種々の水中運動が下肢に及ぼす影響について

種々の水中運動が下肢に及ぼす影響について
指導教官 富樫 泰一
発表者 鈴木 里紗
キーワード:水中運動、床反力、障害予防
1.研究目的
近年、体に負担が少なく、運動効果が得られ、
健康に良いと言われている水中運動(アクアビク
ス、アクアエクササイズ、アクアフィットネス等
と呼ばれている運動)が盛んに行なわれるように
なってきた。そこで、本研究では水中での連続ジ
ャンプ動作に着目し、かかとの着地・未着地、水
深、テンポ、方・両足支持による、床反力の違い
を明らかにし水中連続ジャンプにおける適切な方
法を検証する。
2.研究方法
2−1.アクアビクスクラスにおけるかかと着地の
有無に関する VTR 撮影による現状把握
石岡市にあるスポーツクラブでアクアビクスク
ラス(参加者 55 名)30 分間の水中 VTR 撮影
2−2.会員への質問紙を用いた障害予防意識調査
上記クラブのアクアビクスに参加している会員
160 名に質問紙による障害予防意識調査の実施
2−3.水中床反力測定
(1)対象: 茨城大学学生1名(身長 162,5cm・体重
54kg・22 歳・女性)
(2)床反力測定方法
水中床反力計を自作した。厚さ4mm,一辺が
50cm の正方形のステンレス板に防水ストレインゲ
ージ(共和電業製、KFW-5-120-C1-16L5M2R)を対
角線上に4枚貼り付け、水中ジャンプ時の床反力
を測定した。床反力を平均ひずみから検出し、ひ
ずみアンプ(共和電業製 DPM-310B)の出力を、デ
ータレコーダー(日本工電製,RMG-5304)に記録
した。後日、データレコーダーの出力を A/D コン
バーター((株)インターフェース社製、PCI-3168C)
を介して、パソコンに取り込み Excel にてデータ処
理を施した。
(3) ジャンプの試技条件設定
1)かかとを着地・不着地 2)テンポ 60 と 80
3)水深 110cm と 130cm 4) 両脚・片脚
これらのジャンプ動作の条件をそれぞれに掛け
合わせ 16 通りになった。尚、跳躍高の設定が困難
であるため、そのかわり動作のテンポを設定した。
(4)床反力波形の分析
跳躍高が安定する 15秒から 25 秒までの床反力
のプラス期を取り出し、各床反力を重ねあわせ加
算平均した。そのデータを被験者の体重で正規化
し、垂直方向の床反力のピーク値と力積を求めた。
2−4.平均跳躍高
被験者の水中側方から8mm ビデオカメ(SONY
TRV900)を用いて VTR 撮影を行い、腸骨稜の上
下移動高から平均跳躍高を計測した。撮影した
VTR 画像はディジタイザーを用いてディジタイズ
し、そのデータを Excel に取り込み、ピクセル値か
ら実長へと比例換算し、平均跳躍高を求めた。こ
のとき、被験者直立位の腸骨稜高を0とした。
2−5統計解析
2-3)で求めた床反力の力積を、2元配置分散分析法
を用いて、テンポ・水深・動作様式間による違い
を比較した。
2−6.陸上連続ジャンプ
(1)対象:茨城大学学生 1 名(身長 162.5cm,体
重 54kg,22 歳・女性)
(2)床反力測定方法
陸上での連続ジャンプ時の垂直方向の床反力を
フォース・プラットフォーム(キスラー社製:以
下フォースプレートとする)を用いて測定した。
(3)試技条件設定
1)テンポ 120 で軽く(つま先が浮く程度)2)高
さを意識せずに 3)少し高く 4)できるだけ高くこ
の4条件でのジャンプとする。
(4)平均跳躍高
水中のときと同じように被験者の側方から 8mm
ビデオカメラで VTR 撮影し、その画像から実長を
求めた。
3.結果と考察
3−1.水中 VTR 撮影と会員への障害予防意識調
査に関する結果と考察
石岡市のスポーツクラブでアクアビクスクラス
の水中 VTR 撮影を 30 分間行った結果、インスト
ラクターがかかとを着くようにアドバイスしてい
たにもかかわらずかかとを着いていた人は約半数
だった。また、障害予防意識調査ではアクアビク
スに参加して痛みを感じたことがある人が 29%だ
った。痛くなった部位は、ふくらはぎが 44 %、膝
が 41%と多かった。このように水中運動でも体に
負荷がかかり、障害を起こすこともある(図1)。
痛くなった部位
もも
足首
腰
膝
ふくらは
ぎ
図 1.痛くなった部位
3−2.水中床反力に関する結果と考察
(1)水中床反力のピーク値と力積に関する結果
と考察
「水深 110cm」での床反力(被験者の体重で正
規化)ピーク値は、テンポが速いほうが高くなる
傾向が見られた。逆に「水深 130cm」では、テン
ポが速いほうが床反力のピーク値が低くなる傾向
が見られた。以上のことから、床反力のピーク値
は、テンポによって変動しやすいと考えられる。
一方、力積はテンポが遅いほうが力積は大きくな
る傾向が見られた。また、
「かかとを着かない」ほ
うが、力積が大きくなる傾向だった(図 2.3)。
2
1.5
床反力 1
0.5
0
時間
10
0
テンポ60
20
テンポ80
図 2.水深 110cm の床反力
1.5
1
床反力
0.5
0
1
3
5
7
9
11
時間
1306bh
か検定した結果、
「かかとを着く」
・
「着かない」間
で有意差が見られた。このことから着地の仕方に
より下肢へかかる衝撃力が変動するということが
考えられる。また、有意差が見られなかったが、
水深が浅いと 1.27 倍力積が大きかった。テンポが
ゆっくりだと 1.43 倍力積が大きかった。このよう
に水深、テンポは下肢への衝撃力に影響する可能
性があると考えられる。
(4)陸上での連続ジャンプと水中連続ジャンプ
の比較と考察
陸上での連続ジャンプ時に受ける床反力のピー
ク値は、平均跳躍高 6.72cm のジャンプで 1.955 で
あった。このジャンプは水中ジャンプ時の「水深
110cm」・「テンポ 60」・「両脚支持」・「かかとを
着かない」ジャンプと同じくらいの床反力に値す
る。やはり水中ジャンプ時に受ける床反力は、陸
上に比べて少なく、水中のほうが陸上に比べ下肢
が受ける衝撃力が小さいことが明らかになった(図
6)。
1308bh
60
40
図 3:水深 130cm の床反力
(2)平均跳躍高の結果と考察
水深差、テンポ差による違いがはっきりと見ら
れた。同じ水深ならばテンポがゆっくりのほうが、
同じテンポなら水深が深いほうが平均跳躍高は高
くなることがわかった(図 4.5)
30
25
20
平均跳躍高
15
(cm)
10
5
0
1106bh 1106oh 1108bh 1108oh
図 4.水深 110cm の平均跳躍高
1106bh=テンポ 60 両脚支持かかと着く
1106oh=テンポ 60 片脚支持かかと着かない
1108bh=テンポ 80 両脚支持かかと着く
1108oh=テンポ 80 片脚支持かかと着かない
25
20
平均跳躍 15
高(cm) 10
5
0
1108oh 1108ot 1308oh 1308ot
図 5.テンポ 80 の平均跳躍高
1108oh=片脚支持かかと着く
1108ot=片脚支持かかと着かない
1308oh=片脚支持かかと着く
1308ot=片脚支持かかと着かない
(3)統計解析の結果と考察
力積に動作様式の差、水深差、テンポ差がある
力積
20
0
0
5
10
15
20
25
平均跳躍高(cm)
図 6.陸上ジャンプと水中ジャンプの力積と平均
跳躍高
上のライン:陸上ジャンプ
下のライン:水中ジャンプ
4.まとめ
(1)陸上ジャンプ時よりも水中ジャンプ時のほ
うが、床反力が小さいことが明らかになった。
こ のことから、水中運動は、下肢への負担
が陸上よりも少なく腰痛の人や高齢者にも適
した運動であると言える。
(2)力積について着地の際、
「かかとを着く」か
「かかとを着かない」間で有意差が見られた。
また、水深によっても有意差が見られた。着
地動作、水深は下肢へ与える衝撃力の強さに
影響していると考えられる。
(3)水深が深くなると浮力も増大し自分自身が
支える体重の負担が軽減する(水深 110cm 水
中静位における体重約 23kg、水深 130cm で
約 8kg)。しかし水深の増大とともに平均跳躍
高の増大が見られ力積は増大した。水中運動
の指導の際には水深と跳躍高との関係に注意
が必要なことが明らかになった。
5.文献
1) 清水富弘(1997):アクアスポーツ科学,科
学新聞社
2) 野村武男(1987):アクアフィットネス,善
本社