琵琶湖湖岸ヨシ復活の試み 「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治 平成 15 年 1 月 19 日の日曜日、琵琶湖大橋尐し北の湖西の和邇中浜(滋賀県志賀町)で、ヨシ を復活させる試みが終日掛けて行われました。これは当日の記録レポートです。 1.自然は、自然の力を活用して復活させる 1月18日、京都でこれからの淀川水系のあり方を提言する市民参加型の淀川流域委員会の最 終報告が行われました。行政主導型で行政事務局が作った作文を概ね追認する形の多かった 従来型の委員会ではなく、一般公募された委員も多く参加して、委員自ら提言、協議、起案して いった国土交通省初の試みの委員会です。マスコミでは「ダムは原則作らない」という見出しで委 員会の提言を取り上げていました。 自然環境を維持回復しつつ、いかに人間社会が河川を活用していくべきか、最終報告の中で 数々のすばらしい提言がある中で、私には「自然は、自然の力を活用して復活させる」というスタ ンスが印象に残りました。今まで、行政主導で数々行われてきた自然復活の試みは、掛けた費 用と時間の割には、効果を挙げていないものが多いのでそれらを分析したところ、結局太陽の自 然エネルギーを糧に生きている生物の力を借りて自然回復させることが、迂遠なようで一番良い 方法であると結論付けられているのです。例として水の浄化力のあるヨシ(葦)が挙げられます。 琵琶湖でもそのトライを始めているグループが、私も所属している琵琶湖自然環境ネットワークで す。 2.湖のヨシ 湖の湖岸にはヨシが自生しています。経済的には何の価値も無いように見えるヨシは、湖水を 浄化し、酸素を水中に取り込み、生態系を豊かにする貴重な存在なのです。一定以上の幅のヨ シ帯は、ブラックバスなど肉食性の外来魚からその湖に元々生息している小魚が身を守るため に逃げ込める領域を形成しているのです。いわば命のゆりかごです。 今まで豊かな琵琶湖の自然環境を取り戻すためにはヨシの復元が重要だと、滋賀県や県の水 資源開発公団などがヨシ植栽をしてきましたが、莫大な費用がつぎ込まれた割にはあまり成果を あげていません。むしろヨシ帯の造成で琵琶湖や内湖を埋め立て、琵琶湖の原風景を台無しにし、 水辺の生態系を破壊する工事が行われています。 これでは琵琶湖の保全にも復元にもなりません。霞ヶ浦や宍道湖では、湖水の浄化機能のある アサザやヨシ帯復元に知恵と工夫の事業が行われています。この優れた工法に学び、琵琶湖で もやってみることにしようというのが今回の試みです。題して「粗朶消波工の実験」計画です。 そだ【粗朶・麁朶】とは、小学館の辞書に下記のように記述されています。 切り取った木の枝。柴(しば)、薪(たきぎ)に用い、堰や堤を築く材料にも、また海苔(のり)を つける(しび*)にも用いる。 今まで行われてきたヨシの復活の試みは、一定以上育てたヨシ苗を湖岸に植え付けるものでした が、湖底に植えられたヨシ苗が、根付かない段階で押し寄せる波に洗われて流されてしまうので す。そこでちょっと岸から離れたところに山の柴を括った粗朶で消波工を作り、その内側にヨシを 植えてみようという試みです。 主催はびわ湖自然環境ネットワーク(FLB=Friends of Lake Biwa)、協力部隊は、若い人 たちで構成する「やぶこぎ探検隊」と、造園事業者で構成する「大津みどりのNPO」の人たちでし た。倉員40名に達しました。リーダーはびわ湖自然環境ネットワーク代表、寺川庄蔵さんです。 滋賀県庁からも二人が特別参加されました。 3.粗朶消波工の設置とヨシ試植 平成15年(2003)1月19日(日)10時、JR湖西線和邇駅前に一同は集合、和邇中浜漁港 近傍の浜辺に向かいました。現場はヨシとヨシの丁度切れ目のあるところです。ヨシに詳しい方 の推奨の場所との事です。 そこには、既に12月15日に蓬莱駅近くの寺川さん所有の山林から、やぶこぎ探検隊が切り出 してきた、粗朶そして杉・檜の間伐材がトラックで運ばれてきました。 前述の大津みどりのNPOは、自らの経営資源であるトラック、ショベルカー、ドリルカーを駆って の協力です。それらの我々の持ち込んだ、スコップ、大槌、屶、鋸、チェーンソーなどで準備作業 に掛かりました。約三分の一くらいの参加者は、胴長という水の中に入れる作業着を着ており、 正にフル装備です。 これで琵琶湖ヨシ復活の試みの第一段階は過ぎました。来る春に、ヨシが根付いて、芽吹くこと を期待しています。仮に失敗しても原因を確かめ、霞ヶ浦、宍道湖の成功例を参考に次のトライ を続けていくことになるでしょう。私は東京に単身赴任している関係上、今回一日だけの作業に 参加しただけなのですが、しかしNPOの一員として積極的な試みに肉体労働を行ってみて、ほど よい疲れを感じました。翌日東京の職場に出勤したとき、全身の筋肉痛を感じましたが、一つの 達成感が痛みを緩和してくれました。 作業を終えるときにサブリーダーのブライアン・ウィリアムズ氏が、市民・住民、行政、業者、こ の三者が一体となって自然維持・回復の試みを行ったことに大いに意義を感じると挨拶しました。 今まで無かったことでしょう。 40人もの男女が、土木作業機械まで動員して、たった60数本のヨシを根付かせる試みを、丸 一日掛けてトライしたことは、作業能率上は極めて効率は低いし、事業としては成り立たないもの でありましょう。しかしもし成功すれば、大きな輪となって、本当に必要な公共事業に発展する要 素を今回の試みは秘めているのです。 また、使った素材は全て自然からのものです。里山の森で手に入った粗朶(柴)、竹、間伐材、 湖岸の剪定枝など自然の循環の中で手に入るものばかりです。森と湖の繋がりが復活する方向 になって行くはずです。 以 上 作業記録写真 写真 NO01 間伐材から杭作り チェーンソーで間伐材を杭に仕上げて行きます。 屶も使って私もトライしましたが、細目の 3 本目で 交代しました。やはり機械力です。もちろんガソリ ンも食いますが、1 日でやり遂げるには、チェーン ソー無しでは無理だったでしょう。 写真 NO02 粗朶の山 蓬莱山麓の里山から切り出した粗朶の山。やぶこ ぎ探検隊とFLBで2日がかりで切り出したとか。 道なき山に分け入って、枝を切り、ちょっけい30 ~40センチくらいの束にして柴を括り、また林道 まで運び出す作業は大変だったろうと想像しま す。 写真 NO03 杭の打ち込み 岸辺から20メートルくらいのところに2列に杭を打 ち込みます。当日琵琶湖の水位はマイナス65セ ンチでしたから、春には雪解(ゆきげ)の水で、増 水することを想定し、杭の高さを水面上1.2メート ルくらいに設定しました。水深が40センチくらいで したから、2.3メートルの杭を約70センチ打ち込 むことになります。最初は人間の手で穴を掘って 杭を大槌で打ち込んでいこうと考えていたのです が、全くの素人発想でありました。大津みどりのN POが持ち込んでくれたドリルカーで湖底に穴を開 け、そこに杭を入れてショベルカーのショベルで打 ち込んでいったのです。この機械力が無かった ら、作業は到底1日で終わるどころか、実行困難 だったとおもいます。 写真 NO04 粗朶の積込み これもショベルカーが大働き。一度に粗朶の数束 を運んで、2列に並んだ杭の間へ積み上げていき ます。水面下の粗朶は浮いてはいけないので、ぐ っと下へ押し込みます。写真に見える青竹は、積 み上げた粗朶を交互に粗朶をつなぎ合わせて、 出来上がった消波工の強度を高めるために使用 しました。 ブライアン・ウィリアムズさんはサブリーダーの一 人で、恐らく水中にいた時間は何事にも積極的な 彼が一番長かったでしょう。冷え切った足を焚き 火で暖めます。有り難いことに我々の作業を眺め ていた近在のおじさんが薪を差し入れてくれまし た。午後から氷雤が降り出し、湿った間伐材、湖 岸の剪定材では中々燃えにくく、寒い中嬉しい差 し入れでした。漁民の方らしく、ヨシを復活させる 我々の試みに対し、諸手を挙げて応援をしてくれ たのです。 写真 NO07 ヨシ植栽用の竹筒 ヨシは、粗朶消波工を用いても波とか水流で流さ れてしまうことがあります。それを防ぐために発明 されたものが、孟宗竹を活用した竹筒です。外計 10センチ、長さ50センチほどの竹筒の下部に節 を残し、外周側に直径15ミリくらいの8個の穴を4 列開け、底の節にも同じく10個程の穴を開けたも のです。湖底に開けた穴にこの竹筒に入ったヨシ を植え込むと穴から寝を出し、しっかと根付いてく れる寸法です。宍道湖のNPOの発明で、特許料 を入れ一本1,200円もするのですが、今回は実 験ということで特別割引してもらったと、寺川リー ダーの弁。 写真 NO08 竹筒へのヨシの埋め込み ヨシは近くの小川に自生しているヨシ(小川の流れ を多尐阻害しており、近隣の人が除去を考えてい たもの)を抜いて運んできました。前述の竹筒にヨ シと湖畔の砂を埋め込んでいきます。ドリル穴が 開いている所まで砂を入れるのがコツであると か。またヨシは枯れていても上に残っている茎部 分が酸素を水中に取り込む作用をするとのこと。 ヨシに詳しい方から伺いました。なるべく長い茎の 残っているヨシを埋め込みました。全部で58本用 意しました。 写真 NO09 竹筒に埋め込まれたヨシ 5~6人で一所懸命作業して全部で58本用意し ました。 写真 NO10 積みあがってきた粗朶の消波工 昼食をはさんで、作業は順調に進み、粗朶消波工 は姿を整えてきました。今日中に終わらないかも 知れないと見込んでいたのですが、何とか夕方ま でに出来上がりそうになって来ましたので、3時終 了予定を延ばし、氷雤のなか、作業続行を決定し ました。また折角里山から切り出してきた粗朶に は腐りかけているものもあり、それらを除外する と、粗朶が不足してきました。急遽湖岸に残され ていた柳の剪定枝を集めて、屶等で粗朶を10本 ほど製作しました。 写真 NO11 竹筒と杭を括りつける ヨシを埋め込んだ竹筒が流されてしまわないよう、 近くに打ち込んだ杭に縄紐で括りつけます。若い 女性も水中作業を厭いませんでした。 写真 NO12 暖の焚火を囲んでミーティング とうとうやり遂げました。折からの雤で周りは暗く なってきましたが、午後 5 時頃になっても冬至より 1 ヶ月たった当日、明るさが残っており、お陰で見 事に粗朶消波工が完成し、竹筒ヨシの植え込み 作業を終えました。温かいお汁粉の差し入れもあ りました。 写真 NO13 夕暮に幽かに見える粗朶消波工と植栽したヨシ群 雤の中、完成した粗朶消波工と植栽した約60数 本(比較のための直植を含む)のヨシをじっと眺め ながら、しばし感慨に浸っておりました。 その後の補修作業記録写真 昨年平成 15 年(2003)1 月に作った粗朶波消工は、琵琶湖の荒波でかなり破壊され、平成 16 年(2004)1 月 18 日と、 25 日に粗朶波消工の修理、再構築が行われました。 この写真 14A・14Eの2枚の写真はそのときの様子です。 より高く、基礎もしっかりとしたものにしたそうです。ヨシは近在のものを活用し、写真 14Eは、竹筒に入れたヨシを 植える時の様子を写しています。 写真14A 写真14E 竹筒に入れたヨシを植える
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