DiGRA JAPAN執筆要項

日本デジタルゲーム学会
Digital Games Research Association JAPAN
2014 年 年次大会 予稿集
Proceedings of 2014 Annual Conference
小学生向けの数学的分類力を学ぶワークショップの開発と実証
鈴木成美ⅰ
宍戸絢ⅱ
岸本好弘ⅲ 三上浩司ⅲ
ⅰⅱⅲ
東京工科大学メディア学部 〒194-0982 東京都八王子片倉町 1404-1
E-mail:
ⅰ
[email protected],
ⅱ
[email protected],
ⅲ
{ kishimotoy, mikami } @stf.teu.ac.jp
概要 現在の小学生は「数学的思考力」に対して苦手意識を持っていると言われる。本研究では、「競争」「賞賛」「可視化」
といったゲーミフィケーション要素を用い、モチベーションを維持しつつ、「数学的思考力」
「コミュニケーション力」
「言語表
現力」を育むことを目的としたワークショップを企画・実施した。さらに、教育現場の指導者に提供することを目標に、「ワー
クショップ実施マニュアル」を作成し、検証実験を行った。
キーワード
論理的思考力,数学的思考力,言語技術,ゲーミフィケーション, ワークショップ
1. はじめに
ョップの実施手順を教育現場の指導者に提供できるよ
1.1 背景
うマニュアル化することを目指す。
ベネッセの調査によると“今の小学生が社会人にな
った時に求められる力”として「未知の問題を解決す
2.研究内容
る思考力」「新たな価値を創造する力」「多様な人と交
2.1 研究概要
流し協調できるコミュニケーション力」などが挙げら
[1]
ベネッセでは、「発見」→「計画」→「実行」→「見
れる 。文部科学省の「新学習指導要綱・生きる力」に
直し」という問題解決のプロセスで使う基本的な力を
おいても、「論理的思考力」の育成や習得が求められ
「9 つの力」と定義している[4]。本研究では、この「9
ている[2]。
つの力」の中の「分類力」に注目して「紅白まんじゅ
その一方で、ベネッセ教育情報サイトの別の調査によ
うを分類しようゲーム!」を企画した。この「紅白ま
れば、当の小学生たちは「ものを覚えること」は得意
んじゅうを分類しようゲーム!」は「まんじゅう」を
だが、「論理的にものを考えること」は苦手、さらに
表す赤白の板と分類のための棒(ラインの代わり)を
「自分の考えを皆の前で発表すること」つまり「プレ
使う。2 人 1 組のチームで様々な分類方法を考え、チー
ゼンテーション」を苦手とする傾向にあることが分か
ム対抗で問題を出し合い、相手チームの考えた分類方
[3]
っている 。
法を当て合うゲームである。ペアワークにすることに
より一人で考えるよりも多彩な分類方法を思いつくこ
1.2 問題提起
とが可能となる。また、チーム内で、また相手チーム
「数学的思考力」育成を目的とするワークショップ
とやりとりすことによる「コミュニケーション力」育
の試みはこれまでにも存在し、授業に取り入れようと
成も狙いとしている。さらに、「言語表現力」を伸ば
する動きも少なからずある。しかしながら、そうした
すため、「どのように考えてその分け方を思いついた
成果を共有し普及するための「マニュアル化」は進ん
のか」を自分の言葉で説明させることを重視するワー
でいないのが現状である。
クショップとした。
1.3 研究目標
2.2 評価方法
そこで筆者らは、「数学的思考力」の中の「分類力」
まず「実験 1」として筆者らが講師となってこのワー
に注目し、ゲーミフィケーション要素を組み入れた新
クショップを実施し、有用性や所要時間を確認する。
しいワークショップを企画した。最終的にはワークシ
その実施手順を「マニュアル」として作成する。
「実験
2」では、筆者ら以外の指導者がそのマニュアルを使用
して同じように実施可能かどうかを検証する。検証実
験は、このワークショップの企画・実施に携わってお
らず、本研究に関する前知識を持たない大学生に指導
者役を依頼して実施する。「ワークショップがうまく
実施できた」かどうかの判定は、所要時間が小学校の
授業時間である「45 分」以内であったかどうかで行う。
さらに、ワークショップの参加者である小学生と見学
図 2 ムービー
した保護者に対する質問紙調査の結果を参考資料とし
て評価を行う。
3.
実験手法
まず「実験 1」として、ワークショップの企画者であ
る筆者の鈴木と宍戸が講師となって 4 回のワークショ
ップを実施し、所要時間を計測・記録した。
その結果をもとに、次の 4 点の資料を作成した。
(1) レジュメ(簡単なルール説明)/裏表 1 ページ
図 3 マニュアル
(図 1)
(2) ムービー(大まかな流れや雰囲気が分かるも
の)/3 分程度(図 2)
(3) 指導者側の紙マニュアル(詳細が記載されて
いるもの)/12 ページ(図 3)
(4) ワークショップ用のスライド/29 ページ
図 4 スライド
(図 4)
次に「実験 2」として、本研究に関する前知識の無い
大学 4 年生(以下「指導者」)に上記の 4 点を渡し、2
回のワークショップの進行を任せ、所要時間を計測し、
記録した。この「実験 2」の参加者は「実験 1」とは別
の小学生である。
「実験 1」「実験 2」ともにワークショップ終了後、
参加者である小学生と見学者である保護者に対し、質
問紙調査を行った。
。
図 1 レジュメ
4.
実験結果
4.1
所要時間の計測
各回の所要時間の計測は、全てのワークショップの
開始から終わりまでビデオ撮影することによって行っ
た。表 1 は「実験 1」4 回のワークショップの所要時間
である。初回以外は 45 分以内にワークショップを終え
3 名、
「あまり楽しめなかった」1 名、
「つまらなかった」
ることが出来た。
1 名という結果だった。
表1
実験 1 の実施時間
5.
考察
「実験 1」では 4 回の実施を通して、小学生 2 人を除
いた全員から「楽しめた」以上の答えをもらうことが
できた。これに対し、「実験 2」の「楽しめた」比率は
低かった。しかし「実験 2」に限って見てみると、「あ
まり楽しめなかった」
「つまらなかった」の回答があっ
たのは 1 回目についてのみで、2 回目の回答は「とても
楽しめた」「楽しめた」のみとなっている。
「実験 2」の指導者を務めてくれた学生にヒアリング
表 2 は「実験 2」2 回のワークショップの所要時間で
を行ったところ、1 回目は指導者自身がゲームのルー
ある。2 回とも 45 分以内におさめることが出来ている。
ルを十分理解しないままワークショップを進行してい
しかし、1 回目は参加者に対する説明がところどころ
たことが分かった。1 回目終了後の時間にマニュアル
で途切れてしまうことがあった。2 回目は大きな問題
を読み直し、ルールを再確認してから 2 回目のワーク
なく進行できていた。
ショップを行ったために 2 回目にはより良い結果が出
表 2 実験 2 の実施時間
たと思われる。
つまり、指導者がルールを十分理解していなかった
ことが、参加者満足度が低く出た原因として考えられ
る。マニュアルに関し、「文字数が多くて読み流して
しまった」という意見もあった。実際に教育現場の指
導者に提供するためには、もっと見やすさを重視した
マニュアルに改善する必要がある。
4.2
質問紙調査
「今回の授業はどうでしたか?」という質問に、「と
ても楽しめた」
「楽しめた」
「あまり楽しめなかった」
「つ
まらなかった」のいずれかで回答してもらった。
6.
まとめ
本研究では、「数学的思考力」の中の「分類力」に
注目し、様々な分類のパターンを考えて説明するゲー
実験 1 では参加者である小学生(合計 47 名)が「今回
ムを通して「分類力」「コミュニケーション力」「言語
の授業はどうでしたか?」の質問に対し、
「とても楽し
表現力」を高めることを目的としたワークショップを
めた」32 名、「楽しめた」10 名、「つまらなかった」2
新たに企画し、複数回実施した上で、成果を共有でき
名と回答している。保護者(合計 30 名)は「とても楽し
るようマニュアル化し、そのマニュアルの有効性を検
めた」16 名、
「楽しめた」14 名と回答し、
「つまらなか
証した。
った」の回答は 0 名だった。
所要時間に関しては、6 回のワークショップの結果、
実験 2 では参加者である小学生(合計 22 名)に対し同
初回を除いて 45 分以内におさめることができ、小学校
じ質問をしたところ、「とても楽しめた」11 名、「楽し
の授業に組み込める可能性があることが確認できた。
めた」6 名、「あまり楽しめなかった」1 名だった。保
また、今回作成したマニュアルの有効性に関しては、
護者(合計 11 名)は「とても楽しめた」5 名、
「楽しめた」
指導者が一読してゲームのルールを十分理解できるよ
文 献
う、より見やすさを重視したマニュアルに改善する必
[1] Benesse 教育サイト,”今の小学生が社会人になっ
たときに求められる力”
要があることが分かった。
なお、今回のワークショップによって実際に「分類
力」が高まったかどうかは確かめられていない。今後、
ワークショップの事前と事後で「分類力」の理解に差
があるかどうかを検証する必要がある。また、今回は
学校外でのワークショップにとどまったので、実際に
小学校の授業時間にマニュアルを使用して同内容のワ
http://benesse.jp/blog/20120209/p2.html (2012)
[2] 文 部 科 学 省 ,” 新 学 習 指 導 要 綱 領 ・ 生 き る 力 ”
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/gengo/1
300857.htm
[3] ベネッセ教育総合研究所,”第 2 回こども生活実態
調査報告書[2009]”
http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/kodom
oseikatu_data/2009/pdf/data_09.pdf(2009)
[4] GLOBAL MATH
http://globalmath.info/lp/ (2013)
http://www.globalmath.info/globalmath_pfweb/doc/rel
ease/releasejapanese.pdf (2013)
ークを実施してもらう試みも必要である。
Demonstration and development of workshops to learn the mathematical
classification force for elementary school students
Narumi SUZUKIi
ⅰ ii ⅲ
Aya SHISHIDOii Yoshihiro KISHIMOTOⅲ
Koji MIKAMIⅲ
School of Media Science, Tokyo University of Technology
1404-1 Katakura-cho, Hachioji-city Tokyo, 194-0982 Japan
E-mail:
ⅰ
[email protected][email protected]
ⅲ
{ kishimotoy , mikami}@stf.teu.ac.jp
Abstract The current elementary school students have a weak trend in the "mathematical thinking". In
this study, I planned a workshop, and conducted. It is using the "competition", "praise",
"visualization" of Gamification elements. It is an object of the present invention that foster the
"mathematical thinking," "communication skills", "language expressive power". Furthermore, I made
conduct the verification experiment of "workshop manual" for the leader of education.
Keywords Logical thinking, mathematical thinking, language technology, Gamification, workshops