熱分解型ガスクロマトグラフ質量分析計(Py-GC-MS)

Technical Sheet
No.14011
熱分解型ガスクロマトグラフ質量分析計(Py-GC-MS)
キーワード:プラスチック、熱分解、GC-MS、イオントラップ
概
要
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)はガ
ス化した試料を分離・分析し、化合物を同定する
①熱分解炉(パイロライザー・Py)
材料を加熱し、発生したガスを GC に導入する
装置で、今や材料分析の分野では欠かせない装置
前処理装置で、常温から 1050ºC まで加熱可能で
となっています。しかし、容易にガス化しない物
す。高分子が分解しない温度範囲で加熱し、添加
質の分析は困難なため、プラスチックなどの材料
剤などの低分子量成分を抽出する熱抽出、高分子
を直接分析することは困難でした。
材料を分解温度以上で瞬間加熱する熱分解、これ
今回導入した熱分解型ガスクロマトグラフ質
らを組み合わせた多段階加熱、徐々に炉の温度を
量分析計(Py-GC-MS)は、GC-MS に常温~1000ºC
上げて発生する化合物の温度を調べる昇温分析、
までの温度範囲で加熱・熱分解が可能な熱分解炉
など様々なモードでの分析が可能です。さらに、
を接続しています。熱分解炉で 0.1~1 mg という
試料カップに高温で反応する試薬を添加して、反
極微量の試料を高温加熱し、発生したガス成分を
応熱分解により生成した化合物を分析すること
GC/MS 分析することにより、残留溶剤や添加剤、
も可能です。また、本装置ではパイロライザーか
さらにはプラスチック組成を特定することがで
らの発生ガスをキャピラリーカラムの入口で液
きます。
体窒素によりトラップすることができます。カラ
ム入口で一旦、冷却凝縮させた後、急速に加熱し
てカラムに導入することにより、シャープなピー
装置構成
装置の外観写真および構成を図 1、2 に示しま
す。装置は熱分解炉(パイロライザー・Py)、ガ
スクロマトグラフ(GC)、質量分析計(MS)で構
成されています。試料カップに極微量の試料を入
れて、あらかじめ所定の温度に加熱した熱分解炉
に投入することにより瞬間加熱し、発生したガス
クが得られます。
②ガスクロマトグラフ(GC)1)
熱分解炉から導入されたガス成分を長さ 30~
60 m のキャピラリーカラムに通すことにより、混
合ガスを化合物ごとに分離する装置です。
をガスクロマトグラフで分離し、分離された個々
熱分解炉
の化合物を質量分析計で分析します。
ガスクロマト
グラフ
液体窒素
(-196ºC)
図1
熱分解 GC-MS 外観写真
地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所(産技研)
http://tri-osaka.jp/
質量
分析計
キャピラリーカラム
図 2 熱分解 GC-MS 装置構成
〒594-1157 和泉市あゆみ野 2 丁目 7 番 1 号
Phone:0725-51-2525
③質量分析計(MS)2),3)
GC により分離された化合物をイオン化し、そ
のマススペクトルを測定する装置です。
ルを合計し(図 3b)、ポリマーライブラリで検索
することにより樹脂を特定します。また、ピーク
ごとのマススペクトル(図 3c)を添加剤ライブラ
本装置ではイオントラップ型の質量分析計を
リと比較することで、添加剤の特定も可能です。
採用しました。この装置では、イオンチャンバー
この例では、図 3b の結果からプラスチックは
内にイオンを保持することができるため、マスス
ポリカーボネートと特定され、添加剤として、①
ペクトルを測定したイオンをさらにフラグメン
のピークは図 3c のマススペクトルから p-tert-ブチ
ト化(断片化)して分析する MS/MS 分析が可能
ルフェノールであることが分かりました。
です。
[%]
チャート全体のマスクロ
マトグラムを合計して、
ポリマーライブラリ検索
し、樹脂を同定する
索することにより化合物の同定が迅速に行えま
す。本装置では NIST のライブラリに加えて、
図3b
135
80
57
107
252
60
41
91
40
119
71
77
20
149
167 177
198
228
267
235
281
m/z -->
30
80
130
180
313 325
287
0
F-Search ライブラリを備えているため、添加剤や
ポリマーの同定が簡便に行えます。装置の仕様を
INT-SUM Mass Spectrum 0.000 to 40.494 min F.S.:1663526
213
100
強 度
また、得られたマススペクトルをライブラリ検
230
280
331
355
356
373
330
380
m/z
110
TIC: PC-THF-300C.SMS.cdf F.S.: 687942
[%]
105
100
95
表 1 に示します。
①
90
85
80
熱分解型 GC-MS の仕様
強 度
75
表1
70
65
60
55
50
・パイロライザー:Py-3030d
(フロンティア・ラボ株式会社)
装置構成
・GC-MS:240 ION TRAP GC/MS
(アジレント株式会社)
45
40
35
30
25
20
15
10
5
min -->
0
0
1
2
仕
様 ・GC-MS
温度範囲:常温~450°C・
質量分析計:イオントラップ型
質量範囲:10~1000 u
測定モード:EI、PCI、NCI
MS/MS 分析が可能
ライブラリ
備
考
・NIST(16 万種の化学物質)
・F-search(ポリマー、添加剤)
・化学イオン化の反応ガスに、ガスおよび
揮発性液体が使用可
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
保持時間(分)
主な対象物 ・プラスチック、添加剤
図3a TICチャート
[%]
個別のピークのマスク
ロマトグラムから添加
剤ライブラリ検索し、
化合物を同定する
Scan 2321 (14.876 min) F.S.:201984
135
100
図3c
80
107
強 度
・熱分解炉
加熱温度:常温~1050°C
(瞬間加熱、多段階加熱、昇温加熱、
反応熱分解など)
3
60
40
20
95
77
41
0
m/z -->
30
51
65
150
119
80
171
130
201
180
m/z
まとめ
今回導入した熱分解型ガスクロマトグラフ質
量分析計は、極微量の材料を加熱し、発生したガ
ス成分を分析することにより、化合物の特定を行
うための装置で、種々の加熱法が可能な熱分解炉
と MS/MS 分析が可能なイオントラップ型 GC-MS
を接続した装置です。本装置を用いて材料を加
熱・ガス化して分析することにより、低分子量化
分析例
合物(残留溶剤や添加剤など)から高分子材料ま
図 3 にプラスチックの分析例を紹介します。瞬
での特定が可能となります。
間加熱されたプラスチックは熱分解し、GC-MS
により図 3a のようなトータルイオンクロマトグ
関連テクニカルシート
ラフ(TIC)チャートが得られます。なお、熱分解に
1) No.10017 クロマトグラフ
より得られたクロマトグラムをパイログラムと
2) No.10008 質量分析計
呼びます。パイログラムで得られたマススペクト
3) No.01025 ガスクロマトグラフィー/質量分析
作成者 化学環境科 小河 宏 Phone: 0725-51-2729
<ご利用の際は 総合受付(0725-51-2525)までご連絡ください。>
発行日 2015 年 3 月 10 日