青森県双胎妊娠アンケート調査の集計結果について

第 20 巻第 2 号,2005 年
原 著
青森県双胎妊娠アンケート調査の集計結果について
弘前大学医学部産科婦人科学教室
柞木田 礼 子・山 本 善 光・田 中 幹 二
尾 崎 浩 士・水 沼 英 樹
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その後も診断がついていなかった(図 2)
。
は じ め に
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すべての双胎のうちd
双胎妊娠は漸増傾向にあり,
この 30 年あま
(DD)双胎は 71 %,MD 双胎は 26 %であった
りで約 2 倍となっている。単胎と比較し,産
(図 3)
。全国統計では MD 双胎の発生頻度は
科的合併症の頻度が高く,児の死亡率も約 5
平成 16 年の青森県での発
13 ∼ 14 %であり1),
倍と高率であることから,厳重な周産期管理
生頻度は約 2 倍であった。不妊治療を受けて
1)
が必要とされる 。青森県における周産期医
いた双胎は全体の 36 %であったが(図 4)
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療の改善を目的とした県内の多胎妊娠登録制
べて DD 双胎であり,MD 双胎はすべて自然
導入に向けて,現状把握のためにアンケート
妊娠であった。不妊治療の 54 %,
排卵誘発の
調査を行ったので集計結果を報告する。
72 %,体外受精の 42 %がクリニックで行われ
ていた。
対 象 と 方 法
妊娠中の合併症としては切迫早産が最も多
今回の調査は,平成 16 年に青森県内で妊娠
く,全体の 80 %が何らかの治療を受けていた
22 週以降に双胎分娩例を対象とした。県内
(図 5)
。妊娠中毒症(現:妊娠高血圧症候群)
の分娩を取り扱っている施設へアンケート用
は 28 %に認められた
(図 6)
。高血圧を認めた
紙(図 1)を配布し,11 施設(総合病院 10 施
のは全体の 9 %であった(図 7)。切迫早産,
設,クリニック 1 施設)より,108 件の双胎分
妊娠中毒症の発生頻度は,不妊治療を受けた
娩に関する回答を得た。
グループの方がやや高かった。
入院時期については妊娠 24 週までは MD
結 果
双胎が 31 %を占めていた。入院理由として
結果は以下の図表に示した。
は 29 週から 32 週までは管理入院が最も多か
双胎分娩管理を行っている施設は限られて
ったが,それ以外の週数では緊急入院の割合
おり,81 %は他院からの紹介であった。紹介
も高かった(図 8)
。
された双胎のうち 30 %が紹介時に膜性診断
分娩時期は 82 %が 33 週以降の分娩であっ
がついておらず,そのうち 10 %が mono-
たが,
32 週までの分娩では MD 双胎が 50 %を
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c(MD)双胎であり,10 %は
占めていた。また両児とも出生体重 2,000g
― 7 ―
(83)
青森臨産婦誌
図 1 アンケート用紙
― 8 ―
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第 20 巻第 2 号,2005 年
図 2 紹介前の膜性診断の有無
図 3 初診・紹介時の卵性診断
図 4 不妊治療の有無
図 5 切迫早産の治療
図 7 妊娠中毒症の内容(複数可)
図 6 妊娠中毒症(現 PIH)の有無
図 8 入院週数
図 9 両児の体重差
― 9 ―
(85)
青森臨産婦誌
図 10 分娩回数
図 11 初診時・または紹介時週数
図 12 不妊治療の内容
図 13 頸管縫縮術の有無
図 14 分娩週数
図 15 出生体重
図 16 分娩様式
図 17 新生児治療(複数可)
― 10 ―
(86)
第 20 巻第 2 号,2005 年
表 1 予後不良例
分娩週数
不妊治療の有無
膜性診断
合併症
経 過
24 週
有(クロミフェン-hCG-AIH)
DD
CAM
①重症呼吸窮迫症候群+未熟児網膜症
→精神発達遅延,弱視
②重症呼吸窮迫症候群→死亡
24 週
有(クロミフェン)
DD
CAM
①敗血症,脳室内出血→死亡
②先天性多発肺嚢胞+気胸→死亡
25 週
無
MD
TTTS ①敗血症→死亡
②重症呼吸窮迫症候群,新生児遷延性肺高血圧
→未熟児網膜症
26 週
無
MD
TTTS ①drylungsyndrome,動脈管開存→死亡
②呼吸窮迫症候群,動脈管開存
未満の分娩のうち 55 %が MD 双胎であり,
出
双胎においては TTTS が急速に進行する場
生時に 20 %以上の体重差を認めた双胎は
合があり,
2 週間に 1 回のチェックでは見逃さ
MD 双胎では 35 %,DD 双胎では 11 %であっ
れる場合がある。また子宮収縮は TTTS 発
た(図 9)。
症に関連しているとの報告3)もあり,入院し,
予後不良例は,24 週の絨毛羊膜炎(CAM)
子宮収縮を抑制することは TTTS 発症の予
合併の DD 双胎と 25 ― 26 週の双胎間輸血症
防につながる可能性もある。そのため,MD
。
候群(TTTS)症例であった(表 1)
双胎では DD 双胎よりも入院管理を行い,子
宮収縮の抑制,週 2 回の超音波検査による
考 察
TTTSの早期発見が望ましい。
双胎妊娠の管理としてまず重要なことは,
しかし,予防的入院安静のデメリットもあ
双胎妊娠の早期発見と膜性診断である。妊娠
る。入院経費の増大や患者の精神的ストレ
初期の正確な診断が必要とされる。その後の
ス,長期臥床による筋萎縮,血栓,肺塞栓の
外来管理としては,妊娠初期より 2 週間ごと
危険性等である。また周産期死亡率の高い妊
の来院が望ましく,切迫早産,妊娠高血圧症
娠 30 週以前にこそ管理入院が必要との考え
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danttwinsなどの合併症の早期発
候群,d
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ennanら4)は,妊娠 26 週から 30
もある。Ma
見に努める。進行の傾向にある合併症を発見
週まで管理入院をしても,外来管理と比較し
した場合には入院管理が必要となる。入院の
分娩週数,児の出生体重に差はなく,逆に予
適応となる合併症のない場合,早期入院と安
後は不良となると報告しており,Crowther
静が早産予防となるかどうかは賛否両論ある
ら5)は妊娠 28 週から 30 週の間から分娩まで
が,早産の危険のある状態の回避,合併症の
入院管理によって出生体重の増加,SGA 児の
早期発見等を考慮し,妊娠満期になる前に管
減少は認めるものの,妊娠期間の延長や予後
理入院としている施設が多い1)。MD 双胎 40
の改善は認めなかったと報告している。また
DD 双胎 80 組を対象とした妊娠 30 週まで
組,
Andr
ewsら6)は妊娠 24 週から 34 週まで入院
に予防入院した群と医学的適応が生じるまで
し,合併症がなければ外来管理とした群と管
外来で管理した群との比較検討2)では,予防
理入院しなかった群と比較し,早産の頻度,
入院によって DD 双胎では妊娠期間の延長,
出生体重,予後に有意差はなく,合併症がな
児の予後の改善が認められたが,MD 双胎で
ければ外来管理は可能だという報告などがあ
は差がなかったことから,MD 双胎での児の
る。ただし,これらの報告では,対照群とな
予後決定因子には未熟性以外の要因が関与し
った外来管理患者のフォローの仕方や自宅で
ていると推測されると報告されている。MD
の生活指導,入院開始時期,管理期間による
― 11 ―
(87)
青森臨産婦誌
影響も考えられるため,今後,更なる検討が
必要とされる。また合併症発症の予測が可能
となれば,膜性診断などの条件を考慮に入れ,
個々の患者に適した管理を行うことも可能と
3)坂田麻理子,宇津正二,山口万紀子ほか:双胎間
輸血症候群(TTTS)の病態評価とその産科管理,
な ら び に 予 防 に 関 す る 考 察.日 産 婦 誌 53:
536.2001
4)Maclennan AH, Green RC, Brookes C, et al.
Routine hospital admission in twin pregnancy
between 26 and 30 weeks’gestation. Lancet
335 : 267-269. 1990
なるかもしれない。
謝 辞
5)Crowther CA, Vekuyl DA, Neilson JP, et al. The
effects of hospitalization in the management
of twin pregnancies. Obstet Gynecol 77 :
836-831, 1990.
アンケートにご協力いただいた県内の多く
の施設の先生方に深謝致します。
参 考 文 献
1)佐藤郁夫,松原茂樹:双胎妊娠・分娩管理マニュ
アル.2005
2)鮫島 浩:多胎妊娠.New Epock 産科外来診療,
107-109,医学書院.1999
― 12 ―
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6)Andrews WW, Leveno KJ, Sherman ML, et al.
Elective hospitalization in the management of
twin pregnancies. Obstet Gynecol 77 : 826-831.
1991.