文化することが重要といえるだろう。
図表1 インドのヴァルナ制度
図表2 指定カーストの推移
100万人
180
バラモン
2001年のヒンズー教徒
8億2758万人
クシャトリア
バイシャ
シュードラ
指定カースト(2001年は約1億6664万人)
総人口に占める比率(右)
160
16.5
6876
16.0
140
15.5
120
15.0
100
14.5
80
14.0
60
指定カースト人口(左)
13.5
40
13.0
20
12.5
0
1961
(出所)BRICs経済研究所作成
%
17.0
5497
1971
1981
1991
12.0
2001 (年)
(出所)BRICs経済研究所作成
この資料はJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社が、BRICS諸国の政治、経済、文化等の情報を提供するために、BRICs経済研究所の協力により作成したもので、証券取引法に基づいた開示書類では
ありません。この資料は特定のファンドもしくは個別銘柄への投資勧誘を目的としたものではありません。当資料は信頼性が高いとみなす情報に基づいて作成されていますが、弊社およびBRICs経済研究所
がその情報の正確性を保証するものではありません。また、当該意見・見通しは将来予告なしに変更されることがあります。またこの資料に掲載されている個別銘柄については、その売買の推奨を意図したも
のではなく、また弊社が運用するファンドへの組入れを示唆するものではありません。