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目 次
「北京ダック:大董ダック店 」北京(北京料理)KT
ヴルストラント
随 想 −ドイツは Wurstland −………………………………………………<坂田亮一>… 342
解 説 シリーズ解説:糖質素材の機能と利用(第20回)
L−アラビノース… ………………………………………………<柴沼 清>… 344
解 説 シリーズ解説:米の話(第21回)
米の加工利用(10)米を利用した医薬品タンパク質生産および
次世代ワクチン開発研究………………<黒田昌治>… 352
風水樹花徒然記☆3 四季を生む植物………………………………………<大場秀章>… 358
海外技術・マーケット情報
最近の茶系飲料のトレンド……………………………………………………………… 361
2012年飲料と食品のトレンド・トップ10……………………………………………… 363
凍結濃縮技術の課題と可能性…………………………………………………………… 364
最近のキャップとクロージャーの動向………………………………………………… 366
食品工場のセキュリティー対策………………………………………………………… 369
食品中のビタミン類含有量表示の検証法……………………………………………… 371
フレキシタリアン(セミ・ベジタリアン)をターゲットにした大豆ビジネス…… 374
連載エッセー:食の遠近画法 チームプレー……………………………<五明紀春>… 376
特別解説:苦味感低減効果の定量的解析……………………………………<河合崇行>… 378
特別解説:生鮮野菜による食中毒を防ぐ……………………………………<染谷 孝>… 385
業界トピックス:ミネラルウォーター 震災契機に激変…………………………………… 392
技術用語解説:発泡インキ,発泡スチロール………………………………………………… 393
業界の話題………………………………………………………………………………………… 394
今月の統計………………………………………………………………………………………… 398
最近の技術雑誌から……………………………………………………………………………… 400
野菜・果物を巡って(第四十二話)黄色いさくらんぼと赤いさくらんぼ……<吉田企世子>… 405
缶詰技術研究会 http://kangiken.net/
想
随
材となるブナ
ヴルストラント
−ドイツは Wurstland−
さか
た
りょう
やカシなど落
葉広葉樹が豊
富である。ド
いち
イツを鉄道で
坂 田 亮 一
旅すると森林
(麻布大学獣医学部 教授)
地帯の中を列
車が走り,日
ソーセージといえばドイツ,ドイツといえば
本とは違う
ソーセージ,世界中のだれもが認める Wurstland
ゆったり感が
(ソーセージ王国),その起源を辿れば,古代エジ
いい。乾燥や
写真1 DLG ドイツ農業協会主催:
ハム・ソーセージ品質競技会
同 じ 審 査 チ ー ム の メ ン バ ー と(Erfurt,
Thüringem 州)
(カラー写真を HP に掲載 C035)
プト,メソポタミア,サラミの語源となった「サ
発酵は,南欧(スぺイン,イタリアなど)の食肉
ラミス」というエーゲ海の都市など,世界史上の
製品,例えば生ハム,チョリソーなどの製造を担
名称が浮かび上がる。いずれも BC3世紀の時代
う技術であり,保存方法として有効であるが,そ
であり,やがて古代ギリシャ,ローマにソーセー
れらの加工品では燻煙は行わない。燻煙を強く行
ジが伝わり,豚肉の加工技術も発展を続け,さら
うことはドイツの生ハムや生ソーセージでの製造
に十字軍の遠征によって,ヨーロッパにソーセー
工程に見られ,同じ欧州内でも,他国にはあまり
ジの文化が持ち込まれたという壮大な歴史が存在
見られない加工技術である。
する(食材図典Ⅱ,小学館,2001年)。
本場ドイツのハムやソーセージと,私たちが通
もう20年前に遡るがドイツ在住の機会があり,
常食べている製品との味の違いは一口食べて直ぐ
片っぱしからこの国のソーセージを食した。同時
に判断がつく。日本人にとって,ドイツ製品は見
に,この機にとアウトバーンを疾走しドイツに隣
た目,食感,塩漬風味など,これが本場だと感じ
接する全9カ国に入国,北欧(ノルウェー,ス
させる迫力と高級感を与えてくれるが,一般にそ
ウェーデン)やイタリアにも足を延ばし,それぞ
の味は塩辛い。まさにビールに合う味である。つ
れの国のソーセージを食べ比べた。だが,味も歯
まり,そのまま切って食べるものではない。ほと
ごたえもドイツに勝る国はなし,フランスもグル
んどの食事で Brot(ブロート,パンのこと)が
メを気取る食文化国であるが,ソーセージに関し
添えられ,塩味を中和する。塩辛い理由は,この
ては隣国に脱帽である。なぜドイツがソーセージ
国で寒く長い冬を乗り越える保存食として作られ
主要国となっているのか,実際ドイツ人はソー
てきた歴史の中にある。そのために秋口から豚を
セージが大好きな国民である。世界中に名を轟か
太らせ,冬を迎える前に自分たちで命を奪い,血
すミュンヘンのオクトーバーフェスト,この祭り
の一滴も無駄にすることなく利用し尽してきた。
に代表されるように,南ドイツでのソーセージ消
今は Hausschlachtung(ハウスシュラッハトゥン
費量は北ドイツを圧倒する(ドイツ食肉博物館で
グ,豚の自家と殺)はドイツの農家でもほとんど
の調査,2000年)。そのソーセージ文化は,ドイ
行っていない。理由は重労働とのことであるが,
ツという土地柄と自然環境によるものであろう。
各地方にある農業博物館へ晩秋に行けば,セレモ
農耕の歴史の中で,産子数が多く飼いやすい動
ニー的に見ることができる。
物,つまり経済効率が良い豚を食の糧としたのは
ヨーロッパにおける食肉加工品のほとんどは豚
当然のことだが,ドイツの冷涼な気候は養豚に向
肉を原料とする。牛肉は,例えばソーセージの赤
いている。その豚肉利用において,塩漬した後に
み付けや歯ごたえを高めるために使うこともある
燻煙をしっかり行うことが保存法として効率的で
が,牛=役畜,豚=加工という歴史の名残りか,
あったのだろう。実際ドイツには森が多く,燻煙
食肉加工品で牛の出番は少ない。現在も,豚から
食品と容器
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2012 VOL. 53 NO. 6
得られる肉塊は基本的にハムになり(ドイツでは
ある。基本的には豚赤
ベーコンもハムと同分類),肉片,血液,内臓,
身と脂肪を用い,これ
皮はソーセージとして余すところなく有効に使わ
を切り刻んで食塩と香
れる。その結果,ドイツでのソーセージのバリ
辛料を加え,袋に詰め
エーションは計り知れず,1,500種,否3,000種あ
る。乾燥と燻煙,ある
るとも言われているが,正しい数はドイツ人でも
いはいずれかの方法で
把握していない。
作る。サラミでは白カ
以下,ドイツソーセージの大分類を示す。
ビを用いて熟成させる
Brühwurst:ブリューヴルスト,わが国では
こともあり,特有のフ
フランクフルト,ウインナー,リオナーがこのグ
レーバーが醸成する。
ループの製品に近い。基本的に豚肉と脂肪を用い,
ドイツでの製品の多
製品によって牛肉を加え,氷,食塩,香辛料を混
さを支えるものとして,
合してカッティングし(細切・練上),ソーセー
マイスターという職人
ジエマルジョンという肉生地を作る。これに,粗
の免許制度の貢献も大
挽肉や肉塊を混合し,羊や豚の腸や人工ケーシン
きい。食肉マイスター
グに詰め,多くは燻煙する。ブリューの意味は熱
の他に,ブラウマイス
をかけるということで,製造工程の最後で加熱を
ター,製パンや製菓のマイスターなど,多くの手
行う。十分冷却した後,店頭にならび,大型ソー
工業にこの資格が存在し,匠の技を披露する。実
セージであればスライス,包装して量販店に出さ
際,肉屋には必ずマイスターが居て,早朝から
れる。通常は発色剤が使われるが,ミュンヘンの
ソーセージ作りで手腕を発揮する。近年大型スー
白ソーセージや,ゲルプヴルスト,通常生で売ら
パーでの量販で,町の肉屋の存続が危ぶまれてい
れるブラートヴルスト(グリルソーセージ)など
る。しかし,生き残れる店には腕が良くて経営の
発色剤を用いないものも,ブリューヴルストに分
才に優れたマイスター達が頑張り,この国の伝統と
類される。
食文化を継承している。時代は変わっても本物は永
Kochwurst:コッホヴルスト,直訳すれば加
遠である。
写真2 ドイツの農家での
豚の処理風景
写真提供者:松澤洲紘氏
(ぐるめくにひろ代表)
(カラー写真を HP に
掲載 C036)
熱ソーセージ。レバーソーセージやブラッドソー
セージなど,わが国ではクックドソーセージの名
称で JAS 規格でも分類されているが,実際の消
費量は少ない。ドイツでは Leberwurst など肝臓
や舌,血液といった畜産副産物をうまく使い,そ
の種類は実に多い。内臓ソーセージとも言われる
が,下ゆでした内臓と赤身肉に食塩,香辛料を利
かせて袋に詰め,もう一度ゆで上げて完成となる。
ブリューヴルストでも一般に加熱するが,特に
写真3 ソーセージの種類の多さ
コッホヴルストの場合,材料の殺菌,製品となっ
Häuser 食肉店の店頭で(Aschaffenburg, Bayern 州)
た後の保存性を考慮し,必ずきつい加熱を行うの
(カラー写真を HP で掲載 C037)
で,そのような名称になっている。
Rohwurst:ローヴルスト,生ソーセージを
紙面の都合上,今回紹介したソーセージはソー
意味する。乾燥によって水分をよく飛ばしたサラミだ
セージ王国ドイツでの一部の名称にすぎず,また
けでなく,メットヴルストなどペースト状にしてパン
機会を授かれば,ドイツでのハムや肉料理につい
に塗って食べるソーセージもドイツでは一般的で
ても随筆をと思う。
食品と容器
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シリーズ解説:糖質素材の機能と利用(第20回)
◆解説◆
L-アラビノース
し ば ぬ ま・き よ し
鹿児島大学連合大学院農学
研究科食品資源科学課博士
課程修了。鹿児島大学工学
部応用化学工学科研修生修
了。三和澱粉工業株式会社
嘱託研究員。三和澱粉工業
株式会社入社,現在,研究
開発部主任研究員。
博士(農学)
柴 沼 清
ノースはショ糖に似た良質な味質を持つ天然由来
◆ 1.はじめに ◆
ショ糖は良質な甘味を持ちかつ有効なエネル
の単糖だが,腸管の孔を通り難く小腸からの吸収
ギー源である事から,本物の甘味素材として重宝
されてきたが,近年のやや偏ったマイナスイメージと
酵素であるスクラーゼとの親和性が高く,結果
ショ糖の分解を阻害する働きがある6)。L-アラビ
低甘味志向から消費量はやや落ち着きを見せてい
ノースは,「血糖値が気になり始めた方」向けの
るが減少傾向にある。低カロリー志向とともに,
特定保健用食品の関与成分として認められている
日本の糖尿病およびその予備軍の増加は深刻 1)
で,医療関係者からのショ糖摂取に対する警鐘も
もののうち,現在唯一の甘味料である。
この L-アラビノースについて,近年様々な新
考慮すべき事柄だろう。糖尿病や血糖値の研究も
知見が得られている。つまり,食後の数時間後に
進み,食後に起こる極端な血糖値の上昇など,血
摂ったショ糖の血糖値を抑制するセカンドミール
糖値の日中の変動がメタボリック症候群による死
8)
効果7),
,糖尿病治療で注目のホルモンである
亡原因となる脳梗塞や虚血性心疾患のリスクファ
クターであると推定させる報告2)−5)も出てきて
インクレチン分泌への作用9),風味の異なるコー
ヒーに含まれる L-アラビノースの含有率10)であ
おり,この点でも急激な血糖上昇を引き起こしや
る。L-アラビノースの性質と利用について,こう
すいショ糖は適量の摂取が望ましい。ただし,甘
した新知見を加えながら,紹介する。
は極めて少ない 6)。一方,小腸膜のショ糖分解
こうそく
つな
味は生命の根源に繋がる味のひとつである事から,
脳の報酬系を刺激し,結果「つい」の摂りすぎの
◆ 2.L-アラビノースの起源
◆
危険が生じる。高甘味度甘味料などの代替甘味料
L-アラビノースは自然界では珍しいL体の糖だ
は,ショ糖摂取の忌避を背景に市場を広げている
が,植物の骨に相当するセルロースを補強するヘ
が,その一方,ショ糖の持つ味質やボディー感に
ミセルロースの構成糖としては比較的幅広く存在
報酬系の刺激を受けた消費者の中には,物足りな
している。ヘミセルロースは筐体そのものでない
さを感じる事もある様である。こうしたニーズに
対応するのが L-アラビノースである。
事から,比較的抽出がしやすく,例えばアラビア
ガム等のように樹液として抽出される事があり,
その成分にも L-アラビノースが含まれる。また
植物細胞壁の構成糖のひとつである L-アラビ
食品と容器
344
2012 VOL. 53 NO. 6
L-アラビノース
果実ではリンゴペクチンの成分となっている。特
に穀類のヘミセルロースに多く,D-キシロースの
剤)は拮抗型(競争型)である。
主鎖に側鎖として存在する。その割合は24~29%
糖)を分解する際,一時的に両者が複合する。次
である11)。その他,野菜類にも1~10%含まれ
いで,この複合体内で反応(例えばショ糖がブド
る(第1表)11)。
ウ糖と果糖に分解)し,反応後の生産物(例えば
こうした背景から,穀類等を主原料とする食品
の中には,加工中に一部遊離した L-アラビノースが
ブドウ糖と果糖)が酵素から離れる。このうち最
僅 かだが存在する。パン類で 6 ~16μg/g,ビー
の反応および/または生産物のリリースを阻害す
ルで18~42μg/mL,味噌 で260μg/g であり,ま
るのが不拮抗型である。拮抗型は基質との競争で
含まれ10)かつ,高
酵素と複合するので,基質量に対して阻害剤の
酵素(例えばスクラーゼ)が基質(例えばショ
初の酵素と基質の複合を阻害するのが拮抗型,後
わず
そ
た緑茶や紅茶にも17~48μg/g
級茶葉には多く含まれるとの報告12)もある。コー
量が多ければ多いほど阻害率は高くなる。また,
ヒーはインスタントのものは濃縮されるためか
多く含まれ,一杯で14 mg 弱の L-アラビノースを
いったん酵素-基質複合体ができれば阻害する事
摂っている10)事になる。後述するが,コーヒー
複合体に対して阻害するものであるから,酵素-
は缶のものであれ,レギュラーであれ風味の異な
基質複合体の形成自体は必要となる。従って,酵
るものには含量や含有率が異なっている10)。
素-基質複合体がある程度存在する状態,つまり
はできなくなる。一方,不拮抗型は酵素と基質の
阻害剤に対して基質量が比較的多い(逆に基質量
◆ 3.L-アラビノースの
生理学的性質 ◆
に対して阻害剤が少ない)条件で比較的有効に阻
害する。
3.
1)L-アラビノースのショ糖分解酵素(スク
3.
2)血糖値上昇抑制作用
L-ア ラ ビ ノ ー ス の 場 合, シ ョ 糖 に 対 し 3 ~
ラーゼ)阻害とその仕組み
L-アラビノースの主な作用は,小腸スクラーゼ
5%程度で小腸のスクラーゼを阻害する(第1
の阻害作用である。特徴的なのはその阻害機構で
7),13)
−15)。その結果,分解されなかったショ
図)6),
あり,不拮抗型(反競争型)と呼ばれる形式をと
糖は小腸からの吸収を免れ,結果ショ糖由来の血
る6)。一方,医薬などで用いられる阻害剤(αGI
糖値の上昇を抑制する。この効果は動物試験6),13),
きっ
第1表 野菜類等に含まれる L-アラビノース11)
割 合 (%)
食物繊維
(乾燥重量%)
セルロース
インゲン豆
19.5
4.6
7.3
赤キャベツ
32.5
12.0
カリフラワー
21.5
5.5
芽キャベツ
29.8
ライ麦粉
13.5
小麦粉
L-アラビノース
D-キシロース
ウロン酸
その他
2.2
3.2
2.2
6.4
1.7
7.8
4.6
4.3
1.2
5.7
4.6
8.6
7.1
1.3
6.5
6.3
1.4
3.6
5.7
0.2
2.6
9.4
1.6
2.7
3.7
0.2
1.2
小麦ふすま
41.4
8.2
9.9
17.7
1.2
4.4
小麦麦芽
17.9
3.1
5.1
6.8
0.7
2.2
6.0
1.7
1.2
1.7
0.4
1.0
大豆ブラン
74.4
39.4
5.7
9.4
10.2
9.7
えんどう豆
14.8
5.8
4.1
1.4
2.2
1.3
サツマイモ
8.1
3.3
0.7
3.0
2.0
1.8
スイートコーン
食品と容器
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2012 VOL. 53 NO. 6
シリーズ解説:糖質素材の機能と利用
ヒト試験 7),14),15)で幅広く観察されており,健
ると思われる。従って,幅広い被験者を対象と
常者でもⅡ型糖尿病者でも食後15~30分の血糖値
ピークを抑制する事(健常者で約50%,Ⅱ型糖尿
した曲線下面積の抑制率によって糖の吸収量の変
化を読み取る事は難しいが,L-アラビノースの対ショ
病者で約45%)14)から,食後高血糖がもたらすグ
糖3%の添加で,摂取後60分までで40% 14),15),
ルコーススパイクを緩和し,大血管障害のリスク
120分で23%7)の血糖曲線下面積の抑制が認めら
の低減が期待できる。
れた。また動物試験ではあるが,14Cでラベルし
3.
3)ショ糖の吸収抑制効果
たショ糖を投与したラットに対し,呼気 14 CO2 の回
収量を比較したところ,対ショ糖2% L-アラビノー
血糖曲線下面積は,インスリン分泌能および分
泌されたインスリンの能力に影響を受けやすい。
例えば健常な若年者等では多少の糖の吸収量の変
スを添加すると6時間までの 14 CO2 量が27%抑制
13)。こうした結果から,L-アラ
された(第2図)
化は,分泌されたインスリンが抑えこむため曲線
ビノースはショ糖に対して数%の添加でショ糖の
下面積としては余り変化を示さない。一方,中高
年の耐糖能異常者やインスリン抵抗性を持つ者は
25%程度の吸収を抑制する事が期待できる。
3.
4)L-アラビノースのセカンドミール効果
血糖曲線下面積が糖の吸収量を比較的よく反映す
近年,L-アラビノースの血糖値上昇抑制効果が
数時間にわたって持続する事が
䜨䝷䜽䝮䝷
⾉⢶ೋ
分 か っ て き た。 シ ョ 糖40g と
L-アラビノース2g(対ショ糖
5%)を摂取すると,ショ糖単
ᑊ↯䟺䜻䝫⢶50g䟻
独摂取より,血糖値の上昇が抑
制され120分間の血糖曲線下面
積も23%抑制された。120分後
A 4%
L-Ara4%
にいずれの被験者も摂取前の血
䟺䜻䝫⢶50g+L-Ara2g䟻
糖値まで戻った事を確認した
かん
後,市販の羊羹(ショ糖として
n=8, *p<0.05, **p<0.01
第1図 L -アラビノースによるヒトの血糖値上昇抑制効果14)
14
ᅂ཭⋙ ((%)
CO2 ᅂ
40
35
30
ᑊ↯䟺䜻䝫⢶ 2.5g/kg䟻
25
20
䜻䝫⢶2.5g/kg㻎
㻯㻐䜦䝭䝗䝒䞀䜽 50mg/kg
15
10
䜻䝫⢶2.5g/kg䟽
㻯㻐䜦䝭䝗䝒䞀䜽 250 mg/kg
5
0
40g)を投与すると再び血糖値
の上昇が抑制され120分間の血
糖曲線下面積も27%抑制され
た(第3図)7)。これは最初に
摂取した L-アラビノースの効
果が2時間後の食事に対しても
(ほとんどそのまま)残ってい
た事(セカンドミール効果)を
示唆する。L-アラビノースの阻
害はスクラーゼを完全に失活さ
せる事ではないので,L-アラビ
ノースが小腸スクラーゼ付近に
0
2
4
᫤㛣䟺᫤㛣䟻
8
6
第2図 L -アラビノース混合ショ糖摂取による呼気 1 4 CO2 回収率13)
食品と容器
346
2時間後も残存していた事が推
定された。透析膜を腸管に見立
てた in vitro 試験では,L-アラ
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L-アラビノース
ビノース単独ではほとんど膜から放出される4時
間後でも,ショ糖と共に入れると約20%の L-ア
吸収によって刺激され,K 細胞からは GIP(グル
ラビノースが膜内に残存した 7)。動物試験によ
細胞からは GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1 )
ると,L-アラビノースはショ糖と共に投与する方
と い う イ ン ク レ チ ン ホ ル モ ン が 分 泌 さ れ る16)。
が単独投与よりも緩やかに小腸を通過する事が
示された。小腸内に通過した積算量は L-アラビ
ラットにショ糖を経口投与すると GIP の分泌量
ノース単独では投与量とほぼ同量であったのに対
が増加した事から,ショ糖が腸管上部から吸収
し,ショ糖と共に投与した際は投与量の1.3倍と
された事が示唆された。一方,ショ糖と対ショ
なった。投与の30%に相当する小腸内滞
留が示唆された 8)。また,ショ糖も L-
コース依存性インスリン分泌促進ペプチド),L
が顕著に増加し,活性型 GLP−1 はわずかに分泌
⾉ ୕᪴ೋ 㻃䟺 mg
⾉⢶୕
g/dL䟻
100
アラビノースと共に投与すると2時間後
に30%残存していた13)事から,小腸内
には両者が極めて緩やかに流れていると
思われる。
こうした滞留は,その阻害機構によっ
て説明できる。L-アラビノースの阻害機
構が不拮抗型である事は既に述べたが,
80
60
40
*
20
0
-20
0
この機構では,阻害剤が複数の酵素-基
50
᫤㛣䟺ฦ䟻
質複合体の間を渡り歩く(複合と遊離を
繰り返す)事があるのではないかと考え
ている。そうすると十分な酵素-基質複
合体が存在している環境下で
は複合と遊離を繰り返しなが
ら緩やかに腸管を移動する事
(A)
100
150
n=21
n
21, *p<0
p 0.05
05
第3図 L -アラビノース混合ショ糖摂取2時間後に摂った
市販羊羹による血糖値上昇の抑制7) 䜻 ⢶ᦜཱི L㻐㻤㼕㼄ᦜཱི䛰䛝
䜻䝫⢶ᦜཱི
㻤 ᦜཱི䛰䛝
になる。
3.
5)インスリン分泌刺激
ホルモン(インクレ
チン)分泌への影響
L-アラビノースが酵素-基
質複合体に複合し,阻害しな
がら腸管を緩やかに流れてい
K⣵⬂
(B)
GIP
L⣵⬂
䜻䝫⢶䛮L㻐㻤㼕㼄ᦜཱི
K⣵⬂
GLP-1
くとすると,腸管の上部では
L-アラビノースが比較的密に
L⣵⬂
存在する事からショ糖の分解
GLP 1
GLP-1
が強く阻害され,腸管の下部
では分散する事から阻害が弱
くなる事が推察される。腸管
の上部には K 細胞が下部に
はL細胞が多く存在し,糖の
食品と容器
GIP : ⬙⫣䛴⵫✒ష⏕
GLP-1䠌୯ᯙ♼⤊䛭䛴㣏ḟᢒโష⏕䝿⫮ᤴἝ㐔ᘇష⏕
第4図 L -アラビノース添加によるショ糖の消化のイメージ
347
2012 VOL. 53 NO. 6
シリーズ解説:糖質素材の機能と利用
糖5% L-アラビノースを投与すると,GIP の分
フィズス菌29)が多く存在するため,結果として
泌量は増加せず,活性型 GLP−1 の分泌が顕著に
増加した事から,L-アラビノースが腸管上部での
優良菌を増やし,腸内環境を整える働きが期待で
ショ糖(ブドウ糖)の吸収をほぼ完全に抑え,腸管
増加し,短鎖脂肪酸等の有機酸が増加したとの報
下部から吸収される事が示唆された(第4図)9)。
告28),30)がある。
この結果は,先の仮説を補足するものである。
インクレチンおよび/または腸内細菌叢の作用
インクレチン(GIP,GLP−1 )は,インスリン
の分泌を促進するホルモンとして糖尿病治療に注
によって,脂質代謝の改善も予想される。ショ糖
と L-アラビノースの摂取によって,肝臓の脂質
目されており,その働きを補助する(インクレチン分
合成酵素活性の抑制,血中の中性脂肪の低減,内
解酵素の阻害剤および分解酵素耐性 GLP−1 )薬
臓脂肪の低減31),骨格筋繊維の変化,脂肪の燃
剤が治療薬として臨床で利用されている16)。そ
焼32)等が動物試験によって報告されている。今
の結果,GLP−1 や GIP の膵 外への作用も明らか
後のさらなる研究が期待される。
きる。ラットにおいても,ビフィズス菌が顕著に
すい
にされつつある。GLP−1 は中枢に働き摂食を抑
◆ 4.L-アラビノースの安全性
制する作用17)−19),血管内皮に働き虚血性心疾患
◆
を抑制する作用20)−23),肝臓でのインスリン抵抗
L-アラビノースは2に述べたとおり,様々な食
性を改善する作用24)等が報告されている。GIP
品中に微量含まれる事から食経験が長い素材だが,
は脂肪蓄積作用もあるといわれており25)−27),そ
特定保健用食品(の有効成分)として厚生労働省
の GIP の分泌を抑え,GLP−1 分泌を促すショ糖
+ L-アラビノースの摂取は,食べ過ぎの防止や
(平成12年12月当時)の許可を得るにあたり,動
物による急性および亜急性毒性試験,変異原性試
心筋梗塞のリスク低減に効果を示すかも知れない。
そう
3.
6)腸内細菌叢への影響とその他の効果
小腸で吸収されなかった L-アラビノースやショ
験,ヒト試験32),33)を行いその安全性が確認され
ている。ヒトにおける試験では L-アラビノース
として10gおよび15gの単回,3g/日2週間の
糖はどうなるであろうか。L-アラビノースはビ
反復投与での問診および生化学試験の結果,異常
フィズス菌の資化選択性28)があり,またショ糖
は認められていない33)。
L-アラビノースは難吸収性の糖質なので,大腸
には腸内細菌の資化選択性はないが回腸付近にビ
への急激な流出によって一
過 性 の 下 痢 を 引 き 起 こす。
䜳䜿䛒䛈䜑
3
䛝䛪䛙䛊
1
先のヒト試験でも,15g以
上 の 単 回 投 与 で 下 痢 や腹
䜄䜓䜊䛑䛭䛰䛊
痛,腹部膨満などの消化器
-1
䛈䛮࿝䛒ṟ䜑
-3
症状が強くなる傾向が得ら
れている33)。ただし,3.
5)
䛛䜕䜊䛑䛭䛰䛊
に述べた通り,ショ糖と共
に摂取すると,大腸への流
Ῠ䜅䛒䛈䜑
出がずっと緩やかになる8)
ๆ⃥䛒䛈䜑
ⱖ࿝䛒䛈䜑
䜻䝫 ⢶
ため,こうした症状は起こ
㻯㻐䜦䝭䝗䝒䞀䜽
り難くなるものと思われる。
第5図 L -アラビノースの味質のショ糖との比較35)
食品と容器
348
2012 VOL. 53 NO. 6
L-アラビノース
◆ 5.L-アラビノースの味と利用
に位置づけられる。
L-アラビノースを加えて焼き上がったクッキー
◆
L-アラビノースは甘味料であるが,ショ糖の
やマドレーヌは,大きな違いではないがショ糖単
60%の甘味度であり甘味曲線もショ糖に近い形
独より少しやわらかい食感を持つ様である。菓子
状を持つ34)。味質においてもショ糖と極めて近
に糖類をまぶしバーナーで焼いてキャラメル化
(キャラメリゼ)する際でも,L-アラビノースを
35)を持つ事から,ショ糖に3~
い形状(第5図)
5%加えても違和感を与える事はない。
一方,L-アラビノース単独の使用に関しては,
加える事で軽く柔らかいキャラメルが得られる事
興味深いデータが得られている。レギュラーコー
有効かも知れない。
ヒーには様々な風味があり,商品によってその風
現在販売されている,L-アラビノースの生理機
味の特徴(苦味,酸味等)を示すレーダー図等が
能を明示した商品は,「血糖値が気になる方のお
表示されている。異なった風味の特徴を持つレ
砂糖 アラビノシュガー」(日清オイリオグルー
プ㈱)(写真1)である。L-アラビノースの作用
ギュラーコーヒーに対して単糖の組成を分析し風
味との関連を調べたところ,L-アラビノースの含
等から,こうした食感を与えたい菓子への利用も
機序は明確であり有効なデータも得られやすいが,
特定保健用食品としてはアラビノシュガーの様な
有率と(コーヒー本来の)甘味との間に極めて高
い相関性が認められた10)。L-アラビノースはコー
テーブルシュガーの実績のみである。これは,血
糖値にかかわる特定保健用食品と L-アラビノー
ヒーに含まれる主要な単糖のひとつであり,最
も多い単糖成分である事も少なくない。L-アラビ
とら
スの甘味の相性が良くないと捉えられているから
ノースがコーヒーの風味に影響を与えている可能
と,「特定保健用食品の表示」よりも単純で分か
性があるのではないか。市販缶コーヒーでも「コ
うた
ク」を謳 った商品に L-アラビノース含有率が高
りやすい「カロリー表示」に傾いているためと推
いデータもある事から,L-アラビノースは,コー
ヒーの風味付けに適した甘味料として位置づけら
れないかと考えている。
コーヒー摂取には糖尿病のリスク低減の疫学調
査の報告36),37)が多数あるが,そのイメージは一
般にはなかなか定着していない様である。L-アラ
ビノースはコーヒーに本来含まれる成分であり,
かつ風味付けにも有効である可能性もある事から,
コーヒーとのコラボレーションで健康的なイメー
ジを一般の消費者に定着できればと期待している。
パンや菓子類でも低カロリー商品の開発が進め
られているが,発酵やボディー感の付与等にショ
糖の利用は欠かざるを得ない所がある。L-アラビ
ノース添加ショ糖は,ショ糖とほとんど同じ加工
処理で商品を生産できる利点があり,またその食
感も大きく変更する事はない。融点(155℃)以
写真1 特定保健用食品 アラビノシュガー
(日清オイリオグループ㈱)
(カラー写真をHPに掲載 C038)
上の加熱では着色が進むため,加熱時間等の調節
は必要になる等に留意すれば,作業性の高い素材
食品と容器
349
2012 VOL. 53 NO. 6
シリーズ解説:糖質素材の機能と利用
定される。特にショ糖を使用する食品は,菓子類
験があるのではないか。疲れた体,疲れた頭のブ
等,嗜好品が多く特定保健用食品にそぐわない事
ドウ糖摂取の要求は正当なものであり,否定すべ
も原因のひとつであろう。
きものではないと考える。ただ,「甘いものを摂
一方で,厳選素材という位置付けで L-アラビ
るのは良くない」という心理的なブレーキが,疲
ノースを採用する菓子類も増えてきている。こう
した商品を中心に,L-アラビノース入りを示すロ
労回復効果を弱めているとしたら残念である。お
菓子,あるいはお茶に L-アラビノースを加える
ゴマークを添付している(写真2)。これは選り
事で,心理的なブレーキを少しだけ弱める事がで
すぐった素材を使用しているメーカーの姿勢を,
きれば,同じだけの甘味を摂った時でも,より大
消費者により分かりやすくするためである。低カ
きな効果が得られると期待している。
L-アラビノースは甘味料だが,適量を加える限
し
ロリーと違った切り口,ニーズに応える商品への
お
利用が進んでいくものと思われる。
◆ 6.今後の展望
い
りお茶の美味しさを壊す事はない。また,高級茶
葉に L-アラビノースが多く含まれるとの報告12)
◆
もある事から,お茶本来の成分を加えるとも捉え
特に餡への利用が多い。また,血糖値やそれに付
る事ができる。甘味料としてではない日本茶や紅
茶への L-アラビノースの添加も検討されて良い
随する疾病のリスクを抱える中高齢者も和菓子を
ものと考えている。
好む傾向がある。和菓子は脂肪が少ないためカロ
甘味は生物の根源的な欲求である事から,欠か
リーは低いイメージだが,血糖値の観点では洋菓
子より注意を要する食品である。その意味で,和
せないものである一方,報酬系が強く働き「つ
い」摂りすぎてしまいがちである。L-アラビノー
菓子へより利用が進んでいく余地が大きいのでは
スはその安全弁として,有効に働く素材である。
ないか。
甘味には疲労回復の効果がある。お茶の一服と
車にエアバッグやシートベルトがある様に,ショ
糖 に L-ア ラ ビ ノ ー ス が 欠 か さ ざ る 存 在 と し て,
共に摂る甘味で,誰もがその有効性を実感した経
利用が広がる事を切に願っている。
菓子類でのショ糖の使用量でみると,和菓子,
あん
だれ
写真2 厳選素材アラビノのご使用例(左より五穀ロール,アラビノキャンディ,エアクッキー)
(カラー写真を HP に掲載 C039)
食品と容器
350
2012 VOL. 53 NO. 6
L-アラビノース
参 考 文 献
1)厚生労働省2007年国民栄養調査
2)The DECODE study group, Lancet, 354, 617−621
(1999)
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(1999)
4)T. Nagai et al., Diabetes Care, 19, 365−368(1996)
5)P. Mohanty et al, J Clin Endocrinol Metab, 85, 2970
−2973(2000)
6)K. Seri et al., Metabolism, 45(11),1368−1374(1996)
7)K. Shibanuma et al., Eur J Nutr, 50, 447−453(2011)
8)柴沼 清ほか,第64回日本栄養食糧学会(徳島)
9)柴沼 清ほか,第33回日本臨床栄養学会学術総会(東
京)
10)K. Shibanuma et al., 未発表
11)檜作 進,J Appl Glycosci, 46, 159−165(1999)
12)福崎栄一郎,生物工学,85, 488−491(2007)
13)讃井和子,栄食誌,50, 133−137(1997)
14)井上修二,栄食誌,53, 243−247(2000)
15)讃井和子ほか,健康・栄養食品研究 , 4, 13−18(2001)
16)表 孝徳ほか,月刊糖尿病別冊インクレチン,10−18,
医学出版(2010)
17)M. D. Turton et al., Natrure, 379, 69−72(1996)
18)M. Tang Christensen et al., Am J Physiol, 271, R 846
−856(1996)
19)M . Navarro et al., J Neurcochem, 67, 1982−1991
(1996)
20)L . A. Nikolaidis et al., Circulation, 110, 955−961
(2004)
21)L . A. Nikolaidis et al., Am J Physiol Heart Circ
Physiol, 289, H 2401−H 2408(2005)
22)I. B. Poornima et al., Circ Heart Fail, 1, 243−249
(2008)
23)G. G. Sokos et al., J Dard Fail, 12, 694−699(2006)
24)B. G. Svegliati et al., Liver Int, 31, 1285−1297(2011)
25)K. Miyawaki et al., Nat Med, 8, 738−742(2002)
26)C. Yamada et al., Biochem Biophys Res Commun,
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27)V.A. Gault et al., Diabetologia, 50, 1752−1762(2007)
28)岩田恵美子ほか,栄養学雑誌,65, 249−254(2007)
29)光岡知足,腸内フローラの生態と役割,1−29, 学会出
版センター(1990)
30)藤井 信ほか,J Appl Glycosci, 47, 355−361(2000)
31)S. Osaki, J Nutr, 131, 796−799(2001)
32)菊沢 歩ほか,栄食誌,58, 51−57(2005)
33)大木賢一ほか,健康・栄養食品研究,2, 1−7, 1999
34)大 江 厚 ほ か , J Nwe Rem & Clin, 51, 88
(276)
−92
(280)
(2002)
35)㈳菓子・食品新素材技術センター調べ
36)R. M. van Dam et al., Lancet, 360, 1477−1478(2002)
37)E. S. Martinez, Ann Intern Med, 140, 1−8(2004)
シンポジウムのご案内
日本包装学会 第58回シンポジウム
輸送包装の基礎と最新の技術動向
―輸送中に起こっていることを正しく理解し,包装の役割を考える―
◇日 時:平成24年6月15日(金)9:50 ~ 16:50
◇主 催:日本包装学会
◇協 賛:( 社 ) 日本包装技術協会
◇後 援:日本食品包装協会,軟包装衛生協議会,日
本接着学会,日本食品科学工学会,農産物流通技
術研究会
◇会 場:きゅりあん 6F 大会議室
東京都品川区東大井 5-18-1
(JR 大井町駅前)TEL 03−5479−4100
◇参加費:維持会員15,000円,企業に属する個人会員
10,000円,その他の個人会員および学校・公的機
関の会員5,000円,エキスパート会員2,000円,学
生2,000円,非会員18,000円
◇申込・問合せ先:日本包装学会「第58回シンポジウム」
係 〒169−0073 東京都新宿区百人町 1−20−3
バラードハイム703
食品と容器
351
TEL 03−5337−8717 FAX 03−5337−8718
◇定員,締切:100名,6月6日(水)先着順にて締切
◇内 容
・「海外で求められる輸送包装試験規格について」
エクサーチ LLC 高木 雅広氏
・「輸送環境から見る事故対応事例」
株式会社日通総合研究所 中嶋 理志氏
・「輸送包装科学のススメ」
神戸大学 斎藤 勝彦氏
・
「包装設計のための輸送環境調査における取り組み」
神栄テクノロジー株式会社 川口 和晃氏
・「段ボール箱の圧縮強度に関する最近の研究事例」
レンゴー株式会社 東山 哲氏
○シンポジウムの詳細については,ホームページをご
覧下さい。(http://www.spstj.jp/)
2012 VOL. 53 NO. 6
シリーズ解説:米の話(第21回)
●解説●
米の加工利用(10)米を利用した医薬品
タンパク質生産および次世代ワクチン開発研究
く ろ だ ・ ま さ は る
東京大学大学院農学生命科学
研究科博士課程修了。農林水
産省入省(農林水産技官)・
北陸農業試験場配属。現在,
独立行政法人農業・食品産業
技術総合研究機構,中央農業
総合研究センター作物開発研
究領域に所属,主任研究員。
博士(農学)
● はじめに
黒 田 昌 治
を生産するための遺伝子を導入して,新しい成分
●
を含む農作物を創出するという作戦である。「遺
「農業」というと,多くの方は「食糧を生産す
伝子組み換え」という言葉には,良いイメージを
る産業」のようにお考えではないかと思う。もち
持たれない方もいるかもしれない。しかし,この
ろん,それは農業が担ってきた重要な役割であり,
技術がなければ現代社会が崩壊してしまうほどに,
今後も変わることはありえない。しかし,農業を
今や医薬品製造現場で多用されていることは,意
少し異なる角度から見ると,そのままでは食べら
外に知られていない事実なのである。
れない環境中の元素を原材料として,太陽エネル
遺伝子は生命の設計図に例えられることが多い
ギーおよび農作物という装置を利用して効率良く
が,その設計図の情報を読み取って最初に作られ
食糧に変換する産業,と言い換えることができる。
るのはタンパク質である。この仕組みは地球上の
この考え方をさらに発展させ,農作物を活用した
すべての生物で共通しており,それ故に遺伝子組
省エネルギー・環境調和型の有用物質生産システ
み換えという技術が成立する。つまり,別の生物
ムの構築をめざす構想は,分子農業(Molecular
の遺伝子を移しかえたとしても,あたかも自分の
Farming)という言葉で表される。このような農
ものであるかのように,そこから情報を読み取り
作物を活用した新しい産業形態の確立をめざす研
タンパク質を作り出せるのである。
究は,全世界で急速に進められている 1)。今回
様々なタンパク質がある中で,薬理作用や治療
はそれらの取り組みの中で,医薬用途を目的とし
効果を持つものは医薬品として利用できる。例え
た米の開発研究を中心に,筆者の事例も交えつつ
ば,ヒトの体内で分泌されているホルモンなどが
概説する。
これに相当する。かつては,それを天然物から抽
出するしか方法がなかったため,治療に使う必要
● 1.キーテクノロジーとしての
遺伝子組み換え技術 ●
量を確保するのは大変な労力を伴うのが常であっ
た。
上記のような分子農業を考える際に重要なのは,
ヒトの体内で血糖値を調節する働きをするイン
遺伝子組み換え技術である。すなわち,有用物質
スリンは,糖尿病患者向けに最初に実用化された
食品と容器
352
2012 VOL. 53 NO. 6
米を利用した医薬品タンパク質生産および次世代ワクチン開発研究
遺伝子組み換え医薬品である 2)。ヒトの遺伝子
考慮すると,大腸菌や動物細胞の代わりに植物を
を組み込んだ大腸菌によって製造することで大量
利用するアイデアが出てくる。
生産が可能となり,薬価が劇的に下がって一般社
具体的に植物を用いる利点をあげてみよう。①
会に普及することになった。この成功例を端緒と
植物は高等生物に分類されるので,抗体のような
して,多くの医薬品タンパク質は,遺伝子組み換
複雑な構造を持つタンパク質の生産にも対応でき
え技術を用いて生産されるようになってきている。
る能力がある。②植物には(表面などを除き)ヒ
この間,利用される遺伝子組み換え生物も,大腸
トに対する病原体が含まれないと考えられ,安全
菌以外にいろいろ開発されてきた。例えば,病原
確保という点で好ましい。③太陽エネルギーとミ
菌を撃退する免疫力の発揮に不可欠である抗体も
ネラル類だけで製造できるので,原材料・エネ
タンパク質であるが,その構造は非常に複雑であ
ルギーコストが低く,自然循環系にもよく調和する。
り,大腸菌のような下等生物では生産できないこ
④植物の中でも農作物を利用する場合は,既に確
とが分かった。しかし,現在は動物細胞を専用施
立した農業生産システムを適用して栽培面積を容
設で培養することで製造できるようになっている3)。
易に拡大できるため,大腸菌や動物細胞では不可
この他に,酵母,カビ,あるいは昆虫等の遺伝子
能な超大規模製造にも対応できる。もちろん遺伝
組み換え動物も,医薬品タンパク質の生産に使用
子組み換え植物を使用するので,野外で栽培する
される場合がある。
場合は周辺生物との交雑に十分注意する必要はあ
このようにして製造されたタンパク質は組み換
るが,従来のものにはないメリットを持つ生産方
えタンパク質(recombinant protein)と呼ばれ,
法として,実用化の期待は大きい。大腸菌の生産
天然から精製してきたものとは区別して扱われる
体系が確立しているはずのインスリンですら,植
が,もちろんその活性は天然物と同等になるよう
物を使用した生産体系の研究が進められ,そこか
に生産されている。製薬会社の HP で製品一覧を
ら調整された組み換えインスリンの臨床試験が実
見ると,「遺伝子組み換え」等の表示がされてい
施されているくらいである4)。
る医薬品が散見されるので,確認されてみてはい
植物のどの部分を使ってタンパク質を生産する
かがだろうか。
かは,用途に応じていろいろな生産系が比較検討
されているところであるが,その中で種子を用い
● 2.植物を利用した組み換え
タンパク質生産 ●
る系は有力である。収穫までに時間がかかるとい
う欠点があるものの,種子は元々栄養を貯蔵する
大腸菌や動物細胞を用いた組み換えタンパク質
部分なので高い生産量が期待できること,また常
生産システムは確立された技術であるが,いくつ
温でも長期に保存できるので需給調整がしやすい,
かの欠点が指摘されている。例えば,鳥インフル
といった利点はそれを補って余りあるからである。
エンザや BSE といった人畜共通感染症の流行も
では,どの作物の種子を分子農業に使うのがよい
あり,動物細胞で製造した医薬品に病原体が混入
だろうか?
しないように,安全確保をどうするかがより大き
● 3.米の特徴と分子農業分野に
おける有用性 ●
な課題となってきた。また,動物細胞の培養には
専用設備,血清等の稀少で高価な薬品類,熟練し
た人員,そしてエネルギーの大量消費が要求され
イネ種子すなわち「米」は,いわずと知れた主
る。資源エネルギー事情が今後好転するとは考え
要穀物の1つであり,全世界で5億トンを超える
にくいため,より省資源・省エネルギーな代替技
生産量がある。米の主な成分としては,70%以上
術の開発は必須と考えられる。このような状況を
がデンプン,6〜10%がタンパク質,その他に脂
食品と容器
353
2012 VOL. 53 NO. 6
シリーズ解説:米の話
質やミネラル類などである。このうちデンプンや
日本国内の研究グループばかりでなく,欧米のベ
脂質(米ぬか油など)は,様々な加工食品の原料
ンチャー企業なども参入し,米を用いた分子農業
として広く利用されており,さらに今後はバイオ
の開発競争が激化して来ている。
プラスチックやバイオ燃料の原料として用いられ
● 4.医薬品製造米の開発研究 ●
る可能性も考えられる。一方で米タンパク質は,
大豆タンパク質や小麦タンパク質とは性質が異な
日本国内では,農業生物資源研究所・高岩らの
り,栄養価は比較的高いものの加工特性への寄与
研究グループが最も精力的に取り組んでいる5)−7)。
がない。日本においては,米飯・米菓・酒造いず
最近,同グループと共同研究していたベンチャー
れの利用場面でも,タンパク質含有量の低い方が
企業 Preventec 社から,米で生産されたヒトイン
好ましいとされている。つまり,米タンパク質は
ターロイキン10(炎症を抑える作用がある)を含
全く活用されていない資源であり,これを高利用
む美容液が発売されたとの報道があった(http://
価値の成分(例えば医薬品タンパク質)に置き換
www.preventec-inc.com/)。ただし,これは医薬
えられたなら,一石二鳥の効果が期待できるので
品ではないため,米を用いて生産された医薬品の
ある(第1図)。
実用化はまだ達成されていないことになる。
さらにイネの場合には,高い生産性,機械化を
アメリカのベンチャー企業 Ventria Bioscience
含む確立した栽培体系の存在,長年の育種により
社では,屋外圃場で収穫された遺伝子組み換え米
様々な品種が利用できること,すべての遺伝子が
からヒトラクトフェリン(感染予防効果を持つタ
解読されていること,他の作物より遺伝子組み換
ンパク質)あるいはリゾチーム(溶菌酵素)を抽
えが容易に行えること,自殖性(自分の花粉がめ
出精製し,非医薬用途の試薬として販売している。
しべについても種が実る性質)で野外生物との交
さらに,ヒトラクトフェリン発現米から調整した
雑リスクが少ないこと,といったいくつもの有望
治療食を,下痢を起こしたボランティア患者に投
な特徴を併せ持っている。このような背景から,
与する試験を行い,有効性を確認した(http://
࢕ࢾ
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⡷ࢰࣤࣂࢠ㈹ࡡฺ⏕౮ೋࢅ㧏ࡴࡾࡆ࡛࠿㔔こ࡝┘ᵾ
第1図 作物としてのイネ・米の特徴
食品と容器
354
2012 VOL. 53 NO. 6
米を利用した医薬品タンパク質生産および次世代ワクチン開発研究
www.ventria.com/ および文献 8))。中国の研究
めるかが重要である。小腸粘膜上には免疫にかか
グループは,米を用いてヒト血清アルブミンの大
わるパイエル板という組織があり,その中のM
量生産に成功したと報告した 9)。いずれも医薬
細胞が病原体を取り込むことがきっかけとなっ
品としてはまだ登録に至っていないが,開発状況
て,防御用の特異的抗体(免疫グロブリン,Ig)
では海外のほうが日本より進んでいる。
が作られる。それであるなら,病原体タンパク質
これらの例を含め,医薬品を植物で生産した後
の一部を抗原(=抗体が認識するためのワクチン
は,それを抽出して純粋になるまで精製して用い
成分)として含む米を食べれば,小腸内で取り込
るのが一般的である。この過程は,混入物を排除
まれることで抗原を認識する防御用抗体が作られ,
して副作用のリスクを極小に抑えるために必要で
病原体感染を予防できるのではないかとの仮説が
はあるが,時間・設備・コスト的に薬価を押し上
成り立つ。既存の生ワクチンのような病原体自体
げる大きな要因となる。このような問題を解決す
を疑似感染させる場合と比較しても,この方法は
る方法の1つとして,医薬品タンパク質が含まれ
安全性に優れている。
る植物を直接口から摂取する「食べるワクチン
東京大学医化学研究所の清野・幸らの研究グ
ループは,コレラ毒素タンパク質の一部(もちろ
(Edible Vaccine)」が構想された。
ん無毒である部分)を抗原として発現させた遺伝
● 5.米ワクチンの開発研究 ●
子組み換え米を動物に投与する実験を行い,コ
病原体の感染は,小腸などの消化管や肺などの
レラ菌による下痢症状を予防できる可能性を示
表面粘膜組織で起こることが多い。よって,感染
した10)−12)。米にワクチン成分を発現させること
症を予防するには,粘膜組織の防御力をいかに高
は,ワクチン成分そのものを経口投与するよりも
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第2図 米ワクチン(経口粘膜ワクチン)の概念とそれを特徴づけるキーワード(*)
食品と容器
355
2012 VOL. 53 NO. 6
シリーズ解説:米の話
消化酵素による分解を受けにくくなるため,より
能性が低く,口に入れることに抵抗を感じにくい。
効率的に小腸に届くという効果が期待できる。ま
また,注射薬のように痛みを伴わず,特殊機材・
た,複数の抗原を導入しておけば,同時に複数の
技能者は必要なく,医療廃棄物に由来する諸問題
感染症の予防効果が期待できる。さらに,粘膜を
も生じない。さらに,常温で長期にわたって保存
介した免疫誘導においては,血液中の抗体(IgG)
できるため,特殊な輸送・貯蔵用設備も必要ない。
と粘膜に分泌される抗体(IgA)の2種類が生産
このような特徴の相乗効果により,製造から使用
されるので,より防御効果が高くなる(第2図)。
までの一連のコストを低く抑えることができるた
同グループは,ヒトへの投与試験の実施を目指し
め,特にインフラ整備が不十分である発展途上国
ているという。
での利用に大きな期待がかけられている。
消化管の免疫系を活用する米ワクチンには,別
● 6.米における効率的なタンパク質
●
生産を可能とする基盤技術
の利用形態も考えられる。高岩らは,上記のよう
な防御免疫誘導作用とは逆に,食品として摂取す
るものには免疫反応が起きにくい(経口免疫寛
米に医薬品タンパク質を作らせる場合,単位重
容)という現象に注目した。スギ花粉症の原因と
量あたりの生産量をどこまで高められるかという
なるタンパク質の一部を発現させた遺伝子組み換
点が,製造コストひいては社会への普及に重要な
え米を動物に投与することにより,花粉症の症状
ポイントとなる。筆者もその問題について大きな
を緩和できる可能性を報告している13)14)。
興味を持ち,本シリーズ第3回の著者である京都
以上のような米を用いる経口粘膜ワクチンは,
府立大学・増村らの研究グループと共同研究を進
免疫誘導・調整効果以外にも様々なメリットがあ
めた。その途上で,米に含まれるプロラミンとい
る。元々食品であるので,毒性物質が含まれる可
う貯蔵タンパク質の発現抑制を行うことが,組み
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第3図 米を利用した有用物質生産システムの概念
食品と容器
356
2012 VOL. 53 NO. 6
米を利用した医薬品タンパク質生産および次世代ワクチン開発研究
換えタンパク質の効率的生産を達成する鍵である
必要があるため,早期の実用化は難しいかもしれ
ことを見いだした。すなわち,医薬品タンパク質
ない。また,同じく製品規格に関連した問題で,
製造用の米を作り出すには,目的となる医薬品タ
医薬品製造用イネは閉鎖型温室で水耕栽培により
ンパク質を発現させる人工遺伝子とともに,プロ
生産することが構想されており12),野外での大
ラミンを筆頭に米に元々大量に含まれている貯蔵
規模生産に至るのはさらに先になると思われる。
タンパク質の生産を抑制する人工遺伝子を導入す
しかし,次世代型ワクチンの1つとして,米ワク
ることが重要であるということである(第3図)。
チンが有望であることに変わりはなく,一歩一歩
本概念の一部は3カ国で特許登録に至り15),そ
実績を積んでいくことが重要と考えている。
れに必要な導入遺伝子の具体的構造を論文として
原発事故の発生や,地下資源の価格高騰・将来
報告した16)。この方法によりヒト成長ホルモン
的な枯渇により,今後のエネルギー確保および資
を米で発現させることにも成功したが17),生産
源輸入は困難になっていくのが確実である。よっ
量はまだ十分ではなかった。よって,現在も生産
て,自然エネルギーを最大限活用する物質生産シ
量を一層高める改良をするべく共同研究を継続し
ステムの確立は,日本が今後世界に伍していくた
ている。本話題については,以前に著した総説も
めに必須の技術といっても過言ではなく,分子農
参照していただけると幸いである18)。
業はその一翼を担うべきものである。米ワクチン
等の医薬品製造米が成功したあかつきには,従来
● 7.今後の課題 ●
の「農作物」という概念を大きく超え,食糧・医
以上のように,米を利用した医薬品製造の開発
薬品・工業原料の役割を兼ね備えた「資源作物と
研究を概説させていただいた。まだ米で生産され
してのイネ・米」が創出されることになる(第3
た医薬品は発売されていないが,抽出精製して使
図)。そうなれば,地下資源には恵まれていない
用する医薬品については,近い将来に第1号が登
日本であっても,恵まれた自然条件を資源に変換
場すると予想される。一方,従来の医薬品とは全
することができる。この技術の一日も早い実現を
く異なる発想に基づく米ワクチンについては,製
目指して,今後も開発努力を継続するつもりであ
造法や品質管理などの製品規格を新たに制定する
る。
参 考 文 献
1)Faye L et al. : Plant Biotechnol. J., 8(special issue),
525−654(2010)
10986−10991(2007)
2)Chan SJ et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 5401
11)幸義和ほか:農業および園芸 , 84, 46−49(2009)
−5404(1981)
12)幸義和:ワクチンの市場動向と開発・製造実務集,情
3)大政健史:化学と生物,48,255−262(2010)
報技術協会,348−360(2012)
4)Boothe J t al. : Plant Biotechnol. J., 8, 588−606
(2010)
5)高岩文雄ほか:育種学研究 , 4, 33−42(2002)
13)Takagi H. et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102,
17525−17530(2005)
6)高岩文雄:農林水産技術研究ジャーナル,31, 28−32
14)高岩文雄:農業および園芸,82, 653−659(2007)
(2008)
15)K uroda M : Patent AU2003289283, US7728191,
7)Fujiwara Y et al.: Protein Express. Purif., 72, 125−
JP4644777
16)Kuroda M et al. : Biosci. Biotechnol. Biochem., 74,
130(2010)
8)Zavaleta N et al.: J. Pediatr. Gastroenterol. Nutr.,
2348−2351(2010)
17)Shigemitsu T et al. : Plant Cell Rep., 31, 539−549
44, 258−264(2007)
9)Yang H et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108,
(2012)
18)黒田昌治:農業および園芸,80, 239−244(2005)
19078−19083(2011)
食品と容器
10)Nochi T et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104,
357
2012 VOL. 53 NO. 6
風水樹花徒然記 ☆ 3
なかったように,西日本にも落葉樹がある。とく
四季を生む植物
コナラなど大半が落葉広葉樹からなる。このよう
おお
ば
ひで
に伐採後しばらくして再生してくる林は,クリや
な成長途上の落葉樹林や土壌が薄かったり栄養分
あき
に乏しい立地の落葉樹林も東西区分の物差しから
大 場 秀 章
は除外しなくてはならず,簡単ではないとお叱り
(東京大学名誉教授)
を受けそうだ。
今年(2012年),東京近郊での木々の芽吹きは
☆育んできた文化も異なる?☆
遅れた。芽吹きがこんなに待ち遠しく感じたのは
久しぶりだった。だがそれも束の間,開いた芽は
照葉樹林は照葉樹が主体の森林をいい,遠くヒ
すこぶる順調に成長し,今ではすでに若葉の季節
マラヤ東部から中国南部を経て日本にいたる地域
に突入している。
にみられる。照葉樹林が卓越する地域には国の枠
を超えて農耕などに固有の文化があると考えられ,
☆森からみた日本の東西☆
照葉樹林文化という言葉も提唱された。
国土の狭い日本だが,多くで国土を東と西とに
東日本の落葉樹林をつくる木々は寒い冬に葉を
2分しての比較が試みられている。その境界は決
落とす夏緑樹で,落葉樹といっても乾季に落葉す
まっているわけではなく,対象によって少しずつ
る雨緑樹からは区別され,夏緑林と呼ばれる。日
異なるようだ。国土の大半が森林に被われる森の
本の夏緑林を代表する樹種がブナそしてミズナラ
国の日本を森の様相で東西に区分するのはどうだ
であり,多くの場所でシナノキやカエデの仲間な
ろう。
どの樹種も共存する(写真1)。
森の様相といっても色々だが,森を構成する主
要木が常緑樹か落葉樹かで区分するのはどうだろ
う。この区分は誰でも簡単に直接目で確かめるこ
とができる利点もある。
西日本は,一年中青々とした樹冠をもつ常緑樹
林が卓越する地域,それにたいして東日本は冬に
落葉する樹林が卓越する地域とするのである。概
ね本州の関東地方北部と長野県,新潟県以北,そ
れに北海道全土がここでいう東日本に当たるだろう。
東日本にも常緑の木がまったくないわけではな
い。とくに北海道では随所で平地にも常緑の針葉
写真1 夏緑林の景観
林内には多数の低木や草本が生え,その相貌は四季を通じ激
変するなど変化に富む。新潟県南魚沼郡湯沢町。2005年。
樹林があり,悩ましい。そこでこの東西区分では
針葉樹林は考慮外としたい。
西日本の常緑樹林を構成する主要な樹種はアラ
冬に落葉する夏緑林はヨーロッパ中部や北アメ
カシやウラジロガシなどのカシ(樫),スダジイ
リカ合衆国東海岸地域など世界の冷温帯に広がる。
とツブラジイと呼ぶシイ(椎),タブやアオガシ,
北半球の冷温帯の夏緑林の主要樹種は日本のブナ
モチノキなどである。いずれも葉は厚ぼったく表
やミズナラに代表されるように,いずれもブナ科
面には油を垂らしたような光沢があり,強い日差
という系統群に属する。種を超えた共通性があり,
しを照り返すことから,照葉樹という呼び方も広
照葉樹林文化に対比しうる独自の文化,ナラ林文
く行われる。
化を共有すると考える立場もある。林床や林縁に
落葉樹が卓越する東日本にも常緑樹が皆無では
生える草本も含めれば森林はかつての人類の生活
食品と容器
358
2012 VOL. 53 NO. 6
の場であり,その森の様相やその構成種が生活に
よいくらいだった。
影響を及ぼしたことは否定できないだろう。
照葉樹林域に暮らす人々も森に依存した暮らし
森の様相を異にする地域に移住することは無論
をしていたが,季節変化が乏しいためか木の実採
だが,一寸でもそこから外に出ていくことでさえ,
取にしても多くのものが一斉に結実したり落下す
古代にあってはかなりの冒険だったのではなかっ
ることはなく,採取は容易ではない。
たかと,私は時折思うことがある。そうした気分
縄文時代,東日本には三内丸山遺跡のような大
は未だ消えることなく,私たちの心に名残をとど
規模な集落が形成され,定住し,そこで安定した
めているのではないだろうか。すなわち,日常暮
暮らしが維持できたのは,落葉樹林に季節性があ
らす場所とは様相を異にする森や植生をもつ地域
り,効率よく資源が採取できたからでもある。
に出かけることが,旅であり物見遊山の原点だっ
☆花が拓く共生への道☆
たのではないのだろうか(写真2)。
花粉の雌蕊への媒介を風や水などの自然の力に
依存する花には目立つ花びら(花冠)など要らな
いし,実際ない。
目立つ花をもつ植物は昆虫や小鳥などに花粉の
移送を依存する植物である。こうした花粉媒介を
助ける動物のために植物は花粉そのものはもちろ
ん,蜜なども分泌し,動物を花に誘う。
それだけではなく,花が動物の目につきやすい
ように鮮やかな色彩をもつことや,媒介を依存す
る動物が花から蜜を吸いやすいように,花のかた
写真2 照葉樹林の景観
ちや姿勢,位置まで整えている。さらに色での識
夏緑林もそうだが,とくに照葉樹林域は古くから伐採と土地
の開発改変が進み,多くの森林が姿を消し,断片的に残って
いる地域がほとんどだ。奈良県天理市。2008年。
別がむずかしい夜に活動するガ(蛾)などの訪花
動物を誘引するために,花は芳醇な甘い香りを放
ち,夜行性の動物を誘いもする。
☆森の四季☆
昼間暑くて人間も活動が低下する熱帯圏ではと
日本の大半が属する温帯を特徴づけているのは
くに夜間活動する動物が多い。花粉を媒介する重
四季が明瞭に区分されることである。とくに春と
要な送粉昆虫であるハエやハチも温帯に較べはる
秋は植物の開花と結実と,それに影響される動物
かに少ない。一方もっぱら夜間に活動するガの仲
たちの活発な活動が集中する季節である。
間は熱帯圏に多産する。花粉の媒介をガに依存す
森での季節変化がとくに明瞭なのが夏緑林であ
る植物も相当数にのぼる。昆虫は口吻で蜜を吸う
る。春の開葉,春から初夏にかけての開花,晩秋
が,ガの口吻は長く,熱帯の夜咲きの花の多くが
の結実と落葉がそれである。自然に密着して暮ら
長い管状の花をもつのはガの吸蜜が関係している。
していた時代,人間も森の四季に従属した暮らし
ガは濃厚な香りに誘われ花に飛来し,吸蜜するの
をしていた,というよりも強いられていたといっ
だ。熱帯の夜が咽返るほどの芳香に包まれるのは
た方がよい。
このためだ。因みにガが花粉を媒介する花は少数
昭和前期でさえ,秋は堆肥づくりのための落ち
だが日本にもある。カラスウリやマツヨイグサが
葉掻き,保存食にもなるクリ,ドングリ,トチノ
そうで,いずれも花は夕方から夜にかけて咲く。
キ,サルナシ,アケビなどの木の実採取,キノコ
そこまでしなくてもと思われるかもしれないが,
採取,薪炭用の用材採取,春から初夏は山菜採取,
30億年以上も絶えることなく生命を維持しえた原
というように一年は森とともにある,といっても
動力は種属維持のための飽くなき挑戦なのだ。花
食品と容器
359
2012 VOL. 53 NO. 6
を訪れる小さなハナバチやハエの存在さえも植物
ンギクやリンドウのような青花やアキノキリンソ
とともに辿った進化の賜物といってよい。海につ
ウなどの黄色の花へと再び変わっていく。
ながる陸,そこに個別に上陸した植物と動物は次
こうした花色は,花の背後を彩る森や草むらの
第に共生関係を強めつつあるのだ。
色変化のなかでもっとも目立つ色なのではないだ
ろうか。
☆葉の色は移りにける☆
小野小町の,古今集に載る,「花の色はうつり
にけりな いたづらに わが身世にふる ながめ
せしまに」は,むなしく色あせてしまった花を人
生のはかなさや衰退に重ねいつくしむ名歌として
知られている。事実,ひとつひとつの花は開花し,
やがては散る運命にある。そもそも花は人目を楽
しませてくれるためにあるわけではない。開花時
に受粉に成功すればやがて結実の時期を迎え,次
写真4 ヤマボウシ(ミズキ科)
世代を担う種子を親元から離れた場所へと散布す
北アメリカ東部から移入されたハナミズキに対応する日本自
生の落葉高木。神奈川県箱根地方に多いことからハコネミズ
キの名もある。白く花びら様にみえるのは花群の基部にある
苞葉である。群馬県野反湖周辺。2011年。
べく新たな戦略を進めるのだ。
ヤマブキやサンシュユの黄色の花が目立つのは
まだ落葉樹の葉が展開してすぐの頃だ。公園でも
レンギョウ,路傍や林床ににもタンポポやキケマ
もちろん異端児もいる。白い花で埋まる初夏に
ン,キンポウゲがある。それにサクラの仲間など
も橙赤色の花を開くヤマツツジや淡紅色の花のア
の紅紫色の花が加わる。それが葉が十分に開いた
ズマシャクナゲなどもあるのだ。林の外では青紫
今では白や淡い青色をした花が他を圧して目立つ
色のギボウシや黄花のキスゲなどがこれに加わる。
ようになる。山路のウツギ,ヤマアジサイ,道端
花色の季節による色分けなど土台無理なのではと
のノイバラ,ドクダミ,森のヤマボウシやヤブデ
いう声も聞こえそうだが,傾向として季節毎の色
マリ,ガマズミ,カマツカなど枚挙にいとまがな
の変化はあるといってよい,と私はみている。
い。晩春から初夏はまさに白花の季節といってよ
花色もそうだが,植物はもろもろの点で常に多
い(写真3,4)。
様性を増大させている。それこそ複雑化する自然
秋咲きの樹木は少ないが,林床や草地ではノコ
への適応の証しといってよい,と思うのだがいか
がなものだろうか(写真5)。
写真3 ノイバラ(バラ科)
写真5 レンゲツツジ(ツツジ科)
日本に自生するつるバラの1種で,各地に普通に生える。茎
や枝には刺があり,山路を歩く際や農耕の邪魔になるが,初
夏には純白の花が円錐状に多数ついた花序を出し,人目をひ
く。現代の園芸バラの重要な原種のひとつでもある。岡山県
玉島市。2011年。
食品と容器
初夏に咲く低木で,湿生の草原などに多い。白花が優勢な初
夏にあって橙赤色のレンゲツツジの花は異色の存在である。
ツツジの仲間の低木には初夏に開花する種が多いが,白花は
少ない。群馬県野反湖畔。2011年。
360
2012 VOL. 53 NO. 6
●
海外技術情報●
最近の茶系飲料のトレンド
( Reading between the Leaves )
Beverage Industry(U. S. A.)p. 43( ’
11・12 )文献 № 5743
米国紅茶協会によると,ホット,コールド,ボ
とラベル表示をすることができると同社の T.
トル入り,ティーバッグなどの茶は,ウォーター
Moore 氏は言う。
についでもっとも広く飲まれている飲料である。
多彩な選択枝
アメリカの家庭の80%で飲用され,1億5,400万
米国紅茶協会によ
人のアメリカ人によって毎日飲用されている。
ると2010年,アメリ
2010年, 茶 分 野 の 内 RTD(ready-to-drink)
カで消費されている
茶が80%以上を占め,2006年から6%増加した。
茶の約80%は紅茶で
さらに,RTD 茶は2011年には10%増加し,2015
あり,緑茶が19%と
年には販売額が60億ドルに達すると予測されてい
続き,ウーロン
る。
茶と白茶が残り
「Honest Tea や Sweet Leaf の よ う な RTD ブ
のシェアを占め
ランドは茶葉から直接抽出しているが,飲料メー
る。
カーは通常,RTD 茶を製造するために液体また
今日,緑茶は
は粉末の茶抽出物を使用している。茶抽出物を用
他の茶より健康
いるほうが,作業が容易でクリーンかつシンプル
に良いと考えら
だからである。もし,毎年同じ畑で栽培される同
れており,多く
じ素性の茶葉を購入しても,季節や天候のために
の科学的データ
異なったものになるであろう。茶葉は季節ごとに
がこれを裏付け
変化する自然の物質である」と茶抽出物を販売す
ている。消費量から見れば,紅茶がもっとも一般
る Martin Bauer 社の G. Vorsheim 氏は言う。
的 な 茶 で あ る が, 成 長 分 析 か ら 見 れ ば 緑 茶 が
一方で、茶抽出物は工業的に大量に作られ,そ
No. 1と信じられている。北アメリカではマテ茶
の抽出工程は茶葉を熱水で抽出することから始ま
(yerba mate)と組み合わせた緑茶が,最近非常
るが,似ているのはそこまでである。抽出物を用
に人気のある製品になった。マテ茶は開発者に
いると,沈殿は無くせるし,渋味の調整や味を変
とって,フレーバー,溶解性,沈殿物が少ないな
えることもできる。そして,味,色,透明性にお
どの理由で取り扱いが容易である。
いて一貫性を与えると氏は付け加える。
Flavor Producers 社の Moore 氏は,緑茶と白
茶飲料中の不溶成分は色,渋み,フレーバーを
茶は多くのポリフェノールとカテキンを含むため,
与えるが,これらは時間とともに変化する。茶抽
人気が持続すると予測している。
出物はシェルフライフが長く飲料メーカーにとっ
2011年,Packaged Facts 社によるアメリカの
て便利であると Amelia Bay 社の J. Crandall 氏
成人2,000人調査によると,紅茶,緑茶,ハーブ茶
は言う。
を中心に選択した数種のタイプを購入する傾向が
Flavor Producers 社 の 茶 抽 出 ラ イ ン は, 水,
ある。しかし,いくつかの特別な茶にも興味を示
甘味料,その他の素材をブレンドすることができ
していて,10%が白茶に,10%がマサーラーチャ
る。 茶 抽 出 物 を 用 い た 茶 製 品 は“brewed tea”
イに,9%がウーロン茶に,5%がルイボス茶に,
食品と容器
361
Sweet Leaf 社
の Half & Half
Lemonade Tea
は,一般的な紅
茶にレモンを組
み合わせた
Steaz Energy ドリンクは,天然の
エネルギー源として,緑茶,マテ茶,
ガラナ,アサイーを含む
2012 VOL. 53 NO. 6
4%がマテ茶に興味を示していることが分かった。
や花やスパイスの
紅茶はアメリカではもっともポピュラーな茶で
エッセンスをブレ
あるが,最近の消費者は特別なタイプのものを探
ンドするであろう
索し始めた。これらには白茶やウーロン茶がある。
と Moore 氏 は 予
また,南アフリカのルイボス茶,南アメリカのマ
測している。
テ茶,ハイビスカス,カモミールのような機能性
Flavor Pro-
伊藤園は最近,低カロリーおよび
クラシック茶シリーズを発売し
ducers 社 は こ れ
た。これらには,紅茶,緑茶,ウー
らのエッセンスを ロン茶にブルーベリー,レモン,
販 売 し て い る が,マンゴ,アップル,ピーチフレー
バーをブレンドしたものがある
ハーブタイプなど多くのハーブから抽出される茶
もある。
機能性茶
飲料用素材の説明
茶の健康効能により,茶は,多くの飲料製品に
使用されている。
に“cleanly”の ラ
茶飲料は,茶葉や茶抽出物,茶フレーバーなど
ベル表示をするこ
を用いて製造されているが,Roberted Flavors
とができると言う。
社は噴霧乾燥させた茶粉末を提供している。これ
Amelia Bay 社
は,天然であることを表示したい飲料メーカーの
の Crandall 氏 に
ために,天然の茶エッセンスとフレーバーを提供
よると,茶製品の
するものであると,同社の Niekrasz 氏は言う。
トレンドトップ3
粉末の茶抽出物とティーバックのカット茶葉を
は,100 % 天 然 飲
提供している BI Nutraceuticals 社の Postelwait
料,消費者をリフ
氏は,お茶が持つ機能特性を指摘し,消費者はカ
レッシュさせる以
フェインの含有量にも関心があり緑茶は体の代謝
上の機能を持った
を速める能力があるため,体重減少に有効だと信
製品,そしてラベ
じていると言う。
ル に“Brewed”の
多くの飲料メーカーは,茶に含まれる天然カ
文字がある茶製品
フェインを用いて,エネルギー飲料やショット飲
であると言う。
料の処方を研究し始めている。Martin Bauer 社
しかし,何より
の Vorsheim 氏は,消費者は飲料に緑茶や紅茶を
も消費者は素晴らしい味を求めていると Finlay
ブレンドしたリラクセーション飲料などに興味を
Tea Solutions 社の O’
keefe 氏は言う。特定の栽
示していると言う。茶を用いた飲料は,無数のフ
培地に結びつく茶に魅力を感じる消費者も増えて
レーバーを組み合わせた非炭酸や炭酸飲料,エネ
いる。
“Organic”や“Fair Trade”は,たしかに市
ルギー飲料,心臓の健康,精神集中,その他の機
場で評価されているが,
“Rainforest Alliance teas”
Arizona Beverage
社はチョウセンニ
ンジンと蜂蜜をブ
レンドした緑茶を
販売している
Inco’
s社
は,学校
の自販機
での販売
用に12オ
ンスの白
茶を発売
した
(森林保護団体に認証された茶)は,現在もっと
能を持つ機能性飲料として拡大を続けていると
Moore 氏は言う。
も大きなトレンドになりそうだと氏は語る。
茶のトレンド
近い将来,茶分野は茶成分を注入した飲料を市
米国紅茶協会によると,アメリカでは茶の85%
場の中で差別化することに重点を置きながら成長
が冷やして消費されるという。アイスティーはア
を続けるだろう。これらには,甘味料を含まない,
メリカ人が好む茶のタイプであるが,飲料メー
またはわずかに甘味を付けた低カロリー RTD 茶
カーはさらに革新的な処方を取り入れようとして
のようなオプション,新しいフレーバー,いくつ
いる。
かの茶の品種をブレンドした飲料などが含まれる
機能性を取り入れた処方に加え,例えば,紅茶
に違いないと専門家は言う。
(十時正義)
とジャスミン,緑茶とショウガなど,茶にハーブ
食品と容器
362
2012 VOL. 53 NO. 6
●
海外技術情報 ●
2012年飲料と食品のトレンド・トップ10
( Key Trends to Win in 2012 )
The World of Food Ingredients(Neth.)p. 10( ’
11・12 )文献 № 5745
新製品開発状況における主要なトレンドについ
シュにより,“公正な取引”に位置づけられる全
て,IMI(Innova Market Insights)の分析では,
グローバル製品の25%を占め,IMI は2008年から
2012年以降の食品・飲料市場に影響を与えそうな
2010年で US 製品は倍増したとしている。持続可
顕在化しつつある10の主なトレンドを特定してい
能性のコンセプトは2011年には,容器において一
る。2012年のトップ・トレンドは純粋さ=無添加,
層進化した。ペプシ社のグリーンボトルやコカ社
本物らしさ,持続可能性に関するものである。消
のプラントボトルが典型だが,ダノン社がドイツ
費者は現在の経済見通しが不透明にも拘わらず,
で Activia ブランドヨーグルトの容器を Nature
付加価値のある製品を引き続き求めているからだ。
Works 社の IngeoPLA に切り替えたのが始まり
1.「純粋(pure)=無添加」が新しい自然:自然
だった。
食 品(natural products) は,「natural」 が 何 を
◉食品会社にとって持続可能性は必須課題
意味するかの明確な定義については多くの西欧諸
◉企業の社会的責任はより一層重要な役割を担
い,公正な取引は引き続き主流をなす
国で継続的課題であるが,「natural」は特別なも
のではなく,必須要素になりつつある。natural の
◉廃棄物からの価値ある成分回収への関心
区分における素材開発の主要領域は甘味料と着色
3.一に場所,二も場所,三も場所:食品がどこ
料である。ステビアの抽出物は米国では早くから
からくるかが消費者にこれほど高い関心を持たれ
成功を収めた。PureCircle 社の PureVia や Cargill
たことはかつてなかった。これは,輸入品に対す
社の Truvia というブランド素材によって,消費
る品質や安全性の懸念とか,特定の国や地域の製
者の卓上市場やブランド化された素材として強烈
品が持つ信頼性への需要等によるものである。
な存在感を示した。ステビアが消費者の承認を得
◉現地サプライヤーを支援するための現地製品
に対する需要
るに従い,いくつかの素材供給者はそれに続く次
の甘味料開発に力を入れている。2012年に Tate
◉EU原産地証明に関する規制の修正
& Lyle 社は,lo han guo(モンクフルーツ)を市
◉伝統的かつ地域固有の食品への関心
場に集中的に出そうとしている。
4.高級品が目立つ:中間のブランドが締め出さ
◉「natural」の定義に関する問題
れ,消費者はディスカウント品か超高級品にます
◉「純粋」
「純粋な原料由来(pure origin)」
「正
ます目を向ける傾向にある。高級志向はこの厳し
真正銘の自然食品」などの使用が進行中
い経済状況において,入手可能な“わがまま”と
◉Eナンバー(欧州連合食品添加物番号)の回避
して正当化された。特にそれが健康に良い要素を
◉「単純さ」や「利便性」も効果を発揮
含む場合はより強い傾向を示した。
2.環境対応は既定の条件:企業の社会的責任や
◉景気後退,費用削減,信頼性欠如は持続
持続可能性は前にも増して重要な戦略的役割を果
◉市場を発展させる高所得者層の重要性
たし,その焦点は炭素排出や容器の削減,すなわ
5.高齢者が注意喚起:多くの企業が容器の機能
ち,より高度な福祉や公正な取引に置かれている。
性と一般的かつ特定の健康への関心事の両面で,
厳しい経済状況にもかかわらず,持続可能性や倫
高齢化社会の需要について注意を向け始めている。
理的に正当とされた製品は引き続き伸びている。US
◉特定の栄養素についての要求の可能性
市場は過去2年間に報告された新製品発売ラッ
◉舌触り,香りなど高齢者向けに合わせた製品
食品と容器
363
2012 VOL. 53 NO. 6
8.監督官が再考を強制:米国の新しい栄養ガイ
の需要
ドラインは,飽和脂肪や砂糖,ナトリウムを低減
◉開けやすい容器と分かりやすいラベル表示の
させるための処方の見直しを求めているが,消費
要求
6.40代は新しい20代:できるだけ長く活動的,
者がその変更に満足しない場合は,事業に否定的
生産的で価値ある人生を伴った“上手に年をと
なインパクトを与えるという懸念は残る。
る”や“中年時代の延長”への注目が増えつつあ
◉健康的なライフスタイルにおける政府や規制
当局の役割を巡っての論争
る。より長い間活力ある人生を送るのを助ける可
能性のある素材,すなわちレスベラトロール,オ
◉栄養特性を改善するための処方の変更
メガ3脂肪酸,ルテイン,コエンザイムQ10,イ
9.計りしれないニッチ(隙間):より多くの製
チョウ,Lカルニチンおよび緑茶などに関心が高
品が個人の嗜好に応じた製品で小集団や個人を標
まっている。ポイントは“正しい食事”と“栄養
的にしていることから,現代の食品産業の中小企
バランス”である。
業はソーシャル・メディアを通じて規模の大きい
◉活動的な生活様式を維持したい欲求
多国籍企業とより巧妙に競争することができる。
◉“幸せに年を重ねる”ために役立つ製品への
◉ソーシャル・メディアを介した新しい通信手
すきま
しこう
要求
段の台頭
◉アンチエイジング素材への関心の高まり
◉多国籍企業は地域固有の特性や調達を重視し
7.科学を根拠に:EFSA が承認した素材を使用
なくてはならない
している製造者は“科学的に安全が証明された”
10.タンパク質ブーム:タンパク質需要は右肩上
という表示を今後も使用できるだろう。これに関
がりだが,世界の人口が70億人を超えても,本当
連して,多分一番有名なのはプロバイオティクス
に供給は対応できるのだろうか。
だが,普及が促進されている電気パルス調理を始
◉伝統的,非伝統的を問わず,新しいタンパク
めとするテクノロジーによって,食品加工にも影
質源に対する需要
響を与えることになる。
◉タンパク質源を促進する鍵は持続可能性
◉科学的に証明された主張のより広範な使用
(常盤恭徳)
◉食品加工のテクノロジー進歩
●
海外技術情報 ●
凍結濃縮技術の課題と可能性
( Getting a Fix on Freeze Concentration )
Food Technology(U. S. A.)p. 78( ’
11・12 )文献 № 5741
ミルクやフルーツジュース,酢,ワイン,汚水
濃度が上がるにつれて水分子の拡散が阻害され,
などを含む様々な混合液から純水を分離する技術
氷結晶表面の成長が妨げられるからだ。また,一
の中で,凍結濃縮は見落としやすい技術だ。過剰
般的に濃縮された溶液の粘性は上がる。
に冷えた冷蔵庫内や,冬場に外に出したままにし
蒸発濃縮との比較
て,うっかりと液体を凍らせてしまった経験は誰
氷が生成する時,融解熱と等しい量の凝固熱を
しもあるだろう。
奪う必要がある。水の気化熱が 1,000 BTU/ lb( 注)
水溶液の温度が水の凍結点(32℉または0℃)
であるのに対し,融解熱が144 BTU/ lb であるこ
よりも低温に下がると純氷の結晶が形成され,不
とは凍結濃縮の利点の1つとして挙げられる。し
溶固形物が分離される。この過程で物質の移動が
かし,ジュースを濃縮する技術としては蒸発濃縮
抑制される。なぜなら,凍結せずに残った溶液の
が最も多く使われている。加熱におけるエネル
食品と容器
364
2012 VOL. 53 NO. 6
ギーコストのほうが冷却時よりも一般的に低い場
まり,熱を速く奪いながら氷塊を大きく成長させ,
合が多いことによるのだろう。さらに,蒸発濃縮
さらに濃縮物から効率よく氷を分離するという工
は多重効用装置で行うことができ,熱交換器部分
学的ジレンマを抱えている。
に追加投資することで必要エネルギーの大幅な削
溶液を速く冷却すると小さい氷結晶が生成する。
減ができる。
これは,逆もまた真である。つまり,ゆっくりと
熱を利用する蒸発濃縮の大きな欠点は,フレー
した冷却を行うことにより氷結晶を成長させ,巨
バーなどの揮発性溶質が取り除かれてしまうこと
大にすることができる。
である。また,多くのフレーバーや栄養素は熱に
氷結晶の成長には過冷却と氷核が必要である。
よって破壊される。たとえば,濃縮還元ジュース
過冷却状態は不安定であり,微細粒子である氷核
はフレッシュジュースとは異なるテイストになっ
が過冷却状態の溶液から氷結晶の析出を開始する。
てしまう。
不溶性固形物による凝固点降下によって溶液の凝
汚水を蒸発濃縮する場合には,放出される揮発
固点は純水よりも低く,水分除去に伴い固形物が
性物質が大気汚染の原因となる。揮発性有機化合
濃縮されるにつれて凝固点はさらに低くなる。凍
物(VOC) は オ ゾ ン や 悪 臭 を 生 み 出 す。 特 に,
結濃縮プロセスでは冷却システムが0℃以下のは
軍事物資製造で生じた汚水を蒸発濃縮した場合に
るか低温まで到達できなければならず,溶液の共
は,非常に有害な揮発性物質が発生する。
晶温度,すなわち濃縮溶液が凝固を開始する温度
海水が塩辛いにもかかわらず,海に浮かぶ氷山
まで下がる必要がある。
が純水から成るのは凍結濃縮が理由である。同じ
商業用の凍結濃縮システムは熟成工程を組み込
原理を応用すると,海水から純水を作り出すこと
んでいる。熟成工程では,新たに形成したアイス
ができる。これは,フラッシュ蒸留(蒸発濃縮)
スラリーを定温下で攪拌する。攪拌により全結晶
の代替法になり得る。
表面の濃縮物層の剥離が促される。また,界面面
酢は凍結によって揮発性香気成分を残したまま
積を小さくするように熱力学的推進力がはたらく
濃縮される。同じように,アイスワインでも水分
ので,大きな氷結晶が成長する一方で小さい氷結
を凍結させて分離し,アルコールを濃縮すること
晶は優先的に融解する。滞留時間,温度,攪拌速
によってアルコール度を高めている。普通は,ど
度のバランスをとるためにはどのような溶液にお
ちらのプロセスも冬場に樽を外に出しておくとい
いても経験的テストが必要となる。
う単純な操作が行われているのみである。氷は水
十分な熟成工程の後,ろ過や遠心分離,ウォッ
よりも密度が低いので濃縮液に浮き,容易に取り
シュカラムによってアイススラリーが分離される。
除くことができるからだ。
遠心分離はかかる費用が比較的高いのでめったに
U. S. Dept. of Agriculture Eastern Regional
使用されない。ろ過工程において,氷がフィル
Research Center によれば,凍結濃縮に続く真空
ターを通過するときに形成するケーキ(塊)に
蒸発により乳固形分は45%にまで濃縮でき,フ
よって生じる圧力損失が律速となる。
レーバーへの影響は小さい。
ウォッシュカラムでは氷と濃縮液からなるスラ
新規プロセス
リーが,垂直カラムの底部に誘導され連続的に分
適用用途にかかわらず,氷結晶生成と濃縮溶液
離される。カラムの頂上部では氷が溶け,下に流
からの氷結晶分離が凍結濃縮のキーポイントだ。
れ落ちる純水を回収できる。透明なガラスまたは
一般に,氷結晶は大きいほど体積に対する表面
プラスチックカラムの中では,界面を明瞭に見る
積の比が小さいので(球の表面積/体積比は3/r,
ことができる。
r は半径)分離がうまくいく。氷結晶の表面積は
商業用凍結濃縮装置製造業者にはオランダの
濃縮液がまとわりつく面積でもある。一方,面積
GEA Messo PT 社や,Sulzer Chemtech USA 社,
が大きいほど物質移動の潜在的速度が上がる。つ
日本の前川製作所がある。前川製作所では凍結濃
食品と容器
かくはん
365
2012 VOL. 53 NO. 6
縮の汚水処理への応用に力を入れ,空調などで蓄
結濃縮において熟成工程と分離工程が実験則に基
えられた冷熱を使用して汚泥を濃縮することによ
づくものであるからだ。これらの工程は供給原料
り処理量の削減を図っている。
に応じた調整が必要であり,材料の濃度や供給流
凍結濃縮の限界
速の変動に敏感である。サージタンクで供給流速
なぜ,凍結濃縮はもっと幅広く利用されないの
を安定化するのは部分的な解決にすぎない。
だろうか? 膜分離と同じくらい必要エネルギー
凍結時のエネルギーコストが高いことや冷媒供
量が少なく,得られる濃縮物の香気的品質が高い
給業者が温室効果ガスを懸念していることなども
にもかかわらず,なぜこのプロセスが多く利用さ
凍結濃縮技術が抱える問題である。ほとんどの凍
れないのだろうか? 凍結濃縮は膜分離と非常に
結濃縮器は小さいので冷媒へのアンモニア使用は
似ており,どちらも溶液の粘性や相挙動によって
適さず,化学冷媒を使用しなければならない。
制限を受け,得られる固形物量に上限がある。揮
熟成工程と分離工程の自動制御はさらに困難な
発性物質が失われるにもかかわらず,熱蒸発濃縮
問題だ。なぜなら,結晶サイズと固形物濃縮用の
により得られる高効率な固形物量が当たり前と
オンラインセンサーの能力が不十分であるからだ。
なってしまっている。したがって,市場で求めら
商業用システムの提案を試みた会社は需要があま
れるような固形物量の最終製品を得るためには,
り無かった故に手を引いてしまった。野菜類の濃
膜分離や凍結濃縮のような処理では不十分で,さ
縮処理における利益が増大すれば,万能で効果的
らに熱蒸発濃縮を行う必要がある。
な分離プロセス法として凍結濃縮技術に新たな注
純水を得る際にはこのような限界を考慮しなく
目が集まるかもしれない。
て良い。しかし,膜分離(逆浸透)との競争にな
る。膜分離はより単純な装置で行われるのに対し,
凍結濃縮は効率的に行うために技術を要する。凍
(小南友里)
注)BTU : British thermal unit 英熱量
水の気化熱 2,250kJ/kg
水の融解熱 335kJ/kg
●
海外技術情報 ●
最近のキャップとクロージャーの動向
(Getting to the Top )
Beverage Industry(U.S.A)p. 48( ’
12・1 )文献 № 5750
食品のキャップやクロージャーの役割は,製品
Beverage 社の J-M. Philbois 社長は言う。
を密封し,保護することであった。しかし,時代
「クロージャーへのニーズや好みは,利用者や
とともに,その機能説明書はますます長々とした
使用環境によって変わる。例えば,ボトルから飲
ものになりつつある。ブランドの反映や環境保護,
もうとしているアスリートには流量が極めて重要
色,印刷,形態などの選択肢の提供,消費者の使
であり,一方,車であちこち移動する消費者には,
いやすさ,ショーケースでの刷新,製品の完全性
や安全性の維持などである。
片手での扱い易さとこぼれにくさが大切である」
と Closure Systems International 社の J. H-Rollins
「顧客が求めているのは,品質や安全性を保証
氏は言う。
する技術的な性能と棚での差別化である。巧妙な
金属キャップの材料削減
からくりではなく,新しい技術を求めているので
クロージャーの材料を削減していく方向は,サ
あり,クロージャーは,あちこち持ち運ぶのに耐
ステナビリティーの促進とコスト低減に有効であ
える丈夫さがあり,製品の完全性を保証し,環
る。金属キャップもプラスチッククロージャーと
境に優しくなければならない」と Aptar Food +
同様に,材料削減の要望にせまられている。
食品と容器
366
2012 VOL. 53 NO. 6
写真1 Crown 社のメタルクロージャー(バキュー
ムツイスト,プレスオンクロージャー等)
「材料を削減しても,クロージャーのパッケー
写真2 World Bottling Cap Holding 社の Easy Pull
Bottle Cap
ジに対する機能とシールの完全性は不可欠であ
る。我々は金属の限界を知っている。我々は常に
コスト低減を考えているが,最も重要なことは,
で簡単に開けられる。このキャップはプライオフ,
飲料パッカーが必要とする速度でキャッピングで
ツイストオフタイプのガラスびん,およびアルミ
きることである」と Crown Holdings 社の S. Heath
ニウムボトルにも使用でき,既存のボトリング装
氏は言う。Crown 社は,バキュームツイスト,
置で装着できる。
プレスオンクロージャーなどのさまざまなメタル
サステナビリティーの見地から,同キャップで
クロージャーを供給している(写真1)。最新の
は生分解性ライナーを実用化している。同キャッ
クロージャーのひとつに,より大きな口径でパッ
プは,そのリング技術で特徴があるが,さらに色
ケージの開封が容易な“Orbit クロージャー”が
を付けることで棚やクーラー内で飲料を際立たせ
ある。
ることもできる。キャップはさまざまな色で会社
ソフトドリンクやビールボトル用に,同社は
のロゴを印刷でき,示温インキなどを用いて飲み
伝統的なツイストオフとプライオフタイプ(pry-
頃の温度を示すこともできる。
off:栓抜きで開けるタイプ)のスチール王冠を提
プラスチッククロージャーの差別化
供している。そのひとつに,ボトリング時のヘッ
The Freedonia Group リポートによると,飲
ドスペースの酸素,および時間とともに浸透する
料市場におけるキャップやクロージャーの需要
酸素を吸収する特殊な酸素捕捉剤をライナーに組
は,年間 3.5%増加し,2014 年には 29 億ドルに
み込んだ“Oxycap”がある。この酸素吸収・バ
なると予測している。2004 年から 2009 年までの
リアー処理は,製品のフレーバーを新鮮な状態に
期間のペースからは減速するだろうが,これはク
保ち,シェルフライフを延ばすと同社は言う。
ロージャーの価格が安くなり,炭酸飲料やビール
まず,ビール分野は,高級ブランドと主流ブラ
のような巨大市場の減少や低成長のためである。
ンドに分けられ,そして使用されるキャップのタ
さらにこの市場調査グループによると,2008
イプに分けられると同社の T.Hughes 氏は言う。
年から標準化しているショートネックの PET ボ
「プライオフタイプは,クラフトビール,輸入
トルに用いる,軽量で低コストのプラスチックク
ビール,その他のスーパープレミアムビールのよ
ロージャーの要望が増えているという。缶からシ
うな高級タイプのビールに多く見られる傾向があ
ングルサーブのプラスチックボトルへの移行も,
る。ツイストオフタイプは主流プレミアムやサブ
プラスチッククロージャーの増加の理由である。
プレミアムブランドで見られる」と同氏は言う。
多くの企業は薄肉のボトル,ハイトが低かっ
World Bottling Cap Holdings 社は,消費者が
たり口径が小さなボトル,ネックを結晶化させ
リングを引っ張ることでボトルからキャップを外
な い ボ ト ル へ, ま た 軽 量 ボ ト ル に 対 応 で き る
す構造の Easy Pull Bottle Cap(特許取得済み)
を紹介した(写真2)。手で回したり栓抜きでこ
充填技術へと動きつつあると Closure Systems
International 社の H-Rollins 氏は言う。
じ開ける代わりに,この新しいキャップは指1本
これらのコスト削減には,ライン稼働,安全性,
食品と容器
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Portora Packaging 社 は, 無 菌 充 填 飲 料 用 の
Steri-Shield ライナーレスクロージャー技術でコ
スト低減と材料削減を行った。この分野では従
はく
来,熱可塑性エラストマーやアルミ箔ライナーを
低酸性および高酸性飲料に用いてきた。課題はラ
イナーを用いないで,過酷な無菌充填の条件に耐
写真3 Aptar Food + Beverage 社のフリップトップ
スポーツキャップ
え,キャップとボトルの密封を効果的に行うこと
ができるデザインにあった。このクロージャーは,
製品の完全性に関連する課題があるが,これを克
高密度ポリエチレンを含む樹脂を用いて圧縮成形
服するため Closure Systems International 社は,
され,華氏 140 度の殺菌処理環境にも耐えると同
非常に厳しい性能仕様を満たす軽量でショートハ
社は言う。
イトのクロージャーを開発した。
ドージングシステム(Dosing systems)
同社の軽量クロージャーは,熱間充填および無
Freedonia Group のリポートによると,軽量で
菌充填の両方の非炭酸用飲料に適用できる。同社
コスト効率のよいプラスチッククロージャーに加
の Asepti-Lok V38 3 S は,ワンピースの無菌充
え,付加価値の付いたディスペンシングクロー
填用クロージャーで,独特のベント構造とタン
ジャーもさらに成長するであろうと言う。ドージ
パーエビデンス(開栓履歴判別)システムを組み
ングシステムは,消費者の使いやすさとエネル
合わせている。熱間充填用の Extra-Lok 38mm.
ギー削減によるサステナビリティーに焦点を当て
OD クロージャーは 38mm 径クロージャーでは最
ており,PowerCap-Liquid Health Labs. 社は3種
軽量であると同社は言う。
類のドージングキャップを提供している(写真4)。
同社のショートハイト,軽量クロージャーの
ひとつである Sport-Lok mini は,プッシュプル
構造と,樹脂を約 20%削減しているのが特徴で,
28mm 径と 26mm 径で実用化されている。
ボトルドウォーターやスポーツドリンク用の
Aptar Food + Beverage 社 の キ ャ ッ プ や ク ロ ー
ジャーは,利用者にとって使いやすく,安全であ
写真4 PowerCap-Liquid Health Labs. 社のドージン
グキャップ
り,かつ性能を維持し,重量を 25%削減したス
ポーツキャップを発売した。また,バルブ付きク
ロージャーにリサイクルしやすいシリコンを用い
「PowerCap は従来の機能性飲料の熱間充填に
た Swimming Silicone Ⓡバルブを使い始めた。
比べ顕著な利点がある。常温充填(cold filling)
2000 年 代 の 初 め,Aptar Food + Beverage 社
が可能なため,エネルギー使用量が少なく,環境
はフリップトップまたはヒンジタイプのスポーツ
に優しい技術で,軽量なプラスチックボトルを用
キャップを導入した(写真3)。それまでは,飲
いることができる」と同社副社長の K. Milligan
料用のディスペンスクロージャーはプッシュプル
氏は言う。
スポーツキャップのみであった。フリップトップ
さらに,新しく導入した PowerCap Universal
クロージャーは多くの利点がある。ふたが外れな
は,従来のボトルドウォーターのネックに適合す
いため衛生的,スパウトがカバーされている,再
る。これを使って,消費者は普通のボトルドウォー
封しても漏れにくく,片手で容易に開閉ができる,
ターを簡単に機能性飲料に変えることができ,ま
マウスピースが外れて飲み込む危険がないなどで
た,ボトルを多用途に使用することで,ボトルの
ある。
埋め立て量を減らすことができる。 (十時正義)
食品と容器
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海外技術情報 ●
食品工場のセキュリティー対策
( Plant Security Thwarting the Intent to Harm )
Food Engineering(U. S. A.)p. 80( ’
12・1 )文献 № 5748
2002年のバイオテロ法成立以来,監視カメラの
ジェクトとして10カ所の配送センターに監視機器
設置など一時ブームの様相を呈した食品工場のセ
を設置した結果,投資回収率が25%に達したが,
キュリティー対策もこのところ熱気が冷めてし
その多くはサプライヤーに対する納期遅延のペナ
まっていたが,食品安全近代化法が成立したこと
ルティーによるものだと言う。
で再び関心が高まってきた。FDA による具体的
物理的なセキュリティー対策の市場規模は
な規制内容は2013年に明らかになるが,テロや破
1,200億ドルとも言われているが,近年その機器
壊工作,偽造などによる国をまたがる食品汚染に
の進歩は著しく,以前は人の顔の特徴などの判別
対する対策を明示しており,食品工場のセキュリ
は非常に難しかったが,ハイビジョンカメラなど
ティー専門家のレベルではリスク評価モデルの開
の登場によっていまでは数百メートル先の車のナ
発などで既に準備が進められている。
ンバープレートまでも読み取れるほどになってお
建物にフェンスを巡らすなどという物理的な対
り,多くの会社がこうした機器の更新に努めてい
策はいまや時代遅れともいえる。実際,インディ
る。ただ,そうはいってもこうした最新機器を備
アナ州にある Hormel 社の工場は2010年1月に生
えるには,配線をやり直したり,ほかの設備との
産を開始したが,その工業団地ではフェンスの設
マッチングなどに相当の労力とコストが必要で,
置が禁じられている。これは施設を物理的に囲い
そう簡単な話ではない。そこでがぜん注目を浴び
込むよりも建物の周辺の監視を確保することの方
ているのが「ワイヤレス」である。これは工場セ
が,費用も安くかつ効率的だとの考えから来てい
キュリティーのリニューアルには極めてコスト効
る。
率が高い。ただ一方で,自動化した工場などでは
2003年の全米食品加工業協会の食品セキュリ
電子ノイズの問題が生じ得るので,壁などを透過
ティー賞を受賞した McCormick 社のセキュリ
しやすい900 MHz 以上の長周波を使ってもよい
ティー担当ディレクター B. Ramsey 氏に言わせ
かどうかなど,個々の工場の条件に応じてどのよ
れば,「食品の防衛というのは物理的な安全対策
うなものを選ぶかよく検討することが必要である。
よりも範囲が広いものであり,犯罪発生率の高い
電気・電子による施錠システムは消防法の対象
地域でフェンスを設けるというのはそれなりに意
となるので当局の審査を受ける必要がある。施錠
味はあるが,それだけで侵入者を防げるわけでは
システムや火災警報などを統合したシステムへの
ないし,コストも高くついてしまうので,ハード
ニーズが高まるなか,セキュリティーにかかわる
ウエアにあまりこだわっても仕方がない」と言う。
さまざまな要素を一体化するためのプログラムが
セキュリティー担当者にとっての最大の関心事
PSIM と呼ばれるソフトで,火災発生の場合など
はその費用であるが,FDA では,規制は地方の
に指定された個人に自動的に電話をかけたりメッ
中小食品メーカーから大手の多国籍メーカーまで,
セージを送ったりといったことが可能になる。セ
それぞれに応じた柔軟なものになると示唆してい
キュリティーという側面だけでみればその費用は
る。つまり,この新しい規制を重荷ととらえるの
ばかにならないということになるのだが,IP ア
でなく,事業をサポートするものとして考えるべ
ドレスの付いた機器ならどんなものでもシステム
きだと,MillerCoors 社のセキュリティー担当者
内に組み入れることができるという利点があるし,
があるフォーラムで提言している。同社のプロ
食品安全やサプライチェーンマネジメントの改善
食品と容器
369
2012 VOL. 53 NO. 6
にも効果がある。例えば,GPS を備えたトラッ
等々さまざまなリスク要因がある。スパイスルー
クからリアルタイムで荷台の温度や走行ルートの
ムへのアクセスをコントロールすることはそれな
データを取ることができるので,コールドチェー
りの効果はあるかもしれないが,しかしミキシン
ンなどにおいてはトラックが到着する前に異常を
グやその他の加工工程はオープンなスペースにあ
感知することが可能になるというわけである。
ることが通常であり,人の出入りも激しい。オペ
大手のフードサービスや小売企業の場合,サプ
レーターの入場チェックもひとつの対策だが,暗
ライヤーの施設の定期的なセキュリティー監査を
証番号による入室,磁気カードの使用,あるいは
外 部 の 専 門 業 者 に 依 頼 し て い る こ と が あ る。
指紋認証といったさらに高いレベルの対策も必要
Arrowsight 社が開発した第三者ビデオ監査シス
となってきている。
テムの当初の目的は食品安全そのものというわけ
採用している食品メーカーはまだ少ないが,電
ではなかったのだが,マクドナルドの主要サプラ
子署名というのも製品のトレーサビリティーをサ
イヤーである肉加工メーカー,イリノイ州の OSI
ポートするものである。アクセス,すなわち施設
グループでもこの Arrowsight 社のシステムが使
への立ち入りをコントロールするというのは大規
われている。
模工場などではもはや当たり前のことだが,これ
セキュリティー責任者の任務のひとつとして納
を機能させるためにはいろいろなことが効率的に
品伝票上のシールの数をチェックしそのシリアル
行われなければならない。健全な雇用システム,
ナンバーを記録するということがあるが,OSI 社
潜在的な脅威への適切な対策の強化といったこと
の場合4台のカメラをリモートコントロールして
がセキュリティー確保へのコスト効率のよいアプ
トラックのシールをズームアップしてシリアルナ
ローチになる。一定の身元調査といったことも良
ンバーを読み取り,伝票のナンバーと照合すると
好な人材雇用への目安となる。従業員の安全,食
いうことを行っている。また,同社ではスパイス
品の安全というものを求めるならば,従業員もま
を管理する部屋に特に重点を置き,部外者が入室
た不審な人物を見かけた場合の対処法を学ばなけ
した場合には赤い警告灯が点滅し,ビデオカメラ
ればならない。
がスタートしてストリーム映像を送る仕組みと
保存食品製造業者協会の会長でもある前出の
なっている。入室者が部外者でない場合でも IC
MaCormick 社 Ramsey 氏は言う。「FDA が作っ
カードによってオペレーターか清掃員なのかなど
た食品メーカーの従業員向けの食品安全啓発ビデ
の判別をし,材料が不適切な接触を受けた場合に
オがある。ごく簡単なものではあるが,効果的な
は警報が出るというようなことも行っている。こ
もので,当社でもこれを教材として取り入れてい
うした手法で OSI 社では最低でも年に一度のセ
る。今回の食品安全近代化法を実効あるものとす
キュリティー対策演習を行っている。
るためにも行政はこうしたツールをもっと提供す
しかし,食品・飲料の場合にはトラックのシー
べきだ。一方,セキュリティーというのは食品安
ルナンバーのチェックだけでは不十分だとする見
全にとどまらない,もっと広い領域の問題であり,
方もある。米国では窃盗犯罪の被害額は年間200
各社ともサプライチェーン全体のセキュリティー
億ドルにのぼるが食品と飲料はそのトップで21%
を向上させるために,いろいろと外部からのサ
を占めている。食品の場合,シリアルナンバーは
ポートも求めるべきだ。大事なことは食品安全と
付いておらず,転売も簡単なために犯罪者にとっ
セキュリティーを対立的なものとしてとらえるの
ては格好の標的になっているというのだ。
でなく,そうしたことを進めるのがビジネス全体
流通システムが外的な脅威だとすれば,内的な
にとっても投資に値するものであると考えること
脅威としては,不満をいだいた従業員,清掃要員,
だ」。
(大池静男)
下請け業者,臨時要員,紛れ込んだテロリスト,
食品と容器
370
2012 VOL. 53 NO. 6
●
海外技術情報 ●
食品中のビタミン類含有量表示の検証法
( Vitamins in Food - How to Prove the Label ? )
Fruit Processing(DEU)p. 14( ’
12・1 /2 )文献 № 5752
健康的でバランスのよい食事をとることは,毎
タミンについては日常的に摂取しなければならな
日必要なビタミン類を摂取するために大切だ。ビ
い。ビタミンB12 は水溶性ビタミンの中で唯一体
タミン類は食料品や,植物,動物由来の食材に含
内に蓄積されるビタミンであり,特に肝臓に蓄積
まれる。人間は体内でビタミン類をほとんど合成
される。これまでに13種類のビタミン類が発見さ
できないため,生きていくためにはビタミン類を
れており,脂溶性ビタミンとしてA,D,Eおよ
摂取しなければならない。ビタミンDは例外的に
びKの4種類,そして水溶性ビタミンとしてB群
体内で合成されるビタミンであり,太陽の光を浴
とCからなる9種類がある。ビタミン類の働きは
びると皮膚で合成される。また,ナイアシン(ビ
化学的な構造により異なりさまざまである。食事
タミンB3 )は必須アミノ酸の一種であるトリプ
から摂取するべきビタミン類の量は国際単位
トファンから体内で合成される。ビタミン類は免
(IU)または重量単位で表される。ビタミン類に
疫系を強化したり,ほかの栄養素の利用を促進す
は食品中にごくわずかしか含まれないものもある。
るほか,解毒作用があることも知られている。さ
含量が少ないビタミン類は酸素のある環境下では
らに酵素として働いて心筋梗塞のリスクを低減す
光と熱に弱いため,製造および貯蔵には特別の要
る作用もある。ビタミン類はエネルギー生産に密
件を満たす必要がある。
接にかかわり,多数の代謝経路に触媒として働く。
現在知られているビタミン類のほとんどは1925
ドイツ栄養協会(DGE)では,ビタミン欠乏防
年から1940年の間に発見されており,果物や野菜,
止のために果物と野菜を毎日5品目摂取すること
肝臓,腎臓,酵母は,ビタミン類の重要な摂取源
を推奨している。
として知られている。
ビタミン類の歴史
今日,ビタミンは不足しているか?
“vitamin”という言葉はラテン語の“vita”(生
ドイツにおいて過去,ビタミン欠乏症やそれに
命),生化学用語の“amine”(アミン)に由来し,
関連する病気はほとんどなく,現在もある危険因
生命に不可欠であること,分子中に窒素元素を含
子を持つ集団で関連が見つかっているにすぎない。
むことを表している。この名前は,1910年にポー
シニア世代がこの集団に当てはまるのだが,それ
ランド人の生化学者 C.Funk 氏により初めて命名
は加齢とともにビタミン類を吸収する能力が衰え
された。同氏はすべてのビタミン類がアミノ基を
るためである。シニアにおけるビタミン欠乏症は
持つと考えてこのように命名した。後にそれが間
通常,食欲不振による栄養不足がきっかけで引き
違いであることがわかるのだが,名前は変わらず
起こされるが,腸からのビタミン類の吸収の低下
今日に至っている。ビタミン類は,脂溶性ビタミ
も原因となる可能性がある。妊娠中の女性にもビ
ンと水溶性ビタミンに分けられる。脂溶性ビタミ
タミン欠乏症の危険性がある。妊娠中の女性に対
ンは体内に貯蔵することができるため,毎日それ
しては,特に妊娠前および妊娠初期に葉酸のサプ
らを摂取する必要があるわけではない。しかし,
リメントをとることが推奨されている。理由は,
ある条件において過剰量のビタミンが体内に蓄積
胎児の成長期における神経管や脳の発育障害が生
されると,多くの健康上の問題を生じる恐れがあ
じるリスクを減らすためである。ドイツ連邦リス
る。これに対して水溶性ビタミンは体内に蓄積さ
クアセスメント研究所では,遅くとも妊娠4週間
れず,使用後速やかに排出されるため,水溶性ビ
前から通常の食事で摂取する葉酸に追加し,毎日
食品と容器
371
2012 VOL. 53 NO. 6
400μg の葉酸を補うことを薦めている。ドイツ栄
る。分析の前処理にイムノアフィニティーカラム
養協会でも妊娠期間を通じて毎日600μg の葉酸を
(IAC:免疫親和性カラム)を用いればビタミン
補助的に摂取するべきと推奨している。葉酸の欠
の濃縮と妨害物質の除去ができるため,これらの
乏は,小麦粉に葉酸を添加することで回避するこ
問題を解決できる。イムノアフィニティークロマ
とができる。アメリカでは1998年1月1日から小
トグラフィーは,抗体とそれに対応する抗原が特
麦 粉, シ リ ア ル, 米 お よ び 麺 類 に 1kg あ た り
異的に結合することを利用した分離方法である。
1.4mg の葉酸を添加しており,カナダもこれを取
サンプル抽出液を IAC カラムに導入すると,ビ
り入れている。ハンガリー,チリおよびスイスで
タミンがカラムに固定された抗体と結合するのに
も小麦粉1kg あたり3mg の葉酸を試験的に添
対し,抗体に結合しない成分は洗浄によりカラム
加している。葉酸の添加はオーストラリアでも
から除去される。そして抗体に結合したビタミン
2009年 か ら 行 わ れ て お り, 小 麦 粉 1kg あ た り
1.35mg 添加されている。ドイツではさまざまな
は 適 切 な 溶 離 剤 に よ っ て カ ラ ム か ら 抽 出 さ れ,
HPLC にて定量することができる。R-Biopharm
食品にそれぞれ異なる量の葉酸が添加されている。
社 か ら“EASI-EXTRACT Ⓡ ” と い う 商 品 名 で,
対象となる食品や飲料の主なものとして,マルチ
ビタミンB12 と葉酸,ビオチンを濃縮できる IAC
ビタミン飲料や乳製品,朝食用シリアル,パン用
カラムが発売されている。
ミックス粉および食塩が挙げられる。しかしドイ
< IAC カラムの特長>
ツ連邦厚生省では葉酸の摂取許容量の上限を超え
・サンプル中のビタミンの分離と濃縮が可能
てしまう危険性があるとして,小麦粉への葉酸の
・色素と妨害物質をカラム中で分離除去できる
添加は行っていない。
・より高感度分析が可能
予防を目的として,食品や飲料には特定のビタ
・HPLC のメンテナンス費用を低減
ミン類を添加し栄養強化されることが多い。さて,
・ア メリカの国立標準技術研究所(NIST)と
ビタミン類には次の3つの製法が知られている。
ベルギーの標準物質計測研究所(IRMM)に
すなわち化学合成する方法,発酵を利用する方法,
より精度確認済み
そして植物や動物由来原料から分離する方法であ
・多種類のサンプルでも利用可能
る。市販されているビタミン類のほとんどは化学
第1表に示すように,イムノアフィニティーク
合成によって製造されたものである。ビタミン類
ロマトグラフィーを用いた分析結果と,従来の微
の製造において大事なことは,製造工程での化学
生物を利用した分析結果とはよく一致した。以上
的な安定性と,ビタミンプレミックスの化学組成
の結果から“EASI-EXTRACT Ⓡ ”IAC カラムは
である。ビタミン類の製造にはスプレードライ製
さまざまな食品のビタミン分析に有効であり,高
法が最もよく利用されている。ところで,これら
感度での分析が可能であることが確認できた。
の製品中にあるビタミンを検出,定量する最良な
微生物を利用した分析方法
方法とはどのようなものだろうか? 製品に表示
個々のビタミン類の分析には微生物を利用する
されたビタミン含有量の精度をチェックすること
方法も知られている。これは分析対象のビタミン
は重要である。
を必須栄養素とする微生物種を利用する方法であ
ビタミン類の分析
り,手順としてはビタミン標準液あるいはテスト
従来の分析方法は製品中のビタミン含有量測定
サンプルを加えた培地それぞれに微生物を添加す
には適しておらず,食品中の含量が少ない葉酸,
る。培養後,対象のビタミンが存在する場合は透
ビタミンB12 およびビオチンについては特に困難
明であった培養液が微生物の増殖により濁りを生
である。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
じる。微生物はビタミン濃度に依存して増殖し,
や通常の物理化学的な分析方法を用いても,一部
培養液の濁度は分光光度計で測定できる。サンプ
のビタミン類の分析には適しておらず限定的であ
ルのビタミン濃度は,その濁度を一連の濃度のビ
食品と容器
372
2012 VOL. 53 NO. 6
第1表 葉酸含量測定における IAC カラム使用と微生物利用の測定比較
サンプル
葉酸含有量表示
IAC カラムによる
葉酸含量の実測値
回収率(%)
微生物利用による
葉酸含量実測値
回収率(%)
プレミックス
167mg/kg
223mg/kg
134
189mg/kg
113
ヨーグルト
80μg/100g
91μg/100g
114
93μg/100g
116
ミルク
20μg/100g
21μg/100g
105
20μg/100g
101
クッキー
100μg/100g
74μg/100g
74
75μg/100g
75
第2表 VITAFAST Ⓡを使用したヨーグルト製品のビタミン含量の測定結果
フルーツプレパレーション
ビタミン
プレーン
ヨーグルト
天然ビタミン 強化ビタミン 3週間貯蔵後
含有量
含有量 (4℃)含有量
プレーンヨーグルト+
20%フルーツプレパレーション
ビタミン含有 ビタミン含有 5週間貯蔵
量推定値
量測定値
後の測定値
ビタミンB1 mg/100g
<0.12
1.5
1.6
0.051
0.33
0.36
0.41
ビタミンB2 mg/100g
<0.16
1.9
1.8
0.18
0.52
0.57
0.56
ビタミンB6 mg/100g
<0.08
1.9
1.6
0.045
0.42
0.33
0.37
ビタミンB12μg/100g
<0.30
4.7
4.6
0.3
1.2
1.3
1.2
ビオチン μg/100g
<8.0
147
141
2.3
31
29.0
27.8
葉酸 μg/100g
18.0
490
422
5.9
103
88
81
ナイアシン mg/100g
<0.64
10.3
10.4
0.12
2.2
2.0
2.1
パントテン酸 mg/100g
<0.40
8.4
7.8
0.4
2.0
1.8
1.9
かった。
タミン標準液を用いて作成した検量線の濁度と比
較し算出できる。R-Biopharm 社から“VitaFast
Ⓡ
<微生物学に基づく“VitaFast Ⓡ”の特長>
・1キットで96回測定可能
”という商品名で微生物を利用したビタミンの
・LFGB の64節,AOAC 等にて公的に認定さ
定量キットが発売されている。このキットにはマ
れた試験方法に基づく分析方法
イクロタイタープレートが付いており、プレート
の穴には対象ビタミンを代謝する微生物が塗布さ
・精度の高い分析が可能で変動係数は1%以下
れている。これにより時間のかかる微生物の培養
・実サンプルでの回収率は95 ~ 105%
および懸濁液の調製等を省くことができる。穴に
・水 溶性のビタミン B について,添加量また
は総量の測定が可
塗布される微生物数は,測定対象となるビタミン
に合わせて調整されている。
酵素免疫測定法(ELISA)
手順としては,培地と同時に段階的に濃度を変
ELISA は,ビタミン分析に適したもう一つの
えた対象ビタミンの溶液または測定サンプルの抽
方法である。この方法では抗原(この場合は対象
出液をプレートの穴に加えて培養後,マイクロプ
のビタミン)に特異的に結合する抗体を利用する。
レートリーダーを用いて濁度を測定する。
抗原または抗体をあらかじめ酵素で標識しておき,
このキットを利用してヨーグルト製品等のビタ
酵素反応により抗原の存在を確認することができ
ミン類を分析した結果を第2表に示す。フルーツ
る。酵素反応により反応液の色が変化するため,
入りヨーグルトに用いるフルーツの加工品では3
ビタミンの有無を色で判別できるというわけだ。
週間,ビタミン類の含量に変化は見られなかった。
RIDASCREENⓇ FAST Vitamin B12 ,RIDASCR-
プレーンヨーグルトとフルーツ加工品を混合した
EENⓇ FAST Folic Acid お よ び RIDASCREEN Ⓡ
サンプルの分析結果は,それぞれを別々に測定し
Biotin という商品が数年前から発売されている。
た結果から算出した推定値に近く,4~8℃貯蔵
ELISA 法 は 迅 速 か つ 簡 単 に 判 定 が 可 能 な た め,
にて5週間はビタミン類の含量に変化は見られな
工程管理等に適していると言える。 (内麻博之)
食品と容器
373
2012 VOL. 53 NO. 6
●
海外技術情報 ●
フレキシタリアン(セミ・ベジタリアン)
をターゲットにした大豆ビジネス
( Soy:Targeting the Flexitarian )
The World of Food Ingredients(Neth.)p. 38( ’
11・12)文献 № 5746
2011年は大手大豆タンパク質企業にとって波乱
低粘性,高分散性,淡泊なフレーバー,淡い色な
に富む年であった。11月末に,イスラエルの巨大
どの優れた特性は,ハムや,七面鳥や鶏の胸肉,
企業 Solbar 社は米国の大手農場主の共同組合で
その他の筋肉ベースの製品に対しジューシーさを
ある CHS 社に約1億3,300万ドルで売却された。
付与するとともにコスト効率に寄与する。Solcon
大豆会社の中で最大手の Solae 社も,同社大株主
S−210は 高 級 製 品 を タ ー ゲ ッ ト に し た も の で,
の中で年中話題になった。
乳化や粉砕した塩漬けの肉や鳥肉,魚用の新しい
Solae 社 の 株 式 を72 % 保 有 す る DuPont 社 は,
機能性大豆タンパク質濃縮物である。
付加価値の高い食品素材分野に参入するため64億
Flexitarian(セミ・ベジタリアン)の潜在力
4,000万ドルで Danisco 社を買収した。
肉用途への大豆タンパク質使用が傾向的に高い
Danisco 社と Solae 社の製品は,オーバーラッ
の は,Solae 社 が 社 内 で「 フ レ キ シ タ リ ア ン 」
プ し て い る と い う よ り む し ろ 補 完 し て い る。 (flexitarian:flexible vegetarian)と定義してい
DuPont 社は専門製品に特化してマージンの低い
る新しい消費者向けである。彼らは時には肉を食
事業を切り離して Solae 社を売却するかもしれな
べるが,大量の肉消費がもたらす健康や環境負荷
いとか,残りの Solae 社株式を所有する Bunge
を 懸 念 し て 普 段 は 菜 食 主 義 で あ る。 こ れ が
社を買収して Danisco 社との相乗効果を強化する
Innova Market Insight が「タンパク質ブーム」
のでは,などと憶測された。しかし,「DuPont
と呼ぶ背景になっている。そして,大豆や小麦,
社は今も Solae 社の大株主であり,株式を手放し
ルピナス,ひよこ豆などのタンパク質資源の開発
たいという話はない。しかし,将来のことは何が
とともに,新規や既存のタンパク質資源が持続性
起こるか誰にも分からない」と Solae 社 CEO の
や健康に対する視点から見られている。
T. Rhenman 氏は言う。
英 国 で は,「 フ レ キ シ タ リ ア ン 」 は M&S デ
大豆革新
パートで「Super Soy」のような製品を入手でき
大豆分野の革新状況は過小評価されているが,
る。M&S の製品開発担当者によると,この製品
ここ数年間大豆価格は比較的安定していて,最近,
は,ベジタリアンだけでなく,味にうるさくて肉
特にスナックバーや肉代替分野での素材開発に興
をあまり食べたくない人を対象にしている。
味が持たれている。大豆素材を上手に使えば,コ
「フレキシタリアンは持続性にも健康的にも良
スト低減や健康機能強化に有効である。
い肉を求めている。持続性とエーカー当たり必要
2011年の FiE(食品産業展)で,Solae 社は栄
な水の量や,大豆とほかの植物ベースタンパク質
養 食 品 や ス ナ ッ ク バ ー 用 の 新 製 品 を 発 表 し た。
の比較を考えれば,大豆は非常に効率が高い」と
SUPRO Nugget 138は40%のタンパク質と30%の
Rhenman 氏は言う。現在のビジネス環境につい
繊維でできた大豆タンパク質のナゲットである。
て,市場が不安定で乳製品や肉製品の価格が高騰
SUPRO 430は高価な乳タンパク質の代替用とし
している,と同氏は言う。
て開発された大豆タンパク質分離物である。
DuPont 社 の Danisco 社 買 収 と Solae 社 へ の
影響
Solbar 社は肉や鳥肉向け商品を増強するため
に新製品を上市した。Solbar Q 932は肉製品のタ
Bunge 社と Solae 社間の影響力や,DuPont 社
ンパク質強化用の大豆タンパク質分離物である。
と Solae 社間の影響力,さらに Danisco 社の最適
食品と容器
374
2012 VOL. 53 NO. 6
な活用方法を考えた場合,Danisco 社と Solae 社
がりをしている。また,乳製品の需給が乳タンパ
は非常に補完的であり,両社とも市場の評判が良
ク質市場に影響している。大豆タンパク質の価格
く,顧客との連携や用途開発に強い。聞き取り調
はこの5年間で5~10%値上がりしたが,これま
査では,好ましい開発パートナーとして両社は大
で非常に安定しており,この先高騰すると言って
抵トップ3に登場する。これはおそらく,科学系
も乳タンパク質や肉タンパク質のレベルには程遠
会社の DuPont 社が Solae 社と Danisco 社を,取
い。
り扱っているあらゆるカテゴリーで指導的役割を
他のベジタリアン向けタンパク質資源との比較
持つ非常に面白い科学系の会社であると見る理由
代替タンパク質は多いが,健康効能と持続性の
である。もちろん,Danisco 社はヨーロッパで非
両面から見ると大豆は唯一の完全な植物性タンパ
常に強い会社である。Solae 社はヨーロッパに製
ク質である。顧客にとって健康カテゴリーは通常
造工場や応用研究室を持っているが米国企業だと
最も利益率が高く,ますます健康志向に焦点を合
いう風評がまだある。これは両地域での強い地盤
わせている。スナックバー市場に対しては,より
になり,定着に役立つと思われる。
健康的で便利なスナック用途向けとして,高タン
大豆市場の展望
パク質と高繊維の効能を組み合わせた新しいナ
現在,大豆素材市場は決して良くない。大豆素
ゲットや90%以上のタンパク質でできたタンパク
材市場を動かすマクロトレンドとして,まず第一
質分離物のパウダーが開発されている。
に,消費者が食品の役割を健康的なライフスタイ
コスト低減に対する大豆の新しい役割
ルの一環として意識するようになり,そうした意
大豆による代替の主要分野は乳タンパク質であ
識が若い世代にもあること。第二は,社会的責任
るが,多くの顧客は肉分野でもコスト低減のため
に対する強いマクロトレンドあり,消費者が食品
に大豆をよく使用している。しかし,肉の分野で
に対して環境や持続性への影響を考えるように
は,「フレキシタリアン」向けや,使用する脂肪
なってきたことである。この一端がベジタリアン
を低減する手段として大豆タンパク質が使用され
化の傾向や,フレキシタリアン化の傾向である。
ることが多い。最近,ひき肉に添加して調合でき
自分の食選択とそれが環境に与える影響について
る機能性大豆タンパク質濃縮物が上市された。肉
詳細な情報を求める消費者が非常に増えている。
を使用せず大豆タンパク質をベースにした製品の
素材コストの高騰を消費者に転嫁できないため,
一例だが,英国では,大豆100%の朝食用ソー
製造業者はコスト増にならない代替物を探してい
セージが M&S で販売されている。大豆は処方し
る。大豆価格も値上がりしているが,乳タンパク
やすい素材ではないが,大豆素材会社が役に立つ
質や肉タンパク質は同期間で大豆の5倍近い値上
ノウハウを持っている。
(合田芳宏)
ご案内
フード・フォラム・つくば 春の例会
「震災直後と今!食品産業を取り巻く状況はどう変化したか?」
◇日時:平成24年6月26日(火)13:10 〜 17:25
◇場所:つくば国際会議場 中ホール200
〒305−0032 茨城県つくば市竹園 2−20−3
◇参加費:事前登録 先着200名
会員:無料,会員外:1,000円
◇交流会:つくば国際会議場内2階 中会議場202号室
会員:3,000円,会員外:5,000円
◇講演 13:20〜17:25
①『食品産業を取り巻く環境変化について』
財団法人食品産業センター 西藤 久三氏
食品と容器
②『マスコミから見た食品行政及び食品産業』
毎日新聞社 小島 正美氏
③『グローバル企業の戦略と外からみた日本の素材
の現状』 ネスレ日本株式会社 福島 洋一氏
④『消費者が求める食の安心情報』 サントリー
ビジネスエキスパート(株) 近藤 康子氏
⑤『Food Business の新しい課題―安心とイノベー
ション』 日経 BP 社 宮田 満氏
◇交流会 17:40 〜 19:00
375
2012 VOL. 53 NO. 6
食の遠近画法 68
連載エッセー
○
「ファンの皆さんの声援のお陰で打てました。
チームプレー
ご
みょう
とし
ありがとうございます。それにマウンドで懸命に
押さえているあいつのためにも何としても打ちた
はる
五 明 紀 春(女子栄養大学教授)
かった」
試合後のお立ち台のプロ野球選手の,こんな言
葉をちょくちょく耳にしてきた。ファンあっての
卒業50周年,というわけで40人ほどの大学クラ
選手であり,チームメイトあっての自分である,
ス仲間で記念文集を出すことになった。筆者も編
との真情が伝わってくる。
集委員の一人として一年前から準備にかかった。
せっかく個人記録を達成しても,負け試合で
当初,委員長A君の「長さは常識の範囲内で自
あったりすると「チームの勝利に貢献できなかっ
由に書いてもらおう」の何気ない方針を気に留め
た」と悔やむ選手の声もまた何度も聞いてきた。
ることもなかった。専門課程で毎日のように実験
それが,単なるリップサービスではないことを
台を囲んで切磋琢磨した仲間たちだ。「阿吽の呼
ファンも仲間もよくわかっている。実際,その気
吸」のチームプレーで運ぶはずであったのだが…。
持ちがなければ野球選手を一日も続けることはで
締め切りまで一年間の原稿催促タイミングは周
きないであろう。
到に計算した。大半はすでに悠々自適の仲間とい
押さえが乱調で,勝ち投手の権利をふいにして
え,日常生活にいきなり割り込んでくる執筆依頼
しまうことも珍しくない。いちいち目くじらを立
だ。腰を上げるまで多少の時間もかかるだろう。
てていたのでは,チームは成り立たない。選手同
各人の生活の中で優先順位を徐々に繰り上げても
士わかりすぎるぐらいわかっているのである。
らわねばならない。期限前1年,半年,3ヶ月,
サッカーともなると,個々の選手の勝利への貢
1ヶ月,さらに二週間,一週間と小刻みに追い込
献度は,素人目にはなかなかわかりにくい。ゴー
み催促し,予想通りほぼ全員の原稿が揃った。
ルにボールを蹴りこむまでの過程は,野球の得点
しかしここで当初の「軽い不安」が的中したの
よりもずっと複雑に見える。原因の原因があり,
である。「常識の範囲内」が通じない仲間がいた
その原因に先立つ原因がさらにある,といった具
のである。目下,B君の膨大な原稿を削ってもら
合で,「因果の無限後退」とも言うべきプロセス
うよう編集委員会一同悪戦苦闘中である。編集委
が連なっているからである。
員会の当初方針「自由に書いてもらおう」を盾に
守備位置や打順が特定されている野球と違って,
B君も頑として譲らない。とうとうA君は不眠症,
サッカーでは,個人プレーとチームプレーに間然
膠着状態は最悪事態を迎える気配である。
するところがない。一人の選手をお立ち台に呼び
実は,B君のほかに,何人もの仲間の長大な原
出すことはかなりむつかしい,と思われる。一億
稿を削るのに難航していたのであった。どうにか
円プレーヤーは,プロ野球では10人に一人,J
あうん
「常識の範囲」を了解してもらったが,いずれも,
リーグでは100人に一人といわれる。
いわば人生の決算書の趣である。「わが人生」を
しかし,何と言ってもチームプレーの最たるも
友人たちに披露したい,との熱い気持ちを無碍に
のは,「襷を切る」ことを許されない駅伝マラソ
扱うことはむつかしい。
ンであろう。その上,「自分が苦しいのは1時間
ふと,中原中也『帰郷』が浮かんだ。
ちょっと。福島の人に比べたら全然きつくはな
「これが私の故里(ふるさと)だ さやかに風
かった」と被災地に熱い連帯の言葉を送った「山
も吹いてゐる 心置なく泣かれよと 年増婦(と
の神童」柏原竜二選手にいたっては,チームプ
しま)の低い声もする あゝ おまへはなにをし
レーもここに極まると言えるだろう。
む
げ
○
て来たのだと…… 吹き来る風が私に云ふ」
食品と容器
376
2012 VOL. 53 NO. 6
全国の保健医療福祉系大学に,今,専門職連携
一頃の米国直輸入の成果主義的な経営手法は,
教育(IPE : Interprofessional Education)が導入
最近,影をひそめつつあるようだ。成果主義は,
されつつある。これは,複数の領域の専門職の連
個人のやる気を刺激し,高い生産性を維持できる
携のために,同じ医療福祉現場でともに学びあう
との触れ込みとは反対に,かえって企業の求心力
こととされる。英国に始まる新しい教育システム
を弱め,組織の弱体化を招くとの反省が高まって
といわれる。
きている。
英国といえば,経済学の創始者アダム・スミス
実際,成果主義を大々的に導入した,大手企業
を生んだ国。彼は,その主著『国富論』で「われ
で,業績が悪化,その弊害を認めて,軌道修正を
われが食事を期待するのは,肉屋や酒屋やパン屋
余儀なくされた例が多い。「若手による実力本位
の慈悲心からではなく,彼ら自身の利害にたいす
の企業文化を構築する」と鳴り物入りで成果主義
る配慮からである」(岩波文庫)と「分業」につ
経営を導入した企業が,たちまち従来の年功的人
いて述べている。
事制度に逆戻りした,というケースも珍しくない。
いわば,現場に入る前に,資格専門職の教育課
成果主義の下では,中堅社員による若手育成など
程で「分業」のあり方を,きちんと教育しようと
という「日本的企業文化」は消滅してしまうので
いう発想である。IPE により,専門職連携の実践
ある。
能力を身につけさせようというのである。
もともとチームプレーで運営されている組織で
すでに医療現場では,多職種による栄養サポー
個人を特定して成果を査定することの愚かさを現
トチーム(NST : Nutrition Support Team)が導
場の人間は誰しも知っている。ひとつのヒット製
入されている。医師,看護師,薬剤師,管理栄養
品開発の水面下には,大勢の仲間たちがいること
士,臨床検査技師,リハビリテーションスタッフ
を「現場人間」はわかっている。
( 作業療法士,理学療法士,言語聴覚士 ),歯科衛
成果の出にくい仕事は敬遠する,挑戦意欲が低
生士,臨床工学技士,医療事務職員,資材事務職
下し安全策にはしる,上司の見ていないところで
員の職種の壁を越えたチーム医療である。患者の
は手を抜く,長期的な取り組みを嫌い,短期的な
栄養状態の評価・判定,適正な栄養補給,栄養の
結果にとらわれる。これらは人間一般の性向であ
改善を目的に組織される。
ろう。最悪は,技術や技能や知識の相互共有が希
しかし,従来,これらの専門職種の教育課程で
薄になることである。継承・蓄積なき組織が弱体
は,相互の連携・協働を実体験させることはほと
化するのは当然である。
んどなく,自分の分野以外の職種の専門知識や技
「かくも現場を知らないトップ」の下では,働
術に触れたり,連携・協働のあり方について学ぶ
く意欲そのものが喪失してしまうのも,また当た
機会がなかった。IPE によって,専門資格の「蛸
り前である。NST の現場に成果主義を導入した
壺意識」を改革,将来のパートナーを互いに認め
らどんなことになるか,背筋が寒くなる。大学の
合うことができる,と期待される。
教育現場とて同じである。その教育力は,教職員
実際には,一定程度の専門知識を修得した複数
のチームプレーそのものである。
の専門職教育課程の学生たちが,医療福祉現場に
○
出向き,チームプレーに取り組むことになる。
チームプレーがとりわけ真価を問われるのは,
医師の号令一下,権威主義的な上位下達方式で
チームが危機に臨んだ時であろう。一般に,危機
は,十分な医療がむつかしくなっている。それだ
管理は,危害の予知・予防,被害の最小化を指す
け,専門職種が分化し,高度化してきているので
ようだ。しかし,危機を奇貨として,チームプ
ある。チーム医療の普及は,専門職種間の無用の
レーを活性化することも,危機管理に含めても良
壁も取り除くことになるだろう。
いであろう。とすると件の卒業記念文集の難航も,
○
食品と容器
くだん
雨降って地固まる,ということかもしれない。
377
2012 VOL. 53 NO. 6
●
特別解説
●
苦味感低減効果の定量的解析
か わ い・た か ゆ き
京都大学大学院農学研究
科博士課程修了。現在,
独立行政法人農業・食品
産業技術総合研究機構食
品総合研究所食品研究領
域食認知科学ユニット主
任研究員。
博士(農学)
河 合 崇 行
えたり,架橋剤を利用して複合体にしたりする方
はじめに
法で,いずれも製剤分野で著しい研究進展が認
苦味は動物にとって元来忌避する味質である。
められる。一方,生化学的手法とはリポタンパク質4)
苦味は対象物中に毒の存在を示す情報の一つであ
や酸性ジペプチド5)などの添加剤を苦味受容部
るからだ。少量のエネルギー摂取で済む小動物は
位に反応させ苦味の応答を抑える方法で,食品
あえて苦味を含む食餌を摂る必要はないが,ヒト
一般に利用が可能である。苦味受容体の遺伝子
を始めとする大動物では多種多様な食品から栄養
T 2 Rs6)が見つかって以来,受容体を強制発現さ
素を摂取しなくてはならない。苦味を呈する根菜
せた細胞で苦味抑制効果を測定する手法も開発さ
や新鮮な葉物野菜はビタミン類やミネラル類の供
れている 5)。官能的手法とは苦味そのものを抑
給源である。また,分岐鎖アミノ酸やポリフェノー
9),香料など
えるのではなく,甘味 7)や塩味 8,
ル類の多くも苦味を呈しており,健康維持のため
を用いて苦味を感じにくくさせる方法である。
にこれらの機能性成分を含む食品を積極的に摂る
苦味には渋い苦味,薬品のような苦味,肝のよ
ことが推奨されている。苦味を上手に抑えること
うな苦味など異なる特徴を持つ苦味がある。私た
ができれば,苦味に敏感な幼児期から多くの食経
ちはそれらを区別することができるが,適した言
験を得ることも可能である。最近では,塩味代替
葉を持っていないので,すべて苦味という一括り
物である塩化カリウムの持つ苦味感を抑えること
の味質として認知・表現している。これは,苦味
により美味しさをそこなわない塩味調味料が開発
を呈する食品は総じて忌避すべきだと本能的に感
され,美味しい減塩食の調理に期待されている。
じるからである。そのため,苦味感と嫌悪感は一
苦味低減法については,古くより多くの研究がな
体となっていることが多い。不味いあるいは嫌な
されており,大別すると物理的,化学的,生化学
味のする食品は苦味を強く感じ,不味さや嫌な味
的および官能的手法で進められている。物理的手
が抑えられた食品は苦味を弱く感じる。コーヒー
法とは苦味成分を小さな分子カプセルに閉じ込め
に砂糖を入れた場合などは,その典型である。砂
る 1),フィルム状にして口の中で溶けないよう
糖を入れることで苦味物質量が減るわけでも,苦
にする2),表面積を小さくする3)などの方法で,
味物質と苦味受容体が結合しにくくなるわけでも
化学的手法とは対イオンや官能基の種類を置き換
ない。
じ
お
ひとくく
い
食品と容器
378
ま
ず
2012 VOL. 53 NO. 6
苦味を食べると脳内で DBI(Diazepam Binding
酸味,塩味,甘味,うま味に対しては数種類の
Inhibitor)様物質が放出され不快な感覚を覚える10)
受容体が報告されているが,苦味に対しては20種
が,甘味や脂肪分などの好ましい味を食べると脳
類以上もの受容体が発現していると報告されてい
内でβ−エンドルフェインが放出され快感が生み
る。苦味受容体の多様性により、渋い苦味,薬品
出される11)
。この2種類の脳内物質のバランスによ
のような苦味,肝のような苦味などの異なる特徴
り,苦味感低減が起きている可能性も考えられる。
を持つ苦味を区別することができる。苦味物質は,
β−エンドルフェインは脳内麻薬様物質の一つで
他の味質と異なり,複数種類の苦味受容体に結合
あり,苦味だけでなく痛みまでを軽減するほど強
し,認識されていることも分かってきている。苦
烈な快感物質である。脳内物質のバランスに起因
味受容体や認識方法に様々なバリエーションを持
する苦味感低減効果であるなら,機器や培養細胞
たせ,網羅的に苦味物質を認識し,毒性成分を飲
で評価することはできない。熟練した官能パネリ
み込まないようにする防御機構の一種ではないか
ストを用いて評価するしかないのが現状である。
と考えられる。受容・認識機構が複雑な上に遺伝
子多様性が加わるため,物質によってもヒトに
味の受容と味の相互作用
よっても苦味の感じ方が異なり,苦味の評価は非
のど
常に難しい。
舌や上あご・喉の上皮には小さな穴がたくさん
開いており,その奥側に味受容細胞が存在してい
味覚評価法
らい
る。味受容細胞は集合して玉ねぎ状の味蕾を形成
し,各細胞の細くなった先端は束となって上皮の
味の強さを評価する方法には,ヒトの官能評価
穴の部分に集まっている。味の受容体と呼ばれる
試験に基づいたもの,人工脂質膜の膜電位変化に
センサータンパク質は,味受容細胞の先端部分に
基づいたもの,培養細胞の細胞応答に基づいたも
集中して発現しており,上皮の穴から入ってきた
のが知られている。
味物質を多数の細胞で認識できる機構になってい
ヒトの官能評価試験には様々な試験法や解析法
る。味受容細胞を大きく分類すると,味覚神経と
が存在するため,対象食品,調べたい項目,条件
接しているⅢ型細胞と,接していないⅡ型細胞に
に応じて選択することができる。味の強さを比較
分けられる。前者には酸味や塩味を認識する受容
するときには,複数のサンプル間での相対試験法
体(あるいは,イオンチャネル)が発現しており,
が用いられる。A,Bのいずれが強いかを判定す
後者には甘味,うま味,苦味を認識する受容体が
る二点比較試験法,A,A,Bの三サンプルの中
発現している。同一細胞には1種類の受容体しか
から異なるものを選び出す三点試験法,A,B,
発現しておらず,異なる味質は異なる味受容細胞
Cのサンプルを強さの順に並び替える順位法がよ
で認識されていることが分かっている。しかし,
く使われている。これらは味の強さに限らず,食
味蕾に伸びてきている神経線維と味受容細胞は1
品の美味しさ等の総合評価にも使われている。ま
対1の接続ではないため,味覚神経線維において
た,基準食品と目的食品の味質を細かく分解して
は,一本で複数の味情報を伝えている線維もある。
比較したいときには,七点尺度法を用いてそれぞ
味情報は,延髄孤束核から脳内に入り,味質の認
れの食品を評価し,レーダーチャート上に描いて
知,強度判定,好き嫌いの判断,匂い情報との統
比較する方法が採られる。
合などの処理が行われる。そのあと,再び強度判
人工脂質膜の膜電位変化に基づいた味覚セン
定が行われる。その結果,複数味の相互作用や匂
サーは,脂質膜と様々な味物質との間で起こる静
いの影響を受けて,実際より味を強く感じたり弱
電相互作用や疎水性相互作用に起因する膜電位変
く感じたりするのである。甘さの温度効果やグル
化を電気的に読み取る装置である。ヒトの官能試
タミン酸とイノシン酸のうま味相乗効果など,味
験と異なり,時間による感度低下がないため繰り
受容細胞レベルで起こっている効果もある。
返し精度が非常に高い。また,甘味・うま味・苦
えんずいこそくかく
にお
食品と容器
379
2012 VOL. 53 NO. 6
味・塩味・酸味以外にも渋味やコクなども数値化
動物実験のメリット
でき,小さな差異を検出することが可能である。
品質管理部門でのロット間比較や,異なるメー
ヒトの官能評価試験は細かい描写が可能なため
カーの茶やビールの比較分析など,ほぼ同じ成分
よく利用されているが,個人差・食習慣・食経験
が含まれている食品群の味評価に利用され,優れ
などの変動要因があるので再現性や安定性,定量
た能力を発揮している。しかし,甘味(砂糖や甘
性の確保が非常に難しい。多検体の多次元解析が
味料など)や苦味(キニーネやポリフェノールな
短時間で行える味覚センサーによる味評価は,既
ど)には,性質の異なる多種類の物質が存在する
知の味物質やよく似た食品の味比較には強いが,
が,現在の味覚センサーの脂質膜では同類異種の
新しい味物質に対する評価や味間の相乗効果の評
味物質を比較することはできない。また,液状化
価に弱い。培養細胞を用いた評価法では,同じ細
して測定する必要があるため,粘性の高い食品,
胞で繰り返し測定できる回数が少ないため細胞調
水に溶けない食品成分,脂溶性の食品成分の味を
製に多大な努力が必要である。また,甘くて苦い
味覚センサーで評価することはできない。
味や,コクのある甘さなどの微妙な表現に対応す
動物の味蕾から味受容細胞を採ってくることは
る細胞を揃えることが非常に難しいため,単一の
できるが,それらを長時間維持することも増やす
基本味の評価にしか利用できないのが現状であ
ことも難しい。また,特定の味のみに反応する味
る。動物行動学を用いた味評価法では,近交系の
受容細胞のみを選び出すことも難しい。近年で
実験動物を利用することで遺伝子に起因する個体
は,味受容体遺伝子の下流に蛍光タンパク質遺伝
差を小さくすることができる。また,飼育条件を
子を導入し,蛍光を発する味受容細胞のみを回収
コントロールすることで,食経験を揃えることも
する手法も開発されているが,非常に高い操作技
測定時血糖値を揃えることも可能である。これら
術が必要である。そこで,不死化培養細胞に味受
のことから,研究の種となる味の小さな差異を検
容体遺伝子と情報伝達に必要なG共役型タンパク
出することができる。しかし,動物は言葉を操れ
質遺伝子を導入した細胞を用いた味の評価技術開
ず好きか嫌いかの1次元でしか表現できないた
発が進められている。味物質が受容体に結合する
め,複数の味質が混ざった試料を要素ごとに分解
と,G共役型タンパク質を介して細胞内カルシウ
して多次元で評価することはできない。飼育条
ム濃度が上がる。味物質が受容体から離れるとそ
件,実験前学習などを検討して,評価したい味質
れらのカルシウムは細胞内の小胞に回収されるた
に対する嗜好性/嫌悪性を成立させなければなら
め,元の細胞内カルシウム濃度に戻る。カルシウ
ない。動物行動学では,二瓶選択実験,味覚嫌悪
ムとゆるく結合し,蛍光強度を変化させる試薬を
学習,リック解析などで試料の嗜好性を評価する。
用いることで,細胞内カルシウム濃度変化を調べ,
ただし,甘味受容体のアミノ酸配列に若干の相違
味物質の結合状態を知ることができる。この方法
があるためマウスやラットがアスパルテームの甘
は,非常に特異性が高い反面,受容機構が未確定
味を感じられないとか,苦味受容体の発現比率に
な味質に関しては評価できない。また,液状化し
相違があるためヒトとマウスでキニーネやデナト
て測定する必要があるため,粘性の高い食品,水
ニウムの閾値濃度が異なる等の点には留意した上
に溶けない食品成分,細胞膜に障害を起こす成分
で,実験結果を考察する必要がある。
そろ
し
いき
を多く含む食品を評価することもできない。
リック試験
味覚センサーや培養細胞を用いた方法は対象食
品が限られるというデメリットもあるが,ヒトが
動物行動学において,動物は提示された食べ物
口にするには厳しい非常に不味い食品であっても,
が好ましければ好ましいほど多く食べ,不味けれ
それに含まれる甘味やうま味を評価できるという
ば不味いほど食べなくなる。短時間に限定する
メリットがある。
と,好ましければ単位時間当たりにアクセスする
食品と容器
380
2012 VOL. 53 NO. 6
な
(かじる,舐める等)回数が増え,その嗜好の大
トの出入りを最小限に抑えるため,自動的に提示
きさに依存して回数が変化することが知られてい
する溶液を換えることができ,溶液提示時間を制
る12)。マウス・ラットを用いたリック試験法では,
5~30秒間に試料溶液を舐める回数をその試料の
嗜好の大きさとして解析する。短時間で試料の嗜
好の大きさを測定できること,一度に多数の試料
を測定できること,少量の試料しか摂取しないの
で吸収後の影響を考える必要がないことから最近
の味覚研究ではよく使われる手法である。一溶液
に対し短時間測定するだけに,測定時に周囲でヒ
トが動いたり周囲の音や明るさの変化が起こった
りすると溶液リックへの集中力がそがれ,データ
の信頼性が乏しくなるおそれがある。そこで,ヒ
第1図 自作リック測定装置
(a)
10秒間のリック数
10秒間のリック数
(b)
デナトニウム濃度(mM)
デナトニウム濃度(mM)
(d)
10秒間のリック数
10秒間のリック数
(c)
デナトニウム濃度(mM)
デナトニウム濃度(mM)
第2図 安息香酸デナトニウム溶液に対する苦味低減効果
(a):安息香酸デナトニウムのみでのリック行動解析。(b):安息香酸デナトニウム単独溶液と2.5 mM サッカリン Na を
添加した溶液を同じマウスで同じ日に相互測定したときのリック数。(c):安息香酸デナトニウム単独溶液と500 mM グル
タミン酸 Na を添加した溶液を同じマウスで同じ日に相互測定したときのリック数。(d):安息香酸デナトニウム単独溶液
と100 mM 塩化ナトリウムを添加した溶液を同じマウスで同じ日に相互測定したときのリック数。○はデナトニウム単独,
●はサッカリン Na,グルタミン酸 Na あるいは塩化ナトリウムを加えたもの。値は平均±標準偏差。
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(b)
10秒間のリック数
10秒間のリック数
(a)
キニーネ濃度(mM)
キニーネ濃度(mM)
(c)
10秒間のリック数
第3図 塩酸キニーネ溶液に対する苦味低減効果
(a):塩酸キニーネのみでのリック行動解析。
(b):塩 酸キニーネ単独溶液と 2.5 mM サッカリン Na
を添加した溶液を同じマウスで同じ日に相互測定
したときのリック数。
(c):塩 酸キニーネ単独溶液と 100 mM グルタミン酸
Na を添加した溶液を同じマウスで同じ日に相互
測定したときのリック数。
○はデナトニウム単独,●はサッカリン Na あるいはグ
ルタミン酸 Na を加えたもの。値は平均±標準偏差。
キニーネ濃度(mM)
御できるシャッターを備え,リック数を光セン
存的にリック数が減少し,2~4mM では忌避
サーで測定する装置を作成した(第1図)。マウ
していると判断できる。苦味濃度とリック数は4
スおよび測定機器の状態は,WEB カメラを介し
パラメータのS字曲線として近似することがで
て別室で監視できるようにした。これらの条件の
き,最大リック数の半値を示すデナトニウム濃度
下,種々濃度の苦味溶液,甘味・うま味物質を添
(EC 50 値)は1.41 mM であった。種々の濃度の安
加した溶液を提示し,添加による嗜好変化を解析
息香酸デナトニウムに2.5 mM サッカリン Na を
することにより苦味感低減効果の数値化を試みた。
添加した溶液を提示した場合のリック数を第2図
なお,本実験は独立行政法人農業・食品産業技術
(b)に示す。サッカリン Na 添加により1および
総合研究機構動物実験等実施規定に従って実施し
2mM 安息香酸デナトニウム溶液リック数の増
た。
加が認められ,リックカーブは高添加苦味濃度側
12時間以上絶水させたマウスに0.125~4mM
へシフトした。EC 50 値は1.67倍大きくなってい
安息香酸デナトニウム溶液を提示し,各溶液10秒
た。これは,2.5 mM サッカリン Na 添加が苦味
間のリック数を計測した結果を第2図(a)に示す。
を約40%弱めていることを示している。500 mM
マウスは元来,苦味は嫌いであるが,飲水欲求と
グルタミン酸 Na を添加した溶液を提示した場
のバランスにより,安息香酸デナトニウム0.5 mM
合のリック数を第2図
(c)に示す。グルタミン
程度の苦味までは積極的に摂取行動をとっている
酸 Na 添加でもリックカーブの高苦味濃度側への
ことが示されている。1mM 以上では,濃度依
シフトが見られ,EC 50 値は3.20倍大きくなった。
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(a)
10秒間のリック数
10秒間のリック数
(b)
デナトニウム濃度(mM) サッカリン濃度(mM)
デナトニウム濃度
(mM) グルタミン酸濃度
(mM)
第4図 2mM 安息香酸デナトニウムに対する苦味低減効果
(a):0.06〜15 mM サッカリン Na を添加した際のリック数。
(b):1.2〜300 mM グルタミン酸 Na を添加した際のリック数。
○はデナトニウム単独,●はサッカリン Na あるいはグルタミン酸 Na を加えたもの。値は平均±標準偏差。
これは,500 mM グルタミン酸 Na 添加が苦味を
することが可能であることが分かった。
約69%弱めていることを示している。100 mM 塩
苦味感低減効果の特性を検討するために一定量
化ナトリウムを添加した溶液を提示した場合の
の苦味溶液に種々の濃度の甘味・うま味を添加す
リック数を第2図(d)に示す。塩化ナトリウム添
る実験を行った。2mM 安息香酸デナトニウム
加でもリックカーブの高苦味濃度側へのシフトが
溶液に0.06~15 mM サッカリン Na を添加した場
見られ,EC 50 値は1.85倍大きくなった。これは,
合のリック数を第4図
(a)に示す。添加量の増
100 mM 塩化ナトリウム添加が苦味を約46%弱め
加に応じたリック数の増加が認められた。2mM
ていることを示している。
安息香酸デナトニウム溶液に1.2~300 mM グル
0.03125~ 1mM 塩 酸 キ ニ ー ネ 溶 液 を 提 示 し,
タミン酸 Na を添加した場合のリック数を第4図
各溶液10秒間のリック数を計測した結果を第3図
(b)に示した。添加によりリック数の増加が認め
(a)
に示す。塩酸キニーネにおいても,苦味濃度
られたが,1.2 ~ 30 mM の間で増加量の変化は見
とリック数は4パラメータのS字曲線として近
られず,サッカリン Na 添加のような濃度相関は
似することができ,EC 50 値は0.27 mM であった。
見られなかった。
2.5 mM サッカリン Na を添加した溶液を提示し
おわりに
た場合のリック数を第3図(b)に示す。サッカリ
ン Na 添加によりリックカーブの高苦味濃度側へ
本手法は苦味物質と苦味低減剤が直接作用する
のシフトが見られ,EC 50 値は1.90倍大きくなっ
ことによって起こる苦味低減効果評価に限らず,
た。これは,2.5 mM サッカリン Na 添加が苦味
苦味物質と他の味物質からの味覚情報が別個に脳
を約47%弱めていることを示している。100 mM
へ伝えられた後の脳内処理によって起こる間接的
グルタミン酸 Na を添加した溶液を提示した場
な苦味感低減効果評価,あるいはそれらの混合系
合のリック数を第3図
(c)に示す。グルタミン
における効果評価にも応用できる長所がある。し
酸 Na 添加でもリックカーブの高苦味濃度側への
かし,マウスとヒトで脳内処理機構が同じであっ
シフトが見られ,EC 50 値は1.74倍大きくなった。
ても,その大きさや影響力が同じであるとは限ら
これは,100 mM グルタミン酸 Na 添加が苦味を
ない。ヒト官能試験の前段階として利用可能であ
約42%弱めていることを示している。これらの結
るものの,遺伝的背景・食経験の異なる群である
果から,甘味・うま味・塩味が苦味感低減効果を
ヒトに外挿するには,いっそうの詳細データ蓄積
持っており,本手法でその効果を数値化して比較
が必要となるものと考えられる。
食品と容器
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2012 VOL. 53 NO. 6
参 考 文 献
1)植田眞澄.粒剤の苦味マスキングのための最近の製剤
化技術と展望.岐阜薬科大学紀要,44,18−31(1995)
2)H amashita T, Matsuzaki M, Ono T, Ono M,
Tsunenari Y, Aketo T, Watano S. Granulation of
Core Particles Suitable for Film Coating by Agitation
Fluidized Bed II. A Proposal of a Rapid Dissolution
Test for Evaluation of Bitter Taste of Ibuprofen.
Chem. Pharm. Bull., 56, 883−887(2008)
3)湯淺宏.製剤技術の最新動向 微粒子乾式コーティン
グ法を用いた製剤化技術.粉体技術,2,48−54(2010)
4)桂木能久.苦味阻害剤.表面科学,21,376−381(2000)
5)Sakurai T, Misaka T, Nagai T, Ishimaru Y, Matsuo
S, Asakura T, Abe K. pH-Dependent Inhibition of
the Human Bitter Taste Receptor hTAS2R16 by a
Variety of Acidic Substances. J. Agric. Food Chem.,
57, 2508−2514(2009)
6)Chandrashekar J, Mueller KL, Hoon MA, Adler E,
Feng L, Guo W, Zuker CS, Ryba NJ. T2Rs function
as bitter taste receptors. Cell. 100, 703−711(2000)
7)芳仲幸治 , 竹村優子.高甘味度甘味料スクラロース ・
ソーマチンの農畜水産加工品への応用.FFI ジャーナ
ル,215, 333−337(2010)
8)B reslin PA, Beauchamp GK. Suppression of
bitterness by sodium: variation among bitter taste
stimuli. Chem. Senses., 20, 609−623(1995)
9)Keast RS, Canty TM, Breslin PA. The influence of
sodium salts on binary mixtures of bitter-tasting
compounds. Chem. Senses., 29, 431−439(2004)
10)Manabe Y, Kuroda K, Imaizumi M, Inoue K, Sako N,
Yamamoto T, Fushiki T, Hanai K. Diazepam-binding
inhibitor-like activity in rat cerebrospinal fluid after
stimulation by an aversive quinine taste. Chem.
Senses., 25, 431−439(2000).
11)Y amamoto T, Sako N, Maeda S. Effects of taste
stimulation on beta-endorphin levels in rat
cerebrospinal fluid and plasma. Physiol. Behav., 69,
345−350(2000)
12)Harder DB, Whitney G, Frye P, Smith JC, Rashotte
ME. Strain difference among mice in taste
psychophysics of sucrose octaacetate. Chem. Senses,
9, 311−323(1984).
13)河合崇行.動物行動学に基づいた美味しさの評価およ
びリック計測器の開発.食糧,49,1−20(2011)
新刊紹介
ソフト・ドリンク技術資料 No.166 発刊のお知らせ
(一社)全国清涼飲料工業会では,「ソフト・ドリン
ク技術資料166号」を発刊しました。ご希望の方はホー
ムページよりお申し込み下さい。
◇書 名:ソフト・ドリンク技術資料 No. 166
(2012年・第1号)B5判 173ページ
◇価 格:1部購入の場合=4,500円(全清飲また
は 日清研会員は3,000円),定期購読の場合=
9,000円(全清飲または日清研会員は6,000円)
◎定期購読は年間3冊,価格はいずれも消費税
込,送料サービス,10部以上お求めの場合には
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◇申し込み先:ホームページ http://www.j-sda.or.jp
◇お問合せ先:(一社)全国清涼飲料工業会
TEL 03(3270)7300 担当 坂本または安達
◇内 容
1.飲む茶と食べる茶
(大妻女子大学 大森 正司)
2.フラボノイドパラドックス-代謝変換から機能
性を考える-
(徳島大学大学院 寺尾 純二)
3.微生物の保存方法と品質管理
((独)製品評価技術基盤機構 中川 恭好)
4.PCR を用いた耐熱性カビの迅速識別同定法
(花王
(株) 中川 素一)
食品と容器
384
5.食糧需給の現状と今後の課題
(宮城大学 三石 誠司)
6.欧 米におけるサプリメントのヘルスクレーム
に対する取り組み-1- EU におけるヘルスク
レームの取り扱い
((一社)日本健康食品規格協会 大濱 宏文)
7.第33回コーデックス栄養・特殊用途食品部会報告
((株)明治 土田 博)
8.水の硬度に関する軟水・硬水の分類~その原典
に遡る~
(日本ミネラルウォーター協会 峰 孝則)
9.ネスレのビジネスにおける基本戦略,「共通価
値の創造(Creating Shared Value)」を通じて
のサステナビリティの取り組み
(ネスレ日本(株) 冨田 英樹)
10.カーボンフットプリント制度について
((一社)全国清涼飲料工業会 櫻井 正人)
ティータイム
▶大円食品工業株式会社の歩み
(大円食品工業 ( 株 ) 藤本 栄一郎)
▶福祉政策について思うこと
((一社)全国清涼飲料工業会 渡邊 健介)
▶越境 (カルピス(株) 林 正英)
2012 VOL. 53 NO. 6
●
特別解説
●
生鮮野菜による食中毒を防ぐ
そ め や ・ た か し
東北大学大学院農学研究科
農芸化学専攻博士課程修了。
産業医科大学医療技術短期
大学微生物学助手,同講師
を経て,現在,佐賀大学農
学部准教授。土壌微生物学
の視点から資源循環と食の
安全を研究。
農学博士
染 谷 孝
あろう。諸外国ではどのような汚染が生じている
1.はじめに
のか,それらを未然に防ぐためには,どのような
昨年(2011年),欧米では農産物を介した大規
研究と対策がなされているのか,またなされるべ
模な食中毒が相次いだ。まず5月〜7月にドイツ
きなのか,紹介する。
のハンブルグ市で腸管出血性−腸管凝集性大腸菌
2.諸外国での生鮮野菜による食中毒
事例
O104:H 4(大腸菌 O104)による極めて大規模
な食中毒と溶血性尿毒症症候群(HUS)が発生し,
海外からの旅行者を含む4,000人以上の感染者と
生鮮野菜を介して起きた大規模な食中毒の米国
50名の死者が出た1)。原因食品はスプラウト(大
等での事例を第1表に示す。米国では毎年のよう
豆モヤシやアルファルファなどの新芽野菜)で
に大規模な食中毒が,トマト,レタス,ホウレン
あった。さらに7月〜10月,米国の28州でメロン
ソウ,メロン,スプラウトなどを介して,腸管出
を介したリステリア菌食中毒が発生し,感染者
血性大腸菌 O157:H 7(大腸菌 O157)やサルモ
100名以上,死者30名を数えるに至った2)。
ネラにより発生している。特に2006年にホウレン
このような大規模な集団食中毒の背景には,野
ソウを介した大腸菌 O157食中毒では,全米26州
菜の生食やオーガニック食品を好む現代人の嗜好,
に加えて,輸出先のカナダ,オーストラリア,韓
生鮮野菜やカット野菜の広域流通化などがある。
国まで巻き込み,感染者205名,死者3名を出し
ヒト病原菌による生鮮野菜の汚染は,生産現場か
た 3)。これは広域流通が汚染を広げた典型例で
ら流通,小売り,家庭での消費のどの段階でも起
ある。このホウレンソウはベビースピナッチ(ホ
こりうるが,上記の二例は,生産現場での汚染の
ウレンソウの若葉)として食されるもので,我が
可能性が高いといわれている。
国でも最近普及しつつある。汚染源はカリフォル
幸い我が国では,これらのような大規模な食中
ニア州の特定の有機農場と判明し,農場内の製品
毒事件は起きていない。しかし,生鮮野菜を取り
から本菌が検出され,パルスフィールド電気泳動
巻く状況は欧米と我が国でさして大差はなく,対
法(PFGE)による遺伝子解析で患者から分離さ
岸の火事として看過することなく,今のうちに教
れた菌株と同一であることが確認されている。堆
訓を引き出し,未然に防止対策を強化するべきで
肥(液肥),用水,または野生動物の糞が本菌に
し
食品と容器
たい
ふん
385
2012 VOL. 53 NO. 6
第1表 米国等で生鮮野菜を介して発生した食中毒
品 目
原因菌
発生国
期 間
感染者数
死者数
トマト
サルモネラ
米国
2004年7月
レタス
大腸菌 O157
米国
2005年10月
ホウレンソウ
大腸菌 O157
米国
2006年8月~12月
レタス
大腸菌 O157
米国
2006年11月
ハラペーニョペッパー,セラーノペッパー,トマト
サルモネラ
米国
2008年4月~8月
メロン
サルモネラ
米国
2009年1月~3月
51
0
スプラウト
サルモネラ
米国
2009年2月~4月
235
0
スプラウト
大腸菌 O104
ドイツ
2011年5月~7月
4,321
50
メロン
リステリア菌
米国
2011年7月~10月
146
30
110
0
17
0
205
3
70
0
1,442
2
より汚染されていたが,汚染源として断定するに
さらに昨年(2011年)7月〜10月,米国28州でメロ
は至っていない。
ンを介したリステリア菌(Listeria monocytogenes)
また2008年のサルモネラ食中毒では,1,442名
による食中毒が発生し,感染者146名,死者30名
の感染者と2名の死者を出す大規模な事件となっ
を数えるに至った 2)。このメロンは,2009年の
た。当初トマトが原因食品と断定されたが,その
サルモネラ食中毒と同様,カンタロープという赤
後,メキシコから輸入されたハラペーニョペッ
肉種のマスクメロンである。汚染源としてコロラ
パーとセラーノペッパーが主因とされた(ただし
ド州のある農場が特定され,ここで露地栽培され
トマト原因説も否定されていない)4)。
たメロンや包装器具から同菌が検出され,患者の
さらにスプラウトでは,2009年に全米14州で
菌株と同一であることが PFGE で確認されてい
235名のサルモネラ(Salmonella Saintpaul)感染
る。注目すべきことは,メロンの果肉から同菌が
者を出し,昨年(2011年)5月〜7月にドイツの
検出されていることで,果実内部に侵入した可能
ハンブルグ市で大腸菌 O104による食中毒が発生
性が高いことを示す。リステリア菌は土壌や水に
し,最終的には EU 諸国からの旅行者を含む4,321
広く分布し,欧米では肉や乳製品を介した食中毒
名の感染者と50名の死亡者が発生するという大
が一般的で,メロンが感染源になったのは初めて
規模なアウトブレイク(集団発症)となった1)。
であり,これほど規模が大きいのも珍しい。なお
原因食品は当初スペイン産キュウリといわれ,市
我が国ではリステリア菌による食中毒は従来なかっ
内のスーパーからはキュウリのみならず生鮮野菜
たが,最近,食品からの感染例や生ハム汚染が起
がすべて姿を消し,EU 諸国はスペインからの輸
きているので,我が国でも警戒すべき病原菌である。
入禁止措置をとる騒ぎとなった。その後,ハンブ
スプラウトに関しては,欧米各国で実に多くの
ルグ市郊外の特定の生産施設によるスプラウトが
食中毒が発生している(第2表)。ほとんどがサ
原因と断定された。このスプラウト生産施設はい
ルモネラによるもので,病原性は比較的弱いため,
わゆる有機農場で,種子生産段階での堆肥などに
上記ドイツの O104の事例以外では死者は報告さ
よる汚染,用水の汚染,あるいは人の手を介した
れていない。これらのうち豆モヤシとは主に大豆
汚染などの可能性が指摘されたが,最終的にエジ
モヤシである。我が国ではモヤシは茹でて食する
プトから輸入した種子が感染源として特定された。
のが普通であるが,欧米では生でサラダに使われ
死亡者が多数に上ったのは,HUS を発症して重
ることも多い。このような食習慣の違いも多発し
篤化した感染者が多かったためである(感染者の
ている原因の一つであろう。
ゆ
19.7%)。また,O104という血清型は食中毒では
3.我が国での農産物関連の食中毒の
動向
大変珍しい。スペイン政府はこの件で風評被害を
受けたとして,2億ユーロ(約230億円)の損害賠
償を EU に請求している。
食品と容器
上述のように,諸外国では実に多数の食中毒が
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2012 VOL. 53 NO. 6
第2表 諸外国でスプラウトを介して発生した食中毒
感染源
緑豆スプラウト
原因菌
発生国
期 間
サルモネラ
カナダ
2001年
感染者数
84
死者数
0
アルファルファスプラウト
大腸菌 O157
米国
2003年
13
0
緑豆スプラウト
サルモネラ
カナダ
2005年
648
0
アルファルファスプラウト
サルモネラ
オーストラリア
2005年
125
0
アルファルファスプラウト
サルモネラ
スウェーデン
2007年
44
0
アルファルファスプラウト
サルモネラ
デンマーク他
2007年
45
0
アルファルファスプラウト
サルモネラ
フィンランド
2009年
42
0
豆モヤシ
サルモネラ
英国
2010年
190
0
アルファルファスプラウト
サルモネラ
米国
2010年~2011年
アルファルファスプラウト他
大腸菌 O104
ドイツ
2011年5月~7月
アルファルファスプラウト他
サルモネラ
米国
2011年6月
125
0
4,321
50
21
0
カンサス州立大学の資料5)を改編
生鮮野菜を介して起きている。では我が国ではど
野菜の汚染は従来,まな板などの調理器具を介し
うか? 平成23年度の食中毒発生件数のうち,野
て二次的に起きるものといわれてきたが,調理上
菜およびその加工品(キノコ類を除く)による食
の衛生観念の発達した今日,二次汚染ばかりで説
中毒の割合は,総数1062件のうちの1.1%,総患
明を付けることは難しい。
者数21,616人のうちの1.2%で,いずれも多くはな
諸外国におけるスプラウトを介した食中毒の多
い6)。しかし,大腸菌
O157による食中毒の原因
さと比べると,我が国ではこの手の生鮮野菜によ
として判明している食品のうち約26%が「野菜 ・
る食中毒はほとんど聞かない。1996年に大阪府等
野菜サラダ」である(1996年〜2003年の集計)6)。
で大腸菌 O157による集団食中毒が発生した際に
第3表 植物体内への食中毒菌の侵入の可否に関する実験例(水耕栽培)
出展
Itoh ら,1998
Wachtel ら,2002
Warriner ら,2003
Jablasone ら,2005
菌種
大腸菌 O157
大腸菌 O157
大腸菌 P36
大腸菌 O157
サルモネラ
リステリア菌
Franz ら,2007
Kroupitski ら,2009
Sharma ら,2009
大腸菌 O157
サルモネラ
サルモネラ
大腸菌 O157
作物
栽培基質の滅菌
接種菌濃度
(Log CFU/ mL
or g dry soil)
侵入
カイワレ
レタス
スプラウト
レタス
ラディッシュ
ホウレンソウ
クレス
レタス
ラディッシュ
ホウレンソウ
クレス
レタス
ラディッシュ
ホウレンソウ
クレス
レタス
レタス
レタス
ホウレンソウ
滅菌
*
滅菌
滅菌
滅菌
滅菌
滅菌
滅菌
滅菌
滅菌
滅菌
滅菌
滅菌
滅菌
滅菌
非滅菌
非滅菌
―
滅菌
3
*
7
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
7
7
8
4~7
+
+
+
+
+
+
+
+
+
-
-
-
-
-
-
-
+
+
+
*未記載
食品と容器
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第4表 植物体内への食中毒菌の侵入の可否に関する実験例(土耕栽培)
出展
菌種
作物
栽培基質の滅菌
接種菌濃度
(Log CFU/ mL
or g dry soil)
侵入
Solomon ら,2002
大腸菌 O157
レタス
非滅菌
4~8
+
Wachtel ら,2002
大腸菌 O157
レタス
*
*
+
Franz ら,2007
サルモネラ
レタス
非滅菌
9
+
大腸菌 O157
レタス
非滅菌
9
+
Sharma ら,2009
大腸菌 O157
ホウレンソウ
低温殺菌
4~8
-
Miles ら,2009
サルモネラ
トマト
非滅菌
7
-
*未記載
は,カイワレ大根が原因食品として疑われたが,
ら(2007)などに限られている。彼らの試験では,
生産施設からは培養検査で検出されず,汚染源は
107CFU/mL という比較的高濃度の菌液でも大腸
特定されなかった。このとき,生産業者は多大の
菌 O157は侵入しなかった点に注目すべきだろう。
風評被害を受け,衛生管理を強化した。その要点
彼らの場合,水耕液は非滅菌で,根圏常在菌の影
は(社)日本施設園芸協会による「かいわれ大根生
響も考えられる。Jablasone ら(2005)の実験で
産衛生管理マニュアル」7)に結実している。スプ
は,根圏から分離した常在菌を水耕液に混合接種
ラウトによる食中毒の欧米との違いは,我が国で
すると,大腸菌 O157やリステリアのレタス中の
は1996年の教訓が生かされているためといえよう。
菌数が1ケタ低下しており,根圏常在菌が侵入の
バリアーになっている可能性が指摘されている。
4.植物体内への侵入をめぐって
このように,植物体内への侵入に関しては知見
メロンやトマトの場合,食中毒菌が果肉まで侵
が限られている。侵入を左右する因子としては,
入していないと感染することは考えにくい。事実,
病原菌の濃度,菌株の違い,水耕液や土壌の滅菌
米国でのリステリア汚染の事例では,カンタロー
の有無,植物の種類と栽培齢,温度,土壌養分,
プメロンの果肉内から本菌が検出されている 2)。
根圏微生物の発達の程度など多くが考えられる
またレタスなどの葉菜類でも,単に表面に付着し
が,これらに関するデータは極めて少ない。そこ
ているだけではなく葉内にまで侵入していた場合,
で,「新たな農林水産政策を推進する実用技術開
食前の洗浄では除去除菌できない。塩素消毒でも
発事業(課題番号1950,平成19〜21年度,研究代
葉の内部への殺菌効果は薄くなる。そのため,植
表者:染谷 孝)」で水耕栽培と土耕栽培での侵
物体の内部にまで侵入するかどうかは,感染防御
入試験が非病原性大腸菌を用いて検討された。そ
の上で重要な因子である。この点について内外で
の結果,水耕栽培では107CFU/mL 以上でコマツ
いくつかの試験研究がある。
ナ,レタス,ホウレンソウに侵入するがハツカダ
水耕栽培に関しては(第3表),カイワレ大根
イコンには侵入しなかった。一方,土耕栽培では
への大腸菌 O157の侵入を実験的に試験した日
108CFU/g 乾土でも侵入が認められず,現場に
本の研究が最初の研究例である。カイワレ,レ
近い条件では,土壌での侵入は起こりにくいと考
タス,スプラウト,ホウレンソウなどで大腸菌
えられた8)。さらに農水省プロジェクト「生産・
O157やサルモネラの侵入が認められているが,研
流通・加工工程における体系的な危害因子の特性
究例がまだ少ない。水耕液中の病原菌濃度が102
解明とリスク低減技術の開発(平成20〜24年度)」
CFU/mL という低濃度でも侵入している例もあ
では,大腸菌 O157やサルモネラを用いて試験的
る。ただしこれらの実験の多くは,無菌水耕液を
に検討されている。
用いた幼植物(発芽10日以内)に対する試験であ
土耕栽培では,さらに研究例が限られている
り,生産現場に近い条件で試験された例は Franz
(第4表)。レタスへの大腸菌 O157およびサル
食品と容器
388
2012 VOL. 53 NO. 6
モネラの侵入が認められているが,Solomon ら
業環境における生態を解明し,汚染経路を断つこ
(2002)のデータは幼植物による実験によるもの
とが重要である。最も病原性の高い大腸菌 O157
である。Franz ら(2007)は30日間以上栽培して
に関しては,第1図のように模式化できる。すな
おり,この点ではより現場に近い条件であり,サ
わち,牛は本菌の健康保菌動物であり,生の牛糞
ルモネラと大腸菌 O157の葉内侵入を認めている。
は汚染源となりうる。欧米では牛糞の0.3〜16%
しかし現実にはあり得ない極めて高い菌濃度(109
から,我が国では0.3〜1.5%から本菌が検出され
CFU/mL)での結果である。
ている 9)。ハエなどの衛生昆虫が本菌を媒介伝
トマトやメロンなどの果菜類については,栽培
播し,放牧は糞から牧草への汚染を介して牛の保
期間が長いためもあり,侵入試験の報告は極めて
菌率を上げる。牧野の雨水は表面水となって水系
限られている。サルモネラ菌液をトマトの幹に直
汚染をもたらし,農業用水汚染につながる。未熟
接注射するという方法を用いて,果実に移行した
な牛糞堆肥も農作物汚染の主要な原因となる10)。
という実験もあるが(Guo ら,2001),傷口から
牛肉や野菜の生食は,本菌による食中毒のリスク
の侵入を想定したとしても,やや現実からかけ離
を高める。ハイリスクグループは妊婦,乳幼児,
れすぎているといえよう。ただし我が国ではトマ
高齢者である。
トなどで「芽欠き」という処理が行われる。この
このような感染経路を考慮すると,農業環境で
ような人工的な傷口からはたして病原菌が侵入す
の衛生管理がいかに重要であるか理解できよう。
るものか,その実験的解明が望まれる。
まず,畜舎での牛の大腸菌 O157保菌率を監視し,
ぱ
保菌個体を特定して除菌対策を施す。これには,
5.汚染経路の解明と農業資材の衛生
管理
飼料の種類を変えるなどの方法が検討されてい
る11)。 牛 糞 な ど を 原 料 に 用 い る 家 畜 糞 堆 肥 は,
適切な水分制御等により温度管理に努め,病原菌
生産現場での汚染を防ぐには,ヒト病原菌の農
第1図 大腸菌 O157の推定される感染経路 染谷・井上(2003)の図を一部改変
食品と容器
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2012 VOL. 53 NO. 6
UV 励起(DAPI)
Green 励起(大腸菌プローブ)
Blue 励起(O157 抗体)
第2図 マイクロコロニー FISH / 蛍光抗体法による大腸菌と大腸菌 O157 の迅速検出
大腸菌 K 12と大腸菌 O157 の混合液を用いた。蛍光顕微鏡の同一視野で,DAPI によりすべての細菌が検出され(左図),大腸
菌プローブにより大腸菌が検出され(中央図),O157抗原に対する蛍光抗体法により大腸菌 O157 のみが検出される(右図)
。
の殺菌に必要な温度と時間を達成させる(定説は
6.病原菌の迅速高感度検出技術
ないが,55℃以上で3週間以上など)。農業用水
の衛生管理も重要である。
生産現場での食中毒菌の感染経路を具体的に解
堆肥の衛生基準に関しては,米国 EPA ではバ
明するには,様々な解決すべき課題がある。例え
イオソリッド(汚泥発酵肥料)の微生物基準とし
ば,土壌や堆肥,作物の汚染を検査するには,試
/g未満またはサル
料の採取法や検査法の最適化・標準化が必要であ
モネラ3個 /4g未満であれば広く流通販売でき
る。我が国では,食品や飲料水の細菌検査に関す
るが,糞便性大腸菌数が10 3 個 /g~ 10 6 個 /gの
る公定法があるが,環境試料にそのまま適用でき
場合,農地への使用が極めて限定される(例えば
るか不明である。
散布後2カ月以上経過しないと作付けしてはなら
特に,汚染農産物や汚染経路の特定は多くの場
ない,など)。カナダやオーストラリア,EU 諸
合困難を極める。この原因の一つとして,環境に
国では,EPA の上記基準が堆肥(コンポスト)
出たヒト病原菌が難培養状態になるという性質が
一般に適用され,さらに厳しい基準を課している
指摘されている13)。ドイツでの大腸菌 O104の原
場合もある。我が国では堆肥の衛生基準はないが,
因食品の解明は極めて難航し,当初原因食材とさ
て,糞便性大腸菌数が10 3 個
(社)日本施設園芸協会が生鮮野菜衛生管理ガイド
れたスペイン産のキュウリは後に白と判明し,国
12)の中で,目安を出している。すなわち,発酵
際的な風評被害によりスペインから損害賠償を請
温度は60℃以上を2週間以上保持すること,製品
求されるに至った(実はキュウリからは別の血清
の水分は30%以下とすること(病原菌の再増殖の
型の腸管出血性大腸菌が検出されたのであって,
防止),作業機械や器具を原料用と製品用とで区
まったくの潔白ではない)。ドイツのスプラウト
別すること(交差汚染の防止),製品の病原菌検
から分離された大腸菌 O157は,銅イオンが存在
査(サルモネラ,大腸菌など)の実施が好ましい
する精製水や水道水中で急速に難培養化し,しか
等である。なお,上記ガイドは,堆肥に関しての
しその間も生存が確認され,毒素遺伝子が発現可
みならず,生産現場での衛生管理について,施設,
能な状態で保たれていたこと,その後,銅イオン
人,用水,資材等に関して明瞭・詳細に述べてお
を除去すると,すぐさま培地上でコロニーを作り
り,有用な衛生管理ガイドとなっている。
培養可能となることが判明している14)。すなわ
りょう
ち,難培養化しても何らかの条件で病原性と培養
食品と容器
390
2012 VOL. 53 NO. 6
性を回復することがある。
我が国の衛生管理改善の参考とすべきである。減
このような場合,通常の培養検査では検出でき
農薬・減化学肥料・有機栽培による持続的農業を
なくなるため,培養に依存せずに生菌を検出でき
推進するためにも,安全でかつ肥料効果の高い堆
る方法が必要である。筆者らは,培養法と蛍光染
肥の製造法・衛生管理法の確立を含め,生産から
色法を併用して難培養性菌を迅速簡便に自動検
消費までの衛生管理の向上が,いまやいっそう必
出定量できる手法の開発を進めている(第2図)。
要とされている。
堆肥や土壌,農業用水などの試料をフィルターで
本稿は,農水省委託プロジェクト「生産・流
濾過し,これを寒天培地上に置いて一晩インキュ
通・加工工程における体系的な危害因子の特性解
ベーションすると,常在菌も病原菌もマイクロコ
明とリスク低減技術の開発」の中間成果発表会
ロニーという肉眼では見えない小さなコロニーを
(2011年11月2日,つくば)で講演した内容に加
ろ
筆修正したものである。
形成する。このマイクロコロニーは,難培養化し
た病原菌でも形成することが確かめられている。
参 考 文 献
そこで,大腸菌特有の遺伝子を蛍光ハイブリダイ
ゼーション(FISH)という手法で染色し,さら
1)Robert Koch Institute,(2011)
〈http://www.rki.de/
EN/Home/EHEC_final_report〉
(2012/5/15アクセス)
に O157 抗原を蛍光抗体法で染色する。こうする
2)C enters for Disease Control and Prevention,
と,蛍光顕微鏡下で緑色の励起光をマイクロコロ
(2011)〈http://www.cdc.gov/listeria/outbreaks/
ニーに当てると大腸菌が検出され,青色の励起光
cantaloupes-jensen-farms/120811/index.html〉
を当てると O157 が検出される。両方に反応した
(2012/5/15アクセス)
3)J. Grant, et al., Emerging Infectious Diseases, 14, 1633
のが大腸菌 O157 のマイクロコロニーである。こ
−1636 (2008)
の手法により,難培養化した大腸菌 O157 でも生菌
4)F DA - CDC, (2008)〈www.fda.gov/downloads/
NewsEvents/Newsroom/MediaTranscripts/
数を測定できる。さらに,マイクロコロニー自動
計数装置(中央電機計器製作所,MGS−10MD)
ucm121300. pdf〉(2012/5/15アクセス)
を用いると,自動定量が1試料わずか1分間で行
5)bites(Kansus State University),
〈http://bites.ksu.
edu/sprouts-associated-outbreaks〉(2012/5/15アク
えるので,極めて迅速簡便となる15)。
セス)
7.おわりに
6)厚生労働省食中毒事件一覧速報 ,〈http://www.mhlw.
go.jp/topics/syokuchu/04.html#4-2〉(2012/5/15アク
上述のように,未熟堆肥は生鮮農産物の汚染源
セス)
となり,堆肥製造における衛生管理は汚染防止上
7)農林水産省農産園芸局野菜振興課,
〈http://www.phcjapan.net/foodwater/o157HACCP.html〉(2012/5/15
最も重要な管理ポイントの一つである。しかし我
アクセス)
が国では,堆肥の衛生上の品質に関して公的な基
8)甲 斐憲郎・染谷 孝 , 土づくりとエコ農業,43, No.
準がない。そもそも,堆肥の山は温度も水分も分
10・11, 44−47(2011)
布が不均一であり,検査のためにどのように試料
9)染谷 孝ほか , 農業技術体系 , 土壌肥料編 追録14号 ,
第7−①巻,資材64の84−98,農文協(2003)
を採取していいかの基準もない。さらに,堆肥化
10)龚 春 明 ほ か, 日 本 土 壌 肥 料 学 会 誌,76, 865−874
過程で何℃を何日間維持すれば病原菌を死滅させ
られるかを判断するための基礎データは少ない。
前述の農水省プロジェクトでは,堆肥の山の内部
publication/.../news1404.pdf〉(2012/5/15アクセス)
温度や大腸菌数等の空間的時間的変化を現場規模
12)農林水産省,
〈www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/
k_yasai/pdf/guide.pdf〉(2012/5/15アクセス)
で詳細に試験検討しているので,多くの知見が得
13)染谷 孝ほか , 土と微生物 , 53, 45−51(1999)
られると期待される。
14)P. Aurass et al., Environ. Microbiol., 13, 3139-3148
米国で毎年のように見られる大規模な生鮮野菜
(2011)
を介した食中毒の発生は,まさに他山の石として
食品と容器
(2005)
11)中 澤 宗生,
〈www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/
15)X. Wang et al., J. Microbiol. Methods, 71, 1−6(2007)
391
2012 VOL. 53 NO. 6
業
T
界
O
ト
P
ピ
I
ッ
C
ク
S
ス
的に事業を育成していく考えだ。
ミネラルウォーター 震災契機に激変
「い・ろ・は・す」のコカ・コーラシステムは,
全国に7カ所ある採水地をフル活用したキャンペ
ミネラルウォーター市場は,昨年の東日本大震
ーンを開始。地元採水地に根ざした天然水により
災により需要の流れが大きく変わった。震災を契
20~30代の購買層を獲得。全国の地元の水資源の
機に安心・安全志向が急速に高まり,加えて国産
保護活動を支援するプロジェクトも展開している。
大容量による備蓄需要が急増。これが昨年のトー
国産の「アルカリイオンの水」,輸入の「ボル
タル飲料市場を牽引した。
ヴィック」を展開しているキリン MC ダノンウ
今年も序盤はこの傾向が続いている。3~4月
ォーターズは,「アルカリイオンの水」は富士山
は昨年の震災による特需のハードルが高かったが,
が育んだ天然水をアルカリイオン化した点を継続
これをも軽く跳ね返して好調持続。一旦,水道水
訴求。「ボルヴィック」は,4月から再生可能な
からミネラルウォーターに移ると再び水道水には
植物由来素材を一部原料に使用した新ボトルを導
戻りにくいことを業界は改めて確認。通年でも昨
入。新作テレビ CM でブランドロイヤルティー
年の横ばい以上の需要が見込まれている。
を高める。
一方,500ミリ PET を中心とした小型パーソ
アサヒ飲料の本格参入が焦点
ナルサイズは,大型 PET ほどの勢いはないが,
序盤の台風の目は今年から本腰を入れ始めたア
これも堅調推移。これを小型輸入 PET が追って
サヒ飲料だろう。従来の六甲工場に富士山工場を
いる。
新たに加えて生産体制を強化し,ロングセラーブ
パーソナルはローカルブランドの台頭もあり,
ランド「六甲のおいしい水」のブランドコンセプ
コンビニ,自販機を中心に,夏場に向けて有力ブ
トを継承しながら新ブランド「おいしい水」を立
ランドが乱れ飛んでおり,震災の影響でできなか
ち上げ,中部・北陸を境に東で「富士山」,西で
「六甲」を販売する。
ったマーケティング活動を今年から本格化し,昨
年の遅れを取り戻そうと勢いづいている。だが輸
富士山工場では既存ラインに設備投資を行い,
入ブランドだけは出遅れは否めない状況で,今後
1ラインでパーソナルとホームサイズが生産でき
の巻き返しが注目される。
るよう改良。「富士山のバナジウム天然水」も自
昨年の震災直後は,量販店での特売が極端に減
販機で継続販売する。
少。資材が制限された状況だけに実勢価格も上が
伊藤園・伊藤忠ミネラルウォーターズの「エビ
ったが,今年に入って連休以降は再びブランド攻
アン」は,女子テニスプレイヤーのマリア・シャ
防戦が展開され,特売合戦が再燃した。今後,夏
ラポワを起用した店頭販促物でアピールするなど
本番に向けて PB が本格化すれば,再びオーバー
ブランドの認知アップを図る。
サプライになる可能性は十分あり,再び特売合戦
「クリスタルガイザー」の大塚食品は「マイ・
が懸念されよう。
ファースト・ウォーター・フロム・マウント・シ
サントリー 宅配事業に本格参戦
ャスタ」をテーマに掲げ,中長期の取り組みとし
サントリーは,20~30代の若い世代を中心にパ
て子供や母親へのアピールを展開。サッポロ飲料
ーソナルサイズを猛アピール。今年から家庭用宅
の「ゲロルシュタイナー」なども店頭を賑わして
配事業にも本格参入し,東芝ホームアプライアン
いる。
(業界誌記者 井上拓郎)
スと共同開発した新ウォーターサーバーを1都3
県で展開。今後はエリア拡大も視野に入れ,長期
食品と容器
392
2012 VOL. 53 NO. 6
技術用語
解説
「容器の事典」(缶詰技術研究会編)から抜粋
である。今後,断熱材,滑り止め,クッション剤
発泡インキ〔expandable ink〕
の分野等で応用展開が期待されている。
発泡インキとは,インキ中に添加された熱膨張
られる特殊な機能性インキである。この熱膨張剤
発泡スチロール
〔expanded polystyrene〕
は,液状の低沸点炭化水素を熱可塑性高分子樹脂
ポリスチレンをブタンガス等で発泡させたもの
剤が印刷後の加熱処理によって膨張し,凹凸が得
(シェル)で包み込んだマイクロカプセルであり,
で,発泡ポリスチレンともいう。
シェルの膜厚は2~15μm ,カプセルの粒径は5
① 製 造 法: そ の 製 造 法 に よ っ て EPS,PSP,
~50μm の範囲で,膨張開始温度も80~150℃ま
XPS の3種類に大別される。
で各種グレードが工業化されている。シェルは,
1)EPS(Expanded PolyStyrene) は, 直 径 1
加熱することで軟化し,同時に中の液状炭化水素
mm 程度のポリスチレンビーズにブタンガス等
が気体に変化するため,その圧力でカプセルが膨
を吸収させ,これに 100℃以上の蒸気を当てて
張する。その様子は丁度ピンポン玉がバレーボー
発泡させ,ビーズ同士を融着させさまざまな形
ルくらいに膨らんだ状態で,体積が50~100倍に
状とする製法である
なり,さらに過剰な加熱を続けると,薄くなった
2)PSP(PolyStyrene Paper)は,押出機の中
シェルをガスが透過拡散するため,内圧よりも
で溶融させたポリスチレンにブタンガス等を注
シェルの張力と外圧が勝り収縮が起きる。従って
入し,押出機を出たところから,厚み数ミリ程
目的の膨張倍率を得るためには,その熱膨張剤に
度のシート状に引き伸ばすと同時に発泡させ
適した加熱条件を設定することが重要である。ま
る。加工は PSP を加熱した金型でプレスして
た,シェルの耐溶剤性は水,芳香族炭化水素系,
成形する。
イソプロピルアルコール,ブチルアルコールは問
3)XPS(Extruded PolyStyrene) も PSP と 同
題ないが,低沸点のアルコール,エステル系,ケ
様に,押出機の中で溶融させたポリスチレンに
トン系溶剤は,膨張阻害があるため有機溶剤型イ
ブタンガス等を注入し,押出機出口で引き伸ば
ンキや塗料への展開には注意が必要である。膨張
すが,厚みが10 cm 程度と厚く,強度が強い。
皮膜の特徴として立体的な外観のほか,熱伝導性,
②用途:
圧縮弾性率,摩擦係数等があげられ,それぞれの
1)EPS:魚介類のトロ箱,カップ麺容器,梱包
特徴を生かした用途展開が検討されている。実用
緩衝材等。
例として,盲人用点字,立体地図,Tシャツ等で
2)PSP:カップ麺容器,納豆容器,食品トレー等。
の水性シルクスクリーンインキがあげられるが,
3)XPS:畳芯材,住宅外壁の断熱材等の建材。
他の印刷インキの具体的応用例は少ないのが現状
ご案内
缶詰技術研究会設立50周年記念として『容器の事典』を出版しました。
・容器(缶,プラスチック,紙,ガラス)に関する材料から製造方法まで広範囲に解説
・見出し語:約1,300項目(文中語はゴシックで示し,邦語索引から検索可能)
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ご購入希望の方は,巻末の通信カードよりお申し込み下さい。
食品と容器
393
2012 VOL. 53 NO. 6
業界の話題
日本食糧新聞社・食サーチ(http://news.nissyoku.co.jp/)より
大震災契機に無洗米市場拡大ト
増設があり,ラインそのものの
ップ「BG 無洗米」も6%超の
拡大もこの動きを後押しした。
性評価試験が求められている。
EZ- X シリーズは,多彩なソフト
伸び (日食 2012/04/18 日付)
加えて雑賀慶二社長は「BG 無
ウエアと試験治具を揃えている。
【関西】東日本大震災を機に
洗米にさらなる付加価値を付け
小容量で高精度な試験要求があ
無洗米が脚光を浴び,市場が拡
た『金芽米』の販売量も順調に
る「食品のテクスチャー評価」
大している。うち約7割を占有
増加したうえ,昨秋発表した
に最適。紙・フィルム・ゴム・
する「BG 無洗米」の精米機メー
『サイカ式精米法』の生産設備
プラスチックなどにも使える。
カー,東洋精米機製作所は11日,
導入も進んで本格デビューは近
価格は税別130万円から,初年
前年度生産量が前年比6%増の
い」としており,この後押しも
度国内外で350台を販売する予
46万 t を超える見通しと発表し
今後楽しみなところだ。
定。
た。発売後ほぼ20年を経過し当
BG 無洗米とは,ぬかでぬかを
EZ Test は,
操作性に対するさ
初は右肩上がりで伸長してきた
除去して得られ,研ぎ洗い不要
まざまな要求に応えるために
ものの,近年は絶対量が大きく
な簡便性はもとより,水環境に
(1)研究開発向け(2)品質
なったことや普通精米の価格競
負荷を与えるコメのとぎ汁が一
管理部門向け(3)PC を接続せ
争激化に巻き込まれ,横ばい状
切排出されないメリットがある。
ず単体で使用できる高効率型の
態が続いていたが久々,拡大に
同社はこの製造設備を相手先と
3種を用意した。小型卓上試験
転じた。
の合弁企業設立,もしくはレン
機は,治具を交換するたけで引
中でも消費者向けの数字が拡
タル方式で提供しており,生産
っ張り・圧縮・曲げ・剥離など
大しており,震災直後の原発事
量を正式把握できることが,今
種々の試験を簡単に行うことが
故による水の汚染問題や炊き出
回の発表の背景にある。
できることから,さまざまな分
野の物性評価に用いられている。
し支援などで脚光を浴びたこと
から,従来無洗米に関心のなか
島津製作所,業界最高クラスの
生鮮食品や加工食品を生産・
った層が注目し,実際に使用し
小型卓上試験機発売
製造しているメーカーでは,味
メリットを認識したことが挙げ
(日食 2012/04/20 日付)
に加えて「サクサク感」「モチ
られる。さらに,防災用の備蓄
島津製作所は「手軽で,使い
モチ感」「歯ごたえ」「舌ざわ
食料用として,研ぎ洗い不要な
やすく,高機能」をキーワード
り」などの食感やテクスチャー
メリットで需要が高まっている
として,全世界の小容量試験市
の評価が行われる。従来,これ
ことが予想される。
場に向けて業界最高クラスの小
らの評価は検査員が実際に食し
現に,昨年3月から1年間の
型卓上試験機 EZ Test「EZ-X
て判定する官能試験が中心だっ
月別生産量がすべて前年同月比
シリーズ」29機種を開発した。
た。検査員間の感覚の違いや体
を上回っている。さらに特筆す
11日から発売している。試験力
調の変化などで再現性が難しく,
べきは,3~7月の増加率が同
測 定 精 度 が 指 示 値 の ±0.5 %,
官能試験を補う客観的な定量評
2~4%に対し,8月以降は同
保証範囲500分の1~1,制御
価が求められていた。EZ Test は
5~ 12%と拡大。一過性の動
精 度・ 試 験 速 度 毎 分0.001~
多数の専用治具とソフトウエア
きではないことがうかがえる。
2000mm(HS タイプ)を実現,
をラインアップしており,食感
こうしたニーズの高まりを背
食品テクスチャー評価などさま
やテクスチャーを数値化して評
景に前年度,沖縄食糧や BG 無
ざまな試験に対応する。近年,
価する多様な試験が可能だ。食
洗米製造工場は4ヵ所で新設・
これまで以上に多くの分野で物
品のテクスチャー評価は,高齢
食品と容器
394
2012 VOL. 53 NO. 6
者や口腔に障害を持つ人が安全
の普及を加速させていく。
針。震災影響で昨年,生産状況
においしく食べられるように開
GRAS は,米国の食品安全に
が深刻化した市場の中で,“重
発された介護食の分野でも注目
関する独自の認証制度。これに
鎮団体”である同協会の公益化
されており,今後さらに用途は
認証された物質は厳格な審査に
がどう影響するか要注目だ。
広がるものと考えられる。
より安全性が保証されている食
同協会ではこれまでも“消費
品または食品成分として,米国
者利益に貢献することが結果と
ヤクルト本社,「ラクトバチル
だけでなく国際的に広く認めら
して業界の発展をももたらす”
ス カゼイ シロタ株」が米国で
れている。食品またはその原料
という消費者起点に立ち,缶
GRAS 認証取得
を販売する場合には,GRAS と
詰・瓶詰・レトルト食品の安全
して認証された物質であること
性確保,品質向上のための試験
ヤクルト本社の「ラクトバチ
が望ましいとされており,97年か
研究・技術開発・技術指導など
ルス カゼイ シロタ株(乳酸菌
ら 自 己 認 証(Self Determined
を実施。さらに特性を消費者に
シロタ株)」がこのほど,米国
GRAS Declaration)に基づく米
伝えるための普及啓発,調査な
で GRAS 物質
(Generally Recog-
国 FDAへの届出制
(Notification)
どの活動を推進してきた。同協
nized as Safe Substances:米国
が導入されている。
会では「内閣府の認定はこれら
で一般に安全と認められる食
同社は国際事業を積極的に推
を“公益”と評価した結果」と
品)の認証を取得した。
進し,現在は海外28の事業所を
解釈しており,公益法人移行後
今回の GRAS 認証は,自己
中心に日本を含む32の国と地域
もこれまでの事業を原則的には
認証で,毒性学・栄養学・分子
で展開しており,「ヤクルト」
踏襲。ただし「これまで以上に
生物学の著名な学識経験者によ
をはじめとした乳製品の一日平
消費者起点に立った活動である
って厳密に審査され取得した。
均 販 売 は, 約2,900万 本(11年
ことをアピールしていきたい」
この認証取得は,乳製品乳酸菌
12月末時点)となっている。
方針だ。
飲料「ヤクルト」をはじめとし
また米国では,アメリカヤク
缶詰・瓶詰・レトルト食品市
た同社の乳製品に使用されてい
ルトが99年から乳製品乳酸菌飲
場は昨年,震災による見直しで
る「ラクトバチルス カゼイ シ
料「ヤクルト」の販売を通して,
需要が増大。一方で供給面では,
(日食 2012/04/23 日付)
ロタ株(乳酸菌 シロタ株)」の
「ラクトバチルス カゼイ シロ
特に缶詰は生産拠点が震災によ
安全性が米国でも高く評価され
タ株(乳酸菌 シロタ株)」の保
る打撃を受けたことで生産量が
たといえる。
健効果を訴求しており,販売実
激減。生産状況が回復しつつあ
同社では,GRAS 自己認証の
績は好調に推移している。
る今年は,市場再興に向けて重
要な年となる。
取得に続いて,今後米国 FDA
(食品医薬品局)に届け出を行
日本缶詰協会,公益社団法人で
ただし,市場では缶詰の持つ
う。FDA からの認証を受ける
新スタート 消費者起点をアピ
耐久性や保存性,即食性などの
ことができれば,FDA の Web
ール (日食 2012/05/02 日付)
機能に対する評価が上がってお
サイトなどを通じて「乳酸菌
日本缶詰協会は3月下旬,内
り,惣菜缶などは今夏以降,積
シロタ株」の安全性が広く認知
閣総理大臣から公益社団法人へ
極的な商品上市が予想されてい
されることになる。今後 FDA
の移行認定通知を受け,4月1
る。これらを考慮すると,今後
からも認証を取得し,「ラクト
日付で移行登記を完了した。す
の巻き返しは十分に期待できる
バチルス カゼイ シロタ株(乳
でに消費者視点による公益性の
状況だ。
酸菌 シロタ株)」の安全性への
高い活動を行ってきた同協会だ
公益社団法人は従来までの社
認知度を向上させ,米国をはじ
が,今回の公益法人化により,
団法人と比較して,法人運営に
め世界各国で「ヤクルト」など
この動きをさらに強めていく方
対する制約要件が増し,消費者
食品と容器
395
2012 VOL. 53 NO. 6
全般の利益に貢献することを目
震災以前と現在の食生活を比
カルリサイクル PET(※)フ
的とした事業がより必要になる。
べて「変わらない」と答えた人
ィルムを貼り合わせた環境配慮
認定前から,安全・高品質化へ
は55.8%と大半を占めたものの,
型ラミネート包材を世界で初め
の研究,災害時を想定したウォ
性別で見ると男性が67.9%,女
て開発した。トイレタリー分野
ークラリーや消費者からのアイ
性は45.9%と開きがある。特に
の詰め替え用スタンディングパ
デアレシピ募集と公開など,公
男女差が顕著なのが50代で,男
ウチや食品・医薬品包材向けに
益性の高い事業を多く展開して
性が70.7%に対し女性は約半分
展開し,中旬から販売を開始す
きている。市場活性化と公益性
の36.9%にすぎず,食生活に対
る。今後は同製品のバリア性の
の両面が求められる中で,今後
する問題意識の性差・年代差も
向上や包材の薄肉化を推進し,
はこれら事業が消費者起点に立
浮き彫りとなった。
メカニカルリサイクル PET フ
って行われていることを,より
震災前後の変化で「増えたり,
ィルムを用いたラミネート包材
強くアピールしていくことが必
広 が っ た り し た も の 」 で は,
の製品全体で,15年度に20億円
要になってくるだろう。
「食品の安全性不安」「家族と一
緒の食事」震災後増える 内閣
府「食育に関する意識調査」
「食品の安全性への不安」26.1%
の売上げを目指す。
(30代 女 性 が 最 も 多 く44.2 %),
同製品に使用したラミネート
「節電に配慮した食生活」17.1%,
用メカニカルリサイクル PET
「地場産物の購入」14.6%が上位
フィルム「サイクルクリーン
(R)」は,凸版印刷と東洋紡が
となった。
今後の食生活で力を入れたい
共同で開発したもの。同 PET
内閣府は4月20日,昨年12月
ことは,「栄養バランスの取れ
フィルムは,リサイクル樹脂の
に実施した「食育に関する意識
た食事の実践」が最も多く58.4
使用比率で80%という世界最高
調査」の結果を発表した。東日
%,「食品の安全性への理解」
レ ベ ル を 実 現 し た。 非 再 生
本大震災前後の食生活で変化し
50.5%,「食べ残しや食品の廃
PET フィルムに比べて,素材
たことを尋ねると,「食品の安
棄の削減」47.1%と続く。「家
製 造 段 階 ま で の CO2の 排 出 量
全性不安」が広がったと答えた
族や友人と食卓を囲む機会の増
を約40%削減できる。高い加工
人は26.1%で,子育て世代の30
加」44.6%は,一昨年の前回調
技術により,再生原料を使用し
代女性を中心に多く見られた。
査に比べ,約14ポイント増え,
ながら衝撃強度や引張強度,貼
家族との共食頻度を尋ねる項目
食を通じて絆を強めることを重
り合わせ強度など各種物性で,
では,「ほとんど毎日」家族と
視する傾向が見られた。
非再生 PET フィルムを使用し
一緒に食べると答えた人が朝食
「メタボ予防や改善のため食
た場合と同等の性能がある。
で約6割,夕食で約7割に上り,
事・運動等を実践している人」
これまで再生 PET は,回収
一昨年の前回調査に比べ朝食で
は42.6%で昨年調査比約1ポイ
された PET ボトルを洗浄・粉
10ポイント,夕食で15ポイント
ント増,「食育に関心のある人
砕したものをそのまま原料とし
増えた。
の割合」は72.3%で昨年比約2
て使用していたために,不純物
同調査は内閣府が07年から毎
ポイント増と,両項目ともほぼ
が多く混入し,衛生面で課題が
年実施しており,11年12月の調
横ばいだった。
あった。
(日食 2012/05/07 日付)
査 で は, 全 国20歳 以 上3,000人
一方,衛生的で高品質なメカ
を対象に,調査員による個別面
凸版印刷,環境配慮型ラミネー
ニカルリサイクル PET 樹脂を
接聴取の方法で有効回答率62%
ト包材開発 メカニカルリサイ
用いたボトルやラベルはこれま
を得た。東日本大震災前後の食
クル PET フィルム使用
でもあったが,他素材のフィル
生活の変化を聞く項目が初めて
追加された。
食品と容器
(日食 2012/05/09 日付)
凸版印刷はこのほど,メカニ
396
ムと貼り合わせた包材に使用で
きるような再生 PET フィルム
2012 VOL. 53 NO. 6
はなかった。
今回のトマトジュースの販売点
日本マタイはこのほど,放射線
※メカニカルリサイクル PET
数の増加の背景を明らかにする
を遮蔽(しゃへい)し線量を軽
とは,使用済み PET ボトルを
のに適している。QPR の週別
減する「放射線遮蔽シート」を
粉砕・洗浄し た 後, 高 温 で 溶
の実績を100人当たり購入数量,
共同開発した。外部からの放射
融・減圧・ろ過などを行い,再
購入率(モニター人数に対する
線を低減したい部屋用の遮蔽材
び PET 樹脂に戻したもの。
トマトジュース購入者の比率),
や,除染時に発生する汚染廃棄
1人当たりの購入数量について
物の仮置場での保管用カバーシ
消費トレンド分析(2)トマト
分析した。
ートなど,幅広い用途での使用
ジュース メタボ報道で新規客
この結果を見ると100人当た
を想定する。昨年の東日本大震
りの購入数量は,報道のあった
災に起因する福島第一原子力発
今年の2月にトマトが脂肪燃
12年2月12日の週に大きく伸び,
電所の放射性物質流出事故で,
焼を助け,メタボリックシンド
その後,数値は下がるが12年2
現在も高い空間放射線量を示し
ロームの症状緩和の効果が高い
月5日以前の週よりも高い数値
ている地域では,いかに放射線
ことが報道された。この報道は
を示している。その動きに合わ
を遮蔽するかが早急の課題とな
トマトを扱う企業のマーケティ
せて購入率も上昇している。一
っている。
ングに対し大きな影響を与えた。
方,1人当たりの購入数量は購
このたび開発された放射線遮
例えば,カゴメは「カゴメトマ
入率のような変化は見られない。
蔽シートは熱可塑性エラストマ
トジュース280g PET ボトル」
また,期間中にトマトジュー
ーを素材とし,軽量かつ柔軟性
の販売を一時見合わせた。
スを購入したモニター 2,582人
に富んだフレキシブルな遮蔽材。
この報道に関する一連の動き
について報道前後の購買状況を
これまで放射線の遮蔽には固く
は,アカデミック・マーケティ
確認した。12年の1月から報道
て重い金属板が使われてきたが,
ングの事例として興味深い。今
前まではトマトジュースを購入
扱いにくさが問題視されていた。
までトマトジュースに対し関心
せず,報道後の12年2月12日以
シートの厚みは1~2mm,
を持たなかった人が学術的に裏
降に購入したモニターは全体の
幅 は500~2000mm で, 用 途 に
付けられた効果を報道で知り,
61.0%であった(報道前・後ど
合わせて任意の大きさで使用で
新規に購入したと考えられる。
ちらも購入していたモニターは
きる。枚数を重ねれば放射線遮
商品の販売点数は,購入人数と
18.0%しかいなかった)。この
蔽率を高めることが可能だ。汚
購入者1人当たりの購入数量に
結果から,今回の報道を受けて
染土壌などを集積したフレキシ
分解できる。どちらが販売点数
メタボリック・シンドロームを
ブルコンテナバッグや大型土の
の増加に寄与したか確認するこ
気にしていた人が新規に飲み始
う袋を覆うシートとして,家庭
とは,その後の施策に影響を与
めたことが,販売点数の増加に
での除染時の保管箱用カバーシ
える。仮説通りに購入人数の増
つながったと考えられる。
ートとしても使用できる。
加が要因であれば,今後は増加
今後は新規購入者の特徴を理
放射線対策は今後も継続的な
した購入者の離反を防ぐ施策を
解したマーケティングを行う必
取組みが求められるが,安全・
実施する必要がある。そこで,
要があろう。
安心の確保に向け,レンゴーグ
(日食 2012/05/09 日付)
ループではパッケージングで培
消費者の購買データである QPR
を用いて分析を行った。
レンゴーと日本マタイ,放射線
った技術とノウハウの蓄積を生
消費者の購買データである
遮蔽シートを開発
かし,放射線対策の分野でも社
QPR は売上げを購入者と購入
者1人当たりの金額に分解でき,
食品と容器
(日食 2012/05/11 日付)
会に貢献していく。
レンゴーとその子会社である
397
2012 VOL. 53 NO. 6
今月の統計
第1表 エアゾール製品の品種別生産数量
年
2001 年
生産量
品種
(1000本)
殺ハ エ ・ カ 用
虫そ の 他 殺 虫 剤
剤
(小計)
塗
2006 年
構成比
生産量
(%) (1000本)
2011 年
構成比
(%)
生産量
(1000本)
構成比
前年比
5年前比 10年前比
(%)
(%)
(%)
(%)
44,670
7.5
46,824
8.3
57,778
10.6
131
123
129
36,444
6.2
28,053
5.0
26,388
4.8
111
94
72
81,114
13.7
74,877
13.2
84,166
15.4
124
112
104
料
55,685
9.4
52,771
9.3
39,603
7.3
94
75
71
臭 剤
25,498
4.3
32,623
5.8
39,494
7.2
110
121
155
家ク リ ー ナ ー
庭 ワ ッ ク ス ・ ポ リッ シュ
用洗
濯
用
品
品
そ の 他 家 庭 用品
16,475
2.8
20,719
3.7
18,544
3.4
106
90
113
1,321
0.2
655
0.1
1,023
0.2
131
156
77
2,366
0.4
1,327
0.2
718
0.1
84
54
30
18,814
3.2
17,473
3.1
19,359
3.5
109
111
103
室
内
消
(小計)
64,474
10.9
72,797
12.9
79,138
14.5
109
109
123
ヘ ア ー ス プ レー
56,219
9.5
64,965
11.5
60,108
11.0
97
93
107
その他
頭 髪 用品
97,561
16.5
71,914
12.7
102,240
18.7
110
142
105
人 シェービング クリ ーム
体 オーデコロン・香水
用医
薬
品
品
人 体 消 臭 制 汗剤
16,072
2.7
17,911
3.2
14,372
2.6
91
80
89
203
0.0
104
0.0
644
0.1
1,150
619
317
19,646
3.3
14,151
2.5
12,532
2.3
104
89
64
75,529
12.8
64,487
11.4
49,848
9.1
94
77
66
36,375
6.1
39,465
7.0
33,976
6.2
109
86
93
301,605
51.0
272,997
48.2
273,720
50.1
103
100
91
その他
人 体 用品
(小計)
金 属 探 傷 剤
工
防 錆 潤 滑 剤
業
用乾 燥 抑 制 剤
品 そ の 他 工 業 用品
動
車
0.6
2,714
0.5
3,490
0.6
97
129
94
3.0
23,449
4.1
22,132
4.1
102
94
123
485
0.1
399
0.1
222
0.0
75
56
46
16,233
2.7
15,917
2.8
11,585
2.1
98
73
71
38,469
6.5
42,479
7.5
37,429
6.9
100
88
97
止 め
2,871
0.5
1,305
0.2
652
0.1
91
50
23
その他 自動車用品
34,178
5.8
27,734
4.9
17,877
3.3
104
64
52
(小計)
50
(小計)
自
3,732
18,019
く
も
用
品
そ簡
のそ
他
易
り
37,049
6.3
29,039
5.1
18,529
3.4
104
64
消
火 具
507
0.1
231
0.0
443
0.1
100
192
87
の
他
12,878
2.2
20,826
3.7
13,185
2.4
99
63
102
13,385
2.3
21,057
3.7
13,628
2.5
99
65
102
計
591,781
100.0
566,017
100.0
546,213
100.0
105
97
92
(小計)
総
第2表 エアゾール製品の容器別生産数量
年
2001 年
生産量
構成比
生産量
(%) (1000本)
2011 年
構成比
生産量
構成比 前年比
容器
ブ リ
キ
容
器
328,482
55.5
331,914
58.6
305,573
55.9
ア
ミ
容
ル
(1000本)
2006 年
(%) (1000本) (%)
5年前比 10年前比
(%)
(%)
(%)
107
92
93
器
253,996
42.9
226,524
40.0
235,635
43.1
104
104
93
合 成 樹 脂 容 器
8,235
1.4
7,579
1.3
5,005
0.9
103
66
61
ガ
器
1,068
0.2
0
-
0
-
-
-
計
591,781
100.0
566,017
546,213
100.0
105
97
92
ラ
ス
総
食品と容器
容
100.0
398
2012 VOL. 53 NO. 6
今月の統計
(億本)
3.0
2.5
2001
2.0
2006
1.5
2011
1.0
0.5
0.0
殺虫剤
塗料
家庭用品
人体用品 工業用品
自動車用品
その他
第1図 エアゾール製品の品種別生産数量
(億本)
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
2001
2006
2011
ブリキ容器
アルミ容器
合成樹脂容器
ガラス容器
第2図 エアゾール製品の容器別生産数量
第3表
平 均 気 温, 降 水 量, 日 照 時 間
平 均 気 温 (℃)
平年差
前年差
2011年 5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
2012年 1月
2月
3月
4月
月間
18.5
-0.2
-0.5
月間
22.8
+1.0
-0.8
月間
27.3
+1.9
-0.7
月間
27.5
+0.4
-2.1
月間
25.1
+1.6
+0.0
月間
19.5
+1.3
+0.6
月間
14.9
+1.9
+1.4
月間
7.5
-0.9
-2.4
月間
4.8
-1.0
-0.3
月間
5.4
-0.7
-1.6
月間
8.8
-0.1
+0.7
下旬
16.8
+0.4
+0.4
月間
14.5
+0.1
+0.0
5月 上旬
19.2
+1.6
+1.0
中旬
19.3
+0.7
+0.1
注)平年値は1971年~2000年の月,旬平均値
(5月中旬まで・東京)
降 水 量 (mm)
平年比(%) 前年比(%)
213.5
116.5
54.5
244.0
235.0
119.5
112.5
59.5
50.0
94.0
144.5
43.0
118.5
176.0
16.0
167
71
34
157
113
73
122
150
103
156
126
73
91
428
44
日 照 時 間 (h)
平年比(%) 前年比(%)
187
108
78
904
55
57
119
41
1429
62
195
72
123
1760
30
146.3
105.1
186.2
168.9
165.8
141.3
143.4
187.6
183.0
148.6
149.7
30.1
162.4
49.5
78.9
81
88
126
95
147
109
101
110
101
92
94
51
98
85
141
74
65
102
76
100
174
90
96
75
100
70
47
80
118
124
先月号の「今月の統計」の下記表に誤りがありました。下記のように訂正し,謹んでお詫び申し上げます。
第 2 表 2011年 (1 ~ 12月 )
清涼飲料缶生産実績の前年比・構成比,箱数ベース
コーヒー
品 種
炭酸飲料
別 (% )
お茶類
果実飲料
前年比
99.3
99.5
107.7
92.5
96.9
99.1
87.9
79.8
構成比
100.0
59.9
19.9
5.2
5.4
3.7
2.4
3.4
前年構成比
100.0
59.8
18.3
5.6
5.5
3.7
2.7
4.3
合計
食品と容器
399
紅 茶
ス ポ ー ツ D.
その他
2012 VOL. 53 NO. 6
最近の技術雑誌から
〔解説〕特集2―平成24年度 巡回指導重点指導項目―
食と健康,56(5)51∼66('12).
○①正しい洗浄・除菌で調理器具・設備を衛生的に!
…………………………………………………野村和江
○②食材の適切な取扱い……………………………長濱 清
国 内 編
〔解説〕年間特集―食品の品質保証技術―
食品機械装置,49(5)54∼71('12).
○食品工場に潜むリスクへの対応(その2)……岩瀬昌敏
分 析 ・ 測 定
〔解説〕ゲル状嚥下訓練食の感覚特性を物理的手法による
客観的な機器測定で品質管理をする(―基礎編―)
渡瀬峰男:New Food Industry,54(5)29∼40('12).
栄 養 ・ 健 康
〔解説〕特集―最近開発された機能性食品/健康の維持に
役立つ機能性食品 ―
酒井重男:食品と科学,54(5)57∼69('12).
〔解説〕特集―殺菌技術―
食品工業,55(10)44∼72('12.5/30).
○殺菌処理における損傷菌・損傷胞子の発生と制御技術
……………………………………土戸哲明・坂元 仁
○交流電界技術による各種液状食品の短時間殺菌
…………………………………………………植村邦彦
○エタノールによる殺菌……………………………篠崎 健
○金属を担持した可視光応答型光触媒の殺菌効果
……………………………………森田 洋・福田 翼
〔解説〕糖尿病を予防するコーヒーの薬理学
鈴木 聡・岡 希太郞:New Food Industry,54(5)
13∼19('12).
〔解説〕第2特集―抗糖化作用を持つアンチエイジング素
材―
食品工業,55(10)75∼87('12.5/30).
○糖化とは何か:健康食品を用いた老化関連疾患の予防戦
略……永井竜児・中島あかり・金川あまね・永井美芽
○「果物の女王」マンゴスチンから創り出した抗糖化素材
「マンゴスチンα20」の美肌作用……………前嶋一宏
〔解説〕特集Ⅰ―食品工場のクレームゼロを目指して―
食品と開発,47(5)5∼17('12).
○食物アレルゲンコントロールプログラム―洗浄による食
物アレルゲン混入防止―…………津田訓範・伊藤壽康
○微生物事故をいかに防ぐか―要注意の微生物とその対策―
…………………………………………………池亀公和
○異物混入をいかに防ぐか…………………………尾野一雄
○食品表示ミスをいかに防ぐか……………………柳原慎吾
〔解説〕放射線の食品保存への利用
林
徹:化学と生物,50(5)345∼349('12).
食
品
衛
生
〔解説〕特集Ⅱ―衛生検査・指導へのATP法の活用―
食品と開発,47(5)22∼29('12).
○ATPふき取り検査―装置の低価格化とATP/AMP同時測
定―………………………………………………本間 茂
○日本マクドナルドにおける店舗衛生管理とATPふき取
り検査の活用……………………………………草野 篤
〔解説〕特集―FSMSのカギは実効性あるHACCP運用!―
月刊HACCP,18(5)19∼39('12).
○食品安全マネジメントシステムにおけるHACCPの位置づ
け∼GFSI承認規格,食品安全強化法(米国)などの
観点から∼…………………………………………編集部
○食品企業におけるFSMS活用メリットへの考察
………………………………………………宮澤公栄
○ISO審査登録機関におけるISO22000・GFSI承認規格の
認証事業の現況/食品安全規格の認証取得に取り組む
際の留意事項………………………………………編集部
添加物・副材料
〔解説〕特集1―欧米食品素材・添加物市場の動向―
フードケミカル,28(4)17∼44('12).
○世界の香料産業とそのトレンド……………久保村喜代子
○米国の飼料添加物・ペットフード添加物の安全性の確認
制度………………………………………………江口博美
○欧州視察ツアー報告/アヌーガ2011に見るEUのトレンド
〔解説〕特集1―寄生虫 知って防ごう! 食中毒―
八木田健司:食と健康,56(5)10∼18('12).
食品と容器
〔解説〕特集1―指標菌検査の最新手法―
フードケミカル,28(5) 17∼51('12).
○指標菌の考え方と国際整合性…………………五十君靜信
○腸内細菌科菌群の試験法…………………………浅尾 努
○食品の迅速簡易検査資材・機器類一覧∼指標菌検査∼
……………………………………………………編集部
400
2012 VOL. 53 NO. 6
最近の技術雑誌から
と規制………………………………………………編集部
○オランダが取り組むオープンイノベーション……編集部
○最近5年間の食料輸出入量(農林水産省統計より)
……………………………………………………編集部
○冷菓・デザート食品用増粘安定ゲル化剤………豊田康裕
○冷菓・デザートへの乳化剤の新しい使い方と最近の開発
動向…………………………………相原利昭・服部公博
○「なめらかプリン」の展開
………チタカ・インターナショナル・フーズ(株)
○製品紹介/冷菓・デザート類向け低カロリー素材
………………………………ロケットジャパン(株)
○製品紹介/カップ容器の無菌充填機の近況
………………………………………四国化工機(株)
○製品紹介/ソルベにおける『トレ ハ ® 』
『ハ ローデ ック
ス ® 』使用のメリット……………………(株)林 原
〔解説〕つゆ特集―濃縮タイプつゆ製品に伸び悩み?! ス
トレートパウチ製品の拡大で専用調味料としての領域
探るつゆ業界―
総合食品,35(12)53∼60('12.5).
〔解説〕市場動向Ⅰ―ビタミンの市場動向―
編集部:食品と開発,47(5)65∼73('12).
缶びん詰・レトルト食品
〔解説〕市場動向Ⅱ―ミネラル素材の市場動向―
編集部:食品と開発,47(5)75∼85('12).
〔解説〕野菜缶詰の供給・市場動向Ⅰ―輸入依存度,数量
で82%,金額で60%―
上田廣志:(社)日本缶詰協会:缶詰時報,91(5)2∼
16('12).
飲 料 ・ 醸 造
〔解説〕2011年輸入酒市場 品目別・銘柄別動向(2)
∼ハードリカー,リキュール,ビール類∼
酒類食品統計月報,54(2)2∼18('12.4).
食
品
一
般
〔解説〕家庭用ココア,スティックタイプがけん引/積極
的な施策で需要の刺激を
酒類食品統計月報,54(2)19∼21('12.4).
〔解説〕チルドめん,付加価値提案で次のステージへ/多
彩な活性材料,情報発信がカギ
酒類食品統計月報,54(2)54∼64('12.4).
〔解説〕酒類消費数量,10年度は実質前年並みに/低価
格志向は一層強まる
酒類食品統計月報,54(2)65∼72('12.4).
〔解説〕特集2―ifia JAPAN 2012 HFE JAPAN 2012
カフェ・トライアル 開催直前レポ―
フードケミカル,28(4) 65∼76('12).
○ifia/HFE最大の目玉企画,パワーアップ!/「カフェ・
トライアル」今年も開催
○ifia JAPAN 2012/HFE JAPAN 2012 セミナープログラム
〔解説〕全清飲集計,11年の清涼飲料生産量/10年実績
を上回り,過去最高更新
酒類食品統計月報,54(2)74∼77('12.4).
〔解説〕特集2 ifia JAPAN 2012 HFE JAPAN 2012
「わが社の製品力」
フードケミカル,28(5)65∼100('12).
〔解説〕特集―フルーツジュース・野菜ジュース―
Beverage Japan,№364 32∼83('12.5).
○果汁の輸入完全自由化から20年,日本の果実飲料市場の
行く末を占う
○果汁100%ジュースブランドの動向と戦略
○低果汁飲料ブランドの動向と戦略
○野菜系飲料ブランドの動向と戦略
○財務省貿易統計による果実・野菜ジュース輸入実績推移
2008∼2011年
○主な果汁原料サプライヤーの動向
○ifia/HFE JAPAN 2012 展示会概要
○会場見取図
○出展者リスト
クローズアップ!わが社の製品力
○調味ベースかつおGA<極厚>………………味の素(株)
○増粘多糖類「エコーガム」
……………………DSP五協フード&ケミカル(株)
○機能性リン脂質「PIPSナガセ」
…………ナガセケムテックス
(株)・長瀬産業(株)
○機能性物質の受託精製……………長良サイエンス(株)
○ハイマックスGL………………………富士食品工業(株)
○風味ing®UGユニガム E-9020…ユニテックフーズ(株)
○出展各社の製品力
○ifia JAPAN 2012/HFE JAPAN 2012 セミナープログラム
冷 凍 ・ 乾 燥
〔解説〕特集―冷菓・デザート食品の開発動向―
ジャパンフードサイエンス,51(5)20∼45('12).
○乳由来素材の冷菓・デザート・飲料等への利用
………………………………………………前田和可子
食品と容器
401
2012 VOL. 53 NO. 6
最近の技術雑誌から
〔解説〕特集―フードマーケットを彩る食品の資格―
食品工業,55(9)33∼55('12.5/15).
○日本冷凍空調学会と食品冷凍技士……………小泉栄一郎
○新しい時代の フードメ ディアを担う専門家 フード
ア ナ リ ス ト ® …………………………………横井裕之
○『惣菜管理士』資格とその活用…………………大隈和昭
○日本フードアドバイザー協会が展開する飲食業をサポート
する3つの資格養成講座………………………旭 利彦
〔解説〕めん特集―2011年生産量3%増も喜べない?!
要拡大への道を探る乾めん業界―
総合食品,35(12)38∼47('12.5).
○箔押し加工の技術と箔版・箔材の最新動向
……………………………………佐藤賢治・大東裕人
○枚葉グルーラベラー用の多層ラベル「ヨメルダーV3,
V5」……………………………………………時田義明
〔解説〕レトルト殺菌対応のパーシャルオープンふたの開
発
橋本香奈:包装技術,50(5)35∼39('12).
需
〔解説〕特集―包装工程管理機器の近況―
ジャパンフードサイエンス,51(5)47∼58('12).
○製造管理システムを拡張し,包装工程も管理…山口陽平
○凹み(デント)缶検出の一手法…………………小鹿 孝
○食の安全を支える画像処理技術…………………川田正之
〔解説〕今日の話題―甘味,旨味,苦味細胞産生の必須因
子Skn-1a/味細胞種の分化機構の一端が明らかに―
松本一朗/應本 真:化学と生物,50(5)312∼314
('12).
〔解説〕特集1―スイーツを演出する食品包装のチカラ!
partⅡ∼大切な想いを贈るために・・・∼―
食品包装,56(5)17∼25('12).
○今年のバレンタイン商戦を振り返る/メリーチョコレート
カムパニー/今年も“絆”テーマの商品展開で成果/
「この機会でしか」の特別感は依然デザインにも反映
○3.11からの復興を応援します!/アッシュ・セー・ク
レアシオン/売り上げの一部を東北支援へ/お菓子で
“笑顔”届ける芦屋発のプロジェクト
○3.11からの復興を応援します!/東北6県菓子創造グ
ループ/「東北を菓子屋から元気に!」/コラボでし
か実現しえない6種類の詰め合わせ商品を発売
○注目&期待のプロダクツ/DIC/新触感の梨地フィルム
が採用着実/差別化支える“意匠性”に全国規模で高
まる評価
○注目&期待のプロダクツ/コーンズ・アンド・カンパニ
ー・リミテッド/フランスの感性が映える容器/手軽
さも受けデザートバイキングなどで引き合い活発
市場調査・流通
〔解説〕厳しい環境乗り切れるか,飲料自販機市場/ヒー
トポンプ式は急ピッチで導入進む
酒類食品統計月報,54(2)38∼44('12.4).
〔解説〕今月の視点/一緒に食事をしたいが難しい?! 食
事に問題抱える要介護者/時間と手間がかかる在宅介
護事情
日清オイリオグループ調査:総合食品,35(12)61∼64
('12.5).
機 械 ・ 設 備
〔解説〕特集―食品工場における温湿度管理機器―
食品機械装置,49(5)72∼90('12).
○最新の温湿度管理機器―無線通信・ネットワークを利用
した遠隔監視―…………………………………三村孝二
○食品工場を見える化!! データロガーを使って問題解決
…………………………………………………宮田雄作
○食品加工現場におけるハンディ型温度計………馬場利隆
〔解説〕特集2─恒例!イージークッキングで活躍する食品
包装─
食品包装,56(5)27∼33('12).
○商品クローズアップ/ネスレ日本/耐熱パウチで本格的
な鶏肉メニュー/“時短”をかなえるオーブン専用調
味料が日本初登場
○商品クローズアップ/エバラ食品工業/野菜をたくさん
食べてもらう新提案/シェイカーカップ付きの粉末調
味料はお母さんの“味方”?
○注目&期待のプロダクツ/栄和化学工業/多層耐熱包装
袋に用途拡大/電子レンジで“カレイの煮付け”も簡
単においしく
○業界トレンド最前線/日本冷凍食品協会調査/冷食の
「安定供給」に魅力感じる主婦増加/3.11大震災後
の消費者マインド変化を反映か
容 器 ・ 包 装
〔解説〕特集─印刷表面加工の最新動向─
包装技術,50(5)3∼29('12).
○紙器・カートン用低VOC水性グラビアインキ「ブリリア
PAW」…………………………………………井上隆彦
○環境対応型グラビア印刷機の動向………………森永毅巳
○リサイクル可能なアルミ蒸着PVAフィルムラミネート
紙について………………………………………大岩美貴
○エンボス加工の新しい活用……………………八木野 徹
食品と容器
402
2012 VOL. 53 NO. 6
最近の技術雑誌から
○食品工場における効果的な水管理システム
Water’
s Rising Tide
海 外 編
K. Higgins……………………………………………57~63
○無菌加工食品とサプライチェーン
邦文の題名は内容に従って付けてありま
すので,原題と異なる場合があります。
Supply Chain Sweet Spot
K. Higgins……………………………………………65~71
ご興味のある雑誌・記事がございました
らいつでも閲覧できますので,当会宛ご
連絡ください。
○食品グレードの潤滑剤の状況
Food-Grade Lubricants Come of Age
J. Koel…………………………………………………73~79
Food Processing (U.S.A.) Vol. 73 Mar. (2012)
Prepared Foods (U.S.A.) Vol. 181 Mar. (2012)
○飲料に浸透するステビア甘味料
○最近の飲料製品事情(ワイン,コーヒー,茶……)
Stevia Seeps into Beverages
Beverage Boosts
M. Anthony, Ph. D. and D. Fusaro… ……………37~42
W. A. Roberts, Jr.,… ………………………………15~26
○刻々と変化する消費者ニーズに対応するフレキシブル
生産システム ○料理用ソースとドレッシング市場
Cooking Sauces and Dressings
Waking Up to Breakfast Trends
D.Browne… …………………………………………29~36
B. Sperber……………………………………………55~59
○重視されつつあるスープと惣菜のトレンド
○“改善”文化が弱い食品業界に改善を根付かせるには?
Soups & Sides Go Big and Healthy
Leading for a Culture of Improvement
K. L. Stewart…………………………………………39~46
G. K. Diepstra… ……………………………………61~67
○乳製品の市場と文化的な取り組み
○新製品の魅力を表現するパッケージングデザイン
The Dairy Culture
What You See Is What You Get
W. A. Roberts, Jr.,… ………………………………49~58
K. B. Connolly… ……………………………………75~79
○食事と肉製品の新潮流
New Trends in Meals and Meats
Food Technology (U.S.A.) Vol. 66 Mar. (2012)
T. Vierhile……………………………………………61~69
○有機農産物の優れた健康効能は本当か?
○1日の健康的なスタートにシリアルと朝食バー
Is the Pathway to Health Organic?
Cereals & Breakfast Bars : A Healthy Start to
T. Tarver… …………………………………………26~33
the Day
○“健康”食品神話と新しい食品開発のアプローチ
A. G. Holay … ………………………………………71~82
Shattering the‘Healthy’Food Myth
○成長を続けるスナック製品市場
D. Lundahl and G. Stucky…………………………34~41
Snacking Market far from Saturated
○ヨウ素欠乏症に対するヨウ素栄養の摂取
L. A. Williams… ……………………………………85~94
Ensuring Optimal Iodine Nutrition ○焼き菓子の新製品トレンド
S. D. Ohlhorst… ……………………………………42~47
New Product Trends in Baked Goods
○冷凍デザート食品の再構築
T. Vierhile………………………………………… 97~103
The‘Not So Rocky Road’of Ice Cream
○栄養成分のトレンド軌跡
D. E. Pszczola… ……………………………………49~62
Nutritional Ingredient Trend-Tracking
○団塊世代の健康問題
C. D. O’Donnell… ……………………………NS 2~NS 9
Aging Healthfully
L. M. Ohr… …………………………………………65~70
Food Engineering (U.S.A.) Vol. 84 Mar. (2012)
○食品品質と安全基準の国際的調和
○GFSI 更新:世界の効果的な食品安全管理の維持推進
International Harmonization of Food Quality &
GFSI Update : Creating a Safe and Effective Worldwide
Safety Standards
Food System
N. H. Mermelstein… ………………………………72~75
W.Labs… ……………………………………………48~56
○マイクロ波殺菌とパッケージング
食品と容器
403
2012 VOL. 53 NO. 6
最近の技術雑誌から
The Coming Wave of Microwave Sterilization and
○飲料の砂糖削減:カロリーとコスト削減のためのソリュー
Pasteurization
ション
A. L. Brody… ………………………………………78~80
S ugar Reduction in Beverages : Solutions for
Beverage Industry (U.S.A.) Vol. 103 Mar. (2012)
R. Abbeele……………………………………………65~67
○模索する新しいカテゴリーの飲料
○アシュランド・ウォーター・テクノロジーズ社は,プ
Further Calorie and Cost Reduction
ロセスの効率化と利益拡大のための革新的技術を提供
New Categories on the Horizon
Ashland Water Technologies Offers New Innovative
S. Hildebrandt… ……………………………………12~17
○アメリカにおけるビール市場調査
Technologies Designed to Improve Process
No Ordinary Year for Beer
Efficiency and Increase Profitability
G. Davies… …………………………………………68~71
J. Zegler………………………………………………22~32
○消化器に健康をもたらす飲料
S. Hildebrandt… ……………………………………50~55
Food Engineering & Ingredients (B.E.L.)
Vol. 37 Feb./Mar. (2012)
○ハーブ系の健康機能飲料の効用
○ビジネスの競争力を維持する二つの革新的技術
Fortification, Flavor from the Ground Up
A Tale of Two Technologies
J. Jacobsen……………………………………………58~60
How Innovative Processing Methods Can Help Keep
Businesses Competitive……………………………11~14
What You Gut’
s Telling You
Food & Beverage Packaging (U.S.A.) Vol. 76
Mar. (2012)
○廃棄物を利益に転換する嫌気性消化処理
Anaerobic Digestion : Turning Waste into Profit
○包装事業に革命をもたらすロボット
…………………………………………15~18
Robots Revolutionize Packaging Operations
○大手飲料メーカーの脱石油系プラスチック動向
R. Lingle………………………………………………20~25
Ten Green Bottles : How Big Drinks Manufacturers
Are Moving away from Oil-Based Plastic
The Canmaker (U.K.) Vol.25 Apr. (2012)
…………………………………………19~22
○中国広州で Cannex Asia Pacific 2012開催
○カルチャーショック:合成肉に未来はあるか?
Business Boost
Culture Shock : Is There a Future for Synthetic Meat?
M. Higuera and D. Searle… ………………………34~41
…………………………………………23~25
○世界のアルミボトル缶市場
○最近の甘味料,甘味増強剤
Volumetric Efficency
In Pursuit of Sweetness
D. Searle… …………………………………………44~49
…………………………………………32~33
○次世代の自己発熱缶
○次世代の油脂
Second Chance for Canned Heat
Next-Generation Fats and Oils
P. Holman……………………………………………53~54
…………………………………………34~36
○食品業界における廃棄物の有効利用
Packaging Digest (U.S.A.) Vol. 49 Mar. (2012)
One Man's Trash Is another Man's Treasure :
○2012年フレキシブルパッケージング功労賞
Waste Stream Valorisation in the Food Industry
Flexible PACKS Finish FIRST …………………………………………37~38
L. M. Pierce… ………………………………………22~26
Journal of Food Science (U.S.A.) Vol. 77 Mar.(2012)
Fruit Processing (U.S.A.) Vol. 22 Mar./Apr.(2012)
○大気圧低温プラズマ処理によるアーモンド上のサルモ
ネラと大腸菌 O157:H 7 の減少
○美 味しくて栄養価のある野菜を使ったスムージーと
Cold Plasma Reduction of Salmonella and
ジュース
Escherichia coli O157 : H7 on Almonds Using
Using Vegetables to Make Smoothies and Juices :
Ambient Pressure Gases
Tasty with Additional Nutritional Value
B. A. Niemira… ………………………… M171~ M175
S. Nicola and G. Pignata……………………………46~49
食品と容器
404
2012 VOL. 53 NO. 6
太宰と同郷の津軽の作家で三鷹市に住んでいた今
野菜・果物を巡って
(第四十二話)
官一によって付けられたとのこと。「桜桃」は死
の直前の名作の題名である。6月のこの時期に北
国に実る鮮紅色の宝石のような果実が,鮮烈な太
宰の生涯と珠玉の短編作家というイメージに最も
黄色いさくらんぼと
赤いさくらんぼ ふさわしいとして,付けられたようである。
高校生時代の友人仲間には太宰ファンが多かっ
たことを思い出す。斜陽,人間失格,富岳百景そ
の他次々と読破し,それぞれが評論家になり,熱
よし だ
き
よ
く語り合ったものである。友人の一人はその延長
こ
吉 田 企 世 子
で大学は国文科,卒論は太宰治という徹底した道
を歩み,その頃も会う度に太宰論を聞かされたこ
(女子栄養大学名誉教授)
とである。
さくらんぼの季節になると「黄色いさくらん
さくらんぼは桜桃(オウトウ)とも呼ばれ,バ
ぼ」という歌が思い浮かぶ。歌謡曲にはほとんど
ラ科サクラ属の植物である。野生種が世界で約20
縁のない生活をしているのに,何故この歌が記憶
種あるとのこと。この中で果樹として有用なもの
に残っているのか。恐らく,さくらんぼが大好物
は甘果オウトウと酸果オウトウである。その他,
であること,鮮紅色の可愛い果物がさくらんぼの
観賞を兼ねて果実を利用するものに中国オウトウ
イメージであったので,この歌を耳にした折,黄
がある。
色いさくらんぼが本当にあるのだろうか,どんな
甘果オウトウの原生地はイラン北部からヨー
味なのだろうかとの思いが頭の中をよぎったこと
ロッパ西部,酸果オウトウは黒海からトルコのイ
が歌の記憶につながったのであろう。
スタンブールにかけての小アジア,中国オウトウ
これは昭和30年代の歌である。メロディーがリ
は中国とされている。
ズミカルで気楽に口ずさみたくなるのである。歌
わが国では江戸時代初期に中国から中国オウト
詞は可愛らしいお色気をもった小さな恋人という
ウが伝来したが,この品種は寒さに弱く品質も劣
ようなイメージをさくらんぼに託した感がある。
ることから,一部の地域で観賞用に栽培された程
当時の日本人の心に響く何かがあったのだろうか,
度にとどまったようである。一般にさくらんぼと
大変流行した歌である。
呼ばれるのが甘果オウトウで,これは明治初年に
実際に黄色いさくらんぼは存在するが全くの黄
米国,フランスから導入され,北海道,東北地方
色ではなく,黄色にうっすらと紅色をぼかしたよ
で試植されたのである。現在,さくらんぼの栽培
うな優しい色合いのさくらんぼである。品種とし
地は山形県が全体の60%以上を占め,次いで北海
ては黄玉,蔵王錦などがある。
道,青森県,山梨県などである。品種では佐藤錦
さくらんぼの季節になると話題に上がるのが
(山形県の佐藤栄助が育成した)が栽培面積の
「桜桃忌」である。こちらで目に浮かぶのは何故
60%を占め,次がナポレオン(18世紀にヨーロッ
か鮮紅色のさくらんぼである。黄色いさくらんぼ
パで栽培されたのが元祖),高砂(米国で育成さ
では太宰治のイメージに合わないように感じる。
れた)などが消費者にもよく知られている。
太宰は昭和23年,玉川上水で入水自殺をしたこ
米国から黒赤色のさくらんぼが輸入されたのは
とは有名な事実である。発見されたのが6月19日
昭和55年からである。以来カナダからも輸入され
の朝で,この日を忌日として桜桃忌と名付けられ,
るようになり昭和63年以降はその他の国々からの
墓所のある三鷹市の禅林寺には現在でも毎年多く
さくらんぼが店頭に並ぶようになった。
の太宰ファンが参拝に訪れている。桜桃忌の名は
桜の花に桜前線があるように桜の実にも桜桃前
食品と容器
405
2012 VOL. 53 NO. 6
線がある。まず5月下旬に長野,山梨を発したさ
物質と乳酸を生成する。このグルカンが歯に歯垢
くらんぼは6月初旬には福島を通り,6月中旬に
を付着させ,乳酸が歯のエナメル質を溶かす。と
は山形に移り,6月下旬には秋田から青森に至り,
ころが,この虫歯菌はソルビトールを餌にできな
7月には津軽海峡を渡って北海道に上陸,7月
いため,虫歯菌の成育が抑制されるのである。
中・下旬になって2ヶ月の旅が終わるという。輸
さくらんぼの果皮には紅い色素のアントシアニ
入品を含めれば12月と1月には南半球のニュー
ンが,果肉にはフラボノイドなどが含まれるが,
ジーランド産が市場に出回るほかにハウス栽培に
これらはいずれも抗酸化成分である。抗酸化成分
よる国内産が3,4月に登場,5月にはカリフォ
にはがん,心臓病,動脈硬化などの生活習慣病予
ルニア産が店頭に並ぶので価格を気にしなければ
防の働きがあることは一般にも認知されている。
一年のうちの大半はさくらんぼを口にすることが
最近,さくらんぼに含有するアントシアニンの一
できるのである。
種,シアニジンに,痛風などと関係する炎症反応
さくらんぼには難消化性の糖アルコールである
を強く抑制する効果が見いだされたとの報告もあ
ソルビトールが豊富に含まれるのが特徴である。
る。また,さくらんぼにメラトニンが含まれるこ
そのため便秘に悩む人に適した果物であるとされ
とが発見されている。メラトニンが睡眠を促進し,
ている。便には腐敗産物や細菌毒素などの有害物
時差ボケを和らげ,しかも睡眠薬のような危険性
質が含まれている。便秘になると便が腸内に長く
や副作用がないとされている。
とどまるので有害物質の濃度が高くなり,腸管に
さくらんぼは愛くるしくて美味しいだけでなく,
悪影響を及ぼすことになる。そのため便秘は肌荒れ,
健康維持にも好ましい果物なのである。
吹き出物,肩こり,頭痛などを誘発するだけでな
さくらんぼは桜桃であるが,ももの品種に黄桃
く,大腸がんや乳がんなどの疾病の原因となる。
がある。文字で見れば違いが解るが,言葉では判
ソルビトールには便の pH を下げる働きと便の量
断しにくい場合がある。かつて,果樹関係の委員
を増やす効果が認められるなどの研究報告がある。
であった折,「桜桃すなわちさくらんぼは・・・」
ソルビトールには爽やかな冷涼感があり,後味
との説明が度々出てくるので,桜桃を略して,さ
がすっきりするのが特徴の甘味成分であるが,虫
くらんぼと言ってはいけないのか質問したところ,
歯に対する予防効果も報告されている。虫歯はス
国の文書が桜桃になっているので,さくらんぼだ
トレプトコッカス・ミュータンスという虫歯菌が
けの表現はできないとのこと。文書をさくらんぼ
食物に含まれているブドウ糖などの糖を餌として
に変えるには5年以上かかるとの返答に驚いたこ
成育し,分泌物としてグルカンと呼ばれる粘着性
とを思い出す。
編
集
後
記
●バラの季節がやってきました。狭いながらも手作りの
我が家の庭では,百種類を越えるバラたちが今を盛りに
咲き競っています。休日の午後はガーデンチェアに腰を
第53巻 第6号
FOOD & PACKAGING 平成24年6月 1 日発行
下ろし,バラの香りに包まれながらビールを一杯。蚊の
発行所 缶
いない今の時期にしか味わえない至福のひとときです。
〒103−0002 東京都中央区日本橋馬喰町 1−8−4
TEL 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 1
定 価
FAX 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 3
1部 800円
Eメール:[email protected]
年間 8,000円
郵便振替 0 0 1 5 0 − 0 − 4 2 2 1 5
(送 料 共)
塚 秀 夫
編 集 人 飯
●電動工具が好きで,ホームセンターなどで見かけると
すぐに欲しくなってしまいます。目的もなく購入するの
は気がひけるので,庭のフェンスやバラのアーチ,パー
ゴラなどを自作するたびに少しずつ増やしてきました。
使うほどにそのありがたみを実感します。丸ノコなどは
発 行 人 使い慣れたらもうノコギリには戻れません。もちろん安
−禁無断転載−
全対策は欠かせませんが。 (俊)
食品と容器
詰 技 術 研 究 会
田
嶋
一
乱丁・落丁本はお取り替えいたします。
406
雄
印 刷 所 大和サービス株式会社
2012 VOL. 53 NO. 6