見えないものを見るには？文・眞鍋今年の本校の読書運動のテーマは「再生」です。東北で地震があったあとの再生、福島で原発事故が起こったあとの再生、長く続く日本の不況を払拭すべく再生…、みなさんはなにを考えますか？私は「再生」と聞くと１９年もたったパン一切れを盗んだために投獄され、人が信じられなかったジャン・バルジャンが唯一泊めてくれた司教の家の銀食器を盗んで逃げたとき、つかまったのに司教に「盗んだのではなく差し上げたのです」とかばわれて、善良に生きなおそうとする【レ・ミゼラブル】が頭に浮かびました。今年のアカデミー賞で、作品賞は逃しましたが映画【レ・ミゼラブル】は久々のミュージカル作品としては大成功でした。フランス革命のすこし後の時代。高３のみなさんには総合学習の時間に図書館で論文の情報検索についてお話しましたね。フランス革命のとき、議長の右側に座ったのが王党派（体制派）で、左側に座ったのが革命派（革新派）だった、だからそのときから思想の傾向を、その時から右側（右翼）、左側（左翼）というようになりました。同じ日の新聞の一面で違うでしょ？右っぽい書き方、左っぽい書き方、新聞によって違いますという話をしましたよね。フランス革命時の話が今の日本でも使われているんです。【レ・ミゼラブル】のアン・ハサウェイが助演女優賞を取って沸いたアカデミー賞の受賞式は日本ではWOWOWで中継とダイジェスト、あとNHK-BSでABCのダイジェストが放送されました。そのときにミュージカルへのオマージュとして【シカゴ】や【ドリームガールズ】、そして【レ・ミゼラブル】のキャストがそれぞれの曲を舞台で歌ったのですが（素晴らしい出来映えでそこだけでもDVD化してもいいと思われました）、ABCのダイジェストは見事にカットされていました。時間の関係もあるでしょうけれど、残念でした。昔、マイケル・ムーアが「ボウリング・フォー・コロンバイン」でドキュメンタリー映画賞をアカデミー賞で取ったとき、彼のスピーチが当時のブッシュ大統領を痛烈に批判するものでした。その時もABCのアカデミー賞受賞式のダイジェストはスピーチを完全にカットしていました。同じカットでも大きく理由が違うのですが、カットされた理由どころかカットされた事実すら気づかない可能性があることがこわいと思いました。日々テレビや新聞やインターネットで流されるニュースでも、流されるニュースと流されなかったニュースがあることに、どれくらいの人が気づくでしょうか？いまはTwitterなど個人が発信する情報を見ることができます。大手の新聞社やテレビ局が取り上げなくても、重要なニュースが存在することを知っていてほしい。できれば情報源を大手のメディアや役所以外のもので信用できるものを抑えておきたいと思いました。震災当時の原発の情報など、本当に深刻な情報は流されていませんでしたからね。今回のミュージカルの「レ・ミゼラブル」は原作が５巻もの大作ですから当然かなりの部分がカットされています。話の流れに関係のないもの（ワーテルローの戦いとか）、現代の感覚ではわかりにくいものはカットされがち（ガヴローシュ少年がテナルディエの長男だとか）です。でも直接、ストーリーに関係なくても魅力的と考えられたら残される（チンピラのガヴローシュが革命に目覚める部分とか）。むしろ拡大解釈されることもある。どこが違うのか。映画化、ミュージカル化されたとき、何が大切と思われたのか？何がカットされたかは全部読まなくてはわからない。カットされる可能性のある話というものがどんなものなのか、日頃から気にしておく必要が、あると思います。（文学作品と時事ニュースではちょっと意味合いが違いますけどね。）提示されたニュースに見えないもの、語られないものがある可能性を知っていてほしい。