(57)【要約】 【課題】 菌体塊形成能を有し、且つ例えば塩類濃度の 高い培地においても高効率で発酵できるチゴサッカロミ セス属に属する新規酵母、及び当該酵母菌株を使用する 発酵調味料の製造方法、及び流動床型のバイオリアクタ ーに関し、固定化担体を用いず、且つ高い浸透圧耐性を 有する新規酵母、及びこれを用いた発酵調味料の製造方 法を提供することを課題とする。また、比較的簡易な構 造で、連続発酵などの処理ができるバイオリアクター装 置を提供することを課題とする。 【解決手段】 菌体塊形成能(凝集能及び接着能を含 む)を有するチゴサッカロミセス(Zygosaccharomyce s)に属する新規酵母(生命工研菌寄第18252 号〔FERM P-18252〕)であることを特徴とする。 (2) 1 【特許請求の範囲】 【請求項1】 菌体塊形成能(凝集能及び接着能を含 む)を有するチゴサッカロミセス(Zygosaccharomyce s)に属する新規酵母(生命工研菌寄第18252 号〔FERM P-18252〕)。 【請求項2】 下記菌学的性質を有するチゴサッカロミ セス(Zygosaccharomyces)に属する新規酵母。 (a)15%のNaClを含むYPD培地を用い、30 ℃で2日間培養したときの菌体の形態: 栄養細胞の大きさ:4∼8μm。 栄養細胞の形態:卵型。 増殖の形態:出芽。 (b)15%のNaClを含むYPD寒天培地を用い、 30℃で4日間培養したときのコロニーの形態: 形態:円。 隆起:頭状。 周縁:円滑。 大きさ:1∼3mm。 色調:白色で不透明。 表面:円滑で半光沢。 (c)炭素源資化性:ブドウ糖、ガラクトース、ショ 糖、マルトース、セロビオース、可溶性デンプン、ソル ビトール、メタノール、フラクトース、マンノース、マ ンニトール、デキストリンは資化し、ブドウ糖、マルト ースを発酵する。α-メチルグルコシド、トレハロー ス、乳糖、メリビオース、ラフィノース、イヌリン、ク エン酸ナトリウム、エタノール、キシロースは資化しな い。 (d)耐塩性:25%のNaClを含むYPD培地にお いて生育可能である。 【請求項3】 請求項1又は2記載の新規酵母を用いる 発酵調味料の製造方法。 【請求項4】 管体の下方から上方に向かって水流を生 じさせる水流発生手段が具備され、且つ前記管体の上方 に、生体触媒によって処理された処理液が取り出される 取出口が設けられており、該水流発生手段によって生体 触媒が流動し被処理液を処理するバイオリアクターであ って、 前記管体の上方内部には、筒状の隔壁が管体の内周面に 対して間隔を空けて設けられており、前記隔壁の下端部 が取出口の下方に延出されていることを特徴とするバイ オリアクター。 【請求項5】 前記隔壁の周壁には、前記取出口と非対 向位置に、処理液が通過可能な通過口が形成されている 請求項4記載のバイオリアクター。 【請求項6】 管体の下方から上方に向かって水流を生 じさせる水流発生手段が具備され、且つ前記管体の上方 に、生体触媒によって処理された処理液が取り出される 取出口が設けられており、該水流発生手段によって生体 触媒が流動し被処理液を処理するバイオリアクターであ 10 20 30 40 50 特開2002−281958 2 って、 前記管体の内部には、該内部を区画する小孔板が上下方 向に多段状に設けられていることを特徴とするバイオリ アクター。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、菌体塊形成能を有し、 且つ例えば塩類濃度の高い培地においても高効率で発酵 できるチゴサッカロミセス属に属する新規酵母、及び当 該酵母菌株を使用する発酵調味料の製造方法、及び流動 床型のバイオリアクターに関する。 【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】酵母 は、古来より日本酒などのアルコール類の製造、醤油な どの発酵調味料の製造、パンの発酵などの各種の製造に 使用されている。例えば、醤油の醸造は、原料の蒸煮し た丸大豆若しくは加工脱脂大豆と焙煎した小麦とを混合 し、これに種麹を接種して製麹した後に食塩水を加え諸 味を造り、発酵・熟成後にこの諸味を圧搾することによ り醤油を製造している(本醸造)。しかしながら、諸味 を発酵・熟成させるには通常約6ヶ月と長期にわたって いるために、製造工程の大部分をこの発酵・熟成期間が 占めることになる。そのため、この発酵・熟成期間を短 縮することが可能になれば、醤油製造においてその製造 コストを大幅に削減することが可能になる。 【0003】そのため、酵母による発酵工程を、バイオ リアクターによって効率的に行わせる研究がなされてい る。一般に、バイオリアクターを利用する発酵工程で は、生体触媒を固定化して使用する方法が採られてい る。 【0004】生体触媒の固定化方法としては、不溶性担 体に担持させる結合法、生体触媒同士を結合させる架橋 法、高分子ゲルなどの内部に包み込む包括法、及びこれ らの複合法などが知られている。しかしながら、これら の方法では、固定化担体の購入、固定化担体の殺菌、生 体触媒の固定化工程、固定化担体の維持管理、固定化担 体の廃棄・処理などのような生体触媒を固定化する上で のコストが必要となる。また、生細胞(増殖細胞)の固 定化が必要となる発酵食品の製造やアルコールの連続生 産においては、菌体増殖又は原料液中の化学成分等によ る高分子ゲルなどの固定化担体の崩壊による目詰まりな どの問題が生じるため、一般には、多孔質無機材料等へ の担体結合法(物理的吸着)が用いられているが、多孔 質セラミック等の多孔質無機材料を固定化担体とした場 合には固定化される菌体量が少なく、発酵速度の向上や 微生物汚染への抵抗性などに問題がある。 【0005】これに対して、菌体の分離・回収が容易に できる凝集性酵母を利用する方法では、酵母菌体の固定 化工程や、酵母菌体と発酵液との分離工程を省略できる ため、全体のシステムが簡略化され、低コストで且つ効 (3) 3 率の良い発酵生産が可能となる。 【0006】これまで報告のある凝集性酵母菌株は、サ ッカロミセス・セレヴィシェ(Saccharomyces cerevisi ae)に属する酵母であり、これらは主に細胞融合技術や 遺伝子組換え技術によって育種されている。しかしなが ら、これらサッカロミセス・セレヴィシェを改良した菌 株では浸透圧耐性(耐塩性を含む)が低いため、塩類や 糖濃度の少ない原料を発酵原料として使用することはで きるものの、廃糖蜜(例えば、カリウム、マグネシウ ム、ナトリウムなどの塩類が0.5∼1.5M程度含ま れるもの)や、糖類の加水分解物といった高濃度の塩 類、糖類を含む液などを原料として使用する場合は、そ の原料を希釈する必要があり、このことが発酵・蒸留終 了後の廃液処理量の増大につながり、工業的な生産コス トを増大させる一因となっている。 【0007】また、発酵法による工業的なエタノール生 産では、廃糖蜜等の安価な発酵原料を使用し、回分発酵 法や、酵母循環法及び固定化酵母法などの連続発酵法が 開発されて一部では実用化されているが、従来の技術で は酵母菌体を高密度に維持するため、その装置や工程が 複雑であり、維持管理の費用が高額となる。 【0008】本発明は、以上のような点に鑑みて、固定 化担体を用いず、且つ高い浸透圧耐性を有する新規酵 母、及びこれを用いた発酵調味料の製造方法を提供する ことを課題とする。さらに、本発明は、比較的簡易な構 造で、連続発酵などの処理ができるバイオリアクター装 置を提供することを課題とする。 【0009】 【課題を解決しようとする手段】醤油醸造に用いられて いるチゴサッカロミセス属の酵母が、高い浸透圧耐性を 有し、例えば、2.5M以上の塩化ナトリウム存在下及 び/又は50%(W/W)のグルコース培地でも生育、 発酵を行うことができる。そして、本発明者らは、チゴ サッカロミセス属の酵母を含む醤油諸味から酵母をスク リーニングしたところ、所定の菌体塊形成能を有する新 規な醤油主発酵酵母菌株(チゴサッカロミセス・ルキシ ーR−2株(Zygosaccharomyces rouxii R-2株)と命 名:生命工研菌寄第18251 号〔FERM P-18251〕)を単離 した。この菌株の形成する菌体塊は硬く、通気撹拌によ る剪断力でも崩壊せず、菌体塊形成能(凝集能及び接着 能を含む)は市販の酵母菌より優れていた。ただし、そ の菌体塊は比較的小さく、バイオリアクターに使用する ことを想定した場合の沈降性は必ずしも十分ではなかっ た。そこで、本発明者らは、更に鋭意研究した結果、こ の菌株と醤油主発酵酵母とを細胞融合することにより、 耐圧性が高く、且つより大きな菌体塊を形成できる優れ た酵母を得、本発明を完成させた。 【0010】すなわち、本発明は、菌体塊形成能(凝集 能及び接着能を含む)を有するチゴサッカロミセス(Zy gosaccharomyces)に属する新規酵母(生命工研菌寄第1 10 20 30 40 50 特開2002−281958 4 8252号〔FERM P-18252〕)を提供する。さらに、本発明 は、前記新規酵母を用いる醤油などの発酵調味料の製造 方法を提供する。 【0011】また、本発明は、管体2の下方から上方に 向かって水流を生じさせる水流発生手段が具備され、且 つ前記管体2の上方に、生体触媒によって処理された処 理液が取り出される取出口6が設けられており、該水流 発生手段によって生体触媒が流動し被処理液を処理する バイオリアクターであって、前記管体2の上方内部に は、筒状の隔壁7が管体2の内周面に対して間隔を空け て設けられており、前記隔壁7の下端部が取出口6の下 方に延出されているバイオリアクターを提供する。さら に、本発明は、前記隔壁7の周壁であって、取出口6と 非対向位置に、処理液が通過可能な通過口8が形成され ている前記バイオリアクターを提供する。さらに、本発 明は、管体2の下方から上方に向かって水流を生じさせ る水流発生手段が具備され、且つ前記管体2の上方に、 生体触媒によって処理された処理液が取り出される取出 口6が設けられており、該水流発生手段によって生体触 媒が流動し被処理液を処理するバイオリアクターであっ て、前記管体2の内部には、該内部を区画する小孔板5 が上下方向に多段状に設けられているバイオリアクター を提供する。 【0012】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態について 説明する。本発明の新規酵母は、上記のように、チゴサ ッカロミセス属の酵母を含む醤油諸味から、菌体塊形成 能を有する酵母菌株(チゴサッカロミセス・ルキシーR −2株(Zygosaccharomyces rouxii R-2株):生命工研 菌寄第18251 号〔FERM P-18251〕。以下、「R−2株」 と略称する場合がある)を取得し、この菌株と市販され ているチゴサッカロミセス・ルキシー株(Zygosaccharo myces rouxii)(以下、「市販酵母株」と略称する場合 がある)とを細胞融合することにより創製することがで きる。 【0013】細胞融合では、通常、両親株に対して変異 処理を行い遺伝的性質で標識することが行われるが、酵 母の優良な性質を損ねないという点から、標識処理は行 わない方が好ましい。また、細胞融合法は、公知の方法 を採用できるが、融合効率が高い点で高電圧パルス細胞 融合法が好ましい。得られた融合株を複数回培養した 後、より大きな菌体塊の形成できる菌株を選択すること により、本発明の新規酵母、特に醤油主発酵酵母として 好適な菌株を得ることができる。この新規酵母菌株を、 チゴサッカロミセス・ルキシーZR−2f株(Zygosacc haromyces rouxii ZR-2f株。以下、「ZR−2f株」と 略称する場合がある)と命名し、これを工業技術院生命 工学工業研究所に生命工研菌寄第18252 号〔FERMP-1825 2〕として寄託した。 【0014】このチゴサッカロミセス・ルキシーZR− (4) 5 2f株(FERM P-18252)と、両親株(市販酵母株及びR −2株)の菌学的性質を、実験農芸化学下第3版(東京 大学農学部農芸化学教室著、(株)朝倉書店発行)に基 づいて検討したところ、次の通りである。 〔ZR−2f株〕 (a)15%のNaClを含むYPD培地を用い、30 ℃で2日間培養したときの菌体の形態: 栄養細胞の大きさ:4∼8μm。 栄養細胞の形態:卵型。 増殖の形態:出芽。 (b)15%のNaClを含むYPD寒天培地を用い、 30℃で4日間培養したときのコロニーの形態: 形態:円。 隆起:頭状。 周縁:円滑。 大きさ:1∼3mm。 色調:白色で不透明。 表面:円滑で半光沢。 (c)炭素源資化性:ブドウ糖、ガラクトース、ショ 糖、マルトース、セロビオース、可溶性デンプン、ソル ビトール、メタノール、フラクトース、マンノース、マ ンニトール、デキストリンは資化し、ブドウ糖、マルト ースを発酵する。α−メチルグリコシド、トレハロー ス、乳糖、メリビオース、ラフィノース、イヌリン、ク エン酸ナトリウム、エタノール、キシロースは資化しな い。 (d)耐塩性:25%のNaClを含むYPD培地にお いて生育可能である。 〔市販酵母株〕 (a)15%のNaClを含むYPD培地を用い、30 ℃で2日間培養したときの菌体の形態: 栄養細胞の大きさ:4∼8μm。 栄養細胞の形態:卵型。 増殖の形態:出芽。 (b)15%のNaClを含むYPD寒天培地を用い、 30℃で4日間培養したときのコロニーの形態: 形態:円。 隆起:頭状。 周縁:円滑。 大きさ:1∼3mm。 色調:白色で不透明。 表面:円滑で光沢。 (c)炭素源資化性:ブドウ糖、ガラクトース、ショ 糖、マルトース、セロビオース、可溶性デンプン、ソル ビトール、メタノール、フラクトース、マンノース、マ ンニトール、デキストリンは資化し、ブドウ糖、マルト ースを発酵する。α−メチルグルコシド、トレハロー ス、乳糖、メリビオース、ラフィノース、イヌリン、ク エン酸ナトリウム、エタノール、キシロースは資化しな い。 10 20 30 40 50 特開2002−281958 6 (d)耐塩性:25%のNaClを含むYPD培地にお いて生育可能であるが時間を要する。 〔R−2株〕 (a)15%のNaClを含むYPD培地を用い、30 ℃で2日間培養したときの菌体の形態: 栄養細胞の大きさ:4∼8μm。 栄養細胞の形態:卵型。 増殖の形態:出芽。 (b)15%のNaClを含むYPD寒天培地を用い、 30℃で4日間培養したときのコロニーの形態: 形態:円。 隆起:頭状。 周縁:円滑。 大きさ:1∼3mm。 色調:白色で不透明。 表面:円滑で半光沢。 (c)炭素源資化性:ブドウ糖、ガラクトース、ショ 糖、マルトース、セロビオース、可溶性デンプン、ソル ビトール、メタノール、フラクトース、マンノース、マ ンニトール、デキストリンは資化し、ブドウ糖、マルト ースを発酵する。α−メチルグルコシド、トレハロー ス、乳糖、メリビオース、ラフィノース、イヌリン、ク エン酸ナトリウム、エタノール、キシロースは資化しな い。 (d)耐塩性:25%のNaClを含むYPD培地にお いて生育可能である。 【0015】本発明の新規酵母は、それ自身が大きな塊 状になるため、酵母菌体の固定化工程や、酵母菌体と処 理液(発酵液)との分離が簡易に行えるため、特に、醤 油、みりんなどの発酵調味料の製造、日本酒、焼酎、ワ インなどのアルコール類の製造、糖ヌクレオチド生産時 の菌体の製造などにおける流動床式バイオリアクターで 好適に使用できる。更に、比較的高い塩濃度環境下でも 発酵を行うことができるので、種々の被処理液を発酵処 理することができる。尚、本発明の新規酵母は、パン、 味噌などの発酵に使用することも可能である。 【0016】本発明の新規酵母は、これを培養して用い られ、発酵処理後に全液を交換する回分発酵システム、 被処理液を連続的に供給して発酵処理を行う連続発酵シ ステムの何れの方式にも使用することができ、特に、連 続発酵システムに好適に使用できる。 【0017】連続発酵システムに使用されるバイオリア クターとしては、従来公知のものを使用してもよいが、 本発明に於いては、下記の流動床式のバイオリアクター を用いることが好ましい。具体的には、図1及び図2に 示すように、バイオリアクター1は、例えば、下方部2 a(導入部2a)、中間部2b(生体処理部2b)及び 上方部2c(固液分離部2c)の複数の筒部材が連結さ れた管体2と、管体2の下方部2aに設けられた供給口 3と、管体2の中間部2b内に設けられた区画用の小孔 (5) 7 板5と、管体2の上方部2cに設けられた取出口6と、 管体2の上方部2c内であって、上方部2cの中央部に 設けられた筒状の隔壁7とを備えている。 【0018】管体2は、例えば、耐衝撃性ガラス、ステ ンレスなどの金属などの耐衝撃性を有する公知の素材か らなり、被処理液の処理量に応じて適宜の大きさに形成 されている。なお、管体2は、図1のように、下方部2 a、中間部2b及び上方部2cの複数の筒部材が連結さ れた構成でも良いし、一体的な筒部材から構成されてい ても良い。供給口3は、例えば、管体2の下方部2aの 底面に穿設されている。該供給口3には、空気と被処理 液を供給する供給路(図示せず)が取り付けられてお り、該供給口3から空気と被処理液が管体2の内部に供 給されるようになっている(図1の矢印)。尚、供給口 3は、下方部2aの周壁に形成されていてもよいし、 又、2以上の供給口3を設けて、空気と被処理液を別々 に供給してもよい。 【0019】小孔板5は、管体2内部に充填される被処 理液と、生体触媒(例えば、本発明の酵母に係る菌体 塊)の全部又は一部と、が通過可能な大きさの孔を有す る部材であれば特に限定されず、例えば、1.5∼3m m、より好ましくは2∼2.5mmの大きさのメッシュ 板(例えば、金属製網状板)などが例示される。この小 孔板5を設けることにより、管体2内部に於ける生体触 媒の濃度勾配及び/又は生成物の濃度勾配を形成するこ とができる。また、小孔板5を設けることにより、該小 孔板5によって区画された各領域で流体の対流が生じる (図1に矢印で示す)。小孔板5は1つでも構わない が、濃度勾配を良好に形成させるためには、小孔板5が 上下方向に多段に亘って設けられていることが好まし い。具体的には、図1に示したように、2mmの網目の 大きさのメッシュ板5が2枚所定間隔を置いて設けられ ている。 【0020】取出口6は、管体2の上方部2cの周壁の 中途部に設けられており、該取出口6から、処理がなさ れ後の処理液が取り出される。この取出口6には、キャ ップ15が嵌着されており、その中央部には、排出用の パイプ16が設けられている。本実施態様に於いては、 このパイプ16が実質的に取出口6の役割を担い、この パイプ16から処理液と空気が排出される(図1の矢 印)。このように下方から供給された空気が上方で排出 されることにより(空気の流れにより)、管体2内に は、下方から上方に向かって水流が生じるようになって いる(水流発生手段に相当する)。尚、水流発生手段 は、空気の給排による構成に限られず、例えば、管体2 内に回転翼を設け、これを回転させて水流を生じさせる 構成などでもよい。 【0021】次に、隔壁7は、例えば、管体2と一体的 に形成された円筒状体からなり、その上端部が管体2に 連結されている。一方、隔壁7の下端部は、自由端とな 10 20 30 40 50 特開2002−281958 8 っており、図1に示すように、取出口6の下端部6aよ りも下方に延出されている。隔壁7は、中間部2bから 上昇する水流を受け入れるため、中間部2bと同じ開口 又は中間部2bよりも大きな開口を有し、図1に示すよ うに、隔壁7は、その開口部分12が中間部2bの開口 部分14を囲繞するように対向して配置されている(平 面から見た場合に、中間部2bが隔壁7に囲われるよう に配置されている)。かかる構成により、中間部2bか ら上昇する流体(処理液及び生体触媒)は、まず隔壁7 の内側にほとんどが集約される。さらに、この隔壁7 は、その外周面が、管体2の内周面に対して液が流れる 程度の間隔(隙間11)を有して配置されている。 【0022】また、隔壁7のうち、取出口6と非対向位 置(真向に向かい合った位置でないという意味である) には、少なくとも処理液が通過可能な通過口8が形成さ れている。通過口8としては、例えば、図示したよう に、取出口6の下端より下方又はそれとほぼ同高の位置 に通過口8の一部が位置する切欠部8が例示されるが、 その他、孔や複数の小孔の集合などを通過口8として構 成してもよい。通過口8が形成される非対向位置は、図 示したように、取出口6と正反対(180度水平回転さ せた)位置が好ましいが、取出口に対して直角位置(図 2のBで示す)などであってもよい。また、通過口8 は、正反対位置に1箇所形成されていれば十分である が、複数箇所に形成されていてもよい。 【0023】尚、10は、管体2内部に連通する操作口 を示し、隔壁7の内側に設けられている。11は、操作 口を閉塞するキャップを示す。12は、管体2内の温度 を維持するために温水などを通す通路を示す。また、管 体2の下方部2a、中間部2b及び上方部2cの間など の各部の間には、水密用のパッキンが設けられている。 【0024】上記バイオリアクター1は、内部に、 (廃)糖蜜などの被処理液と、ZR−2f株などの生体 触媒を充填し、空気を供給することにより、生体触媒が 流動し、被処理液を発酵、分解、生成などの生物的処理 を行い、得られた処理液は、取出口6から排出される。 この際、本発明のバイオリアクター1は、図1∼3(流 体の流れを矢印で示す)に示すように、生体触媒と処理 された処理液とが、水流発生手段により、管体2の上方 部2cに上昇する。上昇した処理液及び生体触媒は、隔 壁7の内部で流動し、処理液と一部の生体触媒が通過口 8を通じて隔壁7の外部に流出し、隔壁7と管体2との 間(隙間11)を通じて取出口6側へと押し出される。 この隙間11は、隔壁7の存在によって、水流発生手段 による上方向きの水流の影響を受けにくいので、隙間1 1を通過する途中で、生体触媒は、自重により下降する こととなり、ほとんど処理液のみが取出口6へ移動す る。従って、処理液と生体触媒の分離を容易に行うこと ができる。 【0025】被処理液としては、(廃)糖蜜、糖質加水 (6) 9 分解物など公知のものを用いることができる。また、生 体触媒としては、本発明の新規酵母(ZR−2f株)に 限られず、既知の凝集性酵母、担体に固定化された菌体 や酵素、ゲルなどに包括された菌体や酵素などを従来公 知のものを用いることもできる。 【0026】 【実施例】以下に、細胞融合、菌体塊形成能に優れた融 合株の選択、選択した融合株の回分発酵および連続発酵 試験を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実 施例によりその技術的範囲が限定されるものでない。ま た、バイオリアクターなどの説明に於いては、上記実施 形態と同じ名称のものは、特段に説明がない限り、上記 実施態様と同様のものである。 プロトプラストの調製 プロトプラストの調製は、基本的には野田らの方法(Ag r.Biol.Chem.,54巻,2023頁(1990))に準じて行った。す なわち、従来型バイオリアクター(市販酵母株が担持さ れた多孔質セラミック担体を使用)より排出された発酵 液の中から速やかに沈降する菌体塊形成酵母チゴサッカ ロミセス・ルキシーR−2株と、市販酵母株であるチゴ サッカロミセス・ルキシー(ビオック製、品名:醤油主 発酵酵母)をそれぞれ10%のNaClを含む公知のY 8 PD培地10mlで30℃で定常期初期(1×10 細胞 /ml)まで振盪培養し、得られた菌体を滅菌した10 %食塩水で洗浄した。ついで、1.2Mのソルビトー ル、5mMのEDTA、0.5%のメルカプトエタノー ルを含む50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7. 5)に懸濁した。この菌体懸濁液にザイモリエース溶液 (生化学工業(株)製)を終濃度1mg/mlになるよ う添加し、30℃で90分間処理してプロトプラスト化 させた。そして、プロトプラストを遠心分離(1,20 0×g)して集め、1.2Mのソルビトール溶液で3回 7 洗浄して、それぞれ5×10 プロトプラスト/mlの濃 度で懸濁した。 【0027】細胞融合 細胞融合は、高電圧パルス細胞融合法(電気細胞融合 法)で行った。すなわち、細胞融合装置((株)島津製 作所製、品名:SSH−10)を用いて行い、融合条件 は、電極間隔1mm、交流周波数1MHz、交流初期印 加電圧40V、パルス幅500μS、パルス電圧450 V(電界強度4.5kV/cm)、交流2次印加電圧4 0Vとした。印加処理後のプロトプラスト懸濁液を30 ℃で30分間保温し、これをSDプレート(最少培地: 0.67%のイーストニトロゲンベース、アミノ酸不 含、2%のグルコース、1.2Mのソルビトール、2% の寒天)に0.1ml塗布し、25℃、3∼7日間培養 して、プロトプラストを再生させた。ついで、この再生 した菌体を15%のNaClを含む10mlのYPD液 体培地(pH5.0)に入れ、同培地5mlをSDプレー ト表面に添加後,生育してきたコロニー(菌体)を分散 10 20 30 40 50 特開2002−281958 10 させ,その0.5mlを植菌し、30℃で定常期に達す るまで(2∼3日)振盪培養を行った。この培養液を5 分間静置後、浮遊している菌体を除去し、これに新たな 15%のNaClを含むYPD培地10mlを加えて、 さらに30℃で定常期に達するまで振盪培養を行った。 この操作を5∼9回繰り返して行い、菌体塊形成能の向 上した菌株の濃縮を行った。その後、沈降した菌体を、 滅菌処理した15%の食塩水で3回洗浄後、15%のN aClを含むYPDプレートに塗布し、(1000倍希 釈した懸濁液を0.1ml塗布する)、生育したコロニー を取得した。さらに、これらのコロニーを15%のNa Clを含む10mlのYPD液体培地(pH5.0)に 植菌して(1コロニー植菌する)、30℃、3日間振盪 培養し、菌体塊形成能を有するコロニー(ZR−2f 株)を選抜した。 【0028】菌体塊沈降速度の評価 菌体塊の沈降速度の評価は、分光光度計(MILTONROY 製、品名:SPECTORONIC 20)による濁度(OD660n m)の減少速度により行った。供試菌株を15%のNa Clを含むYPD培地10mlに植菌し、(凝集菌体の かさとして0.5mlを植菌する)、30℃、48時間振 盪培養し、これをボルテックスミキサー(iuchi 製、品 名:AUTOMATIC LABO.MIXER)で10秒間撹拌後、経時的 に660nmの吸光度変化を計測した。その結果を図4 に示す。尚、供試菌株は、市販酵母株、R−2株、上記 細胞融合で得られたコロニー(ZR−2f株)の3種を 用いた。 【0029】市販酵母株では、660nmの吸光度に変 化が認められず、又、R−2株では僅かながら変化が見 られたのに対して、ZR−2f株では660nmの吸光 度が急速に減少していた。このことからZR−2f株 は、菌体塊が速やかに沈降することがわかった。又、視 覚によってもZR−2f株は、おおよそ直径0.5∼3 mm程度の菌体塊を形成していた。このZR−2f株の 菌体塊形成効果を明確にするため、R−2株、ZR−2 f株、市販酵母株を直径18mmの試験管に採り、それ らの菌体塊の様子を参考写真1に示す。参考写真1から も明らかなように、ZR−2f株は、R−2株に比べて はるかに大きい菌体塊を形成していた。また、R−2株 では、比較的小さいものの、試験管底面部の写真におい て菌体塊の形成が明らかに認められた。これに対して、 市販酵母株では、試験管側面部の写真はもちろん、試験 管底面部の写真においても菌体塊の形成は全く認められ なかった。この結果、ZR−2f株は、きわめて特徴的 な菌体塊形成能を有し、R−2株は、少なくとも市販酵 母株とは明確に識別できる菌体塊形成能を有することが 判明した。 【0030】パルスフィールド電気泳動 次に、各供試菌株0.5mlを、15%のNaClを含 むYPD培地10mlで30℃、48時間振盪培養して (7) 11 得られる各菌体を、遠心分離器で集菌・洗浄して使用し た。試料の調製は、染色体DNAの断片化を防止するた め、可能なすべての過程をアガロースゲル中で行い、ゲ ルブロックを調整した。ゲルは、1%のアガロース(Bi o-Rad 社製 Pulsed Field Centrified Agarose)ゲルを 用い、泳動には0.5×TBE緩衝液(pH8.0)を 使用した。泳動は、Bio- Rad社製CHEF−DR III S ystem を用い、泳動電圧6V/cm、パルス間隔(開 始:INT)60∼(終了:FIN)120秒、パルス 角120度、泳動時間22時間、槽内温度14℃で行っ た。電気泳動後のバンドを参考写真2に示す。参考写真 2からも明らかなように、R−2株、ZR−2f株、市 販酵母株ともに、ほとんど同一の染色体分離パターンで あった。ただし、R−2株及びZR−2f株では、市販 酵母株には認められない約800kbの位置に染色体D NAが認められた。このことから、ZR−2f株及びR −2株は、同属菌株ではあるものの、市販酵母株とは明 らかに異なる菌株であることが確認された。 【0031】実施例1 (ジャーファメンターによる回分発酵試験)上記細胞融 合によって得られたZR−2f株20mlを、前培養と して、15%のNaClを含むYPD培地500mlで 30℃、48時間振盪培養した。その後10分間静置し て培養液と共に沈降しない菌体を除去することによって 得られたZR−2f株の約50mlを、固定化担体に担持 せずに、そのままの状態で発酵試験用培地(酵母エキス 0.5%、ポリペプトン1%、グルコース10%、Na Clが15%、pH5.0)1リットルが入れられたジ ャーファーメンター(東京理化器械(株)製、品名:MI NI FERMENTOR M-100)に充填し、30℃で発酵させ、経 時的にそのアルコール濃度をガスクロマトグラフ ((株)島津製作所製、品名:GC−9A)によって測 定した。その結果を図5に示す。1回目の発酵は若干遅 延時間が長いものの、順調に発酵は進み、発酵5日目に は3.7%(W/V)のアルコールが生成された。この とき非凝集性となった株が出現するものの、発酵終了後 には凝集塊が沈降し、繰り返し回分発酵が可能であっ た。また、繰り返し回分発酵の2、3回目には遅延時間 が短縮され、発酵3日目で3.8%(W/V)のアルコ ールが生産された。 【0032】実施例2 (バイオリアクターによるエタノールの連続発酵試験) 実施例2− .図6に示す形状のように、管体20全体 が円筒状のバイオリアクター100(仕様:下方部20 aが容量約74ml、中間部20bが内径(直径)45 mmで容量約286ml、上方部20cが容量約60m lで総容積420ml)(東京理化器械(株)製、特注 品)を用いて、次の試験を行った。尚、このバイオリア クター100には隔壁及び小孔板は設けられていない。 このバイオリアクター100内に、発酵試験用培地(酵 10 20 30 40 50 特開2002−281958 12 母エキス0.5%、ポリペプトン1%、グルコース10 %、NaClが15%、pH5.0)1リットルを充填 し、上記実施例1と同様にして前培養したZR−2f株 の約50mlを、固定化担体に担持せずにそのまま充填 し、通気量0.1vvm、30℃で2日間循環発酵させ た。その後、同培地を流速10ml/hr∼25ml/ hrの速さ同バイオリアクター装置に供給して連続発酵 させた。経時的に生産された発酵液をサンプリングし、 このアルコール濃度をガスクロマトグラフ((株)島津 製作所製、品名:GA−9A)により分析し、アルコー ル生産性を測定した。その結果、菌体の生育と共に凝集 塊が増加したが、この増加した菌体塊が18日目にはバ イオリアクターの取出口6に付着し、その取出口6の閉 塞が起こり、安定した連続発酵は不可能であった。 【0033】実施例2− .次に、上記実施形態で説明 したバイオリアクター1を用いて同様に連続発酵試験を 行った。すなわち、図1に示す形状のバイオリアクター 1(仕様:下方部2aが容量約74ml、中間部2bが 内径(直径)約45mmで容量約286ml、上方部2 cが容量約270mlで総容積630ml。隔壁7の内 径(直径)70mm、各壁7の下端部と取出口6の下端 部6aの高低差Hが約20mm、隙間の幅約10mmを 作製した。尚、このものには、小孔板5は設けなかっ た。そして、これを用いて上記実施例2− と同様にし て循環発酵及び連続発酵を行ったところ、発酵液と、非 凝集菌体及び菌体塊との分離が速やかに行われ、取出口 6の閉塞が起きることはなかった。また、非凝集性とな った株は発酵液と共に排出されるものの、菌体塊はリア クター内に保持され、凝集塊の増殖が観察されることか ら、融合株の安定性の欠如は問題とはならなかった。 【0034】実施例2− の結果を図7に示す。アルコ ール生産性は発酵開始後、菌体塊の増殖と共に徐々に向 上し、20日後以降において、約1.4g/リットル・ hr以上(1リットルのリアクター反応槽によって1時 間あたり1.4g以上のアルコールが生産されることを 意味する)を維持した。このことから、固定化担体を用 いなくても安定した連続発酵が可能であることがわか る。このときのエタノール濃度は3.8%(W/V)で あり、エタノール転換率は74%であった。 【0035】実施例2− .さらに、菌体密度を増加さ せて連続発酵試験を行った。すなわち、菌体として、実 施例2− で得られた菌体塊のみを嵩容量約30ml取 り出し、これを用いた以外は、実施例2− と同様にし て循環発酵及び連続発酵を行った。その結果を図8に示 す。これにより、エタノール濃度4.1%、転換率80 %に向上させることが可能であった。 【0036】実施例2− .さらに、実施例2− で得 られた菌体塊のみを嵩容量約60ml取り出し、実施例 2− と同じ条件で下方部2aと中間部2bの間及び中 間部2bと上方部2cの間のそれぞれのフランジに目開 (8) 13 き2mmのステンレス製メッシュ(小孔板5)をそれぞ れ介在させたバイオリアクター1(図1のもの)を用い ステンレス製メッシュの影響について検討を行った。そ の結果を図9に示す。ステンレス製メッシュを介在させ ることにより、生成エタノール濃度及びアルコール生産 性がステンレス製メッシュを介在させないものは19日 間の発酵期間でほとんど上昇していないのに対して,ス テンレス製メッシュを介在させたものは速やかに向上す ることがわかる。これは、ステンレス製メッシュを介在 させることで菌体増殖の増加と排出菌体量の減少によ る、槽内菌体密度の上昇のためだと考えられた(発酵終 了後の凝集菌体量はステンレス製メッシュを介在させな いもので嵩容量約70ml、介在させたもので嵩容量約 120mlであった)。また、生成エタノール濃度及び アルコール生成速度ともステンレス製メッシュを介在さ せた方がばらつきが少なく、安定した発酵が可能であっ た。 【0037】実施例3 (バイオリアクターによる超うす口生揚げ醤油の連続発 酵試験) 実施例3− .本実施例では、下方部2aと中間部2b の間及び中間部2bと上方部2cの間のそれぞれのフラ ンジに目開き2mmのステンレス製メッシュ(小孔板 5)をそれぞれ介在させた点を除いては、実施例2− で用いたバイオリアクター1(図1のもの)と全く同じ ものを用いた。このバイオリアクターに、生揚醤油脱色 液(全窒素1.41%、食塩分17%、直糖分4.5 %、アルコール1.65%、pH5.1)1リットルを 充填し、上記実施例1と同様にして前培養したZR−2 f株の約50mlを、固定化担体に担持させずにそのまま 充填し、通気量0.1vvm、30℃で2日間循環発酵 させた。その後、同生揚醤油脱色液を流速30∼60m l/hrで同バイオリアクターに供給してエタノール濃 度が1%増加するように連続発酵させた。経時的に生産 された発酵液をサンプリングし、このアルコール濃度を ガスクロマトグラフ((株)島津製作所製、品名:GC −9A)により分析し、アルコール生産性を測定した。 その結果を図10に示す。アルコール生産性は発酵開始 後急速に向上し、14日後以降約1.1g/l・hrを 維持し、固定化担体を用いなくても安定した連続発酵が 可能であった。 【0038】実施例3− .次に、バイオリアクター1 から小孔板5を取り外したバイオリアクター(即ち、実 施例2− と同じバイオリアクター)を用いた以外は、 上記実施例3− と同様の試験を行った。その結果を図 10に示す。 【0039】実施例3− .実施例3− は、従来法で 行った。すなわち、実施例3− と同じバイオリアクタ ー1に、生体触媒として、市販酵母株を多孔質セラミッ ク担体(岩尾磁器社製、品名:セラミック担体)に担持 10 20 30 40 50 特開2002−281958 14 させた固定化担体を約400ml(嵩容量)充填し、以 後、実施例3− と同様の試験を行った。その結果を図 10に併せて示す。この固定化担体を用いた従来法で は、ZR−2f株に比して、アルコール生産性は約1/ 2倍であった。また、得られた発酵液は公知の発酵液 (品名:超うすくち生揚げ)との官能上の差は全く認め られなかった。 【0040】実施例4 (バイオリアクターによる超淡口生揚醤油の連続発酵試 験)バイオリアクター(仕様:下方部が容量3000m l、中間部が容量3000ml、上方部が容量3000 mlで総容積9リットル)(東京理化器械(株)製、品 名:MBRB−303)を用いて、次の試験を行った。 尚、このリアクターには、下方部と中間部の間及び中間 部と上方部の間のそれぞれのフランジに目開き2mmの ステンレス製メッシュ(小孔板)をそれぞれ介在させ た。このバイオリアクターに、上記実施例1と同様にし て前培養し,生揚醤油脱色液によって2日間30℃で静 置培養(時々撹拌)することによって馴化したZR−2 f株の約2000mlを、固定化担体に担持させずにそ のまま充填し、生揚醤油脱色液9リットルを通気しなが ら30℃で2日間培養した。その後、同生揚醤油脱色液 を流速9リットル∼27リットル/日で同バイオリアク ターに供給して30日間連続発酵を行った。経時的にア ルコール濃度を酸化法により測定し、アルコール生産性 を測定した。その結果を図11に示す。 【0041】アルコール生産性は発酵開始後から順調に 向上し、最高で1.4g/l・hrを示した。安定した 連続発酵が可能であり、1日でバイオリアクター容量の 3倍量の発酵液を得ることができた。また官能上、得ら れた発酵液は従来法で得られるものとの差は見られなか った。 【0042】実施例5 (バイオリアクターによる超淡口生揚の連続発酵試験) 図12に示す形状のような、管体120全体が円筒状に 形成されたバイオリアクター110(仕様:内径(直 径)約300mm、高さ約1500mm、総容積100リッ トル)(東京理化器械(株)製,特注品)を用いて、次 の試験を行った。尚、このリアクター120の内部に は、小孔板5よりも大きな目開きの上面開口型の網籠3 0が多段(6個)設けられている(直径280mmで高 さ210mmの底面付き円筒。6個のうち、下方から3 番目のものは高さ280mm)。さらに、この網籠30 のうち、図示した網籠30の底面外側に、目開き1.5 ∼2mmのステンレス製メッシュ(小孔板5)が設けら れている。また、このリアクター110の供給口3は、 被処理液用供給口3aと空気用供給口3bに別けられて いる。さらに、取出口6は、管体120の上方に設けら れており、同様に、管体120の上方には、空気排気口 31が別途設けられている。尚、隔壁は設けられていな (9) 特開2002−281958 15 16 い。このバイオリアクター110に、生揚醤油脱色液1 * 培地においても高効率で発酵処理ができるので、種々の 00リットルを充填し、上記実施例4と同様にして前培 被処理液を用いて発酵処理を行うことができる。さら 養したZR−2f株の約70リットルを、固定化担体に に、本発明のバイオリアクターは、比較的簡易な構造 担持させずにそのまま充填し、通気量8.0リットル/ で、処理液と生体触媒とを分離することができる。 min、30℃で2日間培養した。その後、同生揚醤油 【図面の簡単な説明】 脱色液を流速50リットル∼200リットル/日で同バ 【図1】本発明のバイオリアクターの一実施形態を示す イオリアクター110に供給して約225日間連続発酵 縦断面図。 を行った。比較例として、従来法(同バイオリアクター 【図2】図1のA−A線断面図。 110に、生体触媒として市販酵母株を多孔質セラミッ 【図3】バイオリアクターの固液分離部(上方部)を示 ク担体(岩尾磁器社製、品名:セラミック担体)に担持 10 す参考斜視図。 させた固定化担体を、約70リットル(嵩容量)充填し 【図4】供試菌株の沈降速度を示すグラフ。 たもの)により、同様にして約56日間連続発酵を行っ 【図5】実施例1の回分発酵試験に於ける発酵度合いを た。尚、従来法では、56日以後は、発酵ができなくな 示すグラフ。 ってしまった。経時的にアルコール濃度を酸化法により 【図6】従来のバイオリアクターを示す縦断面図。 測定し、アルコール生産性を測定した。その結果を図1 【図7】実施例2− の連続発酵試験に於ける発酵度合 3に示す。 いを示すグラフ。 【0043】アルコール生産性は発酵開始後から順調に 【図8】実施例2− の連続発酵試験に於ける発酵度合 向上し、1日でバイオリアクター容量の2倍量の発酵液 いを示すグラフ。 を得ることができた。得られた発酵液は従来法で得られ 【図9】実施例2− の連続発酵試験に於ける発酵度合 るものとの官能上の差は見られなかった。また、開始か 20 いを示すグラフ。 ら3週間後、運転を約2週間中断し、その後再運転した 【図10】実施例3の連続発酵試験に於ける発酵度合い が、従来法と比較して復帰が早く、復帰後も順調にアル を示すグラフ。 コール生産性が向上し、安定した運転が可能であった。 【図11】実施例4の連続発酵試験に於ける発酵度合い その後も断続的に運転を中断させたが、同様に復帰し を示すグラフ。 た。また、凝集性を有することで、漏洩菌の量が減少し 【図12】実施例5で用いた本発明のバイオリアクター たために濾過性がよくなり、作業性が向上した。 を示す縦断面参考図。 【0044】 【図13】実施例5の連続発酵試験に於ける発酵度合い 【発明の効果】本発明に係る新規酵母は、自己凝集性が を示すグラフ。 高く、大きな塊状となるため、担体に固定化などしなく 【符号の説明】 ても、バイオリアクターなどを用いて効率的な発酵が可 30 1…バイオリアクター、2…管体、2a…下方部、2b 能となる。特に、醤油などの発酵調味料の連続生産に好 …中間部、2c…上方部、5…小孔板、6…取出口、7 適である。また、本発明の新規酵母は、塩類濃度の高い* …隔壁、8…通過口、11…隙間 【図2】 【図3】 (10) 【図1】 特開2002−281958 【図4】 【図6】 【図5】 (11) 【図7】 【図8】 特開2002−281958 (12) 【図9】 【図10】 特開2002−281958 (13) 【図11】 【図12】 特開2002−281958 (14) 特開2002−281958 【図13】 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き 7 (51)Int.Cl. C12M C12N //(C12N C12R (C12M C12R (C12M C12R (C12N C12R 識別記号 1/00 1/12 15/02 1/16 1:645) 1/00 1:645) 1/12 1:645) 15/02 1:645) (72)発明者 岡本 智美 佐賀県唐津市元石町1番1号 佐賀県醤油 協業組合内 FI C12M 1/00 1/12 C12R 1:645 C12N 15/00 テーマコート゛(参考) D B Fターム(参考) 4B024 AA05 BA77 GA07 GA10 GA19 GA21 4B029 AA02 BB07 CC01 DA07 DC05 DC07 DF06 DG06 4B039 LB03 LC03 LG20 LQ24 4B047 LB07 LE01 LG56 LP01 LP19 4B065 AA72X AB02 AC20 BA08 BA22 BC24 CA06 CA42
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