課題曲解説

2016 年吹奏楽コンクール課題曲Ⅲ
ある英雄の記憶~「虹の国と氷の国」より
SWHE Tp&金管トレーナー
曲解説
植村
哲
1. 作曲者がこの曲を作るにあたってインスピレーションを得たお話
(以前 all mail でちいねえさんから頂いたもの(感謝)を再掲します。)
「虹の国」と「氷の国」という物語は、とある幼稚園の発表会で子供たちが考えたオリジナル劇で、そ
の劇の序曲として作られたものに、新たにメロディーを足して吹奏楽用に再編成されたのが、この課題
曲とのこと。
あるところに「虹の国」と「氷の国」という二つの国がありました。何かというと張り合ってばかりの
両国。ある少年だけが「もっと仲良くしよう!」と言うのですが、
「なんだい汚い服着て。あっちに行き
な!」と誰も聞く耳を持ちません。
見るに見かねた魔法使いは試練を与えます。「みんなで協力して悪いドラゴンを倒して“虹の氷”を見
つけないと国が滅んでしまうよ・・・」
冒険の旅に出る皆ですが、ドラゴンも出てきていよいよピンチ!そこに突然現れたのは“あの”少年。
少年の活躍でドラゴンは逃げていきますが、少年も力尽きて倒れてしまいます。
皆が泣いていると、魔法使いが言いました。「さあ、宝箱を開けて、虹の氷の滴をこの子に飲ませるの
です。」
目映い光が差すと少年の服は真っ白に替わり、立派な王子様になって元気に立ち上がりました。そして
二つの国は仲良くずっと暮らしましたとさ。
2. 音楽用語の解説
作曲者の解説でも「アクセントや強弱、テンポは「絶対的なもの」ではありません」と書いてあると
ころから見ると、演奏者側の解釈に委ねる部分が少なからずあるような書きぶりになっています。
「作曲
者がその音楽に込めた想いを読み、全体を構築する上で設計して下さい」っていうのも、結構よく行間
を読まないといけない感じですかね。
さて、
「そのときに考えないといけないのは、譜面の中に散りばめられている音楽用語。えっ、なぜっ
て?
音楽のイメージを説明する音楽用語、多くは西洋音楽の母国であるイタリア語が使われます。言
葉で表現して、数学的に書いていないということは、言葉の意味を前提に主観的なイメージを創ってい
くための作曲家からのメッセージになっているということでしょうね。ということで、この音楽用語を
拾って解説していきます。こっそり読みがなを書いておきましたので、発音練習しておいてね・・・。
① Eroicamente(エロイカメンテ)(冒頭)
カタカナ風だととかく誤解を招きそうな語感ですが、英語でいう hero です。曲のモチーフそのものず
ばり「英雄風に(英雄然として)」といった意味。ゲーム音楽に出てきそうなファンファーレですね。
② ben ten.
(ベン・テヌート)(4
小節目
木金低音)
ben はフランス語の Très bien の bien と同じ「よく、十分に」。十分テヌート(音を伸ばす)という
意味ですね。オケの弦楽低音が目いっぱい arco で弾いている様を想像して!
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③ marcato(マルカート)(A3 小節目
Tb3, Euph, Tuba, St.B.)
「なーんだ、知ってるよ」ですが、もともとは英語なら mark の「はっきりと目立つように」という
ニュアンス。そう、とても主観的な指示ですので、何がはっきりとした音の表現かよく吟味しないと!
④ pesante(ペザンテ)(B Auftakt~旋律)
「重々しく」という意味ですが、この言葉、ダイレクトに重さを感じさせる語源です。重い荷物を引
きずっている、深刻だったり辛かったり、ネガティブ感を表現できると・・・Tb さん、そこでにやけながら
吹かないで!
⑤ Allegro con feroce(アレグロ・コン・フェローチェ)(D 及び L)
本来は Allegro に「嬉しい」という意味があり、心弾む前進感なのですが、ここは本当に楽しいのか
な?ヒントは con feroce。Con は英語の with、feroce は「残忍さ、凶暴さ」
(古語では「物おじしない」)
なので、
「邪悪なドラゴンが不気味な笑いと共に迫って来てさあ大変!」という解釈でしょうか(ん、映画
「ホビット」のパクり?)。
⑥ energico(エネルジコ)(E 及び L 以降の旋律)
これは御察しの通り、「エネルギッシュに」という意味。ちびっ子たち、頑張れ!
⑦ sonore(ソノーレ)(F4 小節目
Picc. Fl. Ob.)
「響かせて」ということ。暗い天空を運命的な決意で悪に立ち向かう神々しさ、でしょうか。
⑧ en dehors(アン・デゥオール)(F8 小節目及び M8 小節目
Tp. Hr.)
これはフランス語です。「~の外で」「~とは関係なく」という原義。ドラゴンの邪気に風前の灯のち
びっ子たちの目前に、光の如く突然ヒーロー登場!Tp と Hr の皆さん、「○時 17 分頃のウルトラマンの
出番」ですよ、よゐこの期待を裏切らないように!
⑨ Malinconia(マリンコニア)(I)
「メランコリー」をイタリア語だとこう言います。
「哀愁」。英雄はつらいよ・・・(ただ、哀愁の漂わない完
全無欠の人って、結構嫌われがちですよね)。
⑩ tenerezza(テネレッツァ)(I1 小節目
Ob. solo)
もともとは「食べ物の軟らかさ」「芸術の優美さ」なんですが、比ゆ的に「愛情、慈しみ、愛の言葉」
という口説き文句張りのニュアンスにも。食欲も愛情も理屈なし、ですね(いかにもイタリア・・・)。
⑪ Pochiss. più mosso(ポキッシモ・ピウ・モッソ)(J)
Più mosso は置いておいて、pochissimo は poco(ポコ)(少し)の最上級ですから「心持ち」くらい。
因みにイタリア語で「chi」の綴りはカ行の音を残すためのサイン(「ci」だと発音が「チ」になってしまいます)。
⑫ brillante(ブリッランテ)(Q7 小節目
Tp. 1st)
英語の brilliant とほぼ同じ。ただ「輝かしく」と言っても「聡明に」なので、頭が空っぽな音にはな
らないように!含有量の多い金箔の光の神々しさ、かねぇ・・・。
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⑬ Soar!(ソアー!)(P)
これは英語です。
「飛翔する」
「空高く舞い上がる」という意味。これは作曲者のコメントでも明確に語
られている点なのできちんと表現しましょう。いかに力まずに音楽を高みに飛ばせるかがクライマック
スに向かっての勝負どころ!
⑭ con anima(コン・アニマ)(P1 小節目
低音パート)
anima はアニメーションと同根で「動き」。
「躍動感をもって」という感じでしょうね。ストーリーか
らすると「子供らしく元気に」もありかもしれないけれど、コンクールでよく見る中高生みたいなハッ
スル演奏もちょっと違うし・・・さあどんな風に料理しましょうか?
⑮ Ancora eroicamente(アンコーラ・エロイカメンテ)(R)
ここでは ancora を解説。フランス語だと encore、あの「アンコール」の元の言葉。「再び」という意
味です。最後に再現される英雄の記憶、でもここはテンポ感が冒頭と相当違うかな。オケ風にかっこよ
く、よどみなくフィナーレを飾れるか?
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