【研究者インタビュー No.064】 ピ ア ニ ッ シ モ の さ さ や き の 中 か ら 音楽美を感じ取る学生を育てたい 大分大学教育福祉科学部 芸術・保健体育教育 教授 西村一(にしむら・はじめ) 専門: 木管楽器(クラリネット)。 れいな音は子どもの耳と心をひきつける力がありま す。ですから学生にはまず響きの美しさを聴き分け る耳を持って欲しい。それから正しい呼吸で楽器を 鳴らす技術へと進みます。音楽で大切なピアニッシ モの美しさを奏でるには,緻密で安定した音を創る 感性と技術が必要です。 音楽は音に始まり,音に終わると言っても過言で はありません。学生が将来,教師として子どもたちに 音楽の指導をするとき,生徒一人ひとりの音の純度 や合奏の響きの美しさを判断できる指導者になって 欲しいと思います。(写真と文/安部博文) 【西村 一 (NISHIMURA Hajime) プロフィール】 ▲愛用の楽器は 1976 年製のヘルベルト・ヴーリツァー(ドイ ツ)。 ●クラリネットとはどういう楽器でしょう? クラリネットは同じ木管楽器であるフルートやオーボ エに比べると歴史的に新しい楽器です。18 世紀の初 頭,ドイツ人のディンナー(Denner)が,シャリュモー という楽器を改造したのがクラリネットの起源です。 クラリネットの特徴は,音域が 4 オクターブと広いこ と,いろんなキャラクターの音を出せることです。明 るい音,深い音,軽快な音,ゆかいな音,多様な表 情を一本の楽器で作り出せます。また,弦楽器との 相性が良くアンサンブルがとても美しい。モーツアル トやブラームスのクラリネット五重奏曲を聴くと分か ってもらえると思います。 今,皆さんが目にするクラリネットはフランスのビュ ッフェ・クランポンというメーカーのものが多いと思い ます。フランスらしく明るく繊細な響きが特徴です。私 はドイツ系の音が好きなので,ヘルベルト・ヴーリツ ァー(H. Wurliter)というマイスターに作ってもらったも のを使っています。注文して届くまで 2 年近くかかり ました。内省的で深い響きはこの楽器ならではの持 ち味です。ベルリンフィルではヴーリツァーを使う人 が多いようです。一方の音楽の都,ウィーンではハ ンマーシュミットというメーカーが有名で,ウィーンフィ ルのメンバーが愛用していることでも知られています。 最近,ビュッフェ・クランポンはドイツ系の芯のしっか りした音に近付いているようですし,ヴーリツァー(息 子)の音は明るく軽い傾向になっています。楽器に求 められる響きは時代と共に変化していますね。 ●教育のポリシーは? プロの演奏者も教育者も音に関しては同じ認識を持 つべきだと考えています。学生が教師になって子ど もに音楽を教える時,教師の出す音が大切です。き ▼1949 年,山口県山口市生まれ。子 どもの頃,音楽を聞くと体を動かしてい た。母親の勧めで小学校からピアノを 習い始める。6 年生の時,クラス合唱 のピアノ伴奏を務めた。中学 2 年の時, 国体開催を前にブラスバンド部が新設 され,音楽教師の指名でクラリネット担 当になる。▼県立山口高校に進学。入 学前に父親にフランス製の楽器を購入 してもらい,入学式の後すぐブラスバンド部へ直行。実はブラ スバンド部ではなくヴァイオリニスト石井志都子女氏の父親で ある石井洋之助氏が指導する管弦楽部だった。石井氏はデ リケートな音を要求し,粗い音を出すと指揮棒を放り出すスパ ルタ指導。高 2 の春,カラヤン指揮ベルリンフィルのベートー ヴェン「第 9 交響曲」の映画を見て感動,クラリネットの道へ進 む決心をする。地元にクラリネットの指導者がいなかったため, ホルンの三好隆三氏につく。ホルンの立場から多様なタンギ ングの指導を受けたことがその後,演奏表現上の助けになっ た。高校3年の時,楽器をビュッフェ・クランポンに買い替える。 ▼1967 年,高校を卒業。同年,国立音楽大学音楽学部器楽 科(クラリネット)に入学。1 年時は池松和彦氏の指導を,2年 時はオーストリアから NHK 交響楽団に客員演奏者として来 日したフリードリッヒ・フックス氏の指導を受ける。ウィーン方 式のレッスンは,生徒全員が仲間のレッスンを見守る中で行 われ,まず音階,次にエチュード,最後に曲という順番で進め られる。本場が音階を重視していることを体感。1971 年に国 立音楽大学を卒業。フルートの吉田雅夫,池松和彦氏等とハ イドン作曲「ノットゥルノ全集」の世界初録音に参加。1 年間, 東京フィルハーモニー交響楽団のエキストラを務める。大学 院進学を目指すため,大橋幸夫氏と村井祐児氏のプライベ ート・レッスンを受ける。▼1973 年,東京藝術大学大学院音 楽研究科器楽科に進学。千葉國夫氏の指導を受ける。修士 2 年の時には吉田雅夫氏のフルートの授業も選択。▼1975 年,同大学院を修了。芸術学修士。▼1975 年,山口芸術短 期大学に着任。楽器を待望のヴーリッツァーに買い替える。 ▼1979 年,ベルリンへ留学,ゲオルク・ツェレツケ(ベルリン・ ドイツオペラ首席クラリネット奏者)氏に師事。第 30 回ヴィオッ ティ国際音楽コンクールクラリネット部門入選。1983 年山口県 芸術文化振興奨励賞受賞。▼1988 年 4 月,大分大学教育学 部に着任。▼1976,1980,1983,1985,1988,1990 年にリサ イタル開催。1998 年より毎年「森の音楽会」シリーズ(広島県 廿日市市吉和、魅惑の里ふれあいホール)を企画・演奏。 平成 22 年度大学等産学官連携自立化促進プログラム / 地域連携研究コンソーシアム大分 / 取材時期 平成 22 年 6 月
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