付録 応力・ひずみ測定法

付録 応力・ひずみ測定法
本章では,応力・ひずみ測定法について文献 を引用する.
応力・ひずみ測定法の種類と特徴
実験応力・ひずみ測定法として最も広く使用されているのは,電気抵抗ひずみ計と光弾性など光学的手
法である.このほかにも種々の測定法が目的によって用いられる.これらは,測定領域の大きさからは,点
測定 '%
-(42('% - +0++-
と全視野測定 5&&(N+&3 +0++- に分けられる.ひずみゲージ法
は前者であり,また光弾性は後者の代表的手法である.また近年,結晶回折法や熱弾性法などの手法の進
歩が著しい.表 ! と表 ! にそれぞれの測定法のうち,代表的な方法の原理,長所,欠点をまとめる.
本章ではまず,各測定法を概説した後に,抵抗ひずみゲージ法,結晶回折法,光学的手法,熱弾性法につ
いて説明する.
点測定
電気抵抗ひずみ計測
点測定法のうち,代表的なものが電気抵抗ひずみ計 +&+7
7 +0 0-7+ 0 - ++
である.金属抵抗
線または箔,半導体など,電気抵抗が作用するひずみによって変化する現象を利用したひずみ計である.被
測定物にひずみゲージを貼付し,物体のひずみと同じひずみがゲージに生じることによって,これを抵抗
変化として検出する.この手法は,手軽でかつ安価であり,ほとんどすべての場合に適用できるので最も
広く使用されている.ゲージ長は !
分解能は であり,その平均のひずみを測定する.測定されるひずみの
にもなるため,あまり大きなひずみの測定には適さないが,構造物に多くのひずみゲー
ジをつけることから同時多点しかも遠隔測定が可能である.さらに,軽量で応答性もよく,動的な測定も
容易である.ただし,表面での測定であり,また残留応力は直接的には測定できない.
伸び計
ひずみは, つの評点間隔の変化から求められる.この 点間変位を精度よく測定するために種々の変位
計があり,引張試験における伸び計 +B+-0%++ として使用されている.これには,差動変圧器や,渦
電流あるいは電気容量の変化をもとに変位を記録するものがある.変位計は大きなひずみまで測定可能で
あり,かつ繰り返し使用することができる.しかし,一般に質量が大きいため動的測定には適さない.こ
#
付録 応力・ひずみ測定法
)
れに対して,レーザを利用した精密寸法測定器は,評点間隔の変化の測定に利用でき,ひずみ計としても
使用されている.測定は非接触でかつ動的測定が可能である.
+ 線応力測定法
線応力測定法 (20+00+0++- は 線による結晶の回折現象をもとに,結晶格子面間隔の
変化よりひずみを測定するものである.格子間隔が評価間隔となっており,残留応力の非破壊測定が可能
であり,熱処理や表面処理の残留応力測定法として広く利用されている.この手法は,弾性ひずみを計測
しそれから応力を算出しており,塑性ひずみを受けた材料でも応力測定が可能である. 線が材料中へ侵
入する深さの領域におけるひずみを測定するので,高々数 の表面層の応力を測定する.
中性子応力測定法
線の代わりに熱中性子を使用して結晶回折を行うと, 線の場合と同様に応力測定が可能である.中
性子応力測定法 -+%-
0+00 +0++-
は,中性子が通常の 線に比較して材料中に 倍近く
深く入るため,材料内部の応力測定を可能としており,材料内部の残留応力測定法として使用されつつあ
る.しかし, 点の応力測定に比較的時間がかかること,非測定物を中性子源にもっていく必要があること
が欠点である.
磁気ひずみ応力測定法
鉄鋼,ニッケルなどの強磁性体を磁化したとき,その寸法が変化する現象が認められる.これを磁気ひず
み効果 -+%0
7 %-
という.この材料に応力を加えると,逆効果によって透磁率が変化する.この
透磁率の変化から応力を測定する方法が,磁気ひずみ応力測定法 -+%0
7 %- 0+00 +0++-
であり,主応力差が測定される.この手法では,残留応力の非破壊測定が可能であり,しかも簡便に短時間
での測定が行えるため,可搬の応力計ストレステスターが市販されている.しかしながら,材料の微視組
織によっても透磁率は変化し,これを分離して測定することは困難をともなう場合が多い.実際には,ひ
ずみゼロの同一材料との差から応力測定精度の向上を図っている.
音弾性法
物体中を伝播する弾性せん断波 横波 は,応力によって弾性体中に生じた力学的異方性のために複屈
折し,主応力方向に偏光した つのせん断波の音速差が主応力差に比例して変化する.この現象は音弾性
効果 7%0%+&0
+1%3
7+ +Q+7
と呼ばれており,この効果を利用する応力測定法が音弾性法 7%0%+&0
7
である.複屈折音弾性法則は次式で与えられる.
0
$½ $¾
$½ C $¾ G
0 C D" !
ここで,$½ と $¾ はそれぞれ,主応力方向に振動するせん断波の速度である.また,D" は音弾性定数,
0 が組織効果 組織音響異方性 を示す.音弾性において測定される量は左辺であり,波の伝播した距離の
平均的な応力を求める.力を決定するためには無負荷状態での 0# を知ることが必要であるが,現在,応力
効果と組織効果を分離する一般的な解法は見出されておらず,この問題に対して工夫がされている.組織
効果の分離が可能な場合には,数 の分解能を有しており,板厚平均の面内応力が簡便に測定できる.
応力・ひずみ測定法の種類と特徴
*
レーザ干渉法 被測定物に つのビッカース圧痕を打ち,その圧痕からの反射光の干渉を用いて 点間の変位を測定す
ることが可能である.この手法は干渉ひずみ変位計として,微小なき裂の開口変位などの測定に利用され
ている.
コースティクス法
き裂近傍にレーザ光を照射したとき,その透過光あるいは反射光がスクリーン上に集光して形成される
像をコースティクス 0
70
と称するが,その光がこない内側のシャドースポットの形状と大きさから
応力拡大係数が求められる.この手法は,応力拡大係数ばかりでなく,接触荷重の測定などにも利用され
ている.
光ファイバひずみ計測
光ファイバを,被測定物に貼付したり,埋めこんで,ファイバの伸縮を光干渉によって検出する.これ
には変位を検出するものと直接ひずみを検出するものとがある.複合材料のヘルスモニタリングのセンサ
としての利用が試みられている.
顕微レーザラマン分光法
レーザ光を炭素繊維などの高結晶性繊維やシリコン単結晶に照射したときにラマン散乱が生じる.この
散乱スペクトルにおけるピーク波数は引張りでは低い値に,また圧縮では高い値になる.移動量は応力に
比例している.この移動量から応力測定することが可能であり,顕微レーザラマン分光法
7%0'+7%07%'2
&0+ -
と呼ばれる.この手法は数 オーダ寸法の微小領域において応力測定が可能であり,
繊維強化複合材料中の繊維の応力測定,あるいは電子デバイス中のシリコンや切欠きを有するサファイア
単結晶における応力分布の測定に利用されている.しかしながら,応力成分を分離することが非常に困難
であり,被測定材料はラマン活性な材料に限られ,金属材料には利用できない.
収束電子線回折法
主透過電子顕微鏡を用いて,収束電子線回折によってて得られる結晶の電子線回折線 1
A%-+ & -+ ,;<R
1+ %3+ <+
をもとに格子面間隔の変化を求めることが可能で,これからひずみを測定できる.これ
を収束電子線回折法 7%-9++-
4+ +&+7%- 3 Q7 %- +1%3 +1%3
と呼ぶ.この場合,
測定領域は - オーダまで小さくすることが可能である.しかしながら,試料を薄膜にすることが必要
である.この手法によって,シリコン単結晶の研削面におけるひずみが測定されている.
残留応力測定法
構造物中の残留応力測定は重要であるが,機械的な測定法は破壊的である.そこで,構造物にひずみゲー
ジを貼りつけた後,解体してひずみゼロの状態まで戻したときのひずみを測定し,逆に構造物中でのひずみ
を求めてこれから残留応力を求める.この解放の方法は,円板,円筒,線材など,形状と応力分布の特徴を
考慮して種々の工夫がなされている.局所領域の残留測定のためには周囲にひずみゲージを貼付後,中央
付録 応力・ひずみ測定法
に円孔を導入し,そのときの解放ひずみから応力を求める孔あけ法 1%&+(3
&& - +1%3
がある.また,
薄膜の残留応力測定には,梁の曲げの程度から残留応力を求める %-+2 の方法がよく使用される.
残留応力の物理的な非破壊測定には, 線応力測定法が最もよく利用されている.しかし, 線法は表
面測定に限られる.これを補う手法として高エネルギーの放射光や中性子を利用すると,材料表面下ある
いは内部の応力測定が可能となる.また,そのほかの方法として磁気ひずみ法や音弾性法が測定の容易さ
から簡便法として利用されている.ただし,応力効果と組織効果を分離することが難しいため,定量性に
ややかける.
表
!
点測定による,実験応力・ひずみ測定法
測定法
原理
電気抵抗ひずみ計
金属,半導体の電気抵抗の抵変化
からひずみを測定
長所
欠点
ほとんどすべての場合に適
用可
精度,定量化ともよい.
安価で取扱いが容易
ゲージ長が長い
内部応力は測定できない
表面での測定である
測定ひずみの範囲が比較的小
さい
変位計
評点間の距離の変化を測定
材料試験に使用される
定量性に優れる
繰返し使用が可
質量があり,動的測定に不適
ゲージ長が長い
結晶回折をもとに格子面間の変化
残留応力の非破壊的測定
定量性に優れる
表面近傍の応力を測定
装置が高価である.
測定にやや時間がかかる
結晶材料しか適用できない
残留応力の非破壊的測定
定量性に優れる
材料内部の応カの測定可
測定に時間がかかる
中性子源が必要で,装置が移
残留応力の非破壊的測定可
短時間での測定可
ゲージ長が長い
組織効果の分離が必要
強磁性体のみに適用可
内部の応力が測定できる
残留応力の非破壊的測定可
不透明な材料の測定も可
ゲージ長が長い
組織効果の分離が必要
微小領域
ラマン活性材料のみに適用可
応力成分の分離ができない
差動トランス,渦電
流ひずみ計,電気容
量型変位計
線応力測定法
からひずみを測定
中性子応力測定法
結晶回折をもとに,格子面間の変
化からひずみを測定.原理は 線
と同一
磁気ひずみ応力測定
磁気ひずみの逆効果によって生じ
法
る透磁率変化から主応力差を測定
音弾性法
音弾性法効果による超音波の複屈
折より主応力差を測定
顕微レーザラマン分
結晶によるラマン散乱ピークの移
光法
動から応力を測定
オーダ の応
力測定が可能
動できない
結晶材料のみに適用可
応力・ひずみ測定法の種類と特徴
全視野測定
光弾性法
光弾性法 '1%%
+&0 7 2
は,応力によって複屈折を示す高分子材料を使用して,負荷応力を加えたと
きの主応力差および主応力方向を測定する手法であり,全視野測定法として全体の応力分布が一目でわか
る利点があり,最も広く使用されている.通常,モデルによる 次元測定であるが,応力凍結法を使用し
て 次元の応力分布の測定も可能である.ただし,モデル実験であるため,実物測定ではない.
表
!
全視野測定による,実験応力・ひずみ測定法
測定法
原理
モデル光弾性法
高分子材科の複屈折により,主応
力差および主応力方向を測定.
長所
欠点
全体の応力分布が一目でわ
かる
複雑な物体の内部応力も測
モデル実験である.
装置がやや高価で,実験が多
少難しい.
定可
応力集中の解析に最適.
光弾性皮膜法
光弾性樹脂を実物に貼りつけるも
ので,実物の主ひずみ差を測定
実物の特に塑性ひずみの全
感度が少々低い
体的分布がわかる
モアレ法
試料表面に細い線を描き,その変
形より生じるモアレ縞から変位を
ホログラフィ法
必要.
高・低温下でも測定可
大変形も測定可
縞の処理がやや複雑
光の干渉,回折により生じる縞か
振動モードの解析によい
表面を磨く必要がない.
実物でもモデルでもよい.
防振装置が必要
装置が高価である.
微小面内変位が測定できる
表面を磨く必要がない
点測定も可能
防振装置が必要
装置が高価である.
非接触で測定できる
応力集中部位の評価に有効
被測定物の材質制限が少な
静的ひずみが測定できない
繰返し荷重負荷が必要.
レーザ光の干渉により生じるスペ
ックル模様の移動から面内変位を
測定
熱弾性法
きる.
表面に格子を作成することが
測定.
ら主に面外変位を測定.
スペックル法
実物でもモデルでも測定で
固体の弾性変形にともなう温度変
化より,主応力和の変動分を求め
る
い
応力塗料法
脆性塗料を塗布し,応力により生
じたき裂の状態から応力の方向,
銅めっき応力測定法
実物でもモデルでも測定で
きる
ひずみを測定.
安価で取扱いも容易
試料に銅めっきし,繰返し応力に
疲れ試験における応力など,
より生じる黒い斑点の状態からひ
ずみを測定
動的応力測定によい.
実物の微小領域の応力測定
可
感度が少々低い
定量化が少々難しい
静的応カが測定できない
感度が少々低い
定量化が少々難しい.
付録 応力・ひずみ測定法
光弾性皮膜法
実物への測定を可能にするため,光弾性膜を実物に貼りつけることで実物の主ひずみ差の測定する光弾
性皮膜法 '1%%+0
7 7% - +1%3
がある.均一の厚さの膜をつくることは容易でなく,ひずみ感度
もやや劣る.
モアレ法
モアレ法 %
+ +1%3
は,非測定物表面に細い格子線を描き,その変形により生じるモアレ縞から変
位を測定する手法である.被測定物の格子と基準格子を重ねる幾何モアレ法と,回折光の干渉を利用するモ
アレ干渉法があり,後者のモアレ干渉法のほうが高感度である.実物でもモデルでも測定でき,また,高・
低湿環境あるいは大変形状態でも測定可能である.測定では,格子を表面に形成することが必要である.
格子法
被測定物に描いた格子の変彩をそのまま測定して,ひずみを求める方法であり,大変形に適している.
高・低温環境あるいは大変形状態でも測定可能である.疲労き裂近傍の大きな変形状態がこの手法によっ
て測定され,き裂進展速度を支配するパラメータが抽出されている.
ホログラフィ法
ホログラフイ法 1%&%'1
7 +1%3
は,光の干渉,回折により生じる縞から,主に面外変位を測定す
る手法である.変形前のホログラムを記録し,その再生画像と変形後を二重露光することから同時に再生
される物体間の干渉によって面外変位が求められる.あるいは,時間平均法と称される,正弦振動してい
る物体から等振幅線を得る方法で,変形前あるいは静止状態をホログラムに記録し,この再生像と振動状
態での物体光波面を直接干渉させることにより,実時間的に変化の状態を測定することができる.測定に
は防振装置が必要で,測定装置もやや高価である.
スペックル法
レーザ光を粗面に照射したとき,乱反射光の干渉により生じるスペックル模様の移動から面内変位を測
定する手法がスペックル法 0'+7/&+
+1%3
である.この移動量の測定法として,スペックル相関法とス
ペックル干渉法がある.いずれも固体の表面の変形とともに生じるスペックル移動を検出しひずみを求め
る方法であり,前者はスペックル移動の検出に変形前後のスペックルパターンの相関関係を利用する.こ
の相関法により点測定も可能で,き裂の開口変位の測定に利用されている.また,後者の干渉法には,変
形前後のスペックルを二重露光したときの干渉縞から変位量を求める方法 スペックル写真法 と,はじめ
と変形後のスペックルをコンピュータ画像入力し,その各画素の輝度の差をとり,干渉縞を求める方法 電
子スペックル干渉法 がある.
デジタル画像相関法
材料面の模様を利用して,変形前後の画像を カメラを通してコンピュータ画像入力して,画像相
関解析より面内変位を求める方法である.材料面の模様として,微細粒子を表面に吹きつけ,ランダムパ
ターンを使用する場合もある.なお,スペックル法における画像相関法もこれにあたる.
電気抵抗線ひずみ計
応力塗料法
脆性塗料をあらかじめ測定対象に塗布し,負荷により生じたき裂の数と方向から,応力の大きさと主応
力の方向を測定する手法である.これは,塗料膜に生じるき裂の方向が最大主応力に垂直な方向になるこ
とに基づいている.応力塗料法 4
&+ &76+ 7% -
は,実物に対して応力の大きさと方向の全体的な
分布が得られること,および実物に作用する荷重を測定する必要がなく簡単であることから,応力の概略
分布を求めるための簡便な方法として利用されている.ただし,感度が少々低い.
熱弾性法
固体に,引張応力を作用させると応力変動に比例した温度降下が,逆に圧縮応力を作用させれば温度上
昇を生じる現象を熱弾性効果 1+%+&0
7 +Q+7
と称する.この温度変化は主応力の和の変動分に比例
することから,温度変化をもとに主応力和の変動を計測する手法が熱弾性法 1+%+&0
7 +1%3
であ
る.この手法は,非接触で測定が可能で,被測定物の材質に制眼が少ない.測定には荷重の繰返し負荷が
必要である.
銅めっき応力測定法
測定対象に銅めっきし,繰返し応力により生じる黒い斑点の状態からひずみを測定する手法である.こ
の手法によると,複雑な形状をした部品に対しても表面の弾性応力を求めることができる.しかし,静的
応力は測定できないこと,感度が少々低いことなどの欠点を有している.
電気抵抗線ひずみ計
電気抵抗ひずみゲージの原理と構造
電気抵抗ひずみゲージは最も広く使用されているひずみゲージであり,単にひずみゲージといえばこれ
を意味する.金属抵抗体が伸縮することによって電気抵抗が変化することを利用する方法である.このひ
ずみゲージを測定物に接着して,測定物に生じるひずみを電気抵抗変化として取り出す.ひずみ測定器に
より,ひずみゲージの抵抗変化による電圧出力を増幅し,指示または記録させることによってひずみ測定
を行う.
ひずみゲージは抵抗体,形状,べ一ス材料,使用目的などにより多くの種類に分けられる.常温用の一
般ゲージでは,アドバンスあるいはコンスタンタンなどの銅 ニッケル
合金が抵抗材科として
用いられている.抵抗体が細線の場合を線ゲージ,エッチング加工された薄い箔の場合を箔ゲージと称す
る.図 ! には箔ゲージの構造例を示す.ひずみゲージは,プラスチックなどの絶縁フィルムに数 の
金属箔を接着剤で取り付けて,この抵抗箔をゲージパターンに合わせて,マイクロフォトエッチング技術
により製作する.ゲージ長とグリット幅がひずみ検出部である.測定されるひずみは,検出部における平
均的なひずみである.
このひずみゲージを測定物表面に接着しておくと,測定物に生じるひずみはべ一スを介して抵抗体に伝
達され,その電気抵抗が変化する.ゲージの電気抵抗を E,ゲージの感度軸方向 図 ! では左右方向 の
縦ひずみ とすると,生じる抵抗変化 FE とは次の関係にある.
FE
E
G
A
!
付録 応力・ひずみ測定法
ここで,A がひずみゲージのゲージ率 +
57%
で,その値は抵抗体の材質そのほかによって定められ
る定数である.市販のゲージは E のものが多く,ゲージ率は ! 前後である.したがって,A ,E が既
FE を測定すれぱ測定物のひずみが求められるが,このとき,ひずみ測定器では FEE に比
例する出力が生じ,A の値を設定しておけばひずみの値が直接読みとれるようになっている.
知のときに
図
!
図
箔ひずみゲージの構造
ホーイストンブリッジの結線法
!
ひずみ測定の実際と特徴
ひずみ測定器には,ゲージの抵抗変化を電圧に変換するホイーストンブリッジ >1+0%-+
4 3+
が
組みこまれている.ブリッジでのゲージ結線法は大別して図 ! に示す 種類がある. はプリッジの
辺だけにゲージを用いる ゲージ法,自己温度補償ゲージ,高温低温ゲージおよび大ひずみゲージなど
の場合に用いる.4 は ゲージ法に用い,隣り合う辺に同一の特性のゲージを用い,一方がひずみと温
度変化を受けるとき他方を同一の材料に接着して温度変化だけを受けるようにすれば,温度変化による影
響が打ち消される.この場合,前者をアクティブゲージ 7
32 +
9+ +
,後者を温度補償用のダミーゲージ
という.7 はすべての辺にゲージを挿入する ゲージ法に用いられる. ゲージ法は主に
荷重,変位,圧力などを測定する変換器で用いられ,変換効率と温度補償の目的を兼ねている.
ひずみゲージによる測定法は多くの特色をもち,現在最も広く利用されている.測定器が安価でひずみ
が直接測定できるばかりでなく,ゲージの質量,容積が小さく,応力状態を乱さずに測定もできるため,静
的のみでなく動的な測定もできる.また,多点同時測定や遠隔測定ができ,出力が電気量であるので,各
種データの処理が容易である.
ひずみゲージで測定されるひずみは,測定物の伸縮に対応するひずみであり,弾性ひずみとともに塑性
ひずみを加えた全ひずみである.弾性ひずみを測定したい場合,弾性力学の ,%%/+ の法則を用いて応力を
求める.単軸応力のときには単軸型ゲージで応力方向に接着すればよいが, 軸応力状態では 軸 *Æ 型
ゲージを使用しなければならない.また,主応力方向が未知の場合にはロゼットゲージを使用して 方向
の縦ひずみを測定することが必要である.特殊なゲージとして,高温ゲージを使用すれば,最高使用温度
は動的測定で )Æ 程度である.一方,低温ゲージでは,
Æ
# 程度まで測定可能である.ただし,ひ
ずみゲージで測定できる最大ひずみをひずみ限界というが,ゲージの形式,寸法,構造,接着法などに影響
され,I の非直線性,ヒステリシスで測定できるひずみ限界は 断,はく離などのひずみ限界は一般のゲージで がなされたひずみゲージは塑性域ゲージと呼ばれ,
I
程度である.また,破
である.抵抗体,べ一スに特別の考慮
のひずみに耐えられるようにつくられている.
半導体ゲージは,半導体結晶に力が加わると比抵抗が変化するピエゾ抵杭効果を利用しており,ゲージ率
がきわめて大きく A G)∼,また,正負のものが得られ,小型にもできるなどの優れた点がある.一
方,温度特性やひずみ限界などで一般ゲージに比較して劣っているが,衝撃ひずみや微小ひずみの測定な
どに用いればその特長を生かすことができる.
結晶回折法
結晶回折法
+ 線応力測定の原理
結晶回折法としては, 線応力測定法のほか,放射光応力測定法および中性子応力測定法があるが,い
ずれも結晶の回折現象を基礎としている.まず,従来から残留応力測定法として広く使用されている 線
応力測定法について述べる.この手法は,結晶の格子間隔を評点間距離として,その距離の変化を結晶に
よる回折現象を利用して測定し,弾性ひずみを求める.いま,図 ! に示すように一定の波長 の 線を
結晶に入射するとき,回折角 と回折面間隔との関係はブラッグ式で与えられる.弾性変形による格子面
間隔の変化は回折面方向の垂直ひずみに対応し,この値は回折角の変化から求まる.
F G G -
!
ここで, は無ひずみのときの回折角, がひずみを有するときの回折角である.同一ひずみに対しても
-
が大きいほど,つまり
*
Æ
に近いほど大きな角度変化となり検出感度が高い.材料が単相多結晶体
で, 線照射域中に十分多くの結晶があるとき,上述のようにして測定したひずみはマクロな弾性ひずみ
に対応する.いま, 線が試料表面より深く侵入しないことを考え,応力状態は平面応力とすると,回折
角と面内応力成分 , は次式で関係する.
G -
0 - G C
- !
ここで, はヤング率, はポアソン比で, は回折面法線の傾斜方向の面内垂直応力である 図 ! 参
照.上式が 線応力測定の 0 - G 法の基礎式である. つ以上の G に対して回折角
果を図 ! に示すような 0
- G 線図にプロットすると,回帰曲線の傾き
とすると が求められる.この手法は 0
を測定し,その結
- より, C を既知
G 法と呼ばれ,通常,傾斜角 G として つ以上の角度がとら
れる.このとき は次式で求まる.ただし,@ は応力定数と称され次式で与えられる.
-
G @@G
-
G
7%
C
/ / 0 - G !
!
!
)
!#
ここで の単位は 3+ で,) は 3 から 3+ への変換係数である.図 ! において @ は負数である
ので,右上がりの直線は圧縮応力,右下がりの直線は引張応カに対応する.0 - G の最大の特長は,
図
!
結晶による 線回折
図
! 0 -
G 線図
付録 応力・ひずみ測定法
回折角の 0 - G にともなう変化量を精度よく測定できると,応力が決定できることである.このとき,回
折角の絶対値 の厳密な値を必要としない. 線で計測するひずみは,回折現象が選択的に生じること
に起因して特定結晶群のひずみの平均値に対応するため,単相多結晶体においても,機械的なひずみとは
完全には一致しない.このため,上式の弾性定数も機械的な値とは必ずしも一致せず, 線的弾性定数な
いしは回折弾性定数と称される.ランダムな多結晶体の場合には,単結晶の弾性定数から @%-+ モデルに
よって計算される値が最も実測値に近い.簡便には , として機械的な値を用いてよいが,高精度測定
のためには 線的弾性定数の実測が望まれる.
以上は単相多結晶体の場合で,応力はマクロ応力である.一方,多相材料の場合,上述のようにして求
めた応力は測定している相の相応力に相当する.構成する各相の相応力を求めると,それから複合則を使
用してマクロ応力が求められる.また,それからの差がミクロ応力である.
+ 線応力測定の実際と特徴
線応力測定法の最大の特長は,残留応力が非破壊的に測定できる点である.また,表面層の測定であ
り,侵入深さは数 以下,測定領域は最小で ! 程度である.さらに,多相材料では各相の応力を
分離して測定することができるなどの特長を有している.実際の応力測定では,被測定材料に対して適切
なターゲットと回折面を選択することが必要であり,フェライト系とオーステナイト系鉄鋼材料およびア
ルミナや窒化ケイ素では,
「 線応加則定法標準」で定められている.
線応力測定装置は, 線発生部のほかにディフラクトメータと計数記録部よりなる.ディフラクトメー
タは計数管,スリットおよびゴニオメータより構成される.従来の分析用の 線回折装置に比較して,次
の つの特長を有する.特長の つは, 線入射角 G 角 を大きい範囲で,しかも自動的に設定し,回折
角を測定する工夫がされていることである. つ目の特長は, 線の入射側と受光側の両方にソーラスリッ
ト 発散角 !#Æ 以下 を用いた平行ビームを採用している点にある.平行ビーム法の利点は,試料の設定誤
差が
以内であれば応力値にあまり影響がないことである.近年,迅速な 線検出のために位置敏
感型検出器 が用いられているが,このときに検出器の走査の必要がない.
「 線応力測定法標準」で
は,回折プロフィルからの回折角決定に際して,ばらつきの小さい半価幅法を推奨している.
従来における測定の大多数の場合,
0 -
G 図は直線になり,系統的な非線形性は認められない.しか
し,特殊な場合であるが,系統的な非直線性が認められる場合として次の例が報告されている.これらは,
残留応力が表面の薄い層内で,急勾配を有する場合.
表面の薄い層内で, 軸応力状態となっている場合.
材料が強い集合組織を有する場合.
材科の結晶粒が粗大である場合.
成分濃度が表面の薄い層内で,急勾配を有する場合.
などで,各場合において非線形解析手法が提案されている.例えば,立方晶の多結晶薄膜が繊維配向した場
合に対して,等 軸の場合ばかりでなく,等 軸でない場合の測定も可能となっている.図 !
は > &
配向している 薄膜の軟鋼基材に 軸応カを負荷したときの膜中の応力を 線測定した結果である.
初期に ? 程度の圧縮残留応力を有しているが,負荷ひずみとともに線形的に増大していき引張りに
なった後,線形から外れる.これは膜中のき裂の発生によるものであり, 線法によって硬質膜の破壊応
力の測定が可能である.また,薄膜下の基板における応力測定の同時測定も可能である.さらに,ナノス
ケールの極表面の測定には,低角入射 線法 A
-
-7 3+-7+ (2 3 Q7 %-
が利用されている.
結晶回折法
#
表
!
0 線,放射光,中性子の侵入深さ(
)
被測定材料
&
+
熱中性子 )
放射光 /+$
#
!
放射光 /+$
!
!)
!
!
!
放射光 /+$
(@
=線
!
!
!
!
!
!#
!
!
!
H
/ 薄膜
図
!
0 線測定応力の負荷ひずみによる変化
残留応力測定箇所
残留応力
図
!
ソケット溶接継手の残留応力の中性子測定
中性子応力測定法
従来の 線法がごく薄い表面層の応力測定であるという欠点を補う測定法として,中性子応カ測定法が
ある.中性子応力測定法は, 線法と同様に結晶の回折を原理としているが,侵入深さは 線より非常に
大きく,材料内部の測定に適している.表 ! には強度が Iに減衰する深さを 単位で示す.中性子
は,通常の の管球を使用した場合に比較して,∼ 倍程度内部まで侵入する.しかしながら中性
子源の強度は強くないため,測定領域は数 以上に大きくとる必要があり,空間分解能が低い.さらに,
表面近傍では中性子が一部表面に抜けることにより誤差となるので,表面効果の補正が必要である.このた
め,表面近傍の数 領域の応力分布を決定するのには難点がある.中性子応力測定は材料内部の応力
測定であるため,ひずみの計測には無ひずみ状態での格子面間 を高精度に測定する必要がある.また,
主応力方向が既知の場合にも 方向の主ひずみの測定が必要であり,一般には 方向の垂直ひずみの測定
が必要である.中性子応力測定法は内部の残留応力が測定可能であるため,溶接部材の応力測定法として
利用されている.図 ! はソケット継手における ) か所での応力測定値である.この応力は,長手,半径,
円周方向の 方向のひずみ測定から求めている.溶接後およびひずみどり熱処理後の測定であるが,ひず
みどりによって残留応力が低下していることがわかる.
付録 応力・ひずみ測定法
)
放射光応力測定法
線光源として,実験室で使用される通常 線封入管に対し,放射光は,光源という観点から従来の管
球法に比較して次の特長を有している.
高輝度
高指向性平行性
広範囲のエネルギーレベル !
任意の波長を抽出可能
波長の高分解能 @= 線がない
/+$
特に,第 世代の放射光 02-71%%-
3 %-
である大型放射光施設 '
-()
では,高輝度,高指
向性に加えて,任意波長の高エネルギーの 線が得られる. 線のエネルギーが高くなるほど波長が短く
なり, 線の侵入深さは大きくなる.表 ! に示すように,高エネルギー 線は従来の管球法と中性子法
の中間の侵入深さを有しており,相補的な測定法と位置づけられ,従来にない成果が得られている.また,
第 世代の放射光である高エネルギー加速度研究機構 @@ のフォトンファクトり を利用した研究
も盛んである
光学的測定
光弾性法
次元光弾性法
エポキシ樹脂,ガラスなどの透明な等方等質体に荷重を加えると一時的に方解石のように異方性を示し,
光を入射させることで複屈折現象を呈するようになる.これを光弾性効果 '1%%+&0
7 +Q+7
といい,こ
の現象を利用して物体に生じる応力を求めるのが光弾性応力測定である.光弾性法の基礎となるのは次の
ブルースターの法則 +:0+S0
&:
である.荷重を受けている厚さ + の透明平板に垂直に波長 の偏光
を入射させれば,複屈折により各点の主応力 , の方向に分かれた光波は異なる速度で平板内を進み,
に比例している.
D+ 通過後に位相差 Æ を生じる.この位相差は主応力差 ÆG
!)
ここで,比例定数 D は材料によって異なる値をとり,ブルースターの定数または光弾性定数と呼ばれる.
また,= G D% を光弾性感度という.Æ を測定することから主応力差が求められることになる.図 !# は
実験法の基本原理図で,ここでは光源として単色光を考えている.単色光は偏光版 偏光子 を通過する
ことにより, の主軸 軸 方向だけに振動する平面偏光となる.ついで, 次元モデル
内の任意の
点での主応力 が 軸と角度 だけ傾いているとすると,この平板偏光はモデルを通過するとき に分かれるが,通過後に両偏光に位相差を生じる.いま,偏光子
検光子 の主軸 軸 方向を のそれと直交させておけば, を通過するのは のの 軸方向
の方向に振動する つの平面偏光
¼
¼
成分であり,それらを合成した光の強度は次式となる.
H G = 0 - 0 -
Æ
これは, が一定であれば明るさが Æ によって変化することを表しており,5
Æ G Æ G C H
H
G G
!*
"
G に対して
!
光学的測定
*
となる.さて,Æ は主応力差に比例するから,この明暗の縞は主応力差が一定の点を表しており,これを等
0%71% 7 & -+
という.この縞次数 5
-+ %3+
(
Æ ( G を数えることに
よって主応力差の分布を求めることができる.以上の方法では,Æ のいかんにかかわらず G のとき
にも H G となり,暗黒の縞を生じる.これを等傾線 0%7& - 7 & -+ と称する.主応力の方向が , の
色線 G
主軸方向が一致する点を表しており,主応力の方法を求めることができる.しかし,これは等色線だけを
求めるには不便である.これを除くには図 !) のように,波長の H の相対光路差 H の位相差 を生じ
る H 波長板 . ,. をモデルの前後において平面偏光を円偏光にするとよく,この場合,等色線,だけ
が現れる.図 !) はモデルに一様な平行偏光を通すための標準的な平行光弾性実験装置の配置である.光
弾性法の主な特長は, 次元の応力分布が縞として,全体的な分布が一目瞭然で求められる点にある.な
お,少なくとも自由縁では主応力の つは ; であるので,等色線からただちに主応力が求められるが,内
部で主応力の個々の値を求めるのは容易ではない.
<
光源, , コンデンサレンズ,フィルタ,
偏光子,. ,. H 波長板,< ,< 視野レンズ,
モデル, 検光子,カメラレンズ,;スクリーン
図
図
!)
平行光弾性装置の模式図
平面偏光を用いた 次元光弾性モデル
!#
応力凍結法
次元光弾性モデルに所定の負荷を加えたまま,炉内でモデル林料に特有な温度で,例えばエポキシ樹
脂では Æ
で数時間保持した後,荷重を加えたまま徐冷する.その後,荷重を除いても高温時の変
形および光弾性効果は消えずにそのまま残る.これが応力凍結法の原理である.冷却後,モデルを薄い平
板にスライスしても凍結された光弾性効果は保持されるので,このスライス片の応力分布を前述の 次元
平行光弾性法で測定することによって, 次元の応力状態を求めることができる.
光弾性皮膜法
光弾性皮膜法は,物体表面に接着した光弾性材料の薄い膜に偏光を入射させて反射光を観察するもので,
反射光弾性法とも呼ばれる.この場合,被測定物のひずみは光弾性膜のひずみと等しく,縞次数 ( は物体
表面の主ひずみ差に比例する.実験装置は物体表面で偏光を反射させる反射型となる.皮膜材料としてよ
く用いられるものは,この場合もエポキシ樹脂で,曲面の場合の皮膜接着にはまだ軟らかい半硬化状態の
エポキシ樹脂を表面に押しつけて硬化させた後,これをはく離し,改めて接着する方法が用いられる.皮
膜の厚さを一定にすることが重要である.実物にも適用可能であり,物体表面が弾性域を超えて塑性域に
入っても,皮膜が弾性域であればよい.
付録 応力・ひずみ測定法
#
モアレ法
モアレ %
O
とは,フランス語で「波形をつけた」などの意味であるが,間隔 ピッチ のわずかに
T
+O
異なる つの平行線群 以下,格子と呼ぶ を重ねたときに観察される干渉縞をモアレ縞 %
T
+ 5 -+
と
呼んでいる.これを利用して,物体面が平面である場合の面内変形 ひずみ を測定することができる.こ
れを得るには,物体表面に印刷,彫刻または接着された「ピッチG一定」の物体格子とフィルムまたは乾
板の参照格子 基準格子 を光学的に重ね合わせ,物体の変形にともなって生じるモアレ縞を観測する幾何
モアレ +%+
7 % T
+
法と,格子による干渉光を利用するモアレ干渉 %
T
+ -+5+%+2
法がある.
モアレ法には,そのほか物体の 次元形状を測定するシャドーモアレ法またはモアレトポグラフィと呼ば
れる方法もある.
幾何モアレの最も基本的な場合として,参照格子と物体格子は同じピッチの 次元格子とし,格子線と
直角方向に一様なひずみによってモアレ縞ができる場合を考える,いま,引張りひずみを ,変形しない参
照格子のピッチを とすれば,変形した物体格子のピッチは C であるから,モアレ縞の間隔を と
すれば次式より が求められる.
G
"
G
!
つまり,間隔 が ピッチ分,伸びたことになる.さらに, 次元の変形を測定するには直交格子を用い
ればよい.しかし,直交格子を平行に重ねて得られるモアレ縞は,水平格子によるものと垂直格子による
ものが入り乱れて,それらの区別が困難である.そこで,変形前の物体格子のピッチと少し異なるピッチ
の参照格子を用い,また参照格子を物体格子に対して回転させておき,最初から適当な間隔のモアレ縞を
生じるようにしておくと便利である.このような方法をミスマッチ法と呼び,特に回転だけのときをミス
アライメント法と呼ぶ.
モアレ法によると, 次元的ひずみ分布が全視野で求められるほか,高・低温下の測定でも,ひずみゲー
ジのような温度補償の問題がないなどの利点がある.しかし,モアレ法を適用するには何らかの方法で物
体面上に格子をつくらなければならない.普通は格子焼きつけ法が行われており,これには市販の格子原
板,感光剤 フォトレジスト を入手して焼きつければいいが,この場合は従来,∼ 本H 程度であっ
た.この程度の格子では特殊なデータ処理をしない限り !I 以下のひずみを精度よく測定することが困
難である.モアレ法の高感度化のために,物体格子の回折を利用して高感度の干渉縞から変位を求める手
法がある.高感度化の初期では,物体格子による高次の回折を利用していた.このとき,- 次の回折を観
察すると,物体格子の間隔が - になった場合に相当して,感度が - 倍になる.しかし,近年,モアレ
格子の間隔として数 から数 H が可能となってきたこともあいまって回折格子を物体に貼りつ
け,斜めから 光束を照射し,変形による干渉縞を観察する手法が開発されている.
この手法がモアレ干渉法である.また,干渉縞の位相を位相シフタを使用して検出することや,ある
いは干渉縞を輝度分布とみなしてこの位相を求めることにより,縞の線画像がすべての点で少数次の縞次
数を精度よく求められることになり,非常に高精度の解析が可能である.これが位相シフトモアレ干渉法
'10+(01 5 - % T
+ -+5+%+2
であり,輝度分布からの位相の決定にはフーリエ変換などを使用し,
高速で高精度の解析が可能となってきている.
図 !* に測定原理を示す. は変形前の状態で,物体表面には回折格子が貼りつけてあり,格子の方向
は紙面に垂直である.この格子に 束の平行レーザ光 0 を照射する.このときの照射角 = は 次の回
折光が垂直となるようにする.
光学的測定
#
変形後
変形前
図
!*
モアレ干渉法
ハーフミラー,ミラー,>?:くさびガラス板,フィルタ,楕円ミラー,被測定物,:回転台
, 図
図
!
位相シフトモアレ干渉装置の模式図
! 平板のき裂近傍のモアレ縞
!
ここで # は回折格子の周波数である.変形前は,回折光 0 が平行であるので一様な明るさとなり,干
渉縞は観察されない.物体が変形すると回折格子の空間周波数は # C F# となる.そのため, 次回析光
0 は平行でなくなり干渉縞が現れる.この干渉縞は 方向 上下方向 の変位 の等高線を表してお
り,干渉縞に沿って は一定である.干渉縞の次数を ( としたとき,変位 は次式で与えられる.
( (
G
G
!
#
これより,縞次数 ( を測定することにより,ある点の変位 を知ることができる.直角格子を用いると 0 -
= G #
G
次元変位分布が求められ,これからひずみ分布が算出される.この場合, 方向から,レーザ光を照射し
て,同時に 方向の変位を測定することも行われている.
付録 応力・ひずみ測定法
#
図 ! は測定装置の一例である. のようにして 光束平行レーザ光が物体に照射され, カメラ
で干渉縞を記録する.一方に位相シフタは取り付けられ,位相解析が可能となっている.図 ! は,モー
ド 荷重を受けるき裂近傍における荷重方向の変位分布を表すモアレ干渉縞である.
熱弾性法
近年の赤外線サーモグラフィの発展により,弾性変形の際に生じる物体の微小な温度変動,すなわち熱
弾性湿度変動の計測をもとに,物体の応力分布を計測する熱弾性応力測定技術は進歩を遂げてきている.
本項では,熱弾性法に基づく赤外線応力測定技術の基礎について解説する.
熱弾性効果
気体を断熱膨張させれば温度が降下し,断熱圧縮すれば温度が上昇する.固体に応力が急激に作用し変
形が断熱的に行われる準可逆状態では,このような温度変化は固体にもみられる.すなわち,固体に引張
応力を作用させれば応力変動に比例した温度降下が,逆に圧縮応力を作用させれば応力変動に比例した温
度上昇が生じる.
この現象は,熱弾性効果 1+%+&0
て定式化されている.@+&9
-
と呼ばれ,@+&9
7 +Q+7
-
によって可逆的熱弾性効果の理論とし
の埋論によれば,熱弾性効果による温度変動 FI は,等方均質な線形弾性体
に対して次式で与えられる.
FI
G
*I F D= I F
!
G
* は熱弾性係数であり,定圧比熱 D ,線膨張係数 = および密度 により与えられる.また,I は材料の絶
対温度,F は主応力和の変化量である.作用応力の変動にともなう熱弾性効果により物体に生じる温度
変化 FI を計測することで,主応力和の変動 F を計測することができる.
赤外線応力測定装置
前項 において,応力の変動にともない発生する熱弾性温度変動
応力和の変化
!
FI
を計測することにより,主
F が求められることを示した.しかしながら,* の値としては,例えば,軟鋼の場合で
H,アルミニウムの場合で )!)
H 程度の値であり,主応力和の変動値を仮に とした場合の FI の値は室温で軟鋼の場合,約 !@,アルミニウムの場合,!@ となる.熱弾性応力
測定では,@ オーダでの高い分解能および精度での温度計測が要求される.
これに対し,赤外線サーモグラフイによる温度計測分解能は @ 程度の値であり,赤外線センサで計
測された信号をそのまま温度に換算しただけでは,熱弾性応力測定に十分な分解能・精度を得ることがで
きない.
そこで,赤外線サーモグラフィによる熱弾性応力測定においては,図 ! に示すように,被測定物への
負荷荷重として繰返し変動荷重を与え,荷重信号に同期して変動する温度変動だけを,ロックインアンプ
と同様の相関信号処理により赤外線センサの出力から抽出し,さらにこれを荷重サイクルごとに積算・平
均化することにより,高分解能・高精度な温度計測を可能にしている.赤外線応力測定装置として市販さ
れているものがいくつかあり,赤外線センサ,画像構成方法,相関信号処理方法などにそれぞれの特徴が
あるが,熱弾性温度変動計測に関しては温度分解能 @,軟鋼の応力測定における応力測定分解能として
約 程度を達成している.
熱弾性法
#
図
図
!
!
赤外線応力測定装置の概要
赤外線応力測定例
円孔周りの主応力和分布
図
!
赤外線応力測定例
き裂周りの主応力分布
応力分布測定例
円孔を有する平板試験片に繰返し引張荷重を加えた場合に,円孔周りの主応力和の変動値分布を計測し
た結果を図 ! に示す.円孔の周りの応力は遠方で作用する応力に比べ大きな値となっており,円孔周辺
に応力集中が生じている状態が観察されている.さらに円孔の上下で圧縮,左右で引張りの応力集中が生
じていることがわかる.次にき裂による特異応力場の計測結果を示す.長さの異なる片側き裂を有する試
験片に,同じ大きさのモード 変動荷重を負荷した場合の,き裂周りの応力分布の測定結果を図 ! に示
す.き裂が長くなるほど,き裂先端近傍の特異応力場の強度が大きくなっていることがわかる.
赤外線応力測定技術の進展
赤外線応力測定技術は,
非接触による応力測定が可能.
応力分布が画像化されるので,応力集中部位の評価などに有用.
損傷による応力状態変化から非破壊評価ができる.
有限要素法などの数値計算を困難な問題へ適用することが可能.
被測定物の材質に制限が少ない.
参考文献
#
などの優れた特長を有する.しかしながら,
繰返し荷重負荷が必要.
4
撮像領域の変位によるエッジ効果.
7
計測される応力は主応力和の変動分であり,個々の応力成分の分離ができない.
などの問題点も有していた.近年,これらの問題点を解決するための新しい手法が多くの研究者によって
検討されている.
負荷荷重の多様化
赤外線応力測定においては,周波数,振幅一定の正弦波荷重が負荷されることが多いが,実構造物には
ランダム荷重や衝撃荷重が負荷されている場合が多い.<+0-
/
は,ランダム負荷および衝撃負荷が
作用する場合に,これらの荷重信号に同期する赤外線計測信号成分を最小二乗法により求め,応力の相対
的分布を可視化表示する機能を開発している.
エッジ効果と補正技術
赤外線応力測定では,変動荷重負荷時の変位に注意が必要である.被測定物の剛体変位あるいは変形が
大きく,応力が局所的に大きく変化している場合には,各画素の熱弾性温度変動の計測値には誤差が生じ
る.特に,変位により被測定物表面の赤外線放射量と背景放射との差を計測する輪郭部分の画素では大き
な計測誤差が生じる.これをエッジ効果 +3+
+5+7
と呼ぶ.被測定物の変位による計測誤差は,可能な
限り負荷荷重を小さくすることで軽減される場合もあるが,根本的に解決するためには,変位による計測
位置のずれを補正する必要がある.現在,計測視野が変位に追従するように光学的に補正する機能や,被
測定物の変位をソフトウェアにより補正する機能が開発されている.
応力成分の分離
応力成分を分離して直接計測できないことは,赤外線応力測定法の最大の短所であるとされてきた.こ
の問題を克服するために,さまざまなアプローチから応力成分の分離法が検討されている.最近では,逆
問題に基づく応力分離手法が注目されている.これらの手法では,まず主応力和に関する計測データに基
づいて解析領域に作用する負荷などの未知境界値を逆問題的に同定し,次に,求められた境界値に基づき
順解析を行うことにより各応力成分を分離計測している.実験的な応力分離手法としては,光弾性応力測
定法との併用による手法が検討されている.熱弾性計測による主応力和と光弾性計測による主応力差およ
び主応力方向から,応力成分の分離を行うことができる.
参考文献
矢川元基編:構造工学ハンドブック,''!(,丸善 ,