【研究者インタビュー No.100】 専門知識と人間性の両方を豊かに備えた看護学生を育てたい。 大分県立看護科学大学 広域看護学講座 地域看護学研究室 准教授 江藤 真紀(えとう・まき) 専門: 地域看護学。高齢者保健。 ▲看護の勉強に燃えるゼミ学生と共に。 ●地域看護学とはどういう内容の学問でしょう? 地域看護学は,地域で暮らしている人びとの健康の 保持・増進を目的とする看護学です。ここで言う地域 とは,私たちが日々生活をしている身近な空間のこ とです。看護学というと,病気の人のケアをイメージ されることが多いのですが,健康な状態を維持し,疾 病や事故などリスクの予防も看護の大事な役割なの です。 地域看護学の対象者は,お腹の中の赤ちゃんから 高齢者まで地域で生活している人は全て含まれます。 ただ,病院や施設に入っている人は,そこで目的に 応じた看護を受けているので別になります。 誰が地域看護を担うのか,というお話も大事です。 まず,免許の説明からしますと,看護の仕事には 3 つのライセンスがあります。看護師,保健師,助産師 ですね。看護師が免許のベースで,その上に保健師 や助産師の免許を持つという形になっています。地 域看護の担い手の話に戻りますと,それが保健師と いうわけです。保健師は地域に身を置き,それぞれ の地域の環境や状況に応じて,そこに生活している 人びとの心身の健康を護るのが仕事です。とても広 範囲の仕事になりますから,保健師ひとりで頑張っ ても限度がありますよね(笑い)。そこで大事なのが自 治会,行政,職場,福祉施設,医療機関等とのネット ワークです。地域の個人や家族に健康リスクがある 場合,どのようにアプローチして問題が起きる前に 解決すれば良いか,問題が起きた場合はどのように すれば小さいうちに解決できるかについて,自分の 専門性とネットワークの力を使って考え,行動します。 平穏無事でみんなが元気に過ごせる当たり前の状 態が地域看護の理想です。 ●教育のポリシーは? 学生時代には専門知識・技術と社会性の両方を身 につけ,現場に出てじっくりと自分を育てる基礎を作 って欲しいと考えています。看護の仕事で大切なの は,専門家としての能力と人柄です。その理由は, 看護職は人を相手にする仕事であること。人のプラ イバシーに関わることが多い仕事なので相手から信 用してもらうことが大事だからです。現場では専門知 識・技術を持っていれば良いという話ではありません。 周りと良好な人間関係を築くのに必要なマナーや社 会性が大切なのだ,ということを学生時代のなるべく 早いうちに気づいてもらいたいと思っています。 保健師の仕事は広くて深いものです。本学では学 部時代の 4 年間で個人を看護する基礎力をつけても らいます。保健師を目指す人は,大学院の 2 年間で 個人や集団を対象に看護する力量を身につける仕 組みになっています。それでもまだまだ「完成品」とし て社会に出るというわけではありません。もちろん有 免許者としての力量は大学で担保しますが,何より 現場で経験を積むことによって一人前に育っていく のです。学生・教員・現場の保健師のトライアングル の中で知識・技術も人柄も磨いていこうという意識を 持って貴重な学生時代を過ごして欲しいですね。(写 真と文/安部博文) 【江藤 真紀 (ETO Maki )プロフィール】 ▼大分県大分市生まれ。外で友達と 遊ぶのが大好きな幼少時代を過ごす。 4 歳からピアノ,小学校に入ってから 習字とペン字を習い始める。好きな科 目は算数と理科。中学でも数学と理科 が好き。多くの同級生と共に県立高校 に入学。親から,目的がない進学はダ メ,将来自分で生活できる免許を得る 進学なら援助する,と言われ,進路を真剣に考え始め,看 護の道を選ぶ。▼愛知県の藤田保健衛生大学衛生学部 看護学科に入学。1 年時から一般教養科目と同時に解剖 学や生理学など専門の基礎科目が始まり,土曜日も授業, 座席は成績順というスパルタ教育で鍛えられる。2 年時か ら自治会に入り,新入生歓迎キャンプや体育祭などの活 動を通じて,他学部にも友人の輪が広がる。▼同大学を 卒業。看護師と保健師の国家試験にも合格。同年 4 月か ら大分県に戻り,保健師として勤務を始め現場経験を積 む。現場経験を踏まえ,もう少し勉強する必要があると大 学の恩師に相談。大学院進学を勧められる。▼愛知県内 の大学院修士課程に入学。高齢者が転倒する要因分析 と予防をテーマに研究する。▼大学院修士課程を修了と 同時に大分医科大学(現在の大分大学)医学部看護学科 の助手として勤務。その後,名古屋大学医学部保健学科 看護学専攻に助手として転勤。▼2002 年,名古屋大で勤 めながら,大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻博 士後期課程に入学。研究テーマは高齢者の転倒現象の 客観的評価と対応。地域の保健師と連携し,元気な高齢 者 100 人を対象に実験を行うと共に 200 人に及ぶインタビ ュー調査を重ねる。▼2005 年 3 月,大阪大学より学位取 得。博士(看護学)。▼2007 年 2 月,大分県立看護科学大 学着任。 平成 22 年度大学等産学官連携自立化促進プログラム / 地域連携研究コンソーシアム大分 / 取材時期 平成 22 年 12 月
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