24 竹内孝仁氏が説く「水分・食事・便・運動」の相互関係 わたしたちのやりたいケア 介護の知識 50 竹内孝仁氏が説く「水分・食事・便・運動」の相互関係 介護の知識 認知症の周辺症状(BPSD)の要因としては、以下の3つがあると 言われています。 ① 身体的要因 ② 心理(精神)的要因 ③ 環境(社会)的要因 今回はその中でも、①の身体的要因について考えていきます。 「身体的要因」には、既往、現病、水分摂取量、食事摂取量、排泄 状態、睡眠、内服薬、運動など、さまざまなものがあります。 とくに、水分、食事、排泄、運動は、BPSD の基本的な要因です。 竹内孝仁氏は、下図のように、認知症に影響する水、食事、排泄、 運動は互いに関係しあい、どれか一つが欠けても他に影響が及ぶと説 明しています。 水 1 メシ 認知症 クソ 運動 それぞれが認知症に対しどのような影響があるのでしょうか? 1.水分 水分不足(脱水)は「認知」という、精神の働きの土台となる「意 識」に影響すると言われています。 認知症の方の中には、喉の渇きを上手に伝えられなかったり、高齢 になることで神経が鈍くなり、のどの渇きを感じない場合があります。 ①水分不足から生じる身体的活動の低下 水分は体内の物質の移送(血液、リンパ液)や、代謝(老廃物を身 体の外に出す)など、生命の営みに直結しています。 身体の中の水分保有量が低下することで、活動性が低下します。 上記の図でいうと、水(水分)が不足することでクソ(排泄)に影 響を及ぼし、水が不足すると運動に影響を及ぼします。 全国高齢者ケア研究会 24 竹内孝仁氏が説く「水分・食事・便・運動」の相互関係 クソ(排泄)や運動に影響が及ぶとメシ(食事)へも影響を及ぼすこ ととなります。 水分、排泄、食事、運動は相互に関連しています。 これらを総合的にとらえることが大切です。 ②水分不足から生じる意識レベルの低下 血液内の水分量が低下することにより、いわゆる「ドロドロ血」に なり、脳の血液循環を低下させ意識レベルが低下します。 日中の傾眠も、この影響が原因の一つである場合があります。 2.排泄(便秘) 高齢者はもともと、消化管の機能の衰えにより便秘になりやすくな っています。 便秘になると、イライラしたり、不快な気分になるというのは、体 験した方ならわかると思います。 便秘がイライラにつながる仕組みは次の通りです。 ①直腸・下部結腸内に便がたまる ↓ ②交感神経を刺激し、緊張状態を引き起こす 2 ↓ ③気分が興奮した状態(イライラ)になる とくに、数日の便秘の後、排便が起こりかけているときが、最も精 神状態に影響を与えやすいといわれています。 自分でトイレに行きたいと伝えることができない方は、落ち着かず 何度も立ち上がる、怒りっぽくなるなどの「排泄のサイン」が出るこ とがあります。 また、刺激性下剤の投薬後、その日の夜や翌日、腹部の不快感から行 動障害が悪化することもあります。 これらの状態では、メシ(食事) 、水(水分)、運動にも影響を及ぼ してしまいます。 3.食事(低栄養) 高齢者に低栄養が多い理由としては、 ・消化吸収機能の低下 ・加齢に伴う食事摂取量の低下 ・嗜好の変化(高カロリーの油っぽい食事を控えるなど) などがあげられます。 低栄養状態は、体力を低下させ疲れやすくなります。疲れやすくな 全国高齢者ケア研究会 24 竹内孝仁氏が説く「水分・食事・便・運動」の相互関係 ると、活動(運動、排泄、食事・水分)する意欲も低下します。 4.運動(活動量の低下) 高齢者は、筋力の低下や体力の低下などの老化現象により、動くの がおっくうとなり活動の意欲が低下します。 活動をしないと、エネルギーが消費されないため、お腹は空かなく なり食欲が減退します。食事量が減れば、運動や排泄にも影響を及ぼ すこととなります。 運動は血液の循環を促進しますが、活動がないと血液の循環は低下 し、脳の血液循環が悪くなります。 結果、脳は不活発となり、さらなる意欲の減退につながります。 (まとめ) ① 脱水状態になると、食欲が低下し、便秘になり、元気を失い活動 ができなくなる ② 便秘になると、気分が落ち着かず、活動性が低下する ③ 低栄養になると、疲れやすく、生活意欲が低下する ④ 活動をしないと、脳の血液循環が悪くなり、脳が不活発になる 3 水分・食事・排泄・運動が互いに関連しているのがよくわかります。 これらの 4 つの一つが不足すると残りの 3 つに影響を与えることに なります。 特別養護老人ホームの入居者の夜間せん妄のほとんどは、脱水によ るものとも言われています。 落ち着かないからと安易に安定剤などを服用すると、取り返しのつ かないことになることもあります。 水分・食事・排泄・運動の状況を把握するには、トータルケアの総 合記録シートが欠かせません。 総合記録シートなしには、まず、利用者の状況を総合的に把握する ことすらできません。 周辺症状が出ている方は、 「総合記録シート」で、水分、食事、排泄、 運動の状況をチェックしてみましょう。 認知症の周辺症状の要因を発見できることが多いはずです。 全国高齢者ケア研究会
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