Vol.053 _要素欠乏・過剰症の見分け方と対策

欠乏症と過剰症
要素欠乏・過剰症の見分け方と対策
植物の生育に必要不可欠な要素は、多量必須要素として炭素(C)、酸素(O)、水素
(H)、窒素(N)、リン(P)、カリ(K)、石灰(Ca)、苦土(Mg)、硫黄(S)、ケ
イ素(Si)が、微量必須要素として鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、亜鉛
(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、塩素(Cl)が知られている。作物が健全に
生育するためには、これらの必須元素が過不足なく、適当な時期に供給されなくてはなら
ない。たとえ一つの要素といえども少なすぎたり多すぎたりすると、生育が阻害され、作
物、要素、環境によりそれぞれ外観的に特徴のある欠乏症状、過剰症状を呈する。表1に
要素欠乏・過剰障害の一般的な症状を、表2には要素ごとの欠乏症状・過剰症状とその対
策を示した。
表1
要素欠乏・過剰障害の一般的な症状(原色生理障害の診断法)
症状
欠乏要素
過剰要素
上 位 葉 か ら ク ロ ロ シ ス 発 生 F e 、S 、( Z n 、C u )
C u 、Z n 、N i 、M n 、C d
下 位 葉 か ら ク ロ ロ シ ス 発 生 N 、K 、M g 、( P 、Z n 、M n 、C u )
B
上位葉の生長停止
B、Ca
大型の斑点症状
K
小型の斑点症状
-
Mn、Ni、P
葉の奇形、亀裂
Mo
茎の奇形、亀裂
B、Ca
葉縁から枯死
K
B、(P)
対策
葉面散布は、要素欠乏の対策として有効な手段であるが、栄養診断における判定結果が
正しいかどうかをテストするために利用すると、土壌施用よりも速効的に確認することが
できる。表3に葉面散布で一般に使用される試薬と濃度を示した。
表2
要素ごとの欠乏症状・過剰症状と対策
(原色
作物の要素欠乏・過剰症)
窒素
欠乏
過剰
症状
対策
症状
対策
○ 植 物 全 体 が 一 様 に 緑 ○ 尿素溶液を葉面散布 ○ 葉は濃緑色、軟弱となり、病 ○ 水 稲 で は 数 日 間 落 水 し 、
色を減じ、特にはの黄
する。
化が著しい。
害虫、冷害などの抵抗性が
土壌を乾燥させてから水
減少する。
をかけ流す。
○ 植 物 体 は 矮 小 に な っ ○ 窒素肥料を水に溶か ○ 葉の伸張、分げつの増加が ○ 作付け前に生わらや未熟
て、分げつが減少す
る。
して土壌施用する。
顕著で過繁茂となり、倒伏し
有機質などをすき込む。
やすい。
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欠乏
過剰
症状
対策
症状
対策
○ 根の発達、伸張が鈍化 ○ 窒 素 肥 料 を 施 用 す ○ 病害虫にかかりやすい。
する。
○ 窒素肥料を計画的に施用
る。
する。
○ 子 実 の 成 熟 が 早 く な ○ 堆きゅう肥を施用し、 ○ 出穂が遅延し、登熟不良の
り、収量が少なくなる。
地力を高めておく。
ため品質が低下する。
リン
欠乏
過剰
症状
対策
○ 欠乏症は一般に下葉 ○
症状
対策
りん酸二水素ナトリ ○ 過 剰症は きわめて発生しに
より発生し、上葉にお
ウム、りん酸二水
よぶ。
素アンモニウム、り
くい。
ん酸水素二アンモ
ニウムの溶液を葉
面散布する。
○ 葉の幅が狭くなり、茎 ○
や葉柄が紫色になる。
り ん 酸 肥 料 を 施 用 ○ 成熟が早くなり、減収する。
する。苦土も欠乏し
ている場合は苦土
肥料を併用する。
○ イネ科植物では分げつ ○
が少なく、開花、結実
土壌の酸性を矯正 ○ りん酸の過剰施用は亜鉛、
しておく。
鉄、苦土欠乏を誘発するこ
も悪くなる。
とがある。
○ 果実類は甘みが少なく ○
堆きゅう肥や腐植
なって、品質が落ちる。
質土壌改良資材を
施用し、りん酸の
固定を抑制する。
○ 根毛が粗大になり、発
育不良となる。
カリ
欠乏
過剰
症状
○ 加里は移動しやすいの ○
対策
症状
対策
硫 酸 カ リ ウ ム 、 塩 ○ 窒素と同じく過剰に吸収さ ○ 石灰質肥料、苦土肥料を
で、欠乏症は旧葉より
化カリウム溶液を
れやすいが、過剰症は発生
施用し、土壌の塩基バラ
発生する。
葉面散布する。
しにくい。
ンスを適正にしておく。
○ 旧葉の先端により黄化 ○
し、葉縁に広がってそ
加里肥料を施用す ○ 土 壌 中 の 加 里 の過 剰 は 苦 ○ 加里肥料を計画的に施用
る。
土や石灰の吸収を抑制し、
の部分が褐色に枯死
する。
これらの欠乏症を促進する。
する。
○ 新葉は暗褐色となっ ○
堆きゅう肥を施用
て、伸びが悪く小葉と
し、地力を高めて
なる。
おく。
○ 根の伸びが悪く、根腐
れが起きやすい。
○ 果実の肥大が衰え、
味、外観ともに悪くな
る。
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石灰
欠乏
過剰
症状
対策
症状
対策
○ 生 体 内 で 移 動 し に く い ○ 塩 化 カ ル シ ウ ム 、 硫 ○ 過剰症は発生しにくい。
○ 硫安、塩亜、硫酸加里、塩
ので、欠乏症は新葉か
酸カルシウムの溶液
化加里などの酸性肥料や
ら発生する。
を葉面散布する。
硫黄華を施用する。
○ 生 長 の 盛 ん な 若 い 葉 ○ 石 灰 肥 料 を 施 用 す ○ 石 灰 肥 料 の 過 剰 施 用 は 苦 ○ 土壌が乾燥するときは、マ
の先端が白化し、やが
る。
て褐色枯死する。
土、加里、りん酸の吸収を
ルチにより水分の蒸発を
抑制し、鉄、マンガン、ほう
抑える。
素、亜鉛などの欠乏症を誘
発することがある。
○ 根の表皮にコルク層が ○ 土 壌 水 分 が 過 不 足
でき、根が短く太くな
○ 輪作作物としてアルファル
の無いようにかん水
る。
ファ、インゲン、トマト、サ
を行い、窒素肥料、
ツマイモなどを栽培し、石
加里肥料の施用を控
灰を吸収させる。
える。
○ 子実の成熟が妨げら
○ 土壌のアルカリ性を矯正し
れる(トマトの尻腐れ、
ておく。
セルリー・ハクサイの
芯腐れ)。
○ 堆きゅう肥を施用して、土
壌の緩衝作用を高めてお
くようにしておく。
苦土
欠乏
過剰
症状
対策
症状
対策
○ 葉緑素の形成が阻害 ○ 硫酸マグネシウム溶 ○ 土壌中の苦土/石灰比が ○ 塩化カルシウム、硫酸カ
され、葉脈間がイネ科
液を葉面散布する。
植物では筋状に、広葉
高いと、作物の生育障害が
ルシウムの溶液を葉面散
起きやすい。
布する。
植物では網目状に黄
化する。
○ 加里肥料を過剰施用 ○ 苦 土 肥料 を施用す
すると苦土欠乏が発生
る。
○ 土壌pHが低い場合には
石灰質肥料を施用する。
しやすくなる。
○ 果実付近の葉に欠乏 ○ 土壌中の加里過剰
が出やすい。
やりん酸欠乏を矯正
する。
○ 土壌の酸性を矯正し
ておく。
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表3
素
要
窒素
葉面散布の標準試薬と使用濃度(原色 生理障害の診断法)
標
準
試
薬
対象作物
使用濃度 (%)
尿素
C O (N H 2) 2
イネ、ムギ
1.0~2.0
トマト
0.75
セルリー
1
野菜一般
1.0~2.0
(野菜一般幼苗)
-0.5
クワ
0.5~1.0
チャ
0.5~0.6
0.5(6~8月)
リンゴ
0.8(9月)
1.0(11~12月)
リン酸二水素ナトリウム
リン
N a H 2P O 4
リン酸二水素アンモニウム
リン酸水素二アンモニウム
N H 4H 2P O 4
イネ
1.0~2.0
各種作物
0.5~1.0
イネ
1.0~2.0
(N H 4)2H P O 4
カリ
硫酸カリウム
K 2S O 4
KCl
各種作物
0.3~1.0
石灰
塩化カルシウム
CaCl2
各種作物
0.3~1.2
硫酸カルシウム
CaSO4
イネ
0.5~1.0
塩化カリウム
苦土
硫酸マグネシウム
硫酸第一鉄
鉄
M g S O 4・ 7 H 2O
野菜
2
果樹
2.0~4.0
各種作物
0 . 1 ~ 0 . 3 (1 . 0 ~ 2 . 0 )
イネ、ムギ
0.5~1.0
野菜
0.3
果樹
0.25(5~6月)
F e S O 4・ 7 H 2O
硫酸第二鉄
F e 2(S O 4)3
キレート鉄
マンガン
硫酸マンガン
M n S O 4・ 5 H 2O
1.5(3月)
ホウ砂
N a 2B 4O 7・ 10H 2O
ホウ素
ホウ酸
硫酸亜鉛
亜鉛
銅
H 3B O 3
Z n S O 4・ 7 H 2O
セルリー
0.3~0.4
ナタネ
1
ナシ
0.06~0.12
ブドウ、一般果樹
0.1~0.3
野菜
0.1~0.2
酸化亜鉛
ZnO
リンゴ
0.3
硫化亜鉛
ZnO
一般果樹
3 . 0 (芽 の 膨 ら む 前 )
一般作物
0.01~0.1
硫酸銅
C u S O 4・ 5 H 2O
(同量の消石灰加用)
果樹
0.5~0.1
(同量の消石灰加用)
モリブデン
モリブデン酸アンモニウム
モリブデン酸ナトリウム
(N H 4)M o 7O 24・ 4 H 2O
N a 2M o O 4・ 2 H 2O
各種作物
0.01~0.05
(苗床は0.07)
参考:http://www.aic.pref.gunma.jp/hiryou/
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