北アルプスの植生とライチョウ 佐久支部 中山 厚志(中込小学校) 北アルプスの植生とライチョウ 北アルプス白馬岳には南八ヶ岳に見られるウルップソウやツクモグサなどが見られ、これらの生育地が本州で この2カ所だけと言うことを考えると、白馬岳を調査して比較することはとても興味深いことである。今年度、信州 大学教育学部生態学研究室で25年ぶりに北アルプスに生息するライチョウの調査を行っている。その第1回調 査(7月22~24日)に同行することができたのでその様子と、8月15,16日の様子を記しておきたい。この2回 の調査で個人的には北アルプス爺ヶ岳~鹿島槍~五竜岳~唐松岳~白馬槍ヶ岳~杓子岳~白馬岳の稜線を 歩くことができた。 【7月22~24日 爺ヶ岳~鹿島槍~五竜岳~唐松岳】 観察できた植物は雪渓沿いのキヌガサソウ、シラネアオイ、稜線沿いではイワベンケイ、タカネヤハズハハコ、ミ ヤマクワガタ、ヒメクワガタ、タテヤマリンドウ、シナノキンバイ、ウサギギク、コマクサ、チングルマなどの植物であ る。チングルマは八ヶ岳では観察できない。 布引山や鹿島槍ヶ岳(2889m)で見かけたライチョウをしばし観察したが人をおそれることなく、むしろ構えたカ メラに近づいてくる。ミヤマダイコンソウなどを食べていたが、見た感じ草を選ばずに食べている。中村浩志教授 によると「ライチョウは何でもよく食べる」そうである。長野県の県鳥にして日本の特別天然記念物であるというよ り風貌も庭先にいるチャボによく似ており簡単に捕まってしまいそうな愛嬌あふれる鳥である。 この調査に同行したきっかけとなったのは昨年の爺ヶ岳(2670m)山行中に稜線を越える猿の群れの写真(下 参照)を撮ったことである。この写真は中村先生の紹介でその後、「山と渓谷」「岳人」などの雑誌や新聞で紹介さ れることとなった。 鹿島槍から唐松岳(2696m)にかけての八峰キレットは大変厳しい稜線が続くうえにキレット小屋から唐松山 荘までの距離が長いので十分な心づもりで山行する必要がある。最終日は大雨のため、危険な上撮影もままな らなかった。 (左)2005年7月23日爺ヶ岳の稜線を越えたサルの群れ。標高2450m (右)トウヤクリンドウ 唐松山荘 【8月15,16日 唐松岳~白馬槍ヶ岳~杓子岳~白馬岳】 絶滅危惧種であるウルップソウが思いがけず観察できた。白馬岳(2932m)はなんの花も咲いていなかった が、白馬槍ヶ岳(2889m)近くの天狗山荘には雪渓が残っており、雪が溶けたところから徐々に花をつけている 箇所があり、お盆にもかかわらずこれから春を迎える様相であった。アオノツガザクラなども色鮮やかだった。 他に見られた植物もチングルマ、ウサギギク、タテヤマリンドウ、コマクサ、イワベンケイ、雪渓の周りにはミソガ ワソウ、クルマユリ、サンカヨウ、シロバナホタルブクロ。 稜線上にはトウヤクリンドウが多く咲いていた。八ヶ岳ではあまり見かけないミヤマアケボノソウは白馬槍ヶ岳~ 杓子岳の稜線で多く観察された。 高山植物保護パトロールの方が多くいたのが印象的だった。杓子岳からの2005年の崩落雪崩のあと、はじめ て大雪渓を下ったが大雪渓の北側に大きく新しく登山道が開かれており、現地の方の苦労がかいま見えた。な お、今回下っている最中も落石はしょっちゅう起こっており、大雪渓山行を考えておられる方には危険な状態であ ることは伝えておきたい。お盆は人のゆく数もまばらで宿舎の天狗山荘もすいていて快適に過ごすことができた。 ライチョウは7月の調査で8匹、8月の調査で7匹確認した。なわばりは生体の確認と同時に糞や砂あび場など の生活痕から推定している。北アルプスのライチョウも減少傾向にあるようだ。原因は前述のようにほ乳類の高 山帯への進出や地球温暖化など環境の変化にある。 八ヶ岳のライチョウはすでに絶滅している。 (左)お盆に見られたウルップソウ 天狗山荘 (右)つがいで見られたライチョウの雄 不帰Ⅰ峰 (中込小 中山厚志)
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