エスフィーハ

“Se→Es”の化学変化
エスフィーハ
まるでおにぎりのような三角形が印象的な、ブラジルのパン。それがエスフィーハです。ブラジルの代表的な
軽食で、街中でもよく売られています。ひと口、頬ぱるとずっしりと詰まった牛ミンチの具が現れるエスフィー
ハは、正式名・エスフィーハ・フェッシャード。そしてもう 1 種類、小振りなピザのように、生地に具を載せただ
けの、エスフィーハ・アベルトがあります。また、具も牛ミンチだけではありません。チキンのほぐし身とカチュ
ピリ(ブラジルのクリームチーズ)が入っているものも、とてもポピュラーです。
エスフィーハのルーツを手繰ると、中東のシリアに辿り着く、と言われています。そう、彼の地にもあるんで
すね、エスフィッハ(sefiha/一部、sfiha という綴りも見受けられます)と呼ばれるピザのようなパンが。具材
もやはり牛やラムのミンチを玉ねぎ、トマトで炒めたもの、となります。そしてこのエスフィッハ、シリアのみ
ならずレバノン、イラク、パレスチナ、ヨルダンといったシャーム文化圏(*)では、満遍なく食べられています。
因みに、シリアでは加えないパセリを、牛ミンチに加えるとレバノン風なのだとか。
中東から、南米はブラジルへ。この食文化の伝達は、内戦を逃れてブラジルに渡った難民たちがもたらしたも
ので、ブラジルには大人気の中東系のファストフード・チェーンもあるほど。ですが、エスフィーハに限らず、他
にも中東由来のキビや、もしかしたら中東の影響を受けているのではないか、と推測されるパステル(よく似た
ボレッキィという食べ物が中東にあります)などを考えると、単純にここ数十年間に起こった伝達ではなく、も
っと歴史的な背景も考えられるのかもしれません。
大航海時代に、新大陸を目指したのはスペインやポルトガルの船だけではなく、イスラム商船も多数ありま
したから。ポルトガル→イスラム→ブラジル、あるいはイスラム→ポルトガル→ブラジル、という伝達ルート
は、ブラジル建国以前から存在していた可能性は、否定できないのではないでしょうか。
中東だと sefiha、と綴られるエスフィーハ(エスフィッハ)は、ブラジルだと esfiha と綴られています。大西
洋を渡り、南米の大地で逆転した e と s、そして具材を包む三角形の外見。これらは、南米の気候風土がもたらし
た化学変化なのかも知れません。そして今、そのブラジルから太平洋を渡って日本へと伝わり始めているエス
フィーハは、この先どんな化学変化をするのでしょうか。
*シャーム:シリア、レバノン、パレスチナ、ヨルダン各国は、生活習慣や食文化がとても似通っていること
から、一帯はシャームと総称されています。
エスフィーハ・フィッシャード(材料
8 個分)
生地
強力粉
300g
ドライイースト
6g
塩
全卵
5g
1個
ぬるま湯
適宜
牛ミンチ
200g
砂糖
15g
バター
8g
玉ねぎ
1/2 個
具
トマト
塩・こしょう
1個
おろしにんにく
適宜
適宜
EX-V オリーブ油
適宜
作り方
①
玉ねぎをみじん切りに、トマトは種と皮を除いてザク切りにする。
②
フライパンにオリーブ油を熱し、おろしにんにくと①の玉ねぎを炒める。
③
②の玉ねぎが透明になってきたら、①のトマトも加えてさらによく炒める。
④
③に牛ミンチを加えて、水分を飛ばしながらしっかりと炒める。
⑤
④に塩・こしょうで味をつけ、火からおろす。
⑥
⑤が充分に冷めたら 8 等分してそれぞれ簡単に丸めておく。
⑦
強力粉をしっかり篩う。
⑧
全卵を割りほぐし、卵と合わせて 195g になる量のぬるま湯を加えてよく解きほぐす。ぬるま湯の温度が
高いと、卵が固まり始めるので要注意。
⑨
⑧に塩・砂糖・ドライイーストを加えてよく混ぜる。
⑩
⑨に⑧の強力粉を加えて、粉っぽさがなくなるまでよく混ぜる。
⑪
⑩を捏ねる。両手にベタベタくっつくが、ひとつにまとまるまで捏ねる。
⑫
⑪に何回かに分けてバターを練りこんでゆく。
⑬
さらに捏ねて、生地を指で薄くのばし、向こうが透けるくらいまでにする。
⑭
⑬をひとまとめにしてボウルにいれ、ラップをかけて 40 分間、1 次発酵させる(スイッチを押さずにオー
ブンの中へ入れてドアを閉めるくらいで温度管理OK)。
⑮
40 分経ったら、フィンガーテストをする。人差し指に粉を薄くつけて、⑭に差し込んで抜き、できた穴が
そのまま維持できていたら 1 次発酵終了。穴が縮むならば発酵不足。逆に生地全体が沈んでしまうよう
ならば発酵過多。
⑯
⑮を 8 等分にして丸め、よく絞った布巾を被せて 10 分間休ませる(ベンチタイム)。
⑰
⑯をそれぞれ伸ばし、⑥の具を 1 つずつ包んで三角形に閉じる。
⑱
オーブンを 180℃に温め始める。
⑲
⑰のとじ目を下にしてオーブンの天板に並べ、きつく絞った布巾を被せてそのまま室温下で 10 分ほど仕
上げ発酵させる(冬は暖房下で OK。夏場は冷房下不可)。
⑳
⑲の表面に艶出しの溶き卵(分量外)をぬり、温まったオーブンで 12~15 分焼く。焼き色で時間は微調整
すること。
※
具材は鶏のほぐし身とクリームチーズにしてもよい。