1 S 科 数理物理学 I ’02 参考書 常微分方程式 • E. クライツィグ著、北原和夫訳:技術者のための高 等数学3『常微分方程式』(培風舘) • E. クライツィグ著、阿部寛治訳:技術者のための高 等数学5『フーリエ解析と偏微分方程式』(培風舘) • http://ayapin.film.s.dendai.ac.jp/~matuda /TeX/lecture.html: 全講義テキスト (PDF・PS) 独立変数 x とその関数 y(x) および y の導関数 y 0 , y 00 , · · · , y (n) を含む方程式 F (x, y, y 0 , y 00 , · · · , y (n) ) = 0 (1) を常微分方程式と呼び,n を階数 といいます.ある関数 y(x) が微分方程式 (1) を満たすとき,これを解といいま す.n 階の常微分方程式の解には,最大 n 個の任意定数が 含まれますが,これら全ての任意定数を含む解を一般解, 目次 1 任意定数に特定の値を与えて得られる解を特解,一般解で 1 階常微分方程式 1.1 直接積分形 . . . 1.2 変数分離形 . . . 1.3 同次形 . . . . . . 1.4 線形微分方程式 . 1.5 曲線族,直交曲線 . . . . . 2 2 3 9 11 13 Laplace 変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . 2.1.1 有用性:代数方程式への置換え . . 2.1.2 基本的な初等関数の変換公式の導出 Laplace 変換公式 . . . . . . . . . . . . . . 2.2.1 公式 (22) の具体例 . . . . . . . . . 2.2.2 ガンマ関数 . . . . . . . . . . . . . その他の基本的な性質 . . . . . . . . . . . 2.3.1 線形性 . . . . . . . . . . . . . . . . 2.3.2 微分と積分の変換公式 . . . . . . . 2.3.3 s 軸上の移動 . . . . . . . . . . . . 2.3.4 t 軸上の移動 . . . . . . . . . . . . 周期関数への応用 . . . . . . . . . . . . . . 15 15 15 15 16 16 17 17 17 18 18 18 19 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 表せない解を特異解と呼びます. 常微分方程式の解を,既知関数とそれらの積分で求める 方法を求積法あるいは初等解法といいます.この方法で解 が求められるのはごくに限られた特殊な形式のものです が,物理学では非常に実用的なものも含まれます. 学習の進め方 2 高階常微分方程式 2.1 2.2 2.3 2.4 3 フーリエ解析 . . . . . . . . . . . . フーリエ級数,オイラーの公式 . . . . . . 22 22 23 3.1 3.2 周期関数,三角級数 3.3 3.4 フーリエの定理 . . . . . . . . . . . . . . . 単一正弦波に対する定常解 . . . . . . . . . 24 25 3.5 一般の周期関数に対する定常解 . . . . . . 27 さて以降は,常微分方程式の解法を主とし て次に示すような4段階にわけて説明していきます。 • 物理現象を数理的にモデル化して常微分方程式の形に 整理する. • その一般解を求める.数学的な手法や知識はここに現 れます. • 初期条件や境界条件から問題に適した特殊解を決定す る.物理学では一般解も大事ですが,条件を満たす特 殊解が要求される場合も多いです. • 検算および物理的な解釈を行う.とても重要な事柄 です. 単に与えられた微分方程式を解く数学上のテクニックを身 につけるのではなく,何よりも物理現象を数理的に整理し ていくという姿勢と方法を習得して欲しいと願っています。 2 S 科 数理物理学 I ’02 1 1 階常微分方程式 [解] まさに教科書的な問題で高校で既に学習した事柄で す.しかし,単に代数解を思い起こすだけでは発展があり 1.1 直接積分形 ません.微分方程式という目で見直しましょう. ¶ ³モデル化 加速度は速度の時間微分ですから求める微分 方程式は 微分方程式 dv dy =g = f (x) (2) dt dx です.さらに速度は変位 (落下距離) の時間微分ですから の一般解は,言うまでもなく両辺を x に関して積分 して,f (x) の不定積分 dy = v(t) Z dt y = f (x)dx + C (3) が落下距離に関する微分方程式となります. 一般解 まず v(t) に関する微分方程式を直接積分して一 の形で与えられます.ここに C は積分定数と呼ばれ 般解 る任意定数です.式 (2) は v(t) = gt + C dy = f (x)dx (4) を得ます.この結果を y(t) の微分方程式の右辺に代入し て眺めると,やはり簡単に積分可能で の辺々をそれぞれ積分したと考えることもできます. 実際,ある物理量 x, y の微小変化,すなわち dy と y(t) = 1 2 gt + Ct + C 0 2 dx の間の関係をこのように書き下すことは非常に頻 繁に行われます. という一般解が得られます. µ ´ 特殊解 初速度 v(0) = 0 より C = 0,また落下距離の定 ¤ ¡ 義から自然な初期条件 y(0) = 0 が与えられ C 0 = 0 を得 £例題 1 ¢ 質点の一次元運動 x(t) を考えましょう.その速 ます.よって 度が v0 e−kt (k > 0) で与えられ,初め原点にいたとする 1 y(t) = gt2 とき,x(t) を求めなさい. 2 dx [解] モデル化 速度は v = ですから, がこの場合の解となります. dt 検算・物理的解釈 簡単に検算できます.この解は,単純な dx = v0 e−kt 形なので暗記している人も多いでしょう.ガリレイはこの dt 代数関係を導き出すのに随分と実験を繰り返したようでし が求める微分方程式. 一般解 これを積分して,一般解 v0 e−kt +C x(t) = − k を得ます. 特殊解 初期条件 x(0) = − v0 + C = 0 より C が求まり, k v0 x(t) = (1 − e−kt ) k 検算・物理的解釈 解を微分して検算してみましょう. o d n v0 v0 dx = (1 − e−kt ) = −k · − e−kt = v0 e−kt dt dt k k 指数関数を含む場合には,その漸近的な性質 x(±∞) ≡ lim x(t) を調べることが重要です.この場合には −k < 0 v0 に漸近します. なので 0 から定数 k t→±∞ ¤ ¡ £例題 2 ¢(自由落下) 地表近くでは,質点は一定重力加速 度 g で落下します.まず,初速度を 0 として落下速度 v(t) を求め,さらに落下距離 y(t) を求めなさい. たから,ガリレイの頃の力学のレベルに達していると言っ ていいかもしれません.しかし,それではその後ニュート ン等によって完成された古典力学を理解したとは言えませ ん.大学生となった皆さんが覚えるべき事柄はこの代数関 係自身ではなく,この代数関係の導出過程なのです. ¡ ¤ £例題 3 ¢(円の面積) 円の半径を r から r + dr に変化さ せたときの面積の変化を考えて,円の面積 S と半径に関 する微分方程式を導き,S(r) を求めなさい.ただし,円 周の長さが 2πr で表されることは既知とします. [解] モデル化 円環の面積は (幅)×(円周) と近似できます. これが円の面積 S の微小変化量に等しいので dS = 2πrdr. 一般解 辺々を積分して Z Z S(r) = dS = 2πrdr = πr2 + C 特殊解 S(0) = 0 より明らかに C = 0 ですから,S = πr2 検算・物理的解釈 今まで常識だった事柄も,新しい視点 で捉え直すことができます.
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