モンゴルカラマツの水利用と年輪酸素同位体による環境復元

モンゴルカラマツの水利用と年輪酸素同位体による環境復元
大気海洋化学・環境変遷学コース 杉本研究室 修士課程 2 年 土井猛史
近年、世界各地で地球温暖化による環境変動が問題となっている。IPCC Fifth
Assessment Report によれば、陸域と海上を合わせた全球の平均気温は、複数のデータセ
ットが存在する 1880 年から 2012 年の期間に 0.85 [0.65~1.06]℃上昇している。モンゴル
においても環境変動が示唆され、モンゴルの年平均気温は過去 60 年間で 1.8℃上昇し、降
水量の増減に関しては、地域差が大きいものの大部分の地域で減少傾向を示していること
が報告された(Batima, 2006)
。また、近年の気温上昇と降水量の減少に伴って、7 月の土
壌水分量は減少傾向を示し、モンゴル北部地域では今後さらに厳しい乾燥イベントが多発
することが示唆されている(Sato et al., 2007)
。
モンゴル国は、南北方向に植生変遷域(タイガ林、草原、砂漠)が帯状に分布し、特に
タイガ林地帯は寒冷大陸性気候を有しているため、気候変動の影響を受けやすい地域であ
る。モンゴル北部に広がる森林(国土の 8.1%)は広大なシベリアタイガ林の南限に位置し
ており(Tsogtbaatar, 2004)
、ユーラシア地域に特徴的な落葉性針葉樹のカラマツが優先し、
その中でも Larix sibirica Ledeb.が森林の 80%以上を占めている(Tsogtbaatar, 2004;
Dulamsuren, 2010)
。
近年、モンゴル北部の森林においてこの樹種の生長量(年輪幅)が降水量の影響を大き
く受けて変化していることが報告されている(Dulamsuren, 2010)
。また、北山 2013 年度
修士論文ではこの樹種の年輪δ13C は当年の降水量と高い相関を持つことを指摘している。
ただし、年輪幅やδ13C と気象との関係は、日射量や大気 CO2 濃度など水分環境以外の要
因の影響も受けてしまうため、他のプロキシと組み合わせることが望ましい。
そこで、本研究ではモンゴルではまだ使われていない指標である年輪δ18O と気象との関
係を調べる。先行研究(John S. Roden et al., 1999)により、年輪δ18O は葉に含まれる水
のδ18O と幹を流れる水のδ18O を反映していることがわかっているが、調査地の環境や樹
種によって主に依存するものが異なる。そのため、年輪δ18O を用いて気温(Coppola et al.,
2013)
、降水量(Treydte et al., 2006)
、乾燥ストレス(Masson-Delmotte et al., 2005)
、
降水δ18O(Danis et al., 2006)、雲量(Shi et al., 2012)を復元した研究がある。これら
を踏まえ、工程を 2 つに分けて研究を進めている。
まず、採取した枝・葉・当年の年輪の酸素同位体比と、気温や降水量や相対湿度などの
気象データとを比較し、モンゴルカラマツは吸収した水と気象要素のどちらに主に依存し
ているかを確かめる。つまり、この工程では年輪δ18O の主な変動要因を明らかにする。
次に、過去約 60 年の年輪に含まれる酸素同位体比と気象データとを比較し、年輪δ18O
でこの地域の過去の環境変動を読み解くことができるか検証する。この結果、いずれかの
気象要素と強い相関を示した場合、観測データの存在しない期間までその気象要素の復元
が可能となり、全球規模の環境変動の予測や対策に役立つと考えている。