学生には地理学の眼で社会を見る楽しさ・有用性を伝えたい

【研究者インタビュー No.039】
学生には地理学の眼で社会を見る楽しさ・有用性を伝えたい
大分大学教育福祉科学部 社会認識教育 教授 土居 晴洋 (どい・はるひろ)
専門: 人文地理学。
●教育のポリシーは?
学生には地理学の視点から社会を見る楽しさや有
用性を理解してもらいたいという思いで授業を行って
います。地理を暗記するものと捉えるのではなく,学
生に目に見える表面の背後で働いている理屈やメカ
ニズムについて考える力をつけて欲しいのです。
授業ではインドや中国で私がその場で撮影した写
真を学生に見せ,その写真から読み取れることを学
生に考えてもらいます。遠い国の写真でも学生が日
本との共通点や相違点を見つけて指摘するのを聞く
のは楽しいですよ。学生が教師として学校現場に立
ったとき,地理学的な見方や考え方が実践できる先
生になってもらいたですね。(写真と文/安部博文)
▲共同研究で進めている中国の調査は 10 年以上になる。
●人文地理学とはどういう内容でしょう?
地域や社会を観ようとするときのひとつの視点とし
て地理学があります。小中学校で学ぶ地理と地理学
とでは同じ部分もありますが,ちょっと違う部分があ
りますので,ここでは大学で学ぶ地理学についてご
説明しますね。
地域・社会を見る眼として,地理学には「地誌学」
「自然地理学」そして「人文地理学」という 3 つがあり
ます。地誌学の眼では,対象とする地域・社会がどう
いう個性や特徴を持つところなのかを中心に見てい
きます。例えば,工業や農業など産業はどうなって
いるのか,地形的な条件はどうなっているのかという
視点で見ようとする学問が地誌学です。
自然地理学は,地域・社会の空間的な広がりを対
象に自然科学の切り口で見るものです。例えば気候,
水の循環,活断層など自然環境の状態を調査し,実
際の状況がどうなっているのかを把握するのが自然
地理学です。
人文地理学は,地域・社会の農業・工業・都市・文
化あるいはコミュニティなどを具体的な観察対象にし
て,人間と環境の係わりを過去の積み重ねも含めて
見ていく学問です。また,農業の視点から地域・社会
を見ていくものが農業地理学になり,経済的な視点
から地域・社会の状況を見ていこうとするものが経
済地理学になるなど,それぞれ取り上げ方の視点に
よって発展しています。
地理学の全体像は,今の 3 つの眼に地図学・地理
情報科学と地理教育学が加わった総体となります。
地理学は,ほかの人文・社会科学と同じように「現状
はどうなのか・それはなぜなのか?」を考える学問で
す。小中学校で学んだ地理の印象とはちょっと違っ
ているかも知れませんね(笑い)。地理学は,自分で
見て,自分で考えるところに面白さがあるんです。
【土居 晴洋(DOI Haruhiro)プロフィール】
▼1958 年,愛媛県松山市生まれ。
育ったのが山を背負い海に面した
地域の小学校だったので,漁村,農
村,山村,町から様ざまなタイプの
子が集まって賑やかだった。社会科
と図画工作が好きな小学校時代を
送る。高学年からはボーイスカウト
に入り,野外活動に親しむ。中学で
は地理が得意科目。高校は県立松
山北高校に進学。地理部に入り,地
形図から立体模型を作ったりフィールド調査を体験した。大学
で本格的に地理を学び,教師になりたいと考えるようになる。
高校 3 年生の進学指導の時その希望を担任に伝えたところ,
広島大学を勧められる。▼1977 年 4 月,広島大学文学部史
学科地理学専攻に進学。入学してすぐ広島地域で盛んなロ
ーカル・スポーツ「エスキーテニス」部に入る。エスキーESCI
とは Education Science Cultural Institute のことで,被爆後の
広島市民の復興支援策としてユネスコの支援を受けて開発
されたゲーム。室内外で手軽にできる卓球・バドミントン・テニ
スを融合したスポーツである。学部 2 年から始まった専門科
目で,高校時代の地理と大学の地理学とのギャップに直面す
る。高校時代の地理が大学受験を意識し羅列的で暗記科目
的になっているのに対し,大学の地理学は事象の背後に理
論や科学的法則を見出そうとする違いに戸惑った。しかし,
大学地理のアプローチ法を知るにつれ学問としての地理学
への興味が深まる。人文地理の森川洋 (もりかわひろし) 研究
室に入り,都市と農村の境界線に関する研究に取り組む。▼
1981 年 3 月,学部を卒業。同年 4 月,広島大学大学院文学研
究科博士課程前期地理学専攻に進学。都市ができるメカニ
ズムや人間と環境とのかかわりに焦点を当て都市周辺地域
の土地利用の変化をテーマに調査を行う。▼1983 年 3 月,博
士課程前期修了。同年 4 月,同課程の博士課程後期に進学。
北海道,広島,愛媛の各都市でフィールド調査を重ねた。
1987 年 3 月,博士課程後期を単位取得退学。同年 4 月から
広島大学の助手として 5 年間勤務。▼1992 年 4 月,大分大学
教育学部に着任。▼1993 年,広島大学のインド調査団メンバ
ーとして初めての長期海外調査に参加。1995 年から中国の
調査にも係わり現在に至る。▼2002 年 3 月,広島大学から学
位を取得。博士(文学)。
平成 22 年度大学等産学官連携自立化促進プログラム / 地域連携研究コンソーシアム大分 / 取材時期 平成 22 年 6 月