こころとからだ - 半蔵門心療クリニック

創刊号
こころとからだ
2009 年 1 月 6 日発行
半蔵門心療クリニックたより
こころとからだ
2009 年 1 月
創刊号
http://www.hanzomon-m-clinic.jp/index.html
<ごあいさつ>
平成 20 年 4 月 1 日、東京都千代田区麹町、東京メトロ半蔵門駅より徒歩一分のところに半蔵門心療クリ
ニックを開院いたしました。医師は平澤伸一・戸田麻里の 2 人体制で診療をしています。心療内科、神経精
神科、メンタルヘルスコンサルトを中心にした専門クリニックです。医療部門だけでなく臨床心理士 4 名に
よるカウンセリング、心理検査、さらには心の健康のスクリーニングやコンサルティングなどの臨床心理部
門にも力を入れております。
この度、企業のメンタルヘルスをサポートする「半蔵門心療クリニックたより」の創刊号を発刊すること
になりました。今後、メンタルヘルスに役立つ情報や、クリニックの紹介など、当院を利用する方々のため
の情報を年 6 回位、発信していく予定でおります。ご意見・ご投稿などお待ちしております。
こころとからだの悪循環
のにあるだけの力を振り絞ってクーン、クー
―パニック発作を例として―
ンとまるで泣いているようでした。それを聞
医師
平澤
伸一
いた僕は、思わず弁天ちゃんは死ぬんじゃな
いかと思いました。そのとき急に心臓がバク
外来である方が話された体験です。パニッ
バク超ハイスピードで打ち始め、今にも心肺
ク発作のことを説明するのにちょうどいいと
停止になるんじゃないかと思うほど激しい鼓
思い記事にする許可を得ました。彼はいつも
動が胸を衝きあげ止まらなくなりました」と。
五匹の飼い猫のことを話してゆかれるのです。
このようにきっかけがあることも、またない
そのうちの一匹、飼いはじめて7年になる
こともありますが、急襲する強い不安の発作
愛猫「弁天ちゃん」は腎臓の病気で明日とも
を最近はパニック発作と呼んでいます。たと
しれない命という哀れな状態で看病を受けて
えば精神医学で一番多く使われているDSM
いました。さて「一昨日の夜、その弁天ちゃ
-Ⅳという診断基準があげている特徴によっ
んが、まるでよその猫が迎えにでも来ている
てその典型的な状態をえがくことができます。
かのように、窓に向かってうつろな目を見開
早鐘のように動悸がし、息を吸っても吸って
いて、これまで聞いたことのない切ない声を
も胸苦しさがとれず、窒息の恐怖からますま
発したんです。体力など残っていないはずな
す荒く息を吸う過呼吸状態になります。手足
1
のしびれ、冷感や熱感、全身の脂汗、体の震
スパイラルが回り始めるのです。命への危険
え、そしてときには胸の痛みや不快感、吐き
はまずないのですが、これが始まるとパニッ
気まで加わってきます。めまい、ふらつき、
ク状態から抜け出すことはなかなか困難にな
頭までが軽くなるように感じられ、気が遠く
ります。ときにはその不快な恐怖感が記憶に
なることもあります。そのまま死んでしまう
深く刻まれて、つぎの発作をおこしやすくす
のではないかという恐怖感や死の不安、自分
ることがあります。
が自分でなくなって正気をなくしてしまうか
心身連関と意識
のような不安から救急車を呼ぶ人も少なくあ
パニック発作
りません。よく観察する人は、現実から実在
自我(意識・意志)
感がうすれ、自分自身にも確かさが感じられ
不安の汎化
生活の神経症化
なくなったと報告されます。
器官
心
機能失調
さてすべての場合がこうなるわけではあり
ません。ごく軽い程度のものから典型的なも
予期不安
自己暗示的心身悪循環
のまでさまざまな程度で起こるものです。わ
たしはこれを急性自律神経失調状態の一種と
リラックス状態を生み出すことがうまい人
考えているのですが、しかし同時にそこには
では、おそらくこのような急性自律神経失調
意識やこころが微妙に関与しているのです。
症状は起こらないことでしょう。リラクゼー
自律神経系は意識や心と深く関係していて、
ションは心身間の悪循環現象を断ち切るから
たがいに影響し合っているのです。からだか
です。しかし、なかなかそうはゆきません。
らの一方向的な異常のようにみえるパニック
マスコミなどでパニック障害や社会不安障害
状態も、よくよく見るとその前兆としてここ
などに関する啓蒙記事を見るにつけ、ストレ
ろとからだとのあいだで微妙な相互作用、対
スや緊張が日常にこれほど蔓延しているのに、
話、誘導、あるいは自己暗示というような現
それをときほぐしてくれるチャンスが異常な
象が前駆してはじまっていることが多いはず
ほど少ないこのような時代は歴史上めずらし
です。からだの機能である自律神経系は、生
いのではないかとさえ思われてきます。
体機能を維持するためにはたらいている(生
われわれのクリニックでもパニック障害
理機能)とともに、目に見えないこころを目
(自分を襲うパニック発作を中心とした種々
に見える現象にする媒体としてもはたらいて
の不安)や社会不安障害(他人に注目される
います(表現機能)。たとえば悲しみが涙や表
のを感じることから生じる不安)についても
情の変化となって現象し、目に見えるものに
診療しています。薬物治療はきわめて強力な
なるようにです。自分の不安や緊張のひそか
対処法の一つです。それとならんでこころ(意
な感情が自律神経系の表現機能によって自分
識と無意識)がもつひそかな傾向に対しても
の目にも見えるようになったとき、その不快
手だてが必要になることもあります。そのと
な身体症状(動悸や窒息感)は死の不安を誘
きには、上でふれたように自己暗示的な心身
導してもっとはげしいこころの動揺をひきお
間の悪循環にいかに早期に気づき、断つかと
こします。こうして心身のあいだで悪循環の
いうことが大切になるのです。
2
さ ん は、
「 大丈 夫
<カウンセラー室より>
だ か ら 、急い で 」
当 院 に 所属の カ ウ ンセラ ー が こころ の 理 解
というメッセー
を テ ーマ に連 載 して いき ま す。
ジを送りたかっ
た。でも、気持
「 他者理解」
ち が すれ 違っ て 、こ とば の 裏に ある 気 持ち が宙
“ こ とば の裏 に ある “こ こ ろ”
に 浮 いて しま っ た。こう い うこ とは よ くあ るこ
先 日 コンビ ニ で、2歳 く らい の男 の 子が お母
と で すし 、現 実(「急 がな け れば なら な い」)に
さんと買い物をしているところを見かけまし
従 わ なけ れば な らず 、気 持 ちを しま っ てお かな
た 。 お 母 さ ん は 、 と て も 急 い で い
け れ ばい けな い こと は多 く ある と思 い ます 。け
る よ うで、ど ん どん 先に 行 って しま い ます。男
れ ど も、この よ うな すれ 違 いが 重な っ てい くと 、
こ こ ろは 大き な ダメ ージ を 受け ます 。
の子は急いで温かいペット
ボ ト ルの 飲み 物 を選 んで 、両
相手のことばの裏にどういう気持ちが込め
手に抱えるようにして
られているか考えることが他者理解の手がか
お母さんについて行き
り に なる よう に 思い ます 。
( 市川
里美 )
ます。どんどん先に行
「職場の人間関係」 ~ 耳
くお母さんの背中に向かっ
十
四
心~
て 男 の子 は 、
「 お 母さ ん、熱 いよ」と 訴 えま す。
で も 、お母さ ん は振 り返 る こと なく 、一 言「大
最 近 、部下の A さん の遅 刻 や休 みが 目 立っ て
丈 夫 ! 」。 男 の 子 は 、 な ん と も 不 安 そ う な 、 悲
ど う も調 子が 悪 そう です 。いつ も元 気 だっ たの
し そ うな 表情 に なり まし た 。
に 、時 折 、た め 息つ いた り 、ぼおっ と した りし
「 お 母さ ん、熱い よ」の こ とば の中 に はい ろ
て い ます 。そ う いえ ば毎 年 はし ゃい で いた 忘年
いろな気持ちが込められていたのだろうと思
会もドタキャンしていました。
う の です。実 際 に温 かい ペ ット ボト ル は、とて
何 か 悩ん でい そ うで すが 、どん
も熱くて持ち続けられないように感じられた
な 悩 みか 思い 当 たり ませ ん 。さ
こ と もあ るで し ょう 。た だ「 熱い」と い うのを
て 、こ んな時 、上 司とし て どう
わ か って もら い たか った の かも しれ ま せん 。ま
し た らよ いで し ょう か?
た は 、「 ど ん ど ん 先 に 行 か な い で 」 と い う 不 安
A さ ん がメン タ ル疾 患を 抱 えて いる と 予想 さ
な 気 持ち もあ っ たの では な いで しょ う か。心に
れ る 場合、受 容 的で 共感 的 な態 度で 、じ っくり
起こったいろいろな感情は置き去りにされて、
と 話 しを 聴く こ とが 非常 に 重要 です 。早期 対応
「 大 丈 夫 」 で 終 わ っ て し ま っ た こ と に 、( わ か
を ! と上 司が 焦 って 、す ぐ に専 門家 に 相談 する
っ て もら えな か った)と 寂 しく なり 、悲 しい表
よ う に言 って も 、A さん は なか なか 重 い腰 を上
情 に なっ たの で しょ う。
げないことでしょう。それでは、業務命令だ、
受 診 しな さい ! と言 った ら ・・ ・
だ か らと いっ て 、お母さ ん が悪 いと 言 いた い
わ け で は あ り ま せ ん 。「 大 丈 夫 」 と い う こ と ば
A さ ん のかた く なな 態度 は 一層 強く な るこ と
が 間 違っ てい た わけ でも な いと 思い ま す。お母
す ら あり ます 。まず は、A さん の日 常 場面 であ
3
る オ フィ スで 、受容 的に 共 感的 に聴 い ても らえ
< 今 月の 健康 情 報>
る 経 験が あっ て から、よ う やく、専 門 家に も話
食 べ す ぎ 、飲 み す ぎ 、コ レ ス テ ロ ー ル の 多 い
し て みよ うと い う気 にな る もの です 。ただ でさ
食品に御注意!!
え 年 末年 始で 忙 しく 、ご 時 世も あっ て 業務 多忙
年末年始は何かと食生活が乱れがちな時期では
の 時 、部 下の 話 に耳 を傾 け るの は容 易 では あり
な い で し ょ う か 。そ こ で 今 回 は「 脂 」に つ い て お 話
ま せ ん 。つい「 気 合いだ ぁ ! 」と言 い たく なる
し た い と 思 い ま す 。脂 質 異 常 症( 高 脂 血 症 )と は 血
こ と もあ りま し ょう。上 司 の側 に、心の 余裕が
液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪が正
な い と、人の 話 をじ っく り は聴 けな い もの です 。
常 よ り 多 い 状 態 で す 。総 コ レ ス テ ロ ー ル が 220 ㎎ /dl
ま ず は、深呼 吸 し、ここ ろ を落
以上の方、注意が必要です。
ち 着 け、自分 が 人の 話を き ちん と
まずは食事の見直しとウォーキングなどの運動
聴く心の準備ができているかセ
が 効 果 的 で す 。年 末 年 始 は 特 に 総 カ ロ リ ー を 摂 り す
ル フ・チ ェッ ク が必 要で す 。そ し
ぎ な い よ う に し ま す 。肉 は コ レ ス テ ロ ー ル を 増 や し
て 、 10 分 なら 10 分 、 30 分 な ら
て し ま い ま す 。魚 の 脂 は コ レ ス テ ロ ー ル を 下 げ ま す
30 分 と 時 間 を き ち ん と 区 切 っ て 話 し を し ま し
の で 肉 よ り 、ぶ り 、ト ロ 、鯖 、
ょ う。時間を 長 くか ける よ り、話し が 途中 で終
サンマなどの魚がお勧めで
わって結論がでなかったと
す 。又 、コ レ ス テ ロ ー ル の 高 い 人 は 一 日 の コ レ ス テ
し て も、時間を 区 切っ てあ げ
ロ ー ル 摂 取 量 を 300 ㎎ / 日 以 下 に し た い と こ ろ で
る方がAさんの負担は少な
す 。 鶏 卵 一 ヶ 420 ㎎ 、 い く ら
く な りま すし 、上司 も聴く 集
480 ㎎ 、 鶏 レ バ ー
370 ㎎ と
中 力 を維 持で き ます。聴 く とい う字 は、十四の
高いのでこ
心 で 耳 (き )く 、 か ら な り ま す 。 部 下 の A さ ん と
れらの食品
の 話 し合 いを セ ッテ ィン グ する 前に 、聴く 立場
は 控 え め に 、魚 、貝 、エ ビ 、い か 、
のあなたに多くの心の余裕があるか確かめる
等のコレステロールはそれほど、
こ と ・・ ・そ れ が一 番大 切 で す 。(古 田 雅 明 )
心配いりません。
食物繊維の多い野菜を食べましょう。繊維が胆汁と
めまぐるしい時代を生きる私たち
くっついて排泄されるため、胆汁酸のもとになるコ
が 、ふ と 立 ち 止 ま っ て こ こ ろ に つ い て 思 索 す る・・・
レステロールを減らしてくれます。アルコールは中
そ ん な ひ と と き の た め に 、こ の 便 り が お 役 に 立 て る
性脂肪をぐーんと高めますので飲み過ぎないように
ことを心より願っております。
し ま し ょ う 。こ れ で 血 管 の 壁 に 沢 山 の
<編集委員>
脂をくっつけず動脈硬化を予防でき
<編集後記>
平澤伸一
戸田麻里
ま す 。( 粟 野 浩 子 )
(医師)
粟野浩子(看護師)
岡野美也子 大内名津
(事 務 )
古田雅明 下平憲子 市川里美 三上英子(臨床心理士)
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