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e-NEXI
2011 年 6 月号
➠特集
海外建設プロジェクトにおけるリスク管理方策に関する検討会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
国土交通省総合政策局国際建設市場室 経済連携係 小柴大河
船舶案件の引受実績(過去 10 年)と直近の傾向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
独立行政法人日本貿易保険 営業第二部 インフラストラクチャーチーム 調査役 鈴木 愛
➠カントリーレビュー
南スーダン・新たな国家誕生に向けた希望と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
➠NEXI ニュース
2011 年日韓バイ協議開催報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
発行元
発行・編集 独立行政法人日本貿易保険(NEXI)
総務部総務・広報グループ
e-NEXI (2011 年 6 月号)
海外建設プロジェクトにおけるリスク管理方策に関する検討会
国土交通省総合政策局国際建設市場室
経済連携係 小柴大河(こしば・たいが)
1.検討会の概要
近年、国内建設市場が縮小を続ける中で、膨大なインフラニーズが見込まれるアジアをはじめとする海
外建設市場は我が国建設企業が積極的に事業展開を行い、そのポテンシャルを発揮すべき市場であ
る。
しかしながら、海外建設プロジェクトは、カントリーリスクをはじめ国内建設工事と異なる様々なリスクを
抱えている。また、国内建設工事とは契約慣行が異なり、発注者と受注者の信頼関係も希薄であること
から、より厳格なリスク管理・契約管理が必要である。国土交通省は我が国建設企業の海外進出支援
の一環として、2010年10月より、学識経験者、建設企業等からなる「海外建設プロジェクトにおけるリスク
管理方策に関する検討会」(座長:草柳俊二高知工科大学工学部教授)を設置し、海外建設プロジェ
クトを受注する建設企業が行うべきリスク管理やリスクが顕在化した場合の損失に備えるための保険の活
用等について検討を行った。
本稿では、検討会で議論された内容のうち、1,契約管理やリスク管理のあり方、2,建設企業内のリスク
管理体制、3,建設企業による貿易保険の利用促進という重要な論点について紹介したい。なお、本検
討会の報告書は、国土交通省HP(http://www.mlit.go.jp/report/press/sogo07_hh_000142.html)に
掲載されているので、そちらも参照して頂きたい。
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2.建設企業へのアンケート調査等について
検討会では、海外建設協会会員企業に対するアンケート調査を行った。(有効回収 38 社、回答率
84%)また、その結果を補足するためのヒアリング調査を行った。その結果、海外の建設プロジェクトでは発
注者による代金支払等を巡って多くの紛争が生じているが、その原因の多くは、工事内容等の変更に伴
う工事費用の増加等について適切なリスク管理ができていないことに起因するものがほとんどであることが
わかった。また、こうしたリスクに備えるための貿易保険等の手段がほとんど活用されていないことが浮き彫
りになった。
(1)海外建設プロジェクトにおける紛争事例
過去 20 カ年(1990 年度∼2009 年度)において 27 の建設企業から 49 件の紛争事例が挙げられた。
紛争の原因としては「設計・仕様変更」、「発注者の財政状況の悪化」、「資材費・人件費の著しい高
騰」、「予期せぬ自然条件の変化」、「所在国の政情不安、社会・経済情勢の変化」など必ずしも予見
可能ではない事象に関するリスク分担を原因として紛争が生じた事例が目立った。こうした紛争事例では、
物価変動に伴う契約金額の変更を認めない条項を契約に入れ込む等発注者が一方的に片務的な条
件を請負者に課すことに伴うものも多くみられた。
図表 1:発注者との紛争事例
出典:建設企業へのアンケート結果より事務局作成
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(2)社内のリスク管理体制
海外プロジェクトにおけるリスク管理体制については、個別プロジェクト毎に「入札前のリスクの特定・分
析・評価」や「経営層への事前の相談・承認」を実施している企業は多かったものの、体系立ったリスク管
理に係る規定・マニュアルを整備している企業や、リスク対応のための一元化された専門部署を有してい
る企業は少なかった。
(3)貿易保険の利用
リスク管理方策の一つである貿易保険の利用については、利用実績のない企業が 38 社中 32 社であり、
ほとんど利用されていない実態が明らかになった。利用されない理由としては、回答企業の半数が「貿易
保険が必要となる国・地域のプロジェクトではなかった」ことを挙げ、次に「保険料が高かった」、「保険金が
支払われるケースがほとんど見込めないと判断した」等の理由を挙げている。
図表 2:建設企業の貿易保険利用ニーズ
出典:建設企業へのアンケート結果を基に事務局作成
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3.本検討会の報告を踏まえた今後の取り組み
本検討会は、わが国建設企業の海外展開におけるリスク管理の今後の課題として、「契約管理の強
化」、「社内のリスク管理体制の確立」、「貿易保険の活用」等を挙げている。こうした課題に関する今後
の対応の方向性について、個人的見解も交えつつ述べてみたい。
(1)契約管理の強化
紛争が生じないように予見不可能な事象に関するリスク分担を契約に適切に措置したり、発注者から
片務的な契約条件を一方的に押しつけられないように建設企業の契約管理を強化する必要がある。こ
のため、検討会は、次のような対応策を挙げている。
■外国法弁護士等のアドバイスを受けつつ、発注者から片務的条項を押し付けられないよう建設
企業主導で交渉を進め、安易な妥協は避ける。
■事業期間中に当初契約と異なる条件が生じた際は、契約書のクレーム手続に則した対応を徹
底する。
■紛争発生時に備え、仲裁や DAB(Dispute Adjudication Board: 紛争裁定委員会)について予
め契約に規定しておくことが有用である。特に、DAB は紛争の予防と迅速な解決に有効である。
■契約管理を担う人材(海外プロジェクトの契約管理について体系化された専門知識や実務経験
を有するプロジェクト・マネージャー、建設プロジェクトに精通した弁護士等専門家)の育成、及び経
営幹部のリスク管理意識向上が必要である。
海外政府機関等が発注する工事に関する紛争で民間企業の交渉力では限界がある場合において
は、在外公館や政府機関の協力を仰ぐことも有効であろう。世界の建設市場で売上高上位を占めてい
る欧州の大手建設企業においても、海外発注者と対等な議論を行うべく、在外公館や貿易保険実施
機関等の政府機関をうまく活用している。我が国においても、新成長戦略に基づきインフラ輸出を推進す
るためにインフラプロジェクト専門官が設置される等体制が強化された在外公館や、既存の EPA、投資
協定及び二国間会議等の政府間協議の枠組みを活用し、官民一体となって海外建設プロジェクトを推
進すべきである。
また、国内市場と海外市場では契約管理の基本的な考え方や仕組みが全く異なる。つまり、海外市
場では、1,発注者と受注者の相互信頼関係が希薄であり、厳しい交渉の中で契約書の文言を取り決
め、その文言に即して代金の支払い等が行われる、2,設計施工分離の契約において、総価一式請負
契約ではなく単価数量精算契約が原則であり、当初契約と異なる状況が生じた場合には、定量的な
根拠を明確に示してクレームしなければ発注者からの支払いが行われない恐れがある。こうした契約に関
する基礎的事項の徹底については、建設産業政策として、国が必要な対応をすべきである。
(2)社内のリスク管理体制の確立
リスク管理に係る規定・マニュアルの整備や、リスク対応のための一元化された専門部署を設置する等
社内のリスク管理体制を強化することについて、検討会は、次のような提言を行っている。
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■これまでの成功・失敗事例から海外プロジェクトに内在するリスクの特定・分析を行い、各企業が体
系立ったリスク管理体制を確立することが必要である。
各企業が有している過去の事例・経験則の量には限界があることが予想されることから、
リスク管理体制が企業内において定着し、充分に機能し始めるには、一定の試行錯誤を経ることが想定
される。こうした時間のロスを最小限にするため、建設業界全体におけるリスク管理に関する共通のナレッ
ジを蓄積させていくことが必要だろう。
(3)貿易保険の活用
貿易保険は、海外事業のセーフティーネットとして重要な役割を担っているが、我が国建設企業はほと
んど利用していない。この状況を踏まえ、検討会は、次のような取り組みを実施すべきとしている。
■国交省が「建設企業向け貿易保険マニュアル」を作成し、来年度上半期において経済産業省・
NEXI と連携した説明会を開催する。
我が国建設企業が貿易保険を利用しない理由として、「貿易保険が必要となるようなリスクの高い事
業を行わない」、「リスクの程度に比して保険料が高い」といった意見もあった。確かに、日本の政府開発
援助(ODA)によるプロジェクトや海外の日本企業発注案件を中心に海外事業を展開している企業やカ
ントリーリスクの低い先進国を中心に海外事業を展開している企業においては、想定されるリスクと負担す
る保険料を十分に比較した上で、貿易保険の利用を見送るケースも出てくるかもしれない。
しかし、今後、海外展開を拡大していくためには、海外の現地政府(非 ODA)や現地民間企業からの
発注案件を受注することが必要となると思われ、こうしたリスクの高い事業に対応するため、貿易保険をよ
り積極的に利用することが必要になってくると考える。また、貿易保険の利用は海外事業のセーフティーネ
ットとなるのみならず、欧州企業の例のように、リスク管理に関する情報収集や側面支援といった観点から
も有用である。
このため、本検討会が作成した建設企業向け貿易保険マニュアルや説明会を通じて貿易保険に関す
る理解を深めて頂きたいと思う。特に、本マニュアルには、建設企業より出された貿易保険に関する主要
な質問事項についてわかりやすく説明をしており、参考にして頂ければ幸いである。
また、本検討会は、DAB の裁定が出され、両当事者が異議を述べないために裁定が契約上の拘束力
を持ったにもかかわらず、発注者が支払わないような場合に保険金を支払う仕組みの導入について積極
的に推進すべきとしている。今後、貿易保険でこうした制度改善が行われれば、DAB のより一層の活用
につながることも期待できる。本検討会を契機として、建設企業と貿易保険実施機関であるNEXIの間
の情報交換が活性化し、双方に海外建設プロジェクトに関するリスク管理についてのノウハウが蓄積され
るとともに、建設企業の海外展開にとってより利便性の高い制度が構築されることが望まれる。
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4.おわりに
今後、我が国建設企業が海外展開をより一層推進していくためには、海外建設工事に関する契約
管理を適切に行うことが特に重要である。しかしながら、契約管理は単独で成り立つものではなく、工事
を的確にかつ論理性をもって遂行するシステム、すなわち、プロジェクトマネジメント技術に関する能力の
向上から取り組んで行かなければならない。したがって、海外建設工事に係る建設企業の契約管理につ
いては、こうした観点を踏まえ、別途検討の場を設け、議論を深めることが必要である。
また、我が国建設企業の海外展開に必要なリスク管理については、一義的には各民間企業が主体
的に取り組むべき課題であるが、必要に応じ、業界団体や国がそれぞれの立場で支援していくことも必要
である。
<e-NEXI 編集委員会より>
NEXI では、建設企業の海外展開を積極的に支援するため、建設企業への直接訪問や勉
強会への講師派遣を通じて貿易保険制度の紹介等を行っています。また、国土交通省の「海
外建設プロジェクトにおけるリスク管理方策に関する検討会」にもオブザーバー参加し、議論
に参画するとともに、海外で建設工事を行う建設企業のための「貿易保険の活用マニュアル」
作成にも協力しています。
今後も国土交通省、経済産業省と連携のうえ、「貿易保険の活用マニュアル」の説明会に
てご説明するとともに、要望に応じ貿易保険制度の勉強会を行いたいと考えています。
また、海外建設工事契約に適応する貿易保険制度の改正等についても、建設企業の方が
貿易保険を活用して海外展開を図ることを期待して、積極的に対応していくこととしておりま
す。
つきましては、建設業に関連する関係者の皆様に貿易保険制度について理解していただく
とともに、貿易保険制度をより充実させるため、制度に関するご要望やご意見をお待ちしてお
ります。
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船舶案件の引受実績(過去 10 年)と直近の傾向
独立行政法人日本貿易保険 営業第二部 インフラストラクチャーチーム
調査役 鈴木 愛(すずき・あい)
【 NEXI による主な船舶引受実績 】
リーマンショック以降、NEXI に相談頂く船舶案件の件数はこれまでになく増え、船舶の種類も多様とな
ってきています。図 1 に、NEXI が過去 10 年間に引き受けた主な船舶案件を記載しました。ばら積み船を
中心に貿易代金貸付保険(バイヤーズ・クレジット)による引受を行ってきたことがおわかり頂けると思いま
す。2008 年までは引受の無い年もありましたが、2009 年以降は継続しており、2010 年に至っては 4 件の
実績があります。
一般にリーマンショック以前は船価が上昇しており、欧米の銀行を中心に船舶のアセットを評価した融
資が多かったようです。NEXI の保険料を負担して ECA ファイナンスを選択する、というケースは限られてお
りました。
リーマンショック以降は、船価の下落等の理由から欧米の銀行は船舶購入案件に対して長期の融資
を実行することが難しくなっています。一方で、船舶購入者である海運会社は 10 年超の長期に渡る融資
期間を求めています。そのため、欧米の海運会社が日本の造船所で船の建造を依頼する場合、本邦銀
行を融資行として、長期での安定したファイナンスを可能にする貿易代金貸付保険を利用されるケースが
続いています。このような傾向は、当面続くのではないかと考えております。
図 1:保険引受した主な船舶案件(過去 10 年)
年
国名
借入人
船種
保険種
2011年 ノルウェー
K LINE OFFSHORE AS
オフショア支援船
海外事業資金貸付保険
2011年 ベネズエラ
PANAVENFLOT CORP. (PDVSAのグループ企業)
タンカー
海外事業資金貸付保険
2010年 マルタ
Wilhelmsen Lines Shipowning Malta, Ltd.
RORO船
貿易代金貸付保険
2010年 シンガポール Mark V Shipping Pte Ltd (Wallenius Lines ABのグループ企業)
RORO船
貿易代金貸付保険
2010年 シンガポール TATA NYK Shipping PTE.LTD.
ばら積み船
貿易代金貸付保険
2010年 デンマーク
ばら積み船
貿易代金貸付保険
2009年 シンガポール Phoenix Tankers (商船三井グループ企業)
タンカー
貿易代金貸付保険
2007年 タイ
Thoresen Thai Agencies Public Company Limited (TTAのグループ企業)
ばら積み船
貿易代金貸付保険
2007年 トルコ
IDO Istanbul Deniz Otobusleri Sanayi Ticaret Anonim Sirketi (IDO)
カーフェリー
海外事業資金貸付保険
2006年 パナマ
Evergreen International S.A
コンテナ船
貿易代金貸付保険
2003年 マレーシア
Malaysia International Shipping Corporation Berhad (MISC)
LNG運搬船
貿易代金貸付保険
2002年 ブラジル
Petroleo Brasileiro S.A.
シャトルタンカー
海外事業資金貸付保険
J.Lauritzen A/S
*バンクローンによる船舶引受は除く
(出典:筆者作成)
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【 ノルウェー/K LINE OFFSHORE のオフショア支援船事業の引受 】
NEXI は主に貿易代金貸付保険で船舶案件を引き受けて参りましたが、中には海外事業資金貸付
保険の引受例もあります。直近では、今年 3 月に川崎汽船株式会社(以下、川崎汽船)の子会社であ
る K LINE OFFSHORE(以下、KOAS:ノルウェー法人)を借入人とした案件を引き受けました。NEXI は、
本邦法人である川崎汽船株式会社が、同社の新規分野であるエネルギー関連上流事業を海外で展
開していくことを支援しています。
1. 案件概要
川崎汽船は、中期計画で「エネルギー関連上流ビジネスへの事業領域の拡
大」を掲げており、本件はその具体化案件。K LINE OFFSHOREは海洋資
源開発に係るオフショア支援船を計6隻(AHT2隻、PSV4隻)、ノルウェーの
STX O.S.V社(韓国資本の造船会社)に発注済み。
・2011/1月までに竣工する3隻=JBIC/市中銀行が支援
・2011/3-7月に竣工する3隻=NEXI/市中銀行が支援
アレンジヤー:三菱東京UFJ銀行、みずほコーポレート銀行
2. 融資者
協調融資銀行 :三井住友銀行、三菱UFJ信託銀行、住友信託銀行
3. 借入人(所在国 国カテゴリー)
K LINE OFFSHORE (ノルウェー Aカテゴリー)
4. プロジェクト総コスト
NOK3,556.7M(@0.157、USD558M)
5. NEXI保険付き融資金額
NOK1,402.4M(@0.157、USD220M)
6. 貸付期間
約12年
7. てん補範囲
非常危険 97.5%
信用危険 90.0%
出典:筆者作成
KOAS はオフショア支援船を所有・運航している海運会社です。オフショア支援船とは、沖合いの油田
ガス田で操業するリグ゙(海洋石油掘削設備)を牽引して移動させたり、石油採掘用の潤滑油等の供給
を行ったり、洋上油田ガス田プラットフォームの建設を支援する船を指します。日本や韓国は大規模な油
田ガス田に恵まれず、オフショア支援船の技術が発達する土壌がなかったためか、これまで日本で大型の
オフショア支援船を建造する造船所はありませんでした*。そのため、KOAS はノルウェーの STX OSV 造船
からオフショア船を 6 隻、購入することになりました。STX OSV 造船はもともとノルウェーのアーカーグループ゚
の造船部門アーカーヤード゙で、同ヤード゙は世界でも環境が厳しいと言われる北海油田開発をサポートす
るオフショア支援船を 70 年代から建造してきましたが、2008 年に韓国の海運・造船グループ゚である STX
に買収されました。
*日本では、主にユニバーサル造船がアーカーヤードから図面を購入し、中小規模なオフショア支援船
を建造しています。現在では、独自デザインによる大型オフショア支援船の建造も予定しています。
オフショア支援船と聞いて、それがどんな船か即座にイメージできる方は、船舶に相当詳しい方です(断
言します)。本年 4 月にノルウェーの STX OSV ラングステン造船所で本件の支援対象船の命名式が行わ
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れ、幸運にも出席させて頂く機会に恵まれました。オフショア支援船と聞いて、まず「?」が頭に浮かんだ方
に以下、報告させて頂きたいと思います。
今回、命名された船はオフショア支援船のアンカーハンドラーと呼ばれる船種です。本船は約 300m の
船体を持つ VLCC タンカー(Very Large Crude Oil Carrier:20 万トン超 30 万トン以下の原油を輸送)
の 1/3 の船体の長さ(95m)であるものの、VLCC 並みの 3.4 万馬力という超大型となっています。この船は、
気象海象の荒い海域や大深水で操業するオフショアリグ(海洋石油掘削設備)を牽引して移動させたり、
リグの錨を上げたり下ろしたり、ダイバーによる作業では困難を伴う海底作業を本船に付属する機器(子
機のようなもの)を使って、海底機器の接続を補佐したり補修・点検を行うことができます。近年ますます
沖合いの油田ガス田開発が進んでいることや安全性の面からアンカーハンドラーには、より大型な 2 万馬
力以上が求められています。
アンカーハンドラー(KL Saltfjord)(提供:KOAS 社)
ドックに入っているアンカーハンドラー正面(提供:NEXI)
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アンカーハンドラー後方(提供:KOAS 社)
アンカーハンドラーは所謂、船舶というよりも海上で作業をする設備に近く、多くの機器を搭載していま
す。そのため、造船所の近隣には関連産業のクラスターが必要であり、ラングステン地域には世界シェアの
9 割を占める巨大ウィンチ(碇の巻揚機)を製造する会社や船舶関連の製造業者が集積しており、理想
的な環境となっています。本船の船殻は STX OSV のルーマニアの造船所で仕上げられ、ノルウェーで機
関部設置と内装工事が行われています。同国はオフショア支援船の建造に官民で注力してきた歴史が
あります。現在では、技術力を要し付加価値が高いと言われるこの分野において、ノルウェーのレベルは世
界一だと言われています。
本船を含む KOAS の新造船は、全てノルウェーのフィヨルドにちなんだ名前が付けられています。本船は
ノルウェー北部に実在するフィヨルドから KL Saltfjord と命名されました。命名式には、川崎汽船株式会
社、会長御夫妻(御夫人が今回の船舶の命名者)、KOAS 社長、各金融機関の方々をはじめとして多
くの方が出席され、総勢 130 名近かったとうかがっています。本件は地元でも注目されており、命名式に関
する記事が現地紙の1面と 14 面・15 面に掲載されました。
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命名式(提供:KOAS 社)
命名者(川崎汽船会長夫人)が船体に
シャンペンを当てて祝福(提供:NEXI)
船を建造した STX Europe の社員(提供:NEXI)
命名式後には、船内が開放され見学することができました。この船種では通常 20 人弱の乗組員が乗
船していますが、作業内容によっては専門技術者集団が乗船するため、最大で 70 人の居住設備が用
意されています。3、4 等航海士・機関士は 2 段ベッドの 2 人部屋、1等航海士・機関士以上が個室とな
っています。
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機関室:コントロールルーム(提供:NEXI)
エンジン(提供:NEXI)
操舵室のモニター(提供:KOAS 社)
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ジェネレーター(提供:NEXI)
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船内にはリビングルーム、会議室、ランドリー、フィットネスルーム、厨房等が有り、日本の一般的なマン
ションの居住スペースよりも広々としているように見えました。本船は厳しい環境での作業を想定した船で
あるためか、インテリアは北欧デザインでシンプルに品よくまとめられ、乗組員がなるべくリラックスできるよう配
慮された空間となっていました。
リビングルームの 1 つ(提供:NEXI)
大きめの会議室の 1 つ(提供:NEXI)
一人当たりの執務スペース(提供:NEXI)
本件は関係者が時間をかけて取り組んだプロジェクトです。NEXI は今後も本件の対象船が、遠い深い
海で活躍することを陰ながら見守っていきたいと思います。命名式に招待下さった川崎汽船並びに STX
OSV 造船の皆様には心から御礼申し上げます。 NEXI は今後とも日本の企業を支援して参ります。お
気軽にご相談ください。
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《カントリーレビュー》南スーダン
<Point of view>
・本年 1 月の住民投票での分離独立支持の結果を受け、7 月 9 日、「南スーダン」が平和裡に誕生。
・豊富な石油資源を持つが、最貧国からのスタート。対立再燃を防ぐためにも国際的支援が必要。
●
内戦の苦悩から分離独立へ平和裡に移行
本年 7 月 9 日、南部スーダンが半世紀に渡る南北対立・内戦、その後の包括和平合意、南部住
民投票を経てスーダン共和国から分離独立し、「南スーダン」という国名の 194 番目の国家(アフリカで
54 番目)が誕生する。
スーダン共和国は 1956 年の独立以前から、北部はエジプトが支配、南部はイギリスが占領していた
背景から、北部がアラブ系のイスラム教徒、南部がアフリカ在来の諸民族で伝統宗教やキリスト教徒と
いう状況下で、北のイスラム主義支配に対して南が抵抗する形で 1955 年から 2005 年まで、半世紀に
わたる内戦が継続(途中 10 年は停戦状態)。約 190 万人が死亡、400 万人以上が家を追われると
いう過酷な状況を経験した。1983 年からの第二次スーダン内戦を終結させた 2005 年 1 月の南北包
括和平合意(CPA)により、南部スーダンは行政上の自治を CPA の期限までの 6 年間認められることと
なった。国連安保理も同年 4 月に、国連スーダン・ミッション(UNMIS)を南部に派遣した。
この和平プロセスの最終段階として、2011 年 1 月、国際機関、各国からの投票監視団が各地で展
開する中、住民の独立の意志を問う「南部スーダン住民投票」が実施された。2 月 7 日には、分離独
立支持票が 98.8%を占めたと公式結果(投票率 99%)が公表され、スーダン共和国のバシール大統領
もこの結果を受け入れると発言。南部スーダンの悲願が叶う歴史的転換点を迎えるに至った。
●
「南スーダン」の概要
新たな独立国となる南部スーダンは、スーダン南部の 10 州からなり、面積約 62 万平方キロメートル(ス
ーダン全体:250 万方キロメートル)、人口 826 万人(スーダン全体:3,915 万人)。首都はジュバ。政治的
には、内戦から南部の代表組織であったスーダン人民解放軍運動(SPLM)が、ほぼ完全に国内を統
治している(最近、不満を持つ武装勢力との戦闘が頻発。)。大統領はサルバキール・マヤルディ氏。
長年の内戦で国土は荒廃、基本的なインフラの欠如、技術力を持った労働者の不足から世界で最
も貧しい国の一つ。IMF の報告書によれば、10 人中 9 人が 1 日 1 ドル以下で生活し、人口の半数は
食料支援が必要。一方、国家収入の 98%を石油からの収入に依存となるが、石油埋蔵量は豊富で、
さらに、ウラニウム、金、銅など他の鉱物資源にも恵まれ、ナイル川の恵みより土壌は肥沃。これらの資
源を適切に利用していけば、地域での重要な役割を果たす国となる可能性もあると指摘されている。
●
石油による冨の配分・国境の確定問題
分離独立に向けての具体的な問題点として、石油による冨の分配、国境の最終決定、債務問題
などがある。両政府の代表者からなる交渉委員会で、議論が加速化されてはいるが、それぞれ難しい
問題であり、独立後も交渉が継続されることが予想されている(独立後に移行期間が 6 ヶ月設置)。
石油収入は双方にとって重要な財源。生産している油田の約 8 割は南部スーダン側にあるが、輸出
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には北部の紅海に面したポートスーダンへのパイプラインが唯一のルートとなっており、製油所も北側にあ
る(独立後は施設使用料を支払う。)。ケニアへの海岸を目指すパイプラインの計画も議論はされている
が、資金の手当てがなく具体化していない。現時点での石油収入の配分に関する合意は 50%ずつとな
っているが、これを再交渉でどのように決着させていくかが、北南ともに非常に重要な問題となる。
南北の国境線については、まだ帰属が確定していない地域もあり、完全には確定されていない。例え
ば、有数の油田地帯が広がるアビエ地方は、従来から双方が所属を主張し、CPA では特別地域とし
て南北双方の軍の侵入を禁じており、最終的な帰属を決める住民投票の見通しも立っていない。5 月
21 日にも、北部政府軍が、アビエ地方に部隊を展開し占領したことから南北間の対立が再燃かと懸
念された。5 月 28 日の段階で北部政府軍が同地方での展開を終了させ、話合いを継続すると発表し
た。両政府とも内戦状態には戻さないとの決意はあるものの、まだ火種を抱えていることは否めない。一
方、北からの物資や工業製品の交易は南にとって非常に重要であり、今後の友好関係は必須。
●
対外債務問題に対する国際協力の動き
また、スーダン共和国の保有する対外債務は、総額 362 億ドルでうち 305 億ドルが延滞という状況
(パリクラブ関係分は約 120 億ドル)。南北の両政府は、重債務品国(HIPC)イニシアチブに基づいた債
務救済を国際機関、各国に強く求めていくことで一致し、関係機関への債務救済へのロビーイングを行
っている。米国は既に債務救済を約束。IMF、世銀、債権国等が債務に関する技術的ワーキンググル
ープを昨年 12 月以降、現地で 2 回開催する等債務救済への協力枠組みが検討されている。(主体と
なるスーダン共和国は HIPC イニシアチブ対象国認定を目指す。「南スーダン」は IMF 加盟を申請。)
●
今後の発展への期待
今後の「南スーダン」の発展に関しては、IMF等国際金融機関やドナー国との良好な関係を築いて
いくことと共に、鉱業・産業の振興、インフラ整備等のために海外投資を呼び込む必要がある。近隣諸
国から企業が進出を始めている一方、既にスーダンで大きなプレゼンスを示している中国は、公務員
300 人の研修、インフラ、鉱山への投資計画など「南スーダン」との経済関係強化の動きを示している。
まだ不安定要因や協議すべき重大問題が残されている現状ではあるが、国際社会の粘り強いサポ
ートの下、苦難の道のりを経て住民の意志による新たな国家が第一歩を踏み出そうとしている。南北が
友好関係を維持し、この地域に住む人々が平和と経済発展の益を享受できることを願いたい。
(独立行政法人日本貿易保険カントリーリスクグループ
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2011 年 6 月 1 日 記)
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e-NEXI (2011 年 6 月号)
2011 年日韓バイ協議開催報告
独立行政法人日本貿易保険
2011 年 5 月 30 日から 6 月 1 日にかけて、韓国貿易保険公社(KSURE)と日本貿易保険(NEXI)との
間の年1回の定例会議の場である日韓バイラテラル協議が、緑豊かな中島公園に隣接する札幌パーク
ホテルにて開催されました。
今年で 18 回目を数えるこの協議は、日韓両国の貿易保険関係者が率直な意見交換を行なう場で
あり、KSURE よりは、Chang Moo Ryu 社長をヘッドに、理事、プロジェクトファイナンス部門、リスクマネジメ
ント部門、東京支社等より総勢 9 名が、NEXI よりは、鈴木理事長をトップに、総務部、営業部、審査部
より各分野の専門家である実務担当者ら総勢 8 名が出席し活発な議論が行なわれました。
今回の協議では、両国のビジネス状況にはじまり、与信集中リスク管理や短期バイヤーの新格付モデ
ルの導入、Web によるバイヤー審査や保険申込の方法・問題点、OECD アレンジメントにおける SSU(船
舶セクター了解)、海外フロンティングへの取組みや銀行・民間損保との連携、両国にとって関心の高い
特定国などが主な議題に取り上げられ、幅広い分野について具体的な情報交換が行われました。
KSURE の Ryu 社長にとって NEXI とのバイ協議への出席は今回が最後となりますが、活発な議論に加
え担当者レベルの積極的な交流が行なわれ、今後の両国の協力関係を深化させる有意義なものとなり
ました。
会議の様子
集合写真
(提供:NEXI)
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