カナダの教育:概観 ポーラ・ダニング著 就学前プログラム

カナダの教育:概観
ポーラ・ダニング著
(カナダ教育協会の許可を受け翻訳及び引用)
就学前プログラム
学校教育の成功についての研究は、一様に幼児期における学習経験の重要
性を強調している。どの州においても 1 年生(通常 6 歳)までは就学の義務はな
いが、プリンスエドワードアイランド州を除くすべての州では、5 歳児に対する
幼稚園プログラムを提供している。 就学義務はないが、幼稚園は州の公教育制度
において重要な部分を占めるようになり、ほとんどの州で就学率は 90%を超えて
いる。また、なかには 4 歳児に対して幼稚園前(あるいは年少幼稚園)プログラム
を提供している州もある。オンタリオ州は 1992 年から 93 年にかけて、ほとんど
の 4 歳児が就学している唯一の州であった。30 近年オンタリオ州政府は年少幼稚
園を義務ではなく任意としたため、このレベルの就学率を保つことはないだろう
と考えられる。
幼稚園プログラムは、園児達に 1 年生からのより正規の学習環境に入るた
めの準備をさせることを目的として作られている。幼稚園では、子供たちの社会
的、精神的、身体的、知的な発達を促すために、遊びをもとにした活動を行って
いる。幼稚園は通常半日のプログラムだが、教育委員会のなかには経費削減策と
して、隔日の終日プログラムへ移行したところがある。また、マニトバ州、オン
タリオ州、ケベック州の教育委員会のなかには、4 歳児と 5 歳児を 2 年間の就学
前プログラムへ集約したところがある。
アルバータ州には地方と州のプログラムを連携させた幼児教育事業
(ECS)があるが、これは 1974 年に始まったものである。アルバータ州の 4 歳
半の子どものおよそ 98%が教育委員会、私立学校あるいは私立 ECS センターに
よって運営されているプログラムに参加している。大抵の子どもは 1 年生になる
1 年前に幼稚園プログラムに入るが、特に必要のあるものはそれより早く入るこ
ともできる。
幼稚園への入園資格は州によって異なる。ニュー ファンドランド、ニュ
ー ブランズウィック、オンタリオ、マニトバ、サスカチュワン、ブリティッシ
ュ コロンビアの各州および、ユーコン準州とノースウエスト準州では、12 月 31
日までに 5 歳になった子どもを受け入れている(あるいは、空きがあった場合、
4 歳児を年少幼稚園に受け入れる)。ノバスコシア州とケベック州では、10 月 1
日を区切りの日とし、アルバータ州では 9 月 1 日までに 5 歳になっていなければ
ならないとしている。31
30
ibid.
Austin,J.Harte, Improving School Attendance; Responsibility and Challenge (Toronto; Canadian
Education Association, 1994),p.31.
31
学校組織
カナダの学校教育体制は大きく二つの部分に分けられる。通常、幼稚園か
ら 6 年生あるいは 8 生までの子どもを含む初等教育と、卒業に向けた準備のため
の中等教育である。初等教育から中等教育への転換点は州によって異なる。初等
教育における学年区分も同様である。もっとも一般的な組織構造は二つあり、ひ
とつは K-8(幼稚園から 8 年生まで。初等教育)と 9-12(中等教育)からな
るもの、もうひとつは K-6(初等教育)と 7-9(前期中等教育または中学校)
と 10-12(中等教育)からなるものである。
授業日と学年
学年度は、授業日数に 180 日から 200 日までと違いがあるが、一般的には
8 月下旬か 9 月上旬に始まり 6 月下旬に終わる。(ユーコン準州とノースウエス
ト準州の極北地域では、6 月にはより日が長く、学年は 8 月中旬に始まり 6 月の
第 1 週に終わる。)すべての学校は国及び州が定めた休日を遵守する。夏期休業
に加えて、カナダの初等学校及び中等学校の生徒には 2 つの長い休みがある。7
~10 日間のクリスマス休暇(最短で 12 月 23 日から 1 月 2 日まで)と、通常は 3
月か 4 月にある 1 週間の春休みである。またなかには 1 年をとおしての学年度制
を試行した教育委員会が二、三あるが、この制度では生徒には 2 ヶ月の夏休みの
代わりに、短い休暇が数回ある。
授業日1日の長さは州によって異なり、また州法によっては、各教育委員
会に柔軟な時間割の設定ができる権限を与えることができる。一般的には午前 8
時 30 分から 9 時の間に始まり、午後 3 時から 4 時の間に終わる。授業時間は初
等学校では平均して 5 時間(昼食と休憩がこれに加わる)、中等学校では 5 時間
30 分である。
教科書と教材
ほとんどの州では、教育委員会は初等学校および中等学校の生徒に無償で
教科書を提供しており、生徒は課程終了時あるいは年度の終わりにそれを返却す
る。
校長と教師は、所轄の教育省庁によって承認された教科書のリストから選
択する。カナダ人によって書かれたものやカナダで出版されたものが好まれてい
る。学校は、教育省の許可が得られたときのみ、リストに載っていない教科書や
補助教材を使用することができる。
オンタリオ州とケベック州を除いたすべての州では、教育委員会が、学校
図書局あるいは教育課程教材部と呼ばれる担当部署をとおして教科書を購入する。
これは教育庁の補助的な機関として機能しており、各学校に配布するための承認
済み教科書を大量に一括購入する。
初等学校
子どもは遊び中心の幼稚園や保育施設あるいは家庭という環境から初等学
校へ入ってくる。6 年または 8 年後彼らがそこを出るときには、彼らは青年期に
さしかかっている。通常、初等学校では、あまり体系化されていない遊びをもと
にした学習環境からより体系化され整えられたものへと徐々に移行していき、中
等教育に進むための準備を行う。
初等学校では、読むこと、書くこと、数学、さらに理科、社会科、保健体
育、音楽、美術の基礎技能に重点をおく。カナダの大抵の学校では、第 2 言語教
育(英語またはフランス語)も初等教育段階で導入される。宗派教義に基づく学
校においては、宗教教育は教育課程の一部である。
学校組織
平均的なカナダの初等学校1校の生徒数は 250 人であるが、およそ 5 分の
1 の学校においては 400 人を超える。多くの学校では、単独学年あるいは連続す
る 2 つの学年の生徒 20 人から 30 人に対し教師一人を担任とする。低学年(幼稚
園から 3 または 4 年次まで)の学級はできるだけ小人数になるようにするが、こ
のことを法律で定めている州もある。音楽、美術、体育、第 2 言語のような専門
科目を教えるために、担任以外の教師が教室を訪れることがあるが、担任教師は
その年度を通して、生徒に教育課程の基本的な目標を達成させる責任がある。
変動する生徒数に対応するため、教材や人材の有効利用も兼ねて、初等学
校での縦割り学年クラスが増えつつある。これは続いている 2 学年(時に 3 学
年)の生徒をあわせて一つのクラスとし、一人の教師が教えるというものである。
カナダ教育協会の 1991 年の研究によって、カナダにおいて 7 クラスに 1 つは多
学年クラスであること、これは初等学校の生徒の約 5 人に 1 人の割合で多学年ク
ラスでの授業をうけていることになること、さらに縦割り学年クラスの生徒は単
学年クラスの生徒と同様の学習成果をあげていることがわかっている。
教授法と評価
個々の科目で扱う領域や各課題学習に充当する時間を厳守して授業計画を
立てる学校もあるが、複数の科目の分野を統合して柔軟な授業計画を作成する学
校もある。
1970 年代から、カナダの教育者は、進歩的(または生徒中心の)教育と、
より伝統的な教師主導の教育法との、相対的な利点について議論を重ねてきた。
カナダにおいては主に生徒中心の指導法に重点が置かれてきたが、多くの州にお
ける最近の変化により、初等学校の授業は核となる科目、明確な基準、はっきり
とした成果に再度注目するようになった。ある特定学年の生徒に対する特定科目
の共通テストを州全体で導入する州もでてきた。
こういったテストがあるところでも、生徒の到達度を計るのはこれだけで
はない。初等学校の教師は絶えず生徒を評価している。目的のレベルまで到達で
きない生徒には授業中にあるいは学校の支援センターで補習的援助を行う。
通知票が年に数回発行され、生徒の進歩の状況について保護者に報告され
る。州や教育委員会のなかには逸話形式の通知票を用いるところ、また A、B、
C 等の評定によるものや百分率であらわすものを用いるところもある。一般的に、
生徒の学年があがるにつれて通知票はより客観的になるが、保護者と生徒の両者
に対する説明可能性の向上のため、低学年においてさえもより主観的ではない方
向に向かっている州もある。
大抵のカナダの初等学校では留年はさせないようにしている。学校は必要
があれば援助をしながら、生徒をその年齢によるグループのままで学年進行させ
たいとし、「留年」は万策尽きた最後の手段である。
中等学校
中等学校(または高等学校)制度の目的は、生徒に大学等の中等後教育や
就職への準備をさせることである。カナダにおける大抵の中等学校は、一般教養
教育プログラムと職業教育プログラムを併設している。二、三の区域には、まだ
独立した職業訓練高校があり、ある特定の仕事や商業取引関連の教育を専門的に
行っている。また、特定の商業分野への準備のために短期のプログラムを行って
いるところもある。
学校組織
中等学校は初等学校よりも規模が大きくなる傾向にあり、生徒数は平均し
て 600 人ほどであるが、半分以上の学校は 400 人以上である。学校は科目領域を
もとに組織され、生徒は授業毎に教室を移動し、教師はそれぞれの教室で担当科
目の授業をする。学校によっては、殊に中等学校の低学年において、1 学級の生
徒が全員一緒に授業毎に教室を移動する。最上級学年になるまでには、ほとんど
の生徒が個々の時間割を持つようになる。
多くの中等学校は 2 学期制を採用しており、上級学年では特にそうである
ことが多い。
単位制度
卒業条件を満たすためには、どの州の中等学校生もその州の教育省庁が定
めた必須科目と選択科目をあわせたものを履修習得しなければならない。各科目
ごとに単位が定められており、科目ごとに単位が与えられるため、生徒は自分の
中等学校での授業計画を柔軟に組み立てることができる。中等学校の初年度は通
常は必須科目単位取得にあてられるが、これは、科目毎の難易度には差があるに
しても、十分可能なことである。上級学年になる頃には、生徒は、大学進学や就
職といった卒業後の進路選択のために役立つような選択科目を選び専門的な学習
を始める。
中等学校における成果は学年を終了したかどうかよりも取得した単位で評
価される。中等学校レベルでは、生徒には各科目毎に A、B、C 等の評定あるい
は百分率によって評価が与えられる。評価は授業で出される課題、考査、試験を
総合したものをもとに行われる。通常学校からは、最終評価が出される前に 1、
2 回中間報告が出される。
卒業資格
必須科目は州によって異なるが、第 1 言語教育(英語かフランス語)、数
学、理科、芸術、社会科、体育、第 2 言語教育が含まれる。多くの州において、
保健、個人的または社会的技能訓練、家庭科、工業技術訓練、コンピュータ、技
術工学が取り入れられている。32
より高い水準とより統一されたプログラムへの転換傾向が強まりつつある
ことを反映し、いくつかの州では、中等学校の卒業条件の見直しが始まっている。
生徒中心の学習からより伝統的な手法への変換はいくつかの州における選択科目
の減少をもたらし、またなかには卒業条件として、州による統一試験を再採用す
る州も出ている。
卒業条件についての各州ごとの総括
ここで説明される各州及び準州の卒業条件の総括のなかで、特に注意しな
ければならないのは、“単位”の定義には州による違いがあり、それが必要取得
単位数の違いの理由であるということである。例を挙げると、アルバータ州では
1単位は 25 授業時間に相当し、ニューファンドランド州では 55 から 60 時間、
オンタリオ州、マニトバ州、プリンスエドワードアイランド州では 110 時間とな
っている。
ブリティッシュコロンビア州では、卒業するためには 11 年次と 12 年次で
あわせて 52 単位取得しなければならない。多くの科目は 1 科目 4 単位である。
52 単位のうち、28 単位は基礎科目、10 単位は州の承認を受けた選択科目でなく
てはならないとし、のこり 14 単位は地域で開発されたものなどのその他の選択
科目から取ることができるとしている。州による試験が課せられるのは、英語、
コミュニケーション、フランス語(フランス語で教育を受けているものに対し
て)であり、12 年次選択科目の多くも同様である。州による試験は生徒の最終
成績評価の 40%に換算される。
ユーコン準州はブリティッシュコロンビア州の基本的なプログラム、卒業
条件、試験制度に準じている。
アルバータ州の高校の卒業認定を受けるには生徒は 10 年次から 12 年次の
間に最低 100 単位を取得しなければならない。これには必須科目である英語、社
会科、理科、数学、体育、職業及び生活経営教育を含む。12 年次の一般教養教
育コースでは州による卒業試験を受けなければならない。アルバータ州の高校の
1 単位は、およそ 25 時間の授業でほとんどの生徒が習得できる知識、技術、学
習態度をあらわしている。生徒は、卒業認定を受けるには、最低 2 科目の州によ
る卒業認定試験(英語と社会科)を受けなければならない。
32
Council of Ministers of Education, Canada, The Development of Education, op. cit. , p.27.
北西準州では 12 年次の核となる科目についてアルバータ州の卒業認定試
験を用いており、教育課程の大半はアルバータ州のものに類似している。卒業の
ためには、生徒は 10 年次から 12 年次において 100 単位を取得しなければならな
い。英語、社会科、数学、理科に加えて、必須科目には北方の研究、美術、職業
及び生活経営、地域奉仕活動が含まれる。
サスカチュワン州では、生徒は中等学校において 24 単位取得しなければ
ならず、そのうち 5 単位は 12 年次に取得しなければならない。11 及び 12 年次
の単位には英語、社会科、理科、社会学、数学が含まれなければならない。教育
省による試験は、教師がその科目を教える認定を受けていない場合に、12 年次
の一般教養教育科目について受験しなければならない。
マニトバ州では英語とフランス語両方での卒業認定を行っている。生徒は
9 年次から 12 年次において 28 単位を取得しなければならない。14 単位(フラン
ス語での卒業認定には 18 単位)は、言語科目、数学、理科、社会科、体育/保健
の必須科目が占める。必須補講社会科も 11 年次において、追って通知があるま
で受けなければならない。州全体の試験が指定された科目において行われ生徒の
最終成績評価の一部に利用される。生徒は最低 110 授業時間を必要とするよう計
画された授業科目を首尾よく終了した場合に1単位を取得することができる。2
分の 1 単位が同様の方法で(55 授業時間)取得できる。
オンタリオ州では卒業のためには 30 単位必要であり、そのうち 16 単位は
必須科目による。1 単位は 110 授業時間に相当する。大学進学を目指す生徒は、
6 つのオンタリオ一般教養教育科目(OACs)を終了しなければならないが、こ
れを卒業のための 30 単位に組み込むこともできるし、あるいは 30 単位以外に取
得することもできる。州では新しく 4 学年制を導入するために中等学校の見直し
を行っている。*注 1
ケベック州では、中等学校は 5 年間で、6 年間の初等教育の後に行われる。
中等教育全体における必修科目は言語科目(フランス語または英語)、第 2 言語
(英語またはフランス語)、数学、体育、告解道徳と宗教教育または道徳教育で
ある。中等教育の卒業認定を受けるには、生徒は 54 単位を取得しなければなら
ず、そのうち 20 単位は最終学年で取得しなければならない。4 年次または 5 年
次終了後生徒は学校または省の試験に合格しなければならない。卒業後に中等後
教育プログラムへ進む生徒は、中等学校からケベックの一般教養・職業カレッジ
(cegeps)の一つに進まねばならないが、ここでも専門技術訓練教育の授業が行
われている。
ニューブランズウィック州では、英語を話す生徒には 20 単位を必修とし、
うち 15 単位は必須科目である。必須科目には言語科目と数学で 7 単位、理科と
技術工学で 3 単位、社会学で 2 単位、自己啓発に 2 単位、それにこれらのグルー
プのうちから更に選んで追加する 1 科目が含まれる。生徒は通常、高校の 3 年間
のそれぞれ 1 年ごとに 8 科目ずつ履修する。10 年次からの単位制度をなくし、
11 及び 12 年次で 16 単位のうち 14 単位を取得させるようにする計画が進行中で
ある。これには数学 2 単位、英語 2 単位、理科 1 単位、社会科 1 単位、美術また
は自己開発 1 単位を含む。フランス語使用の学校の生徒は最低でも 26 単位を取
得しなければならず、これには高校 4 年間での 23 の必須科目が含まれている。
これらは、フランス語 6 科目、数学 5 科目、理科(生物、化学、物理学)3 科目、
社会科(社会学、歴史、地理)3 科目、第 2 言語英語 2 科目、芸術 1 科目、体育
1 科目、自己及び社会形成 1 科目、技術工学 1 科目、そして人間開発、政治機構、
経済と法学、起業教育、芸術から 1 科目が含まれる。現行の必修科目は『 改定
中等教育』に照らして見直されることになるだろう。英語校とフランス語校の両
セクターともそれぞれ独自の試験を用いている。
ノバスコシア州では、生徒は卒業するには 18 単位を取得しなければなら
ず、それには言語科目 3 単位、美術 1 単位、社会科 1 単位、国際研究 1 単位、数
学 2 単位、理科 2 単位、技術工学・数学・理科から追加の 2 単位、さらに活動的
生活習慣と職業及び生活経営から 2 分の 1 単位 2 つが含まれる。
プリンスエドワードアイランド州では生徒は 110 授業時間を 1 単位として
18 単位を取得しなければならない。これには言語科目 4 単位、数学 2 単位、理
科 2 単位、社会科 2 単位を含む。これらの必修条件は見直しの途中で、20 単位
を卒業条件とするよう改定されるかもしれない。
ニューファンドランド州とラブラドール地域は生徒に1単位 55 から 60 授
業時間として 36 単位取得を課している。少なくとも 20 単位はレベル I 以上で取
得しなければならない。また、少なくとも 9 単位はレベルⅢかレベルⅣで取得し
なければならない。英語使用の制度では生徒は英語 3 単位、英文学 4 単位、数学
4 単位、理科 4 単位、カナダ研究 2 単位、世界研究 2 単位、経済教育 2 単位、さ
らに他の分野から 4 単位とすべての分野から 11 単位を取得しなければならない。
フランス語第 1 言語プログラムでもほぼ同様であるが、英語と英文学は、フラン
ス語 6 単位と、英語第 2 言語教育と英語英文学のどちらかから 4 単位に置き換え
られる。
ケベック以外のすべての州と準州では、一般の人に対し一般教養教育発達
(GED)考査を行っており、彼らの人生経験や就労経験をもとにして高校と同
等の資格を取得する機会を提供している。これには作文、社会科、理科、読解、
数学が含まれる。これは細かい内容よりも、理解力、批判的判断力、明晰な思考
力に重点を置いている。ケベックでも、同様の目的のために、類似する考査を開
発した。
また、中等学校の環境のなかでは必要とされる単位を取得することができ
ない生徒のために、通信教育や遠距離学習も全国で行われている。
言語教育
二言語主義はカナダを特徴づける性質であり、言語政策はカナダの学校制
度を特徴づける性質である。この国の英語話者の多くは(71%)主にケベック州
の外にいる。ケベック州においては、人口の 85%が、フランス語を第 1 言語と
して使用している。ニューブランズウィック州は 2 番目にフランス語話者人口の
多い(32%)州であり、唯一公式に二言語主義をとっている州である。33
33
Canadian Education Statistics Council.A Statistical Portrait, op.cit., p.14.
1969 年に英語とフランス語の 2 言語ををカナダの公用語とすることが承
認されたことをうけて、カナダ政府による「教育における公用語プログラム」が
導入された。この目的は 2 つある。ひとつはケベック州の外にすむフランス語話
者と、ケベック州にいる英語話者が自分の言語で学校教育を受けることのできる
権利を保証すること、もうひとつは 1 言語のみを話すカナダ人にもうひとつの公
用語を学ぶ機会を提供することである。
1982 年の「憲法法」と「権利と自由の憲章」は、初等及び中等教育にお
ける少数派言語の権利を公式に保証することによって、これらの目的を統合させ
た。憲章では、子供たちは、その州における少数派言語が彼らの母語である(最
初に覚えた第 1 言語であり、家庭で話されている)場合と、彼らの親がその言語
で教育を受けていた場合、また家族のなかの他の子どもがその言語で教育を受け
ている、または受けていた場合に、その言語による教育を受けることができるこ
とが保証されている。これらの判断基準はケベック州を除くすべての州と準州で
適用される。ケベック州では母語についての判断基準が適用されない。これらの
基準は“数が保証される場合”条項を条件としており、このため州は開講に必要
な対象生徒の最低人数を設定することができることになる。この条項がなければ
教育委員会は第 2 言語プログラムの設置及び維持する義務を免除される。
1984 年、オンタリオ州は、事実上“数が保証される場合”の規定を無効
にする法律を制定した。それは、州内の教育委員会は、フランス語を話し憲法に
定められた判断基準を満たす生徒に対しては、その数にかかわらず、フランス語
による教育を行わなければならないとするものであった。
国と州の二者間の合意により、連邦政府は、言語事業を開発し維持してい
くために州や準州が新たに負担しなければならない費用に対して財政的援助を行
う。1992 年から 93 年にかけて、国は公用語プログラムを通して 2 億 9650 万カ
ナダドルを州に譲渡している。34
カナダの学校では一般に次に挙げる 3 つのレベルの言語教育が利用できる。
少数派言語プログラムは、これはすべてのフランス語あるいは英語を話す
子供たちが、彼ら自身の第 1 言語で学校教育を受けることができることを保証す
るよう作られている。こういったプログラムはフランス語を話す子供たちのため
のフランス語学校や英語を話す子供たちのための英語学校で行われている。これ
らは憲法による保証の対象となる唯一の語学プログラムである。
フランス語イマージョンプログラムは、全国の都市部によく見られるが、
フランス語を第 2 言語として教えるために作られている。通常低学年のうちから
始められる。英語を話す子供たちは幼稚園から始まるフランス語の集中プログラ
ムに入り、すべての低学年学校教育をフランス語で受ける。学年が進み、彼らがフ
ランス語をきちんと習得してから、学校生活の一部に、指導するための言語とし
て英語が導入される。中等学校に進む頃までには、イマージョンプログラムの生
徒は通常、選択肢がある場合は、英語とフランス語を組み合わせて授業を取るよ
うになる。教育委員会によっては、初等学校後期か中等学校前期におけるイマー
ジョンプログラムへの後期編入も行っている。
34
Canada Year Book, 1997 (Ottawa: Statistics Canada, 1997), p.136.
こういったフランス語イマージョンプログラムはすべての州と準州で利用
できるが、すべての地区にあるわけではない。これは財政的採算のあう都市部に
集中する傾向にある。1992 年から 93 年にかけて、ケベック州以外のフランス語
を話さない生徒のうちの 7%、ケベック州内の同様の生徒のうち 25%がフランス
語イマージョンプログラムに在籍している。
一般第 2 言語プログラムでは第 2 公用語教育を中心科目とした教育を行う。
多くの州では、フランス語は 4 年次か 5 年次から導入される必須科目であるが、
時期が早まることもしばしばある。ケベックでは、英語は 4 年次から卒業まで必
須科目である。
*注 1 オンタリオ州では 1999 年 9 月の Grade9 から OACs がなくなり、4 学年制を
導入しました。よって、現在必須科目は 18 単位です。