2014 年 5 月 28 日 第 72 号 エコノミスト 佐藤 翔大 米国住宅市場は次第に回復へ <軟調な米住宅市場> 2013 年後半以降、米国の住宅市場は軟調に推移している。中古・新築の住宅販売が頭打ちと なっている他、住宅着工件数も「一戸建て」の伸びが鈍く、長期的な平均水準と比べて低位に 止まっている(図表 1、2)。こうした住宅市場の停滞を受けてイエレン FRB 議長は 5 月 7 日の 議会証言で、「このところの住宅市場における活動の停滞は、現在予想されているよりも長引 く可能性がある」とコメントし、米国経済の下振れリスク要因の一つに挙げた。 (図表1)中古・新築住宅販売 8 (図表2)住宅着工件数 (百万戸、年率) (百万戸、年率) 1.6 3.0 (百万戸、年率) 集合住宅 中古住宅販売件数(左) 6 1.2 4 0.8 2 0.4 2.5 2.0 06 07 08 09 1.0 0.5 新築住宅販売件数(右) 0 1.5 0 10 11 12 13 14 (資料)商務省、NAR 一戸建て 0.0 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 (資料)商務省 <住宅市場停滞の 3 要因> ①長期金利の上昇:2013 年年央以来、住宅ローン金利は長期国債利回りと共に上昇している (図表 3)。金利上昇が住宅購入コストを押し上げ、販売抑制要因になったと考えられる。 ②厳格な住宅ローン審査:景況感や金融環境の改善にも拘わらず、金融機関の住宅ローン向 け与信態度は厳格化しており、居住目的の住宅販売の重石となっている(図表 4)。銀行が住 宅ローン取扱に慎重な背景には今年 1 月からの住宅ローン規則強化(注、次頁)や、金融機関 によるローン関連訴訟の費用計上が指摘されている。 (図表3)米国長期金利と住宅ローン金利 6 (%) (図表4)融資担当者サーベイ(住宅ローン融資基準) 100 30年固定住宅ローン金利 (ネットパーセンテージ) 厳格化 非伝統型ローン 4 サブプライムローン 50 2 0 10年国債金利 0 10 11 (資料)MBA、ブルームバーグ 12 13 プライムローン 14 緩和 -50 07 08 09 10 11 12 13 14 (資料)FRB 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したものです。情報の 正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点における当社の判断に基づくもので、今後予 告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。 1 大和住銀投信投資顧問 エコノミストコラム (注)金融機関に借り手の返済能力を証明することを義務付けた。基準を満たした住宅ローンは「適格住 宅ローン」として認定され訴訟リスクが低減する一方、審査を行うための追加コストもかかる。また、 借り手の所得や資産に関する書類が不十分な場合や、返済負担が次第に重くなるような高リスクの ローン(いわゆるバルーン型返済等)に対しては、金融機関の法的責任が一層重くなる。 ③低価格物件の減少:中古住宅販売件数の価格帯別内訳を見ると、0-100 千ドルの低価格物 件の販売が大きく減少している他(図表 5)、ディストレス物件(差し押さえ物件や、銀行が住宅 ローン残高を下回る価格での売却に合意した物件など)が全体の販売に占める割合も低下し ている(2012 年 4 月:28%に対して、13 年 4 月:18%、14 年 4 月:15%、NAR)。この背景には 住宅ローン延滞率や差し押さえ率の低下に伴う低価格物件の供給減少があると考えられる (図表 6)。 (図表5)価格帯別の中古住宅販売件数 10 (図表6)住宅ローンの延滞率と差し押さえ率 (%、前年比、2014年4月) 12 (%) 延滞率 10 5 8 0 6 -5 4 -10 2 -15 (千ドル) 0-100 100-250 250-500 500-750 750-1000 差し押さえ率 0 1000- 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 (資料)NAR (資料)MBA <今後の見通し~3 つの制約のうち 2 つは緩和の動きも> 低価格物件の供給制約(③)は家計の信用状況改善を受けて継続する公算が大きい。 しかし、14 年初から長期金利(①)も低下に転じているなか、住宅ローン(②)にも足許で銀行 に対する規制緩和の動きが見られる。5 月 13 日には FHFA(米連邦住宅金融局)のワット局長 が連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)に販売した住 宅ローンの買戻し請求規則を緩和する意向を示した。借り手が当初 36 回の支払いのうち 34 回以上延滞がなければ銀行は住宅ローンの買戻しが免除されるというもので、従来は当初 3 年間を通じて滞納しない必要があった。上述した住宅ローン与信のボトルネックが全て解消さ れるわけではないものの、銀行の住宅ローンの買戻しリスクが軽減されるため、銀行の与信 スタンスが緩和する可能性がある。 加えて、米国の持続的な景気回復を背景として消費者の雇用判断が持ち直していることも住 宅販売を押し上げる要因となる。従って、相応の時間を要するものの、住宅市場は次第に回 復に向かうと見られる。(了) (図表7)消費者信頼感指数(雇用判断) (%) 60 「職を得るのが困難」(②) 40 「職が豊富」(①) 20 0 -20 ①-② -40 -60 06 07 08 09 10 11 12 13 14 (資料)カンファレンスボード 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したものです。情報の 正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点における当社の判断に基づくもので、今後予 告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。 2
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