No. 61 - 富士製薬工業株式会社

NO. 61
麻酔科関連領域における海外文献集
[ 監 修 ] 諏訪 邦夫
[監修協力] 福家 伸夫、片山 勝之
特集:間歇的ハイポキセミアの概念……2
・特集:間歇的ハイポキセミアの概念
・夜間の不整脈は睡眠時呼吸障害と関連が
深い
・閉塞性睡眠時呼吸障害の心房性不整脈:
基礎のメカニズムと臨床での意味
・睡眠時呼吸障害とがん死亡率:ウィスコ
ンシン睡眠コホート研究の結果
・閉塞性睡眠時無呼吸で非アルコール性肝
疾患が起こる.肝がもう一つのターゲッ
ト臓器か
・閉塞性睡眠時呼吸障害で慢性心不全を招
くのは,ハイポキシアであって無呼吸の
頻度ではない
・睡眠時呼吸障害を CPAP で治療して炎症
マーカーが改善する
・閉塞性睡眠時呼吸障害の血管分子バイオ
マーカー
・閉塞性睡眠時無呼吸における神経損傷の
機能的意義
・慢性間欠性ハイポキシアと高血圧の分子
メカニズム
・ネズミの OSA モデルによる認知障害は,
エリスロポエチンで寛解する
・1 型キアリ奇形児でみられた複雑な睡眠
時呼吸障害
手術室の麻酔……………………………8
・目標指向型循環管理は術後合併症を減ら
す
・目標指向型循環管理の有用性に関するメ
タアナリシス
・外科的アプガースコアは術後 ICU 入室
判断に役立つ
・バイタルサインを用いた術中リスク判定
の落とし穴
・区域麻酔下の帝王切開中に酸素を投与す
べきか
・術後第一病日の手術種類別の術後疼痛強
度
・外傷麻酔のチェックリスト
・重症肝外傷治療における大量輸血プロト
コルの有用性
・ハイブリッド手術室でのハイリスク帝王
切開
・緊急事態での認知補助具の活用
・開頭術の麻酔のアップデート
・術中低血圧の危険域とは?
●発行―――富士製薬工業株式会社
〒102−0075 東京都千代田区三番町5番地7
TEL 03−3556−3344 FAX 03−3556−4455
URL:http://www.fujipharma.jp/
集中治療・ペインクリニック…………14
・重症患者の長期的認知障害
・ICU における認知障害の評価と管理に関
する問題
・ICU の環境はせん妄の発生に関係するよ
うだ
・高齢 ICU 患者の遷延性せん妄に関与す
る因子
・股関節骨折手術を受ける高齢者での脊椎
麻酔中の鎮静深度と術後せん妄の関係
・高齢者に対するベンゾジアゼピンと麻薬
の使用と ICU 内せん妄の関係
・冠動脈バイパス術後に血清コルチゾール
濃度が高いと術後早期認知機能障害のリ
スクが増える
・ICU 入室前にある認知障害と付随する行
動学的症状の発見と管理
・重症患者のせん妄関連バイオマーカーと
長期客観的認知機能障害:炎症患者と非
炎症患者ではせん妄発生の調節経路が異
なる
・脳卒中後せん妄の頻度と転帰: ICU のた
めのせん妄評価方法:
(CAM-ICU)の有
効性
・ICU における鎮痛,鎮静,せん妄の管理
をプロトコル化すると,鎮痛と亜症候性
せん妄の頻度が改善する
・重症疾患後の認知機能障害:原因,リス
ク因子,回復・リハビリ
●編集制作――株式会社 協和企画
平成26年 1 月31日発行
特集:間歇的ハイポキセミアの概念
なくてもハイポキセミアは発生している」という主張
はわかるとしても,酸素吸入で無呼吸とハイポキセミ
アが分離している例はあります.
本特集では,
「間歇的ハイポキセミア
(intermittent
hypoxia:IH)
」を閉塞性睡眠時呼吸障害
(obstructive
sleep apnea:OSA)
と関連づけて考察しています.そ
の「間歇的ハイポキセミア」が「持続的ハイポキセミ
アより侵害的らしい」というのが興味深い知見です.
「間歇的ハイポキセミア」は,ハイポキセミアだけ
でなく,ノルモキセミアとの間を往復することによっ
て活性酸素やフリーラディカルを生じて酸化ストレス
となり,それが高血圧や心不全を起こすという解釈で
す.実際,この高血圧は,ハイポキセミア→交感神経
系興奮だけでは説明困難で,日中覚醒して呼吸障害が
ない状態でも血圧が持続します.
いびきの機械的な作用が重要か
OSA の障害の一因として,
「いびきの機械的な作用」
を強調する向きもあります.一昔前のエアハンマーや
動力鋸が白蝋病など四肢の血管損傷を起こしたよう
に,「いびきの振動が上部気道の皮膚と筋肉の血管を
損傷する」という解釈です.
そんな要因分析にも,OSA のポリソムノグラフィ
に,SpO2 の持続的モニターを含めるほうが無難です.
CPAP などで OSA を治療すると,換気が改善する
だけでなくて心血管系へも好影響が見られるという報
告があります.最近,NEJM で論文の取り消しがあ
りましたが,類似の報告は多数あり,まずまず疑いは
ないようです.
当然かも知れませんが,OSA でがんの経過も加速
されて生存期間が短縮するという報告がありました.
とにかく OSA は対処することが望ましいようです.
もっとも,CPAP は大袈裟で患者のコンプライアンス
もよくないようで,薬物治療の推進も期待しましょう.
本特集にも,動物実験でエリスロポエチンが有効との
報告があります.
(諏訪邦夫)
睡眠時無呼吸の定義に SpO2 が必要か?
「間歇的ハイポキセミア」が起こる病態としては,
OSA が断然重要で他の病態はありません.しかし,
睡眠時呼吸障害は「無呼吸 / 低呼吸の数で定義」して,
ハイポキセミアを直接モニターしません.そもそも,
OSA や睡眠時無呼吸症候群が着目された 1970 年代初
頭には,
パルスオキシメーターは存在しませんでした.
2014 年の今日,
「間歇的ハイポキセミア」に着目す
るなら,OSA の定義を変えるか,少なくとも群で分
ける必要があります.
「無呼吸があれば,モニターし
夜間の不整脈は睡眠時呼吸障害と関連が
深い
[目的]夜間の不整脈が睡眠時呼吸障害
(sleep apnea
syndrome:SAS)
患者で頻度が高いことを確認する.
[背景]OSA 患者に心臓のトラブルが多いことはよく
知られている.不整脈に関するデータは比較的乏しい
が.
[研究の場]地区の心疾患患者を調査しているコホー
ト研究から抽出.
[ 対 象 ]OSA で 無 呼 吸 低 呼 吸 指 数
(apnea hypopnea
index:AHI)
>30 の患者と,
AHI< 5 の対照群の比較.
[測定項目]主に不整脈の異常を検索.
[方法]年齢・性・人種などをマッチした 2 群で,不
整 脈 を 比 較 す る.OSA 群 は AHI>30 の 228 例, 非
OSA 群 は AHI< 5 の 338 例 で あ る.OSA 群 は AHI
>30 だから,特別の重症群といえる.
[結果]1)BMI は OSA 群で 30,非 OSA 群で 28 で,
少しだが有意差があった.
2)高血圧と糖尿病も OSA 群で有意に高かった.
3)冠状動脈疾患と診断されている率,心筋梗塞の既
往,CABG
(冠動脈バイパス術)率と血管拡張術の率も
OSA 群で有意に高かった.
4)心房細動・一時的な心室頻拍・複雑な心室性期外
収縮
(一時的な心室頻拍・2 段脈・3 段脈・4 段脈)は,
OSA 患者に多かった.
2
5)心房細動は 4.8%(対照群は 0.9%)・一時的な心室
頻拍は 5.3%(対照群 1.2%)・複雑な心室性期外収縮は
25%(対照群は 14.5%)であった.
6)OSA 患者では,どの不整脈も多かった.
7)しかもそうした不整脈,特に心室性期外収縮は持
続する傾向が強かった.
[結論]SAS のある患者では,それがない人に比較し
て複雑な不整脈の頻度が 2 ~ 4 倍高い.
[解説]本研究のグループでは,OSA 群に冠状動脈疾
患の罹患率や CABG の施行率が高いから,こうした
差はむしろ当然で,問題とするのが不思議だ.
(諏訪邦夫)
Association of nocturnal arrhythmias with sleepdisordered breathing:The Sleep Heart Health Study.
Mehra R, Benjamin EJ, Shahar E, et al.
Am J Respir Crit Care Med,2006 Apr 15;173(8):
910〜916.
●特集:間歇的ハイポキセミアの概念
閉塞性睡眠時呼吸障害の心房性不整脈:
基礎のメカニズムと臨床での意味
[目的]閉塞性睡眠時呼吸障害
(OSA)での心房性不整
脈の問題を整理し,治療の意義を明示する.
[背景]OSA は診断に至らない例も多く,特に若年者
の危険な点が軽視される傾向が高い.
[考察Ⅰ]1)OSA は高齢・喫煙・飲酒も寄与する.
2)OSA を治療しないと死亡率が高く,特に若年者の
危険が大きい.
3)OSA で心房性不整脈と伝導障害が起こりやすい.
4)ハイポキセミアと交感神経系の異常に伴って心房
性不整脈が出る.
5)OSA 患者の CPAP 治療で心房性不整脈と伝導障
害が消える.
[考察Ⅱ]1)OSA 患者の病因にはいろいろある.
2)この中で特に重要なのが,頻脈性不整脈,特に心
房細動
(atrial fibrillation:AF)
である.
3)つまり,ハイポキセミア・ハイパーカービア・胸
腔内陰圧の増大・炎症反応・血管内容量の増加・左室
拡張障害などで,心房性不整脈を生ずる.
4)特に,ハイポキセミアで心室の弛緩拡張能が低下
することが判明している.
5)OSA で左室充満が障害され,OSA 患者では高血
圧がなくて左室肥大が起こる.
6)動物実験で,ハイポキセミア/ノルモキセミアの反
睡眠時呼吸障害とがん死亡率:
ウィスコンシン睡眠コホート研究の結果
[目的]睡眠時呼吸障害
(sleep-disordered breathing:
SDB)
ががん死亡率に関与するかを検討する.
[背景]睡眠時呼吸障害で全死亡率と心血管死亡率が
上昇する.しかし,がん死亡との関係は結論が出てい
ない.In vitro の研究と動物実験では,慢性間欠性ハ
イポキシア
(chronic intermittent hypoxia:CIH)でが
んの発育が促進されるとのデータがある.
[対象]ウィスコンシンの SDB の追跡から,ポリソム
ノグラフィに基づいた例で,例数は 1,500 例超である.
[方法]睡眠時呼吸障害は無呼吸低呼吸指標
(AHI)と
ハイポキセミア指標
(SpO2 90%未満の時間比)で評価
した.
がん死亡率を睡眠時呼吸障害の重症度と比較し,
多変量解析で検討した.
[結果]1)全参加例 1,522 のうち,365 例
(24%)は少
なくとも軽度 SDB があり,59 例
( 4 %)
は重度
(AHI>
30 か CPAP 治療中)
であった.
2)SDB 高度の患者は,BMI 高値・男性が多い・教
育レベル低値・健康の自己評価はそこそこないし劣等・
日中傾眠がみられた.
3)SDB グループ全体に,年齢・酒量・タバコ消費
量とは関係なかった.
4)死亡例は 112 例で,うち 50 例ががん死であった.
5)がん死で多かったのは肺がん
( 8 例)
,腸・卵巣・
復が酸化ストレスで心臓損傷が証明された.
7)心細胞肥大・アポトーシス・多焦点性梗塞などで
左室機能が障害される.
[考察Ⅲ]1)OSA の研究の当初から,夜間発作性頻
拍が指摘されていた.洞性停止も記述された.
2)この障害がハイポキセミアに随伴すると判明した.
3)OSA と AF の関連は,CABG 患者でも判明した.
4)OSA 患者に治療しないと AF の発生率が高い.
[考察Ⅳ]1)OSA と心房性不整脈の関連は明らかで
ある.
2)OSA と不整脈との治療の関連は確定していない.
3)OSA は CPAP で治療すべしというが,心臓に関
しては CPAP より BiPAP が有効かは未定で,OSA
患者でハイポキセミアを防ぐと AF が防げるという.
[結論]OSA で不整脈が発生する.原因は,ハイポキ
セミア・ハイパーカービア・胸腔内陰圧の増大・炎症
反応である.CPAP が有効だが,他の方法がさらに有
効かも知れない.
[解説]心房性不整脈に着目している点が面白い.
(諏訪邦夫)
Atrial arrhythmias in obstructive sleep apnea:
underlying mechanisms and implications in the clinical
setting. Filgueiras-Rama D, Arias MA, Iniesta A, et al.
Pulm Med,2013;2013:426758〜426767.
子宮内膜がん(各 4 例),脳・乳腺・膀胱・肝(各 3 例)
で,他の各種がんが 1 ~ 2 例あった.
6)SDB でがん死亡率が増加し,また SDB が重症に
なると死亡率も高まった.
7)がん死 50 例中,SDB(-)群 31 例,軽度 SDB 群
7 例,中等度 SDB 群 5 例,重度 SDB 群 7 例であった.
8)SDB(-)群に比して,重度 SDB 群の死亡率の信
頼限界は 3.6~3.8 と高値であった.
9)カプラン/マイヤー解析で,SDB の存在と重症度
によって,がんのない期間が短縮した.
10)年齢・性・BMI・喫煙で調整して,全死亡率とが
ん死率は SDB 群で高値だった.
[結論]本コホート研究では,SDB でがん死亡率が高
い.重要なテーマなのでさらに検討が必要である.
[解説]SDB でがん死も起こりやすいという本研究の
ポイントは不思議ではない.著者もいうとおり,検討
の価値があるだろう.
(諏訪邦夫)
Sleep-disordered breathing and cancer mortality:
results from the Wisconsin Sleep Cohort Study. Nieto FJ,
Peppard PE, Young T, et al.
Am J Respir Crit Care Med,2012 Jul 15;186
(2)
:190
〜194.
3
閉塞性睡眠時無呼吸で
非アルコール性肝疾患が起こる.
肝がもう一つのターゲット臓器か
[目的]閉塞性睡眠時無呼吸
(Obstructive sleep apnea
:OSA)で非アルコール性肝疾患
(non-alcoholic fatty
liver disease:NAFLD)
が起こることを示す.
[背景]OSA では,気道閉塞が反復して起こり,間歇
的ハイポキセミア
(intermittent hypoxia:IH)が反復
する.OSA でメタボリック症候群の各病像が発生し,
それと別に NAFLD も招くらしい.NAFLD は頻度
が高く,比較的単純な脂肪肝から,非アルコール性脂
肪性肝炎
(nonalcoholic steatohepatitis:NASH), 肝
硬変も招く.NAFLD には肝バイオプシーが必要であ
る.一方,肥満とインスリン抵抗性で脂肪肝が起こる
ことは確立しているが,NASH へと進む道は不明な
ままである.
[結果]1)OSA で脂肪肝が起こって進行要因となり,
NASH も招くことは証拠が揃っている.
2)横断的検索で,OSA による IH の重症度と肝バイ
オプシーによる NAFLD の重症度の相関が確立した.
3)コントロール臨床試験は行われておらず,CPAP
治療による肝臓への影響も未確立である.
4)マウスモデルでは,IH で肝へのトリグリセライド
蓄積と肝障害は確立してきた.
5)マウスモデルで,5-1)IH で肝組織の脂質融解が
増強して遊離脂酸が増加し,5-2)IH で脂肪の合成が
進み,5-3)IH が肝の酸化ストレスとなり,5-4)IH
で HIF(hypoxia inducible factor)のうち,HIF-1αは
確実に増加し,HIF-2αも多分増加する.脂肪肝と肝
硬変の原因となる.
6)IH で NAFLD が起こるが,不明な要素も多く,因
果関係は未確立である.
[結論]いろいろな結果からみて,OSA による IH が
NAFLD の原因である.しかし,確実な臨床研究と,
実験的な確認が求められる.
[解説]キルギスの首府ビシュケクからの発表で面白
い.キルギスは旧名「キルギスタン」で,旧ソ連南部
に位置し,タジキスタン・カザフスタン・ウズベキス
タンと国境を接する.人口 5 百万.比較的高地で 3,000m
以上の土地が 40%で最高峰は 7,000m 超.砂漠ではな
く,水には比較的恵まれている.
(諏訪邦夫)
Obstructive sleep apnea and non-alcoholic Fatty liver
disease:is the liver another target? Mirrakhimov AE,
Polotsky VY.
Front Neurol,2012 Oct 17;3:149〜160.
閉塞性睡眠時呼吸障害で慢性心不全を
招くのは,ハイポキシアであって無呼吸
の頻度ではない
[目的]脳 Na 利尿ペプタイド
(natriuretic peptide:
BNP)
の変化と OSA の AHI 頻度を対比する.
[背景]OSA で心不全が起こる.この心不全では交感
神経系活動が亢進し,循環動態にストレスがかかり,
ハイポキセミアと酸化ストレスも悪化する.
[対象]64 例.NYHA Ⅱ度とⅢ度,心機能は左室駆
出率
(ejection fraction:EF)
<0.4.
[測定項目]BNP を採血で測定.
[方法]64 例中,OSA なしの 5 例,重症の OSA の 12
例で BNP 検査を反復.後者群は酸素吸入.BNP 検査
数は 643 件,OSA のエピソードと BNP の対数値とを
評価した.
[結果]1)BNP レベルと AHI エピソードや覚醒数と
は相関がなかった.
2)ハイポキセミア負荷
(SpO2<90%の時間)は BNP
濃度と相関し,ハイポキシア時間が 10%増加するご
とに BNP は 9.6%増加した.
3)OSA の重症な患者ほど,心拍数が低く EF も低値
であった.
4)酸素投与で数値の改善傾向がみられた.
5)酸素投与で,SpO2 低下の比率は減少したが,無呼
吸の数は増大した.
6)酸素投与では無呼吸数は増すが,心不全は改善す
4
る.心不全は無呼吸の数ではなく,SpO2 低下の時間
数で決まる.
[結論]心不全患者では,ハイポキセミアが循環動態
ストレスの重要な要素である.ハイポキセミアの防御
が有効かも知れない.無呼吸の回数は無関係である.
[解説]ハイポキセミアが重大という結論は当然だが,
そもそも睡眠時呼吸障害は「無呼吸/低呼吸の数で定
義」するから,それと矛盾しているといえないことも
ない.それに「いびきの機械的な作用」を強調する向
きもあるから,それに対する反論にはなるかも知れな
い.ハーバードやジョンス=ホプキンスなど有力大学
の教室の共同研究である.
(諏訪邦夫)
Hypoxia, not the frequency of sleep apnea, induces
acute hemodynamic stress in patients with chronic heart
failure. Gottlieb JD, Schwartz AR, Marshall J, et al.
J Am Coll Cardiol,2009 Oct 27;54
(18)
:1706〜1712.
●特集:間歇的ハイポキセミアの概念
睡眠時呼吸障害を CPAP で治療して
炎症マーカーが改善する
[目的]睡眠時呼吸障害
(SDB)を CPAP で治療して炎
症マーカーの変化をメタ解析する.
[背景]閉塞性睡眠時無呼吸
(OSA)で冠状動脈疾患と
関係が深い.この病態で起こる間歇的ハイポキセミア
(intermittent hypoxia:IH)は交感神経を興奮させ,
全身の炎症反応を起こすようで,それが病態に関係し
ているらしい.CPAP が有効だが,それが炎症を抑え
るという報告もある.そこに着目してメタ解析を試み
る.
[対象]対象はヒト成人で英語論文.少なくとも炎症
マーカー 1 つの異常を示すこと.データベースは,
PubMed,Embase,Cochrane library.
[測定項目]CRP・TNF-α・IL6 など
[方法]CPAP で炎症マーカーが 1 つ以上変化してい
ることを条件に,論文を検索した.使用した無呼吸 /
低呼吸指数は 5/時以上.当初 4 千近い論文を選び,
最終的には 23 篇に絞った.指標により対象論文が異
なる.CRP で 14 篇 770 名,IL6 で 8 篇 165 名.炎症
のエンドポイントとしては,CRP・TNF-α・IL6 を
選んだ.
[結果]1)CRP:研究全体の平均値は治療前 0.18~
0.85 で,CPAP で 0.10~0.72mg/dL に低下した.個々
の論文の平均値は-0.05~0.50 であり,全論文の総合
平均値は 0.14[95%信頼限界は 0.08~0.20,p<0.00001]
であった.
1-2)エンドポイントは一様ではなかった.(自由度=
13,p<0.00001,寄与度=95%).
2)TNF-α:個々の論文の平均値は,治療前 1.40~
50.24pg/mL で CPAP 治療で 1.80~28.63pg/mL.
2-1)全体の数値は,-1.23~21.61 であった.
2-2)全論文の総合平均値は 1.14[95%信頼限界は 0.12
~2.15,p=0.03]であり,エンドポイントも一様でな
かった.(自由度= 8,p<0.00001,寄与度=89%)
.
3)IL6:個々の論文の平均値は,治療前 1.2~132pg/
mL で,CPAP 治療で 0.45~66pg/mL であった.
3-1)全体の数値は,-0.40~65.62 であった.
3-2)全論文の総合平均値は 1.01[95%信頼限界は 0.00
~ 2.03,p=0.05]で,エンドポイントも一様でなかっ
た.(自由度= 7,p<0.00001,寄与度=95%).
[結論]CPAP 治療で炎症マーカーが改善する.
[解説]手法とパラメーターは明確で,データも明快
で信用しやすい.
(諏訪邦夫)
Treatment for sleep apnea by continuous positive
airway pressure improves levels of inflammatory
markers - a meta-analysis. Baessler A, Nadeem R, Harvey
M, et al.
J Inflamm
(Lond)
,2013 Mar 22;10
(1)
:13〜22.
閉塞性睡眠時呼吸障害の
血管分子バイオマーカー
[目的]閉塞性睡眠時呼吸障害
(OSA)の血管の分子バ
イオマーカーをヒトとマウスで確認する.
[背景]OSA を治療しないと血管に変化が起こり,特
に内膜細胞の異常が中心で,それが高血圧と動脈硬化
を招く.その際,OSA 患者では NO の発生がわるい
らしい.
[対象]患者 24 例,OSA の有無 12 例ずつ.OSA を
シミュレートしたマウス.
[使用薬物と機器]RT-PCR.
[測定項目]PSG
(ポリソムノグラフィ)
,微細血流(ア
セチルコリンとニトロプルシッドの経皮イオントフォ
レーシスで投与して血流をレーザーで測定)
,皮膚バ
イオプシー.
[方法]ヒトの皮膚細胞とマウスの大動脈の血管内膜
細胞
(endothelial cells:EC)を培養する.その際に,
さらに IH
(間歇的ハイポキシア)を少し加える.逆転
写なども含めて,患者とマウスの遺伝子発現を評価す
る.
[ 結 果 ]1)OSA 患 者 の 皮 膚 血 管 内 膜 で は,eNOS
(endothelial nitric oxide synthase),A20/TNFAIP3
(tumor necrosis factor-alpha-induced protein 3),
HIF-1α(hypoxia-inducible factor 1 alpha),VEGF
(vascular endothelial growth factor)がすべて亢進し
た.
2)度合いは,ハイポキセミアが強い(<SpO2 75%)
群
では弱い群(75~90%)より強かった.
3)マウス大動脈内膜でも,IH 群では eNOS と VEGF
が亢進していた.
4)OSA の in vitro モデルでは,ヒトの皮膚血管では
IH で A20 が亢進し,eNOS と HIF-1αは低下した.
5)反応は,血管の種類で異なっていた.
[結論]OSA 患者の皮膚の遺伝子表現プロファイルが
重症度と相関する.さらに研究が必要ではあるが,
OSA の血管リスクが判定できるかも知れない.
[解説]遺伝子解析の話で,私の手に負えないので,
満足にはフォローできていない.「亢進」と書いた個
所の原語は“up-regulation”である.
(諏訪邦夫)
Molecular biomarkers of vascular dysfunction in
obstructive sleep apnea. Kaczmarek E, Bakker JP, Clarke
DN, et al.
PLoS One,2013 Jul 29;8
(7)
:e70559
( 8 頁)
.
5
閉塞性睡眠時無呼吸における
神経損傷の機能的意義
[目的]閉塞性睡眠時無呼吸
(OSA)の原因に新しい光
をあてる.結果が原因となるのだ.
[背景]OSA 患者の上気道の知覚と運動で,何が上気
道の筋運動に寄与し,進行を促しているのか.メカニ
ズムとして,間歇的ハイポキセミア
(IH)による化学
代謝面といびきによる機械面の双方からの上気道筋の
損傷が,OSA の進行を招くと考えられる.
[考察Ⅰ]人体でのデータで,以下の 3 点に注目.
1)OSA で上気道の知覚運動障害が起こる証拠.
2)障害が上気道を変化させ,OSA を進める点の理解
の現況.
3)未解決の問題と治療の関連.
[考察Ⅱ]1)OSA の上気道の知覚と筋肉と神経の変
化を,一応「上気道リモデリング」と呼ぶ.上気道リ
モデリングが睡眠時呼吸障害を招く.
2)神経と筋肉の変化は,いびきとハイポキセミアで
発生する.2 つの因子の関与の度合いは不明.
3)OSA で上気道リモデリングを健常人と比較する.
テーマは
(1)
上気道筋の解剖学的リモデリング,(2)遠
心変化,
(3)
求心変化の3つである.
4)組織面・電気生理面・生理学面の研究を包括し,
上気道反射の機能も検討する.
5)リモデリングで睡眠時気道閉塞を招く状況考察.
慢性間欠性ハイポキシアと
高血圧の分子メカニズム
[目的]閉塞性睡眠時呼吸障害
(OSA)に伴う慢性間欠
性ハイポキシア
(chronic intermittent hypoxia:CIH)
で高血圧が起こり,その高血圧は覚醒時にも持続する
事実の分子メカニズムを提案する.
[背景]OSA 患者では気道閉塞のない覚醒時も高血圧
が持続する.日中も交感神経興奮が持続して血管系変
化を招き,高血圧の持続を起こす.交感神経興奮で末
梢化学反射の感度が増し,中枢の交感神経系調整も異
常になる.CIH による血管変化は,CIH で起こる交
感神経興奮が原因である.
[内容]1)OSA ではハイポキセミアとハイパーカー
ビアが夜間に何度も起こる.
2)高血圧・不整脈・うっ血性心不全・脳卒中が随伴
し,OSA の重症度と心血管系の重症度は相関する.
3)OSA の高血圧は 30~60%で,昼間も下がらない.
4)血圧は日中も高値で,薬物抵抗性も高い.中年の
高血圧に薬物が効かないと OSA が多い.
5)OSA による CIH が交感神経系を興奮させ高血圧
となることは動物でも患者でも証明済みで,CPAP が
効いて睡眠が改善すると高血圧も治まる.
6)日中にハイポキセミアがないのに交感神経亢進が
持続する点は不明だが,末梢化学反射亢進と中枢交感
神経調整異常化によるらしい.
6)動物実験では,CIH でハイポキセミアで末梢化
学受容体
(頸動脈小体)
感度増大が判明している.
6
[考察Ⅲ]上気道遠心系の変化:1)軟部組織と筋の変
化以外に,電気生理面も変化する.
2)OSA 患者では,覚醒時の多単位筋電図レベルが健
常人より高い.
3)筋電図増加は上部気道が狭小なことの代償との考
え方が確立した.
4)上部気道の筋活動増強は,COPD で横隔膜と他の
吸気筋活動増強に似ている.
[考察Ⅳ]OSA の神経障害:上気道のリモデリング
1)Ⅱ型筋細胞が増強し,トレーニングに似る.
2)OSA では単一運動単位の脱神経が起こり,知覚異
常も観察されている.
3)求心系の異常と浮腫の寄与の度合いは不明.
4)四肢筋に振動を与えると傷害が起こる.いびきが
上気道に損傷を招くと考えるのは自然だ.
5)上気道のリモデリングは機械的障害とハイポキセ
ミアの複合で起こる.
[結論]OSA では,ハイポキセミアといびきで上気道
のリモデリングが起こる.COPD の横隔膜変化に似
ている.CPAP で少なくとも一部改善する.
[解説]いびきの機械的影響と,ハイポキセミアの化
学とで神経筋損傷が起こり,上気道にリモデリングが
起こるという主張がある程度明確だが. (諏訪邦夫)
Functional role of neural injury in obstructive sleep
apnea. Saboisky JP, Butler JE, Gandevia SC, et al.
Front Neurol,2012.15;3:95〜106.
7)CIH の分子メカニズムの第一は,反応性酸素種,
活性酸素(reactive oxygen species:ROS)である.
8)CIH ではハイポキセミアと酸素供給回復とが反
復する.これが ROS 産生を促す条件で,人体でも確
認されている.NOX(NADPH 酸化酵素群)は細胞膜
を隔てて電子運搬機能があり ROS 蓄積を招く.
9)低酸素誘導因子
(Hypoxia-Inducible Factor:HIF)
と ROS:正常状態の HIF には活性がないが,ハイポ
キセミアでは活性が出て,細胞を損傷する.ハイポキ
セミアが反復すると HIF はさらに増量する.
10)ROS の作用点:少なくとも ET(エンドセリン)の
作用増強が判明している.頸動脈小体も中枢交感神経
系も CIH で活動が増す.
11)中枢への入力は末梢受容体と,中枢組織の酸素レ
ベルも受け取る.CIH は,脳の交感神経系に与かる
FosB 群の産生を増し,特に⊿ FosB は寿命が長くて
消えにくく,1 週間以上持続する.CIH による高血圧
が日中も継続するメカニズムである.
12)CIH で PVN
(脳室旁核)
の nNOS が減少して,NO
の働きが低下して血圧上昇を招くと判明している.
[結論]CIH には関与因子が多い.その分析にはシス
テム的アプローチが有効である.
[解説]多数の要素を列挙だけして,どの因子がどの
程度重要かの記述が乏しい.
(諏訪邦夫)
Molecular mechanisms of chronic intermittent hypoxia
and hypertension. Sunderram J, Androulakis IP.
Crit Rev Biomed Eng,2012;40
(4)
:265〜278.
●特集:間歇的ハイポキセミアの概念
ネズミの OSA モデルによる認知障害は,
エリスロポエチンで寛解する
[目的]OSA モデルによる認知障害がエリスロポエチ
ン投与で寛解することを確認する.
[背景]齧歯動物を間歇的ハイポキセミア
(IH)にする
と,行動異常性の神経障害と海馬と皮質のアポトーシ
スが起こり,同時に過酸化物質が増加して炎症反応が
みられる.ところが,
持続性ハイポキセミア
(sustained
hypoxia:SH)にすると上記変化が減弱する.どうや
らエリスロポエチン
(EPO)が関与しているらしく,
その投与の効果を示唆する.
[対象]動物を 4 群に分ける.IH,SH,さらに EPO
の有無で分けて計 4 群.
[使用薬物と機器]EPO は腹膜内投与.量は 5,000 IU/
kg 毎日.
[測定項目]行動分析,酸化マーカー
(血中 NADPH
酸化酵素,皮質と海馬の MDA と 8-OHDG)
.
[方法]動物を迷路を走らせて,行動分析する.
[結果]1)水路での迷路認知を指標として,IH では
損傷を受けたが,SH では損傷を受けなかった.
2)酸化ストレスマーカーの増加も,IH では起こった
が,SH では起こらなかった.
3)EPO 投与マウスでは学習能は正常で,EPO を投
与せずに IH にさらしたマウスでみられた学習障害は
なかった.
1 型キアリ奇形児でみられた
複雑な睡眠時呼吸障害
[目的]1 型キアリ奇形の複雑な睡眠時呼吸障害
(SDB)
の症例報告.
[背景]キアリ奇形は生来の奇形で中胚葉障害が原因
とされ,後頭窩の容積が少なく,それが原因で後頭葉
や脳幹のヘルニアが起こり,
小脳や頚髄の異常を招く.
機械的な理由と神経の障害の双方で,呼吸障害が起こ
りやすく,当然 OSA も起こる.本例は他の神経障害
が乏しく,OSA だけを主徴とした稀な例である.
[対象]キアリ奇形で OSA だけを主徴とする 13 歳女
児.基本的に健康.
[使用機器と測定項目]PSG
(ポリソムノグラフィ)と
各種人工呼吸法の適用.
[内容記述]1)当初の PSG で OSA が明確で,同時に
夜間のハイポキセミアが持続することも判明した.
2)最初は CPAP を適用して数値を選んで改善を図っ
たが,この児の場合は睡眠時無呼吸が混合性で中枢の
要素があり,CPAP だけでは解決できず BIPAP が必
要だった.
3)MRI で 1 型キアリ奇形の診断は確定した.
4)バイパップ BIPAP 型で時間サイクルを加える人
工呼吸法を適用して解決できた.
[結論]キアリ 1 型で OSA を主徴とすることがあり,
その場合は中枢無呼吸も伴うので CPAP では解決で
きず,本件のようにバイパップなどの呼吸補助が必要
である.
4)不安評価でも,IH マウスでは増加したが,ノルモ
シキアマウスと IH+EPO マウスでは普遍であった.
5)酸化ストレスとして測定した NADPH 酸化酵素・
皮質と海馬の MDA と 8-OHDG も,対照では増加し
たが,EPO 処理マウスでは変化がなかった.
[結論]IH という酸化ストレスと神経行動障害は,少
なくとも EPO 発現と NAD 酸化酵素のバランスで起
こる.EPO の効果はそれで説明でき,患者への効果
も期待できる.
[解説]動物実験では明確な効果が出ている.さて,
臨床的な応用はどうなるか.「IH が原因か,いびきに
よる機械的振動が原因か」という議論にも光が指すか
も知れない.
(諏訪邦夫)
Exogenous erythropoietin administration attenuates
intermittent hypoxia-induced cognitive deficits in a
murine model of sleep apnea. Dayyat EA, Zhang SX,
Wang Y, et al.
BMC Neurosci,2012 Jul 3;13:77〜88.
人工呼吸前後の PSG
(ポリソムノグラフィ)
総括
診断時
CPAP
BiPAP-S/T
PSG
PSG
PSG
7
5
5
睡眠効率(%)
91
85
90
REM 睡眠(% of TST)
16
10
12
睡眠時間(TST)
(時)
徐波睡眠(% of TST)
16
23
44
112
106
13
中枢 AHI(/時)
32
83
2
閉塞 AHI(/時)
63.5
2.4
0
混合 AHI(/時)
10
4
0.2
全 AHI(/時)
SaO2 平均値(%)
86
91
95
SaO2 最低値(%)
63
75
79
SaO2 <90%(%)
56
31
4
覚醒指数(回数/時)
58
40
4
[解説]本例はトルコからの報告.20 年近く前に,1
歳のキアリ患者が気管切開後に心停止から脳障害を起
こして結局亡くなった例を鑑定した.麻酔科医が ICU
でケアし,2 週間ほど経鼻挿管で気道確保した後に気
管切開した.気管切開直後に何故か ICU から一般病
棟へ移動して数時間後に心停止した.「ICU から一般
病棟へ移動があやまり」と鑑定した. (諏訪邦夫)
Complex sleep apnea syndrome in a child with Chiari
malformation type 1. Yosunkaya S, Pekcan S.
Turk J Pediatr,2013 Jan-Feb;55
(1)
:107〜111.
7
目標指向型循環管理は
術後合併症を減らす
[目的]目標指向型循環管理
(goal directed hemodynamic therapy:GDT)を,さまざまな地域,術式を
横断した多施設共同試験を行い,このアプローチが周
術期合併症を減少させたり,入院期間短縮に繋がるか
を検討する.
[背景]GDT は手術中の輸液や循環作動薬を調節し心
拍出量を管理し,全身への酸素供給を維持し,周術期
の合併症発生率や死亡率を改善させることを目的とし
た考え方である.
[研究の場]ロシア,ドイツ
(ハンブルグ,キール),
ハンガリー,スペインの 5 つの大学病院.
[統計]多施設前向き無作為比較試験.
[対象]ASA2 または 3 の一般外科,産婦人科,泌尿
器科の待機的手術患者で,予定手術時間 120 分以上,
または予想出血量が推定循環血液量の 20%以上の症
例.腹腔鏡手術,妊婦,授乳婦,不整脈,術後 ICU
入室予定患者は除外した.
[方法]1)2011 年 8 月~2012 年 3 月の期間,封筒法
によって GDT 群と対照群に無作為に振り分けた.
2)両群とも 1 本以上の末梢静脈ライン,中心静脈ラ
イン,橈骨動脈ラインを挿入された.GDT 群では動
脈ラインを APCO
(ProAQT,Pulsion medical system)
に接続して,脈圧変動
(PPV)
>10%であれば輸液負
荷,PPV<10%で CI<2.5 なら強心薬,CI>2.5 でも
MAP<65mmHg ならば血管収縮薬を投与された.対
目標指向型循環管理の有用性に関する
メタアナリシス
[目的]周術期の目標指向型循環管理
(GDT)の有用性
を,手術危険度による層別化や GDT の内容に関しサ
ブグループ解析を行ってメタアナリシスする.
[背景]GDT が周術期死亡率や合併症を減らすと報告
されている.
[研究の場]ロンドンの一般病院集中治療室.
[統計]メタアナリシス.
[対象]1)無作為比較試験でプライマリまたはセカン
ダリアウトカムとして死亡率や合併症発生率を報告し
ている,対象が成人の一般外科領域,GDT モニター
の目標値,介入のプロトコルが予め明確に決められて
いる,介入は輸液のみ,または輸液と強心薬によるも
の,GDT が術中または術前後 24 時間以内に開始され
ている文献を対象とした.
2)MEDLINE,EMBASE,CENTRAL に 2012 年 4 月
までに英語で報告された論文を,
コクラン・コラボレー
ションが推奨する検索キーワードで抽出した.
[方法]1)それぞれの報告の質を Jaded スコアで評
価した.無作為化と盲検などの臨床試験のプロトコル
の質を 0 ~ 5 点で評価した.
2)3 人の研究者がそれぞれ独立して文献選別を行い,
標準化されたフォームでデータを収集し,相違点は第
四の研究者が調整した.
3)対照群の死亡率 20%以上を最高リスク,5 ~19%
8
照群の循環管理は麻酔担当医の判断で行われた.
3)プライマリ・エンドポイントは,術後 28 日までの
周術期合併症,セカンダリ・エンドポイントを入院日
数とした.
[結果]1)GDT 群 79 人,対照群 81 人のデータを解
析した.
2)術前の危険因子,手術の種類や所要時間は 2 群間
で有意差はなかった.
3)術中平均動脈圧は GDT 群が高い傾向があった.
4)合併症発生数は GDT 群で有意に減少した(GDT
群:対照群=72 件:52 件,p=0.038).とくに感染性
合併症が GDT 群で著明に減少した(GDT 群:対照群
=13 件:26 件,p=0.023).
5)腸管蠕動の回復,PACU 滞在時間,入院期間には
差が認められなかった(それぞれ GDT 群:対照群= 3
日:2 日,p=0.316,180 分:180 分,p=0.516,11 日:
10 日,p=0.929).
[結論]メジャーな腹部外科手術で,脈圧変動,心拍
出量トレンド,平均血圧をキーパラメーターとして血
行動態の目標指向管理を行うことによって術後合併症
を減少できた.
(石原 聡)
Perioperative goal directed hemodynamic therapy
based on radial arterial pulse pressure variation and
continuous cardiac index treending reduces postoperative complications after major abdominal surgery:multicenter prospective randomized study. Salzwedel C, Puig
J, Carstens A, et al.
Crit Care,2013 Sep 8;17
(5)
:R191.
を高リスク,0 ~4.9%を中等度リスクとして階層化
し,この階層ごとに死亡率と合併症発生率を解析した.
[結果]1)32 件の論文が解析対象となった.
2)Jaded score の中央値は 3 であった.
3)全体の患者数は 2,808 人,GDT 群 1,438 人,対照
群 1,370 人となった.サブグループとして最高リスク
群は 315 人,高リスク群は 924 人,中等度リスク群は
1,569 人であった.
4)全体として GDT 群の死亡率が低かった(OR 0.52,
95% CI 0.36-0.74,p=0.003).
5)最高リスク群と高リスク群では GDT 群の死亡率
が低かった(最高リスク群の OR 0.2,95% CI 0.09-0.41,
p<0.0001).合併症頻度も全てのサブグループで低下
し た(OR=0.45,95 % CI 0.34-0.60;p<0.00001). 合
併 症 予 防 効 果 は 最 高 リ ス ク 群 で 最 も 大 き く(OR=
0.27,95% CI 0.15-0.51;p<0.0001),次に中等度リス
ク群(OR=0.43,95% CI 0.27-0.67;p=0.0002),次い
で 高 リ ス ク 群(OR 0.56,95 % CI 0.36-0.89;p=0.01)
となった.
[結論]検討の質とデザインに関して不均質性があっ
たものの,GDT は大手術を受ける全てのハイリスク
患者にとって有用である.
(石原 聡)
Goal directed therapy - what is evidence in surgical
patients ? The effects on different risk groups.Cecconi M,
Corredor C, Arulkumaran N, et al.
Crit Care,2013 Mar 5;17
(2)
:209.
●手術室の麻酔
外科的アプガースコアは
術後 ICU 入室判断に役立つ
[目的]外科的アプガースコア
(surgical Apgar score
:SAS)が術後 ICU 入室を必要とする判断基準になり
うるかどうかを検討する.
[背景]ハイリスク外科手術患者を容体が悪化してか
ら ICU に入室させた場合,手術直後に ICU 入室させ
た場合より予後がわるいと報告されている.ハイリス
ク手術患者を ICU 入室させるかのトリアージが患者
の予後に影響する.外科的アプガースコア
(SAS)は術
中の心拍数,平均血圧,推定出血量を用いた簡便なス
コアで,術後の合併症発生率や死亡率を予測し,低い
スコアがわるい予後と相関することが知られている.
[研究の場]米国コロンビア大学メディカルセンター.
[統計]後方コホート検討.
[対象]2003 年 3 月~ 2010 年 1 月の期間にメジャー
な腹腔内手術を受けた成人患者.
[方法]1)麻酔データベースから,各々の患者の術中
心拍数,平均血圧,推定出血量を求め,0 ~10 点の
SAS を計算した.年齢,性別,BMI,術式,緊急の
有無,麻酔時間,ASA-PS による多因子予測モデルも
作成し SAS と比較検討した.回帰分析を行い,手術
後 ICU に直接入室させる判断と SAS の相関を検討し
た.
[結果]1)8,501 人の患者が検討対象となり,SAS 7
バイタルサインを用いた
術中リスク判定の落とし穴
[目的]外科的アプガースコア
(SAS)のバイタルサイ
ン測定に関して,データ取り込み間隔を広げると,特
異度と予測能力が改善するかを検討した.
[背景]患者データをコンピュータでレビューするこ
とで,危険性のある患者とない患者を早期に正確に認
識して患者管理を改善させることができる可能性があ
る.しかし,患者のバイタルサインデータを取り込む
手順の意義についてはよくわかっていない.
[研究の場]メイヨクリニック手術室.
[対象]American College of Surgeons National Surgical Quality Improvement Program に登録された一
般外科と血管外科の電子麻酔記録.
[方法]皮切から皮膚縫合までの手術中の最低心拍数,
最低平均血圧,推定出血量からなる SAS を,連続的,
5 分間隔,10 分間隔,オーバーラップさせて 5 分間隔
(たとえば 5 分,16 分,27 分というオーバーラップ方
法)
,オーバーラップさせて 10 分間隔
(たとえば 0 〜
10 分,1 〜11 分,2 〜12 分というオーバーラップ方
法)という 5 つの方法で収集した.死亡を含む主要な
合併症は術後 30 日目に評価した.メイヨクリニック
では PICIS ChartPlus という AIMS を使って基本的
には 2 分間隔でバイタルサインを記録している.心拍
数は主にパルスオキシメータから得て,平均血圧は
~10 点が 72.7%,SAS 0 ~ 4 点は 5 %以下であった.
737 人(8.7%)が術直後に ICU 入室した.
2)多因子調整後に SAS と ICU 入室判断の間には強
い相関が得られた(SAS 7-8 に対する SAS 0-2 の adjusted OR 14.41[95 % CI,6.88-30.19,p<0.001],
SAS 3-4 の OR 4.42[95 % CI,3.19-6.13,p<0.001]
,
SAS 5-6 の OR 2.60[95% CI,2.08-3.24,p<0.001]
)
.
3)354 人(4.6%)が手術後病棟から ICU 入室となった
が,SAS による遅延 ICU 入室の予測の信頼性は高く
なかった.
[考察]SAS は簡便に算出できる特徴があり予後との
関連も認められているが,全体としての信頼性は多因
子予測モデルの方が優れていた.SAS による ICU ト
リアージについては RCT がなされておらず,有用性
は不明である.
[結論]SAS はハイリスク腹腔内手術直後の ICU 入室
の臨床的判断と強い相関があった.術中血行動態と出
血量が術後患者の ICU トリアージに影響するかを検
討する最初のステップとなった.
(鈴木 潤)
The surgical Apgar score is strongly associated with
intensive care unit admission after high-risk intraabdominal surgery. Sobol JB, Gershengorn HB, Wunsch H, et al.
Anesth Analg,2013 Aug;117
(2)
:438〜446.
25 以下と 180 以上を誤データとして削除し,観血的
測定が行われていない場合には非観血的測定値を記録
した.
[結果]3,000 人の患者のうち,272 人(9.1%)が大きな
合併症を経験または死亡した.データ収集間隔を最も
短い連続測定から最も長いオーバーラップのない 10
分間隔まで広げると,感度,陽性予測値,陰性予測値
は有意に変化しなかった.しかし特異度は 79.5%から
82.9%に改善し,正確度は 76.0%から 79.3%に改善し
た.最短と最長データ収集間隔を比較すると,最終的
な分類改善率は 0.01 から 0.06 に改善した.
[結論]バイタルサインの収集間隔は SAS の計算に有
意に影響する.今後 SAS を利用する際にはデータ収
集の手順に充分な注意を払う必要がある.
[解説者注]日本でも AIMS が普及してオンラインで
収 集 さ れ た バ イ タ ル デ ー タ を 基 に Surgical Apgar
Score のように術後リスクを予測することができるよ
うになってきた.しかしオンラインデータに含まれる
さまざまなアーチファクトをどのように除去するか,
いかに適切にデータ収集をするかが今後の問題であろ
う.
(片山勝之)
How to improve the performance of intraoperative risk
models:an example with vital signs using the surgical
apgar score. Hyder JA, Kor DJ, Cima RR, et al.
Anesth Analg,2013 Dec;117
(6)
:1338〜1346.
9
区域麻酔下の帝王切開中に
酸素を投与すべきか
[背景]区域麻酔下の帝王切開中,低リスクの妊婦に
は比較的ルーチンに酸素を投与している.しかし,母
体と児への影響は十分確立していない.
[目的]第一の目的は,区域麻酔下の帝王切開中,低
リスクの満期妊婦に酸素を投与することで,母体と児
の低酸素を防ぐことができるかどうかを検討した.第
二の目標は,酸素を投与された母体と新生児の平均血
液ガスレベルを対照群と比較した.
[対象]コクラン・ライブラリー 2012 年第 2 刷のコク
ラ ン 中 央 登 録(Central),1948 年~2012 年 2 月 の
Medline,1980 年~2012 年 2 月の EMbase.
[方法]1)論文の選択基準は,低リスクの満期妊婦に
区域麻酔下予定帝王切開中,酸素を投与した群と対照
群を比較した無作為対象検討を行ったもの.
2)二人のレビュー著作者が別々にデータを抽出し,
方法論の質的評価とサブグループ解析と感度分析を
行った.
[結果]1)683 症例を含む 10 編の論文を検討対象とし
た.
2)論文ごとに酸素流量と投与期間はさまざまであっ
た.
3)10 編の論文は母体の低酸素に焦点を合わせてはい
なかったが,母体に低酸素はなかった.
4)母体酸素飽和度は有意に上昇した
( 3 つの論文で平
均 1.6%上昇,95% CI 0.8-2.3% p<0.0001)
.
術後第一病日の手術種類別の
術後疼痛強度
[目的]術後鎮痛と手技に特異的に最適化した鎮痛プ
ロトコルを作るため,どのタイプの手術が激しい術後
痛をもたらすのかを解析する.
[背景]外科手術後の激しい痛みは 20~40%の患者に
出て依然として大問題である.従来多くの検討がなさ
れてきたにも関わらず,毎日行っている多種のタイプ
の手術後の痛みの程度は明らかでない.
[研究の場]ドイツ全土の臨床病院.
[対象]2004 年 5 月~2010 年 5 月に 105ヵ所のドイツ
の病院の 578 外科病棟に入院した 115,775 人の成人患
者のうち,70,764 人が検討対象になった.除外基準は,
術後他病棟に転棟,訪室時不在,参加拒否,ドイツ語
不通,認知障害,鎮静または睡眠,手術コード記載不
備,18 歳以下とした.
[方法]1)術後第 1 病日に 0 ~10 の numeric rating
scale
(NRS)を用いて,術後もっとも強かった痛みの
程度が質問された.
2)すべての外科手技は,21,000 からなるドイツ標準
外科コード分類を基に手術部位,部位へのアクセス方
法から定義された 529 のグループに分類された.1 つ
のグループの患者数が 20 人以下だった場合,データ
は分析から除外された.
3)最終的に 50,523 人の患者が 179 の外科手技グルー
10
5)母体酸素分圧は有意に上昇した(6つの論文で酸素
投与群で平均 141.8mmHg 上昇,95% CI 109.3-174.3
mmHg p<0.00001).
6)新生児臍帯静脈 PO2 は有意に上昇した(10 の論文
で,平均 5.9mmHg 上昇,95% CI 3.2-8.5mmHg,p<
0.0001).
7)新生児臍帯動脈 pH に有意差なし( 8 つの論文で,
平均差なし).生後 1 分の Apgar スコアでは有意差な
し( 5 つの論文で,平均差は 0.07,95% CI 0.20-0.34,
p=0.6).生後 5 分の Apgar スコアでは有意差なし
(5
つの論文で,平均差なし).
8)低リスク群での検討では新生児臍帯動脈 PO2 に有
意差は認められなかったが,高リスク群での検討では
酸素投与群で上昇した.
9)酸素フリーラジカル
(MDA と 8-イソプロスタン)
レ
ベルは酸素投与群で有意に上昇した( 2 つの論文で,
MDA 平均差 0.2umol/L,95% CI 0.1-0.4,p=0.0002,
8-イソプロスタン平均差 64.3pg/mL,95% CI 51.7-76.8,
p<0.00001).
[結論]健康な満期妊婦への酸素投与は,母体と新生
児の酸素レベルを上昇させ,酸素フリーラジカルのレ
ベルも上昇する.酸素投与が新生児に有益か無益かは
判断不明である.
(片山勝之)
Supplemental oxygen for caesarean section during
regional anaesthesia. Chatmongkolchart S, Prathep S.
Cochrane Database Syst Rev,2013 Jun 28;6:CD
006161.
プに分類されて比較された.
4)PACU と外科病棟で使用されたオピオイドは経口
モルヒネ換算して記録した.
[結果]1)もっとも高い疼痛スコア(NRS 中央値 6-7)
を示した 40 手技中,四肢の整形外科/外傷手術が 22
を占めた.
2)多くの小外科手術,たとえば虫垂切除,胆嚢摘出
術,痔核摘出術,扁桃摘出術などが高い疼痛スコアを
示した.これらはもっとも高い疼痛スコアを示した
25 の手術に含まれていた.
3)メジャーな腹部手術は比較的低いスコアに留まっ
たのは,充分な硬膜外鎮痛を行っていたのが理由で
あった.
[結論]いくつかの通常小手術から中手術とされる腹
腔鏡アプローチを含む外科手術で,予想に反して思い
がけず強い術後疼痛に見舞われることがある.激しい
痛みに見舞われる患者の数を減らすためには,いわゆ
る小手術を受ける患者をもっと詳細に観察する必要が
ある.術後鎮痛は,すでに存在する手術特異的に推奨
されている疼痛治療法に呼応していかなければならな
(片山勝之)
い.
Pain intensity on the first day after surgery: a
prospective cohort study comparing 179 surgical
procedures. Gerbershagen HJ, Aduckathil S, van Wijck
AJ, et al.
Anesthesiology,2013 Apr;118
(4)
:934〜944.
●手術室の麻酔
外傷麻酔のチェックリスト
[背景]全米各地の外傷麻酔専門家が示した外傷およ
び緊急麻酔のチェックリスト.理想的なものではなく
今後の議論の叩き台として Anesth & Analg の紙面上
に特別記事として掲載された.
[患者到着前]
□室温を 25 度以上に保つ
□ IV ラインを保温
□麻酔器チェック
□気道確保器具の準備
□救急薬品準備
□血液銀行に「O
(-)
型 RBC 6 単位,AB 型 FFP 6 単
位,血液型を問わない血小板 5 〜 6 単位」をオーダー
[患者到着]
□外傷部位同定/緊急手術を要するか?
□血液銀行に「血液型&交差試験,および大量輸血プ
ロトコル MTP の発動」を伝える
□末梢確保
□モニター開始
(SpO2,血圧,心電図)
□外科医に「消毒とドレープ」
□予め酸素投与開始
(precxygenation)
[麻酔導入]
□鎮静薬
(ケタミン,プロポフォール,エトミデート)
□筋弛緩薬
(SCC,ロクロニウム)
[挿管]
□ ETCO2 が得られたら外科医に「手術開始!」宣言
重症肝外傷治療における
大量輸血プロトコルの有用性
[目的]メジャー肝損傷で,
大量輸血プロトコル
(MTP)
の効果を検討した.
[背景]大量出血している患者に対して凍結血漿と血
小板を適切に用いる MTP が急速に拡がっている.メ
ジャーな肝損傷では大量の輸血と迅速な出血コント
ロールが必要であるが,従来の文献では混合外傷患者
における MTP の有用性が示されてきたにすぎない.
[研究の場]レベル1外傷センター.
[統計]Stata ver. 8 を用いた
(Student t,Mann-Whitney
U test)
.
[対象]大量輸血
(24 時間以内に 10 単位以上の輸血)
を要した米国外傷学会肝損傷分類グレード 3 ,4 ,また
は 5 の肝損傷患者
(グレード 3:肝被膜下血腫 50%以
上, ま た は 被 膜 破 裂, 実 質 内 10cm 以 上 の 血 腫,3
mm 以上の深さの被膜裂傷)
.
[方法]1)2007 年から導入した新しい MTP を適応さ
れた対象患者群と,2005 年~2007 年に治療された患
者群を比較した.
2)新しい MTP では,RBC と FFP と血小板が,1:1:
1 で投与され,血液の希釈が生じないようになってい
る.MTP の適用開始宣言は,外科主治医,麻酔医,
救急医によってのみ行われる.一旦宣言されると,血
液銀行は O
(-)型 RBC 6 単位と AB 型 FFP 6 単位を
□経口胃管挿入
[麻酔薬]
□(吸入麻酔薬,および / またはミダゾラム)+麻薬
□ TIVA を考慮
□必要に応じて追加の静脈と動脈ライン挿入
[蘇生]
□基準となる血液生化学検査提出
□平均動脈圧トレンドを追跡
□ゴールとすべき FFP 対 RBC 輸血比率は不明だが,
FFP は初期段階で投与
□尿量は 0.5 〜 1 mL/kg/hr を目指す
□受傷 3 時間以内なら,トラネキサム酸投与(10 分で
1 g 投与後,8 時間以上かけて 1 g)
□塩化カルシウム 1 g
□ハイドロコーチゾン 100mg
□バゾプレッシン 5-10 IU
□抗生物質投与
□外傷性脳損傷では,sBP>90-100mmHg,SaO2>90
%,PCO2 35-45mmHg
[術後]
□ ICU のベッド確保確認
□低一回換気量療法( 6 mL/kg 理想体重)を開始する
(片山勝之)
A checklist for trauma and emergency anesthesia.
Tobin JM, Grabinsky A, McCunn M, et al.
Anesth Analg,2013 Nov;117
(5)
:1178〜1184.
クーラーボックスに入れて導入パッケージとして供給
する.その後有効な止血が行われるまで,血液銀行は
RBC6 単位と FFP6 単位と血小板 8 -10 単位またはク
リオプレチピテート 10-20 単位を 30 分ごとに交互に
提供する.
[結果]1)新しい MTP 群 35 人と対照群 25 人の肝外
傷の程度や,ほかの背景因子に差はなかった.
2)生存率は両群で差はなかった(MTP 群 18/35 に対
して対照群 11/25,p=0.61).
3)一次的に腹膜を閉じて帰室できた割合は,新しい
MTP 群が有意に高かった(MTP 群 12/18 に対して対
照群 3/11,p=0.02).この差はグレード 4 での比較で
より明確であった(89%に対して 14%).平均腹膜閉
鎖期間は 4.2 日であった.
4)MTP 群では血漿:赤血球:血小板の比率が保たれ,
晶質液輸液量は減少した(p=0.0026).
5)アシドーシスと凝固障害からの回復速度は MTP
群が早かった(p=0.009).
[結論]MTP を導入すると,晶質液使用量を減少させ,
一次的腹膜閉鎖ができる可能性が高まった.
(片山勝之)
The impact of a massive transfusion protocol(1:1:1)
on major hepatic injuries:does it increase abdominal
wall closure rates? Ball CG, Dente CJ, Shaz B, et al.
Can J Surg,2013 Oct;56
(5)
:E128〜E134.
11
ハイブリッド手術室での
ハイリスク帝王切開
[目的]ハイリスク妊婦の管理を改善する斬新な集学
的なアプローチを検討する.
[背景]帝王切開率の増加,胎盤着床異常をもつ帝王
切開,さらに複雑な全身的な疾患を抱えた妊婦の帝王
切開などの増加は,分娩中のハイリスク妊婦の管理を
革新的に進歩させる必要がある.
[研究の場]ボストンのブリガム&ウイメンズ病院.
[対象]2007 年~2013 年 3 月にハイブリッド手術室で
帝王切開を受けた 11 件の妊婦症例.
[方法]全例についてのブリーフレポート.
[結果]ハイブリット手術室のもっとも一般的適応は,
出血の危険性のある症例で前置胎盤などの胎盤着床異
常症例であった
( 6 症例)
.5 例は胎盤早期剥離が疑わ
れた症例であった.内 3 例に動脈
(内腸骨動脈~子宮
動脈塞栓術またはバルーン閉塞)
塞栓治療が行われ,1
例では子宮摘出中に術野からの出血をコントロールす
るため子宮動脈塞栓術が行われた.1 例は全前置胎盤
であったが,カテーテル・インターベンションは行わ
れなかった.
ほかの適応は,母体の心血管系異常
( 1 例は重症
AS,1 例はタイプ B 大動脈解離)や,頭蓋内病変( 1
例は AVM 破裂,1 例は小脳腫瘍)
であった.
[考察]ハイブリット手術室では,カテーテル・イン
緊急事態での認知補助具の活用
[背景]認知補助具
(cognitive aids)とは仕事を完成さ
せる助けになる道具を意味する.ポスター,フロー
チャート,チェックリスト,ときには記憶術などの形
をとる.麻酔中の緊急事態の際にこの認知補助具を用
いることで緊急事態対応行動を改善し,患者の予後も
改善するとされてきたが,そのエビデンスの系統的評
価はなされていない.
[目的]認知補助具を用いて個人やチームのパフォー
マンスが改善するか,未来の認知補助具をどのように
デザインし,検証し,実際に組み込むかについて推奨
できるかを文献的に検証した.
[研究の場]医科大学シミュレーションセンター.
[方法]医学,看護学,心理学データベースから,麻
酔緊急事態において認知補助器具を用いたと報告した
文献を検索した.それぞれの文献の参考文献リストに
ついても検索対象とした.麻酔緊急時に使われた認知
補助具について評価する記載記事があった場合は,補
助具がどういうものであったか,そのデザインはどの
ように評価されていたのか,その補助具が技術的およ
びチームパフォーマンスを改善させる成功に結びつい
たかを評価した.
[結果]1)麻酔緊急時に臨床医を助けるべき認知補助
具が 22 検索でき,23 の研究で評価していた.
12
ターベンション,TEE,人工心肺装置の導入,バルー
ンによる弁形成,その他の急性期画像診断(CT や血
管造影)が行える.帝王切開中の妊婦を血管造影室に
移動させることは非常に大きな危険を伴うため,ハイ
ブリッド手術室でハイリスク患者の帝王切開を行うメ
リットは大きいものがある.
分娩室外で帝王切開を行う判断は,産科医,放射線
科医,麻酔医,新生児科医,助産師の集学的検討の上
でなされるべきである.
残念ながらブリガム&ウイメンズ病院のハイブリッ
ト手術室は分娩室から遠く,緊急時の移送は困難であ
る.
[結論]ハイブリット手術室でハイリスク妊婦の帝王
切開を行うメリットは大きい.
[解説者注]この論文はハイリスク帝王切開をハイブ
リッド手術室で行う意義に言及した初めての論文であ
る.ハイリスク帝王切開は,必ずしも稼働率の高くな
いハイブリット手術室の使用目的に加えるべき手術の
1つである.
(片山勝之)
Cesarean delivery in the hybrid operating suite:a
promising new location for high-risk obstetric
procedures. Clark A, Farber MK, Sviggum H, et al.
Anesth Analg,2013 Nov;117
(5)
:1187〜1189.
2)悪性高熱症,心肺蘇生,挿管困難などの麻酔緊急
に対処行動を助ける認知補助具の有用性を,シミュ
レーションを用いて 10 の検討を行った.
3)3 つの認知補助具はシミュレーション評価で,参
加者の診断・治療に改善がないか,時間を要したり,
誤った診断に導いてしまった.
4)4 つの検討ではチームワークに対する認知補助具
の効果が検討され,異なる結論に結びついていた.う
ち 1 つの検討では参加者がコーディネートするパター
ンに改善が見られた.またもう 1 つの認知補助具の検
討では意思決定スコアを改善した.しかし残りの2つ
の検討では認知補助具をチームが用いたほうが,チー
ムコミュニケーションの改善がないか,低下した.
5)認知補助具のデザインは考慮されていなかった.
うまくデザインされていない認知補助具を補うには教
育が必要だが,認知補助具が充分な効果を示せない危
機的状況に正しく行動できるように繰り返しトレーニ
ングが必要だった.
[結論]認知補助具は確立された臨床ガイドラインに
沿って開発され,臨床使用に先立ってシミュレーショ
ンによる有用性検証を十分受けなければならない.麻
酔緊急に対する認知補助具の効果はさらに検討を要す
(片山勝之)
る.
The use of cognitive AIDS during emergencies in
anesthesia:a review of the literature. Marshall S.
Anesth Analg,2013 Nov;117
(5)
:1162〜1171.
●手術室の麻酔
開頭術の麻酔のアップデート
[背景]2012 年 1 月~2013 年 4 月の開頭手術麻酔関連
論文の総説.外傷性脳損傷,脳腫瘍,脳血管障害によ
り脳外科手術の麻酔は大きく異なる.
1)厳密な術中血行動態モニターとそれに基づく低血
圧と不整脈の積極的な予防の重要性と,輸液電解質バ
ランスの注意深い管理の重要性が示された.
外傷性脳損傷では一次的な外傷の程度に加え,二次
的な生体機能の乱れが予後に大きく影響する.術中,
収縮期血圧 90mmHg 以下の低血圧により 36~42%の
患者に合併症が発生する.術前 CT に多発性病変や厚
い血腫がある場合,術中低血圧が発生しやすい.RSI
の際にリドカインを静注すると,挿管直後の低血圧が
予防されることが示されている.
開頭術では,脳圧亢進や三叉神経刺激による副交感
神経刺激,局所麻酔中毒などにより高度徐脈や房室ブ
ロックが発生する.脳圧を下げるためにマンニトール
やフロセミドを用いるとカリウムが低下して不整脈が
発生するため,カリウム保持利尿剤が安全で副作用が
軽減する.小児患者では積極的に FFP を用いて,希
釈性凝固障害を防ぐことが重要である.
2)麻酔薬と早期回復のデータからは,レミフェンタ
ニルのような超短時間作用薬を用いても限定的な有用
性しか示されていない.麻酔薬の種類は,抜管までの
術中低血圧の危険域とは?
[目的]術中平均血圧と急性腎不全 AKI と心筋障害の
関係を検討する.
[背景]術中低血圧が術後の AKI と心筋障害に影響す
るというが,
どの程度の低血圧が危険かは不明である.
入院患者の 7 %,非心臓手術を受けた患者の 7.5%が
AKI を発症する.また非心臓手術を受けた患者の
11.6%に心臓バイオマーカーの上昇を認め心筋障害を
発症する.AKI や心筋障害の発症は術後死亡率を高
める大きな危険因子である.
[研究の場]クリーブランドクリニック.
[対象]非心臓手術患者 33,330 人の周術期データを解
析した.日帰り手術,慢性腎機能障害,尿路閉塞手術,
腎移植手術を除外した.
[方法]1)著者らは術中 55 から 75mmHg 以下の平
均動脈圧と術後 AKI,そして心筋障害との関連を調
査し,リスクが増加する平均血圧の閾値を検討した.
2)次に低血圧の閾値がどの程度継続すると影響を表
すのかを検討した.
3)AKI の診断は 3 日以内に術前の Cr の 1.5 倍,また
は術前 Cr より 0.3mg/dL 上昇したものとした.心筋
障害の診断は術後 1 週間以内の Troponin T 値>0.04
ug/L,またはクレアチンキナーゼ MB>8.8ng/mL と
した.
時間や術後早期の回復スコア(Aldrete スコア)に大き
な影響を与えない.
3)術後疼痛と術後悪心嘔吐のエビデンスから,どの
ようによりうまく予防し治療するかが示された.
術後鎮痛は頭皮ブロック,NSAIDs,オピオイドな
どによる多面的アプローチが勧められる.オピオイド
など意識に影響する鎮痛は慎重に用いる必要がある.
鎮痛は術後高血圧を防ぐにも重要だ.脳外科術後の
PONV は脳圧,血管内圧により影響され,脳浮腫,
脳出血,脳内血腫形成に結びつく.聴神経腫瘍術後の
PONV 発生率が特に高いことが示されている.通常
の制吐薬に加えて,P6 経絡ポイントの電気的ツボ刺
激が有効.
4)脳外科麻酔のトレーニングと研究における最新ガ
イドラインはこのサブスペシャリティーの独創的な目
標を定義した.米国脳神経麻酔学会と集中治療学会が
脳神経麻酔トレーニングカリキュラムガイドラインを
示した.
(片山勝之)
Update on anesthesia for craniotomy. Bilotta F, Guerra
C, Rosa G.
Curr Opin Anaesthesiol,2013 Aug 29.
[結果]1)AKI は 2,478 症例(7.4%),心筋障害は 770
症例(2.3%)に発生していた.
2)AKI と 心 筋 障 害 の 両 方 の リ ス ク の 血 圧 閾 値 は
55mmHg 以下であった.
3)平均血圧が 55mmHg 以下にならなかった群と比
べ,平均血圧 55mmHg 以下になった群は,低血圧時
間に応じて AKI と心筋障害のリスクが上昇した.低
血圧に陥った時間を,1 〜 5 分,6 〜10 分,11〜20 分,
21 分以上で分けると,AKI の危険率(adjusted OD)
はそれぞれ 1.18[95% CI,1.06-1.31],1.19[1.03-1.39]
,
1.32[1.11-1.56],1.51[1.24-1.84]であった.
4)心筋障害の危険率はそれぞれ 1.30[1.06-1.5],1.47
[1.13-1.93],1.79[1.33-2.39],1.82[1.31-2.55]であった.
[結論]短時間でも手術中に平均血圧 55mmHg 以下
になると,AKI や心筋障害の発生に結びつく危険が
ある.今後,手術中の平均血圧を 55mmHg 以上に維
持するよう治療すると予後を改善するかを検証するた
め,無作為検討が必要である.
(片山勝之)
Relationship between intraoperative mean arterial
pressure and clinical outcomes after noncardiac surgery:
toward an empirical definition of hypotension. Walsh M,
Devereaux PJ, Garg AX, et al.
Anesthesiology,2013 Sep;119
(3)
:507〜515.
13
重症患者の長期的認知障害
[目的]せん妄期間の長短と鎮静鎮痛薬の使用量が認
知障害遷延の独立した危険因子である,との仮説を証
明する.
[背景]救命された重症患者に長期的な認知障害が認
められることが多いが,実態は未解明である.
[研究の場]Vanderbilt 大学医療センターと聖 Thomas
病院の内科および外科 ICU.
[対象]2007 年 3 月~2010 年 5 月の間に呼吸不全,心
原性ショック,敗血症で入室した成人患者.
[方法]多施設,前向きコホート研究.退院後 3 ヵ月
と 12 ヵ月における調査.Repeatable Battery for the
Assessment of Neuropsychological Status と Trial
Making Test Part B
(TMT-B)
を用いた.
[解析]線型回帰分析.
[結果]1)862 名いた対象患者のうち 6%にはもとも
と認知障害があった.これは IQCODE
(Shirt Informant Questionnaire on Cognitive Decline in the
Elederly)で 3.3 点以上にて評価し検討から除外した.
ほかにも最近 ICU に入室した履歴があるとか,追跡
調査がしにくいとか,いくつかの理由で不適切な患者
を除外してある.
2)入院中にせん妄に陥ったのは 606 名で,せん妄期
間の中央値は 4 日である.
3)3 ヵ月後の調査が可能であったのは 448 名,12 ヵ
月後調査が可能であったのは 382 名である.
4)3 ヵ月後で 40%の患者は中等度頭部外傷よりも認
知機能が低く,うち 26%は軽症のアルツハイマー並
だが,障害パターンはアルツハイマーとは異なる.
5)12 ヵ月後では,34%,24%の患者が上記のそれぞ
れのレベルに相当する認知低下を示した.
6)実行機能(TMT-B で見る executive function)も 2
回ともスコアが低かった.
7)せん妄期間の長さは独立した危険因子である.
8)ベンゾジアゼピンの使用量もほかの薬物使用も,
遷延性認知機能障害の独立危険因子ではなかった.し
かし,実行機能の独立低下因子にはなる.
[結論]1)内科/外科 ICU の患者は長期認知障害の危
険群である.
2)せん妄期間が長いほど,全般的認知機能と実行機
能が,退院後 3 ヵ月でも 12 ヵ月でも低下している.
(山地芳弘)
Long-term cognitive impairment after critical illness.
Pandharipande PP, Girard TD, Jackson JC, et al.
N Eng J Med,2013;369:1306〜1316.
ICU における認知障害の評価と
管理に関する問題
[目的]ICU における認知機能の問題と,それを把握
する上での困難を指摘する.
[背景]1)臨床上の問題点で,はっきり二分できる要
素
(たとえば妊娠の有無)
や,定義次第ではっきり二分
できる要素
(たとえば高血圧や肥満)
は客観的な議論が
しやすい.
2)せん妄や,
“適正な”鎮静・鎮痛といったものは定
義しにくいし,普遍的な定量の手段はない.
3)しかし,医学的な進歩のためには的確な定義と診
断が必要である.
4)したがって,この領域への関心を高めることが望
ましい.
[せん妄の定義]DSM-Ⅳ基準を用いることが多い.す
なわち,意識の変容,認知機能の変容ないし悪化,時
間−日のレベルでの急激な変化であり時間経過により
揺れ動く,身体の異変に原因があることが,病歴・身
体所見・検査で明らか,なことである.しかし気管挿
管されている ICU 患者で評価するのは困難である.
[せん妄の評価]Confusion assessment method for the
ICU
(CAM-ICU)
,Intensive Care Delirium Screening
Checklist,Delirium Detection Score,Abbreviated
Cognitive Test for Delirium Nursing Delirium
Screening Scale.
14
[適正な鎮静]せん妄の定義同様に,“適正な”鎮静と
いうのも曖昧な概念である.鎮静の評価に用いられる
スケールは次項で列挙するが,どれが優れているとか
いう判断はここではしない.
[鎮静の評価]Ramsey Sedation Scale,Riker SedationAgitation Scale,Motor Activity Assessment Scale,
Richmond Agitation Sedation Scale(RASS).
[適正な鎮痛]疼痛は ICU の重要問題だが,自分で訴
えられない患者が多い.“鎮痛優先”戦略は人工呼吸
期間を短縮する.
[結論]客観的な定義,診断基準を作成し,危険因子
の発見,予防,治療につなげていこう.
[解説者注]Dementia( 認知症),Depression( うつ病
= 原則的に二次性),Delirium(せん妄)の 3 つの“D”
は鑑別が必要である.
(福家伸夫)
The problem of definitions in measuring and management ICU cognitive function. Reade MC, Aitkin LM.
Crit Care Resusc,2012;14:236〜243.
●集中治療・ペインクリニック
ICU の環境はせん妄の発生に
関係するようだ
[目的]ICU 環境とせん妄罹患期間の関係を調べる.
[背景]1)せん妄は ICU でよくみる疾患だが,両者
の関係は明白にされていない.2)せん妄は入院日数,
罹患率,死亡率,などで悪影響をもたらす.3)ICU
以外の場では,薬物に頼らずにせん妄を抑止すること
ができると報告されている.
[研究の場]オランダ,ユトレヒト大学医療センター
の 32 床の総合 ICU
(11 床,11 床,10 床に分画されて
いるが,統一された基準により運営されている).
[対象]2009 年 3 月~ 6 月の間,大部屋状態の ICU
に入室した患者を「改装前」群とし,2010 年 3 月か
ら 6 月の個室化した ICU に入室した患者を「改装後」
群として,両者を比較した.言葉が不自由な者
(CAMICU の評価ができないほどに英語もしくはドイツ語
ができないレベル)
,意識がわるい者など,評価の困
難な患者は除外した.
[方法]前向き,前後比較研究.
[測定項目]基本的バイタルサイン,重症度
(APACHE
Ⅱ,SOFA)
,抑制の有無と時間,CAM-ICU,DSI(せ
ん妄重症度指数)
,RASS,使用薬,照度など.照度
は 24 時間を通じて 30 秒ごとに測定して平均し,また
日中
( 7:00AM〜10:00PM)と夜
(10:00PM〜 7:00
を別々に平均した.
AM)
[解析]多変量回帰解析など.SPSS17.0 を使用.
[結果]1)改装前 ICU の 65 例のうち,意識障害の残っ
た 10 名を除外して,55 例を評価した.改装後 ICU
には 91 例いたが,言葉が不自由な 1 例と意識障害の
残った 15 名を除外し,対象は 75 例であった.
2)改装前では心血管疾患が多く,改装後では致命率
の高い救急疾患が多いという差があった.
3)抑制や使用薬には差がない.
4)日中は改装前の方が暗かったが,夜間の照度は改
装前後で差がない.
5)せん妄の発生率は大部屋と個室で差がないが,せ
ん妄の日数は個室化した後の方が有意に短い.
[結論]ICU の環境はせん妄の経過に影響を与える可
能性がある.
(福家伸夫)
Intensive care unit environment may affect the cause
of delirium. Zaal IJ, Spruyt CF, Peelen LM, et al.
Intensive Care Med,2013;39:481〜488.
高齢 ICU 患者の遷延性せん妄に
関与する因子
[目的]高齢 ICU 患者の遷延性せん妄に関与する因子
を調査する.
[背景]1)せん妄は急性脳機能障害の重要な指標だと
認識されるようになった.しかも,わるい予後を示唆
するが,ICU では患者の 50〜87%に発生している.
2)討論の中で述べているだけだが,ICU で起こるせ
ん妄の多くは不活発で認識されにくく
(hypoactive and
unrecognized)
,興奮
(agitation)は発見の契機となる
症状であるにすぎないことを,解説者
(福家)
から指摘
しておく.
[研究の場]大学病院の 14 床の内科 ICU.
[対象]2002 年 9 月 5 日~2004 年 9 月 30 日の間に入
室した 60 歳以上の患者.
[方法]前向きコホート研究.
[ 測 定 項 目 ]Informant Questionnaire on Cognitive
Decline in the Elderly
(IQCODE;介護者からの情報
による認知症スクリーニング検査)
, 使 用 薬 歴,
CAM-ICU,APACHE Ⅱスコア,人工呼吸日数,血液
透析日数,ICU 在室日数,など.
[解析]χ2 検定,Kendall タウ b 検定,ロジスティッ
ク回帰など.
[結果]1)309 例の患者のうち,ICU 内でせん妄が,
発症しかつ一般病棟に退室して長期に経過を追うこと
ができたのが 173 例である.
2)ICU 退 室 後 も せ ん 妄 が 遷 延 化 し た の は 100 例
(58%)であって,持続日数は中央値で 9 日であった.
3)ICU 退室後までせん妄が遷延しなかった群でのせ
ん妄持続日数は中央値で 3 日であった.
4)せん妄発生に関係する因子は,75 歳以上の年齢と
認知症の存在である.
5)せん妄遷延に関係する因子は,75 歳以上の年齢
(オッズ比(OR)=2.52,以下同様),麻薬の多量使用
=モルヒネ換算で 54mg/ 日以上(OR=2.90),ハロペ
リドールの使用(OR=2.88),コードの変化(注:DNR
コ ー ド へ の 移 行 )(OR=2.62), 認 知 症(OR=1.93)
,
である.
[結論]年齢,麻薬・ハロペリドールの使用がせん妄
の遷延に関係している.薬剤とせん妄の関係の研究が
さらに必要だ.
(福家伸夫)
Factors associated with persistant delirium after
intensive care unit admission in an older medical patient
population. Pisani MA, Murphy TE, Araujo KL, et al.
J Crit Care 2010;25:540,e1〜e7.
15
股関節骨折手術を受ける高齢者での脊椎
麻酔中の鎮静深度と術後せん妄の関係
[目的]高齢者の股関節骨折手術
(大腿骨頸部,転子間
骨折修復:以下 HFR)のさいの鎮静度の違いが,術後
のせん妄に影響するかどうかを検討する.
[背景]1)高齢者の術後せん妄の発生頻度は報告者に
より差が大きく,HFR に限っても 16~62%と言われ
ている.2)術後せん妄は回復の遅れや入院日数の増
加などを招くので,
発生を減らすことが大切である.3)
全身麻酔はせん妄の危険因子の1つなので,それを排
除して検討する.
[研究の場]メイヨークリニック.
[対象]2005 年 4 月~ 2008 年 10 月の間に HFR を受
ける 65 歳以上の患者.
[方法]1)手術当日の診察で認知機能に問題がある
などの患者は除外した.2)無作為二重盲検法で行う.
3)脊椎麻酔は患側を上にして高比重の 0.75%ブピバ
カインを 1.5mL クモ膜下に注入し,最低 5 分同姿位を
保った.4)術中鎮静はプロポフォールを用い,深鎮
静群は BIS およそ 50,浅鎮静群は BIS 80 以上とした.
5)術後は ICU で定式化された鎮痛を受けた.主薬は
ヒドロモルフォンまたは硫酸モルヒネである.6)低
血圧も所定の方法で是正した.
[測定項目]疼痛スコア,麻薬の使用量,その他の使
用薬,輸血の有無と程度,合併症の有無.CAM(Con-
fusion Assessment Method)
および MMSE
(Mini-Mental
State Examination)によるせん妄評価.
[解析]データの性質に応じて Fisher 正確確率検定,
Log リニア検定,Mann-Whitney 検定,ANOVA など
を用いた.p<0.05 を有意とした.
[結果]1)対象となった患者は 114 名であった.
2)浅鎮静群の方が深鎮静群よりもせん妄の発生が少
な か っ た(11/57 vs 23/57;p=0.02).NNT は 4.7 で
ある.
3)入院経過全体を通じて,せん妄であった日数も浅
鎮静群の方が短かった(0.5±1.5 日 vs 1.4±4.0 日;p=
0.01).
[結論]高齢者の脊椎麻酔施行時には,浅鎮静を維持
して術後せん妄を抑止できる.簡単・安全・安価で,
しかも普遍性のある治療法だと考える.
(福家伸夫)
Sedation depth during spinal anesthesia and the
development of postoperative delirium in elderly patients
undergoing hip fracture repair. Sieber FE, Zakriya KJ,
Gottschalk A, et al.
Mayo Clin Proc,2010;85:18〜26.
高齢者に対するベンゾジアゼピンと
麻薬の使用と ICU 内せん妄の関係
[目的]内科 ICU に入室した高齢者のせん妄に関す
る,ベンゾジアゼピンあるいは麻薬の使用の影響につ
いて検討する.
[背景]せん妄は好ましくない事象であり,努力して
減らせるものなら減らしたい.
[研究の場]都会に位置する 900 床の大学教育病院に
ある 14 床の内科 ICU.
[対象]2002 年 9 月 5 日~2004 年 9 月 30 日の期間に
入室した一連の患者で,60 歳以上の者.
[方法]前向きコホート研究.
[測定項目]飲酒・喫煙・うつ病などの病歴,APACHE
Ⅱ スコア,ベンゾジアゼピンあるいは麻薬を中心と
した薬歴,せん妄罹患期間,とくに最初のエピソード
の罹患期間,CAM-ICU 評価,など.
[解析]ポアソン回帰を用いた多変量モデル.
[結果]1)スクリーニングで 725 名の研究対象適格者
を抽出したが,入室期間が 24 時間以下などの理由で
一部が除外され 318 名が適格となり,さらに患者側の
拒否を除外した 309 名が登録された.
2)せん妄は 239 名
(79%)
で発症した.
3)罹患期間は 1 ~33 日で,中央値は 3 日である.
4)ベンゾジアゼピンまたは麻薬を使用された患者は
60 名,両者併用は 58 名,さらに他薬を加えた 3 剤併
16
用が 68 名,4 剤併用が 51 名,五剤併用が 10 名で,ベ
ンゾジアゼピンも麻薬も使用しなかったのは 57 名で
ある.
5)ベンゾジアゼピンはロラゼパムかミダゾラムで,
麻薬はモルヒネかフェンタニルである.
6)ベンゾジアゼピンあるいは麻薬の使用では罹患期
間が率比で 1.64 と上昇する.
7)ほかの変量を検討すると,入室時にすでにある認
知症が率比で 1.19,ハロペリドール使用が 1.35,患者
の重症度(APACHE Ⅱによる)が 1.01 であった.
[結論]1)ベンゾジアゼピンあるいは麻薬の使用はせ
ん妄の最初のエピソードを遷延させる.
2)ベンゾジアゼピンあるいは麻薬,そしてハロペリ
ドールの使用にあたっては,慎重であるべきだ.なぜ
ならこれらは医療者の努力によって低減させることが
できるからだ.
(福家伸夫)
Benzodiazepine and opioid use and the duration of
inteisive care unit delirium in an older population. Pisani
MA, Murphy TE, Araujo KL, et al.
Crit Care Med,2009;37:177〜183.
●集中治療・ペインクリニック
冠動脈バイパス術後に血清コルチゾール
濃度が高いと術後早期認知機能障害の
リスクが増える
[背景]手術に対するストレス反応は,術後の認知機
能障害の病因として重要な役割を果たすと考えられて
おり,その障害の発生は日常生活や仕事の妨げとなる
悪い結果を引き起こす.
[目的]もっとも重要なストレスホルモンの 1 つであ
るコルチゾールの術後血清濃度と,冠動脈バイパス術
後における早期認知機能障害の発生との関連性を調査
する.
[方法]前向きコホート研究.
[研究の場]教育病院である北京大学第一病院および
北京阜外心血管病院.
[対象患者]2008 年 3 月~2009 年 12 月に待機的冠動
脈バイパス術を受けた 18 歳以上の成人患者 263 名の
うちから,ほかの術式を同時実施した 27 名,左心機
能が 25%未満の 22 名,
過去の心臓手術歴がある 14 名,
最近の副腎皮質コルチコイド治療歴がある 5 名,統合
失調症の既往歴がある 2 名,実験参加拒否の 18 名,
追跡検査拒否 7 名,追跡検査前に死亡した 2 名,を除
いた 166 名.
[解析方法]多変量解析
(ロジスティック回帰分析).
[結果]1)術後 7 日目において,166 名中の 66 名(39.8
%)
に認知機能障害がみられた.
2)血清コルチコイド濃度が基準値を超えた者の割合
は,認知機能障害を示さなかった者の 16.0%に対して,
示した者は 26.8%であり,術後認知機能障害の発生と
著しい関連性を示した(p=0.003).
3)ほかに有意差を示した独立予測因子は,術前の
NYHA 心機能分類が高いこと,術前における利き手
ではないペグボード試験の低スコア,ペネヒクリジン
の麻酔前投与,術後 7 日以内の合併症の発生であった.
[結論]冠動脈バイパス術において,手術翌朝の血清
コルチゾール濃度の上昇は,術後 7 日目における認知
機能障害のリスク増加と関連性がある.
[解説者コメント]血清コルチゾール濃度の上昇は侵
襲の結果であるから,侵襲が多い手術は術後認知機能
障害が多いということで,心臓外科医が正に感じてい
ることであろう.中国北京からの報告.
(宮澤正明)
High postoperative serum cortisol level is associated
with increased risk of cognitive dysfunction after
coronary artery bypass graft surgery. Dong-Liang M, LiHuan L, Dong-xin W, et al.
PLOS ONE,2013;8:e77637.
ICU 入室前にある認知障害と付随する
行動学的症状の発見と管理
[目的]ICU 患者で入室前からの認知障害
(以下単に
「認知障害」
)
の管理に関する文献のレビュー.
[背景]1)65 歳以上の高齢者人口が増えており,米
国全体で 3,630 万人にもなる.
2)そのうち 500 万人は認知症であり,適切な対策が
講じられないと,その 3 倍にはなりそうだ.
3)ICU に高齢患者が増えてきた.
4)認知障害があると ICU 入室後に,せん妄,さらに
わるい予後へと進行する恐れがある.
5)前もって認知障害や認知症がわかれば,せん妄予
防に役立ちそうだ.
[認知障害と ICU 内でのせん妄]1)ICU 入室患者は
非 ICU 患者より,認知障害が多い.
2)認知障害が多い群は,より高齢,女性,結婚歴が
長い,介護施設からの来院,より重症,である.
3)せん妄は ICU 患者の 70~87%で見られ,予後を
わるくするが,認知症はせん妄の危険因子である.
[発見]1)内科入院患者の 31%は認知症であるが,
医師が気づいていたのは 13%でしかない.
2)急性期病院の ICU では紹介元からの情報くらいし
か判断の根拠がないので見落としやすく,専門医でも
半分くらいしか意識していない.
3)せん妄には IC-Dementia Checklist や CAM-ICU で
対 応 で き る. 一 方,Mini-Mental State Examination
(MMSE)は認知障害を発見するのに使える.
4)しかしいずれにせよ,入室原因となる疾患の“以
前の段階”の認知機能はわからない.
[管理]1)せん妄は激越,(症候性)精神病,気分の変
調の原因としてもっとも多いものである.こうした行
動異常,精神異常は軽度認知障害の進行した部分症と
しても認識されるようになりつつある.
2) い く つ か の 報 告 を 総 合 す る と, 認 知 症 患 者 の
88.6%が 18 ヵ月以内に何らかの神経精神症状を発揮
しているらしく,また軽度認知障害の患者は認知症の
患者よりは少ないが,何らかの症状を呈している.
3)せん妄,認知症,うつ病の鑑別が必要である.
[結論]認知症や認知障害の患者は ICU に緊急入院す
る例も多い.こうした患者はせん妄に陥りやすく,身
体的な症状だけを呈することもある.集中治療医はこ
うした患者を適格に観察し,適切に管理することで,
転帰を改善させることができるだろう.
(福家伸夫)
Detection and management of pre-existing cognitive
impairment and associated behavioral symptoms in the
intensive care unit. Lee HB, DeLoatch CJ, Cho S, et al.
Crit Care Med,2008;24:723〜736.
17
重症患者のせん妄関連バイオマーカーと
長期客観的認知機能障害:炎症患者と
非炎症患者ではせん妄発生の調節経路が
異なる
[目的]重症患者におけるせん妄は運動および認知機
能障害を来す深刻な合併症である.その原因は多岐に
わたっており,バイオマーカーを分析することはメカ
ニズムを解明する重要な手がかりとなる可能性があ
る.長期的にみるとせん妄の発生は認知症の発生リス
クを 12 倍にし,アミロイドβ
(Aβ)タンパク質の変
化を伴う不可逆的な認知機能障害をもたらす.せん妄
に関連するバイオマーカーと長期的認知機能障害との
関連は知られていない.せん妄患者と非せん妄患者に
おいてバイオマーカーを測定し長期的な認知機能へ及
ぼす影響を調べた.
[研究の場]三次医療機関.
[対象]2008 年 2 月~ 7 月に当院 ICU に入室した 18
歳以上の患者を ICU のためのせん妄評価方法
(CAMICU)を用いてスクリーニングした.ICU 在室中にせ
ん妄の評価ができない
(昏睡などにより)場合,外傷・
心筋梗塞後・神経学的理由で入室している患者は除外
した.また,認知症,せん妄,認知機能障害の既往の
ある患者も除外した.
[方法]せん妄患者では発症から 24 時間以内に採血を
行った.非せん妄患者でも同じタイミングで採血を
行った.いずれかの培養が陽性で抗菌薬の投与が行わ
脳卒中後せん妄の頻度と転帰:
ICU のためのせん妄評価方法:
(CAM-ICU)
の有効性
[目的]急性期脳梗塞患者のせん妄を DSM-Ⅳを用い
て診断し発生率を調べる.CAM-ICU を用いたモニ
ター方法の感度,特異度,精度を判定する.
[研究方法]前向き観察コホート研究.
[研究の場]大学病院の脳卒中集中治療室.
[対象]2009 年 1 月から 18 ヵ月の間に入室した脳出
血および脳梗塞患者で,24 時間以内にせん妄の評価
が行われ,研究の同意の得られたもの.24 時間以内
の症状消失,頭部外傷・脳外科手術,くも膜下出血,
静脈血栓,脳腫瘍,精神障害の既往,チェコ語が話せ
ない,昏睡・昏迷の症例は除外.
[方法]研修医による CAM-ICU を用いたせん妄評価
とせん妄の専門医が DSM-Ⅳを用いて比較し,チェコ
版 CAM-ICU の妥当性,精度を検討した.
[結果]1)対象は平均年齢 72.5
(35~93)歳の 129( 女
性 57,男性 72)
名で,DSM-Ⅳの評価では 55 名
(42.6%)
の患者にせん妄が認められた.そのうち 37 名
(67.3%)
は第1病日より,また他の患者も 5 日以内に発症して
いた.
2)せん妄罹患期間の中央値は 4(1 ~28)日で,14 名
(25.5%)
は 24 時間未満であった.
3)CAM-ICU と DSM-Ⅳを 1,003 回比較したが,CAMICU の感度は 76%,特異度 98%,精度 94%で,高い
18
れた患者または SIRS 2項目以上陽性の患者を炎症患
者,それ以外を非炎症患者と分類し,さらに解析を行っ
た.
[結果]多変量回帰分析の結果,炎症患者のせん妄で
は IL-8( オッズ比 9.0;95% CI 1.8-44.0),非炎症患者
で は IL-10( オ ッ ズ 比 2.6;95 % CI 1.1-5.9)と Aβ
1-42/40(オッズ比 0.03;95% CI 0.002-0.50)が独立関連
因子として認められた.また ICU 退室 18 ヵ月後の自
己評価では種々の Aβタンパク質の濃度と認知機能
の間に有意な相関関係が認められたが,炎症性マー
カーとの間に相関関係は認められなかった.
[結論]炎症患者と非炎症患者ではせん妄発生のメカ
ニズムが異なることが示唆された.せん妄患者のバイ
オマーカーを調べるときは炎症の有無を区別する必要
がある.また,Aβタンパク質濃度の上昇と長期的な
認知機能障害との関連が認められた.非炎症性の ICU
患者のせん妄が潜在的な認知症の最初の兆候となって
いるのかもしれない.
(小林 由)
Biomarkers associated with delirium in critically ill
patients and their relation with long-term subjective
cognitive dysfunction; indications for different pathways
governing delirium in inflamed and noninflamed patients.
van den Boogaard M, Kox M, Quinn KL, et al.
Crit Care,2011;15
(6)
:R297.
評価者間信頼性(κ=0.94)を示した.
4)せん妄診断における CAM-ICU の尤度比は 47 で
あった.またせん妄は入院期間延長の独立予測因子で
あった(ハザード比 1.63;p=.013).
5)ADL の尺度となるバーセルインデックスは,せん
妄患者において観察期間では有意に低く(中央値 15.0
vs 37.5;p=.075),6 ヵ月後でも有意差はないが低い
傾向がみられた(中央値 27.5 vs 75.0).
6)6 ヵ月後の死亡率はせん妄群で高かったが(23.6%
vs14.9%),Cox 回帰モデルだとせん妄と 6 ヵ月後死
亡率の有意な関連はみられなかった.
[結論]1)脳卒中後のせん妄は時間に沿って適切な評
価方法を用いることで検出率が高くなる.発症から
24 時間以内とその後少なくとも 5 日間の連続したス
クリーニングを行うことが推奨される.2)CAM-ICU
は脳卒中患者におけるせん妄の評価には有効だが,神
経所見が些細ないし複雑な患者に対してはより精密な
評価が必要だろう.チェコからの報告.
(小林 由)
Poststroke delirium incidence and outcomes:
Validation of the Confusion Assessment Method for the
Intensive Care Unit(CAM-ICU). Mitasova A, Kostalova
M, Bednarik J et al.
Crit Care Med,2012 Feb;40
(2)
:484〜490.
●集中治療・ペインクリニック
ICU における鎮痛,鎮静,せん妄の
管理をプロトコル化すると,
鎮痛と亜症候性せん妄の頻度が改善する
[目的]意識を変容させうる量の鎮静・鎮痛薬はせん
妄の発生および死亡率に関与している.疼痛・興奮・
せん妄といった好ましくない症状を緩和するためのプ
ロトコルを実施する前
(PRE)と後
(POST)で,これら
の症状を記録し,鎮痛・鎮静のレベル,昏睡の発生率,
せん妄,滞在日数
(LOS)
,退院先,および死亡率を比
較した.医原性昏睡とせん妄には関連があるようなの
で,医原性昏睡が減少すればせん妄も減少すると仮定
した.
[研究の場]単一の 3 次医療機関の成人 ICU.
[方法]PRE 群は 2003 年 8 月~2004 年 2 月間に入室
し た 患 者 610 名 で,2005 年 4 月 ~2005 年 11 月 間 の
POST 群患者 604 名と比較した.2004 年 2 月~2005
年 4 月間は,個々の患者ごとに非薬物的戦略や鎮静・
鎮痛・せん妄のスコアに基づいて鎮静薬・鎮痛薬・向
精神薬を漸減する方法を習熟させた.痛みは Numeric
Rating Scale
(NRS)
を用いて 0-10 で評価し,患者が表
現できないときは behavioral pain scale
(BPS)で換算
した.鎮静の評価にはリッチモンド興奮鎮静スケール
(RASS)を用いた.せん妄の評価には Intensive Care
Delirium Check List
(ICDSC)
を用いた.4 点以上はせ
ん妄,1 点以上だが常に 3 点以下なら亜症候性せん妄
とした.また第 2 期の観察に先立ち,患者は不安時に
重症疾患後の認知機能障害:
原因,リスク因子,回復・リハビリ
[目的]ICU から生還した患者がその後遭遇する困難,
つまり疾患により生じた身体・認知・心理的病態の深
刻さが理解されつつある.認知機能のさまざまな側面
に着目し,原因,リスク因子,回復・リハビリについ
て検討する.
[重症疾患後の神経心理学的欠陥]記憶力,注意力,
情報処理速度,視空間認識能,実行機能などが含まれ,
深刻であり長期化することがある.退院1年後での罹
患率は 9 ~70%であり,退院時ではほぼ 100%である.
退院後も生存している長期人工呼吸器管理患者では
65%に重度の衰弱性の認知障害を認めている.
[病態生理]画像や神経心理学的検査では非特異的脳
障害の所見を呈する.原因には低酸素症,サイトカイ
ン活性化による免疫応答調節異常,低血圧,耐糖能異
常,鎮静剤などの薬剤による神経毒性が挙げられる.
Hopkins らよれば低酸素血症の期間と認知障害の重症
度に相関がみられる.また,ほかの原因に比べ 12 ヵ
月後の実行機能がもっとも劣ることも明らかになって
いる.低血圧
(低 CVP で定義される)の遷延と退院時
の記憶障害とに関連があることが示唆されているが,
詳細はまだ不明である.血糖値が 153mg/dL 以上に
なると,1 年後の認知機能が低下することが示されて
いる.
鎮静薬かそれとも音楽を聴く(ラジオ,CD)かを選択
する機会が与えられた.
[結果]POST 群ではより少ない量の麻薬でより良い
鎮痛が得られた(90.72±207.45 vs 22.93±40.36 モルヒ
ネ当量,p=<0.0001).同程度の鎮静にも関わらず人
工呼吸の期間は短かった.薬剤性昏睡の発生率(18.1%
vs 7.2%,p=<0.0001),ICU および病院 LOS,退院
時の介護施設への入居の必要性は POST 群で少なかっ
た.亜症候性せん妄の頻度は POST 群で有意に減少
していた.せん妄の頻度は両群間で差がなかった.30
日死亡危険率は PRE 群で 29.4%,POST 群で 22.9%
であった(ログランク検定,p=0.009).POST 群では
99%の患者が音楽を聴くことを選択したが,患者への
客観的影響については記録されなかった.
[結論]非薬理学的手段と,鎮静・鎮痛・せん妄治療
薬を患者ごとに漸増するプロトコルを組み入れた教育
的な取り組みにより良好な結果が得られた.
(小林 由)
Protocolized intensive care unit management of
analgesia, sedation, and delirium improves analgesia and
subsyndromal delirium rates. Skrobik Y, Ahern S,
Leblanc M, Marquis F et al.
Anesth Analg,2010 Aug;111
(2)
:451〜463.
[リスク因子]ICU 患者のせん妄と神経心理学的予後
の関係を調べた研究では,平均 2 日間のせん妄で 1 年
後の認知障害が 70%の患者に起きていた.ICU で頻
用される三環系抗うつ薬,H2ブロッカー,オピオイド,
フロセミド,ベンゾジアゼピンなどの薬剤は中枢性抗
コリン作用を有している.大量のドパミンや GABA
の異常もせん妄の発生と関係があることが知られてい
る.鎮静薬,麻薬,筋弛緩薬もせん妄を引き起こす.
しかし,これらの薬剤の認知障害への長期的な影響は
不明である.
[回復とリハビリ]いくつかの研究で ICU 後の認知機
能不全は回復が遅く,個々の患者の回復については予
測が難しいことが指摘されている.リスク因子やメカ
ニズムについての詳細が明らかになるまでは予防より
もリハビリを強化するほうが賢明であろう.認知機能
のリハビリは人間の脳には回復機能があるという前提
に基づいている.脳の可塑性は年齢および時間依存性
で若年の患者で早期にリハビリを開始したものほど回
復が早い.脳の傷害が完全に治らなくても残存機能を
生かし,認知障害を補う新たな能力を身につけること
ができる.
(小林 由)
Cognitive impairment after critical illness: etiologies,
risk factors, and future directions. Jackson JC, Ely EW.
Semin Respir Crit Care Med,2013 Apr;34(2):216
〜222.
19