欠乏症と過剰症 要素欠乏・過剰症の見分け方と対策 植物の生育に必要不可欠な要素は、多量必須要素として炭素(C)、酸素(O)、水素 (H)、窒素(N)、リン(P)、カリ(K)、石灰(Ca)、苦土(Mg)、硫黄(S)、ケ イ素(Si)が、微量必須要素として鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、亜鉛 (Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、塩素(Cl)が知られている。作物が健全に 生育するためには、これらの必須元素が過不足なく、適当な時期に供給されなくてはなら ない。たとえ一つの要素といえども少なすぎたり多すぎたりすると、生育が阻害され、作 物、要素、環境によりそれぞれ外観的に特徴のある欠乏症状、過剰症状を呈する。表1に 要素欠乏・過剰障害の一般的な症状を、表2には要素ごとの欠乏症状・過剰症状とその対 策を示した。 表1 要素欠乏・過剰障害の一般的な症状(原色生理障害の診断法) 症状 欠乏要素 過剰要素 上 位 葉 か ら ク ロ ロ シ ス 発 生 F e 、S 、( Z n 、C u ) C u 、Z n 、N i 、M n 、C d 下 位 葉 か ら ク ロ ロ シ ス 発 生 N 、K 、M g 、( P 、Z n 、M n 、C u ) B 上位葉の生長停止 B、Ca 大型の斑点症状 K 小型の斑点症状 - Mn、Ni、P 葉の奇形、亀裂 Mo 茎の奇形、亀裂 B、Ca 葉縁から枯死 K B、(P) 対策 葉面散布は、要素欠乏の対策として有効な手段であるが、栄養診断における判定結果が 正しいかどうかをテストするために利用すると、土壌施用よりも速効的に確認することが できる。表3に葉面散布で一般に使用される試薬と濃度を示した。 表2 要素ごとの欠乏症状・過剰症状と対策 (原色 作物の要素欠乏・過剰症) 窒素 欠乏 過剰 症状 対策 症状 対策 ○ 植 物 全 体 が 一 様 に 緑 ○ 尿素溶液を葉面散布 ○ 葉は濃緑色、軟弱となり、病 ○ 水 稲 で は 数 日 間 落 水 し 、 色を減じ、特にはの黄 する。 化が著しい。 害虫、冷害などの抵抗性が 土壌を乾燥させてから水 減少する。 をかけ流す。 ○ 植 物 体 は 矮 小 に な っ ○ 窒素肥料を水に溶か ○ 葉の伸張、分げつの増加が ○ 作付け前に生わらや未熟 て、分げつが減少す る。 して土壌施用する。 顕著で過繁茂となり、倒伏し 有機質などをすき込む。 やすい。 Vol.053_要素欠乏 ・過剰症の 見分け方と 対策.jtd 欠乏 過剰 症状 対策 症状 対策 ○ 根の発達、伸張が鈍化 ○ 窒 素 肥 料 を 施 用 す ○ 病害虫にかかりやすい。 する。 ○ 窒素肥料を計画的に施用 る。 する。 ○ 子 実 の 成 熟 が 早 く な ○ 堆きゅう肥を施用し、 ○ 出穂が遅延し、登熟不良の り、収量が少なくなる。 地力を高めておく。 ため品質が低下する。 リン 欠乏 過剰 症状 対策 ○ 欠乏症は一般に下葉 ○ 症状 対策 りん酸二水素ナトリ ○ 過 剰症は きわめて発生しに より発生し、上葉にお ウム、りん酸二水 よぶ。 素アンモニウム、り くい。 ん酸水素二アンモ ニウムの溶液を葉 面散布する。 ○ 葉の幅が狭くなり、茎 ○ や葉柄が紫色になる。 り ん 酸 肥 料 を 施 用 ○ 成熟が早くなり、減収する。 する。苦土も欠乏し ている場合は苦土 肥料を併用する。 ○ イネ科植物では分げつ ○ が少なく、開花、結実 土壌の酸性を矯正 ○ りん酸の過剰施用は亜鉛、 しておく。 鉄、苦土欠乏を誘発するこ も悪くなる。 とがある。 ○ 果実類は甘みが少なく ○ 堆きゅう肥や腐植 なって、品質が落ちる。 質土壌改良資材を 施用し、りん酸の 固定を抑制する。 ○ 根毛が粗大になり、発 育不良となる。 カリ 欠乏 過剰 症状 ○ 加里は移動しやすいの ○ 対策 症状 対策 硫 酸 カ リ ウ ム 、 塩 ○ 窒素と同じく過剰に吸収さ ○ 石灰質肥料、苦土肥料を で、欠乏症は旧葉より 化カリウム溶液を れやすいが、過剰症は発生 施用し、土壌の塩基バラ 発生する。 葉面散布する。 しにくい。 ンスを適正にしておく。 ○ 旧葉の先端により黄化 ○ し、葉縁に広がってそ 加里肥料を施用す ○ 土 壌 中 の 加 里 の過 剰 は 苦 ○ 加里肥料を計画的に施用 る。 土や石灰の吸収を抑制し、 の部分が褐色に枯死 する。 これらの欠乏症を促進する。 する。 ○ 新葉は暗褐色となっ ○ 堆きゅう肥を施用 て、伸びが悪く小葉と し、地力を高めて なる。 おく。 ○ 根の伸びが悪く、根腐 れが起きやすい。 ○ 果実の肥大が衰え、 味、外観ともに悪くな る。 Vol.053_要素欠乏 ・過剰症の 見分け方と 対策.jtd 石灰 欠乏 過剰 症状 対策 症状 対策 ○ 生 体 内 で 移 動 し に く い ○ 塩 化 カ ル シ ウ ム 、 硫 ○ 過剰症は発生しにくい。 ○ 硫安、塩亜、硫酸加里、塩 ので、欠乏症は新葉か 酸カルシウムの溶液 化加里などの酸性肥料や ら発生する。 を葉面散布する。 硫黄華を施用する。 ○ 生 長 の 盛 ん な 若 い 葉 ○ 石 灰 肥 料 を 施 用 す ○ 石 灰 肥 料 の 過 剰 施 用 は 苦 ○ 土壌が乾燥するときは、マ の先端が白化し、やが る。 て褐色枯死する。 土、加里、りん酸の吸収を ルチにより水分の蒸発を 抑制し、鉄、マンガン、ほう 抑える。 素、亜鉛などの欠乏症を誘 発することがある。 ○ 根の表皮にコルク層が ○ 土 壌 水 分 が 過 不 足 でき、根が短く太くな ○ 輪作作物としてアルファル の無いようにかん水 る。 ファ、インゲン、トマト、サ を行い、窒素肥料、 ツマイモなどを栽培し、石 加里肥料の施用を控 灰を吸収させる。 える。 ○ 子実の成熟が妨げら ○ 土壌のアルカリ性を矯正し れる(トマトの尻腐れ、 ておく。 セルリー・ハクサイの 芯腐れ)。 ○ 堆きゅう肥を施用して、土 壌の緩衝作用を高めてお くようにしておく。 苦土 欠乏 過剰 症状 対策 症状 対策 ○ 葉緑素の形成が阻害 ○ 硫酸マグネシウム溶 ○ 土壌中の苦土/石灰比が ○ 塩化カルシウム、硫酸カ され、葉脈間がイネ科 液を葉面散布する。 植物では筋状に、広葉 高いと、作物の生育障害が ルシウムの溶液を葉面散 起きやすい。 布する。 植物では網目状に黄 化する。 ○ 加里肥料を過剰施用 ○ 苦 土 肥料 を施用す すると苦土欠乏が発生 る。 ○ 土壌pHが低い場合には 石灰質肥料を施用する。 しやすくなる。 ○ 果実付近の葉に欠乏 ○ 土壌中の加里過剰 が出やすい。 やりん酸欠乏を矯正 する。 ○ 土壌の酸性を矯正し ておく。 Vol.053_要素欠乏 ・過剰症の 見分け方と 対策.jtd 表3 素 要 窒素 葉面散布の標準試薬と使用濃度(原色 生理障害の診断法) 標 準 試 薬 対象作物 使用濃度 (%) 尿素 C O (N H 2) 2 イネ、ムギ 1.0~2.0 トマト 0.75 セルリー 1 野菜一般 1.0~2.0 (野菜一般幼苗) -0.5 クワ 0.5~1.0 チャ 0.5~0.6 0.5(6~8月) リンゴ 0.8(9月) 1.0(11~12月) リン酸二水素ナトリウム リン N a H 2P O 4 リン酸二水素アンモニウム リン酸水素二アンモニウム N H 4H 2P O 4 イネ 1.0~2.0 各種作物 0.5~1.0 イネ 1.0~2.0 (N H 4)2H P O 4 カリ 硫酸カリウム K 2S O 4 KCl 各種作物 0.3~1.0 石灰 塩化カルシウム CaCl2 各種作物 0.3~1.2 硫酸カルシウム CaSO4 イネ 0.5~1.0 塩化カリウム 苦土 硫酸マグネシウム 硫酸第一鉄 鉄 M g S O 4・ 7 H 2O 野菜 2 果樹 2.0~4.0 各種作物 0 . 1 ~ 0 . 3 (1 . 0 ~ 2 . 0 ) イネ、ムギ 0.5~1.0 野菜 0.3 果樹 0.25(5~6月) F e S O 4・ 7 H 2O 硫酸第二鉄 F e 2(S O 4)3 キレート鉄 マンガン 硫酸マンガン M n S O 4・ 5 H 2O 1.5(3月) ホウ砂 N a 2B 4O 7・ 10H 2O ホウ素 ホウ酸 硫酸亜鉛 亜鉛 銅 H 3B O 3 Z n S O 4・ 7 H 2O セルリー 0.3~0.4 ナタネ 1 ナシ 0.06~0.12 ブドウ、一般果樹 0.1~0.3 野菜 0.1~0.2 酸化亜鉛 ZnO リンゴ 0.3 硫化亜鉛 ZnO 一般果樹 3 . 0 (芽 の 膨 ら む 前 ) 一般作物 0.01~0.1 硫酸銅 C u S O 4・ 5 H 2O (同量の消石灰加用) 果樹 0.5~0.1 (同量の消石灰加用) モリブデン モリブデン酸アンモニウム モリブデン酸ナトリウム (N H 4)M o 7O 24・ 4 H 2O N a 2M o O 4・ 2 H 2O 各種作物 0.01~0.05 (苗床は0.07) 参考:http://www.aic.pref.gunma.jp/hiryou/ Vol.053_要素欠乏 ・過剰症の 見分け方と 対策.jtd
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