第23章 化粧品の使用感評価の特性と問題点

第 23 章
第 23 章 化粧品の使用感評価の特性と問題点
(株)エフシージー総合研究所(フジテレビ商品研究所) 菅沼 薫
はじめに
化粧品は,おおむね直接肌に塗布してその効果を発揮する。保湿効果のように塗布してすぐ
に感覚的に納得する効果や感覚もあるが,スキンケア化粧品のように,長期に使用しないとそ
の効果は発揮しないものもある。しかしながら,初期の使用感がよくなければ長期にわたって
使用することは難しい。化粧品の安全性や安定性が重要なのはもとより,使用感のよさも重視
される所以である。使用感とは使い心地のよさであり,この化粧品を使い続ければ肌にとって
よい効果が期待できる触感のことである。
また,化粧品の使用感評価は,何のために行うのかその目的によって手法が異なる。化粧品
技術者の化粧品開発のため,工場などでの品質管理のため,製品の特長を消費者に示す広告や
販促資料のためなど,化粧品評価といっても多くの目的が考えられる。この本は,化粧品開発
技術者にとって必要と思われる使用感評価の特性と問題点について述べることにする。
近年,インターネットの発展に伴い化粧品情報は,洪水のように巷に溢れ過剰すぎる情報に
溺れそうである。このような時代においては,化粧品や美容情報も質が問われるようになった。
そこで,メーカーの宣伝ではない真の化粧品情報が求められている。1999 年より月刊の美容
系女性誌に,見て分かりやすい実験で化粧品の特徴を定期掲載している。雑誌編集者は,新製
品や注目されている化粧品 10 点ほどをノミネートし,筆者を含む美容研究者たちが実験して
いる。手順としては,まずノミネートされた化粧品に求められる性能とは何かを考え,重視さ
れる項目順に選び出す。次いで,それら化粧品に求められる性能項目に合わせて,どのような
実験をしたらビジュアル化または数値化,差別化できる実験手法はないか検討している。これ
らの実験で最も注意しているのは,実験項目の選び方や方法もさることながら,実は官能評価
である。化粧品は肌に塗布して,触ってみないと分からないものであるので,専門パネルが試
験対象の化粧品を使用して,それぞれの性能を確認し,特徴をつかんでおくことが大事である。
官能評価で得られた化粧品製品間の差が,個別の客観評価実験にどう反映しているか,実験方
法の妥当性,正当性を確認する上でも,官能評価つまり使用感評価を常に注意している点であ
る。
たとえば,注目度の高いファンデーションの場合実際に肌に塗布して使用感評価を行う。キ
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メ隠し,カバー力,トラブル隠し効果,のびのよさ,フィット力,透明感,仕上がり感を確かめ,
経時による化粧膜の変化を,汗や皮脂に強いか,化粧くずれしにくさ,よれにくさ,くすみに
くさ,クレンジングしやすさ,などの項目で評価する。これらの項目で美容専門家が官能評価
1)
を行ったうえで,掲載するための実験 を考える。適度に表面に凹凸がある果実のカボスの表
面にファンデーションを塗布して,毛穴隠し効果をビジュアルに見せることも行っている。ヒ
トの皮膚上にファンデーションを塗布したときの毛穴隠し効果は,ファンデーションの肌色が
肌に同化してみられる効果なので同一の色では違いをビジュアル化しにくいが,カボスを使っ
たモデル実験なら凹影除去効果を伝えやすい。このようなモデル実験も化粧品の使用感評価の
一つと考える。
このように化粧品の使用感評価において,官能評価手法やモデル試験にもいくつか注意すべ
き点がある。
1. 感覚器官としての手
2)
からだのうちで,最も敏感な皮膚が手である 。
赤ちゃんは,興味あるものに手をかざして探り,いろんなものを触って確かめようとする。
また,人は化粧品のクリームを試すときに,顔が使えないときはクリームを指ですくってから
反対側の手の甲に塗布して伸ばし,クリームをすくった方の指先で何度も滑らせてクリームの
感触を確かめる。化粧品以外でも手で触って確かめることが多い。手は探索するためにあるわ
けで,昆虫の触角と同様に探索機能の有用な器官といえる。
化粧品は直接皮膚に塗布するものなので,化粧品の使用感を評価するためには,皮膚の感覚
を一番に知る必要がある。皮膚は,解剖学では感覚器官として扱っている。また,彫刻や絵画
の研究に用いられる美術解剖学では,皮膚のもつ運動機構である動きに応じて皮膚自身が伸縮
したり,下層との間にズレを生じたりする機能や,ミゾ,ヒダなどによって運動時の皮膚のタ
3)
ルミやシワを防いでくれる機構を重視して運動器官としている 。
皮膚の生理機能の感覚受容器としての働きは,接触刺激によっておこる感覚で,触覚,痛覚,
4)
5)
温度感覚などがある 。からだの各部位における刺激の感覚点の分布を表 1 に示すと,痛点
の最も多く分布するのは手掌部である。その他の感覚についても合わせると,手はからだの他
の部位よりも機械的刺激に敏感である。とくに指先が最も敏感で,弱い刺激で感覚が起こる場
所である。
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