中東研究フォーラム 2014 年 7 月例会報告要旨 (2014 年 7 月 17 日、東洋英和女学院大学大学院棟) 発表者:寺中純子氏(一般財団法人海外投融資情報財団 調査部 上席主任研究員) 報告テーマ:イラン=制裁下の経済動向と「解除後」を睨んだ動き 2014 年 7 月の中東研究フォーラム例会は寺中純子氏に、制裁下のイランの経済動向、お よび 2013 年 11 月にイランと P5+1 との間で結ばれた暫定合意(共同行動計画)以降の制 裁「解除後」を睨んだ動きに関し報告していただいた。寺中氏はイラン現地での聞き取り調 査を含め、長期にわたり制裁下のイラン経済の動向をフォローされている。 報告は①制裁の主要ターゲットとなった石油部門の動向、②非石油部門の業績悪化のメ カニズム、③暫定合意で動き出した産業界、④イラン経済情勢と核協議の行方の 4 部構成 だった。制裁のイラン経済への影響についてはさまざまな評価があるが、寺中氏の報告は豊 富なデータと知見に基づく大変興味深いものであり、制裁がイラン経済にいかに深刻な影 響を与えているかが実証的に示された。 報告ではまず、2012 年 1 月に始まった米国防授権法に基づく原油輸入関連の金融取引に 対する制裁、さらに同年 7 月に発効した EU による石油禁輸および原油輸入への保険など の提供禁止の結果、イランの原油生産と輸出が 2012 年に前年比いずれも 100 万 b/d 減少、 翌年にもさらに減少したこと、さらに天然ガス開発プロジェクトも第 11 フェーズ以降は外 資による投資見直しや撤退が相次ぎ、停止状態に陥っていることが示された。 この結果、非石油部門も 2012 年以降大きく低迷している。イラン経済は石油・ガス輸出 収入をいくつかのルートを通じて非石油部門、さらに国民に分配している。ところが 2012 年には、国の歳入の原油・石油製品販売からの収入が当初予算の 64%にまで落ち込んだ。 国内銀行による民間部門への貸出は国内の政策的要因も相俟って低迷し、在外銀行からの イランへの信用供与残高も、米国のイラン包括制裁法(CISADA)の適用強化や SWIFT が 金融通信メッセージ・サービスの提供を停止したことにより、2011 年下期以降、大幅に減 少した。さらに物価高騰、リアルの大幅下落が重なり、制裁が直接ターゲットとしていない 非石油部門も資金不足や原材料価格の上昇などに苦しみ、活動を停滞させている。 では暫定合意の締結、さらにイランと P5+1 との交渉が続く中で、各国は制裁解除にど のような期待を寄せているのだろうか。すでに中国、仏、米国、豪州、イタリアなどが鉄道 や自動車、通信、エネルギー、エンジニアリング、水、航空機部品、鉄鋼などの分野でイラ ンへのアプローチを行っている。このうち暫定合意に基づく暫定的な制裁緩和対象となっ ている部門の一部(民間航空機関連、自動車など)では取引が開始されているものもある。 しかし現在は暫定合意で制裁が一部停止されているにすぎず、石油資源開発や新規原油 輸入・輸入増などは依然として制裁下にある。このため暫定合意以降の動きも、現時点でイ 1 ラン経済へ与える効果は限定的なものにとどまっている。IMF の見通しでも、制裁が今後 も継続する場合、経済成長率はイラン暦 2014 年度で 1.5%、同じく 2015 年度と 2016 年度 で 2.3%と見られている。これは労働市場に新規参入する若年層を吸収するために必要とし てイラン政府が現在の 5 カ年計画で目標としている年平均 8%の成長率を大きく下回る。 こうした分析を踏まえ寺中氏は、深刻な状態にあるイラン経済が核協議にどのような影 響を与えるかを検討した。一方で深刻な経済情勢が制裁解除への必要性を高め、イラン側が 合意成立に向けより真剣に交渉に取り組むというプラス面がある。しかし他方で、制裁緩和 が部分的にとどまり経済状態の悪化が続いた場合、最高指導者や保守強硬派によるロウハ ニ現政権への批判が強まり、最高指導者による核交渉への支持が後退し核協議が難航する 可能性もあると寺中氏は指摘した。 報告後、経済制裁がこれだけ効果を持った背景やフランス、インドなどの動向、革命防衛 隊の経済活動と制裁の関連、合意成立の場合の制裁解除の方向性などについて活発な質疑 応答があった。 (文責:立山良司) 2
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