育ちの法則 初瀬基樹 2014年7月、佐世保で女子高生が同級生を殺害するという悲しい事件が起きてしまいました。ちょう ど10年前の2004年6月にも同じく佐世保で当時小学6年生の女の子が同級生の女の子の首をカッ ターで切りつけて殺してしまうという事件がありました。遡れば、1997年には神戸で「酒鬼薔薇聖斗 (サカキバラセイト)」と名乗る当時14歳の中学生が複数の小学生を殺傷し、1人の男の子の頭を切断 して中学校の門の前に放置したという事件もありました。今回も事件の詳細は、これから詳しく調査 されることと思いますが、その子の幼少期からの生育環境がとても気になるところです。 10年近く前になりますが、現在、白梅学園大学の学長をされている汐見稔幸先生を熊本にお招きし て講演会を行ったことがあり、そのときに「人はどうしてこうも残酷になれるのか、少年たちによる残 酷な事件はなぜ起こるのか、どうやったら食い止められるのか」とお尋ねしたことがあります。 汐見先生曰く、「哺乳類のなかで、人間ほど残虐性をもった動物はいない。生きるために他の動物を 殺して食べる動物はいるが、趣味で狩りをしたり、戦争や喧嘩などで仲間を殺す動物は人間以外に はいない。しかも、人間は地球上に存在し始めてから、現代に至るまで、ずっと仲間を殺し続けてきた。 人間とは、そもそも本能的にそのような凶暴性を秘めた動物なのかもしれない。しかし、その本能が むき出しになってしまうと人類はすぐに滅びてしまうので、凶暴性を抑えるための子育て文化を築い てきたのではないだろうか。すなわち、母親が無条件の愛情を与え続けて赤ん坊を育てるというこ とにより、子どもは愛された経験から人を愛するようになる。つまり、『愛』が歯止めとなって凶暴性を 押さえ込んでいるのではないか。ヒットラーは0歳児のときから厳しい体罰で育てられていた。神戸の 連続児童殺傷事件の酒鬼薔薇少年も厳しい体罰で育てられていた。このように、幼少期に無条件の 愛情を注いでもらえずに、虐待を受けたりして、そのまま成長すると人間が本来持っている凶暴性が 表に出てきてしまうのではないか。」とおっしゃっておられました。 また、つい先日、神戸大学の広木克行先生のお話を聞く機会もあり、その際にも今回の佐世保の事 件を取り上げて次のようなお話をされました。 「子どもの育ちには法則、順序がある」と。子どもの育ちの順序を無視して、あれこれ子どもにさせ ることは子どもにとって大変なストレスになる。それが思春期になって思わぬ問題につながることも ある。我々大人は、「子どもにとって、今、大事なことは何か」をしっかり勉強する必要がある。 子どもの育ちの法則の順序は、まず「からだ」が育つ。そして、その「からだの育ち」に支えられなが ら「こころ」が育つ。愛着の心、そして友達との楽しいかかわりによって育つ心。こうして子どもの人格 が育っていく。「かしこいからだ」と「素敵なこころ」に支えられて、やがて「かしこい頭」が育つ。この 「からだ」⇒「こころ」⇒「頭」という順番が大事。小さい時から「頭」→「頭」→「頭」という育ち方は しない。 乳幼児期、まずは食べて、寝て、出して、いっぱい遊んで「かしこい体」が作られ、 そして親の「スキンシップ」と「アイコンタクト(あたたかなまなざし)」、 「心のこもった言葉がけ」によって、子どもの心が育くまれていく。 頭 それを土台にして「豊かな頭」、「賢い頭」が育つ。ピラミッドをイメージして 覚えておいてほしい。「からだ」の育ちは一生を支える一番大事な土台、 こころ その上に「こころ」、「頭」はその上に乗る小さな三角錐。 「頭のかしこさ」は何歳からでも育てることができる。 しかし、「からだ」と「こころ」は何歳からでもというわけではない。 からだ この育ちの法則、順番がとても大切なのである。 育ちの法則と、子どもにとって今大事なことは何か?をしっかり考えていきたいですね。
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