フォーラム概要

平成 24 年 12 月 24 日
鳥海山フォーラム
概要
1.鳥海山地下水脈調査結果報告
~吉出山の地下水脈を水質マップから探る~
総合地球環境学研究所
教授
中野孝教氏
吉出山周辺の湧水の水源域がどこなのか、水の指紋といえる水質を調べることによ
って、地下水脈を探る調査を行ってきた。この調査から、吉出山南麓周辺の湧水は、
水道水源も含めて吉出山周辺に降った雨や雪が起源であることがわかった。また、採
石場から道路に排出されている水は、その水質から明らかに地下水といえる。今後、
採石場からそうした排出水の量が増えると、上部の湿地の消失や臂曲地区の湧水に影
響が現れる可能性がある。
また、胴腹滝の主な水源域は、その水質、水温から吉出山北部の標高の高いところ
と推定できる。
冬季の雨や雪は、大陸からの越境性と考えられる重金属の影響を受けているが、湧
水にはこれら重金属の影響はみられず良好な水質が保たれており、土壌による浄化作
用が機能している。岩石採取等により表土を削除することは、水道水源や湧水がこれ
ら重金属の影響を受けやすくなることが指摘できる。
2.調査結果に見る鳥海山の水のつながり
~山地水文学の目を通して~
大同大学工学部
准教授
鷲見哲也氏
中野先生の調査結果を、他の影響を受けずに保存性の高い成分である酸素及び窒素
の同位体と塩素、さらに地中の岩石に触れることによって含有量が変化するセシウム、
バナジウムに注目して考察したところ、吉出山には「重い水」(標高の低い所に降っ
た雨や雪)と「軽い水」(標高の高い所に降った雨や雪)の二つの水があり、重い水
は表層に近い所、軽い水は深い所を流れていると思われる。この重い水は、吉出山南
麓の湧水となっていることから、吉出山の地表を面的に広くかく乱することは、この
湧水の量と質に影響する可能性がある。地表の裸地化は雨の地中への浸透量の減少を
招き、地表を流下する水量が増える。山が荒れると洪水が発生するのと同じ。結果と
して、地下水涵養量の減少や水質悪化を招くと言える。
吉出山周辺の湧水の高さをみると、上流から下流に向けて標高が下がる形となって
おり、地下水位は連続している可能性が高い。このうち、少なくとも現在の採石場の
掘削最下部はこの地下水位を切る形となっており、この連続した地下水の流れに影響
を与えている可能性がある。採石などで地下水を切ることになれば、これにつながる
地下水位に影響することから、地下水理学的には胴腹滝他の湧水量に影響する可能性
を否定できない。地下水脈の明確な特定や、地表の撹乱による地下水への影響を確定
できるような調査は困難であることを考えると、予防原則が重要と考える。
3.鳥海山麓の暮らし
~恵みと災いの間にある日常~
岐阜経済大学大学院
教授
森誠一氏
鳥海山の恵みは、この大きな「水がめ」によるところ大きい。過去には噴火や洪水
などの災害をもたらしているが、その噴火による溶岩や降雨が豊かな湧水と生物多様
性、生き物の賑わいをもたらしている。これらの湧水は、生活水や農業用水だけでな
く、沿岸海域にも豊かで多様な恵みをもたらしており、この地域の歴史・文化・民俗
は地域の自然に依拠している。自然は、郷土の構成要素として地域の宝物であり、経
済資源のみではないことを理解する必要がある。
開発行為の影響の深さは見えていないが、影響はゼロではないと言える。特色ある
地域環境の保全のために、郷土力(ふるさとへの思い入れの程度)を育成し、まちづ
くりを推進していただきたい。
4.質疑応答
問:胴腹滝は雨が降ると水量が増えることを、どう考えればいいか。
鷲見准教授:雨は、量と同時に圧力の上昇をもたらす。水質や水温がほとんど変わら
ないことから、雨により地中の圧力が増して流量が増えると考える。
問:胴腹滝の水から大腸菌が検出されているが、動物の便などが流入しているのでは
ないか。
鷲見准教授:渇水の時には、そうしたリスクがあると思う。検出前後の情報共有が必
要と思う。
中野教授:涵養された水がどのぐらいの期間をかけて上から流れてくるのか、調べな
ければならない。上流部の涵養域と思われるところのモニタリングが必要だ。また、
大腸菌が入った時の状況を共有する必要がある。
問:(鷲見准教授の示したパワーポイントの)断面図について、採石場のどこの断面
か。
鷲見准教授:正確にどこのラインということではない。吉出山を上流から縦に切って、
横から見たイメージを落とし込んだもの。
問:胴腹滝の涵養域が吉出山の北部というのは、水温だけでの判断なのか。
中野教授:水温以外に、水に含まれる成分から標高の高いところから来ているとしな
ければ説明できない。
問:大陸由来と思われる重金属成分が検出されているとのことだが、採石事業によっ
て土壌による浄化機能の低下の心配はないのか。
中野教授:土が持っている浄化機能を取り払ってしまうと、そのまま地下水に流入す
る可能性は高いと思う。
問:岩石採取は胴腹滝への影響が無いと考えていいのか。
中野教授:水が地下をどのようなルートで流れているかは、現代の科学ではわからな
い。比較的影響が出にくいとの可能性はあると思う。深く採石しない限り確立的に
は低いと思う。
鷲見准教授:影響が無いとは言い切れない。地下水位が下がれば圧力の関係で水量は
減ると思う。影響がどの範囲に及ぶかはわからない。そのことを明確にするために
は膨大な費用がかかり、そうした調査が自然を撹乱することにもなりかねない。雨
が降ったら、何日後に水量が増えたかなど、水量を測り続けることの方が費用対効
果の観点からもいいと思う。
問:横堰の水量が心配だ。
鷲見准教授:横堰の湧水を考える観点として、地下に滲み込む供給量の減少がどうな
っているか、地下水の水位が変わっているかいないか、がある。上流からの供給量
が変わらなくても、水量が減る場合もある。
中野教授:地表を撹乱すれば、地下に滲み込む水の総量が減って影響が出やすくなる
のではないかと思う。
問:景観について考えていることがあれば伺いたい。
鷲見准教授:環境基本計画に山麓景観の保護が記載してある。山麓の景観を町民がど
う思っているかが重要と思う。
問:鳥海山の水が、砂丘をとおして日本海に出ていると思っている。地下水脈が切ら
れるとその水量と流れが変わるのではないか。
中野教授:遊佐町西側の湧水は十分に分析できていない。砂丘地帯の比較的浅い井戸
の水は、月光川の水とは違うようだ。深いところの地下水をもっと詳しく調べれば、
もう少しわかるようになると思う。砂丘地帯の浅い層の地下水は肥料の影響をみて
とれるが、どれだけの量が海に出ているかはわからない。
5.山形県の条例検討状況について
山形県環境エネルギー部環境企画課
課長
髙橋康則氏
水資源の保全と森林等の適切な土地取引・利用等の確保を目的に、条例化を検討
してきた。検討にあたっては、有識者・関係者を委員とする懇談会を開催し、意見
を伺ってきた。対応の方向性として、①開発行為の事前届出制、②土地取引の事前
届出制、③勧告・公表の三つを決定したところである。今後、パブリックコメント
により県民の意見を伺い、具体的な条文作成を進め、平成 25 年 2 月に予定されて
いる県議会定例会に提案する計画である。
6.遊佐町の条例検討状況について
企画課企画係
課長補佐兼企画係長
髙橋務
様々な恩恵をもたらしている鳥海山を源とする遊佐町の水循環を、将来に向かっ
て保全することを、条例制定にあたっての理念としたい。具体的な、条文、施策を
検討するにあたっては、予防原則を基本とすることを確認している。水道水源の現
状からは、地下水が無尽蔵でないことが見て取れる。水源涵養機能の維持向上を図
るためのルール、地下水利用のルール、水質改善を図るためのルール、これらのル
ール作りを、県条例や関係法令との整合を図りながら進めていく予定である。
※
作成
企画課企画係