2.数値と単位の表し方

物理学 2007
2.数値と単位の表し方
2.数値と単位の表し方
§ 2.1 物理量
「2m」「10 秒」など自然科学で扱われる量を物理量 という。一般に物理量はある「性格」と「大きさ」
を持つ。さらに、物理量には特定の「方向」を持つものがある。
1. 物理量の性格
物理量の「性格」のことを、 次元 (dimension) とよび、その物理量によって一意に決まる。たとえば
「2m」、
「1 インチ」、
「2 尺」はいずれも h 長さ i という次元を持つ物理量である。
2. 物理量の大きさ
大きさは特定の単位 (unit) の何倍という数値で表現す。 たとえば [ m ] を単位にとった場合、「2m」と
は [ m ] の 2 倍の大きさを持つ物理量である。この数値は物理量が同じでも単位によって変わり、仮に単
位を [ cm ] に変えれば、同じ物理量が「200 cm」と表される。
3. 物理量の向き
向きを持つ物理量では、その向きを空間内に設定された 座標系 によって表す。座標系にはよく知られ
た直角座標系のほか、運動の記述に適した座標系が使われることがある。
4. 物理量の相等
等号で結ばれた 2 つの物理量が等しいという意味は、「次元、大きさ、および方向を持つものはその方
向まで含めて、すべて等しい」という意味である。
ギリシア文字
物理量を記号で表すとき、英文字のほかにギリシア文字がよく使われる。下表にその読みと文字を示
す。小文字のいくつかには変体文字があり、これらが使われることもある。
名前 大文字
小文字
名前 大文字
アルファ (alpha)
A
α
ニュー (nu)
N
ν
ベータ (beta)
B
β
グザイ (ksi)
Ξ
ξ
ガンマ (gamma)
Γ
γ
オミクロン (omikron)
O
o
デルタ (delta)
∆
δ
パイ (pi)
Π
イプシロン (epsilon)
E
ε
ロー (rho)
P
ゼータ (zeta)
Z
ζ
シグマ (sigma)
Σ
イータ (eta)
H
η
タウ (tau)
T
τ
シータ (theta)
Θ
θ, ϑ
ウプシロン (upsilon)
ϒ
υ
イオタ (iota)
I
ι
ファイ (phi)
Φ
カッパ (kappa)
K
κ
カイ (khi)
X
χ
ラムダ (lambda)
Λ
λ
プサイ (psi)
Ψ
ψ
ミュー (mu)
M
µ
オメガ (omega)
Ω
ω
2- 1
小文字
π, ϖ
ρ
σ, ς
φ, ϕ
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2.数値と単位の表し方
§ 2.2 次元 (dimension)
1. 次元の種類
物理量の次元の数は非常に多いが、それらは互いに無関係なわけではない。たとえば速度は、運動する
物体の通過した h 長さ i を、通過に要した h 時間 i で割ったものであるから、
h 速度 i の次元 =
h 長さ i の次元
h 時間 i の次元
(2.1)
と表せる。このように物理量の次元を、他の物理量の次元の組み合わせで表せば、基本となる次元は、
h 長さ i、 h 質量 i、 h 時間 i、 h 電流 i、 h 熱力学的温度 i、 h 物質量 i、 h 光度 i
の 7 種類で十分であり、他の次元はこれらの組み合わせで表すことができる。
2. 方程式と次元
物理量が等しいということは、その次元が等しいと言うことを含むから、等号で結ばれた方程式の左辺
と右辺はその次元が等しくなければならない。すなわち、物理量 A、B、C に、
A = B +C
という関係があれば、A、B、C の次元はすべて同じでなければならない。また、物理量 D、E 、F に、
D = E ×F
という関係があれば、D の次元 = E の次元 × F の次元 でなければならない。
3. 無次元量
物理量の中には、次元を持たないものもある。たとえば飛行機の翼のアスペクト比 (タテ・ヨコ比) など
がそうである。このような物理量を、 無次元量 という。
定数には無次元の定数と、次元を持つ定数があるが、数式上ではこれを区別することはないので、混同
しないよう注意しなければならない。たとえば、V = π r2 h という式で、r = 2 のとき、S = 4π h などと書
くが、これは S と π h の次元が同じことを意味しない。 π は物理量ではなく、無次元の定数である。
また、sin A、eA 、log A などの関数の引数 A は、無次元量である。
4. 次元解析
等号で結ばれた物理方程式の両辺の次元は等しいということを利用して、逆に方程式の形をある程度推
定することができる。
例えば質量 m の物体が、静止状態から重力加速度 g で t 秒間に距離 x 自由落下したとして、 t と x の関
係を推定する、という問題を考える。ここで関係する可能性のある物理量は、 落下に要する時間 t 、 落下
距離 x、 重力加速度 g、 物体の質量 m、の4つである。そこで、x が次式の形式で表されると仮定する。
x = C gα t β mγ
(2.2)
ここで長さの次元を L、時間の次元を T 、質量の次元を M と書けば、加速度の次元は L/T 2 となるので、
L
L = C ( 2 )α T β M γ
T
(2.3)
これを満足する α 、β 、γ は α = 1、γ = 0、そして β − 2 α = 0 より β = 2 である。すなわち関係式は、
x = C gt 2
(2.4)
の形式でなければならない。このような方法を 次元解析 という。ただし、次元解析では、無次元定数 C
についての情報は得られない。
2- 2
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2.数値と単位の表し方
§ 2.3 単位 (unit)
1. 単位系
次元のところで述べたように、すべての物理量に固有の単位を与える必要はなく、一意的に表せる単位
の組が与えられれば十分である。このような単位の組合せを単位系 (unit system) という。
単位系には、cgs 単位系、MKSA 単位系などがあるが、現在では MKSA 単位系を発展させた SI 単位系
が使われている。これ以外に、日常生活で慣用的に使用する単位 (カロリーなど) があるが、これらは科学
論文では使わないように推奨、あるいは使用を禁止されている。
SI 単位系は、7 つの基本単位 、2 つの補助単位 があり、これらをの組み合わせによってすべての物理量
の次元を表すことができる。ただしそれだけでは実用上不便なので、よく使う次元については固有の単位
が追加されている。それらを 組み立て単位 という。
また SI 単位系には、標準的な物理定数の記号、および 10 のベキ乗を示す接頭語の名称も定められて
いる。
2. SI 単位系の基本単位
基本単位は次の 7 個である。これらの組合せによりすべての物理量の単位を表すこととする。
量 名称 記号
定義 長さ
メートル
m
クリプトン 86 の原子の準位 2p10 と 5p5 との遷移に対応する光
の、真空中の波長の 1 650 763.73 倍
質量
キログラム
kg
国際キログラム原器の質量
時間
秒
s
セシウム 133 の原子の基底状態の二つの超微細準位間の遷移に
対応する放射の 9 192 631 770 周期の継続時間
電流
アンペア
A
真空中に 1 メートルの間隔で平行に置かれた、無限に小さい円
形断面積を有する無限に長い 2 本の直線上導体のそれぞれを流
れ、これらの導体の長さ 1 メートルごとに 2 × 10−7 ニュートン
の力を及ぼしあう不変の電流。
熱力学温度
ケルビン
K
水の三重点の熱力学温度の 1/273.16
物質量
モル
mol
0.012 キログラムの炭素 12 の中に存在する原子の数と等しい数
の要素粒子または要素粒子の集合体 (組成が明確にされたものに
限る) で構成された系の物質量
光度
カンデラ
cd
101 325 パスカルの圧力のもとで白金の凝固点の温度にある完全
放射体(黒体)の 1/600 000 平方メートルの平らな表面の垂直方
向の光度
3. SI 単位系の補助単位
基本単位に次の補助単位を追加する。これらは単位として記述してもしなくてもよい。
量 名称 記号
定義 平面角
ラジアン
rad
円の周上でその半径の長さに等しい長さの弧を切り取る2本の半
径の間に含まれる平面角
立体角
ステラジアン
sr
球の中心を頂点とし、その球の半径を 1 辺とする正方形の面積と
等しい面積を、その球の表面上で切り取る立体角
2- 3
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2.数値と単位の表し方
4. SI 単位系の組み立て単位
実用上の便宜、あるいは歴史的事情等により、以下の固有の名称を持つ組み立て単位も使用してよい。
量 名称 記号
他の単位との関係 周波数
ヘルツ
Hz
1 Hz = 1 s−1
力
ニュートン
N
1 N = 1 kg · m · s−2
圧力
パスカル
Pa
1 Pa = 1 N · m−2
エネルギー、仕事、熱量
ジュール
J
1J = 1N·m
仕事率、電力
ワット
W
1 W = 1 J · s−1
電気量
クーロン
C
1C = 1A·s
電位、電圧
ボルト
V
1 V = 1 J · C−1
静電容量 (キャパシタンス)
ファラッド
F
1 F = 1 C · V−1
電気抵抗
オーム
Ω
1 Ω = 1 V · A−1
コンダクタンス
ジーメンス
S
1 S = 1 Ω−1
磁束
ウェーバー
Wb
1 Wb = 1 V · s
磁束密度
テスラ
T
1 T = 1 Wb · m−2
インダクタンス
ヘンリー
H
1 H = 1 Wb · A−1
セルシウス (摂氏) 温度
度
℃
℃ = T(K) − 273.15
光束
ルーメン
lm
1 lm = 1 cd · sr
照度
ルクス
lx
1 lx = 1 lm · m−2
放射能
ベクレル
Bq
1 Bq = 1 s−1
吸収線量
グレイ
Gy
1 Gy = 1 J · kg−1
5. SI 単位系の接頭語
以下に、SI 単位系での 10 のベキ乗の接頭語の表を示す。なお SI 単位系では、103 ごとの名称に加えて
10 の ±1 乗および ±2 乗の名称を慣用的に与えている。
ベキ
名称 記号 ベキ
名称 101
デカ
da
10−1
デシ
d
102
ヘクト
h
10−2
センチ
c
k
10−3
ミリ
m
マイクロ
µ
103
キロ
記号 106
メガ
M
10−6
109
ギガ
G
10−9
ナノ
n
ピコ
p
1012
テラ
T
10−12
1015
ペタ
P
10−15
フェムト
f
E
10−18
アット
a
1018
エクサ
2- 4
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2.数値と単位の表し方
6. SI 単位系で表した物理定数
次はよく使う物理定数の一覧表である。
定数名 記号
数値 単位 真空中の光速度
c
2.99792458 × 108
m · s−1
ボルツマン定数
k
1.380662 × 10−23
J · K−1
陽子の質量
mp
1.6726485 × 10−27
kg
中性子の質量
mn
1.6749543 × 10−27
kg
me
0.9109534 × 10−30
kg
1 原子量の質量
u
1.6605655 × 10−27
kg
電気素量
e
1.6021892 × 10−19
C
プランク定数
h
6.626176 × 10−34
J·s
ステファン−ボルツマン定数
σ
5.67032 × 10−8
W · m−2 · K−4
アボガドロ数
NA
6.022045 × 1023
mol−1
理想気体の標準体積
Vm
0.02241383
m3 · mol−1
気体定数
R
8.31441
J · mol−1 · K−1
万有引力定数
G
6.6720 × 10−11
N · m2 · kg−2
真空の誘電率
ε0
8.85418782 × 10−12
F · m−1
電子の質量
7. 慣用的に使われる単位の換算
最後に、日常的によく使われる単位と、SI 単位との関係を示す。
次元 名称 定義 長さ
ヤード (yd)
-
0.9144 m
フィート (ft)
1/3 yd
0.3048 m
インチ (in)
1/36 yd
2.54 cm
マイル (mile)
1760 yd
1.609344 km
カイリ (nautical mile)
子午線 1 分
1.852 km
面積
エーカー (acre)
4840 yd2
4046.9 m2
反
300 坪
991.74 m2
体積
リットル (l)
-
1000 cm3
米ガロン (gal)
231 in3
3785.4 cm3
升
10 合
1803.9 cm3
速度
ノット (knot)
nautical mile/hour
0.5144 m/s
質量
ポンド (lb)
-
貫
1000 匁
力
kg 重 (kgw)
質量 1kg の物体にかかる重力
エネルギー
カロリー (cal)
-
4.1855 J
(大) カロリー (Cal)
1k cal
4185.5 J
仕事率
(仏) 馬力 (PS)
75kgw · m/s
735.5 W
2- 5
SI 単位系での値
0.45359237 kg
3.75 kg
9.80665 N
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2.数値と単位の表し方
§ 2.4 数値の記述
物理量の測定は必ず不正確さを伴う。このため、数値がどこまで正確であり、誤差がどの程度かを示す
ことが重要である。これを表すためにはいくつかの記述法がある。
ただし、物理量でない数値、たとえば π 、あるいは
そのような表現は必要でない。
1 2
1
gt の などは、不確定さを伴わない定数なので
2
2
1. 数値を直接記述する方法
最後のケタを丸めて示す方法
得られた測定値の最後のケタを丸めて表す (round off)。 すなわち、絶対値を四捨五入した数値に符号を
つけた表現が使われる。
たとえばこの記述法により x = 25.3 と書かれていた場合には、x の測定値の範囲は、25.35 > x >
= 25.25
であることを意味する。
最後の数字が 0 となる場合には注意が必要である。すなわち x = 2.3 と、 x = 2.30 とは同じ意味ではな
い。前者は測定値が 2.35 > x >
= 2.25 であることを表し、 後者は 2.305 > x >
= 2.295 であることを表す。
《例》 測定値 = 1.26 → 1.3
測定値 = −12.3 → −12
誤差を明記する方法
誤差の最大値がわかっている場合には、これを明記することにより数値の正確さを示す。記号には ±
が使われる。
最大値を使う以外に、誤差が正規分布をすると仮定して平均 2 乗誤差、あるいは今はほとんど使われな
いが確率誤差を使って、このような表現をすることがある。さらには、95% 信頼限界などにより表す場合
もあるので、どの意味で使っているかということに注意が必要である。
《例》 測定値が 10、誤差が 2 → 10 ± 2、
測定値が 12.2、誤差が 0.2 → 12.2 ± 0.2
2. SI 単位系の接頭語を使う方法
数値が非常に大きい場合、あるいは非常に小さい場合には、上記のような記述は 0 をたくさん並べるこ
とになってしまい、すぐにはその大きさを判断することができず、実際的でない。このような場合、数値
を適当な桁数の数値部 (仮数部) と、10 のベキ乗 (指数部) との積で表すことにより、簡単にその大きさを
判断することができる。すなわち次のような形式である。
数値 = a × 10n
SI で推奨する方法は、このときの 10 のベキ乗の数 n を、負の数も含め 3 の倍数にすることである。
そして 10n と記す替わりに、SI の接頭語 (4 ページの表) による特定の接頭語を単位につけて表す方法で
ある。
《例》 20 000 [ J ] → 20 [ k J ]
0.000 000 4 [ m ] → 400 [ nm ]
ただし、表にもあるとおり、慣用的に n = ±1、± 2 についても認めている。
《例》 0.15 [ m ] → 15 [ cm ]
100 000 [ Pa ] → 1000 [ h Pa ]
また、この表現に誤差を付記することもよく行われる。
2- 6
物理学 2007
2.数値と単位の表し方
3. 有効数字による方法
同様に数値が非常に大きい場合、あるいは非常に小さい場合で、しかも誤差を厳密に表したい場合には、
有効数字による表現が使われる。
これは数値を、最初のケタを 1 の位でそれ以下を小数とする数値部 (仮数部) と、10 のベキ乗 (指数部)
との積で次のように表す方法である。
《例》 123.5 → 1.235 × 102
0.0015 → 1.5 × 10−3
このとき、数値部の最後 (右端) のケタが不正確なことを表す。したがって丸めの場合と同様に、x = 3×103 、
x = 3.0×103 、x = 3.00×103 は、それぞれ精度が異なる測定値を表しており、その範囲は順に、3.5 > x >
= 2.5、
3.05 > x >
= 2.95、3.005 > x >
= 2.995 である。
有効数字同士の乗除算
有効数字同士の乗算は、数値部、指数部に分けてそれぞれかけ合わせる。 このときの数値部の有効なケ
タ数は、このときかける数の中で一番有効ケタ数が小さいものと同じになり、それ以下のケタは四捨五入
する。 指数部はそのままベキをたしあわせればよい。除算も同様である。
《例》 (3.5 × 103 ) × (4.56 × 10−2 ) → ( 3.5 × 4.56 ) × ( 103 × 10−2 ) → 16 × 101 → 1.6 × 102
(3.25 × 101 )/(2.1 × 10−1 ) × (1.21 × 102 ) → ( 3.25/2.1 × 1.21 ) × ( 101 × 101 × 102 ) → 1.87 . . . × 104
→ 1.9 × 104
有効数字同士の加減算
有効数字同士の加減算は、いくらか煩雑である。手順は以下の通り。
(1) まず通常の表示に直す。
(2) 数値部の最後のケタ (10 のベキ) がどの位置にくるかを比べ、その中で一番左側、すなわちケタが一
番大きいものを有効な最小ケタとする。
(3) 加減算を行い、上の最小ケタの一つ右側、すなわち一つ小さいケタで四捨五入する。
(4) その結果を、そのケタまでを数値部とする有効数字に戻す。
《例》 2.38 × 104 + 1.31 × 103
→ 23800(103 が最小の有効ケタ) + 1310(102 が最小の有効ケタ)
→ 25100(103 が最小の有効ケタ) → 2.51 × 104
有効数字のケタ落ち
加減算のときに注意しなければならないのは、ケタ落ち という現象である。実験では、A という量を測
定するのが目的であるが、A は直接測定できず A = B −C という式を利用して B および C を測定し、間接
的に A の量を求めなければならない場合がある。このときに、B と C の値が近い場合には、ししばしば精
度の低下が起こる。
たとえば、B = 1.234 × 102 、C = 1.229 × 102 、とそれぞれ有効数字 4 ケタで測定をおこなっても、前述
のように減算を行えば、
《例》 1.234 × 102 + 1.229 × 102
→ 123.4(10−1 が最小の有効ケタ) + 122.9(10−1 が最小の有効ケタ)
→ 0.5(10−1 が最小の有効ケタ) → 5 × 10−1
となり、A の精度は 1 ケタしか得られないのである。
2- 7
物理学 2007
2.数値と単位の表し方
§ 2.5 向き
1. 座標系
われわれの住んでいる空間は 3 次元空間である。これは、空間内での位置、方向を表すのに 3 つの座標
軸が必要なことを意味している。 このような座標軸の組を座標系 といい、その中で、3 つの座標の等値線
がそれぞれ直交する座標系を 直交座標系といい、 直線座標系と曲線座標系がある。
直交座標系のうち、最も基本的な座標系は、直角座標系 、あるいは デ
カルト座標系 (Cartesian coordinate) である。これは図 2.1 のように、ま
ず空間内に原点 O を決め、任意の方向に x 軸をとる。次に x 軸に垂直に
z
6
y 軸をとる。最後に x 軸と y 軸の両方に垂直な方向に z 軸をとるもので
~x = (x, y, z)
*
O y
¡
¡
ある。このように決められた座標系により、空間内の点は座標 (x、y、z)
として一意に表される。
z 軸のとり得る方向はきまるが向きは決まらないため、2 通りの座標軸
の取り方が考えられる。右手の人差し指を伸ばし、中指を手のひらの方
に人差し指と直角になるまで曲げ、親指を立てたとき、親指-x、人差し
¡
¡x
ª
指-y、中指-z に対応するように座標軸をとったものを右手系 、逆を左手
系 という。 混乱を防ぐため物理学では全ての法則を右手系により記述している。
Fig.2.1
2. スカラー量とベクトル量
向きを持つ物理量の「向き」は、前述した 3 次元空間に設定された座標を使って表されるが、この座標
は物理量とは無関係に、いわば人が勝手に決めたものである。 そこで、物理量を表す座標系を他の座標系
に変えた場合、向きを持つ物理量ならば、その表現が変わるはずである。
スカラー量
座標系を回転させても (向きを変えても)、表現が変わらない物理量を、向きを持たない量あるいは スカ
ラー量 という。 質量、エネルギー、温度などはスカラー量である。 「長さ (距離)」、および距離を時間で
割った「速さ (speed)」も、座標の回転で値が変化しないスカラー量である。∗1
ベクトル量
これに対して、座標系を回転させるとその表現が変化する物理量を、一般にテンソル量 という。 そのう
ち、1 階のテンソル量のことを ベクトル量 という。 力、運動量などは、向きを持つベクトル量である。
3. ベクトル量の微積分
一般に物理量は、時間および空間座標の関数として、Q(x, y, z,t) という形で表される。そこで、独立変
数 x, y, z,t についての微分または積分を考えることができる。
Q(x, y, z,t) がスカラー量であるときは、微積分はそのまま Q についての微積分となる。Q(x, y, z,t) がベ
クトル量であるときには、微積分はその成分ごとに行われ、結果もまたベクトル量になる。
《例》 3 次元空間内を移動する物体の座標は、時間を変数とする 3 次のベクトル ~r(t) = ( x(t) , y(t) , z(t) )
dx(t) dy(t) dz(t)
,
,
) と表すことができる。
dt
dt
dt
d 2 x(t) d 2 y(t) d 2 z(t)
,
,
) と、二階微分で表される。
加速度はさらにその微分として、~α (t) = (
dt 2
dt 2
dt 2
と表わせる。このときの物体の速度は、その時間微分として (
∗1
速度 (velocity) という語は、方向を持つベクトル量に対して使われる →~v = ( vx , vy , vz )。これに対して、速さ (speed) という
語は、向きを特定しないスカラー量に対して使われる → |~v |。
2- 8
物理学 2007
2.数値と単位の表し方
練 習 問 題 A
【 問題 2-1 】 (日常使われる単位の換算)
以下の日常的に使われる表現を、2-5 ページの表を参照して、矢印で示す SI 単位系の単位に換算せよ 。
(1) カメラの固定に使うネジは、6 ミリではなく 1/4 インチである。→ [ m ]
(2) 体重 50 キロの人が地面に置かれた台に乗るとき、台の受ける力は 50kg 重である。 → [ N ]
(3) このケーキは 100 カロリー (Cal) だ。 → [ J ]
(4) このクルマの最大出力は 100 馬力だ。 → [ W ]
【 問題 2-2 】 (有効数字)
次の計算の結果を、有効数字を使って表せ。
(1) p = 1.2、q = 0.56 のとき、p − q
(2) a = 4.13 × 103 、b = 1.8 × 10−1 のとき、a × b
(3) x = 1.302 × 103 、y = 2.4 × 102 、z = 1.52 × 103 のとき、x + y − z
【 問題 2-3 】 (物理量の次元)
以下の物理量の SI 単位系での単位を、その右の方程式の両辺の次元が同じであることから推定し、基
本単位の組み合わせで表せ。
(1) 角運動量 L L = m r v m:質点の質量、r:質点の中心からの距離、v:質点の速度
(2) 電圧 E W = E I W :仕事率、I :電流
(3) 比熱容量 C ∆ Q = ρ C (∆ T )(∆ V ) ρ:物体の密度、∆ Q:体積∆ V の物体の温度を∆ T だ
け上昇させるのに必要な熱量
練 習 問 題 B
【 問題 2-4 】 (次元解析)
右図のように、長さ l のひもに質量 m のおもりをつけた単振り子の周期 T を表
す式を考える。簡単のために空気抵抗やひもの影響を無視すれば、ここで関係する
物理量は l 、m、および重力加速度 g のみである。そこで T が次の式で表されると
仮定する。
T = C · l a · mb · gc (C は無次元の定数 )
s
A
A
A
A l
A
A
A
この式の両辺の次元を比較することにより、周期 T がおもりの質量 m によらな
いことを示せ。
l
mg
?
☞ 長さの次元を L、質量の次元を M、時間の次元を T とおくと、l 、m、g の次元はそれぞれ [L]、[M]、
[LT−2 ] である。これらを上式に代入し、左辺の次元が [T] となるように、a、b、c の値を決める。
【 問題 2-5 】 (スカラー量)
二次元平面上に直角座標系
x − yÃをとる。ここで原点を中心に座標を左回りに
θ 回転させると、座標ベ
à !
! Ã
!
クトル ~r =
rx
ry
の成分は、~r0 =
rx0
ry0
=
rx cos θ + ry sin θ
−rx sin θ + ry cos θ
と変換される。 このとき座標ベクトル
の長さ |~r | はこの回転によって大きさが変わらない、すなわちスカラー量であることを示せ。
☞ |~r | =
q
(~r ·~r) だから、|~r | が不変であるためには、|~r |2 = (~r ·~r) が不変であること、すなわち (~r0 ·~r0 ) = (~r ·~r)
を示せばよい。
2- 9
物理学 2007
2.数値と単位の表し方
p 2-9 練 習 問 題 A 解 答
【 問題 2-1 の答】
(1) 2.54/4/1000 = 0.00635 [ m ] = 6.35 [ mm ]
(2) 50 × 9.8 = 490 [ N ]
(3) 100 × 1000 × 4.19 = 419 [ kJ ]
(4) 75 × 9.8 × 100 = 73.5 [ kW ]
【 問題 2-2 の答】
(1) 有効数字は小数点第一位までなので、1.2 − 0.56 = 0.64 を四捨五入して、6 × 10−1
(2) 有効数字は 3 ケタと 2 ケタだから、積の有効数字は少ない方の 2 ケタ。7.434 × 102 から上位 2 ケタ
をとって、7.4 × 102
(3) 1302 + 240 − 1520 = 22 となるので、有効数字は十のケタまでだから、2 × 101
【 問題 2-3 の答】
(1) 右辺の単位は、 [ kg ] [ m ] [ m/s ] だから、 [ kg・m2 /s ]
(2) 1 [ W ] = 1 [ J・s−1 ] = 1 [ N・m・s−1 ] =1 [ kg・m2・s−3 ] だから、 [ kg・m2・s−3・A−1 ]
(3) 左辺の単位は、 [ J ] = [ kg・m2・s−2 ] 、ρ の単位は [ kg・m−3 ] 、V の単位は [ m3 ] 、T の単位は [ K ]
だから、 [ m2・s−2・K−1 ]
p 2-9 練 習 問 題 B 解 答
【 問題 2-4 の答】
問題の式の次元だけを取り出した式は次のようになる。
T = La · Mb · (LT−2 )c
上式で、L、M、T のそれぞれのベキが両辺で等しくなければならないので、次の式が成り立つ。
0 = a + c:L のベキより
0 = b :M のベキより
1 = −2c:T のベキより
1
1
これを解いて、a = 、b = 0、c = − 。
2
r2
l
すなわち τ = C
(C は不明な定数) と表され、周期はおもりの質量 m によらない。
g
【 問題 2-5 の答】
(~r0 · ~r0 ) = rx0 2 + ry0 2 = (rx cos θ + ry sin θ )2 + (−rx sin θ + ry cos θ )2
= (rx2 cos2 θ + 2 rx ry sin θ cos θ + ry2 sin2 θ ) + (rx2 sin2 θ − 2 rx ry sin θ cos θ + ry2 cos2 θ )
= rx2 + ry2 = (~r ·~r)
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