第14回岐阜県作業療法学会 抄録集(PDF 1658KB)

お問い合わせ先
事務局:博愛会病院
TEL0584-23-1251
リハビリテーション科内
FAX0584-23-1256
-1-
事務局長:森 義弘
学会長挨拶
大垣市民病院
須貝里幸
岐阜県作業療法学会も数えること 14 回目となりました。思えば 10 年ほど
前、私が作業療法の国家資格を取得したその年に、はじめて学会で発表した
のも岐阜県の作業療法学会でした。あれから数年経ち、県士会員も当時の 4
倍ほどとなり、学会も徐々に規模が大きくなっていったのを感じます。
さて、今回の学会ではテーマを「こころ潤す作業療法 ~ゆとりある Life
style をめざして~」と題しました。障がい者の生活を支援する我々作業療法
士。心と身体は切っても切れない関係であることは皆さんもよくご存知の事
と思います。精神障がい者に限らず、すべての方々の「こころを潤す」存在
でありたい。そんな願いも込められております。
そこで特別講演・市民公開講座に京都大学大学院医学研究科の山根寛教授
をお招きすることとなりました。ストレス社会といわれる現代社会において、
ストレスは我々の生活で最も身近な存在です。山根先生にはそんな「ストレ
ス」や「うつ」に関して作業療法の啓発も兼ねてお話いただきます。皆さん
のご家族は作業療法がどのような仕事かご存知でしょうか?この機会にご家
族お誘いあわせの上、ご参加されてはいかがでしょうか。また、こころを潤
す作業療法とは?皆さんで一緒に考えてみましょう。
私事ではありますが、私自身はじめての県学会での演題発表を経験し、こ
ころの片隅に小さな自身が沸いてきました。それだけでなく多くの先輩方と
出会い、多くのご指導をいただく機会となりました。本学会でも多くの若者
に演題を寄せていただきました。学会への参加で皆さんも多くの先輩方と出
会う機会が持てると思います。そして演題発表を経験することで自信を持っ
て東海北陸学会や全国学会などへつなげてもらいたいものです。いわば県学
会は出会いとステップアップの場。県学会ではこうした多くの若者を支援す
る環境であってほしいと願います。
-2-
お願いとお知らせ
○学会参加の皆様へ
参加受付について
【受付方法】
本学会は原則事前申し込みとさせていただいております。
事前申し込みをされた方は、「受付」にて手続きをお願いします。
当日申し込みの方は「当日受付」の指定場所にて所定の手続きをお願いします。なお、手続
きにかなり時間がかかることが予想されますので、出来るだけ事前申し込みをお願いします。
参加費 会 員:事前受付 2,500 円 当日受付 3,000 円
非会員:事前受付 3,500 円 当日受付 3,500 円
学 生:500 円
ネームカードの裏面が領収書となります。
尚、本学会においては、事務手続き上の理由により、生涯教育手帳を一時お預かりさせてい
ただきます。お帰りの際にネームフォルダーと引き換えに手帳をお返しさせていただきます。
【生涯学習手帳について】
当学会は基礎コース 2 ポイントです。
当日は「日本作業療法士協会生涯教育」のポイントを発行いたしますので、参加される会員
は生涯教育手帳を持参し、各自シールを管理してください。
【当日の抄録集について】
当日の抄録集配布はいたしません。当日は本抄録集を必ず持参してください。
会場内での注意
【ネームカードの携帯について】
当日は、ネームカードを配布いたします。
学会会場内では常に他の会員にわかるように明示してください。
【携帯電話の使用について】
学会会場内では必ず電源を切るか、マナーモードにしてください。
【喫煙について】
学会会場内は禁煙です。喫煙者は所定の場所にてお願いします。
駐車場について
会場の駐車場をご利用できますが、収容台数に限りがあるため、可能な限り乗り合いでお願
いします。情報工房地下駐車場は有料となります。可能な限り無料駐車場をご利用下さい。
昼食について
学会会場内での飲食は一部のスペースで可能です。各自にてご用意いただくか、お弁当の注
文をお願いします。お弁当を注文された方は当日に引換券をお渡しします。
会場周囲に飲食店は少ないため、注意してください。
-3-
○演者の皆様へ
当日の受付にて演者受付をお願いします。
当該セクションの開始 10 分前までに、次演者席にて待機してください。
発表時間 7 分、質疑応答 3 分、計 10 分の予定です。発表時間終了の 1 分前と終了時を合図に
てお知らせします。時間厳守にてお願いします。
万一、時間になっても演者が到着しない場合は、その演者を飛ばして進行させていただきます。
プレゼンテーションのスライド操作は、演者あるいは演者協力者にてお願いします。
○座長の皆様へ
当日の受付にて座長受付をお願いします。
担当セクションの開始 10 分前までに、座長席にて待機をお願いします。
担当セクションの進行については、座長に一任します。予定時間内に終了するよう、スムーズ
な進行をお願いします。
○質疑応答についてのお願い
質問・討論のある方は、司会者または座長の指示に従い、所属名・氏名を述べてから発言をし
ていただきますようお願いします。
MEMO
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会場:大垣市情報工房 5F スインクホール セミナー室
〒503-0803 岐阜県大垣市小野 4 丁目 35 番地 10
TEL 0584-75-7000
無料駐車場
こちらです
大垣市情報工房へは・・・
●JR東海道本線
大垣駅から車で約 5 分 バスで約 10 分
●JR東海道新幹線
岐阜羽島駅から車で約 15 分 バスで約 35 分(大垣駅経由)
●名神高速道路
大垣インターチェンジ、岐阜羽島インターチェンジから車で約 20 分
●国道 21 号線
和合インターチェンジから車で約 2 分
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学会プログラム
ス イン クホ ー ル
9:30
セ ミナ ー 室
9:30~ 10:00
《学 会 参 加 者 受 付 》
10:00
10:00~ 10:20
《開 会 式 》
10:20~ 11:10
10:30
10:20~ 11:10
《一 般 演 題 》
第 1セ クシ ョン 〔4演 題 〕
《一 般 演 題 》
第 2セ クシ ョン 〔4演 題 〕
11:00
休 憩 (10分 間 )
11:20~ 12:00
11:30
11:20~ 12:00
《一 般 演 題 》
第 3セ クシ ョン 〔3演 題 〕
《一 般 演 題 》
第 4セ クシ ョン 〔3演 題 〕
12:00
休 憩 (50分 間 )
12:30
13:00
12:50~ 13:40
12:50~ 13:40
《一 般 演 題 》
第 5セ クシ ョン 〔4演 題 〕
《一 般 演 題 》
第 6セ クシ ョン 〔4演 題 〕
13:30
休 憩 (20分 間 )
14:00
14:30
15:00
14:00~ 16:00
《特 別 講 演 ・市 民 公 開 講 座 》
テ ー マ :「こ こ ろ の 風 邪 」っ て 言 うけ れ ど
講 師 :山 根 寛 先 生
(京 都 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 教 授 )
15:30
16:00
16:00~ 16:20
閉会式
-6-
京都大学大学院医学研究科 教授 山根
寛先生
「うつ」は「こころの風邪」?
「うつ」は、「こころの風邪」と言われます。疲れて、体力が低下したに時に無理をすれば、誰でも
ひく風邪。そんな風邪も、こじらせれば気管支炎になり、肺炎になります。また、風邪は万病の元と言
われるのはなぜでしょう。風邪をひくということは、体力が低下している、心身の抵抗力が低下してい
るというサインであり、さらに風邪をひいたことでさらに体力は低下し、抵抗力も低下します。どのよ
うな病気にもなりやすい状態になるのです。そうしたことから「風邪は万病の元」とも言われます。
そうしたありさまが似ているために、「うつ」は特別なことではない、誰でもひく風邪のようなもの
だという意味で、「うつ」が「こころの風邪」と言われるようになったのでしょう。同じように、「こ
ころの風邪」も、こじらせれば万病の元です。
「うつ」は病気?
誰でもなると言うけど、「うつ」は病気でしょうか。「うつ」はあなたの生活のストレス度合いを示
すサイン。そう、「うつ」はあなたを守る大切なサインなのです。あなたが、そのサインを見逃すから
「うつ」が病気になるのです。
あなたは今、
「うつ」ですか?
「うつ」ってどのような状態を言うのでしょう?「私は今うつなの」という人は本当に「うつ」?そ
れは「うつ状態」かもしれないけど、「うつ病」ではありません。どうしてでしょう。実は、普通の「う
つ状態」と「病的なうつ状態」があるのです。普通の「うつ状態」が軽い風邪だとすれば、「病的なう
つ状態」は気管支炎や肺炎に相当します。
なぜ「うつ」に?どうすればいい?
誰でもかかる「こころの風邪」の原因はウィルスではありません。いったい何が原因で、どんな人が
「こころの風邪」をひくのでしょう?「こころの風邪」を引かないようにするにはどうしたらいいので
しょう?引いてしまったらどうしたらいいのでしょう?
「こころの風邪 今日 できなければ明日がある」
「こころの風邪 できないことはできないままに」
さあ、誰でもかかる、あなたもかかる「こころの風邪」をどうするか、一緒に考えましょう。
-7-
講師プロフィール
氏名:山根 寛(やまねひろし)氏
所属:京都大学大学院医学研究科 教授
資格:博士(医学),認定作業療法士,登録園芸療法士
趣味:読書,低い山のぼーっと歩き,海の素もぐり,作業療法が趣味(還暦すぎて自転車散歩が
趣味に加わる).
1972 年,広島大学工学部卒業.船の設計の傍ら病いや障害があっても町で暮らす運動「土の会」
活動をおこなう.1982 年,作業療法士の資格を取得し,精神系総合病院に勤務.1989 年,地域
生活支援をフィールドとするため大学に移り,
「こころのバリアフリーの街づくり」
「リハビリテ
ーションは生活」
「ひとが補助具に」
「こころの車いす」を提唱し,生活の自律と適応を支援.
「こ
ころのバリアフリー」「リハビリテーションは生活」「ひとが補助具に」「こころの車いす」を提
唱し,地域生活支援に関わる市民学習会「拾円塾」主宰,日本園芸療法研修会顧問,日本神経学
的音楽療法勉強会顧問,日本音楽医療研究会世話人など,作業・活動を治療・援助手段とする多職
種連携を推進.現在,京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授.日本作業療法士協会
副会長,日本精神障害者リハビリテーション学会理事,日本園芸療法学会理事等.
著書
『精神障害と作業療法 第 3 版』(三輪書店)
『土の宿から「まなびやー」の風が吹く』(青海社)
『ひとと植物・環境』(青海社)
『作業療法の詩・ふたたび』(青海社)
『治療・援助における二つのコミュニケーション』(三輪書店)
『作業療法の詩』(青海社)
『ひとと音・音楽』(青海社)
『ひとと作業・作業活動 第 2 版』
(三輪書店)
『ひとと集団・場 第 2 版』(三輪書店)
『食べることの障害とアプローチ』(三輪書店)
『伝えることの障害とアプローチ』(三輪書店) ほか
-8-
MEMO
-9-
一般演題〔会場:スインクホール〕
第 1 セクション 10:20~11:10
座長:山本 紀子(土岐市老人保健施設 やすらぎ)
1―1
1―2
1―3
1―4
肩関節離断を呈した症例の治療経過
~心理的変化と ADL へのアプローチ~
大垣市民病院 和田 由賀里
脳血管障害患者における入院時 FIM 下位項目の構造の探索
医療法人和光会 山田病院 加藤 啓介
当院回復期リハビリテーション病棟運動器疾患における FIM 下位項目の構造の探索
医療法人和光会 山田病院 中村 浩哉
脳血管障害患者の退院後 FIM の変動についての調査
博愛会病院 加納 知恵
第 3 セクション 11:20~12:00
座長:廣渡 洋史(岐阜保健短期大学)
3-1
屈筋腱損傷後に長母指屈筋腱の癒着を呈した症例に対する治療経験
中津川市民病院 喜久本 朝矢
3-2 屈筋腱剥離術後のリハビリテーションの検討
-術前屈曲拘縮を呈していた症例を通して-
岐阜大学医学部附属病院 枡田 臣弘
3-3 中枢神経障害に対するスプリント療法
-スプリントの使用により手指機能が向上した症例-
岐阜大学医学部附属病院 内屋 純
第 5 セクション 12:50~13:40
座長:矢野 孝久(岐阜県立下呂温泉病院)
5-1
箸操作時の機能的 ROM の検討
平野総合病院
5-2
小澤 莉沙
トイレ動作時の着衣動作が立ち上がり動作へ及ぼす影響
岐阜保健短期大学医療専門学校 宇佐美 知子
5-3 内発的動機付けにおける交流感の影響
平成医療専門学院 世良 龍哉
5-4 小児における課題遂行時の報酬価の有無が脳活動に与える影響
-1ch-NIRS による測定の試み-
平成医療専門学院 河村 章史
-10-
1-1
肩関節離断を呈した症例の治療経過
~心理的変化と ADL へのアプローチ~
○和田由賀里 寺本佳津明 石原祐子 須貝里
幸
大垣市民病院 リハビリテーション科
KeyWord:高齢者 心理・社会的因子 ADL
【はじめに】
手は人間の生活全般に最も重要な器官である。
しかし、切断により片手動作になると日常生活へ
の支障が出現する。今回、高齢であり義手の実用
性が低いと判断され、片手動作を余儀なくされた
患者の在宅復帰へのアプローチを経験した。心理
的変化を 3 期に分け、問題点や関わり中心に、以
下に報告する。
【症例】
80 代後半の女性。診断名は右上肢壊死性筋膜炎。
障害名は右肩関節離断。受傷起因は不明。H22 年
X 月、意識障害あり当院救急搬送され、同日緊急
手術(右肩離断術)施行。呼吸不全合併。腰椎圧
迫骨折の疑い。X+1 ヶ月で利き手交換、ADL 拡
大に向け作業療法処方となる。もともとは両利き
で包丁・はさみは左手、箸・書字は右手にて日常生
活を実施していた。難聴にて補聴器使用。独居で
要介護 1、ヘルパーを週 3 回使用。性格は几帳面
であった。家族は息子、娘がおり、息子の嫁が主
たる協力者であった。
【作業療法経過】
第 1 期:『障害理解不十分・依存期』
作業療法開始時は、断端痛や幻肢痛ないが腰痛
の訴え強く、臥床傾向。家族や看護師の協力が得
られやすく、ADL は全て介助にて実施していた。
見当識障害はないが、入院前より難聴が悪化し、
繰り返し同じ内容を説明しないと理解できない状
況であった。
問題点は、①周囲の過介助にて困ることはない
と本人は楽観的であった、②長期臥床で腰痛が増
強し、離床困難にて ADL が全介助であったこと
である。
本人の障害理解に向け、利き手交換練習やベッ
ド周辺動作から実施した。当初は「痛いから出来
ない」
「助けて」
と OTR や家族に依存的であった。
そのため、腰痛にあわせてベッド上動作、車椅子
乗車を進めた。また、毎日家族の面会があったた
め、必要な介助量・方法の指導を実施した。
FIM:40 点 障害老人の日常生活自立度:C‐
1
第 2 期:現実理解による『混乱と悲観期』
離床が進むにつれ、腰痛にあわせ断端痛や幻肢
痛が出現した。本人は右手があると思い、動作を
実施する様子がみられた。
約 10 日で軽減したが、
-11-
次に本人から「左手しかない」
「何も出来ない」等
と時に涙を見せ悲観的な言葉が多く聞かれるよう
になった。
問題点は①左手での動作への戸惑い、②動作が
出来ないことを自覚し悲観的な言葉が多くなった、
③腰痛の影響で ADL 拡大に時間を要したことで
ある。
移動手段の獲得に向け、押し車歩行から訓練室
や庭園など介助(手つなぎ)歩行で散歩を実施し、
気分転換をはかり訓練を進めた。また、難聴や腰
痛の影響により、トイレや更衣動作は実施する前
から「出来ない」
「ダメだ」と悲観的な言葉が多か
った。介助に頼ろうとしたため、介助歩行が安定
した X+2 ヶ月頃より、日中はリハビリパンツに
変えて病棟でも練習を進め、介助量軽減をはかっ
た。
FIM:87 点 障害老人の日常生活自立度:B‐
2
第 3 期:自宅復帰困難『努力期』
本人は自宅復帰への希望を持っていたが、家族
やスタッフの相談で心理的・経済的問題、役割変
化により自宅復帰は困難と判断、施設入所と決定
した。
問題点は①施設への転院の準備が不十分、②
ADL 拡大により転倒の危険性が増したことであ
った。
「家には帰れない」と諦めの発言もあったが、
「右手はなくなった」
「左手で頑張らないと」と心
理的に受け入れが進んできたと思われる。その理
由として家事動作など IADL 面の介入も実施した。
洗濯をたたむ動作は左手にて几帳面に実施してお
り、活動の拡大により本人の自信も改善していっ
た。ADL 拡大とともに難聴によるナースコールの
使用不十分、独歩はバランス不良にて監視で実施
していたが、自ら動くことが多くなり転倒が発生
した。本人、家族には監視にて動作を実施するよ
う再指導した。
また、施設入所に向け福祉機器や自助具の紹介
を家族に行い、入所後検討していただくこととし
た。
FIM:98 点 障害老人の日常生活自立度:B‐
1
【まとめ】
開始時は、臥床傾向、依存、障害理解不十分にて
ADL は全介助レベルであった。家族指導も含め、
体調に合わせ離床を進めた。離床が進むにつれ片
手動作への戸惑いが大きく、悲観的になった。繰
り返し ADL 練習を実施し、介助量軽減に努めた。
自宅復帰困難が決定し、諦めの発言もあったが
IADL の介入を実施し、活動の拡大を図り本人の
自身につなげた。今後、動作拡大に向け、ADL の
自立、IADL の介入や施設での役割獲得につなげ
る必要があると考える。
1―2
脳血管障害患者における入院時 FIM 下位項
目の構造の探索
加藤啓介1),中村浩哉1),横山真也1),木村大介2),
山田和政2)
1)医療法人和光会山田病院リハビリテーション
科
2)星城大学 リハビリテーション学部
Key word
回復期リハ病棟,脳血管疾患,FIM
【はじめに】回復期リハビリテーション病棟(以下,
回復期リハ病棟)は,
①集中的にリハビリテーショ
ン(以下,リハビリ)を行なう,②自宅退院の増加,
③急性期病院の在院日数の短期化を目的とし,平
成 22 年度で 58000 床を超えるまでに増床されてき
ている.
当院においても回復期リハ病棟を 30 床有して
おり,平成 22 年度の診療報酬改定とともに 365
日体制のリハビリを実践している.また,患者一
人当たり平均 8 単位のリハビリの提供など,在宅
復帰に向けたリハビリの拡充に努めている.
その一環として,これまで当院においては,日
常生活活動(以下,ADL)の観点から入院時の機能的
自立度評価法(以下,FIM)構造を探索し,効率的な
リハビリ介入のための基礎資料を得てきた.しか
し,その対象は脳血管障害(以下,CVA)と運動器疾
患,廃用症候群など混在していたため,疾患別の
入院時 FIM の構造は明らかではない.
本研究の目的は,当院回復期リハ病棟 CVA 患者
を対象に FIM を用いて ADL を評価し,その構造を
探索することから ADL の観点から見た入院時の
CVA 患者の特徴を明らかにすることである.
【対象・方法】平成 21 年 9 月~平成 22 年 6 月に
当院回復期リハ病棟に入院した患者のうち、CVA
患者 19 名(平均年齢 72.6±13.5 歳,男性 10 名,
女性 9 名)を対象とした.対象者全員の ADL 能力
を FIM にて評価し,
①入院時得点の FIM 単純集計,
②因子分析による入院時 FIM 下位項目の構造を探
索した.FIM 下位項目の移動は歩行で評価した.
統計解析には,SPSS statistics 17.0 を使用し,
有意水準は 5%とした.なお,本研究の主旨を説
明後,
紙面により同意を得られた者を対象とした.
【結果】分析①においては,入院時 FIM 総得点は
72.7±28.4 点であった.FIM 下位項目の得点の高
い上位三項目は,食事 5.47±1.92,排尿管理 4.73
±2.25,排便管理 4.68±2.21 で,得点の低い下位
三項目は,
移動 2.78±2.14,浴槽移乗 2.63±2.08,
階段 1.42±1.26 であった.
分析②においては,因子分析により主要な 3 因
子を抽出できた.因子 1 の因子負荷の高い変数と
値は,問題解決 0.95,記憶 0.93,理解 0.91,社
-12-
会的交流 0.86,整容 0.73,表出 0.72,食事 0.64
であった.因子 1 の寄与率は 37.0%であった.因
子 2 では,トイレ移乗 0.83,ベッド移乗 0.80,更
衣(下)0.79,トイレ動作 0.78,更衣(上)0.76,排
尿管理 0.63,清拭 0.59,
移動 0.40,浴槽移乗 0.38,
階段 0.28 であった.因子 2 の寄与率は 30.0%であ
った.因子 3 では,排便管理 0.63 であった.因子
3 の寄与率は 6.1%であった.
【考察】入院時 FIM の単純集計においては,食事
の得点が高かった.疾患別患者分類を行なってい
ない先行研究においても,入院時の食事の得点が
最も高いことを報告している.一方,得点の低い
項目は階段や病棟内移動,浴槽移乗であり,これ
らの FIM 項目は,難易度が高いと指摘されている.
本研究では,CVA 患者を対象としたが,FIM 項目の
特徴は,他疾患を含む先行研究と同様の傾向にあ
る.つまり,CVA 患者においても FIM 得点で低値
を示す項目の改善を目標とした作業療法介入が望
まれる.
次に因子分析による FIM 下位項目の構造の探索
においては,因子1が認知機能に,因子 2 は運動
機能に,因子 3 は排泄管理に分類された.各因子
の寄与率をみると,入院時は,認知機能が 37%を
占め最も高い.小山は,CVA 患者の 48%が認知機能
障害を合併していると報告している.また,川北
は入院時の年齢が高いほど CVA の認知症合併率が
高まると報告している.このように,CVA 患者の
FIM 構造の特徴は,入院当初から認知機能障害を
合併することが多いことにあり,そのことが ADL
全般に影響を及ぼす可能性は高いと考えられる.
しかしながら,認知機能障害はリハビリの阻害因
子ととらえられることが多く,認知機能改善に向
けての積極的なリハビリ介入が回復期リハ病棟で
は行なわれないことが多い.CVA 患者においては,
回復期リハ病棟でも ADL 改善を大きく左右する認
知機能障害に対して,作業療法介入を実践するこ
とが,喫急の課題であると考えられる.
【結論】本研究では,CVA 患者を対象に ADL の観
点から FIM 構造を探索した.その結果,FIM 得点
の低値を示す ADL 項目の改善と認知機能に着目し
た作業療法介入が必要であると考えられた.
1―3
当院回復期リハビリテーション病棟運動器疾
患患者における FIM 下位項目の構造の探索
中村浩哉1),加藤啓介1),横山真也1),木村大
介2),山田和政2)
医療法人和光会山田病院リハビリテーション科
1)
星城大学リハビリテーション学部2)
Key words: 回復期リハ病棟,運動器疾患,FIM
【はじめに】日本作業療法士協会では大腿骨頚部,
転子部骨折の積極的な介入を促しており,作業療
法士による日常生活活動(以下,ADL)の能力向上が
求められている.しかし,運動器疾患患者におい
て作業療法(以下,OT)介入の手がかりとなる機能
的自立度評価法(以下,FIM)の下位項目の構造を
明らかにした報告は少ない.運動器疾患患者の入
院時 FIM 下位項目の構造を探索することは,回復
期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病
棟)において効率的な OT 介入をする基礎資料とな
り得る.
本研究の目的は,回復期リハ病棟入院患者の
FIM 下位項目の構造を探索することで,運動器疾
患患者に対する OT 介入の手がかりを得ることで
ある.
【対象と方法】対象は,平成 21 年 9 月~平成 22
年 6 月に当院回復期リハ病棟に入院した運動器疾
患患者 19 名(平均年齢 84.2±6.9 歳,男性 4 名,
女性 15 名)とした.方法は,ADL 能力を FIM にて
評価し,①入院時得点の FIM 単純集計,②因子分
析による入院時 FIM 下位項目の構造の探索を行っ
た.FIM 下位項目の移動は歩行で評価した.統計
解析には,SPSS statistics 17.0 を使用し,有意
水準は 5%とした.尚,本研究の主旨を説明後,
紙面により同意を得られた者を対象とした.
【結果】分析①においては,入院時 FIM 総得点は、
89.84±19.19 点であった.FIM 下位項目の得点の
高い上位3項目は,食事 6.52±0.96,表出 6.15
±0.95,社会交流 6.10±1.19 で,得点の低い下位
3 項目は,
浴槽移乗 2.73±1.91,
移動 2.57±2.16,
階段 1.42±1.12 であった.
分析②においては,因子分析法により主要な 4
因子を抽出できた.因子 1 の因子負荷の高い変数
と値は,更衣(上)0.89,トイレ移乗 0.87,ベッド
移乗 0.85,
整容 0.85,食事 0.82,
トイレ動作 0.81,
更衣(下)0.81,清拭 0.75,移動 0.51,浴槽移乗
0.45 であった(因子寄与率 38.4%).因子 2 では,
記憶 0.85,理解 0.85,表出 0.78,問題解決 0.66,
排便管理 0.61,排尿管理 0.61(因子寄与率 24.8%),
因子 3 では,階段 0.98(因子寄与率 8.2%),因子
4 では社会交流 0.59 であった(因子寄与率 4.8%).
-13-
【考察】入院時 FIM 得点の単純集計においては,
食事の自立度が最も高い.これは,対象が大腿骨
頚部,転子部骨折であったため,上肢機能には特
に問題がなく,食事動作は自立度が高いと考えら
れた.一方,自立度の低い浴槽移乗,移動,階段
は,体幹・下肢機能を必要とするため,自立度が低
いと考えられた.よって,OT 場面においても上肢
機能のみならず ADL に必要な体幹・下肢機能に対
する介入も必須であると考える.
因子分析による構造探索においては,因子 1 は
セルフケアに,因子 2 が認知機能に,因子3が階
段昇降に,因子 4 が社会交流に分類された.因子
寄与率は,セルフケアが 38.4%と最も高く,運動
機能障害がセルフケアの自立に影響を与えている
ものと考えられる.一方,記憶や理解などの認知
項目の因子寄与率は,24.8%と比較的高い結果で
あった.金山らは高齢な大腿骨頚部骨折患者の予
後を決定する因子の 1 つとして認知症を挙げてお
り,大きな影響を及ぼすと述べている.また,柴
らは認知機能低下が ADL 再獲得の阻害因子である
と述べている.
FIM 認知項目は,表出 6.15±0.95,社会交流 6.10
±1.19,理解 5.84±1.21,記憶 5.36±1.57,問題
解決 4.89±1.41 と認知機能が比較的保たれてい
る事が伺える.入院期間中に認知機能が低下し,
ADL 再獲得の阻害にならないようにするため,認
知機能低下防止が重要であると考える.
大腿骨頚部骨折などの運動器疾患は,運動機能
向上が重要であるものの,効率的な ADL 改善を目
指すうえで,認知機能低下の防止に着目した OT
介入を実践する意義は高いと考える.
【結論】運動器疾患の回復期病棟入院患者の FIM
下位項目の構造を探索した.運動器疾患患者は
FIM 下位項目においては,食事,表出,社会交流
が上位 3 項目,浴槽移乗,移動,階段が下位 3 項
目であった.因子分析においては,セルフケアな
どの運動項目が主として自立に影響を与えている.
一方では,認知機能も ADL に対して比較的影響が
高いことが明らかになった.
1―4
脳血管障害患者の退院後 FIM の変動につい
ての調査
加納知恵、森義弘、下田祐也、清水秀一
特定・特別医療法人博愛会博愛会病院
Key word:脳血管障害 FIM 活動性
【はじめに】
当院において,脳血管障害患者の回復期リハビ
リテーション病棟退院時と外来リハビリ移行後を
比較すると,FIM 得点が増加・維持される患者と
低下する患者の 2 群に分けられる.彼らの FIM 得
点の変動(以下変動)する要因について調査する
ためアンケートを実施し,分析を行ったので以下
に報告する.
【対象と方法】
対象は過去脳血管障害にて回復期リハビリテー
ション病棟に入院し,FIM が 100 点以上・独歩又
は杖歩行が可能な患者で,現在外来通院で 6 ヶ月
以上経過している患者 9 名.男性 6 名・女性 3 名,
平均年齢 64.2 歳であった.対象者の退院時に評価
した FIM 得点と,退院後 6 ヶ月経過した時点での
変動を調査し,当院にて作成した日常生活面と外
来リハビリについてのアンケートを実施し,変動
の要因分析を行った.
【結果】
変動が退院時と 6 ヶ月時点とを比較して増加し
たもの(以下増加群)は,男性 1 名と女性 2 名の
計 3 名,±1 点で維持されていたもの(以下維持
群)は男性 2 名,低下したもの(以下低下群)は
男性 3 名と女性 1 名の計 4 名であった.
次にアンケートの日常生活面の調査より,増加
群・維持群では日課があると答えたものは 4 名,
普段過ごす場所を居間と答えたものは 5 名,外出
回数が週に 3~4 回が 3 名,週 1~2 回が 1 名であ
った.それに対し低下群では,日課がある 1 名,
普段過ごす場所を居間は 1 名,ベッドが 3 名,外
出は外来でリハビリに来る以外していないが 4 名
であった.
また,外来リハビリ面の調査にて,増加群・維
持群では,自主訓練として全身性の訓練を指導さ
れているものが 4 名,特に何も指導されていない
ものが 1 名であった.それに対し,低下群では自
主訓練として局所性の訓練を指導されたものは 3
名,指導されていないものが 1 名であった.
【考察】
アンケートの日常生活面での調査より,増加
群・維持群は日課があり,日中の居住空間も居間
で生活しており,それに伴って行動範囲も自宅
内・屋外含めて広くなっている傾向がある.この
ことから能動的な生活を送っていると考えられる.
-14-
一方低下群では,日課がなく,普段からベッドで
過ごすことが多い.また、自宅内・屋外含めた行
動範囲が狭くなっている傾向がある.この事から
受動的な生活を送っていると考えられる.
また,外来リハビリ面での調査では,増加群・
維持群は全身的な自主訓練を指導されている傾向
があり,このことから,自主訓練を行うために離
床し,
屋内・屋外を移動している事が想像される.
これは自主訓練を行う為に移動やセルフケア,コ
ミュニケーション等の生活動作をするという正の
流れの一環と考えられる.それに対して,低下群
では、自主訓練が指導されていない,又は局所的
な自主訓練を指導されている人が多い.局所的な
自主訓練はベッド上で行えることが多く,このこ
とから離床への動機づけに繋がらず,屋内・屋外
を移動することが少なくなり,生活範囲の狭小化
を引き起こしているという負の流れの一環になっ
ていると考えられる.
近藤によると,リハビリでの効果が持続するの
は,獲得した機能や ADL レベルを患者自らが使い
続ける場合のみであり,QOL につながる場合であ
るとしている.この事から,入院中の訓練・生活
が患者にとって「言われたからやった」など受動
的なものに止まっていると,退院をきっかけにそ
の生活パターンが崩れてしまう可能性があり,FIM
の低下を招いたと考えた.
和田らは「できる ADL」と「している ADL」の較
差の速やかな訂正が学習中の ADL を実際の生活場
面へ早期から般化させることに繋がり,退院後の
ADL 維持に寄与する可能性を述べている.この事
からも,入院中日常的に獲得した生活動作を行う
ことによって活動範囲は拡大し,更に生活動作を
行う機会が増えるという正の流れを作ることによ
って,患者は獲得した能力を能動的に使用するよ
うになり,それによって退院後環境が変化しても
生活動作を続けることができ,FIM 得点の増加・
維持に繋がると考えられる.
【おわりに】
今回当院における退院後 FIM の変動について分
析を行った.今後は今回の分析を生かして訓練内
容等を工夫し,退院後も安定した生活が送って頂
けるよう努力したいと考えている。
3-1
屈筋腱損傷後に長母指屈筋腱の癒着を呈し
た症例に対する治療経験
喜久本 朝矢
中津川市民病院リハビリテーション技術科
Key Word:屈筋,(癒着)
,(剥離術)
【はじめに】
手関節部において腱は比較的表在にあるため,
腱と皮膚との癒着,腱同士や腱周囲組織との癒着
が容易に起こると中田らは述べている.
今回,手関節部での腱・神経縫合術後の作業療
法(以下,OT)を行った.その後,長母指屈筋腱
(以下,FPL)と示指深指屈筋腱(以下,FDPⅡ)
の癒着が残存し手指屈筋腱・神経剥離術(以下,
剥離術)を施行した症例を治療する経験を得たの
で以下に報告する.
【症例】
症例は 20 歳代,男性,右利き,職業は運搬業.
仕事中に鉄板を誤って落としてしまい右手関節掌
側面を損傷.尺側手根屈筋を除く屈筋腱の全断裂,
方形回内筋断裂,正中神経・橈骨動脈を断裂,受
傷同日に他院にて腱・神経縫合術施行.術後 3 日
目にリハビリテーション目的にて当院受診.縫合
法が不明との事で 3 週間固定法後の後療法が選択
された.
術後 4 ヶ月の時点で FPL と FDPⅡの癒着を認
め,剥離術及び瘢痕部に対して Z 形成術を施行し
た.
【剥離術前の作業療法経過】
術後 3 週より OT 開始.
%TAM は母指から 20,
16,20,20,27%.手関節掌屈 45°,背屈-10°,
母指掌側外転 20°. SWT は正中神経領域にて
Red であった.extension block 目的で手関節掌屈
位 20°の掌側カックアップ Split を作製し,母指
対立位となるように splint 材を追加.その後 1 週
間ごとに掌屈位を徐々に減少させ,術後 6 週より
背屈方向に修正した.術後 7 週より縫合腱の
stretch 目 的 に て ア ウ ト リ ガ ー 付 き dynamic
splint 及び短対立 splint を作製.
縫合法が不明であったため,主治医より術後 9
週から blocking ex 及び軽作業が許可となる.術
後 13 週より ADL での制限解除となる.
術後 16 週の時点で FPL と FDPⅡの癒着が残存
しており,示指屈曲位での母指伸展,示指伸展位
での母指屈曲が困難であった(図 1).日手会版
DASH は機能障害・症状スコアは 42.5 点であっ
た.
-15-
図 1.示指屈曲・伸展位での母指の運動
【剥離術後の作業療法経過】
術後翌日より OT 開始.癒着以外の制限がない
こと,術中の腱の状態が良好であったため,日中・
夜間は特に固定せず.夜間の安静肢位により軽微
な癒着を認めたが,手指の遠位滑走にて十分剥が
すことが可能であった.術後は自他動運動,母指
と示指の分離運動,Place & Hold ex 実施.術後 5
週より筋力増強訓練を開始し,術後 11 週で ADL
での制限解除となる.
【結果】
術後 3.5 ヶ月(受傷から 7.5 ヶ月)で職場復帰
となった.%TAM は全指 100%,母指掌側外転
65°で健側比 86%,手関節掌背屈 80°で健側比
100%であった.示指屈曲位での母指伸展,示指
伸展位での母指
屈曲運動も改善した.握力は右 30kg,左 34kg で
健側比 88%.SWT は示指・中指末節部で purple,
母指末節部及び示指・中指中節部で blue,その他
の部位は green であった.
日手会版 DASH は機能障害・症状スコアは 35
点であった.
【考察】
今回,縫合法が不明であり 3 週間固定法にて
OT を実施した.そのため,blocking ex を従来の
後療法より遅らせる方法を選択せざるをえなかっ
たが,%TAM は全指で 100%と良好な成績であっ
た.戸部らは手関節部での複合損傷 9 例 9 手に対
して早期運動療法を実施し,最終評価時の%TAM
は 85~100%(平均 97.4%)の成績が得られたと
報告している.今回の症例は 3 週間固定後の後療
法であったが,早期運動療法と同等の成績が得ら
れた. 症例自身が若かったことで,機能回復に対
してのモチベーションも高く,ほぼ毎日外来通院
したことが好成績へつながったと考えられる.
近年,腱縫合法が強固になっており,後療法は
早期運動療法が主となっている.今回の症例を通
して,3 週間固定法においても早期運動療法と同
等の成績が得られることを認識できた症例であっ
た.
3-2
屈筋腱剥離術後のリハビリテーションの検討
―術前屈曲拘縮を呈していた症例を通して―
桝田 臣弘 1) 内屋 純 1) 松下 泰玄 1) 大野
義幸 2)
1)
岐阜大学医学部附属病院リハビリテーション
部
2)
岐阜大学医学部附属病院整形外科
図 1.術中の他動伸展可動域
Key word:
(屈筋腱)
(腱剥離術)(癒着)
【はじめに】
手指屈筋腱剥離術は屈筋腱が腱周囲組織と癒着
し,滑走を失った腱に対して行われ,腱機能の回
復のために有効な方法である.手指屈筋腱剥離術
後のリハビリテーションとして,癒着部以遠を伸
展位で固定する伸展位療法と,屈曲位で固定する
屈曲位療法がある.当院においては,屈曲位療法
を行っているが,術前に屈曲拘縮が著明であった
症例では術後に屈曲拘縮が再発することも多く経
験している.
今回,手指屈曲拘縮を呈した症例に対して屈筋
腱剥離術及び関節授動術を施行した症例に対して,
屈曲拘縮再発予防のために,屈曲位療法に伸展位
を取り入れた方法を実施し,良好な結果が得られ
たため報告する.
【症例】
症例は 50 歳代,女性,右利きであり,20 年前
に落ちてきたナイフを思わず握って小指屈筋腱損
傷し腱縫合術施行された.
その後腱癒断裂のため,
半年ほど経過した後 pull out wire 法実施された
が,その後は小指屈曲拘縮の状態であった.日常
生活で小指が引っ掛かって仕方ないとの訴え有り,
当院受診され腱剥離術・関節授動術施行された.
【術前所見】
自動関節可動域(伸展/屈曲)は PIP 関節-60°
/90°,DIP 関節-40°/52°.他動関節可動域(伸
展/屈曲)は PIP 関節-52°/96°,DIP 関節-40°
/60°であった.腱性・関節軟部組織性の拘縮が著
明であった.
【術中所見】
剥離腱,周囲組織ともに状態は良好であった.
DIP 関節は変形性関節症の所見が認められた.屈
筋腱の近位への滑走は良好で,一部を剥離するこ
とで腱の遠位への引き出し可能となった.さらに
徒手的な授動術を加えることで PIP 関節 0°まで
伸展可能となった.DIP 関節は掌側板,側副靭帯
を切離することで伸展-24°まで伸展可動域の改
善が得られた(図 1).
-16-
【リハビリテーション経過】
術後 3 日目よりリハビリテーションを開始した.
訓練時以外は弾性包帯と splint にて全指屈曲位
固定とした.訓練は弾性包帯と splint を外し,自
他動屈伸運動を実施した(8~9set/日).また屈曲
拘縮の予防のために日中に小指伸展位固定の時間
を設け,可動域を評価しながら伸展位固定の時間
を調節した.
最終評価:術後 6 週時点で,自動関節可動域(伸
展/屈曲)PIP 関節-14°/92°,DIP 関節-28°/50°.
他動関節可動域
(伸展/屈曲)
は PIP 関節 0°/94°,
DIP 関節-20°/56°であった.
図 2.最終評価時の小指伸展
【考察】
手指屈筋腱剥離術後のリハビリテーションは
Foucher らや Goloborod’ko の方法に代表される
セラピィ以外は全指屈曲位で固定する屈曲位療法
が臨床では最も多く散見される.屈曲位療法は固
定により屈筋腱が近位へ滑走した状態で癒着を生
じるが,固定除去後の伸展力で解離する方法であ
り,splint を使用しない簡便なリハビリテーショ
ンの方法である.しかし,術前に屈曲拘縮が著明
であった症例では,訓練時以外を屈曲位固定とす
るため,屈曲拘縮が再発する可能性が高くなるの
で注意が必要である.
本症例では術前に PIP 関節に他動伸展可動域
-52°と著明な屈曲拘縮が認められたため,屈曲拘
縮の再発が危惧された.そのため訓練間の安静肢
位に伸展位を取り入れることで屈曲拘縮の再発を
予防することができたと考えられる.術前に屈曲
拘縮を呈していた症例に対して,屈曲位療法に伸
展位を取り入れる方法の有用性が示唆された.ま
た本症例を通して術前の状態と術後の可動域の推
移を考慮したリハビリテーションを検討し,実施
していく必要があると考えられた.
3-3
【結果】
初期評価より 4 週間後に再評価を行い,BRS は
上肢,手指共に stage Ⅴと改善し,MAS は 1 と
なり,COPM では「箸でご飯を食べる」 の項目が
遂行度 5,満足度 4 と向上した.しかし,「箸を上
手く持てない」,
「自助具でない箸を持ちたい」など
の意見が聞かれた.母指の痙性は若干抑制され,
スプリントを装着しなくても箸の使用,書字など
が可能となった(図 3・4).
中枢神経障害に対するスプリント療法
-スプリントの使用により手指機能が向上した症例
-
内屋純1 桝田臣弘1 青木隆明2
1
岐阜大学医学部附属病院リハビリテーション
部
2
岐阜大学医学部附属病院整形外科
key word:中枢神経障害,スプリント,手指機能
【はじめに】
スプリントは各疾患において様々な形で用いら
れる作業療法(以下,OT)の一手段である.ハン
ドセラピィの分野においては非常に重要な位置を
占める一方で,中枢神経障害,特に脳血管障害に
対する訓練には神経生理学的理論に基づく様々な
訓練方法が導入されており,現在はスプリント療
法に対して否定的である.
矢﨑は脳血管障害に対するスプリントの目的に
良肢位の保持,
筋の生理的長さの保持などを挙げ,
決して否定されるものではないとしており,目的
を正確に選択することでスプリント療法も脳血管
障害に対する訓練の一手段として用いることが可
能であると考えられる.
今回,スプリントと自助具の使用を併用して導
入し,手指機能が向上した中枢神経障害の症例を
経験した.中枢神経障害に対してスプリント療法
の効果を確認することができたため報告する.
【症例と経過】
症例は 30 歳代の女性で,疾患はプロラクチン
産生下垂体腺腫である.下垂体腺腫摘出術後に原
因不明の浸透圧性脳症による意識障害を呈してい
たが,状態の改善に伴い手指機能に対する訓練が
可 能 と な っ た た め OT 評 価 を 実 施 し た .
Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)は上
肢 , 手 指 共 に stage Ⅳ , 母 指 の 痙 性 が 強 く ,
Modified Ashworth Scale(以下,MAS)は 2 で
あり,常に母指が屈曲位にあるためつまみ動作が
困難であった(図 1).そのため,つまみ機能を獲
得し,手の使用頻度を挙げる目的で母指対立スプ
リントを作製し,装着を開始した(図 2).カナダ
作業遂行測定(以下,COPM)を実施し,OT ア
プローチが可能な項目としてセルフケア領域で
「箸でご飯を食べる」 (遂行度 3,満足度 1)が挙
げられたため,スプリントを装着してつまみ訓練
を継続して行い,母指と示指によるつまみ動作が
可能となったためスプリントを装着した状態で自
助具箸の使用を開始し,合わせて書字訓練も導入
した.
-17-
図 1 スプリント装着前
リント
図 3 自助具箸の使用
図 2 母指対立スプ
図4
書字場面
【考察】
中枢神経障害に対するリハビリテーションの中
でスプリント療法に関して諸家による様々な報告
が散見される.未だ一致した見解が示されていな
いが,どちらかといえば否定的な報告が多い.
Lannin らは成人の脳血管障害後のスプリント療
法の効果にはエビデンスが不十分であるとしてい
る.また,Lannin らは他の報告でも発症から 6
ヶ月以内の脳血管障害患者に対して夜間 12 時間
のスプリント装着を 4 週間実施したが,コントロ
ール群と比較して臨床的に有意な差は得られなか
ったとしている.しかし,注目する点は脳血管障
害に対する報告では主に痙性抑制に対する効果を
検証していることであり,その他のスプリント療
法の目的についての報告はほとんど見られない.
矢﨑が言うように脳血管障害に対するスプリント
は手を良肢位に保持し,麻痺手の使用頻度を挙げ
るための手段としての位置付けが重要であると考
える.その点からすると今回の症例ではスプリン
ト療法の効果があったと言うことができ,脳血管
障害に対する訓練の一つとして意味があったと考
える.
中枢神経障害に対するスプリント療法は使用目
的を正確に選択することで訓練の一手段として導
入することができ,スプリントによる効果が期待
できると考えられた.
5-1
箸操作時の機能的 ROM の検討
る肉眼での観察から一致した内容を採用した。
○小澤莉沙 1)
山田裕梨 1) 白井美穂 1)
2)
田中美絵
喜久本朝矢 3)
1)平野総合病院 リハビリテーション課
2)岐阜中央病院 リハビリテーションセンター
3)中津川市民病院 リハビリテーション科
【結果】対象を各箸操作パターンに分類した結果、
AV 型 49 名、AI 型 12 名、X 型 5 名であった。X 型は
少数のため、以下考察より除外した。算出結果の一
部を表 1 に示す。
【key-words】箸、操作パターン、機能的 ROM
【緒言】Mary らは電話を持つ等の ADL11 項目におけ
る手指の機能的 ROM の数値を公表しており、この数
値は整形疾患を対象とする作業療法で獲得すべき目
標値となることが示唆されている。しかし、日本人
特有の ADL における手指の機能的 ROM については示
唆されていない。今回、箸操作時に必要な手指の機
能的 ROM に着目し、健常者を対象に検討したので報
告する。
【対象】右利き、手指部整形疾患の既往がない健常
成人 66 名(男性 25 名、女性 41 名、平均年齢 33.1
±12.2 歳)
。
【方法】食事中の箸操作の中から、ご飯一口分をす
くうために箸を開いている場面(以下、課題:開)と
最後の一粒をつまむために箸を閉じている場面(以
下、課題:閉)を研究課題に選出した。各課題実施時
の手の構えで静止し右手関節・手指の ROM を 3 回ず
つ測定、その平均値を機能的 ROM として算出した。
課題は一般的な茶碗と箸を使用し、端座位にて実施
した。また、箸の接触箇所と各指の動きより、中田
らが示している箸操作パターン(AV 型、AI 型、
X 型)に対象を分類した。分類は、観察者 2 名によ
課題:開
AV
型
課題:閉
課題開-閉の
差
課題:開
AI
型
課題:閉
課題開-閉の
差
【考察】中田らは、箸操作を獲得するには「三面把
握-亜型Ⅱ」の手のフォームが作れる上、崩れず安定
して保持できることが重要と述べている。安定した
箸操作を獲得するためにも、本研究で得られた機能
的 ROM の値は、作業療法で獲得すべき ROM 目標値と
示唆できると考えられる。
AV・AI 型の両課題で表れた標準偏差は、若干ではあ
るが MP 関節より PIP 関節の方が大きい値を示した。
箸操作時、MP 関節屈曲角度は個人差が小さく、今回
示した機能的 ROM を臨床上の ROM 目標値として目安
になると考えられる。PIP 関節屈曲角度は個人差が大
きく、
今回示した機能的 ROM は参考程度にとどまり、
臨床上の目標として使用することは難しいと考えら
れる。
課題開-閉の ROM の差は 2.9°~11.1°であった。箸
操作時、各関節は大きく可動しておらず、箸を把持
することさえ出来れば、動作は可能であると考えら
れる。
【結語】既に箸操作を獲得している健常成人を対象
にすることで、箸操作時に必要な機能的 ROM につい
て検討することが出来た。しかし実際の臨床では、
患者の有する整形疾患や生活習慣などが影響し、獲
得しやすい箸操作パターンや手の構えに個人差が生
じると考えられる。今後臨床を通し、更なる見解を
深めていきたい。
表 1 箸操作時に必要な機能的 ROM(一部)
母
示
中
環
小
母
MP
MP
MP
MP
MP
IP
平均 30.0 56.8 63.7 66.7 65.6
9.4
SD
10.6
7.7
9.4
7.7
9.7 13.8
平均 29.5 55.3 63.1 66.0 64.8
8.7
SD
10.8
8.0
9.7
8.1
9.9 13.7
平均
4.1
2.9
3.6
3.5
3.9
4.6
SD
3.2
2.5
3.1
2.4
2.7
3.3
平均 22.0 57.6 70.7 71.7 70.6 15.3
SD
6.8 11.1
8.0
6.0 11.4
8.5
平均 18.7 59.7 70.0 69.1 69.4 17.5
SD
8.3 11.6
7.6
8.5 14.4 14.6
平均
3.6
5.4
5.8
6.4
7.2 11.1
SD
2.9
7.4
6.2
6.6
7.6
9.8
-18-
示
PIP
47.7
13.2
49.0
11.7
6.0
4.0
50.5
24.4
51.3
25.2
3.2
2.8
中
環
小
PIP
PIP
PIP
53.9 42.8 32.9
12.6 14.3 16.3
54.3 40.6 28.2
12.7 14.3 14.8
5.6
6.4
7.2
4.0
4.3
5.5
54.7 48.4 42.3
12.2 20.0 26.4
51.9 45.2 38.8
16.5 20.3 23.1
7.1
5.8
4.9
7.9
5.5
5.2
単位:° SD:標準偏差
5-2
トイレ動作時の着衣動作が立ち上がり動作へ及
ぼす影響
○宇佐美知子 1) 廣渡洋史 2) 小島誠 3)
廣田薫 1) 中根英喜 1)
1)岐阜保健短期大学医療専門学校 作業療法士科
2)岐阜保健短期大学 作業療法学専攻
3)岐阜保健短期大学医療専門学校 理学療法士科
キーワード:立ち上がり動作
動
着衣動作
体重移
【はじめに】
トイレ動作時の着衣動作では体重移動が起こりや
すいとされているが,日常生活動作における頻度が
高いため障害者の自立を妨げる要因となりやすい.
通常の立ち上がり動作とトイレ動作時の着衣動作
を行いながらの立ち上がり動作を比較検討したとこ
ろ若干の知見が得られたので報告する.
【対象】
健常成人 10 名(平均年齢 23.9±9.1 歳)
の立ち上がり動作で絶対値の差は 65.92 ㎏,トイレ
動作時の着衣動作を行いながらの立ち上がり動作で
絶対値の差は 61.53 ㎏となった.
【考察】
ボトム値では通常の立ち上がり動作において加重
が少なく,ピーク値では通常の立ち上がり動作にお
いて加重が加わった.また,加重の変動においても
通常の立ち上がり動作に大きな変動がみられたこと
より,トイレ動作時の着衣動作を行いながらの立ち
上がり動作は通常の立ち上がり動作より座面から足
底面への体重移動がスムーズに行われていることが
分かった.
トイレ動作時の着衣動作を行いながらの立ち上が
り動作では,おむつを臀部へ引き上げながらの立ち
上がりを行っていた.この時,手部は体側を沿いな
がらおむつを引き上げていたことがこのような結果
を生んだのではないかと考えられる.
今後,体側を沿わせる動作のみを行いながらの立
ち上がりにおいてもこの様な結果が得られるのか比
較検討するとともに,立ち上がり後に衣服を整える
動作が体重移動や重心動揺に与える影響についても
比較検討していきたいと考える.
【方法】
平衡機能計,下肢加重計にて通常の立ち上がり動
作とトイレ動作時の下衣着脱動作を行いながらの立
ち上がり動作を 1/100s のスケールで前後,左右の重
心移動ならびに足底面,座面の加重変化で比較した.
椅子は,背もたれ付きの前座面高 42.0cm,後座面
高 40.8cm,座角 3 度のものを作製,使用した.下衣
は市販の介護用おむつ(パンツタイプ)を使用した.
最初に通常の立ち上がり動作を計測し,次にトイ
レ動作の下衣着脱動作を行いながら立ち上がり動作
を計測した.この時,立位より開始し「座ってくだ
さい」と口頭指示を行い着席,
「立ってください」と
口頭指示を行い立ち上がり動作を行うこととした.
また,動作確認ができるよう前方,右側方にビデ
オカメラを設置した.
【結果】
静止座位時の足底面プレート加重の数値を 0 補正
し,それぞれのボトム値ならびにピーク値を絶対値
(㎏)とした上で,体重を基準とした相対値(%)
で比較を行った.平均体重 57.9±22.6 ㎏.
ボトム値では,通常の立ち上がり動作において平
均絶対値-4.96±8.64 ㎏,平均相対値-8.82%,ト
イレ動作時の着衣動作を行いながらの立ち上がり動
作において平均絶対値-3.32±2.98 ㎏,平均相対値
-5.98%となった.ピーク値では,通常の立ち上がり
動作において平均絶対値 60.96±25.04 ㎏,平均相対
値 111.62%,トイレ動作時の着衣動作を行いながら
の立ち上がり動作において平均絶対値 58.21±26.59
㎏,平均相対値 106.72%となった.
また,ボトム値とピーク値の差を比較すると通常
-19-
5-3
意差(P<0.05)をもって増加していた.
内発的動機付けにおける交流感の影響
表 1:A 群と B 群のコンピテンス尺度の結果
平成医療専門学院
○世良龍哉 加藤清人 河村
章史 永井貴士 樅山貴子
キーワード 内発的動機付け (交流感) 有能感
【はじめに】
山根によると,精神科作業療法における治療構造
の特徴の一つに,対象者の主体的な関わりが大きな
要素になっているとしている.そして,対象者が主
体的に作業療法に参加できるようになる為には,自
己の内面から湧きあがり,自分の行動に影響を与え
る内発的動機付けが必要であると考える.
内発的動機付けを向上させる為に,Deci は有能
感・自己決定感の他に,関係性の大切さを述べてい
る.この関係性は「交流感」と同義であり,桜井は,
「交流感・有能感・自己決定感の中でも,交流感が
最も重要な要素である」としている.さらに堀井は
交流感を高める関わりとして,
「小集団の利点は,他
者との交流感を強く持つことができ,交流感のもて
る場を設定できることにある」としている.
また,内発的動機付けを向上させる他の手段とし
て,Deci は正のフィードバックが関係しているとし
ている.
以上のことから,内発的動機付けを向上させる為
には,有能感・自己決定感・交流感を向上させるこ
とが重要であり,それは小集団で作業を行い,正の
フィードバックを小集団のメンバーから受けるほう
が,効果が高いのではないかと考えた.
そこで,本研究では環境設定の違いにより,交流
感と有能感がどのような関係性を持っているのかを
検討し,今後の患者の関わりの一助としたい.
【対象・方法】
対象:健常成人 26 名(男性 10 名,女性 16 名)
,平
均年齢 21.3±3.8 歳.研究において十分な説明と同
意を得て実施した.
方法: 投影的作業を,パラレルな場で実施する群(A
群)と小集団で実施する群(B 群)にわけた.A 群
には個別的な正のフィードバックを行ない,B 群に
は小集団(7名程)のメンバーからの正のフィード
バックを行なった.メンバーは性別・年齢の範囲で
同質集団となるように設定した.正のフィードバッ
クでは,対象者に対し承認を行なうようにした.
課題の実施前後に,桜井のコンピテンス尺度(有
能感尺度)を実施した.今回は運動面に関する検討
を行なわない為,それ以外の下位尺度(学習面,社
会面,自己価値)について有能感の差を検討した.
【結果】
課題実施前後のコンピテンス尺度の差と,A 群 B
群を比較した結果を表 1 に示す.
コンピテンス尺度の実施前後の差が,全体と学習
面,自己価値に関しては A 群よりも B 群のほうが有
全体
学習
社会
自己
A群
-0.9±4.7
-0.9±1.9
0.3±2.5
-0.3±1.6
B群
1.5±3.0
-0.1±1.1
0.9±1.0
0.7±1.7
有意差
*
*
*
(*:P <0.05 )
【考察】
以上の結果,小集団を利用しグループのメンバー
からフィードバックを受けるほうが,対象者に対し
より大きな有能感を与えられることがわかった.ま
た,その有能感は学習面と自己価値に対して大きな
影響を与えると考えられた.
交流感とは,
「自分は周囲の人と親しく関わりあっ
ている」
・
「自分は周囲の人から受容されている」
・
「自
分は周囲の人から関心をもたれている」と感じる気
持ちのことであると,川村は述べており,これは,
集団の治療因子である「普遍的体験」や「受容され
る体験」と同様であると考えられる.つまり,集団
である B 群のほうが,より交流感が得られ,有能感
の向上に繋がったと考えられる.またフィードバッ
クでは承認を行うことにより,他者からの正のフィ
ードバックが受け入れやすく,受容される体験に繋
がり,また B 群の方ではより多くのフィードバック
を得られた事で交流感が多く得られ,有能感の向上
に繋がったと考えられる.
他の影響として,今回は B 群のメンバーを同質集
団となるよう設定したことが,より集団としての凝
集性を高め,効果が得られやすかったと考えられる.
患者の内発的動機付けを高める為の関わりには,
集団を用いるなど交流感を多く得られることも重要
であると考えられるが、集団を用いる場合のメンバ
ーの等質性などの環境設定や集団運営などの技術等
などの検討をすると共に,より臨床に近い対象者に
対しても検討していきたい.
-20-
5-4
小児における課題遂行時の報酬価の有無が脳
活動に与える影響 -1ch-NIRS による測定の試
み-
あったとみなすことができる.
また分散分析の結果より,いずれの被験者におい
ても3回の報酬あり試行中,2回目の試行で脳血流
上昇が抑制される傾向が認められた.
河村章史 1),吉田慎一 2),中野英樹 3),4),森岡周 4)
1) 平成医療専門学院作業療法学科
2) 愛知県厚生連江南厚生病院
3) 摂南総合病院認知神経リハビリテーションセ
ンター
4) 畿央大学大学院健康科学研究科
Key word:前頭葉,学習,(報酬)
【はじめに】臨床において,脳活動を計測しながら
図1:児 A の Oxy-Hb 推移
課題遂行することで得られる情報は多いと考えられ
るが,現状では機器の普及や利用の手間など,解決
すべき問題が山積しており,十分な実用化には至っ
ていない.今回,正常発達児において,作業課題遂
行時の脳活動とその報酬価による変動を 1ch-NIRS
(光トポグラフィー)を用いて測定する機会を得た
ので,報告する.
【方法】被験者は小児2名(7歳6ヵ月,女児,以
下児 A;5歳8ヵ月,男児,以下児 B)とし,いず
れの被験者においても整形外科的・神経学的既往は
認めなかった.利き手は2名とも右利きであった.
また実験に先立って実験の詳細を説明した上で実験
図2:児 B の Oxy-Hb 推移
参加の同意を得た.課題時の脳活動を測定するため
にオムロン社製 HEO-200 を使用し,プローブを国
【考察】結果より,ある程度の条件設定を行えば,
際 10-20 法の Fp1-2 の中心を挟むように装着した.
1ch-NIRS のような簡便な機器によってでも臨床的
データは酸化ヘモグロビン(以下,Oxy-Hb),還元
に意義のある脳活動計測が可能であることが示唆さ
ヘモグロビン,総ヘモグロビンを測定したが,デー
れた.報酬価の相違による脳活動の変化については,
タ処理には Oxy-Hb のみを採用した.課題は児 A は
初回は報酬提示されたことによる報酬系の活動亢進
小学校2年生用の計算ドリル,児 B はくもん式たし
を,2回目は慣れの効果を,3回目は報酬価が際立
ざんおけいこ第1集とした.測定はブロックデザイ
って高いものが提示されたことを,それぞれ反映し
ンとし,先行して安静 20 秒,課題 20 秒を3試行行
ていると考えられた.このことからも,簡便な機器
い(以下,報酬なし条件)
,それに続いて安静 20 秒
で脳活動を捉えるためには,目的の脳活動を吟味し
と課題 20 秒の間に報酬提示5秒と安静 20 秒を挟む
て,課題を適切に設定することが重要であることが
試行を3回行った(以下,報酬あり条件).報酬は
確認された.
TAKARA TOMY 社製ポケモンバトリオ0用パック
とし,パックの色により報酬価を設定した(紫>黄
>青)
.報酬は2名の被験者ともに報酬価の低い順に
提示した.報酬なし条件,報酬あり条件ともに3回
の試行について Oxy-Hb 値を安静-課題のスパンで
加算平均処理し,安静-課題間でt検定を行った
(Welch, p<.01, two tail)を行った.また,児 A,B そ
れぞれにおいて,報酬あり試行3回の課題時の
Oxy-Hb について2元配置分散分析(p<.01, two tail)
及び,Tukey 法による多重比較を行った.
【結果】児 A,B の Oxy-Hb 変動について,報酬な
し・あり条件別に3試行を加算平均したものについ
て,安静-課題間でt検定を行ったところ,すべて
において有意差が認められた.これにより,2名と
もが条件を問わず課題実施時に前頭葉に血流増大が
-21-
MEMO
-22-
一般演題〔会場:セミナー室〕
第 2 セクション 10:20~11:10
座長:相羽 秀子(岐阜県立希望が丘学園 発達支援センターのぞみ)
2―1
広汎性発達障害児のストレスと CARS との関連について
あじろ診療所 ひめゆり療育センター 渡邊 雄介
2―2 箸動作訓練に屈曲保持ロールと対立保持バンドを用いた訓練が
有効であった広汎性発達障害児の一例
あじろ診療所 ひめゆり療育センター 日比野 はるか
2―3 書字動作の練習にガイド版を用いたなぞり課題が有効であった知的障害児の一症例
あじろ診療所 ひめゆり療育センター 川合 亜有美
2―4 発達障害児の成長に伴う扁平率の比較
あじろ診療所 ひめゆり療育センター 西尾 麻美
第 4 セクション 11:20~12:00
座長:松本 直人(岐阜市民病院)
4-1
視覚障害者に対するインスリン自己注射への取り組み
~訓練用イノレットの作成~
朝日大学歯学部附属 村上記念病院 竹中 孝博
4-2 当院回復期病棟におけるセルフエクササイズ定着への取り組みについて
医療法人社団友愛会 岩砂病院 奥田 陽子
4-3 総合ケアセンターサンビレッジでの作業療法士の取り組み
-施設・地域・教育での活動を紹介 生活を支える視点を通して-
総合ケアセンターサンビレッジ 川瀬 勢津子
第 6 セクション 12:50~13:40
座長:篠田 良則(サンビレッジ国際医療福祉専門学校)
6-1
環境設定によって介入が受け入れられるようになった認知症高齢者の一事例
サントピアみのかも 菊池
6-2 軽度認知障害における時間見積り能力の検討
-1年後の追跡調査を通して-
平成医療専門学院 加藤
6-3 長期入院中の若年統合失調症者に対する個人作業療法の取り組み
のぞみの丘ホスピタル 奥谷
6-4 他職種で運営する服薬教室
-役割分担と運営の工夫-
のぞみの丘ホスピタル 大下
-23-
亜理
清人
直己
伸子
2-1
広汎性発達障害児のストレスと CARS との関連
について
○渡邊雄介1) 岩越康真(RPT)1)
川合亜有美1) 福富悌(MD)2)
西尾麻美1)
1)あじろ診療所ひめゆり療育センター
2)福富医院
Key Words:
広汎性発達障害児 ストレス (唾液アミラーゼ)
【はじめに】
近年、唾液アミラーゼ活性(以下、AMY 値)はス
トレス等の生理的指標として期待されている。演者
らは、これまでに、広汎性発達障害児(以下 PDD 児)
における作業療法介入前後のストレスの変化につい
て報告してきた。
今回、Childhood Autism Rating Scale(以下、
CARS)における項目を感覚入力と表出の二つのカ
テゴリーに分類し、AMY 値との関連から PDD 児の
ストレスついて検討したので報告する。
【方法】
1.
対象
対象は、本人および保護者に対して研究の目的お
よび内容を十分に説明し、同意を得た 3 歳から 13
歳までの PDD 児 28 名とした。この 28 名を CARS
にて分類し、重度群 13 名(平均年齢 6.9±2.2 歳、男
児 13 名)と軽度・中等度群(以下、軽度群)15 名(平均
年齢 6.1±2.4 歳、男児 10 名、女児 5 名)とした。
2.AMY 値の測定方法
AMY 値 の 測 定 は 、 唾 液 ア ミ ラ ー ゼ モ ニ タ ー
COCORO METER(NIPRO 社製)を用い、AMY 値を
測定した。PDD 児の測定は十分な安静の後測定を実
施した。
3.
CARS の評価項目のカテゴリー化
CARS の評価項目のうち、視覚による反応、聴覚
による反応、味覚、臭覚、触覚による反応、恐れや
不安の 4 項目を感覚受容に関するカテゴリーとし、
人との関係、摸倣、情緒反応、言語性のコミュニケ
ーション、非言語性のコミュニケーションの 5 項目
を表出に関するカテゴリーとし、AMY 値との相関関
係を検討した。
による反応(r=0.55)、聴覚による反応(r=0.43)、味
覚、臭覚、触覚による反応(r=0.52)、の 3 項目で
AMY 値との正の相関関係を示した(p<0.05)。表
出に関するカテゴリーの 5 項目の評価点と AMY
値との間には相関関係は認められなかった。
【考察】
今回、安静時において重度群の方が軽度群に比べ
て AMY 値が高値を示した。AMY 値は精神的ストレ
スの状態を反映するといわれており、重度の PDD 児
の方がよりストレスが高い状態である可能性が考え
られた。一方、CARS 項目の感覚入力に関するカテ
ゴリーのうち 4 項目中 3 項目で AMY 値との正の相
関関係を認めたのに対して、表出に関するカテゴリ
ー5 項目では相関関係を認めなかった。自閉症児は
感覚情報処理過程での異常が指摘されており、本研
究の結果より、感覚入力されてから、表出されるま
での情報処理過程で異常が発生し、ストレスにつな
がっている可能性が示唆された。
近年、広義の自閉症性障害を意味する PDD という
概念が登場してから、自閉症の範囲は徐々に拡大し
ている。臨床においても、従来の概念にあてはめた
治療では、その対応に苦慮する場面が多くなってき
た。本研究の結果からも、自閉症を含む発達障害児
が感覚入力の段階で問題を抱えているのか、あるい
は表出の段階で問題を抱えているのかを細かく分析
し、作業療法訓練を実施していく必要があると考え
た。
【結果】
1) 重度群と軽度群の安静時 AMY 値の比較
重度群は 76.3±36.4kU/L、軽度群は 49.2±23.0
kU/L で あ り 、 重 度 群 が 有 意 に 高 値 を 示 し た
(p<0.05)。
2) AMY 値と CARS 項目の評価点との相関関
係
感覚入力に関するカテゴリーの 4 項目中、視覚
-24-
2-2
箸動作訓練に屈曲保持ロールと対立保持バンド
を用いた訓練が有効であった広汎性発達障害児
の一例
○ 日 比 野 は る か 1) 渡 邊 雄 介 1) 西 尾 麻 美
川合亜有美 1) 福富悌(MD)2)
1)網代診療所ひめゆり療育センター 2)福富医院
キーワード:食事動作,箸動作,手指機能
1)
【はじめに】
幼児期における箸動作の獲得において、標準的な
箸動作(以下、箸動作)は 5 歳前後から可能となると言
われている。しかし、臨床において、広汎性発達障
害(以下、PDD)児は補助付き箸から普通箸への移行
が困難であることが多い。今回、補助付き箸から普
通箸への移行が困難であった PDD 児を担当した。本
症例は、箸を把持し続けることや、手指の橈側 3 指
と尺側 2 指の分離運動による箸の開閉動作を行うこ
とが難しく、箸動作の獲得に至っていなかった。こ
のような症例に対し、手指の分離運動を促す目的で、
屈曲保持ロールと対立保持バンドを用いた箸動作訓
練を段階的に実施した結果、箸動作の獲得がみられ
たので、若干の考察を加え、報告する。
【症例】
症例は、本研究の目的を保護者に説明し同意を得
た、PDD、注意欠陥多動性障害と診断された 6 歳 3
ヶ月の男児とした。知的機能は新版 K 式発達検査よ
り、全領域 81 であった。生育歴は、在胎 40 週、初
歩 1 歳 6 ヶ月、初語 2 歳であった。4 歳前までは頻
繁にパニックを起こし、小児精神科を受診していた。
手先の不器用さ、箸が使えないことを主訴に、6 歳 2
ヶ月より作業療法開始となった。
【方法】
1)実施課題:箸動作の獲得を目的に、以下の作業療
法訓練を実施した。症例の正面に 20mm の間隔で 2
つの皿を並べ、右側の皿上にある 40 個の円柱状のス
ポンジブロック(以下、スポンジ)を箸で摘んで左の皿
へ移動した。また、症例の手に適した屈曲保持ロー
ルと対立保持バンドを作成し用いた。箸動作能力は、
1 分間で移動し得たスポンジ数を毎回記録すること
で評価した。2)実施手順:介入期間は 3 週間であり、
1 分間の実施課題を 1 日に 3 回行った。作業療法訓
練は、週に 1 回実施した。訓練時に実施した課題を、
翌日より 1 週間ホームプログラムとして行った。第
1 週目は屈曲保持ロールと対立保持バンドを使用し
て実施した。第 2 週目は、屈曲保持ロールのみを使
用して実施した。第 3 週目は屈曲保持ロールと対立
保持バンドの双方を除去し、実施した。加えて、実
際の食事場面で箸を使用してもらった。3)食事動作
の評価方法:食事の評価については WeeFIM を使用
した。母親の症例の食事に対する満足度は、5 件法
による質問紙を作成し用いた。
【結果】
1)スポンジ数の変化:介入前のスポンジ数は平均 0.7
個であり、介入時のスポンジ数の平均は、介入第 1
週目は 6.1 個、介入第 2 週目は 13.8 個、介入第 3 週
目は 19.7 個であった。屈曲保持ロールや対立保持バ
ンドの使用を徐々に減らしても、スポンジ数は増加
を示した。また、介入日数とスポンジ数において、
有意に正の相関がみられた(r=0.93)。2)介助量・母親
の症例の食事に対する満足度の変化:介入前の
WeeFIM の食事の項目は 5 点であった。介入後は実
際の食事場面で、特定の食べ物であれば、箸を使用
して食事ができるようになったが、声かけを必要と
しており、点数に変化は見られなかった。母親の症
例の食事に対する満足度では、
「箸を上手に使って食
べられますか。
」という箸動作能力の質問項目におい
て、
「やや不満足(2 点)」から「どちらでもない(3 点)」
へ満足度の向上が見られた。その他の項目において
満足度の変化は見られなかった。
【考察】
本研究では、PDD 児に対して、屈曲保持ロールと
対立保持バンド(以下、補助具)を用いた訓練方法によ
り、箸動作の獲得を図った。介入日数とスポンジ数
において有意に正の相関がみられた。箸動作を獲得
するには、箸を持つための適切な手の構えが作れる
こと、橈側 3 指と尺側 2 指での分離した運動が行え
ることが重要であると言われている。本症例におい
て補助具を使用することで、適切な手の構えを学習
することができ、さらに橈側 3 指と尺側 2 指の分離
運動が促され、箸の開閉動作が可能となったと考え
られた。また、PDD 児において、失敗経験が重なる
と反復練習の持続が困難となり、目的動作の習得が
上手くいかない場合が多い。本研究では、箸動作の
分析を行い、段階的に介入を行った結果、失敗経験
を減らし、成功体験を積み重ねていくことが可能と
なり箸動作の獲得に至ったと考えられた。
PDD 児において、その他の獲得困難であった活動
においても、段階的な作業療法介入を行うことで獲
得できる活動が増える可能性が示唆された。
-25-
2-3
書字動作の練習にガイド板を用いたなぞり課題
が有効であった知的障害児の一症例
○川合亜有美 1) 渡邊雄介 1) 西尾麻美 1)
日比野はるか 1) 福富悌 2)
1)あじろ診療所ひめゆり療育センター
2)福富医院
Key Words:視知覚,知的障害,書字動作
【はじめに】
書字動作の未獲得な知的障害児を担当し,書字動
作の獲得に向けて評価を行ったところ,線に沿った
なぞり書きを行うことが困難であった.このような
症例に対しガイド板を用いたなぞり課題から段階的
に書字動作の練習を実施したところ,自分の名前の
なぞり書きが可能となったので若干の知見を加えて
報告する.
【対象】
対象は,本研究の趣旨を十分に説明し,保護者か
らの同意が得られた,知的障害,注意欠陥多動性障
害の診断を受けている 5 歳 8 ヶ月男児であった.生
育歴は,四つ這い 12 ヶ月,独歩 19 ヶ月であった.
H22 年 2 月実施の新版K式発達検査は,全領域発達
指数は DQ60(発達年齢 2 歳 11 ヶ月)であった.手
先の不器用さの改善と,書字動作を獲得することを
目的に H22 年 3 月より作業療法(以下,OT)開始
となった.
【方法】
1.実施課題:A4 サイズのプラスチック板を波形,
Z 字形にくりぬいて作製したガイド板を用いたなぞ
り課題を 2 段階に分けて実施した.第 1 段階は 2 本
線の間を 1cm 間隔とし,第 2 段階は 4mm 間隔とし
た.
2.実施手順:介入期間は 3 週間とし,週1回の OT
訓練においてなぞり課題を実施し,翌日より 1 日 1
回以上の頻度で自宅課題を実施した.ガイド板を外
した状態において,はみ出さずに線を引くことがで
きた際に次の段階へと移行した.
3.評価項目:介入前,介入 2 週間後および 3 週間
後の OT 訓練において,フロスティッグ視知覚学習
ブック(日本文化科学社.以下,学習ブック)の 49①,49-②,50 の 3 課題を実施し,各課題に要した
時間(以下,スピード)の変化を調べた.介入前と
介入 3 週間後に丸,十字,四角の図形模写を行い,
その変化を調べた.また,フロスティッグ視知覚発
達検査(以下,DTVP)の,下位検査の評価点を介
入前と介入 4 週間後で比較した.
【結果】
介入により,介入前に困難であった線のなぞり書
きが可能となり,ひらがなで書かれた自分の名前を
なぞることが可能となった.丸の模写では,介入前
に楕円形であったものが,介入 3 週間後には丸に近
い形へと変化した.学習ブックの課題 50 において介
入 2 週間後ではスピードが大きく遅延し,介入 3 週
間後に再び速くなるという結果が生じた.DTVP の
下位検査は,検査Ⅰで評価点が 6 点から 9 点へと上
昇し,知覚年齢が 3 歳 3 ヶ月から 5 歳 0 ヶ月へと変
化した.
【考察】
本研究では書字動作の未獲得な知的障害児に対し
て,ガイド板を用いたなぞり課題の検討を行った.
書字動作が未熟な場合の訓練については,文字や図
形の認識を促す場合,手指機能の発達を促す場合,
目と手の協調を向上させる場合などが考えられる.
本症例では図形認識は可能であり,手指機能につい
てもある程度の日常生活に支障を認めなかった.目
と手の協調については低下していると考えられた.
このような症例に対しては見本の線や文字を上から
なぞる練習であるなぞり書きが一般的であるが,こ
の課題ではなぞり書きがうまくできないため,書字
動作の練習には消極的であると考えられた.そこで
書字動作の基本的な動きを習得させるガイド板を用
いた.本症例においてはガイド板の幅を狭くした 2
つの課題を行うことができた.これについてはある
程度の日常生活に支障はないものの,書字について
の基本動作が習得できていなかったと考えられた.
このような訓練を行うことにより,本人の意欲向上
につながった.このことは課題 50 の結果から,線に
対する認識が高まり,正確さにも注意が払われるよ
うになったと考えられた.また DTVP の結果から目
と手の協調も改善したと考えられた.
書字動作については多くの因子が関与しているた
め,多くの面から評価する必要があると考えられた.
今回はガイド板の導入が有効であったが,今後は書
字動作について機能面だけでなく,文字は正確性も
必要であることから,知的障害児に対しては興味や
集中力の維持につながる要素も検討していくことが
必要と考えられた.
-26-
2-4
発達障害児の成長に伴う扁平率の比較
○西尾麻美1) 渡邊雄介1) 川合亜有美1)
日比野はるか1) 福富悌(MD)2)
1)
あじろ診療所ひめゆり療育センター
2)
福富医院
キーワード:発達障害、運動機能、
(扁平足)
【はじめに】
健常児において、扁平足は年齢と共に減少し、5
歳から 6 歳にかけて足部はほぼ成人の形に近づくと
報告されている。演者らは、5 歳から 6 歳の発達障
害児において、健常児よりも扁平足であることを報
告してきた。
今回、発達障害児の足部の特性についてより明ら
かにするために、さらに対象年齢を広げ 3 歳から 6
歳までの健常児と発達障害児の足型を測定し検討し
たので報告する。
【方法】
1. 対象
対象は当院外来通院中で、発達障害の診断を受け
た児(以下、発達障害児)43 名を発達障害児群とした。
さらに発達障害児群を年長児群 23 名(平均 65.0±3.2
ヶ月、男児 21 名、女児 2 名)、年中児群 10 名(平均
55.6±3.3 ヶ月、男児 7 名、女児 3 名)、年少児群 10
名(平均 46.7±4.2 ヶ月、男児 4 名、女児 6 名)に分類
した。また、岐阜県下の保育園児のうち療育機関に
通っていない児(以下、健常児)97 名を健常児群とし
た。健常児群を年長児群(以下、
健常年長児群)37 名(平
均 71.0±3.5 ヶ月、男児 17 名、女児 20 名)、年中児
群(以下、健常年中児群)22 名(平均 58.4±3.8 ヶ月、
男児 7 名、女児 15 名)、年少児群(以下、健常年少児
群)38 名(平均 46.7±3.3 ヶ月、男児 20 名、女児 18
名)に分類した。
なお、本研究実施にあたり、対象児の保護者に研
究の目的及びその内容を十分に説明し、書面にて参
加することの同意を得た。
2.測定方法
1)フットプリント測定
静的立位にて、10 秒間フットプリントに乗せ左右
の足型を測定した。同時に足部周囲に棒を沿わせて、
足部の外郭線を記録した。
2)扁平率の算出方法
足型に第 1 中足骨頭と舟状骨を結ぶ内側線、第 5
中足骨頭と第 5 中足骨底を結ぶ外側線を引き、内側
縦アーチの最深部を頂点とした。外側線と頂点を通
る垂線を引き、外側線から頂点までの距離を外側線
から内側線までの距離で除した値を扁平率とした。
【結果】
扁平率と月齢について、健常児では各群において
左右ともに有意な負の相関がみられた(右:r=-0.328
左:r=-0.223 p<0.05)。発達障害児ではいずれの群
でも、左右ともに相関がみられなかった(右:r=-
0.129 左:r=-0.098)。
扁平率の左右平均の比較では、健常児において健
常年長児群に比べて健常年少児群が有意に高値を示
した(p<0.01)。発達障害児では、年長児群、年中児
群、年少児群の各群間に有意な差が見られなかった。
【考察】
今回、健常児群において扁平率と月齢の間に負の
相関がみられ、発達障害児群において相関がみられ
なかった。このことから、健常児は年齢に伴い、扁
平足が改善していくのに対し、発達障害児は年齢に
伴い、扁平足が改善されにくいことが明らかになっ
た。小児の扁平足に対して年齢に伴う自然治癒が報
告されており、本研究においても健常児では同様の
傾向を示した。一方、知的障害児、ダウン症児にお
いて、扁平足を含む足部の変形が見られやすく、足
底挿板や装具の使用により扁平足の改善がみられた
と報告されている。そして、知的障害児やダウン症
児は健常児と比べて運動能力の低下、運動発達の遅
れ、運動経験不足があるとの報告があり、これは発
達障害児にも共通する事であると考えられる。この
ことから、発達障害児においても足底挿板などの処
方により、足部の発達を促進し、扁平足が改善され
る可能性が考えられた。
また、健常児において健常年少児群と健常年中児
群、健常年中児群と健常年長児群の扁平率に有意な
差がみられず、健常年少児群と健常年長児群の間で
有意な差が見られた。この結果より、年少児からの 2
~3 年で足部が発達していくと示された。このこと
から、発達障害児に関わることの多い作業療法士が、
足部が著明な発達を遂げる年少児からの長期的対応
を行うことで、足部の発達に伴う機能改善が望まれ
ると考えられた。
-27-
4-1
視覚障害者に対するインスリン自己注射への取
り組み~訓練用イノレットの作成~
竹中孝博 1),関谷泰明 2)
1)朝日大学歯学部附属村上記念病院
2)岐阜県総合医療センター 薬剤師
Key words:
糖尿病・視覚障害・自助具
図‐1
【はじめに】
今回、視覚障害者に対しインスリンの自己注射自
立を目標に作業療法士、薬剤師が協力して介入した.
インスリン指導に熟知した糖尿病スタッフと、補助
具作成・動作指導ができる作業療法士が協力し、イ
ンスリン自己注射に至るまでのアプローチ経験と訓
練用イノレット作成の報告をする.
【症例紹介】
平成 21 年 7 月 23 日 当院入院.
独居生活で、1型糖尿病、高血圧にて外来フォロー
中であった.徐々に視力低下進行、歩行時転倒する
ことが多くなり日常生活が困難となったため、血糖
コントロール、食事指導のため入院となる.
7 月 24 日 歩行不安定のため脳外科受診、右視床ラ
クナ梗塞の診断を受ける.
7 月 25 日 リハビリ開始.
作業療法評価にて認知機能低下、視力低下、四肢失
調症状(右<左)、ADL は起居動作、座位保持など全
介助.
7 月 27 日 四肢失調症状軽減.起居動作、座位保持自
立、歩行軽介助(視力障害、バランス障害)
.
8 月 25 日 見守り下で歩行可能 慣れた環境下で
は ADL 動作自立.
DM コントロールにはイノレットⓇ50R.
12 単位毎食前.
DM 食 1400kcal.
この約 2 週間後に他院へ転院しその後、施設入所の
予定となった.薬剤師よりインスリン自己注射訓練
の相談を受け、転院までの残り 2 週間で自立に向け
共同して介入することとなった.
【自己注射自立への問題】
①自己注射手順が覚えられない、視力低下の為イ
ンスリン単位の設定困難. ②動作に無駄が多い.
③安全にキャップがはめられない.
【介入方法と結果】
①自己注射手順が覚えられない事に対しては薬剤師
によりチェックリストを作成し、繰り返し動作をお
こなった.最終的には手順を忘れる事があるため声
がけを要した.イノレットⓇの単位設定はトマレット
Ⓡ
を導入し自立した.
(図‐1)
②動作に無駄が多い事に対しては、インスリンを
確実に混ぜようと過剰に粗大な動作でイノレット
Ⓡ
を振っていたため、中のインスリンを抜いて
STEF の小球を入れ、振ると音が出るよう改良した
(図‐2).その結果、音に合わせたリズミカルな
動作でインスリンが効率よく混ぜられるようにな
った.
図‐2
③安全にキャップがはめられない事に対しては、
先端の針を外し同じ長さのピアノ線を取り付ける
ことで訓練時に誤って針を触っても、刺さらない
ように改良した.それにより安全に動作訓練をす
すめ、最終的には見守りレベルとなった.
【考察・まとめ】
施設入所予定となった視覚障害者に対してイノレ
ットⓇを改良し自己注射自立に向けて介入した.
2週間の短期介入であったが、見守りレベルとな
った.
今後の課題は腹部に垂直に刺せなかった場合、針
が曲がることがあるため今後、補助具等の考案が必
要である.
今後も作業療法士が自己注射指導に介入しチーム
アプローチを通して患者様の支援をしていきたい.
-28-
4-2
当院回復期病棟におけるセルフエクササイズ定
着への取り組みについて
表1.患者チェック回数の平均
セラピストチェック回数
4
患者チェック回数(平均)
24.2
3
15.2
2
13.4
1
0
7.2
12.2
医療法人社団友愛会 岩砂病院第一
リハビリテーション科
奥田陽子 可兒賢吾 坪井祥一(RPT)
萩野勝也
平成医療専門学院 永井貴士
キーワード
(セルフエクササイズ)・(チェック表)・(回復期リハ)
【はじめに】
脳卒中治療ガイドライン 2009 によると患者への
ホームプログラム教育を行うこと(グレード B)が
推奨されている.しかし,これまでの当院における
セルフエクササイズの実施状況は,各セラピストの
判断に任せられており,手間がかかる,時間的制約
などの理由から積極的に実施されているとは言い難
い状況にあった.
H21 年度よりパソコン上で簡便に作成できること
を目的に,有限会社 SCP と共同で「セルフエクササ
イズシステムソフトウェア」(以下;SES)の開発・
導入を行った.SES とは,実施したい運動メニュー
を画面上で選択するだけで,定型的な書式に変換さ
れ,写真と説明文付きのセルフエクササイズシート
が印刷されるというものである.
丸田によると,セルフエクササイズは効果が患者
の知識や意欲によって左右されやすいのが難点であ
り,定着に際し,ある程度のセラピスト介入が必要
であると言われている.そこで今回,セラピストの
介入頻度と患者の定着性の関係について,チェック
表を作成し検討したため,以下に報告する.
【対象】
H22 年 5 月~8 月までの当院回復期リハビリテー
ション病棟に入院している 28 名(男性 14 名,女性
14 名),平均年齢 77 歳±9.2 を対象とした.なお,
対象者には十分な説明を行い,本報告の同意を得た.
【考察】
今回 OT・PT・ST が中心となり開発した「SES」
を導入した当院において,患者へのセルフエクササ
イズ定着が極めて重要な課題となる.その際,担当
セラピストの関わりが,大きくセルフエクササイズ
の実施に影響を与えるのではないかと推測し,その
現状把握のためにチェック表を作り経過を追った.
結果,我々の推測通り担当セラピストのチェック回
数に患者のチェック状況が反映する傾向にあった.
つまり,OT・PT・ST が訓練場面などで口頭のみ
で指導を行う,
「患者主導のセルフエクササイズ」で
はなく,定期的に実施の状況を確認・把握していく
「管理されたセルフエクササイズ」をすることで患
者の意識・意欲が高まり,定着につながることが考
えられる.
また,回復期病棟入院患者において,セルフエク
ササイズを含めた患者・家族へ行われる指導は,生
活の質という点でも有効であると言われている.よ
って,セルフエクササイズの定着は,心身機能の向
上という面だけではなく,余暇活動の実現など,個
人の生き甲斐,精神的な豊かさに繋がる側面も持つ
のではないかと考えられる.
今後の課題として,セラピストのセルフエクササ
イズに対する十分な理解と,適切な管理体制の構築
を進めていく必要があると考える.さらに,認知症
や高次脳機能障害など個別の対応が必要な患者に対
しても,セルフエクササイズが導入できる環境を充
実させていきたい.
【方法】
セルフエクササイズチェック表を作成し,各患者
は毎日の実施状況を記載した.更に,表には1週間
ごとのセラピストチェック欄を設け,担当セラピス
トが患者の実施状況を確認し,チェックするよう周
知した.各患者の開始4週間を対象とし,セラピス
トチェック回数に対する患者チェック回数の平均を
出し比較検討した.
【結果】
結果は表 1 の通りとなり,セラピストのチェック
回数が多いほど患者のセルフエクササイズチェック
回数が多い傾向にあった.
-29-
4-3
総合ケアセンターサンビレッジでの
作業療法士の取り組み
―施設・地域・教育での活動を紹介
生活を支える視点を通して―
総合ケアセンターサンビレッジ
川瀬勢津子
酒井里美 髙木正剛 田中拓郎
キーワード: 施設
地域
生活
【はじめに】
社会福祉法人新生会は、
「他人のいたみを自分のこ
ととして、感ずる感性と、人が等しく生きてゆくこ
との福祉観を基本として」という理念のもとに、岐
阜県西濃地域、岐阜地域を中心に、介護保険事業、
介護保険外事業、人材育成事業、ソーシャルワーク
活動を展開している。また法人内には、作業療法士
(以下 OT)の養成校がある。
総合ケアセンターサンビレッジ(以下サンビレッ
ジ)は、池田町を拠点として、施設サービス、居宅サ
ービス、有料老人ホーム、人材育成、ソーシャルワ
ーク活動などを行っている。
【施設サービス】
維持期~ターミナル期の利用者に対して OT の支
援を行っている。支援内容は、環境の整備(福祉用
具の選定、居室環境の調整)
、臥位・座位姿勢のアセ
スメント、生活の中で継続してできるリハビリの提
案、介助方法の提案が主なものである。利用者の機
能を活かし、介護する側の負担を軽減することを基
本に、すべての内容は生活を直接支えている介護職
と相談・連携をとりながら行っている。
当法人独自のサービスに、アセスメント入所サー
ビスがある。在宅復帰・在宅生活の継続を目的に、
介護環境を中心にアセスメントするものである。そ
の中で OT は、施設での主な支援に加え、在宅に赴
き住宅環境のアセスメント・提案を行っている。
施設の職員を対象に、知識向上、腰痛予防等を目
的に、臥位・座位姿勢、福祉用具の活用(移乗用具、
車椅子等)についての講習会を企画している。また、
褥創委員会、生活力向上委員会など法人内の委員会
の一員として、施設全体の知識・技術の向上に務め
ている。
したい福祉用具の選定など)を行っている。
昨年度は、施設内で職員の知識向上を目的に行っ
た福祉機器展を行った。今年度は学校で、地域への
福祉・介護の情報発信として、福祉フェア(福祉機
器の展示、介護ミニ講座など)を11月初めに開催
する予定である。
【教育(人材育成)】
OT 新入職員は入社後、介護スタッフとして施設入
所者の介護業務に入り、利用者の生活の知ることか
ら始まる。利用者の1日の生活を知ることで、生活
モデルのアセスメントの視点を学ぶ。
学校と協力し、現場(主に施設)を学生の学びの場と
して授業を行っている。利用者の生活をみることで、
学校での授業の理解を深め、利用者・職員と接する
ことでコミュニケーション方法を学ぶ機会となって
いる。
OTや福祉分野への興味・関心を広げることを目
的に、小学生対象のキッズセミナー、中高生対象の
職場体験、オープンキャンパスを施設内で実施して
いる。
【まとめ】
OT が関わる対象者は、急性期~ターミナル期まで
様々である。学生時代、病院で治療者として関わる
OT をみる機会が多かった。サンビレッジに入社後、
施設・地域での活動を通して、生活を支える全ての
職種の一人として、利用者と関わる OT の必要性を
感じている。利用者の生活は多岐に渡り、OT の部分
的な関わりでは、多様性に対応したアセスメントを
行うことは難しい。その中で、OT は生活に個々の持
っている能力を結び付ける役割を担っていると学ん
だ。
生活を支えるチームの一員として施設・地域で活
動することが、利用者・福祉を支える大きな力にな
るのではないだろうか
【地域サービス】
訪問看護ステーションからの訪問リハビリを行っ
ており、各疾患のターミナル期、高齢者の終末期に
関わることが多い。
法人内の在宅介護支援センターと協力し、介護予
防教室(転倒予防、認知症予防)を町内の各地区で
開催している。
学校と協力し、他事業所での研修会(施設で活用
-30-
6-1
環境設定によって介入が受け入れられるように
なった認知症高齢者の一事例
特定医療法人清仁会
老人保健施設サントピアみのかも
○菊地 亜理
山本 美香
キーワード:環境、認知症、(BPSD)
【はじめに】
認知症高齢者では、記憶障害や見当識障害が進行
することで現実との繋がりが途切れ、相手との関係
や場の状況を理解することが難しくなる。それが不
安や混乱を招き、BPSD に発展するケースも多い。
今回、認知症の進行に伴い、他者からの介入に攻
撃的な言動や拒否がみられた認知症高齢者に対し、
環境設定を通して介入が可能となった事例について
報告する。なお、この報告は家族、及び当法人の倫
理委員会の承認を得ている。
【事例紹介】
91 歳、男性。脳血管性認知症。難聴あり。戦争に
6 年間行き、帰国後は農業を行っていた。H9 年より
妻が特別養護老人ホームに入所し、その後は独居で
あったが、H19 年頃より物忘れが進んだことで金銭
管理や健康管理が難しくなり、同年 12 月より当施設
に入所となった。元来頑固な性格だが、人当たりは
よかった。
【作業療法評価】
NM スケール:29 点(中等度認知症)
身辺処理、記銘・記憶、見当識 → 各 5 点
関心・意欲・交流、会話 → 各 7 点
N‐ADL:37 点
生活圏 → 5 点
歩行・起座、着脱衣・入浴 → 7 点
摂食、排泄 → 9 点
日常生活場面
居室またはホール内の自席にて 1 人で過ごす。ホ
ールでは認知症の他利用者が近寄ったり、大声を発
することを不快に感じ、暴言・暴力がみられた。ま
た、援助のため声を掛けた職員に対しても突然怒り
出し、同様の攻撃的言動がみられていた。しかし、
一方で食事を配膳した職員にお礼する礼儀正しさや、
年配者を気遣い、声を掛ける一面もみられていた。
レクへの参加はないが、季節行事は他利用者や家族
と共に楽しめていた。
作業療法プログラム場面
対人交流の機会を持ち、役割的体験を維持するこ
とを目的に週 2 回の個別プログラムを実施。自席で
の会話中心の介入の中で、症例は表情豊かに自身の
知識や経験を語っていた。しかし、H21 年 4 月頃よ
り徐々に作業療法士(以下 OTR)が症例の元を訪れ
るだけで怪訝な表情となったり、声掛けに怒鳴り返
したりと関わり自体に拒否的となることが増えた。
それからも、時折介入に応じられることはあり、拒
否に至る原因はわからなかった。
【実施計画】
<目的>症例の介入に対する拒否・攻撃的行為の原
因を追究し、介入方法を検討する。
<内容>より多角的に症例に介入し、状況を評価で
きるよう担当 OTR を 1 名から 2 名に変更。
①実施時間・場所による違い②介入方法(物
品の使用など)による違いの 2 点に焦点を
当て、介入を行った。
【結果】
介入が受け入れられる際の環境面に、いくつかの
共通点が見い出された。
時間:空腹時は易怒的になりやすいため避ける
場所:症例の居場所である自席または自室にて実施
雑音が少なく、場が落ち着いている状況で実
施
対応:介入開始時にお茶を提供する
・単に症例の元に行き、声掛けするだけでは
怪訝な表情をみせることが多い
⇒お茶が OTR への不信感を軽減し、場を共
有するきっかけとなる
・お茶が習慣的によく飲まれていたことや、
作法を教わった経験が語られる
⇒お茶は症例にとって特別で馴染みのある
もの
:指定した場への移動は困難なため、症例の過
ごす場の環境が整っている際に介入を行う
【考察】
拒否や攻撃的言動がみられるようになった背景の
1つとして、これまで判断・理解できていた場の状
況や人との関係性が、認知症進行による記憶障害や
見当識障害により困難となったことが考えられる。
そのため、介入に際し、まずは症例にとって話のし
やすい場、つまり安心でき、刺激を受け入れやすい
場を設定し、OTR が何をしに来たかをより明確に示
す必要があった。今回は、多角的な視点からの評価、
実践を繰り返したことで、環境面でのポイント、介
入のタイミングが明確化し、介入方法を試行錯誤し
た中で「お茶」という関わりのきっかけを掴むこと
ができた。認知症高齢者の場合、その人の持つ能力
と適切な環境とをうまく合致させることが、能力の
自発的発揮に繋がってくると言える。
-31-
6-2
軽度認知障害における時間見積もり能力の検討
-1 年後の追跡調査を通して-
○加藤清人1) 藤田高史2) 永井貴士1) 服部優香
理3)
1)平成医療専門学院 作業療法学科
2)星城大学リハビリテーション学部作業療法学専攻
3)グループホームひだまり
キーワード
用性
(時間見積もり)
軽度認知障害
有
【はじめに】
軽度認知障害(MCI)は,年間 10~15 パーセン
トの割合で,アルツハイマー病(AD)へ移行するとの
報告がなされている.そのため,認知症の早期発見・
早期介入の重要性からその前駆段階である MCI が
近年注目されている.特に MCI の場合,記憶障害と
共に遂行機能が低下すること,基本的日常生活活動
に比べ手段的日常生活活動(IADL)が先に低下する
ことが知られている.しかし,認知症診断における
既存の検査の多くは非常に時間がかかるため,対象
者にかかる負担も少なくない.そこで,遂行機能を
簡便な方法で検出することができれば認知症の早期
発見・早期介入に繋げていくことが可能である.筆
者らは,簡便な方法で遂行機能を評価可能な「時間
見積もり検査」を開発し,健常者・MCI 者・軽度
AD 者に対し実施した.第 43 回日本作業療法学会に
おいて,軽度 AD 者に対してこの検査が有用である
可能性を報告した.そこで,今回は MCI 者に対して
追跡調査を行い,認知症進行の予後について検討し
たので報告する.
【対象】
2008 年 6 月から 11 月にわたり,居宅者および介
護予防教室を利用する 65 歳以上の 24 名とし,既往
歴に脳血管障害がある者は除外した.対象者の選定
方法は,大崎・田尻プロジェクトに準じ,簡易知能
検査(MMSE)が 24 点以上,ウェクスラー記憶検
査(WMS-R)の下位検査である論理的記憶Ⅰが 13
点以上,機能的自立度評価表(FIM)のセルフケア
項目が満点の者を健常群,WMS-R の下位検査であ
る論理的記憶Ⅰが 13 点以下の者を MCI 群とした.
結果,健常群(16 名,MMSE28.9±1.8)
,MCI 群(16
名,MMSE27.6±2.0)であった.その後,1 年後の
2009 年 11 月から 2010 年 5 月にわたり,協力の得
られた 19 名(健常群 11 名,MCI 群 8 名)に対し,
追跡調査を実施した.なお,今回の報告に際しては,
対象者より同意を得ている.
【方法】
「時間見積もり検査」は,遂行機能障害症候群の
行動評価(BADS)の時間判断検査をモデルとし,
本研究では,より高齢者が実施していると考えられ
る項目「電話をかける時間」
「入浴の貯湯の時間」な
ど 10 項目を設定して実施した.得点方法は,健常群
の回答に対する平均値±1.5SD を正常値1点,その
範囲外を異常値 0 点として各対象者の得点を算出し
た.分析方法は,認知症進行予測の鋭敏化を検討す
るために時間見積もり得点,MMSE 得点,FAI で測
定される IADL 得点を集計し,初回年・1 年後のそ
れぞれの結果を Mann-Whitney の U 検定にて比較
検討した(p<0.05).
【結果】
時間見積もり能力については MCI 群の場合,初回
年・1 年後で有意差を認めなかった.健常群におい
ても同様の結果であった.MMSE 得点においては,
MCI 群では初回年平均 27.8±1.7 点,
1 年後平均 25.9
±1.5 点とやや低下傾向を示したものの有意な差は
認めなかった.また,IADL 得点では多くの対象者
が低下傾向を示すものの有意差は認めなかった.
【考察】
MCI 者の十数パーセントは、1 年後 AD に移行す
ることから,
「時間見積もり検査」において認知症進
行を予測できるか否かを検討したが,時間見積もり
得点の初回時・1 年後の間に有意差が認められなか
った.よって,この検査の有用性を示唆することは
できなかった.
その原因として,
今回対象とした MCI
者の中で MMSE や IADL の得点において若干の低
下を示したものの認知症と判定されるまでに至って
いない.そのため,認知症と断定できないことで,
時間見積もり検査においても抽出できなかった可能
性が伺えた.また,健常群においても著明な変化は
得られていないことから今後も追跡調査を行ってい
く価値はあるものと考えらえる.
-32-
6-3
長期入院中の若年統合失調症者に対する個人
作業療法の取り組み
特定医療法人清仁会 のぞみの丘ホスピタル
奥谷直己
統合失調症 精神科作業療法 治療者患者関係
執拗に個人 OT の有無を確認することがこの時期みら
れ,終了の際には次回の予定を確認して伝えた.
2.知る・知られる時期 制作活動の中では「わか
らん,やって.
」と治療者に助けを求める機会が増え,
課題の解決方法は基本的に依存する形となり,治療
者は失敗しないような援助を行った.こうした関わ
りはしばらく続き,「1人じゃできなかった.」とい
う発言が聞かれるようになる.また突拍子もなく「僕
のこと嫌い?」
「話し方気に入らない?」ということ
が聞かれ,自身が行ったことに対しては「保護室入
れられん?」「怒られない?」という確認が増える.
治療者は一貫して支持的な態度で接した.個人 OT の
有無を確認することは少なくなった.
3.安定期 揺れ動くA氏との関わりを継続する中
で,治療者に依存するのみでなく言葉で攻撃的な感
情を表すこともみられるようになった.その言動に
対して不適応となるものは明確にそれを示して一貫
した関わりを保つようにした.キャッチボール等の
活動で以前は治療者の反応を試すようなボールを笑
いながら投げたりしていたが,
「思いっきり投げても
いい?やり返さない?」と確認し治療者に対して勢
いのある返球をする姿がみられるようになった.制
作場面では治療者の後追いとなるが「1人でやる.
」
と自立心が垣間見えるようになり,作業を通じて「楽
しい.
」と話される機会もみられるようになった.
【考察およびまとめ】
治療者が作業環境を整えたことによって治療的な枠
組みが明確となり,本人にとって予測されない刺激
から脆弱な自我が保護される結果となったと思われ
る.治療者はAさんに対して支持的・受容的な態度
を心がけて関わりを持つようにした.また毎回の終
了時には次回約束の取り決めをして治療者から治療
関係が恒常的にあることを伝えた.このことがAさ
んに安心感をもたらし, 本人が持つ漠然とした不安
(自身の言動に対する報復)によって過度の抑制さ
れた攻撃性が適切な形で発散される機会にもつなが
ったのではないかと思われる.
【はじめに】
今回,青年期に発症し長期入院中の統合失調症を持
った男性を担当した.山根によると自己内外の刺激
の区別がつきにくい混乱した状態にある人には,作
業や作業療法の環境をもちいて混乱から保護すると
しており,個人作業療法に関して作業療法士は気持
ちを少し開いても安全であることを示しながら関係
を作り,支持的な,ときには仮の自我の役割をとっ
て,他者との交わりの場へと移していくとしている.
実際の関わりを通して治療構造の重要性を感じ,約
2年間の経過をまとめたので報告する.なおこの報
告は当法人の倫理委員会において承認された.
【症例紹介】
A氏,20 歳台前半,男性,統合失調症.母親,弟と
3 人暮らし.中 2 のこの頃より弟への暴力,夜間の徘
徊,隣家に無断であがり込むなど奇異行動がみられ,
診察の結果,当院入院.その後も入退院を繰り返し,
現在 3 回目の入院中である.当初は主治医の話しか
けに対しても返事をしないことが多く,幻聴内容に
ついて詳細を語ることはなかった.病棟では自閉的
な生活であり,対人交流はなく,スタッフにタバコ
を要求する程度であった.一方で他患からタバコを
奪おうとしてトラブルが生じたり,異食もみられ保
護室での療養が続いた.現在は無断離院やタバコた
かり等の問題行動が続いている.作業療法は衝動の
発散を目的に依頼.個人作業療法(以下個人 OT)は
定期的な運動プログラムとして開始された.
【経過】
1.導入期 個人 OT 担当者変更に伴うオリエンテー
ションでは前担当者と行っていた外出に関する要望
が多く一貫性に欠き,次々と話されるという状況で
あった.本人の要望に応じる形で外出プログラムを
開始するが,プログラム中の言動はまとまりを欠き,
多弁,外部の刺激を過敏に受けるという状況が続い
た.関わりの方法を見直し改めるため,作業療法室
での制作活動を治療者より提案.作業内容は本人の
希望を聞きつつ,決定できないA氏に代わり治療者
が請け負う.A氏は受身的,従順な態度で応じる.
「煙
草吸いたい.」「何か(飲食物)ない?」という要求
が多く,また作業に対する耐久性は低く、始めても
すぐに手を止める.結果を予測立てていない短絡的
な行動も起こしやすく治療者は戸惑いつつも,受容
する態度を心がけ,作業は共に進めながら工程の主
要な部分を代行する.手洗いなど些細なことにも不
安をもらし,困惑した様子がみられたため援助する.
-33-
6-4
多職種で運営する服薬教室
―役割分担と運営の工夫―
特定医療法人清仁会 のぞみの丘ホスピタル
大下伸子
チーム医療
服薬
SST
はじめに
当院の精神科急性期治療病棟では回復状態に応じ
た適切な治療や支援を行うためにクリニカルパスを
作成運用している.平成 21 年 9 月からはクリニカル
パスと連動し多職種チームによる服薬教室(福島医
大版服薬モジュール)を開始した.SST の手法をベ
ースに行うこのプログラムで筆者はチームリーダー
を担っている.香山・野中らは多職種協働のチーム運
営について重要なことは,目標の共有と職種の違い
を尊重し役割を明確にする事と述べている.そこで、
目標を常に意識し各職種の特性を生かした役割分担
を心がけた.今回は 1 年の実施経過を,①役割分担
と運営の工夫②参加者の服薬に対する認識と行動の
変化 という視点から振り返る.この報告は当法人
倫理委員会において了承を得た.
服薬教室概要
1.目的 参加者の服薬認識と服薬行動の改善
2.対象 精神科急性期治療病棟に入院中の患者で初
めて精神科治療を受ける方,服薬中断や過量服薬
で再入院となった方を主とした.
3.導入時期 クリニカルパス退院準備期を目安に.
4.構造 1期間 6 回,4 名~7 名のクローズドグループ,
1回の学習時間は 1 時間程度,グループ運営は筆
者が進行(作業療法士),進行補助(精神保健福祉
士),薬の説明(薬剤師),参加者補助(看護師).
5.内容 福島医大版服薬モジュールを使用.ワーク
ブックとビデオ鑑賞,ロールプレイを実施する.
また事前事後に定型化された面接とテストを行な
い服薬に対する認識を評価する.
6.チーム 看護師・薬剤師・精神保健福祉士・作業
療法士による固定チーム.定期ミーティング実施.
調査対象と内容
平成 21 年 9 月~平成 21 年 7 月までに実施した 6 グ
ループの運営方法.この期間に参加した 31 名の参加
者の面接記録(事前面接事前テスト・事後面接事後
テスト)とプログラム終了後の服薬や治療状況.
結果
1.役割分担と運営の工夫
1)参加者選定方法 主治医・受け持ち看護師・病
棟看護チーム・多職種などの推薦・患者からの参
加希望を取り入れ選出.
2)参加者への説明と面接方法 看護師:受け持
ち看護師が服薬に対する認識と行動を評価.
3)プログラム運営の工夫
作業療法士:参加者の能力(理解力・注意や集
中・言語表現能力・集団活動への適応)をふま
えたグループワークや環境設定.
薬剤師:服薬に対する認識や理解の程度に合わ
せた説明方法の工夫.
看護師:参加者と共に参加し不安や緊張を緩和.
4)服薬教室での学習を療養生活に生かす
看護師:毎日の服薬チェックリスト記入援助と
反応観察.学習内容の強化と修正.
5)次の支援につなげる工夫
精神保健福祉士:退院後に参加者を支援する家
族や施設職員等にプログラム参加を促す.
チーム内外の情報収集と伝達.
6)広報 各種の実施報告 病院広報誌掲載
2.参加者の服薬に対する認識と行動の変化
1)服薬に対する認識 事前事後テスト実施 21 名
中 18 名で終了時に正答数増加.事前事後面接実
施者 23 名のうち服薬に対する認識が肯定的に
変化したのは 12 名.
2)服薬行動 プログラム終了後 6 ヶ月以上経過し
た 14 名のうち服薬行動が改善したのは 13 名.
(入院継続 1 名退院 11 名再入院1名)
考察
1.多職種間の役割分担
プログラム運営の工夫を作業療法士と薬剤師,参
加者を支え学習内容を療養生活に反映させる支援
を看護師,様々な連携を精神保健福祉士が担って
おり,各職種の特性を反映したものとなった.
2.全体的な運営の工夫
関与する職員の数を増やし・次の段階につなげ・
様々な場面で伝えるという工夫があった.看護師
は担当・受け持ち・チームと多くが関与した.
3.服薬教室実施の意義
服薬教室は,参加者の服薬に対する認識を面接や
テストといった指標で提供し服薬自己管理への道
筋をつける手段として利用価値があるといえる.
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第 14 回
岐阜県作業療法学会
運営委員会
学会長 須貝里幸
実行委員長 君垣義紀
事務局長 森義弘
運営局長 中根英喜
学術局長 片桐正博
財務局長 吉田美香
受付 藤本みどり
オブザーバー 寺本佳津明
黒田真里
廣瀬武
藤井稚也
石原裕子
和田由賀里
加藤麻子
廣瀬温子
藤田恵美
山口清明
小川冴香
田垣敦朗
後藤元久
枇杷田奈七
森智成
尾越大輔
伊藤由佳
加納知恵
清水秀一
下田祐也
三田村崇弘
若山智哉
大橋由加子
順不同 敬称略
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栗山彩
門脇真司
東灘エミ
石原基貴
寺倉恭子
鈴木志保
末村賢治
竹中陽生
水上智仁
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