三角比と三角関数 角 C が直角な直角三角形 ABC を考えます. 角 A に対する三角比は各辺の長さの比です. この三角比を用いると一般の三角形のいろいろな量, 辺の長さや面積などを記述すること ができます. 角 A は 0◦ と 90◦ の間の数ですが, これを周期的に拡張して波の形をした三角関数を定 義することができます. この三角関数を用いるといろいろな波―海の波, 電波, 光, 振動な ど―を記述することができます. 初心者は斜滑降 問題の前に三角比を復習しておきましょう. 図のような直角三角形 ABC を用意します. B A C A の角 ̸ A を簡単に A と書くことにしましょう. このとき sin A = BC AC BC , cos A = , tan A = AB AB AC と定めます. これらを三角比とよびます. 明らかに tan A = sin A cos A です. ̸ A を決めると直角三角形はすべて相似ですから, これらの比は三角形の大きさに関 係なく, ̸ A の大きさによって決まります. 特に正三角形の半分と正方形の半分を考えると 各辺の長さはピタゴラスの定理から分かるので, A= 30◦ , 45◦ , 60◦ のときの比が得られま す. 表にまとめると次のようになります. A 0◦ sinA 0 cosA 1 tanA 0 30◦ 1 √2 3 2 1 √ 3 45◦ 1 √ 2 1 √ 2 1 1 60◦ √ 3 2 1 2 √ 3 90◦ 1 0 ∞ A= 0◦ , 90◦ のときは, 三角形がつぶれてしまいますが, 各比が表のようになることは想像 できると思います. ∞(無限大)は数字ではないので, tan 90◦ = ∞ と書くのは不正確で, 正確には空欄とし, 定義されないとすべきです. でも無限大の方が 90◦ に近づく状況が伝わ るのであえて書きました. それ以外の 20◦ , 75◦ などの他の角度に対する値は参考書の『三 角比の表』を見てください. 問題 太郎君はスキーの初心者です. 斜度が 10◦ の斜面なら直滑降で滑れますが, 斜度が 30◦ の斜面に来てしまいました. とて直滑降は無理です. そこで先生に教わったように斜 滑降で斜めに滑って降りることにしました. 斜めに斜度 10◦ で降りるには, 最初のスター ト時に真下に向かって何度斜めに滑り出せばよいでしょうか? A O B C 図 1: 直滑降と斜滑降 解答 斜度が 30◦ ですから, 図で AB= 2, AO= 1 としましょう. ピタゴラスの定理から √ BO= 3 です. 斜度 10◦ となるように斜滑降で滑りますから tan 10◦ = 1 CO です. 三角比の表より, tan 10◦ = 0.1763 ですから CO= 5.672 となります. したがって三 角形 BOC でピタゴラスの定理を使えば √ BC2 + ( 3)2 = 5.6722 これより, BC= 5.401 となります. ここで三角形 ABC に注目して, 滑り出す角度を θ◦ と すれば 5.401 BC = = 2.701 tan θ◦ = AB 2 2 となります. 再び三角比の表から θ は約 70◦ であることが分かります. この角度で滑り出すと, ゲレンデが小さいとすぐに端にきてしまいます. 何度もキック ターンをしてジグザグに降りることになります. 角度 θ が 90◦ から 360◦ のときの三角比はどうなるでしょうか? 次図の様に半径 1 の円 を用意します. O= (0, 0), A= (1, 0) とします. 円周上に点 P をとり, ̸ POA= θ としま しょう. P Q O 図 2: 動径と三角比 そして P から x 軸への垂線の足を Q とします. このときできる直角三角形 OPQ を使って 三角比を計算します. P= (x, y) であれば sin θ = y, cos θ = x, tan θ = y x となります. ここで P が第 2, 3 象限にあるとき x は負となり, P が第 3, 4 象限にあるとき y は負となることに注意してください. このようにして 0◦ ≤ θ ≤ 360◦ に対して三角比が 定義されます. 線分 OP を動径といいます. 動径 OP を反時計回りにまわして 0◦ ≤ θ ≤ 360◦ に対する三角比を定義しました. もう 一回りさせるとどうなるでしょうか? 最初と変わりませんね. 逆に時計回りに一回りさ せても同じです. θ を θ ± 360◦ としても三角比は変わりません. よって整数 n に対して sin θ = sin(θ + 360◦ n), cos θ = cos(θ + 360◦ n), tan θ = tan(θ + 180◦ n) となります. tan θ は 180◦ 毎に繰り返されることに注意してください. 最初の出発点は直角三角形を使った三角比でした. したがって角度は 0◦ ≤ θ ≤ 90◦ の 範囲で考えていました. ところが上のような動径 OP を考えて, それをぐるぐる回して比 を定義すれば, すべての実数 θ に対して sin θ, cos θ, tan θ が定義されます. すなわち θ の 関数となります. このような関数を三角関数とよびます. この関数のグラフは後で調べま しょう. 3 いろいろな公式 三角関数に関してはたくさん公式があります. まとめておくと便利ですので列挙してお きましょう. 証明は簡単ですので高校の教科書を参照してください. [1] tan θ = sin θ , sin2 θ + cos2 θ = 1 cos θ [2] sin(−θ) = − sin θ cos(−θ) = cos θ tan(−θ) = − tan θ [3] sin(θ + 360◦ ) = sin θ, sin(θ + 180◦ ) = − sin θ, sin(θ + 90◦ ) = cos θ cos(θ + 360◦ ) = cos θ, cos(θ + 180◦ ) = − cos θ, cos(θ + 90◦ ) = − sin θ 1 tan(θ +360◦) = tan θ, tan(θ +180◦) = tan θ, tan(θ +90◦) = − tan θ [4] 加法定理 sin(ϕ + ψ) = sin ϕ cos ψ + cos ϕ sin ψ cos(ϕ + ψ) = cos ϕ cos ψ − sin ϕ sin ψ tan ϕ + tan ψ tan(ϕ + ψ) = 1 − tan ϕ tan ψ [5] 2 倍角の公式 sin 2ϕ = 2 sin ϕ cos ϕ cos 2ϕ = cos2 ϕ − sin2 ϕ = 1 − 2 sin2 ϕ = 2 cos2 ϕ − 1 2 tan ϕ tan 2ϕ = 1 − tan2 ϕ [6] 半角の公式 ϕ 2 ϕ cos2 2 ϕ tan2 2 sin2 = = = 1 − cos ϕ 2 1 + cos ϕ 2 1 − cos ϕ 1 + cos ϕ [7] 和を積に直す公式 sin ϕ + sin ψ = 2 sin 4 ϕ+ψ ϕ−ψ cos 2 2 ϕ+ψ ϕ−ψ sin 2 2 ϕ+ψ ϕ−ψ cos cos ϕ + cos ψ = 2 cos 2 2 ϕ+ψ ϕ−ψ cos ϕ − cos ψ = −2 sin sin 2 2 sin ϕ − sin ψ = 2 cos [8] 積を和に直す公式 1 sin ϕ sin ψ = − (cos(ϕ + ψ) − cos(ϕ − ψ)) 2 1 (sin(ϕ + ψ) + sin(ϕ − ψ)) sin ϕ cos ψ = 2 1 cos ϕ sin ψ = (sin(ϕ + ψ) − sin(ϕ − ψ)) 2 1 cos ϕ cos ψ = (cos(ϕ + ψ) + cos(ϕ − ψ)) 2 [9] 合成関数 a cos ϕ + b sin ϕ = √ a2 + b2 sin(ϕ + θ), tan θ = a , (a, b) ̸= (0, 0) b もともとは直角三角形の辺の比から出発していますから, 一般の三角形への応用もたく さんあります. 次のように三角形 ABC の 3 つの角を A, B, C とし, それぞれの角の対辺の 長さを a, b, c としましょう. また S を面積, r を内接円の半径, R を外接円の半径とします. [10] 正弦定理 b c a = = = 2R sin A sin B sin C [11] 余弦定理 a2 = b2 + c2 − 2bc cos A b2 = c2 + a2 − 2ca cos B c2 = a2 + b2 − 2ab cos C [12] 面積の公式 1 1 1 S = bc sin A = ca sin B = ab sin C 2 2 2 [13] ヘロンの公式 √ S= s(s − a)(s − b)(s − c), s = a+b+c 2 [14] S= [15] ( r = (s − a) tan A 2 abc = rs 4R ) = 4R sin 5 A B C S sin sin = 2 2 2 s 加法定理の証明 加法定理は重要なので簡単な証明を与えておきます. O(0, 0), P(cos ϕ, sin ϕ), Q(cos(−ψ), sin(−ψ)) として, △OPQ を考えます. このとき, ̸ O = ϕ + ψ, OP = OQ = 1 とすぐに分かります. また, PQ2 = (cos ϕ − cos(−ψ))2 + (sin ϕ − sin(−ψ))2 = (cos ϕ − cos ψ)2 + (sin ϕ + sin ψ)2 = 2 − 2 cos ϕ cos ψ + 2 sin ϕ sin ψ と計算できます. 一方, △OPQ を O を中心にして ψ だけ回転させてできる △OP′ Q′ は P′ = (cos(ϕ + ψ), sin(ϕ + ψ)), Q′ = (1, 0) ですから P′ Q′2 = (cos(ϕ + ψ) − 1)2 + sin2 (ϕ + ψ) = 2 − 2 cos(ϕ + ψ). もちろん PQ = P′ Q′ ですから cos(ϕ + ψ) = cos ϕ cos ψ − sin ϕ sin ψ となります. 次にこの結果を用いて sin(ϕ + ψ) = cos(ϕ + ψ + 90◦ ) = cos(ϕ + 90◦ ) cos ψ − sin(ϕ + 90◦ ) sin ψ = sin ϕ cos ψ + cos ϕ sin ψ. これで証明終わりです. 三角関数のグラフ 前の節で三角関数 sin θ, cos θ, tan θ を定義しました. ここではそのグラフを描きましょ う. θ を x 軸に, 各三角関数の値を y 軸にとります. ところで θ は動径 OP を回したときの 角度 ̸ POA でした. 角度のままでは x に大きな値が出て不便なので, 単位を度からラジア ンに変えます. 360◦ = 2π ラジアン です. 2π は半径 1 の円の円周の長さですから, 1◦ に対応するラジアンは, 1◦ の扇形の弧の 長さです. このラジアンは長さに対応していますから, x 軸にそのまま値をとることがで きます. 前に求めた表を参考に [0, 2π] の範囲で各三角関数のグラフを描くと次のようになります. 6 1 0.5 1 2 3 4 5 6 4 5 6 -0.5 -1 図 3: sin x 1 0.5 1 2 3 -0.5 -1 図 4: cos x 6 4 2 1 2 3 4 -2 -4 -6 図 5: tan x 7 5 6 π π ) ですから, cos θ のグラフは sin θ のグラフを左に だけ平行移動し 2 2 たものです. またこれらのグラフは同じ形が繰り返し現われてきます. 前にも注意しまし たが整数 n に対して cos θ = sin(θ + sin θ = sin(θ + 2πn), cos θ = cos(θ + 2πn), tan θ = tan(θ + πn) となるからです. このことを sin x, cos x は周期 2π の, tan x は周期 π の周期関数といい ます. ここで a sin bx, a cos bx, a tan bx のグラフはどうなるでしょうか?考え方は同じなので sin を例にとりましょう. 例えば 2 sin 3x のグラフは次のように振動の範囲が −2 と 2 の間 2π に広がり, 周期が と短くなっています. 3 2 1 1 2 4 3 5 6 -1 -2 図 6: 2 sin 3x のグラフ 一般に a sin bx のグラフは −a と a の間を振動し, 周期が を振幅とよびます. 2π となります. 振動の幅の 2a b フルートとクラリネット ここでいくつかの三角関数の和を考えてみましょう. 例えば 3 sin x − 5 cos 3x + 10 sin 8x とするとそのグラフは下図のようになり, 面白いグラフが描けます. このような三角関数 の和は身の回りにもたくさんあります. 例えば楽器の音にも三角関数の和が潜んでいます. 楽器が音を奏でるのは空気が振動するからです. 一定の音程(ピッチ)でフルートとク ラリネットを吹いてもらいましょう. このピッチは周波数のことで, 例えば1度 C は 256 2π 1 のことです. 以下, ω = = 512π と書くことにしましょう. 秒, すなわち周期 T = 256 T このときフルートの波形―空気振動―は ( sin ωt + 2 π sin 2ωt + 3 6 ) のような形になり, 三角関数の和が現われます. 次のグラフをみてください. 8 15 10 5 1 2 3 4 5 6 -5 -10 -15 図 7: 3 sin x − 5 cos 3x + 10 sin 8x のグラフ 2 1 0.005 0.01 0.015 -1 -2 -3 図 8: フルートの波形 9 0.02 sin ωt というピッチ 256 の基音にその 2 倍のピッチの音―2 倍音―が重なっています. 実 際は小さく 4 倍音, 6 倍音も重なっています. フルートの音色の特色はこれらの偶数倍音の 被さりに起因すると考えられています. 一方クラリネットはどうかと言うと, sin ωt という基音に 8 倍音, 9 倍音などが重なって います. この高周波数の倍音と奇数の倍音の重なりがクラリネットの音色を特徴付けてい ます. 問題 1 加法定理を用いて sin π 5π , sin , cos 7π 12 をそれぞれ求めよ. 8 12 問題 2 単位円周上で, 点 A(1, 0) から反時計回りを正として θ 動いた点を P(x, y) とする. このとき, ラジアンによる三角関数の表現は, x = cos θ, y = sin θ となる. 今, 単位円周に換えて, 点 A(1, 0), B(0, 1), C(−1, 0), D(0, −1) を頂点とする正方 形を考え, この正方形上で, A から反時計回りを正として θ 動いた点を Q(x, y) とする. こ のとき, x = f (θ), y = g(θ) と定義する. f (θ), g(θ) のグラフの外形を書け. 10
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