持続可能な都市のための 20%クラブ

持続可能な都市のための 20%クラブ
先進事例集
持 続 可 能 な 都 市 の た め の2 0 %クラブ
先 進 事 例 集・川口市(埼玉県)
数 値 目 標:
「廃棄物の資源化率を中間処理前で20.1% とする」
達 成 手 段:
「川口市ごみ減量化行動計画」
近年多くの都市で、
「資源循環型社会づくり」が提唱され、推進されている。ごみを「集めて、燃やして、
埋め立てる」のではなく、
「発生・排出抑制・分別収集・再資源化」のサイクルで管理することにより、最終
処分量を限りなくゼロに近づけようという考え方である。これを実現するためには、生産・流通・消費・廃
棄の各段階で、市民・事業者・自治体が一体となったごみ減量化、資源化の努力が必要とされる。
廃棄物管理の先進都市として知られる川口市は、行政区域内に最終処分場をもたないことから、
「ステ
ーション収集」
、
「拠点回収」
、
「集団回収」といった独自の分別収集方法を確立することによって、こうしたごみ
の減量化、資源化と取り組んできた。これは「川口方式」と呼ばれ、すでに国内・海外の多くの自治体に
とって視察や研修の対象となるなど、ごみ行政にひとつの模範的な実例を示している。
しかし、ここ数年の社会状況の変化にともなって、早くもこの方式の見直しが検討されるようになった。
その契機となったのが、平成7年6月に制定された「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等
に関する法律」
、いわゆる「容器包装リサイクル法」である。
川口市では同年7月に、市長の諮問機関である「川口市廃棄物対策審議会」
、提言機関である「川口
市エコリサイクル推進委員会」を設置した。その結果「資源回収の徹底」
、
「再生利用施設の整備」
、
「ごみの
有料化」を新たな3つの柱とする「新川口方式」が提案されることとなった。
ここに取り上げるのは、ソフト・ハードの両面から再構築された減量化の体系にもとづく「川口市ごみ減
量化行動計画」である。市が 20%クラブに提出した数値目標「資源化率を中間処理前で 20.1%にする」
の達成には、発生・排出の段階における対策が重点分野として期待される。そこで以下ではまず、ごみ
の発生・排出の抑制に関する市民と事業者の取り組みから紹介したい。
1 「クリーン推進員」と「エコリサイクル推進事業所」
川口市のごみ発生量は、平成2年度から横這い状態にあり、平成8年度には 181,229 トン、そのうち
家庭系ごみが 141,179 トン(77.9%)
、事業系ごみが 40,050 トン(22.1%)となっている。一方、資源化率
は、平成3年度の 12.0%から平成7年度の 15.1%と増加している。こうした従来の実績は、主として排出
後の管理を徹底することで導かれた。すなわち排出されたごみは、戸塚環境センターと青木環境センタ
ーで焼却処理され、戸塚環境センター破砕処理施設で破砕処理され、リサイクルセンターで資源化処
理もしくは資源ごみとして保管される。
しかし最近、容器包装リサイクル法による PET ボトル収集量の伸びにともない、リサイクルセンターの
処理能力やストックヤードの不足といった問題が生じてきた。また焼却残渣の処分に関しては、市外5カ
所の処分場に委託しているため、もとより処分にかかるコスト負担が大きい。こうした処理能力の限界から、
市では今後の取り組みとして、ごみの発生・排出段階での抑制こそ減量化の重点と位置づけている。
「川口市ごみ減量化行動計画」では、ごみの発生・排出抑制のため、事業者と市民に対する施策を掲
げている。
まず市民向けの施策の中で注目されるのは、排出抑制のための「クリーン推進員制度」である。クリー
ケーススタディ
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ン推進員は市民の中から選ばれ、行政と市民をつなぐ地域のリーダーとして、2年間の任期で奉仕する。
主な役割は、①廃棄物の減量化及び適正な処理の普及・啓発、②廃棄物の分別及び排出指導、③集
団資源回収、④その他市の施策への協力の4点である。この制度は、市民による率先行動を地域に根
づかせることにより、普及・啓発と同時に実践活動としての成果を挙げている。
また「集団資源回収」は、市が資源ごみの回収重量1kg につき 10 円の助成金を交付し、地域住民団
体が実施する資源ごみの回収を促進する取り組みである。この回収運動は昭和 53 年から行われており、
回収量は年々増加傾向にあるが、平成8年度から主な回収品目である古紙の価格が低迷しているため、
「逆有償」によって引き取るか、あるいは引き取りを拒否される品目が出るという事態が生じているという。
そこで市では、市民や事業者に古紙製品の使用を呼びかけるとともに、再生品利用のアイディアを募集
する「古紙利用拡大緊急カスケードプログラム」を実施している。
次に事業者向けの発生抑制施策としては、
「エコリサイクル推進事業所登録制度」がある。ごみの減量
化・資源化に努めている市内の商店や事業所を「エコリサイクル推進事業所」として登録し、普及啓発を
はかる。また「川口市廃棄物の減量及び適正処理に関する条例」
(平成7年より施行)によって、事業者は
事業活動にともなって排出される事業系一般廃棄物の自己処理責任が義務づけられている。
これと関連して、事業系ごみについては従量制による有料化が実施されている。
今後は家庭系粗大ごみについても、家電リサイクル法の関係から有料化が検討されている。
2 事業計画のシミュレーション
収集・運搬・処理の段階では、計画にともなうごみの減量化を見越した作業計画が必要となってくる。
川口市では「容器包装リサイクル法」の内容にもとづいて、平成9年4月から向こう5年間にわたる「分
別収集計画」を策定した。この計画の対象となる容器包装廃棄物は、同法の第8条にもとづき、スチール
缶・アルミ缶・無色ガラスびん・茶色ガラスびん・その他ガラスびん・紙パック・PET ボトルの7品目である。
びん・かんについては、売却代金を収集量に応じて交付金として全額町会に還元している。
平成 12 年度になると、現在適用猶予中の段ボール・紙製容器包装・及びその他プラスチックが分別
収集の対象に追加される予定である。計画書では、このときに必要となる追加的なコストや人員を割り出
すため、また焼却ごみの組成が変わることで生じる発電量への影響(戸塚環境センターでは焼却熱を発
電に利用している)などを予測するため、コンピュータによるシミュレーションの方法が掲載されている。
各発生ゾーンの推計人口や1日あたりの排出量、収集ルートや運搬車両の走行速度、収集車の可能量
などを基本データとし、平成 13 年度における各発生ゾーン別の収集対象量が算出される。これに従っ
て、収集車両台数や収集回数、稼働人員数、所用経費などが見積もられる。
このシミュレーション作業は、正式には平成 11 年度に予定されているが、法制度の変化にともなって
ごみの分別プロセスが細分化されてきた過程で、市はこれまでにもこうした緻密なモデル分析にもとづく
システム整備を行ってきた。この方式は、新しい法律や条例にもとづいて事業計画を策定する際とくに有
効であり、他都市への応用も可能である。
市ではごみの資源化について、市民と事業者を主体とする次のような新たな施策を打ち出している。
・リサイクルプランナー登録制度の創設
・リサイクル基金の設置
・再生品取り扱い店の普及
・排出事業者のごみ排出実態の把握と指導方針の策定
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・リサイクルマニュアルの作成
・粗大ごみからの金属回収と有効利用物の再利用
「リサイクルプランナー登録制度」は、集団資源回収や消費生活運動などを進めるリーダーをリサイク
ルプランナーとして登録する制度で、講習会・視察・ごみ組成分析・市のイベントへの参加といった機会
を与える。また「リサイクル基金」は、市民による自発的なリサイクル活動を持続させるため、資源回収の
拡大による利益や市からの補助金の一部を活動資金として積み立てる方式などを検討していく。
「リサイクルマニュアル」は事業者向けである。市が今までに培ったアイデアや知識をリサイクルマニュ
アルとして作成し事業所に配布、事業所内での資源化の促進に役立てるというものである。
市民や事業者の率先的な行動は、ごみの収集段階においても大きな意義をもつが、市では今後、行
動計画だけでなく法制度の変更にあたっても、市民層の積極的な参加を促したいとしている。
結 論
平成7年度から 23 年度までの長期計画の中で、川口市はごみの排出量を 45%削減し、資源収集量
を4倍に増大させるという目標を打ち出している。
この野心的な数値には、ごみの発生・排出抑制という未着手の分野に対する期待値が見込まれてい
るものの、すでに見たように着実な成果は上がっている。
また、川口市環境部環境企画課長補佐の藤波博氏は、ごみの減量化・資源化に最も重要なのは、環
境教育や市民の実践活動による普及啓発の取り組みだという。
「排出者を廃棄物の最終責任者として位置づける取り組みは、わが国の自治体にはまだ実例が少な
いと思います。
『容器包装リサイクル法』は、ドイツの循環経済法やフランスの包装制令を参考にして策定
されましたが、ごみを出さないというライフスタイルや、リターナブルびんのように少し不便なものでも使い
捨ての紙パックより優先させるといったような意識まで同様に定着させるためには、学校教育などでもっと
意識向上をはかる必要があるでしょう」と同氏はいう。
川口市が15カ年という長期計画でごみ減量化・資源化に臨んでいる背景にも、こうした住民意識の息
の長い変革に対する姿勢が垣間見られる。排出者負担の原則に関わる最終責任者としての自覚を足も
との市民レベルから浸透させていくことに対する、各自治体の指針がいま改めて問われている。
予算規模(平成9年度)−9,301,662,000円
作業人員(平成9年度)−直営148人、委託234人、合計382人
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