例題3-5 例題3-3の水素原子で,陽子を中心として半径 a0 の等角速度円運動をする電子を無限遠ま で引き離す(原子をイオンにする,イオン化という)ために必要な最小のエネルギーを計 算せよ。 Q.どのような条件になれば、円運動する電子を無限遠まで引き離せるのですか? A.円運動している電子が何者かによって「蹴飛ばされて」速さを増せば大きな半径の円 軌道(ほんとうは楕円)描くようになるでしょう。さらに大きく蹴飛ばされると、もはや もとに戻ってこなくなるでしょう。この状態を「無限遠まで引き離された」と言いました。 半径 a0 の円運動をしているときの位置エネルギーは式(3.43)で、また運動エネルギーは式 (3.45)で求め、このときの全エネルギーが式(3.46)となりました。位置エネルギーは同じ値の まま、蹴飛ばされて運動エネルギーが増せば、全エネルギーが増えます。全エネルギーが 0 以上になりもとに戻ってこないようになるには、運動エネルギーが(3.47)以上の値でなけ ればいけません。 Q.「エネルギーが負」というのが変な感じです。 A.運動している物体の運動エネルギーはいつでも正です。しかし位置エネルギーは「基 準に選んだ点から、そこに移動する間に力がした仕事の符号を反転したもの」ですから、 力の性質や基準の選び方で、正になることも負になることもあります。 しばしば(「必ず」ではありません)力が0となるところを基準に選びます。陽子が電子 に及ぼす力が 0 となるのは無限の彼方なので、無限遠から所定の位置まで電子を移動した ときの仕事を計算しその符号を反転すると位置エネルギー(式(3.43)) U (a0 ) = − k0 e2 a0 を得ます。電子と陽子は異符号の電荷をもつのでクーロン力は引力です。引力を受けなが らその力の源に近づくとき、この引力がする仕事は(力の向きと進行方向が同じ)正です。 したがって、位置エネルギーは負になります。 クーロン力では力学的なエネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)=全エネ ルギーが保存されます。全エネルギーが正の電子は無限の彼方で(位置エネルギーが0と なり)運動エネルギーが正です。すなわちどこまで行っても運動をやめず、もとのところ には戻って来ないので、陽子は電子を失い原子がイオン化されます。 全エネルギーが負のときは、全エネルギーの値と位置エネルギーの値が一致するところ まで来ると運動エネルギーが0となり、速度が0となって再びもと来たほうに帰っていき ます。 Q.式(3.44) m v2 e2 = k0 2 a0 a0 がよくわかりません。 A.この式の左辺は円運動の原因である向心力の大きさ、右辺はその実体であるクーロン ( a0ω ) 力の大きさです。左辺は、半径 a0 速さ v の円運動の加速度が a0ω = 2 a0 2 = v2 などと表 a0 せることを利用しています。 1 2 1 e2 Q.式(3.45) mv = k0 2 2 a0 A.直前の式(3.44)の両辺を がどこから出てきた式かわかりません。 a0 倍しただけです!この式は、「クーロン力で円運動する」と 2 いう特別な状況下で「運動エネルギーを位置エネルギー(したがって全エネルギー)と関 1 2 連づける」ものです。事実、右辺は − U ( a0 ) に一致します。
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