N E W S L E T E E R テーマ 八戸高専図書館 H27 No.2 2015年8月 今を生きる 「明日の子供たち」へ 有川 浩 著 皆さんは、「児童養護施設」に対してどのよ うなイメージを持っていますか?「可哀想だ な」と思っている人も多いのではないでしょう か。 僕もつい最近までそう思っていました。です が、 この「明日の子供たち」という本を読み、考え が変わりました。 この本は、児童養護施設を舞台にして書か れた本です。主人公の三田村慎平がドキュ メンタリー番組を見たことをきっかけに、児童 養護施設 「あしたの家」に転職することを決 意する・・・。というところから物語は始まり、 施設で働く職員やそこで暮らす子供たち、そ して、施設を取り巻く環境等について書かれ ています。 僕がこの本を読んで印象に残った言葉は、 施設で暮らす少女が言った「私たちはかわい そうじゃない」という言葉です。これまで施設 について深く考えたことなどなかった僕は、 初めこの言葉の意味が分かりませんでした。 しかし、読んでいくにつれその意味は分かり ました。施設に入る子供たちにはついつい 「親と一緒に暮らせなくて可哀想だな」という レッテルを貼ってしまいがちですが、「施設で 暮らせてほっとしている」と考える人もいます。 児童養護施設に入るという事が、良い事な のか良くない事なのか、僕には分かりません。 けれど この本を、読んでからは一言に「良くない事」 だと決めつける真似はしなくなりました。そし て、この事についてもっと調べてみようと思 いました。 L4 今 柾人 動き出す未来 〜今⼀番好きな本〜 『ゲート -自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり-』 柳内たくみ 著 20XX年、白夜の東京銀座に突如「異世界の門」が開かれた。そこから現れたのは異 世界の軍勢と怪異差。そして彼らは人々を無差別に襲い始め、銀座を血と死体で地国 へと変えていく。 この非常事態を陸上自衛隊機動隊が対処した。この対処に貢献したのは自他ともに 認めるヲタク自衛官伊丹耀司二等陸尉であった。政府は異世界の軍勢と交渉するため、 自衛隊は特別地域“特地”へと足を踏み入れる。その隊員たちの中に、伊丹の姿があっ た。 この本は、現代の日本とファンタジー世界を繋げ、それを取り巻く世界情勢や異世界 の軍勢“帝国”の交差する思惑が緻密に描写されており、とても読みごたえがある。ま た、自衛隊の戦闘場面が詳細に書かれていてその場にいたような感覚になる。 ぜひとも読んでもらいたい一冊である。 Z2 奥村泰輔 名前探しの放課後(上)・(下) 辻村 深月 著 『明日の記憶』 この物語の始まりは少年が3カ月後の未来 から、過去へとタイムスリップしたことから始 まります。少年がいた3か月後の未来は、「誰 か」が自殺してしまい、冷たく重い未来でした。 少年は未来をかえるためにその「誰か」を探 していく物語です。 僕は、この物語の世界にどんどん引き込ま れてしまいました。この、小説はミステリーな 要素だけではなく、青春的な要素も含まれて おり、とても読みやすい小説となっています! この本は、上・下の2冊になっていて皆さん読 むのが「時間がかかる!」って思っているそこ のあんた!心配いりません!!なぜならこの 本はドンデン返しからのドンデン返し、そして、 そこからの大ドンデン返しが待ち受けている からです!皆さんも是非この「名前探しの放 課後」を読んでみてください。 (先に「ぼくのメジャースプーン」を読むことを オススメします) L4 釜澤 直也 荻原 浩 著 広告代理店の営業課の部長である佐伯雅行は、仕事に精力的で部下や取引先から も信頼されていた。しかし、ある日、雅行を原因不明の体調不良がおそう。会社の重要 なミーティングを忘れたり、部下の名前を思い出せなくなったりするのだ。妻の枝実子は 雅行を病院に連れて行くと、医師から若年性アルツハイマーと告げられる。雅行は病気 と戦いはじめた。あらゆる事柄をメモしこぼれる記憶をとりとめようとした。しかし、限界 があった。 通いなれたはずの取引先の場所がどうしても思い出せない。仕事中に仲間の顔をわ すれてしまう。そして、会社には雅行の病気が知れ渡ってしまい、雅行は自主退職に追 い込まれてしまう。枝実子はあせる雅行を受け止めいたわる。介護施設に預けるべき だという友人の言葉をやんわりと断り、 枝実子は雅行と一緒に病と闘うことを決意する。 アルツハイマーの症状が進んでいることを自覚する雅行が、山間部にある介護施設を 一人で見学に行く。その足で雅行は若頃に少しかじったことのある陶芸教室へ行く。実 は雅行と枝実子が知り合ったのも、陶芸がきっかけだった。雅行は山を下りる途中で、 枝美子と会いますが、もうそれが自分の妻であることすらわからなかった。それでも枝 実子はやさしく雅行を見守った。 M1 平浜 龍騎 夏休みにはブンガクも、読もう! 建築雑誌は青春のダイヤ 総合科学教育学科 戸田山 みどり 環境都市・建築デザインコース 馬渡 龍 建築雑誌は青春のダイヤ。」これは学生時代に、建築の師匠から伺った言葉だ。全てに通じると 思うが、建築において完全に純粋なオリジナルは存在しないと断言できる。建築をつくるという創 造行為は、建築家の過去の記憶の断片=米粒を、おにぎりをにぎるようにして(統合して)生まれ てくるものだと思う。昨日今日に建築を始めたばかりの学生諸君が、製図の課題で頭を抱えこむ のは、単純ににぎれるだけの米粒の在庫を持っていないから。建築雑誌は、じっくり読むことで、 記憶に刷り込める。しかし、建築雑誌はファッション誌やマンガのようにサラサラ読み流しても意味 がない。建築雑誌をみると、作品ごとに写真、図面、設計者の文章などが盛り込まれている。まず、 写真を眺め、次にプラン(設計図)をじっくり見る。また写真を見て、プラン上のどこで撮影したのか をプランで確認し、さらに設計者はどんな経緯や意図でこの作品を作ったのかを読み、再度 写真とプランを見直す。何度も行ったり来たりする。私の建築雑誌の見方は本当にしつこ い。何かになろうと思ったら、それにしつこくのめり込むのも大切だ。本校の図書館の雑 誌コーナーでは『新建築』 、 『新建築・住宅特集』の最新号を簡単に閲覧できる。最近思う、 若いうちに手に入れた青春のダイヤは、歳を重ねるほどに輝きを増す…と。 夏休みになります。そのあとは、続けて秋学期ですが、自主探究活動でいそがしいことでしょう。独自の 研究をするとなると、先行研究を調べるためにたくさん資料を読まなければなりません。4年生は冬学期 に提出する論文作成のための下調べとして、人文科学系の文献を読むという課題があります。そして、ど ちらも、発表に際しては論理的で、曖昧さを排した表現で、簡潔かつ十分に情報を表現する、という、大き な制約があります。『理科系の作文技術』の著者である木下是雄先生(この春、惜しくもご逝去されました が)、の分類で言う「仕事の文章」を書けなくてはなりません。 以上のような活動は、みなさんがこれから一生、社会人となっても(というよりも、社会人になってからこ そ)必要とされる能力です。的確な文章を書けるようになるためにも、優れた「科学的」文章をたくさん読ん でおくことが重要です。インプットなしにアウトプットはない、ということです。 とは言っても、夏休みです。ふだん忙しくてなかなかできないような、息抜きのための読書もしてみたい、 と思うのは自然なことですね。また、どうしても「理科系」の文章ばかりでは、世界の見方も偏ってしまうと いうものです。たまには、曖昧で、意味が幾とおりにもとれ、あるいは、わざと謎めいた表現のある手のこ んだ文章、人間の理性では割りきれない側面を垣間見せてくれる作品にも取り組んでいただきたいもの です。 以下は、暑い夏にオススメの、ちょっと一筋縄ではいかない作品の例です。 『悪童日記』 アゴタ・クリストフ、ハヤカワepi文庫 最近、映画化もされた。いつ、どこかが明示されない戦争の時代に、あらゆる手を使って生き延びようと した双子の物語。子どもの視点で書かれているため、何が起きているのか想像で補わなければならない ぶん逆に、息が詰まるほどの過酷さが身に迫ってきます。涼しくなれます(?) 『タイタス・アンドロニカス』 ウィリアム・シェイクスピア、白水Uブックス または ちくま文庫 ご存知、英語文学の最大看板シェイクスピア先生の、最も血なまぐさいと言われるお話。極悪人ぞろい ですが、ここまで徹底すると、いっそ清々しいくらいです。SF仕立ての映画にもなっています。 『太陽の塔』 森見 登美彦、新潮文庫 『夜は短し歩けよ乙女』で麗しい青春を描いて多くの人に支持された作家のデビュー作。大学には入っ たものの、何もかもうまくいかない主人公の鬱屈が、ちょっと情けなく、ちょっと気味悪く描かれています。 『チョコレート・ウォー』 ロバート・コーミア、扶桑社文庫 男子校が舞台なので、登場人物のほとんどが男性ですが、主人公が14歳だということを忘れてしまいそ うなほど、大人の世界の嫌らしさが、これでもかと描かれています。品切れのようですが、図書館にありま す。 『蠅の王』 ウィリアム・ゴールディング、新潮文庫 こちらは、もっと年齢が若い少年達の集団が、無人島に不時着して、どんどん文明を忘れていく過程を 描いています。主人公達と同様に、読者も外の世界では何が起きているのかよくわからない、という点も、 ますます人間というものの恐ろしさを突きつけてきます。 『ライ⻨畑でつかまえて』または『キャッチャー・イン・ザ・ライ』 J.D.サリンジャー、白水Uブックス または 白水社ペーパーバック・エディション 同じ作者の同じ作品ですが、『ライ麦』の方が最初の翻訳で、『キャッチャー』の方は、村上春樹が10年 ほど前に新たに翻訳したものです。16歳の主人公の一人称なので、どちらの口調のほうが好きかで評価 がわかれます。このような、表現そのものが問題になるところも、「理科系」の文章とは異なるブンガクの 醍醐味です。お話の内容は、学校を落第した主人公が寮から抜け出して家に帰るまでのプチ・家出で、み なさんから見れば甘っちょろいかもしれませんが。
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