2013年度図書委員会企画冊子

目次
はじめに
数学科
国語科
国語科
国語科
国語科
国語科
国語科
国語科
社会科
社会科
社会科
社会科
社会科
社会科
社会科
社会科
社会科
数学科
理科
理科
音楽科
音楽科
美術科
保健体育科
保健体育科
保健体育科
保健体育科
保健体育科
保健体育科
家庭科
家庭科
家庭科
英語科
英語科
英語科
英語科
英語科
英語科
専修選択科(フランス語)
理科助手
保健室
保健室
図書館
図書館
山下 道明
川口 恒久
小仲 透
和田 雅裕
石川 典子
今泉 健
川尻 洋
安永 美保
池上 浩之
松井 順太郎
樋口 拓
大迫 孝士
中田 悠志
福地 文子
熊田 あずさ
福田 豪太
木幡 一彦
西邨 奈穂
石川 裕載
中嶋 啓介
丹後 美紀子
橋本 利嗣
采野 要子
西村 仁志
飯田 洋平
牟田 規子
藤林 文博
奥 巧
小森 裕紀子
髙平 操
宮本 広子
瓜田 真由美
古野 直之
高尾 和佳美
寺石 祐子
山田 麻珠子
田中 伸子
藤本 早織
児玉 明子
竹下 司
紀 和江
山本 つかさ
宇野 珠代
末次 雅子
1
校長先生
教頭先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
先生
『芽むしり仔撃ち』
『死ぬときに後悔すること25』
『心星ひとつ』
『地球移動作戦』
『受験必要論』
『一瞬の風になれ』
『燃えよ剣』
『富士山の文学』
『吉田松陰』
『国難の正体』
映画『ミシシッピー・バーニング』
『風の男 白洲次郎』
『今日より明日 輝く自分に 逢いに行こう』 他
『ボブという名のストリート・キャット』
『誰も戦争を教えてくれなかった』
『風が強く吹いている』
『郷愁』
『いのちのバトン』
『椿山課長の七日間』
『シャーロック・ホームズ シリーズ』 他
『交響曲第一番』
『ハッピーバースデー』
『ぼくたちは世界を変えることができない』
『成功をめざす人に知っておいてほしいこと』
『風の中のマリア』
『アントキノイノチ』
映画『ベスト・キッド』
『心を整える。』
『風が強くふいている』
『ずーっと ずっと だいすきだよ』
『若草物語』
『キングダム』
映画『A Hard Day's Night』
『BOX!』
映画『黒部の太陽』
『続 明暗』
『想像して創造する』
『成りあがり』
『翔べ麒麟』他
『しげちゃん』
『ケネディからの伝言』他
映画『ロード・オブ・ザ・リング』
『四十九日のレシピ』他
『愛のひと』
あとがき
2
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【表紙イラスト 高校2年藤組 竹内萌】
はじめに
今年も、寒い冬がやってまいりました。さらにこの冬は「ソチオリンピック 2014」
が開催されています。皆さんの心も浮き立っていることと思います。
そこで、私たちの選んだテーマは、「心のあつくなる物語」です。
「あつくなる」といえば、スポーツ系の作品ばかり思いつくかもしれませんが、
先生方からは、様々な種類の本や映画を紹介していただきました。中には、
一人で複数冊の本を紹介してくださった先生もおられます。
まだまだこれから、寒い日が続きますが、オリンピックだけでなく、この冊子
に紹介されている作品で、皆さんの心があつくなって少しでもあたたまってく
だされば、幸いです。
最後になりましたが、先生方、お忙しい中原稿にご協力くださり、誠にありが
とうございました。
2014 年 2 月 14 日
京都聖母学院中学校高等学校
図書委員会 委員長
副委員長
1
高校 2 年藤組
高校 2 年藤組
竹内
汐瀬
萌
友紀
数学科
山下
道明
校長先生
大江健三郎
むしり仔撃
仔撃ち
『芽むしり
仔撃
ち』
新潮文庫)
(新潮文庫
)
今回のテーマが「心が温かくなる本」とずっと思い込んでいたのですが、ギリギリになって
「心があつくなる本」と知り急遽作品を変更しました。
なら、これしかないと思ったのは、ノーベル賞作家大江健三郎氏の初期の作品です。紹介の
タイトルに『死者の奢り』と書きたいところですが、中高生に紹介する書物のタイトルとして
ふさわしくないので、あえて『芽むしり仔撃ち』の方にします。
(実はあまり変わりませんが)
大江健三郎氏の初期の作品を読み入っていたのは約40年前、高校2年生の頃です。その頃
はガラにもなく石坂洋次郎氏や三浦綾子氏の作品を読んでいましたが、大江氏の作品は衝撃で
した。国語の授業では、夏目漱石氏や川端康成氏、井伏鱒二氏らの小説に触れ読んではいまし
たが、実はちっとも面白くなく、かといって石坂洋次郎氏や三浦綾子氏は読みやすいものの心
に突き刺さるようなインパクトはありませんでした。その点、大江氏の作品は、高校2年生当
時の私にとって、これぞまさしく文学である、と「心があつくなった」のを覚えています。
『飼育』は大江氏が東京大学在学中に著した名作で芥川賞受賞作品です。
その後、大江氏の小説はかなり読みましたが、(私にとって)難解なものが多く結局好きに
はなれませんでした。その点、これら初期の作品は読みやすく若かりし頃の大江健三郎氏に触
れることのできる名作だと思います。
とはいえ、それぞれの小説の内容は実は忘れてしまいました。最近は忙しくて小説というも
のを読んでいる時間がなかなかとれません。そのうち時間ができれば読みなおし、およそ40
年前の「あつい思い」を取り戻してみたいと思います。
なお、私個人の極めて勝手な考えですが、ノーベル賞候補と毎年噂をされている村上春樹氏
はまだまだ大江健三郎氏には及ばないような気がします。
(村上春樹ファンの方ごめんなさい)
2
国語科 川口 恒久 教頭先生
『死ぬときに後悔すること 25』
25』
大津 秀一 著 致知出版社(2009)
致知出版社(2009)
昨年(2013)は「いつやるの、今でしょ!」というフレーズとともに、林 修先生の
露出が目立った年だった。もちろん、誰でも今すぐとりかかることがいいのはわかって
いる。でも凡人は、今やれないからダメ人間なわけである。林先生も今やれるようにな
る方法まで教えているわけではない。昨年は日本中の老若男女が、「いつやるの? 今で
しょ!」の流行語を口にしたはずだが、おそらく、実際に今やった人は1%もいるまい。
今やらない、今やれないのはなぜだろう。どうやら原因は、やらなければいけない本
当の理由と期限が明確でないことにあるようだ。その点については受験勉強なら明解だ。
「やらなきゃ合格しない→受験日まであと○○日→いつやるの?→今でしょ」となる。
受験勉強はゴルフのように「入れるべき穴」と「目標打数」が決まった単純なルールで
成り立っている。もちろん実際のプレーには、風が吹いたり、ラフがあったり、精神状
態が影響したりと、数々のドラマがあり、困難な道のりが待ち受けているのだが……。
しかし、人生の本当に大事なものは、今やるべき明確な理由に気づかないまま過ぎて
いくものである。たとえば、
「会っておきたい人に会いに行く」という大切なことをやり
とげている人が、どれほどいるだろうか。
「いつでもできる」と思っていることは「いつ
までもしない」と同じ意味なのだ。
実は、人生の本当に大事なことを「今」やり遂げなければいけない理由はちゃんとあ
る。それが何かを気づかせてくれるのが本書である。人は死ぬ間際に何に後悔するのか。
それは「やって失敗したこと」ではなく「やりたくてもやらなかったこと」だそうだ。
死を目の前にして、「あと命が 1 日あれば、すぐにでもやるのに」と人は涙を流すので
ある。だとするならば、本当に生き生きと人生を過ごし、大切なことに今すぐとりかか
るためは、「死」という期限こそが明確な理由になるといえるだろう。毎日、「死」を意
識して過ごせる人だけが、「生」を後悔しないのかもしれない。
本書は終末期医療の専門家が 1000 人の死を見届けた経験から執筆したものである。
最近、数多出版されている軽いノリの自己啓発本と内容の違いはあまりない。にもかか
わらず、妙に「現実味」が伝わってくる。決して熱く語っているわけではない。しかし
「今」という言葉がとても切なく、いとおしく感じられてくる。
ところでこの本、いつ読むの?
もちろん、今でしょ!
3
国語科
小仲
透
先生
「書架の向こうから」
【第121話】
大阪の大水害で家族を全て失くし、かつて漆
器の塗師であった父の仕事を認めてくれた料
亭に奉公に出た少女。やがて彼女は女ながら
に料理人を志す。江戸へと移り、つましく暮
らす市井の人々のために、豪華でも珍奇でも
ない普通の食材を様々に工夫して、お客に喜
んでもらうことを自らの喜びとしながら、喪
われたかつての奉公先の料理屋の再興を目指
し、また記憶を失って売り飛ばされ、今は吉
原に太夫として暮らす幼馴染に思いを馳せる。
周囲の、普通に暮らす普通の人々が、そんな
料理人を支え、時に導く。豆腐丼、大根の油
焼き、生麩田楽、蕪蒸し、温寿司、寒鰆の昆
布締め、鱧の葛叩き……、彼女の作る料理に、
私たちは「箸を置く暇もないほどに」夢中に
なって読み進んでしまう。それはきっと「美
味しい、というのはただ、味のみで決まるわ
けではない。その料理に宿る思い出も、美味
しいと思う気持ちを大きく左右するのだ」
「口から摂るものだけがひとの身体を作る。
以前、お医者さまからそう伺いました。料理
人は、ただ口に入るものを作れば良い、とい
うものではないと思います」という主人公の、
そして作者の立ち位置に、知らず知らず私た
ちが賛成の一票を投じているからだろう。寒
さと屈託に足の遠のいていた、お店のたたず
身を尽くし。
雨気が一層の寒さを呼んで、その日、つる家の暖
簾を潜る者たちは、一様にがたがたと身を震わせて
いた。
湯で充分に温められた器に、熱い汁。
どのお客も両手で器を持つと、ほかほかと立ち上
がる湯気に鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。味噌の良い香り
に、うっとりしながら箸を取る。鰯の団子は口へ入
ほぐ
れるとほろほろ解れる。幾度か噛めば、鰯の旨味に
味噌と生姜の余韻を残しながら喉の奥へと消えて
しまう。暖簾を潜る時に冷えて青かった顔が、帰る
頃には温まって満ち足りている。間仕切り越しにそ
の様子を見て、澪は幸せを噛み締めた。
(『みをつくし料理帖 心星ひとつ』)
寒の底にうずくまるようにしてやり過ご
す冬の日々。朝のかん高い鳥の鳴き声に仰
ぎ見る上空の透明な青。同じ空に、帰路を
辿れば、冴え冴えとした月が白く懸ってい
る。猫はストーブの前に丸まったまま時折
薄目を開けて動かない。無為に送る冬の時
計は、ことさらにゆっくりと動くような気
がいたしますね。
良質の物語と料理は、どちらも人の心を
芯から温めてくれる。そのことにどなたも
異論は無かろう。その二つを、別々にでは
なく、同時に味わえる至福とでもいうもの
を、高田郁という才能が切り拓いてくれた
ことに、感謝したい。一人の少女の人間的
な成長を描く教養小説としても読める一
冊に「炊き合わせ」られた、誰でも思いつ
きそうで、けれど誰も到達しえなかった組
み合わせ。手を合わせて「いただきます」
と唱えたい。
よ
まいが胸を過ぎる。
髙田郁
『心星ひとつ
みをつくし料理帖』
(ハルキ文庫)
4
国語科
国語科
和田
『地球移動作戦』
地球移動作戦』
雅裕
山本
先生
弘 (ハヤカワ文庫
ハヤカワ 文庫)
文庫 )
幼少の頃は熱くなれるものがたくさんあったように思う。世の中の多くのことが未知の輝きにあふれ
ていて、すべてがキラキラしていた。身近な昆虫の世界であろうと、深い海底の広がりであろうと、手
の届かない宇宙の果てのことであろうと、思いを馳せるだけでわくわくできた、熱くなれた。それは、
どんなに田舎であろうとも、都市の真ん中であろうとも、変わりがない。幼く何も知らなかったあの頃、
毎日が本当に輝いていた……。
しかし、教育と言うものはある面で残酷である。世の不思議に憧れを抱く美少年であった私も勉学に
勤しむうちに、
「物理の法則はよくできているな」
「自然科学とは揺るがないものなのだな」という科学
の常識に甘んじて、未知なる世界への思いを失っていくことになる。科学が色々なものを論理的に解明
していく姿にある面では賛美の拍手を贈りつつも、未知のものに対する熱い思いを萎えさせていくとい
う事実を体感してしまったのだ。昆虫の生態が詳しく紹介されるようになり、海洋生物の謎が解明され
ていくことに、わくわくしていた気持ちは興味を残しながらも醒めていった。
ただその中でも、宇宙に対するロマンだけはとても長い間私を魅了してやまなかった。幼稚園に入園
する前、父の書斎にあった原色現代百科事典①『宇宙』の本に興味を抱いて以来、浪人時代に志望学部
を文学部に変更するまでは、真剣に第一志望を理学部の宇宙物理学専攻にしていたのである。
『物理Ⅱ』
の教科書に載っていた「第一宇宙速度(地球の衛星として必要な速度)」
「第二宇宙速度(地球の重力圏
を脱出できる速度)」は、高校生の美しい青年を熱く夢見させたものである。
宇宙を舞台とする小説は古今東西、巷にあふれている。SF(サイエンスフィクション)と言う名の
もと、ハードなものからラノベまで枚挙にいとまがない。しかし巨匠のすぐれた作品であっても、物理
法則を丁寧に扱っているものはそれほど多くはない。可・不可は別にしても、科学的にわくわくできる
小説は実に少ないのである。いや、むしろ「それは物理的にありえないやろ!!」とか「それ、自然科学
の法則、完全に無視してるよな!?」などとツッコミを入れたくなるようなものが本当に多いのだ。それ
が原因かどうかはさだかではないが、熱くSF小説を読むことが減っていたような気がする。
そんな中、『地球移動作戦』に出会うことになる。なぜこの本を購入したのかはよく思い出せない。
ハードなSFを読みたいと思っていた気持ちが手に取らせたのかもしれない(←この上なく非科学的)。
この作品は、作者の山本弘氏が 1962 年に公開された映画・『妖星ゴラス』の発想を受け継ぎ、SFと
してより完成度の高い作品として世に送り出したものと言えよう。科学的知識や物理法則を小説の中に
投入することによって、作品世界をリアルなものにしている。
2083 年、タキオン推進装置により宇宙に飛び出した人類は、探査船〈ファルケ〉から太陽系に
向かう鏡像物質(目には見えない・ミラーマター)の星〈シーヴェル〉を発見する。そして計算上
24 年後には地球から 42 万 3000 ㎞の地点を通過。その際月は消滅し、地球環境も壊滅的な被害を
被ることが予想された。地球を守る方法は……
未来の世界設定も科学理論もハードな作品であり、人間の利害や愛憎が入り混じって、読みごたえは
抜群である。知的にハラハラドキドキの熱くなれる作品であった。
追記
息子も娘も生物への好奇心は高いが宇宙への関心はそれほどでもない。ちょっとさみしい。
5
国語科
林 修『受験必要論
石川典子
先生
人生の基礎は受験で作り得る』
人生の基礎は受験で作り得る』
(集英社)
集英社)
今回の図書委員会の企画のテーマは「心があつくなる本」だそうですが、実はた
またま最近この本を買って読んだというだけで、この本を読んで自分は「あつくなっていない」よ
うな気がします。ただ、私自身林先生にあこがれていて「先生のようになりたい」と思っているの
と、私が「あつく」なっていたのは、まさに自分の受験時代、十代の高校生のあのときだったのだ、
ということは厳然とした事実で、そういう意味では、
「あつい時代を思い出させてくれた今一番ホッ
トな(熱い)本」であることは確かです。
「受験はしんどい、なんで受験なんかあるんや!」と多くの生徒が思っていると思います。私は高
校にあがるころには、ある大学にどうしても入りたくて、それが自分の使命のように考えていまし
た。高 1 のときから「絶対あの大学に入ってやる!」と思って勉強しようとしていました。
しかし、早いうちからしっかり勉強して確実に志望校に合格する、という緻密な計画は3年間着
実に実行されることはありませんでした。高校ではクラブに入らずに勉強に専念しようという計画
はあっさりと 1 年生の時に方向転換。クラブに入らない学校生活ってなんだかつまらない…と思い
だし、結局ある先生に勧められるままにその先生が顧問をしているクラブに入るはめに。
高 2 になったら勉強に専念しようと考えていたら、なんとなりゆきとはいえ、生徒会長に立候補
することになり当選、高 2 の 1 年間は生徒会活動に追い立てられる生活に。文化祭のころには精神
的に参ってしまって神経性胃炎になりました。
気が付いたら高 3 になっていて、結局受験前の 1 年間でバタバタと勉強することになったわけで
す。でも、今も思い出すのは、その受験前の 1 年間、いや普段もそれなりにちゃんと勉強してまし
たが、ほんとによく勉強したなあ、ということです。一生のうちであれだけ勉強した日々はない、
と言い切れるほどです。実際入試の直前のあの頃が知識的にも、思考力的にも自分自身の最高のレ
ベルだったんだと思います。英語の文章の読解にしても、あの時が最も多くの英単語を知っていて、
一番早く読めて一番よく理解できたんだと思います。
林先生のこの本の表紙に「受験で使った能力は、その後の人生で 1 回も使わない。それでも受験
が必要な理由をこの本で伝えよう!」とあります。
「受験で使った能力はその後の人生で 1 回も使わ
ない。」確かにそう考えることもできます。私の例で言うならば、国語教師ですから、受験時代に詰
め込んだ古典や現代文の知識はたぶん仕事に役立っています。でも英語の勉強や理科の勉強が今の
生活に役立っているかと言われれば、「どうかなあ…。」と思う事はあります。
ただひとつ言えることは、受験があったからこそ、自分の目標や夢があったからこそ、あれだけ
勉強ができたのだということです。そして大人になった今でも、
「あのときあれだけしんどい勉強が
できたんだから、今できないことはないし、今ある試練なんてたいしたことない。
」と考えられる自
分がいる、ということです。
そんなことから、林先生の「受験必要論」には賛成です。でもこの本に実際書かれている内容は、
「がんばって受験勉強しなさい」という事ではありません。青春時代のいろんな人のいろんな能力
ののばし方があってそれぞれでいいけど、人間としてしっかりやりなさい、というメッセージでは
ないかな、と思います。
ある意味、今受験勉強真っ最中の人は受験についてそれが必要かどうか、語っている場合ではな
いですよね。そういう人は読まなくていいです。むしろ、学校と予備校の問題について書かれてい
る部分も多く、今の教育の在り方について考えさせられるところも多いので、この本は先生方に読
んでもらいたいような気がします。
6
国語科
今泉
建
先生
佐藤多佳子 『一瞬の風になれ』 (講談社文庫)
第1部
イチニツイテ
第2部
ヨウイ
第3部
ドン
全3巻のこの作品は公立高校(春野台高校)の陸上部を舞台にした物語です。
中学卒業まではサッカーチームに所属し、得点力に欠けるエースストライカーの「新二」は高校
に進学して、はずみで「陸上部」に入部することになり、短距離ランナーとなります。
そして新二の幼なじみで、短距離走で全国レベルの記録を出したのに中3で部活をやめてしまっ
た「連」も同じ春野台高校の陸上部に入部します。
不器用だけど決して練習をさぼらない新二と、天才的なスプリンターだけど我慢する力がない連。
この2人を軸とした陸上部の部員たちのクラブ活動が生き生きと描かれていて、読み進めるにし
たがって、読者の自分も春野台高校の部員になって、新二や連と一緒に大会に出場したり、仲間の
試合を大声で応援しているような感覚になっていきます。
新二は天才肌の連に追いつこうと必死に練習しますが、どうしても追いつけない。何度も何度も
挑戦するけれど勝てない。そんな彼は記録が伸びないことに悩み、部活の友人関係に悩み、尊敬す
る兄との関係にも苦しみます。主人公の新二を身近に感じるのは、彼がヒーローでもなんでもない、
不器用で平凡な高校生だからでしょう。
この作品で最も好きなのは新二・連を含む4人のメンバーによる「4継」競技の場面です。
4継とは、4人がバトンをつなぎながら 100mずつ走るリレー種目です。この競技の魅力にとり
つかれていく新二は、自分のミスが原因で次の大会に出られないという大失敗をおかします。悩み
苦しんだ彼がその時のことを次のようなことばで振り返ります。
「人生は、世界は、リレーそのものだな。バトンを渡して、人とつながっていける。一人だけで
はできない。だけど、自分が走るその時は一人きりだ。誰も助けてくれない。助けられない。誰も
替わってくれない。替われない。この孤独を俺はもっと見つめないといけない。俺は、俺をもっと
見つめないといけない。そこは、言葉のない世界なんだ─たぶん。」(第3巻)
いかに速く走り、いかにスムーズにバトンの受け渡しができるか…。シンプルなこの目標のため
に、メンバーたちは一瞬の風になってコースを駆け抜けていく。バトンを渡された走者が感じる孤
独と静けさ。ゴールした瞬間にメンバーの耳によみがえってくる大歓声。そんな静と動の世界を描
いたこの作品を読むたびに、何度も胸が熱くなります。
私たちは誰かとつながることや次の世代にバトンを渡すことで生きていることを実感できます。で
も一方で、誰も替わってはくれない孤独な走者でもある。この2つを抱え続けることが生きること
なのかも知れません。心があつくなるこの本をぜひ読んでほしいです。
7
国語科 川尻 洋
先生
司馬遼太郎『燃えよ剣』(新潮文庫)
司馬遼太郎『燃えよ剣』(新潮文庫)
▼「燃える」
「燃えよ」という条件でネット検索していたら、
懐かしい本に出会った。『燃えよ剣(けん)』(司馬遼太郎)
である。数十年前に、これを原作とした時代劇が毎週テレビで
放映されていたことがあったのだ。
江戸幕末の頃、「誠」の旗の下に結集した新選組隊士たちの
生き様を描いたもので、従来とは違う新鮮で衝撃的な所があっ
た。他に『新選組血風録』『新選組始末記』『幕末新選組』などもあり、NHK大河ドラマや映画
でも幾度か上映されたが、主人公の土方歳三を栗塚旭が演じたものが最も印象的だった。
▼当時、薩摩と長州は「錦の御旗」を奉じて倒幕を企て欧米列強と対抗できる新政府を樹立しよ
うとしていた。それに対し、近藤勇を局長とし土方を副長とする新選組は、勤皇・佐幕という大義
のために闘い続けた。天下の趨勢が決しつつあっても、自らが信ずる「誠」と「義」のために薩長
のものをその剣で斬り続けたのである。明治維新はそのために10年は遅れたとも言われる。
▼一体そんな新選組を描いた『燃えよ剣』の何が新鮮で衝撃的な
印象を与えたのか。
1つは、厳しい規律の中で自らの勝敗も時勢も顧みず、ただ「誠」
と「義」のためだけに命を賭けて闘い続け燃えつきたことだ。薩摩・
長州のような大局観や先見の明などあるわけではなく、むしろ愚直
とさえ言える。しかし、美しい。そんな生き方もあるのだ。
2つ目は、従来とは全く違う斬り合いの場面の衝撃的な映像だ。
背を低くし剣を相手に水平に向けてただ敵を斬り倒すことだけを考
えた構えで、美しい型などというものは一切ない。あるのは、生き
るか死ぬかという極限状況で闘う燃えるような生々しさだけである。
3つ目は、これらを象徴する栗塚旭が演ずる土方歳三の存在だ。
天下がどうあろうと自分が考える美しさのために殉ずべきだとその
美学を貫く土方歳三いや栗塚旭は、限りなく強く爽やかで美しい。女性ならずとも、男もまた心惹
かれずにはおれない「カッコ良さ」である。
三条・池田屋で全国にその名を轟せた新選組も、その後の戊辰戦争では
薩長の奉ずる「錦の御旗」の前にはなす術もなく、鳥羽伏見・会津・函館
五稜郭と転戦して行くしかなかった。最後にただ一騎、敵陣に突進し討ち
死にする土方の美しさはあまりにも鮮明で、心震わせ涙せずにはおれない。
▼「燃えた」のは激動の時代を生きた近藤・土方・沖田総司たちだけで
はなかった。それを追体験する我々も涙し燃えずにはいられない。女生徒
には不向きかもしれないが、現代も土方歳三・沖田総司の女性ファン達は
多いと聞く。歴史的事実そのままではないにせよ、自己の信念を貫いて生
きるという真実の美しさは、時代を超えて胸打つものがある。一読・一見の価値はあるだろう。
8
国語科
安永
美保先生
久保田淳『富士山の文学
久保田淳『富士山の文学』
富士山の文学』(角川ソフィア文庫
(角川ソフィア文庫)
角川ソフィア文庫)
富士山は燃えているか…
「富士山は燃えているか…」映画のタイトルのようなこの質問に皆さん
はどんな風に答えますか?真面目な人なら「燃えていませんよ」と答え
てくれるかもしれませんし、理系に明るい人なら現在の富士山について
科学的な視点から説明をしてくれるかもしれません。では、真面目でも
なく、理系でもない人は何と答えるのがよいのでしょうか。ここで紹介
する『富士山の文学』はその答えの手掛かりを与えてくれる本です。
この本は『富士山の文学』と銘打っているだけあり、富士山についての記述がある文学作品を古
代から現代に渡って集めています。このような一つの切り口から複数の作品を読むことは色々な時
代の人々のイメージを垣間見るようで読書の楽しみの一つです。私の趣味は新選組を題材にした小
説や漫画を集めることです。中学生からスタートしたこの趣味ですが、闇雲に読書するよりも何か
切り口をもうけてみようと思い「沖田総司」に焦点をあてて読んでいます。なぜ「沖田総司」かと
いうと、ほとんど歴史的には活躍していないにも関わらず彼を主人公にした作品は数多くあり、現
代の私たちがイメージする「沖田総司」は歴史上の人物というよりは色々な書き手に描かれるうち
に作り上げられたヒーローのような気がするからです。そういった切り口から読み進めていくと、
歴史を軸につくられた物語から歴史上のヒーロー達がひょっこり顔をだしているような気さえし
ます。
では、冒頭の「富士山は燃えているか…」の問いですが、富士山は実際に燃えていた時期もあり
ます。皆さんの身近な例をだすと、平安初期に書かれた『竹取物語』には「その山をふじの山とは
名付けける。その煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ言い伝へたる。」という記述がありますし、平
安中期に成立した『更級日記』にも「山の頂の少し平らぎたるより煙は立ち昇る。夕暮れは火の燃
え立つも見ゆ。」と記されています。また、
『古今和歌集』には「富士の嶺のならぬ思ひに燃えば燃
え神だに消たぬむなしけぶりを」等の「燃える富士山」と「成就しない恋心」を重ね合わせた和歌
も収録されています。これらの情報だけなら「昔は富士山って燃えていたんだなぁ。でも今は燃え
ていないよね。」という感想で終わるのですが、私は古典文学の中に出てくる「燃えている富士山」
を疑っています。というのも、冒頭にあげた『古今集』の序文には「今は富士の山も煙立たずなり
…」という記述があり、平安時代を通して富士山は煙をあげていたわけではないことがわかるので
す。それでも『古今集』に詠まれる富士山は全て「燃えている富士山」です。
これらのことから、後世に与えた影響もふまえて「燃えている富士山」というのは実際に燃えて
いるかどうかやそもそも富士山が見えるのかは問題ではなく、
「熱い思い」を表現するための格好
のシンボルだったのではないでしょうか。日本人は「自然としての富士山」の他に、「イメージと
して受け継がれてきた富士山」をもっているといえるのです。したがって、京都からはみえない富
士山でも「富士山は燃えているか…」の問いかけに対して私はどや顔でこう答えようと思います。
「富士山は燃えています。私の心の中で…」と。(笑)
9
社会科
池上
浩之
先生
徳永真一郎 『吉田松陰』(
『吉田松陰』(成美堂出版)
成美堂出版)
このほど
おもさだ
いでたち
うれし
『此程に 思定めし 出立は
けふきくこそ
嬉 しかりける』
しかりける』
(死への覚悟はできており、今日死ぬ(死刑の執行)ことを聞いて、うれしく感じる)
上は、吉田松陰辞世の句と知られているものだ。彼の自筆と思われるものが、もう1つ出てきた
というニュースが、1月24日(金)の新聞紙上に載った。時の権力者井伊直弼の腹心長野主膳が
書いた手紙を貼りつけた巻物に添付されていたという。山口の片田舎で幽閉され、弟子たちを先導
して次から次へと過激な計画を立てるものの、全て未遂に終わっただけの男の辞世の句を、なぜ、
長野は牢役人を通じてわざわざ手に入れたのだろうか?その答えは、死刑にしても、彼の言動の影
響の大きさを井伊側が痛感していたと考えるしかない。
では、なぜ?
そして、今なお、松陰や、松陰の弟子たちの足跡が、人々を惹きつけるのはなぜだろう?
吉田松陰の人生に触れる時、彼の目指すこと、すること、全てが失敗に終わり、目に見える形での
成功をおさめたことは1つもない。しかし、それでも彼は、立ち上がり、また1から新しい道を歩
み出してゆく。しかも、人をとことん信じ、とことん理想を追求して…。
彼の信念の言葉が
『至誠にして動かざる者は未だこれ有らざるなり』
である。この言葉のまま、海千山千の取り調べに当たった奉行にも、自分の志を真っ直ぐに表明し、
幕府がつかんでいなかった情報を告白して驚かれている。この、『馬鹿』がつきそうなぐらい愚直
な生き方を批判するのは簡単だろう。そして、そう批判したとしても、彼は、「行動なき者に語る
わ ら
資格はない。よって、私は行動で語るのみで、嘲笑いたければ笑うがよい。」というだろう。
要領よく生き、上手く立ち振る舞う生き方を賢いと褒められるのが、世の常である。だからこそ、
志を大切に純粋に生きた吉田松陰の生き様に、人は自分にないものを見つけ、憧れるのかもしれな
そうもうくっき
い。そして、自分の思想を純化して『 草 莾 崛 起 (名もなき一般の人々が国のことを思い、立ち上
がること)』という境地に達し、志をもって崛起する人間に身分の貴賎はないとした考え方に、近
代の息吹を感じる。その延長上に、弟子の高杉晋作の創設した奇兵隊があり、明治の軍隊制度があ
ることを、私たちは知っている。しかし、彼、吉田松陰はこれを知らないが、日本の未来、弟子達
を信じて泰然として死んだのだろう。この、信念の人『松陰』の生き方は、これからも人々を惹き
つけるだろう。
10
社会科 松井 順太郎 先生
ま ぶ ち む つ お
馬渕睦夫 『国難の正体』(総和社)
馬渕先生は,駐ウクライナ兼モルドバ大使,防衛大学校教授を務められた方です.
まごさきうける
立場としては,保守の立場をとっておられますが,以前に紹介した孫崎 亨 先生とよ
く似た経歴をお持ちです.いよいよ,保守や極右と呼ばれる人々も,グローバリズム
の功罪に気付き始めました.それは,この著書の出版と馬渕先生のご活躍の影響が大
きいと考えられます.聞こえの良いグローバル化社会という言葉ですが,まずグロー
バリズムの正体が明らかにされています.また,日本,中国,北朝鮮,韓国,いわゆ
る東アジアの国際関係は,あえて不安定な緊張状態にさせられていると述べられてい
ます.そこに関与しているのは,米国でもなく英国でもありません.どこかの国家で
はないということです.東アジアを不安定にさせることにより,また大きな戦争をさ
せることにより,利益を上げる人達がいます.一体どのような人達なのでしょうか.
著書の中に,
「ウォール・ストリート」という地名と国家を不要とする考えを持つ人々
の存在が何度も出てきます.さらに素晴らしい分析は,米国の国防省と国務省が互い
に違った方向を向いているとされる点です.このことは,尖閣をめぐる現状を明確に
理解させてくれます。そして,この著書では,共産主義はどのようにして作られたか
という点に重点が置かれています.米国と中国は本当に対立していたのでしょうか.
米ソ関係はどうでしょうか.そもそも誰が共産主義を作ったのでしょうか.時代は,
グローバル経済やグローバル社会について,しっかりと情報を集めなければならない
所に来ました.
11
社会科
映画
樋口
拓
先生
『ミシシッピー・バーニング』
監督:アラン・パーカー 主演:ジーン・ハックマン,ウィレム・デフォー
1964 年、ミシシッピー州で公民権運動¹の活動家3人が保安
官に交通違反で逮捕された後、KKK²に身柄を引き渡されて
殺害されるという事件が起きた。
映画『ミシシッピー・バーニング』は、この実話をモデルにした作品です(脚色に
ついては問題が指摘されていますが)
。ジーン・ハックマン演じる叩き上げの捜査官と
ウィレム・デフォー演じるハーヴァード大出身のエリートという対照的な2人が公民
権運動家3人の失踪事件を捜査するが、人種差別の壁に阻まれて捜査は難航し…。
映画では当時のアメリカ南部における人種差別が描かれていますが、その理不尽さ
には改めて怒りをおぼえます。暗い作品ではありますが、ストーリーの展開が巧みで、
しだいに映画の世界にひき込まれていきます。そして、人種差別主義者たちの犯罪を
暴いていく痛快さときたら…。正義の心を熱くさせる作品です。
注1.公民権運動…アメリカで 1950 年代から起こされた人種差別撤廃運動で、黒人の法的平等と政
治参加の権利が求められた。1963 年のワシントン大行進で“Ⅰ have a dream.”
と演説したマーティン・ルーサー・キング牧師は、公民権運動の先頭にたった人物
として有名。
注2.KKK(クー=クラックス=クラン)…アメリカの人種差別主義者による秘密結社。白人の優越
を守るために組織され、黒人を放火やリンチで脅迫した。
12
社会科
大迫
孝士
先生
青柳恵介 『風の男 白洲次郎』(新潮文庫)
第二次世界大戦の終戦後から日本国憲法制定、サンフランシスコ平和条約に至るまで、当時の
首相吉田茂の腹心として活躍し、日本占領下の権力であったGHQ相手に一歩も引かなかった
男。ケンブリッジに留学しイギリスの自由主義の気風をうけたので、戦前から軍国主義を良しと
せず、戦時下にあっては敗戦をすでに予測し食料を得ようと田畑の耕作にいそしんだ男。日本人
で初めてジーンズをはいて写真におさまった(?)男。それが白洲次郎です。男にとっても心熱
くなる、男がほれる男の代表格だと思います。
本書は、本人の妻・正子(この人も古典文学や古美術にまつわる著作で知られる)の友人の手
による伝記調のノンフィクションです。読むようになったきっかけは、またもや私の読書動機と
しては多い「メディア化作品」から「原典・参考文献」にさかのぼる…というパターンではあり
ましたが、数年前NHKで放映された伊勢谷友介さん主演のドラマ「白洲次郎」は話題にもなり
ましたし、覚えている人もいるかもしれないですね(昨年の高Ⅲの近現代史の授業では、一部見
せました。そのとき参考図書として本書を含め紹介したら、実際に白洲次郎氏の著作まで手を広
げ読んでくれた生徒がいたのはうれしかった…)。
本文を読み進めると、彼の年代や人脈関係を追ったスタイルでありながら、印象に残ることが
2つあります。
ひとつは時代に応じた(刃向かったともいえる?)生き方の多様さです。芦屋の豪邸に住む大
商人の家に生まれた幼少年期、奔放な少年であったため「島流し」のように放り出されたイギリ
ス留学で自由主義や合理的な考え方を身につけた青年期から、戦争への道の時代に貿易ビジネス
に身をおきながら日本欧米の架け橋づくりをもめざした壮年期。英語力と交渉力、物おじしない
態度が功を奏して政治の裏方役で大活躍する終戦後から、再び財界へと舞台を変える高度経済成
長期。いずれの時期でも、ぶっきらぼうのようで人付き合いには細心をはらい、必要なときはガ
ツンという彼の人柄が読む者をさわやかな気持ちにさせてくれます。
もうひとつは、随所にちりばめられる彼の機転やそれにもとづく英語表現。社会の上に立つ者
は還元をする行いをすべきだと言う意味の英句「noblesse oblige」を話によく使い、日本人なら
気恥ずかしくなって話しにくい奉仕的な精神をさらりと表現したり、農業生活にあったころの自
分を「隠居生活」といわず「カントリー・ジェントルマン」と言いのけたり、こういうのをウィ
ットにあふれた人というのでしょうか。なかでも私が好きなのは彼の多用したことば「プリンシ
プル(原理・原則)」とそれを重んじて自説をまげなかった彼の姿勢です。
歴史の教科書の表に出ないところに、こんな爽快な力強い人物が
いたとは、何とすがすがしく、心躍ることでしょう!!
13
社会科
中田
悠志
先生
きむ 『今日より明日 輝く自分に 逢いに行こう』
(いろは出版)
「はじめに言葉があった。言葉は神とともにあった、言葉は神であった。」
これは新約聖書の有名な一節です。この一節の解釈は人それぞれですが、
認識論の議論においては、私たちの認識は言葉を通じて行われ、したがって
言葉がこの世界を作っている、と考えます。哲学的な話はさておき、言葉は
ものすごい力を持ちます。ナイフよりも心を傷付けるのも言葉、そして人を
幸せにするのも言葉。励ますのも、勇気づけるのも言葉。私たちは素敵な言
葉に出会うことで、人として成長できるのです。
著者のきむという人は 1980 年生まれで、99 年に写真を撮り始め、翌 2000
年に京都寺町の路上で自分のつくった詩(言葉)を写真にのせたポストカード
を売り始めました。それらのポストカードは京都 LOFT などでも売られている
ので、見たことのある人もきっといるでしょう。
この本は彼の多くのポストカードを本にし、さらにその3冊セットという豪
華版です。1ページめくるごとに、心が洗われたり、勇気づけられたり、幸せ
になったりする写真と言葉が目に飛び込んできます。ぜひこの本を読み、神々
しい数々の言葉との出会いを果たし、心を熱くしてください。
14
社会科
中田
悠志
先生
古市憲寿 『誰も戦争を教えてくれなかった』(講談社)
ちょうどこの本を読み終えて、この原稿を書いている。
心が熱くなっている。
この本は著者が世界各国の戦争にまつわる博物館を訪れ、そこで感じたことを素直に述べると共に、そ
の背後にあるその国の戦争観や歴史観にまで掘り下げて考察をしている興味深い内容のものである。著者
である古市憲寿は 1985 年生まれの新進気鋭の社会学者であり、彼のテレビや雑誌、新聞などでの鋭い洞察
力や発言が近年とても注目されている。
『誰も戦争を教えてくれなかった』という本のタイトルどおり、著者も私も、そして今これを読んでい
る中高生も第二次世界大戦のことを誰にもきちんと教えてもらっていない。だけれども、戦争とは無関係
に今日の日本があるとも、また今の世界が全く戦争のない平和な状態だと考えている人は誰もいないだろ
う。だとするならば、一度この本を開けて読んでみる意味は多分にある。ページをめくるたびに新しい発
見や感動、そして考えさせられることが一杯で飽きることがない。しかも、話し言葉に近い簡単な表現で
書かれているため、とても読みやすい文章なのも中高生には助かる。
面白い内容を一つ紹介しよう。
2003 年のペ・ヨンジュン主演のドラマ「冬のソナタ」から韓流ブームが始まったが、今も BIG BANG
など K-POP が日本で流行している。当然のことながら、韓国によるこのようなソフトパワーの日本への売
り込みは極めて戦略的でそして何よりも金銭的目的、つまり儲けを意図したものである。では、なぜわざ
わざ韓国アーティストが他の国ではなく日本に来るのか。それは韓国の音楽産業が2億ドル(=約200
億円)の市場であるにもかかわらず、日本の音楽産業が世界第2位の44億ドル(=約4400億円)と
いう巨大市場を持っているからである。これは韓国の22倍の市場規模である(本書 p.132)
。しかし、い
ま新たに中国の音楽産業が急成長しており、K-POP スターは日本より中国を中心としたアジア圏に活動の
軸足を移そうとしている。K-POP スターが日本語を話していたのは、その方が儲かるから。しかし、いま
K-POP スターたちが学ぶのは日本語ではない。中国語である。K-POP スターの眼中にあるのはもはや日本
人ファンではなく、もっと儲けさせてくれる中国である。もはや、ジャパン・バッシング(日本叩き)で
はなく、ジャパン・パッシング(日本無視)の時代に入っている(本書 p.172)。
この本の主題、戦争博物館めぐりに話を戻そう。私もアウシュヴィッツやダッハウ強制収容所などに訪れ
たが、まだまだだなぁと思った。ありがたいことに、巻末には博物館レヴューが載せられていて、多くの世
界中にある戦争博物館が写真やさまざまな観点からの評価も併せて紹介されている。この本を読む人は世界
中あちこちの戦争博物館に訪れて、世界をこの目で見たいと思うようになるだろう。
さらにこの本は、ももいろクローバーZとの特別対談も収録されていて、10代の若者がいかに近現代史
の知識が不足しているのかが分かる内容となっている。1931年の満州事変から1945年の終戦までの
15年戦争をなぜ日本が戦い、そして戦後の日本社会はそれをどのように総括してきたのかということに興
味を持つ本校の生徒にもぜひ一読をおすすめする。
15
社会科
中田
悠志
先生
マララ・ユスフザイ 『わたしはマララ』
(学研マーケティング 2013年12月3日)
心が熱くなる本として私がオススメするのがこの本。マララ・ユスフザイさんの『わたしは
マララ』。
実は私はこの本をまだ読んでいません。
この本を買おうと思っているのですが、あまりの人気で売り切れ状態なのです。でも、私は
彼女の生き方と信念によって心が熱くなり、そしてその彼女が書いた本は間違いなく自分の心
が熱くさせられるとの確信からこの書評を書いています。
昨年、ネルソン・マンデラ南アフリカ元大統領が亡くなられました。私の生き方の模範とす
る人が亡くなられて、私はとても悲しみ沈んでいました。しかし、おろかな人類にあっても精
神的に少しは進歩していると希望を感じさせてくれた彼女が現れたのも昨年でした。それがマ
ララ・ユスフザイさん(16歳)でした。
マララさんのことを知らない人はいないでしょう。
彼女はパキスタンで女性の教育を受ける権利を求めたことで、女性差別をする集団から頭部
に銃撃を受けました。しかし彼女は奇跡的に回復し、現在は国連での演説などで世界中に対し
女性の教育権および男女平等を呼び掛けています。蛇足ですが、昨年、最年少ノーベル平和賞
受賞者として候補にあがった人物です。彼女は生命の危機を脱したにもかかわらず、なんと現
在も武装勢力はそんな彼女を殺すことを宣言しています。世界の良識あるすべての人は、彼女
を絶対に守り抜かなければなりません。彼女の演説や言葉を聞けば聞くほど、21世紀の偉人
の一人にふさわしい素晴らしい女性だと強く感じます。
京都聖母学院で学ぶみなさんは、マララさんとほとんど年齢が変わりません。私は何も「命
懸けでなければ教育を受けられない人が世界にはいるのだから、教育を受けられる自分のこと
を幸せだと感じなさい」などと言いたいのではありません。それは全く合理的ではありません。
ただ私がみんなに言いたいのは、この本を読み、
「人が生きる上で教育を受けることが何を意
味するのか」ということを考えてみよう!ということです。京都聖母学院の図書館でぜひこの
本を手にとって読んでみてください。その瞬間から、きっとあなたが見ているこの世界が変わ
って見えることでしょう。
16
社会科
福地文子
先生
ジェームズ・ボーエン
ジェームズ・ボーエン・著/
・ボーエン・著/服部京子
・著/服部京子・訳
服部京子・訳
『ボブという名のストリート・キャット』(
『ボブという名のストリート・キャット』(辰巳出版)
辰巳出版)
ボブという名の野良猫とホームレスだった青年ジェームズの熱い友情物語を知ったのは、
テレビのある番組においてでした。こんなことがあるんだ、と深く感動した私は、さっそく
本を購入したのです。
青年ジェームズは、幼年期の境遇や家族とのぎくしゃくした関係が遠因となり、ロンドン
でホームレスへの道をたどっていきます。故郷のオーストラリアに帰るために手にいれたパ
スポートさえも失くしてしまい、さらに、麻薬にまで手を出して、「最悪の事態」に陥りま
す。なんとか政府の援助で、ホームレス専用の宿泊施設に入り、麻薬中毒の治療を受け始め
たころ、ボブに出会います。
ボブとの出会いが、ジェームズの生活をよい方向に一転させていきます。「何か」に出会
ったとき、それを自分へのプラスのメッセージと受け取り、そのためにがんばる。ジェーム
ズにとっての「何か」とは野良猫の「ボブ」でした。自己中心的だったジェームズは、自分
以外のもの「ボブ」に対して責任を負うようになります。「規則正しい生活」・「責任感」・
「自分自身に向き合う勇気」が与えられます。また、ボブのおかげで、人が持つやさしい一
面に触れることができ、再び人間を信頼することができるようになりました。
ジェームズとボブの生活は決してハッピーなことばかりではなく、困難続きでした。(疑
われたり、事件に巻き込まれたり。)でも、二人(一人と一匹)で乗り越えていったのです。
そして、ジェームズは、本の最後にこう言っています。「だれにでも幸運は訪れるし、必
ずセカンドチャンスがめぐってくる。ぼくとボブが手にしたように。」
私は、この言葉は、頭の中で、ノートルダム清心学園理事長の渡辺和子氏の言葉につなが
りました。
* つまずくのはあたりまえ。つまずいたおかげで気付くものがある。
* いろいろな人との出会いやさまざまな経験を通じて「未だ見ざる我」に気付く。
17
社会科 熊田 あずさ 先生
古市憲寿
『誰も戦争を教えてくれなかった』 (講談社)
2013年度、宮崎駿監督作品の『風立ちぬ』が邦画作品興行収入ランキング1位となり、本屋
大賞を受賞された百田尚樹の小説『永遠の0』(映画にもなりましたね!)がベストセラーになり
ました!映画の宣伝も含め、テレビでもゼロ戦の特番が放送されていたり、なんだか2013年は
「戦争」について考えることが多かったような、私はそんな気がしてします。今回、「あつくなっ
た本」がテーマなので、何か小説を…と思ったのですが、今回はあえて、この『誰も戦争を教えて
くれなかった』という古市憲寿さんの本をご紹介させていただきます。
この本の著者は、私と同じ1985年生まれ。戦後40年目に生まれ、「戦争って何だ?」とい
う純粋な疑問から、アウシュビッツや上海やハワイや沖縄などいろんなところを旅して、戦争博物
館を巡り「戦争の残し方」から「戦争」を考える新しいかたちの戦争の本です。私たちは、戦争の
博物館に行った!戦争の本を読んだ!戦争のテレビを見た!というだけで「戦争」というのを理解
したかのような気分になることがありますよね。果たして、それで本当に「戦争」を理解している
と言えるのでしょうか。戦争博物館一つにしても、展示や表現の方法で、見る人の感じ方というの
は随分変わってきます。もちろん、国やそれぞれの立場によっても捉え方は変わってくるでしょう。
しかし、私たちは、戦争を体験していないので戦争を知らないのです。知ろうと努力しても限界が
あります。知らないのが当然で、おそらく正しく知ることはできないのです。なので、すべてはそ
こから始めるしかないんですね。私たちの時代の「戦争」と「戦後」をとても考えさせられました。
本の最後に、ももクロとの対談があるのですが、ももクロと「戦争」の話題はとても興味深い!
現役高校生もいるにもかかわらず、回答のカオスっぷりは逆に清々しいくらい。でも、ももクロは
海外でも活躍していて日本代表として様々なものを発信しています。漫画とかファッションとかア
イドルとか、日本の文化の力がこれからの外交を変えていくのかもしれません。
「学校の歴史の授
業は忘れた!」と言っていましたが(涙)ある意味、希望に満ち溢れた対談、是非読んでみてくだ
さい。なんだか、あつく燃える話ではなく萌える話になってしまったかな。
18
社会科
木幡
一彦
先生
『郷 愁 ― ペーター・カーメンチント』
ペーター・カーメンチント』
新潮社(新潮文庫)
ヘルマン・ヘッセ(著) 高橋 健二(翻訳)
反抗的で妙にひねくれていた中学生の頃、少し背伸びをしてフランスやドイツ、ロシアの
小説を読みあさったことがある。それらの多くは難しく、当時の私が読むには早すぎたが、
なかには心にズシンと響くものもあった。
東寺の南、九条通に面して小さな書店があり、よく立ち読みをした。今から思えば申し訳
ないが、他の書店とは異なり、この店は立ち読みに寛大だった。僅かな小遣いが貯まると、
気に入った本を買った。ヘルマン・ヘッセの「郷愁」、この本は一番奥の書棚に並べられた
文庫本から選んだ記憶がある。
先日、久しぶりに読み返してみた。
アルプスの小さな村で生まれ育ったペーター・カーメンチントが故郷を離れ、都会に出て
多くの人々に出会う。友情、旅、恋、別れ・・・・・・。神々しいような自然描写や深みのある人
間描写のなかで、ペーターの魂の遍歴が見事にあらわされている。とくに、身体が不自由で
病弱なボピーとの出会いと別れには心が熱くなる。ずいぶん年月が経過したが、今の私と中
学生の私の感動はそれほど変わっていないようだ。
ヘッセの作品は、スイスや南ドイツの自然や街の情景、生きていくことの喜びと苦悩、独
特の倫理観や世界観など、心惹かれるものが多い。「郷愁」をはじめとして「車輪の下」「青
春は美わし」「春の嵐」「デミアン」など、これからも私の小さな書棚の一部を占めていく
のだろうと思う。
20
理科
石川 裕載 先生
浅田次郎『
朝日文庫)
浅田次郎『椿山課長の七日間』
椿山課長の七日間』 (朝日文庫
朝日文庫
椿山和昭はデパート勤務の働き盛りの 46 歳。過労で倒れ、現世と来世の
中間にある世界で目が覚める。やり残した仕事や愛する家族を思うと、どう
しても自分の死を受け容れられず、現世に戻ることを願い出る。許されたの
は初七日までの三日間。美女の体を借りたこの三日間で、生きているときに
は知らなかったことを知ってしまう。本当にこんなことがあるのだろうか?
いや本当にはないだろうとかいろいろと想像してしまう死後の世界を涙と
笑いで描いた感動的なファンタジー。最後は温かくもほろ苦く、ホロリと
涙が出るかも。2006 年に映画化もされている。
22
なかじま
理科
けいすけ
中嶋 啓介 先生
・『シャーロック・ホームズ』
シャーロック・ホームズ』 シリーズ
(ドイル作/山中峯太郎訳・ポプラ社)
・『旅人』
旅人』
(湯川秀樹著・角川文庫)
はじめに紹介するのは,
『シャーロック・ホームズ
シリーズ』です.ホームズとの出会いは,小学
5年生の頃です.その後大学時代に,原文でいくつかを読み直して衝撃を受けた記憶があります.子供の
頃読んだ本と原文では,ストーリーが違っていたからです.小学5年で読んだのは,山中峯太郎訳のポプ
ラ社版でした.実は訳者の山中峯太郎氏はかなりの部分を作り変えて翻訳していたのです.意訳というよ
り別小説といってもいいくらいで,タイトルは無論のこと原文にない場面や人物が当たり前のように登場
していました.多くのホームズ愛好家は,翻訳家山中峯太郎氏を酷評しています.ですが,中嶋少年はあ
の翻訳だからこそ楽しめたのだと思います.山中氏による疾走感のある文体は,登場人物が紙面の上を活
発に動き回っているように感じられます.ドイルやブラッドベリの作品に少年期に出会えたことは幸運で
した.彼らの作中人物とは一生の友だちでいられるような気がします.
次に紹介するのは,湯川秀樹著『旅人』です.湯川秀樹氏は高名な物理学者で日本人初のノーベル賞受
賞者でもあります.この本は,氏の誕生から中間子論までの自伝的回想録です.一般的な随筆と違って,
綿密な取材に基づいて積み上げられた文章です.編集者の手も入っていることでしょう.どんどん引き込
まれていきます.明治・大正の京都の景色や風俗の中で成長している湯川秀樹に自分を重ねたりしました.
高校3年の冬,国語教員や社会科教員を目指して文系クラスに所属していました.読後迷わず理系志望
に変更しました.今にして思えば,私は理科系に移るチャンスをどこかで狙っていたのではないでしょう
か.教員になるかならないかは大学に行ってから決めよう!取り敢えず興味のある地質学を大学で勉強し
よう!と考えたのです.大学の自然科学系の専門書はそれまで読んだ文学作品よりも面白かったので,私
にとって理科系は正解でした.ちなみに,偶然にもこの本の英訳版が入学試験の長文読解で出題されたこ
とも忘れ難い思い出です.
人に本を紹介することは,自身の軽薄さを告白するようで恥ずかしくて,できる限り避けてきました.
しかし,そんなことを気にする年齢でもなくなってきました.『あつくなる本・もえる本』ということで
書き進めましたが,『あつくなった本・もえた本』の紹介になった感があります.実は,古書店散策が好
きで湯川秀樹の著作や山中峯太郎の翻訳本を収集しています.ですから,私の中では十分熱い本なので
す.他人には共感してもらえませんが….今更ながら,子どもの頃から中身が全然成長できていないトッ
チャンボーヤなのです.女子校の生徒にドイルや湯川秀樹が受けるとも思えませんが,何ぶんこれしか知
らないものでご容赦ください.
*本格的にホームズものを読みたい方には,手に入りやすい新潮文庫版をすすめます.延原謙さんによ
る翻訳は,ヴィクトリア朝の風格はもちろんのこと,作者ドイルが如何に工夫して文章を書いているかが
伺えます.
23
音楽科 丹後 美紀子 先生
佐村河内守 『交響曲第一番 闇の中の小さな光』
闇の中の小さな光』 (幻冬舎文庫)
耳鳴り!そしてそれは次第に聞こえるはずの音までに飲み干してしまい、立つこともままならず、時に
は吐き気となる。みなさんは想像できるでしょうか。わたしの四六時中の耳鳴りなど無に等しいのです。
この本を手にしたのは、テレビのドキュメンタリーで作曲家佐村河内守の特集に出会ったからです。彼は
広島原爆2世でもあります。その映像の感動と驚きは次への関心となり、図書室へ駆け込み手にしたも
のです。それは文庫本の大きさでした。(もちろん、CDも注文しました。)どんどん引き込まれる文章。
自分の音を轟音の中からひらって音楽にしていく。彼の幼いころからの絶対音感が彼を救ったのです。
またこの逆境から生れてくるのは何とも優しい旋律なのです。それは聴く人達の心を勇気づけ癒してくれる
のです。今彼の、闇の存在を認め、そしてなお伝えたい自分の想いを集大成した「交響曲第一番広島」
は東日本復興の曲として人々に広まっています。
きっとみなさんもこの本を通して、こみ上げるものと同時に、自分の存在価値を気付かせてくれることでしょう。
そして是非音楽も聞いてみてください。図書室にあります。もし機会があれば生の演奏にも。全国ツアーで
の京都の演奏会を聴くことができました。ご本人も客席におられ、演奏後、舞台にのぼられ、何度も指揮
者と抱き合い、京都交響楽団の人達と握手をかわしていました。演奏中は指揮者も演奏者も必至の表
情でその必至さが聴衆のわれわれをも包み込み、最後の響きが鳴り終わった時は心地よい解放感に鳥肌
がたつほどでした。聞こえない彼にもその雰囲気が伝わったのだとおもいます。
24
音楽科 橋本 利嗣 先生
青木 和雄 ・ 吉富 多美 『ハッピーバースデー』
ハッピーバースデー』 (金の星社)
金の星社)
“命って、生きるって、何ですか……“
実の母親に愛してもらえず、誕生日さえ忘れられてしまった 11 歳の少女・あすか
は、声を失ってしまう。しかし、優しい祖父母の元で自然の営みに触れ、「いのち」
の意味を学ぶ。生まれかわったあすかがどんな行動を起こすのか。そして、母親
の愛は戻って来るのか…リアルな展開に、5頁に一度は、涙が噴き出る物語。
コメント
あなたは、全身全霊で泣ける物語を知っていますか?
これは小説ではない。あなたが、いま既に直面している「現実」なのです。
泣き尽くし、癒されたあと、必ず人に読ませたくなる物語です。
また、これを読んで、多くの幸せを感じます。そして、親に感謝!!
25
美術・技術
教科(
釆野
)
(
要子
先生 )
本の紹介
「僕たちは世界を変えることができない。」
出版社:: 小学館、
小学館、2010
出版社
2010 年
著 者:葉田甲太
映画として
『僕たちは世界を変えることができない。
but we wanna build a school in cambodia.』2011 年
本の説明
主人公の田中甲太は医大生 2 年であり、気楽なイベント
サークルで日々過ごしていたが、ある時ボランティア募
金のパンフレットを見て、150 万円を集めることができ
ればカンボジアに学校を建てることができることを知
る。主人公は仲間を募り、チャリティーイベントに精を
出す。普通の医大生たちがカンボジアに小学校を建てる
までの奮闘記である。(wikipedia より)
心のどこかにある感動を
引き出してくれるノンフ
ィクション!
映画の説明
泣けます!!!
葉田甲太の感動体験記を映画化した感動ストーリー。監督は深作健
熱い気持ちがこみ上げる
太。主演は初主演となる向井理。ドキュメントタッチのライブ感に拘
作品です!!!
り、撮影現場では状況に応じて台詞の変更、即興芝居もしている。
スタッフ
キャスト
監督
深作健太
田中甲太 - 向井理
脚本
山岡真介
本田充 - 松坂桃李
原作
葉田甲太
芝山匤史 - 柄本佑
矢野雅之 - 窪田正孝
(wikipedia より)
久保かおり - 村川絵梨
26
保健体育科 飯田 洋平 先生
百田尚樹『風の中のマリア』(講談社文庫)
マリアという名前のオオススメバチの一生を描いた作品。羽化し
てから僅か 30 日しか生きることが出来ない彼女たち(オオススメバ
チの働き蜂は全員が雌)の壮絶な日々を描いた物語。
28
京都府立図書館主催
衝撃でした。
「第二回 子どもの読書本のしおりコンテスト」佳作入賞作品
(中学二年梅組 山本めぐみ)
生きるってすごい!
保健体育科
牟田 規子
先生
さだまさし『アントキノイノチ』(幻冬舎文庫)
2学期末に図書委員さんから読書感想文の宿題をもらっていたのに…うっ
かり、すっかり忘れてしまっていた。どうしようかと悩んでいたら、ある生徒
が「先生、これ感動するよ。」と貸してくれたのかこの1冊でした。2年前に
岡田将生さん、榮倉奈々さん主演で映画化されご存知の人も多いと思います。普段本を読むことが
ほとんどない私は勧められるままに遅ればせながら読んでみることにしました。
主人公の杏平は高Ⅲの秋に学校を辞めた。身近な友人の度重なる裏切りに心を痛め、その彼が原
因で大切な友人が自殺に追い込まれ、心が壊れた。自律神経失調症が進み鬱の症状が出て、ついに
は失語症状がでた。心も感情も閉ざされた彼でしたが、小さな小さな心の扉は父に向ってだけ微か
に開かれていた。中2の時、事情があって父と別れるという置手紙を残して出ていった母。そんな
母を父はまったく責めなかった。「僕も悲しいけど、もっと悲しいのはお母さんだよ。お前の事を
思って、今でも泣いているんじゃないかと思う。」と言った父。そんな父の勧めもあり亡くなった
方の遺品整理する会社に勤め、少しずつ元気になっていく。職場の人間関係に救われ、遺族からの
「ありがとう」の言葉に支えられて杏平は立ち直っていく。「天国への引っ越し屋さん。天国へ届
けたいのはその人の荷物ではなく、その人の心。」と話す上司の仕事に対する情熱や心配りに感動
し、少しずつ周囲に心を開いていく。感情がコントロールできず人を殺しかけた杏平が生と死につ
いて考え、立ち直っていく姿に共感する場面や言葉がいくつもありました。私が一番感動したのは、
仕事中長方形の缶を見つける。遺品は仏の財産だから本当は勝手にひもを解いたりしてはいけない
んだけど、上司の佐相さんはその中身を見て、
「やっぱりな」と言った。
「杏平、母親っていうのは
こういうもんだ」といって見せた缶の中には子供の写真と束になった出せなかった手紙が入ってい
た。ここにも杏平と同じ境遇、子供をおいて家をでた母親と子がいた。学校で母の日に書いた詩が
入っていた。「私のお母さんは温かくていいにおいがする。お天気に干したお布団と同じ温かくて
いいにおい。お母さんのいいにおいはおてんとう様のいいにおい」と書いてあった。そんな娘をお
いて家を出た母親。切手は貼ってあるけど結局出せなかった20通あまりの手紙。依頼主は一切何
も要らない、すべて処分せよ、と希望していましたが、上司の佐相さんは「怒られてもいい」と遺
族に届ける決心をしました。その姿を見て杏平も自分の母親の事を思い出しました。迷惑かもしれ
ない、お叱りを受けるかもしれない、と思いながら遺族に届けた缶。でも、思いは伝わりました。
思い出や感謝の言葉がびっしりと書かれた手紙が届いたのです。社長も事務員さんもみんなで泣き
ました。これを読んでいた私も泣きました。「私だったらどうするかなぁ」って考えました。こん
な選択ができる人になりたいなぁと思いました。この時、一緒に泣けなかった杏平がその後タクシ
ーの運転手さんの遺品整理を担当し、2万円を盗むために奪われた命を知って号泣する。そして、
自分がここまで変われたことに感謝する。お父さん、職場の仲間、重い過去を背負ったゆきちゃん
…。その時、その時にもう限界って感じるくらいつらく苦しい事もあるけど、人と人の出会いって
大きいなと思いました。私にとって、人生の岐路に関わってくれた人のありがたさや存在は、今の
私の支えです。そんな人間関係をこれからも築いていけますように、自分もそんな人間になれます
ように、と思いました。
29
保健体育科
藤林
文博
先生
映画『ベスト・キッド』(原題:The Karate Kid
Kid)
)
1984 年に製作されたアメリカ映画
に製作されたアメリカ映画。続編も作られた。
アメリカ映画。続編も作られた。
ダニエルは母親と二人暮らし。内気な少年で友達がいないといつも嘆いていた。母親の仕
事の都合により引っ越すことになった。新天地ではフレディという新たな友達もでき、フレ
ディの誘いでパーティに行くことになった。そこでお金持ちの少女アリに一目ぼれ、すぐに
相思相愛になるが、偶然通りかかった不良グループのリーダー格ジョニーがアリとダニエル
の様子を見て激怒、ダニエルにケンカを吹っ掛けダニエルを叩きのめしてしまう。ジョニー
はアリの元彼で、少年空手選手権のチャンピオンであった。ダニエルはフレディに「空手を
やっている」と豪語していたために、フレディらはダニエルのあまりの弱さに愛想を尽かし
ダニエルのもとから去ってしまう。ダニエルはそれ以来ジョニーとその空手仲間達から壮絶
なイジメにあうようになる。そんな中、アリとアパートの管理人ミヤギ老人だけがダニエル
に優しく接する。ハロウィンパーティの夜、ジョニーらに仕返しを試みたダニエルは逆にリ
ンチに遭ってしまう。ダニエルの意識が朦朧とする中、どこからともなく現れたミヤギがジ
ョニーたちをあっという間に倒してしまう。その後、ミヤギに空手を教わり空手でジョニー
を倒す。
私は、昔、映画にしろ本にしろハッピーエンドのものしか見ることがありませんでした。
特に努力をして成長し、強い相手を倒す話が大好きでした。この映画も私が中学生の時に見
に行った映画です。当時ジャッキー・チェンなどが流行っており、格闘技がとても人気でし
た。この映画では、特にミヤギに弟子入りしたダニエルが空手の練習をさせてもらえずに、
ずっとミヤギの家の手伝いばかりさせられていたのですが、それが実は空手のトレーニング
になっているということが斬新な内容で印象に残っています。とにかく、いじめられている
主人公を見ると助けてやりたくなりますが、弱い主人公が自分で変わりたいと思い、努力と
工夫を重ね、強い相手を倒す気持ちがスカッとする映画です。気持ちって大切ですね。最後
の試合では、とても心が熱くなります!ただし、昔の映画ですので、日本のイメージや空手
の技術やトレーニングなど「え?」と思ってしまう内容も多々あります。そこは、目をつぶ
ってください。
30
保健体育科
奥
巧
先生
長谷部誠
『心を整える。
心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』
勝利をたぐり寄せるための56の習慣』
(幻冬舎)
幻冬舎)
『心は鍛えるものではなく、整えるものだ。いかなる時も安定した心を備えることが、常に
力と結果を出せる秘訣だ。自分自身に打ち勝てない人間が、ピッチで勝てるわけがない。』
日本代表キャプテンとして、チームを勝利へ導いた長谷部誠さんの実践的メンタルコントロール術が紹
介されています。
長谷部誠さんはサッカー選手としては、特に特徴がある選手ではなかったと本人が語った。
試合を決定するフリーキックが蹴れるわけではないし、突出したテクニックを持っているわけではない。
だが、彼はあらゆる指揮官に重宝される日本代表の中心人物になった。それに加え、在籍していた浦和
レッズではタイトルを総なめにし、移籍したドイツでは、クラブチームを初優勝に導いた経歴を持つ。そし
て、アジアカップでのチーム優勝……。
彼は一体何を持っているというのか。それは、類まれなるメンタルコントロール力にある。心はよく「鍛え
る」「磨く」などと表現されるが、長谷部誠さんは違う。生活のリズム、睡眠、食事、そして、練習。日々の生
活から、心に有害なことをしないように、少しでも乱れたら自分で整える。そうすることによって、いかなる
試合でも、いかなる場面でも揺らぐことがなく、ピッチで力が発揮できるという。実践することはいたってシ
ンプルながら、だからこそ、慌しい現代では意識をしないと難しいもの。力を抜いて無理なく自然体で行え
る姿は、まさに彼の心情が姿勢として表れている証明。今、注目のアスリートのビジネスでも、スポーツで
も、あらゆるシーンで応用できる新メンタルコントロール術が紹介されている本である。
さらにこの本が売れることによって発生する著者の印税は全額、ユニセフを通じて「東日本大震災」支
援のために寄付されます。こういった面でも心が熱くなりますね!!
31
保健体育科
小森 裕紀子 先生
三浦しをん『風が強く吹いている』
(新潮社・新潮文庫・
(新潮社・新潮文庫・2006年刊行)
『箱根駅伝』を舞台にした日本の小説。
2007年には漫画化・ラジオドラマ化
2009年には舞台化・映画公開
2010年 第1回ブクログ大賞文庫本部門大賞受賞
など、各メディアでも取り上げられている。
『箱根駅伝』といえば、知らない人はいないはず。でも、その魅力や熱を共感するのは他のスポー
ツより難しいかもしれません。
『ただ、走っているのを観ても…』そんなあなたもこの本を読めば、箱根駅伝を観たくなる!!
『風が強く吹いている』は、
『舟を編む』などでも知られる三浦しをんさんの作品。
(映画化なども
されているようで…作品を紹介するにあたって調べて知りました。)
箱根駅伝を走りたい! ― 大学4年生になる灰二の強い想い。そこに現れる天才ランナー走。
二人の出会いと竹青荘に住む個性あふれる住人たちが、走る(=生きる)ことに夢中になって突き
進んでいく。
自分の限界への挑戦。
襷をつなぐことでつながっていく絆。
読んでいると、自然と熱くなり、風を感じて「速く」ではなく「強く」走る登場人物たちの鼓動を
感じることができる本です。
はじめは、ストーリーを楽しんで、
2度目は、三浦しをんさんの文章の強さと魅力を楽しみながら読み返し、
3度目は、実際の箱根駅伝と見比べて、箱根の魅力にせまってみて下さい。
スポーツ青春小説としても素敵な作品ですが、
個性豊かな主人公たちの様々な側面を感じることで、もっと深く、共感できることがあると思いま
す。
スポーツの世界に限らず、勉強でも仕事でも頂上をめざせば感じる孤独やいらだち。先頭に立った
ときに周りに誰もいない世界の美しさ。
努力は必ずしも報われないかもしれない。でも、それは自分の目指す場所をどこにするかで変わっ
てくる。
1番=勝者(頂上)という考え方だけでない、
『目指す頂上』についての見解を深めることができ
る1冊です。
32
髙 平
家庭科
操
先生
本の表紙画像
『ずーっと
ずっと
だいすきだよ』
作・絵: ハンス・ウィルヘルム 訳:久山 太市
出版社: 評論社
心が熱くなるではありませんが、心が温まるお話として紹介したいと思います。
もしかして皆さんは、このお話を知っているかもしれません。なぜなら、私はこの話を
絵本ではなく子どもの小学校の教科書で知ったからです。子どもの音読の宿題の時に初め
て聞いて、聞くたびに涙が出そうになり、いつもじ~んとしていました。
犬のエルフと男の子は大の仲良し。一緒に大きくなりました。
でもエルフは犬だから、男の子よりもずっとはやく大きくなりました。
そしてだんだんと老いて、太っていきました。
男の子は寝る前には必ず、
「エルフ、ずーっと、だいすきだよ」と言ってあげたのでした。
男の子の家族もエルフのことを大好きでしたが、誰もそれを口に出しては言いませんでした。
ある朝、目を覚ますとエルフが死んでいました。
みんな悲しくてたまりませんでしたが、男の子は毎晩エルフに「ずーっと、だいすきだよ」
と言ってあげていたので、いくらか気持ちが楽でした。男の子は、今後も動物を飼うときは、
きっと毎晩「ずーっと、ずっと、だいすきだよ」と言ってあげよう、と思うのでした。
我が家では、12 年間一緒に生活した愛犬ナナが1年半前に亡くなりました。家族全員で号泣し
て見送りました。この話を読んでから、息子はナナの頭をなぜながら「ナナ大好きやで~」と毎日
のように言っていました。最期の時にも「ありがとう、ずっ~と大好きやで」とお別れし、今は、
ナナの写真はリビングに常に飾られています。
相手が、人間だろうと動物だろうと、大好きな相手に対して、心のありったけで「大好きだよ」
「愛しているよ」と伝えてあげられたら、それは、日々の暮らしを温かいものとし、幸せにしてく
れると思います。この本から人や動物に愛を注ぐ心の大切さを知ってもらえればと思います。
この本を読んでから(5 年ほど前)
、
私自身、こどもに対して、寝る前に「大好きやで」
と言っていました。その頃を思い出して、恥ずかし
がるかもしれませんが、また「大好きやで」と言って
みようかなと思います。❤❤❤
33
家庭科
宮本
広子
先生
作品名:映画『若草物語』(1994
作品名:映画『若草物語』(1994 年)
監督:ジリアン・アームストロング
原作:ルイーザ・メイ・オルコット
【角川文庫】
小説でよく知られている有名なお話です。皆さんも読んだことがあるのではないでしょうか。今
回は 15 年以上前に見た映画について紹介したいと思います。次女のジョー役をウィノナ・ライダ
ー、母親役をスーザン・サランドンが演じ、ジョーがベア教授からのプロポーズを受けるところま
でが描かれています。全ての映像がとても美しく、また素敵な音楽に心惹かれ、できれば前・後編
に分けてもっとじっくりと見たい!と欲が出てしまったのを覚えています。
皆さんもご存知の通りこの 4 姉妹はそれぞれに違った個性を持っています。
‘自分はどの子に近
いかなぁ’と考えてみたり、‘あぁこの気持ち分かる’と共感したりしながら見ていました。どの
姉妹にも少しずつ共感できるところがあるように感じましたが、こんな生き方ができたらなぁと憧
れたのは次女のジョーのような生き方でした。
印象に残るシーンは、負傷した父親のもとへ母親が行くのに必要なお金を工面するためにジョー
が自分の自慢の髪をバッサリときってしまうところ。この潔さはかっこよかったです。 ベスが病
気でなくなってしまう場面は泣けてしまうのですが、弱い体とは反対にベスの心の強さがとても際
立っていてベスの存在の大きさを強く感じました。ジョーがベア教授にプロポーズされるラストシ
ーンもとても素敵です。他にも・・・言い出したらきりがないかもしれません。
中でも、他人からどう見られるかを気にしている長女メグに対して母親が語った言葉が当時の私
にとって深く印象に残るものでした。確か“見た目の美しさはいつかは蝕まれてしまうけれど、心
の美しさは永遠に輝き続けるんだよ。”みたいな内容だったと思います。私もそれを大切にして生
きていきたいなぁと考えたものでした。もちろん今も肝に銘じているつもりですが。
このお話は、家族の大切さ、温かさ、家族の絆というものを深く感じさせてくれます。そして、
私の心も深い愛情で包んでくれているようなそんな温かい穏やかな気持ちにさせてくれます。
この作品以前にも映画化は何度もされているので、機会があったら是非いろいろとご覧ください
ね。
34
家庭科
瓜田
原
真由美
先生
泰久 『キングダム』
(ヤングジャンプコミックス
集英社)
集英社)
時は紀元前、春秋戦国時代。いまだ一度も統一されたことのない中国大陸は 500 年もの
動乱期。戦国七雄の一つ「秦国」の身寄りのない少年・信と漂は、今は 奴隷のような身
なれど、いつか武功をあげて天下一の将軍になることを夢見て修行に励む。そんな二人
が偶然、秦国の大臣に出会ったことから運命の歯車が動き出す!
【「週刊ヤングジャンプ公式サイト」より 】
あれは確か、ロンドンオリンピック開催中の 2012 年 8 月某日。たまたまついてた NHK
で、アニメ番組の再放送が始まりました。特に見る気もなくぼんやりと眺めていたので
すが、次第にストーリーに引き込まれ、気がつけば最後まで目が離せなくなった私。そ
れが、この「キングダム」との出会いです。
はっきり言って、学生時代は漢文が苦手で古代中国史には全く興味がありませんでした。
でも、このキングダムとの出会いで中国史って面白いっ!もっと知りたい!そんな風に
思えてきたのです。近年、日本史では戦国武将がちょっとしたブームで、ゲームの世界
ではイケメンたちが「レッツパーリーーーーー!」と活躍していますよね。まさに、そ
の中国版(?)という感じです。登場人物一人一人が個性的で、しかも時折政治が絡んでき
たりして歴史小説としての楽しみ方もできるのではないでしょうか。
残念ながら私はアニメ放送のみで、原作のほうは読んでいないのですが 2014 年1月現
在、32 巻まで出ているそうです。
う~ん・・・頑張って大人買いして一気に全巻揃えちゃおうかなーと、思案中。
35
英語科
古野
直之
先生
映画『A Hard Day's Night』
邦題『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』
先月、世界で最も有名な音楽グループの一つ The Beatles(ザ・ビートルズ)の元メンバーだったポ
ール・マッカートニーが11年ぶりに来日し、東京・大阪・福岡でコンサート・ツアーを行いました。彼は1
942年生まれの御年71才。ニュースによれば、「長時間の演奏中もほとんど水を飲まずに演奏し続
けた」というほどのパワフルさを発揮したとのことです。(主に年配のファンでしょうけれども)観客の熱狂
ぶりが各メディアで報道されていたのも記憶に新しいところです。
そのポール・マッカートニーですが、今をさかのぼること30数年前の
1980年1月、「ウィングス」というバンドの一員として来日予定だった
ことがありました。当時私は中学3年生でしたが、元々The Beatles
(ザ・ビートルズ)に熱中していたこともあり、何とかコンサートに行きた
いと思っておりました。ビートルズのメンバーとして1966年に東京武
道館でのコンサートを行って以来の来日公演ということで、手に入れ
るのが相当困難なチケットだったと記憶していますが、父親の仕事の
関係先から運良く入手することができたのです。大阪フェスティバル・
36
ホールのなんと当時 8000 円のプラチナチケット!中学生の自分にたやすく用意できる金額ではもちろん
ありませんでしたが、今自分の目の前にあるコンサートチケットを手に入れた喜びで、お金の工面のことな
どすっかり忘れてしまっていました。そしてしばらく経った1980年1月のある日の夜、夕食後ぐらいのこと
でした。部屋のテレビから「ポール・マッカートニー」という音声が突然聞こえたのです。顔をテレビの方へ向
けると、なんと彼が成田空港で警察に拘束されている様子が、ニュース番組の画面に大きく映っている
ではありませんか。ニュースによると、日本の法律に触れてしまうものを持ってきたために、国内に入る前
に空港で拘束されてしまったとのことでした。なんということでしょう!一瞬にして不安がよぎりましたが、予
感的中。その後しばらく拘留された後、国外への退去処分となったのです。予定されていた「ウィングス」
の日本公演がすべて中止になったのは言うまでもありません。そして大事に保管していたコンサートチケッ
トは、父親を通して関係先へ戻っていきました。
その後、自分の音楽の趣味も他のジャンルに移り変わり、ビートルズやウィングスの音楽を聴くこともな
くなったのですが、今回のポール・マッカートニー来日公演に際し、久しぶりに若かりし頃よく聴いていた音
楽を聴き直しました。そして、もし彼が再び日本にやって来ることがあれば、今度こそチケットを買ってコン
サートを見に行こうなどと思った次第です。
前置きが大変長くなりました。今回ご紹介するのは、映画 A Hard Day's Night(邦題『ビートルズがや
って来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』)、ビートルズがメジャーデビューして、人気が爆発し始めた頃に製作されたモノク
ロ映画です。同名タイトルのレコードから、数多くの曲がピックアップされて映像と共に収録されており、ビ
ートルズのマニアの人たちが大喜びする内容となっています。(逆にビートルズに興味のない人たちにとっ
ては、あまり面白くないかもしれません)
この映画が製作されたのが1964年。50年も前だということに改めて驚くしかないのですが、デビュー
当時のビートルズの魅力を感じる取ることができる貴重な一本と言えるでしょう。
37
英語科 高尾 和佳美 先生
百田尚樹『BOX!
(太田出版)
百田尚樹『BOX!』
BOX!』
えっ、これが『永遠の0(ゼロ)
』の作者 百田尚樹さんの作品なの!
と意外な感じがしますが、熱い青春小説で一気に読めます。タイトルの
「BOX!」は、ボクシングの動詞で「さぁ、戦え!ボクシングしろ!」
という意味です。主人公はボクシングをやってる高校生男子で、私が
高校生だったらどっちを好きになっているかな~、と妄想しながら楽し
く読めました。私はボクシングには全く興味がなく、ジャブやアッパー
カットなど意味不明なボクシング用語もたくさんありましたが、だんな
さんに教えてもらいながら、今ではテンプルにフックを食らわせるくらい
はできると思います。
(ボクシング初心者は巻末のボクシング用語を確認し
ながら読んでね。
)スポーツや恋に夢中になる熱い気持ちがいっぱい詰まっ
たお話で、おススメです!
38
英語科
寺石
祐子 先生
映画『黒部の太陽』
脚
本:井出 雅人
熊井 啓
原 作:木本 正次
出演者:三船 敏郎
石原 裕次郎
原作の公 開:1968 年
東日本大震災での福島原発事故のあと、みなさんも私も節電の大切さを改めて強く意識す
るようになったかと思います。普段は何気なく使っている電気ですが、「もし電気が使えな
くなったら、どうするか」ということが広く議論され、多くの学校や職場においても非常時
に備える対策が講じられました。
今から 50 年前黒部ダム建設に携わった関西電力とダム建設のための資材搬入用トンネル
工事を請け負った熊谷組の両会社の社員の社運をかけた熱き闘いがありました。急速に進め
られる戦後復興・産業発展の実現に、今とは比にならないほど多くの電力が不足しており、
電力不足の解消ため大自然の中にダム建設が必要となりました。「世紀の大事業」とも言わ
れる黒部第四発電所建設は、昭和 31 年から 38 年の 7 年間もの歳月と延べ一千万人の労力
を費やし、完成しました。脆弱な土壌、冷たい地下水が大量に噴出する中での北アルプスの
トンネル貫通のために、黒部第四ダム発電所の工事で 171 名の尊い命が失われたという事
実があります。中でも最も難工事であったのはダムの建設資材搬入用としての大町トンネル
でした。
昨年 2013 年は、くろよん 50 周年の年で、それと同時に初めてこの映画が DVD 化され、私
も初めてこの作品を観ました。自分の幸せや会社の利益よりもむしろ、命を懸けて「国を豊
かにしたい」と公益を重視し、自らの強い意志を貫き通した当時の一人ひとりの社員。彼ら
の熱い心に触れると、私は同じ日本人として誇りを感じます。
映画を通じて、目標や仕事にあつい気持ちで一生懸命に向かっていくことの大切さを実感し
ました。みなさんも、黒部第四ダム発電所建設に命を懸けた先人たちの足跡に触れてみては
いかがでしょうか。
39
英語科 山田 麻珠子 先生
水村美苗
『続
明暗』
(ちくま文庫)
夏目漱石『明暗』
(ちくま文庫)
今回の書籍紹介は「胸が熱くなる」がテーマでしたが、高校球児の~やスポーツ選手が書いた~
という、読めば読むほど毎日頑張ろう!目標を持って生きようという気持ちになる本や、じんっと
目頭が熱くなるような感動させられるほっこりする「ザ・胸が熱くなる本」は最近読んでいないの
で皆さんが考える胸が熱くなる本ではないかもしれませんが、冬休みに読んだ中で面白い本でした
ので紹介します。
この『続 明暗』は、皆さんも国語で習ってよく名前を知っている夏目漱石の最後の小説『明暗』
のその名の通り続編です。なぜ続編があるかというと『明暗』は漱石の病気により未完の作品だか
らです。私も読みましたがなぜこんな所で終わるんだ!!と憤りを感じてしまう場面で終わってい
ます。漱石はいったいこの作品をどのように終わらせる予定だったのだろうと考えているときに偶
然水村美苗さんが続編を書いていることを知り、どのような形でも『明暗』の登場人物たちがどう
なっていくのかを知りたい!と思い読みました。
はじめに、夏目漱石の『明暗』についてですが、主な登場人物は津田、その妻お延、津田がお延
と結婚前に結婚の約束をしていたが突然津田の前から姿を消して津田の友人と結婚した清子の 3
人です。津田がなぜ清子が自分の前から何も言わずに姿を消したのか、なぜ自分と結婚をしなかっ
たのかという理由を追い求めるストーリーです。清子がある温泉宿で1人療養していると知った津
田が、真相を聞きに清子に会いに行く、その温泉宿で起こる出来事がこの小説の山場です。
次に、なぜ私がこの小説を読んで胸が熱くなると感じたかですが、理由は 2 つあります。1つ目
はラストのシーンのある描写です。これをいうとネタバレになってしまいますが(こうなるに至る
までの話も面白いのでぜひ読んでみてほしいです)、津田と清子の関係を知ったお延が温泉宿まで
追いかけてきます。そこで 2 人が話している姿を見て絶望した彼女は自らの命を絶つことを考えま
す。しかしその決意を実行に移さなかった(移せなかった?)お延が感じた、1 人の人間の世の中にお
ける位置と言いますか自然や世界の大きさを書いた箇所がストンと胸に落ちてとても良かったの
40
で引用します。
眼の前に拡がる自然はお延の不幸にも気が附きもしなかった。そもそもお延の存在にも気が
附かなかった。(中略)高くなった日は相変わらずその限りない光を天が下に公平に降り注い
でいた。相変わらずお延の存在にも気が附かないようだった。だが其所に自然の有難い所が
あった。自然の徳は塵界を超越して、絶対の平等を無辺際に行う所にある。自然においては、
幸も不幸も、死も生も等価であった。自然はお延を殺そうとして憚らない代わりに、お延を
生かしても一向に平気であった。そんな自然を前には、お延の抱負や技巧は無論、深い絶望
さえ意味もないものであった。(中略)それがどうしようもない天の真実であった。
(p.406~408)
1度読んだだけでは意味が難しいと思いますが、人の喜びも悲しみも幸不幸も全てその人にとっ
てはそれがその時の全てに感じられ、一喜一憂するでしょうし、私自身もそうです。けれども、こ
こでは自然となっていますが、もっと広い視野で世界をみると世の中と自分 1 人の幸不幸との関係
は、その人がその時幸せを感じていても不幸だと感じていても、その喜びや悲しみをちっぽけなも
のだとは言えませんが、その時の感情が世の中では全てではない、自分とは大きな世界のうちの 1
人で、その位広い世の中と 1 人の人間との間には距離がある、と当然と言えば当然のことを改めて
感じさせられました。お延の悲しみや辛さは消えた訳でも悲しみの理由が解決した訳でもありませ
んが、私はこの描写になんだが勇気づけられましたし、良い時も悪い時も人間はこうして生きてい
くものなのかもしれないなと感じました。
次にこの小説を読んで胸が熱くなると感じた 2 つめの理由は、作者の水村さんの『明暗』の続編
を書かれたということです。『明暗』は 1917 年に本として出版され(それまでは新聞で連載されて
いたようです)、それから 73 年後の 1990 年に『続 明暗』が書かれました。これだけの年月を経
ても愛された漱石の小説にも感動しますし、水村さんはずっと海外で生活された帰国子女でそんな
彼女の第 1 作目の小説がこの本であることに驚きました。やはり漱石が書いた結末ではありません
し、批判もあったそうですが、それでも続編を書きたい!と思われた『明暗』にも、書かれた水村
さんの勇気にも感激しました。『明暗』にある色々なヒントを元にそれを最後には繋げた形でとて
も偉そうですが、とても上手に書かれていると思います。また、水村さんはあとがきに「小説を読
むということは現実が消え去り、自分も作者も消え去り、その小説がどういう言語でいつの時代に
書かれたものかも忘れ、ひたすら眼の前の言葉が創り出す世界に生きることである(p.412)」と述べ
ています。私も初めは、結局漱石が書いたものではないからな~という気持ちが少しありましたが、
そんなことよりもストーリーの面白さに魅了され、この後この登場人物たちはどうなるのか!とい
う気持ちに突き動かされ、どんどん読み進めました。私には小説の展開や書かれた言葉の美しさは
あまり分かりませんが、きっと小説の面白さの多くはストーリーに自然と引き込まれていくことだ
ろうと思いますし、その点で本を読むことが好きです。ですので、こうして長い年月を経ても書か
れた『明暗』のすごさと、この物語がどうなるのかを上手に書かれた水村さんのすごさに興奮しま
した。
特に中学生の皆さんは夏目漱石の小説を読む機会は少ないかもしれませんが、高校生のみなさん
はぜひ、そして大人になって読む機会がありましたら、ぜひ水村さんの続編にも目を通してくれた
らなと思います。
41
英語科
田中
伸子
先生
尾崎里美『想像して創造する
尾崎里美『想像して創造する
~望み通りの未来を創るイマジネーション力~』
~望み通りの未来を創るイマジネーション力~』
(カナリア書房)
2013年も沢山の本を読みました。大抵読みながら、良い!そう思う!なるほど!と感じ
た箇所に線を引くので、私はあまり学校や公共の図書館の本を借りないのです。今年のこの図
書委員会さんの原稿にはどの本をご紹介しようかと迷いましたが、最も多く線を引いた本を取
り上げたいと思います。
この本は、「イメージすることで自分の未来はいかようにも創ることが可能。イマジネーシ
ョンには、そんな素晴らしい力がある。」ということを著者である尾崎さんが彼女の人生の中
でどのように実践してきたか、また現在はトレーナーとしてどんな指導をされ受講生さんはど
んな結果を出しているのかを、詳しくわかりやすく述べてくれています。
皆さんは「脳は“現実”か“フリ”か判断できない」ということを知っていますか。梅干し
やレモン汁を自分の口に入れた場面をリアルに思い描いてみて下さい。唾液が出てくるでしょ
う?現実には電車に乗っていて悲しい小説を読んでいるだけなのに、泣けることはありません
か?この「“現実”か“フリ”か判断できない」という一見愚かしく思える脳の事実に、実は
とてつもない力が潜んでいるのです。
9歳だったアメリカ人のポーター君が、ガンを悪役に、そして白血球を正義の味方にして水
鉄砲のようなものでガン細胞をやっつけるイメージを半年続けた結果、全てのガン細胞を消滅
させてしまった話はよく知られています。尾崎さんご自身も、ビジネスでの成功、ダイエット、
歯茎の炎症の完治などなど様々なところでイメージの力を発揮されているし、彼女のトレーニ
ングを受けた人たちも一般的には奇跡としか言い様のない問題解決や夢の実現をイメージン
グ力で果たしておられます。
私は尾崎さんのトレーニングを受けた訳ではありませんが、イメージングの方法を何となく
つかみ、以前は薬に頼っていた持病も、今ではイメージングと呼吸法で治すことができます。
小学生の娘がお腹痛い、と言ってきたら私の誘導で本人にイメージングをさせて治します。人
間には、私たちが自覚していない大きな大きな力が、その出番を待ちつつ潜んでいるのではな
いでしょうか。
尾崎さんは、「全てはイメージの産物です。この世の中にある全てのものは最初は誰かの頭
の中にイメージとしてのみ存在していました。ペン、ノート、時計、パソコン、電灯、机、遊
園地・・・」と言っています。そう聞いて私は思うのです。去年、私はこの原稿の中で原発問
題を取り上げ、「社会問題に対する無知や無関心から脱し、一人一人が目覚めなければ」とい
うようなことを書きました。今もその通りであると思っていますが、同時に駒を一手進めよう
と思います。私たちは自分の未来がどんな風であって欲しいのか、地球の未来がどんな風であ
って欲しいのか、常に臨場感あふれるイメージを持たなければなりません。想像できないもの
は決して創造できないのです。あなたもサイッコーの自分の姿を、そしてサイッコーの日本と
世界と地球を遠慮なく思い描いて下さい。
42
英語科
藤本
早織
先生
矢沢永吉
『成りあがり-矢沢永吉激論集』(角川文庫)
中学時代には、推薦図書と呼ばれる純文学を大体読みました。学校の成績を上
げるためです。高校時代はもっと知識を広げようとまずは『哲学大全集』でカ
ントやデカルト、ゲーテなどを読みました。次に、アメリカ大統領の本、経済
の本など、決して興味があったわけではなく、すべて勉強になるかと思い読み
ました。そんな私がたった1冊だけ、読みたくて読んだ本がこれです。貧しい
家庭に育った私にとって、勉強は貧乏から抜け出せるかもしれない“光”でした。
とにかく勉強して、良い大学に行って、良い仕事に就いてお金を稼ぐんだと。
「いつかビッグになってやる!」と毎日思っていました。そんな私のバイブルが
これでした。どんなにつらくても、あきらめない、いつかきっと見返してやると、
とにかく歯を食いしばって勉強しました。君達はとても恵まれていて、ハングリ
ー精神なんてものとは全く無縁かもしれませんが、少しは響くものがあるかもし
れません。「先生はどうしてそんなに勉強したんですか」とよく聞かれますが、
その答えはこの本の中にあると思います。
43
専修選択科(フランス語)
児玉
明子
先生
“一本の人参は宇宙の
“一本の人参は宇宙のあらわれ
あらわれ!?”
宇宙とは永遠の命のこと。
宇宙の「宇」とは時間的無限の拡がりを「宙」は空間的拡がりを示します。
一本の人参が土の中に種を植え付けられ、やがて芽を出し双葉が生え青々とした葉をつけ土
中に赤い根菜を実らせるまでに実に多くの時間と関わりを要します。例えば種を植え付けた
土は、太古の火山の爆発から生まれた地層から出た山の岩石が風雪の歳月を経た後、石とな
り砂となり動植物の堆肥を含んで農地の土壌になったものです。生育中の灌水も森林の上空
に発生した蒸気が雨水となり、山から川へ流れ湖に貯まり私たちの手元に運ばれてきます。
収穫までの栽培の世話をする人にいたっては、その人が農耕に従事するまでに育てた両親は
じめ、両親のそのまた家族などその人の生涯の中で関わった縁者は無数に拡がります。すな
わち一本の人参は無限に拡がる関係性を持っている存在なのです。
私たちの一生は人類の長い歴史の中ではほんの瞬く間に過ぎないものであっても、その生
は幾多の眼には見えない繋がりによって支えられているのです。自分はもっと大きな悠久の
流れの中で活かされている存在であることに気付くことは、幸せに生きてゆくためにとても
大切なことではないでしょうか?
ここで紹介する人物は皆、強靭な意志でそれぞれに課せられた使命を果たし、後世の人々
に活路を広げてくれた人々です。現在私たちが心情を素直に吐露できる母国語を持ち、平和
に衣食住を満たされた日々を過ごせるという当たり前と感じる最高の恩恵に浴せるのも、彼
らの困難をも糧にした死闘を重ねた生涯から紡ぎ出された聖なる結晶の賜物です。著者だけ
でなく、生涯を捧げて詳細な訳注を完成させた研究者達の真摯な姿勢にも深い敬愛を感じま
す。
【イザベラ・バード】
【杉田玄白】
【阿倍仲麻呂】
44
* 辻原登 『翔べ麒麟』 (読売新聞社)
(読売新聞社)
あまのはらふりさけみれば春日なる
三笠のやまにいでし月かも
百人一首にも選ばれているこの有名な歌は、遣唐留学生として大陸に渡っ
た53歳の阿倍仲麻呂が、37年ぶりに唐より帰国する時に故国をしのんで
詠んだといわれている。唐の玄宗に仕え、高官を勤め、李白、王維ら数多く
の唐詩人とも親交のあった彼は、帰途乗船した船が暴風雨に遭い、流れ着い
た安南で総督となり故国の地を踏むことなく生涯を終える。一方その同じ船
団には、それまで安否を気遣う弟子等に渡航を阻まれること4回、66歳に
なる鑑真が実に10年の歳月を経て渡日を果たすのである。
*イザベラ・バード(
(平凡社)
イザベラ・バード(著)/金坂清則(
/金坂清則(訳注)
訳注) 『完訳 日本奥地紀行Ⅰ~Ⅳ 』
イギリス・ヨークシャーで牧師の長女として生まれたイザベラ・バード(1831
~1904)は 1878 年 5 月~12 月まで日本に滞在し、東京~日光~新潟へ抜け、
日本海側から北海道に至る北日本を前半に、10月から神戸~京都~伊勢~大
阪を訪ねた旅の記録を収めた。本書は当時の日
本人の生活の様子を西洋人の視点を通して知る
貴重な文献である。また、アイヌの生活ぶりや
風俗の言及はまだアイヌ文化の研究が本格化する前の明治初
期の状況を詳細に紹介した唯一の文献であるといわれている。
近代化を図る明治初期の政府は彼女の指摘を多いに参考にし
たのではないだろうか?折りたたみ式のベッドと浴槽と椅子
を提げた道中記や、作中に見られる彼女自身によるスケッチ
をもとにした銅版画の挿絵も興味深い。
*
杉田玄白(
杉田玄白(著)/片桐一男(全訳注)
/片桐一男(全訳注) 『蘭学事始』
蘭学事始』( 講談社学術文庫)
医学の基本である人体の内部構造に関する書物『解体新書』
を蘭語から日本語にはじめて翻訳した杉田玄白は、国益になる
と信じて仲間2~3人と志をたて蘭学を学び始めた頃の覚え
書を83歳の時にしたためた。西洋のことに関しては厳しい御
制禁が出されていた当時、様々の苦難に遭いながらも、彼らの
篤い求道心は実をむすび、若き担い手たちにより 50 年を隔て
たのち蘭学が隆盛となり西洋文化の導入に大きく貢献できる
学問であったことを確信している。仲間の労をたたえ、それも
ひとえに 200 年続いた徳川の平和裡のお蔭と感謝している玄
白翁の眼差しは美しい。
45
理科助手
竹下 司 先生
室井滋・作/長谷川義史・絵 『しげちゃん』 (金の星社)
自分の名前は好きですか?
名前で嫌な思いをしたことはありますか?
自分の名前の由来を知っていますか?
このお話の主人公の「しげちゃん」は、女の子ですが「しげる」という名前です。
しげちゃんは男の子みたいな名前のせいでしょっちゅう嫌な目に合う。そこで、
「ねえ、お母さん、わたし、じぶんの名前、キライ!もっと かわいい 名前にかえてよ」
とお母さんに頼んでしまう。お母さんはギロリとにらみ、名前は絶対に変えられないものだと言っ
た。いつかは名前を変えられると思っていたしげちゃんは、名前の候補まで考えていたのにそれが
叶わないことを知りガッカリする。落胆して、べそをかいてしまったしげちゃんをお母さんは優し
く抱きしめて、名前をつけるお父さんお母さんはその子が一番幸せになれる名前を一生懸命に考え
るのだと、そして、しげちゃんは名前の由来を聞いてちょっぴり「しげる」が嫌でなくなる、とい
うのがあらすじです。 そして、最後は次の言葉で終わっています。
「下の名前はぜったいにかわらないのだから、
これからもっともっともっとすきになるぞと思った」
この作者である室井滋さんは女優です。芸名をつけることができたのに「しげる」のままです。
「芸名も色々考えてみたけど、結局両親にもらった名前が一番好きになっていたんですね。」とあ
とがきに書かれています。
私も「司」という名前で困った経験は多くあります。「しげちゃん」と同じように男子用で何か
の準備をされてたことがあります。最近だと銀行や市役所などの窓口で「ご本人ですか?」と顔を
二度見されることが多いです。もう色々あります。名前だけ見たら男性としか思われない名前を持
つというレアな共感を「ホットポイント」として私はこの絵本を選びました。
この絵本は、幼稚園から小学校低学年の子供向けではありますが、今その時期がとっくの昔にな
った中学生、高校生の皆さんも楽しめると思います。それぞれの名前にこめられた願いや意味、名
前を決める経緯などを聞いてみてはいかがでしょうか。そして、これからもずっと一緒に生きてい
く自分の名前を大切に思ってほしいと願います。
46
保健室
紀
和江 先生
『ケネディからの伝言』
著 者:落合信彦
出版社:小学館
発売日:2013 年 11 月 19 日
えんぜつ
心が熱くなるといえば、ケネディの演説ではないでしょうか。この本は、2013 年 11 月 22 日でケネディ
ぼ つご
むか
ぞ うほ
じょうせい
の没後50 年を迎えるにあたって増補されたもので、ケネディの有名な演説を世界情 勢 や時代背景とともに英
かいせつ
がっしゅうこく
文つきでわかりやすく解説しています。
ケネディは 43 歳という若さで 1961年1月 20 日にアメリカ合 衆 国
しゅうにん
しゅうにん
こうせい
第 35 代大統領に就 任 しました。その時の就 任 演説は後世に残る名演説と言われています。ケネディの演説
かんけつめいりょう
えいきょう
すぐれた点は、内容が簡潔 明 瞭 で、世界の指導者にメッセージを送り、影 響 を与え、良い方向へ変化をもた
らしたことと、アメリカ国民の心に夢と希望と感動を与えたことに尽きるのではないでしょうか。
ぼっぱつ
時代背景は冷戦時代で、第3次世界大戦が勃発すれば核により人類の危機に直面しかねない時代でもありま
した。ケネディは共産主義に対抗して民主主義の自由をうたい、
「我々は自由の生存と成功のためにはいかなる
だ いか
お もに
代価をも支払い、いかなる重荷をもにない、いかなる苦難をも立ち向かい、いかなる友人をも支援し、いかな
る敵にも反対する。」と、信念や決意を述べました。同時に、旧ソ連(ロシア)に「科学によって解き放たれた
ぐうはつてき
じ めつ
暗黒の破壊力が計画的であろうが、あるいは、偶発的であろうが、自滅行為によって全人類を飲み込んでしま
りょうじんえい
たんきゅう
う前に、両 陣 営 ともに平和の探 求 を新たに始めようではありませんか。
」と述べ、敵に武力(核戦争)ではな
どうほう
く平和的協力を求めました。そして、アメリカ国民だけでなく、世界中の人に向けて「わが同胞であるアメリ
しょくん
しょくん
と
たま
しょくん
と
たま
カ国民諸君。国が諸君のために何ができるか問い給うな。諸君が国のために何ができるかを問い給え。わが友
しょくん
しょくん
である世界の市民諸君。アメリカが諸君のために何をしてくれるかではなく、我々がともに人類の自由のため
と
たま
に何ができるかを問い給え。
」と、自ら考え行動することを呼びかけました。演説はわずか 15 分で終了しまし
か
ち
たが、拍手と歓声がいつまでも鳴りやまなかったといいます。読んでみる価値ありです。
『オール1の落ちこぼれ、教師になる』
著 者:宮本延春
出版社:角川書店
発売日:2009年7月 25 日
じょうねつ
ちょしゃ
情 熱 をもって教師になる夢を実現した1教師の体験談です。著者である宮本先生は、今は私立の学校で教師
きょうだん
として教 壇 に立っていますが、中学校時代は優秀だった訳ではありませんでした。中学校での成績は「オール
ちゅうそつ
お
1」で学歴は中 卒 でした。ちょっとしたきっかけで物理に興味がわき、苦労して働きながら、寝る間も惜しむ
き せき
ぐらいに勉強して、努力に努力を重ねて 27 歳で国立大学に合格した軌跡が書かれています。勉強が好きでは
ひっけん
まわ
ない人に必見です。勉強するきっかけは自分の周りに転がっています。自分の進むべき道が見つかれば、その
道へ進むだけ。
47
保健室
山本
つかさ
先生
原作:J
作:J・R・R・トールキン 「指輪物語」(評論社)
「指輪物語」(評論社)
映画:監督ピーター・ジャクソン 「ロード・
「ロード・オブ・ザ・
オブ・ザ・リング」三部
J・R・R・トールキンの「指輪物語」を映画化した傑作ファンタジー。ホビット族が平和
に暮らすホビット庄の青年フロド・バギンズは、111 歳の誕生日を機に旅立つ養父ビルボが
残していった、ひとつの指輪を手に入れる。しかし、その指輪こそ、かつて冥王サウロンが
作り出した、世界を滅ぼす魔力を秘めた禁断の指輪だった。遥か昔に肉体を滅ぼされたサウ
ロンは、指輪に封じ込めた力を解放し、再び中つ国を支配しようと徐々に魔力を強め、世界
には暗雲が漂っていた。指輪を破壊するには、遥か彼方にある滅びの山の火口に投げ捨てる
しかなく、フロドは人間やエルフ、ドワーフの各種族から集まった旅の仲間とともに幾多の
危険が待ち受ける旅に出る。
私がこの映画を知ったのは、違う映画を観に行ったときにたまたま劇場の予告で流れたの
を見たからです。その予告映像の迫力がすごく、絶対映画館で観たい映画だと感じたのを覚
えています。「ロード・オブ・ザ・リング」3 部作すべて映画館へ観に行きました。映像が
きれいで迫力があって、映画が始まってすぐにロード・オブ・ザ・リングの世界に入り込め
ました。主人公フロドや仲間に次から次へと降りかかる試練にハラハラしながらその姿に胸
を熱くし、観終った後はぐったり疲れるほど夢中になって映画を観ました。
「ロード・オブ・ザ・リング」の主人公フロドの養父が
主人公の「ホビット」という映画もあるのですが、こち
らもお薦めです。
「ホビット」は、養父がした冒険やなぜ
指輪を手に入れたのかが描かれており、こちらもとても
おもしろく迫力ある映画です。
48
図書館
宇野
珠代
先生
☆食べる事が大好きな私が熱くなった本を2冊紹介します☆
『四十九日のレシピ』 伊吹有喜 著 ポプラ社
冷えきった身体にじわじわと血がめぐり、身体の感覚が戻って最後には
お腹の底から熱い力がこみ上げてくるような物語。
妻・乙美を亡くしたばかりの熱田良平は生きる気力を失っていた。そこ
に夫との別れを決意した娘の百合子が帰ってくる。傷つき動けない二人
の前に、突然現れたのは金髪の娘「井本」。乙美から自分の死後四十九
日までのあいだ手伝うように言われたという。 乙美の残したレシピの
カードを元にみんなで四十九日の大宴会を準備する事になって…。
「ソースのしみたコロッケパン」
「アツアツの豚まん」etc…食べ物が記
憶の中に残す思い出がとても印象的に出てきます。クスッと笑う場面も
多いのですが、やっぱり何度読んでも涙なしでは読めません。2011
年にドラマ化、2013年に映画化されました。良平が百合子に言った
言葉「振り返るな。振り返ったらいかん、人生は短いぞ」に込めた強い
思い。熱く生きてみたくなる一冊!
『英国一家、日本を食べる』
マイケル・ブース 著 寺西のぶ子 訳 亜紀書房
英国人の毒舌フードジャーナリストが日本の美味しい物を求め、食べて
食べて食べまくって書いた日本の食紀行。日本ってこんな風に思われて
るんだ!自分の国のことなのに知らない!と思う話がいっぱいでした。
読むうちに「食べてみたい!」と猛烈な食欲に襲われます。
一口飲んだだけで「喜びで身体が震え、身体中の毛という毛が逆立っ
た。」という黄色い菊の花びらを散らしただし汁に入ったハモ料理(う
っとり)等々。屋台から選ばれし人しか行けないお店まで(もちろん京
都も出てきます)様々な料理と、料理に情熱を捧げる人々の姿に感動し
ます。2013 年に世界無形文化遺産に認定された「和食」これを読めば
きっと日本の食に対する思いが熱くなりますよ!
49
図書館
末次 雅子 先生
西岡由香 『愛のひと ド・ロ神父の生涯』
〔長崎文献社〕
〔長崎文献社〕
【漫画なのでサッと読めます!】
2013 年は聖母女学院創立 90 周年の年だった。1923(大正 12)年、関東大震災の年に聖母女学院が
創立された。創立の2年前にあたる 1921(大正 10)年、フランスから船に乗って、日本に来られたヌヴェー
ル愛徳修道会のシスターたち。彼女たちの決意とはいかほどのものだったのだろうか。学院の歴史を紐
解きながら思いを馳せた。「愛の種」を蒔くために、どれほどの愛と勇気が必要だったのだろうか。
今回、私が紹介する本の主人公は、このシスターたちよりも 50 年以上前の 1868(慶応 4)年、まだ日本
ではキリスト教が御禁制だった時代にフランスから長崎の地へ降り立った 1 人の神父さま。(奇しくも、彼
が長崎に降り立ったその日は、長崎の浦上キリシタンが総流罪の太政官達が公布された日でもあった。
まだまだ日本ではキリシタンたちは、その信仰が故に迫害を受けていた。)
(そとめ)の太陽と称される方だ。彼は、長崎、横浜赴任
その神父の名は、ド・ロ神父
ド・ロ神父。後に、長崎・外海
ド・ロ神父
を経て、禁教の高札が撤廃された 3 年後の 1876(明治 9)年にキリシタンの母郷とも言われる長崎の外海
に赴任する。そこは貧しい村だった。貧しい人々の生活を支えるために仕事を授け、自立できる力を身に
付けさせたいと彼は思った。外海の出津(しつ)に教会堂を建てる一方で、授産場である救助院を設立、そ
こで織布、編み物、素麺、マカロニ、パン、醤油の製造を行った。建築士として教会も建てた。医師としても
人々を救った。近代的な農業も取り入れた。食べ物も作った。衣類もデザインした。(女子救助院には制
服があった。)まさに、ド・ロ神父は、ここではスーパーマンだった。彼がフランスで学んでいた建築、医学、
農業など幅広い分野の知識を活かし、宗教を超えた深い愛で外海の人たちの生活の立て直しに力を注
いだ。日本福祉事業の先駆けとも言える。(今もこの地方の名産に「ド・ロさまそうめん」がある。)
250 年もの禁教時代を通して激しい弾圧にも屈せずキリシタンの信仰を守った外海の人々への神様か
らのプレゼント、それがド・ロ神父だったのではないだろうか。1914(大正 3)年、一
度も故郷フランスに帰ることなく彼は長崎で生涯を終える。まさに、ド・ロ神父は、
愛のひとそのものであった。
生ぬるい生活を送っている私には、彼が一生をかけて異国の地の人々に注が
れた愛に、心をあつくした。「信徒発見」から150年目にあたる 2015 年、長崎の教
会群が世界遺産に指定されたなら、もっともっと多くの人に彼の生き方を知っても
らえるのではないかと期待している。
50
あとがき
今年も恒例となりました「先生方の一冊」を集めた冊子が、図書委員会のみなさんの
企画のもと、ここにできあがりました。毎年変わらぬ教職員の皆様の心のこもった寄稿
と図書委員の協力に、厚くお礼申し上げます。
テーマは「(心が)あつくなる本」。本との出会い、そこに描かれた人間との出会いは、
ときに読む人の価値観や人生観さえ変えることがあります。おそらくそのような本には、
人を変えさせるのに十分なエネルギーや情熱を、作者が知らず知らずのうちにこめてい
るからこそ、書き手から読み手へそれがリレーされていくのだと思います。
先生方の紹介してくださった各作品には、どのような「人を動かすエネルギーのリレ
ー」があったのでしょうか。それはある分野の道をきわめた人々のメッセージであった
り、作品中のおかれた時代や状況に立ち向かった魂や精神力かもしれません。この冊子
を読まれたみなさんが感じ取ったり想像力を働かせてほしいのは、そのような本に向か
った各先生の、どんな部分にエネルギーや変える力がはたらいたのか、ということ。ふ
だん接する先生の、口ぐせのように使う話やエピソード、好きな物事、授業のスタイル
にさえ、それらの本がはたらいているのかも知れないのですよ!本には、そんな力があ
ります。
今年度のニュースを見渡しても、富士山の世界文化遺産や2020年の東京オリンピ
ックの決定、プロ野球ではチーム開設9年目にして日本一を成し遂げた東北楽天のよう
に、人々の努力とエネルギーが結実し、あつい喜びが私たちの胸にも伝わってくるでき
ごとがたくさんありました。それらのエネルギーの記録と伝承の証としても、本はこれ
からも人々の心に「あついもの」を刻みつける作業を続けるのでしょう。
この冊子が、読んだみなさんの「人を動かすエネルギーのリレー」の一助となること
を、願っています。
京都聖母学院中学校高等学校
図書館長 大迫
51
孝士