地方財政学:第 6 回 地方税

Local Public Finance.Lec06
Reitaku-University
地方財政学:第 6 回 地方税
http://www.mof.go.jp/singikai/zeicho/tosin/zeichof/z003.htm
清水千弘(Chihiro SHIMIZU)
本日の学習目標
・ 租税原則を理解する
・ 租税体系を理解する
1.租税原則
現代の租税の3原則
・公平性
・効率性(中立性)
・簡素(徴税と納税協力費の最小化)
税制諮問会議
効率性(中立性)→活力
地方税原則
■地方税固有の原則
(1)収入を十分にあげる税であること(十分性)
(2)すべての地方団体が普遍的に収入をあげる税であること(普遍性)
(3)毎年安定的に収入をあげる税であること(安定性)
(4)行政経費の増加に対応する収入をあげる税であること(伸長性)
(5)地方税収入を地方団体が自主的に増減できるような税であること(伸縮性)
(6)住民が必要な行政経費を負担し合うような税であること(負担分任性)
(7)住民が受益に応じて負担する税であること(応益性)
課税の公平性
(1) 利益説による負担の公平/リンダール均衡
(2) 課税の公平性/応益原則
各個人が享受する公共財の受益に応じて税負担を配分問題点:フリーライダーの発生
受益と負担の関係が明確な道路目的財源のガソリン税など一部の税
応能原則
支払い能力に応じて税負担を配分
a.水平的公平(horizontal equity)
「等しい経済力を持つ人々の等しい取扱い」
所得・消費・効用
b.垂直的公平(vertical equity)
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「異なる経済力を持つ人々の異なる取扱い」
累進課税の根拠
→犠牲説(sacrifice theory)
税負担から生じる犠牲(マイナスの効用)を個人間で均等にする
均等絶対犠牲
税負担による犠牲の絶対量を均等にする均等比例犠牲
所得の総効用に対する犠牲の割合を均等にする均等限界犠牲(最小犠牲説)
限界的な犠牲を個人間で均等にすればよい,税負担による犠牲の最小化
能力説の前提
1.税制の中立性
税制は所得に対して何等の影響を与えず中立的である
2.効用の所得依存性と所得の限界効用の逓減
各家計の効用関数は所得にのみ依存し,所得の限界効用は正で逓減する
3.選好の同一性
各家計の効用関数は同一である
4.功利主義的な社会的価値観
すべての家計は社会的価値判断において同等に評価される
疑問点
*各家計の所得稼得意欲への影響(効用は所得にのみ依存,労働供給の問題)
→効率性の問題を無視
2.課税の効率性
課税の効率性
課税の超過負担(excess burden):死重損失(deadweight loss)
「死荷重」
(deadweight
loss)とは,課税によって生じる総余剰の減少
と定義されています.
<課税の市場参加者への影響>
税への課税の影響は,財の買い手と売り手のどちらに税が課税されるかに無関係である.
すなわち,
買い手から徴収する場合:需要曲線が税の大きさだけ下方シフトする.
売り手から徴収する場合:供給曲線が税の大きさだけ上方シフトする.
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いずれの場合も,買い手が支払う価格は上昇し,売り手が受け取る価格は下落する.
結局,税がどのように課されても,税の負担を買い手と売り手の両方で分け合うことを
下の図で示しています.ここでは,便宜上,両曲線はシフトさせていない.
価格
供給
|
|
/
\
/
買い手の
|
\A
支払価格
|‐‐‐‐‐\
/
/
|
|\
|
|
税がないと|
|
きの価格
/
\
/
\
/
|‐‐‐‐‐‐‐‐‐\E
|
|
|
|
|
|/
|
売り手の
|‐‐‐‐‐/B
|
受取価格
|
|
|
/|
/
|
/|\
/
|
|
|
|
|
\
\
\
\
需要
\
|―――――――――――――――――――――――
0
税有り
税抜き
数量
この図は,税が買い手が支払う価格と売り手が受け取る価格の間に「くさび」を打ち
込み,財の販売量が減少することを示しています.ここでは,AB間の距離は,
「税の大き
さ」を示しています.
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(政府の税収)
上の図において,AB間の距離で示される「税の大きさ」をT,税有りの場合の販売
数量をQとすれば,政府の税収は,T×Qで示されます.
価格
供給
|
/
|
\
/
買い手の
|
\A
支払価格
|‐‐‐‐‐\
|
|
/
|\
税
収
|
|
/
|
|
\
/
\
/
|
\E
|
|
/|\
|
|
|
|/
|
売り手の
|‐‐‐‐‐/B
|
受取価格
|
|
|
T×Q
/
/|
/
|
/
|
|
|
|
|
\
\
\
\
需要
\
|―――――――――――――――――――――――
0
税有り
税抜き
数量
Q
<課税が厚生にどのような影響を及ぼすのか>
今度は,消費者余剰と生産者余剰,そして総余剰が課税によってどのように変化する
のか概観してみよう.
簡単に結論だけ記載します.ゆっくりと下の図の検証をしてみてください.
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価格
供給
|
/
|
\
A
/
買い手の
|
\
支払価格
|‐‐‐‐‐\
|
|
/
|\
B
|
税がないと|
きの価格
/
|C
/
\
/
\
/
|‐‐‐‐‐‐‐‐‐\
|
|
|
D
|
/|\
|E/
|
|/
|
売り手の
|‐‐‐‐‐/
|
受取価格
|
|
F
|
/|
/
|
|
|
|
|
\
\
\
\
需要
\
|―――――――――――――――――――――――
0
税有り
税抜き
数量
(税がないとき)
消費者余剰:A+B+C
生産者余剰:D+E+F
税
総
収:なし
余
剰:A+B+C+D+E+F
(税があるとき)
消費者余剰:A
生産者余剰:F
税
総
収:B+D
余
剰:A+B+D+F
*ここで得られる結論は,課税によって消費者余剰などの厚生が減少してしまうと
いうことです.それぞれの変化分をまとめると以下のようになります.
消費者余剰:-(B+C)
生産者余剰:-(D+E)
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税
総
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収:+(B+D)
余
剰:-(C+E)
*ここで得られる総余剰の減少分の(C+E)の部分のことを特に,「死荷重」と
呼びます.
最適課税論
「次善(セカンドベスト)」の最適課税論
1927 年
逆弾力性命題
ラムゼー
ラムゼールール
需要の価格弾力性の高い財(奢侈品)に軽課,
需要価格弾力性の低い財(必需品)に重課
↓
超過負担の最小化
政府の規制等がない完全競争市場の下で、社会的余剰は最大される、つまり
市場は効率的である。しかし、政府は公共サ-ビスを行うために、国民から税
を徴収する。その課税が効率にどのような影響を与えるか。
1. 課税による厚生損失
税は直接税と間接税に大別されるが、今回取り上げるのは間接税である。そ
の間接税である物品税には従量税と従価税がある。前者は酒やタバコのように
一単位につき t 円と税額が決められている税である。後者は消費税のように、価
格にある割合の税率が決められている税である。これらの課税が社会的余剰に
与える影響は基本的に同じであるので、ここでは従量税で説明することにする。
図表 1 には、需要曲線 D と供給曲線 S が簡単化のために直線で描かれている。
完全競争市場の下では、需給均衡点は c となるので、前回の述べたように、消
費者余剰は△acg、生産者余剰は△gce となり、社会的余剰はその合計で、
(1) △ace=△acg+△gce
となる。
次に一単位につき t 円という従量税が課され、この納税義務が生産者に負わ
された場合を考えてみよう。このとき、生産者はその税額 t 円を上乗せして販売
するので、供給曲線 S は t 円分だけ上方にシフトする。その曲線が S’である。
このとき、需給均衡点は b となるので、消費者の支払い金額は四辺形 hbq0 の面
積に表される。よって、消費者余剰は△abh に減少する。
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長さ bd は t 円を表しているので、四辺形 hbdf の面積が消費者が支払った税
額で、それは生産者が政府に納めなければならないので、生産者余剰も△fde に
減少する。ただし、この徴収された税は、国民の厚生のために使用されること
になるので、この場合の社会的余剰(社会的厚生)は、
(2) △abde=△abh+△fde +▭hbdf=△ace-△bcd
と税額も含めたものになるが、完全競争のときより△bcd だけ減少することにな
る(注:課税問題は平成 13 年度試験問題)。
この減少は課税額がすべて国民に還元されたとしても、課税は本質的には価
格の上昇になるので、完全競争の場合の生産量 r よりも減少するからである。
効率性の観点からすれば、この厚生損失(死荷重)を出来るだけ少なくする課税方
法が望ましいということになる。この点を次にみてみることにしよう。
[図表 1] 課税による厚生損失
厚生損失と価格弾力性
図表 1 には実線で描かれ需要曲線 D より、より傾きの小さな破線の需要曲線
D’が描かれているが、今度は、この破線の需要曲線 D’を用いて説明する。この
破線 D’と課税前の供給曲線 S の交点は c’で、課税後の供給曲線 S’との交点は b
である。よって、この場合の厚生損失の大きさは△bc’d の面積に表される。こ
れに対して、傾きの大きい実線の需要曲線 D のほうの厚生損失は△bcd である
ので、傾きの大きい需要曲線 D のほうの厚生損失が小さいことがわかる。
ところで、より傾きの大きい需要曲線は、図表からもわかるように、大きな
値上げに対して需要量を大きく減少させない。これは需要の価格弾力性が小さ
いことを意味している。これより、次のような結論が得られる。
(3) 需要の価格弾力性が小さい(大きい)ほど、
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課税による厚生損失は小さい(大きい)
なお、需要の価格弾力性が大きい場合には、カッコ内に示したように、逆のこ
とがいえることはいうまでもない。
この結論は、供給の価格弾力性についても同じことがいえる。つまり、
(4) 供給の価格弾力性が小さい(大きい)ほど、
課税による厚生損失は小さい(大きい)
これについては読者自らが、傾きの異なる供給曲線を描いて確認されたい。
税負担と価格弾力性
すでに明らかにされたように、物品税は生産者に納税義務があるが、その税
額は価格に上乗せされるので、実際には消費者が税の全額を負担している。し
かし、余剰の減少、つまり儲け損なったという観点からすると、生産者もその
負担の一部を負っているのである。そこで、その負担の意味と、消費者と生産
者の負担比率を考えてみることにしよう。
この説明のために再び実線の需要曲線 D を取り上げる。前に述べたように、
図表 1 の実線 D と課税前の供給曲線 S の需給均衡点は c で、課税後のそれは b
点である。よって、課税前の消費者は価格 g の下で、r だけ需要できたのが、課
税後はより高い価格 h で、q だけしか需要できない。この課税による損失を消費
者余剰で表現すれば、台形 hbcg の面積になる。ただし、消費者余剰が税に生か
される部分は、そのうちの四辺形 hbkgで、残りの△bck は死荷重となっている。
企業の側からみれば、課税前の価格は g で、r だけ供給できたものが、課税
後は安い価格 f で、q だけしか供給できていない。この課税による損失を生産者
余剰で測れば、台形 gcdf となる。ただし、その損失のうち四辺形 gkdf が税とし
て生かされていると考えられるが、残りの△kcd は死荷重となっている。
このように税負担のために余剰を失ったという観点からすれば、消費者の税
負担は gh×gk の面積で、生産者のそれは fg×gk となる。そこで、この両者の
税負担比率を求めれば、gk は両方に共通しているので、以下のように示される。
(5)
消費者税負担 gh

生産者税負担 fg
これは長さ hf を分割する g の位置が h 側に近ければ、消費者の税負担が相対的
に軽くなることを意味している。逆の場合は逆になることはいうまでもない。
もし需要の価格弾力性が大きい需要曲線、図表 1 でいえば傾きの小さい需要
曲線 D’(破線)であれば、課税前の需給均衡点は c’であるので、g 点は図に示され
た位置よりもう少し上の g’になり、h 側に近寄る。これは需要曲線の傾きが小さ
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い、つまり需要の価格弾力性が大きい場合は、消費者の税負担が相対的に軽く
なることを意味している。このことより(5)式は、次のように示される(これは数
学的に証明されているが、ここでは省略する)。
消費者税負担 需要曲線の傾きの大きさ 供給の価格弾力性
(6) 生産者税負担 = 供給曲線の傾きの大きさ = 需要の価格弾力性
この式の意味するところを、供給の価格弾力性を所与の下で述べておこう。
課税によって実質的値上げになった場合、需要の価格弾力性が大きければ、消
費者は需要量を大きく減らすので、その結果生産者余剰が大きく落ち込む。よ
って、消費者余剰の減少が相対的に小さくなるのである。逆に需要の価格弾力
性が小さければ、値段が上がっても消費者は需要量を減らすことができない。
よって、生産者側の打撃は少ないが、消費者側はその値上げの影響をもろに受
けることになるので、消費者余剰は大きく減少することになる。
以上より、次のことがいえる。効率性の観点からすれば、厚生損失が小さい
ほうが望ましい。そのためには、(3)より需要の価格弾力性が小さい商品に課税
すればよいことになる。それは(6)式より、消費者のほうに税負担を強いること
になる。また需要の価格弾力性が小さいものは、一般的に必需品が多い。必需
品の実質的値上げは、所得の低い人の税負担感を強めることになる。ここに効
率と公正のジレンマがある。
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