研究開発において、中堅研究開発技術者のモチベーションを 向上させるには 〜モチベーションUPにより企業業績を向上させる〜 ㈱加貫ローラ製作所 宮 崎 修 ㈱カネカ 中 川 知 昭 ハリマ化成㈱ 林 田 裕 一 日立造船㈱ 祐 保 芳 紀 コニカミノルタテクノロジーセンター㈱ 出 石 聡 史 Ⅰ.はじめに 技術系企業のレーゾンデートルとは、世界の持続的な発展に寄与する科学技術製品を継続的に 提供する事である。そのために必要な技術イノベーションを継続的に起こす事ができる研究開発 組織を維持・発展させる事は、技術系企業にとっての至上命題であり、その前提条件として、組 織の礎としての有能な人材を継続的に維持・育成する事が最も重要な要素となる。我々Dグルー プは、持続的な技術イノベーションを可能とする研究開発組織を構築する観点から、人材マネジ メントに研究の焦点を置いた。 Ⅱ.研究の背景 リーダー 「人材マネジメント」をテーマとした 研究を開始するにあたって、メンバー が抱えている問題意識を抽出した。 経営層 中堅研究開発技術者 =サブリーダー リーダー その結果、研究開発組織において、実 務の中心的な役割を担う中堅研究開発 メンバー 研究開発 実務組織 技術者の業務に対するモチベーション を向上させる事により、企業業績を向 上させる事につながる可能性があるの ではないかとの共通認識が得られた。 若手 図1 研究開発組織 図1に、一般的な研究開発組織図を示す。ここでいう中堅研究開発技術者とは、研究開発組織 のリーダーの元で、リーダーの方針にしたがって研究開発実務を担うと同時に、若手メンバーに 対してはその方針を翻訳して伝え実行させる役割を担う人物を意味する。すなわち技術の伝承の キーを担い、次期リーダー候補としても重要な存在である。よって我々は中堅研究開発技術者(以 下サブリーダー)のモチベーションに着目して研究を進める事とした。 Ⅲ.仮説の設定 まず当コース参加者に、自身のサブリーダー当時のモチベーション変動要因について聞き取り を行い、KJ法/A法図解で整理した。その結果、 「好きな事をする」 、 「昇格による昇給と組織運 営」、「職場の風通しのよさ」、「成果が認められる事」、であった事が見出された。 次に長期間に渡って安定して成長を続けているケーススタディー企業についてモチベーション アップの施策を精査した。その結果、先のKJ法で見出された4項目が確認されたと共に、それ 以外に、以下の「理念、メッセージをわかりやすい言葉で繰り返し何度も語りかける」という事 が共通項として見いだされた。 ¾ 住友スリーエム㈱:感情に働きかける言葉で、繰り返しメッセージを伝える。 ¾ TOTO㈱:理念が研究のよりどころ ¾ 日東電工㈱:何度も丁寧に説明 ¾ 日本ゼオン㈱:研究者が月1回社長とミーティング ¾ プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン㈱:わかりやすい言葉で繰り返す。 ¾ テルモ㈱:社長が従業員に直接語りかける。 これらの事から、次の仮説1を構築した。 【仮説1】 1−1 モチベーションアップの施策を本当に機能させるには、理念を伝える事が重要だ。 1−2 モチベーションアップの施策を本当に機能させるには、方針を伝える事が重要だ。 次に、 「研究開発の組織行動」(開本浩矢著)によると、成果は「モチベーション×能力×環境要 因」により表される。すなわちサブリーダーのモチベーションを向上させると若手にも伝播し、 個人ひいては職場の成果が上がり、最終的には企業業績が向上すると考え、仮説2を構築した。 【仮説2】サブリーダーのモチベーションが向上すると、企業の業績が向上する。 Ⅳ.アンケートによる調査と結果による仮説の検証 1.アンケート調査 前項で構築した仮説を検証するため、(財)関西生産性本部の賛助会員企業及び当コースOB等 に後述内容のアンケートを送付し、調査を行った。アンケートは425件送付し、110枚の回 答を得た。回収されたアンケート結果について重回帰分析による統計解析を行った。 (1)仮説1の検証 表1には、アンケート内容のうち、仮説1検証のための重回帰分析結果を示す。 表1 仮説1のアンケート内容と結果解析 従属変数 仕事の達成感 仕事の満足度 説明変数 企業 感じ方、伝達頻度、 理念 浸透程度 部署 方針 会議での モチベーショ 活性度 ンの高さ 職場の明るさ 関連がなかった 伝達頻度 0.313/0.001** 関連がなかった 浸透程度 理念の反映 0.301/0.002 ** 自由度調整済み決定係数(R2) 0.189 0.366/0.000 ** 0.125 0.081 0.323/0.001 ** 0.264/0.005 ** 0.096 0.197 標準化係数/有意確率(*5%/**1%) 重回帰分析の結果から、仮説1の企業理念や部署方針を伝達するだけでは、モチベーションは 向上しない事が分かった。ただ、部署方針に企業理念を反映される事とモチベーションが上がる 事に相関関係が認められ、仮説1を以下の様に修正した。 【修正仮説1】 部署方針に企業理念を反映させる事が、モチベーション向上に有効である。 (2)仮説2の検証 表2には、アンケート内容のうち、仮説2検証のための重回帰分析結果を示す。 表2 仮説2のアンケート内容と結果解析 従属変数 説明変数 昨年までの貴社の業績は、良 職場の成果は上がって かったと感じていますか? いると感じますか? サブリーダーの仕事の達成感は高いと思いますか? 0.380/0.000 ** 関 連 が な か っ た サブリーダーは会議や打合せをリードしていると思いますか サブリーダーは満足して仕事をしていると思いますか? サブリーダーのモチベーションは、上昇傾向にありますか? 職場の雰囲気は明るいと思いますか? 0.276/0.002 ** 自由度調整済み決定係数(R2) 0.260 欄内:標準化係数/有意確率(*5%/**1%) 重回帰分析の結果から、仮説2のサブリーダーのモチベーション向上と仕事の達成感は、職場 の成果と密接な関係が認められた。しかしながら企業業績との直接的な関係は見いだせなかった。 そこで回答者個人の感想でなく回答者企業の、過去5年間の業績比較を以下のように行った。 即ち、 「サブリーダーの仕事の達成感」並びに「サブリーダーのモチベーション高さ」の回答結果 から「職場の成果が上がっていると感じている」企業を順位付け、上位5社と下位5社について 2003 年〜2007 年までの営業利益の伸び率(2003 年度を 100 とした指数)を有価証券報告書を元に 比較した。 図2に示すように、上位企業は実際に営業利益率の伸びが高く、逆に下位企業は伸び率が低い 傾向が認められ、職場の成果が上がれば企業業績も向上する傾向にあると関連づけられた。この 事から、「サブリーダーのモチベーションが向上すると企業の業績が向上する」とした仮説2は、 ほぼ妥当であるという結果が得られた。 300 営業利益の伸び率 (2003年度を100として) 営業利益の伸び率 (2003年度を100として) 300 200 100 0 200 100 0 上位5社の業績 下位5社の業績 -100 -100 2003 2004 2007 2003 2004 2005 年度 2006 図2 職場の成果の感じ方と企業業績の推移 2005 年度 2006 2007 Ⅴ.アンケートの分析 アンケートから得られたデータを元に、企業理念や部門方針及び各種施策とモチベーションに 関する各設問との間にどのような関係かあるかを詳細に分析する為に因子分析を行った。得られ た成分行列から寄与率の高い上位3成分を選択し、その成分の意味する内容を解釈した結果、第 1成分(軸①)として「方針浸透と成果のフィードバック」、第2成分(軸②)として「企業理念の共 感度」、第3成分(軸③)として「成果の体感」と命名した。 図3には、最も寄与率の高い軸①をX軸に、軸②をY軸にプロットしたものを示す。プロット の灰色並びに黒色はそれぞれモチベーションが下降傾向にある、あるいは低いと回答したもので あるが、重回帰分析で明らかとなった「理念や方針だけではモチベーションを上げられない」事 が裏付けられた。同時に、上司が考えているサブリーダーと、サブリーダー自身の認識に乖離が あり、上司が方針に理念を反映させているつもりでも、部下はそうは捉えていない事が浮き彫り になった。 サブリーダー自身の回答 上司から見たサブリーダー 軸② 企業理念の共感度 3.0 3.0 2.0 第一象限の 分布が多い 第一象限の 分布が少 な い 1.0 2.0 1.0 0.0 0.0 -1.0 -1.0 -2.0 -2.0 モ チベ ーショ ンの 境 界 線 -3.0 -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 軸① 【設問23:モチベーションの状態】 図3 2.0 3.0 -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 -3.0 3.0 方針浸透と成果のフィードバック :モチベーションが高い or 上昇傾向 :下降傾向 :低い サブリーダー自身及び上司から見たサブリーダーのモチベーション分布 図4には、軸①をX軸に、軸③をY軸に 3.0 関しては課題解決に向けて頑張っている 姿が浮かぶが、第2象限でモチベーション が高い事が技術者特有の現象であると考 えられた。すなわち、上司が理念を基に方 針を伝えているつもりであっても、実際は 成果の体感 ーションが低くない事である。第4象限に 納得と成果 2.0 軸③ 第2象限と第4象限のメンバーのモチベ 自己満足 モチベーション:高 プロットした結果を示す。興味深いのは、 意外と元気 1.0 0.0 -1.0 -2.0 -3.0 モチベーション:低 戦意喪失 -3.0 それに関心を示さず自分の好きな事を追 -2.0 軸① 求しがちな技術者特有の部下の像が描く 事が出来る。 モ チベ ーショ ンの 境 界 線 図4 悪戦苦闘 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 方針浸透と成果のフィードバック サブリーダーの成果認識とモチベーション分布 Ⅵ.結論及び提言 研究開発サブリーダーのモチベーションアップ施策を本当に機能させるには、単に企業理念や 部署方針を伝えるだけではなく、企業理念を織り込んだ部署方針を示す事が有効であると考えら れた。またモチベーションアップにより企業業績が向上する事が、間接的ではあるが実証された。 さらに自己満足に陥っているサブリーダーのモチベーションを向上させる方策として、①部署 方針を納得させるか、自分の活動意義を見いださせる事と、②部署方針にとらわれず、研究開発 技術者としてトライしたい事を考えさせる事を交互に繰り返し経験させ、常に刺激を与え続けて ドキドキ させる事が重要であると考える。 以上
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