(全章) - Ushiki Laboratory, Tokyo University of Aguriculture

Laboratory of Molecular Dynamics and Complex Chemical Physics,
Department of Environmental and Natural Resource Science
Faculty of Agriculture,
Tokyo University of Agriculture and Technology,
3-5-8, Saiwai-cho, Fuchu-shi, Tokyo 183-8509, Japan.
Tel +81 (0)423 67 5616 , Fax +81 (0)423 67 5616
E-mail: [email protected], http://www.tuat.ac.jp/~ushiki/
分子動態化学
<分子動態化学の目次>
第0章 ダイナミックスとは何か?
(01)化学と物理学
(02)静と動
(06)生態系
(07)生物と協同性
(03)運動と拡散
第1章 常微分方程式論の概観
(08)微分方程式
(09)変数分離形微分方程式
(12)完全微分方程式
(13)2階線形微分方程式
(15)定数係数線形微分方程式の解法
第2章 運動と拡散の概観
(16)運動方程式
(17)拡散現象
第3章 化学反応速度論
(19)熱力学的制御と速度論的制御
(05)相転移現象
(10)同次形微分方程式
(11)1階線形微分方程式
(14)定数係数線形斉次微分方程式
(18)拡散方程式
(20)古典的反応速度論
第4章 非線形化学反応速度論
(22)非線形現象と化学反応
(23)化学的リズム現象
(25)BZ反応と拡散項
第5章 生態学と拡散
(26)生態学における拡散の数理
(28)生物拡散の数理的取扱い
第6章 生物と協同現象
(04)化学反応系
(29)蛋白質の構造と機能
(21)酵素反応速度論
(24)BZ反応
(27)生態系での受動的な拡散
(30)化学反応系の転移現象
(31)自己組織化現象
第0章 ダイナミックスとは何か?
(01)化学と物理学
<物質の階層性とは?>
①それぞれの階層にはそれぞれの法則性がある。
②それを研究する学問には固有の方法論がある。
素粒子
原子
分子
高分子
細胞
生物学
器官
医学
個体
人文科学
社会
社会科学
地球
宇宙
化学
物理学
<化学とは?>
L.Pauling
化学は物質に関する科学である.即ち,物質の構造,性質および物質を他の物質に変化させる反応を取り扱う学問である.
1.物質に関する科学 M a t e r i a l Sc i e n c e
2.物質の構造及び性質を取り扱う学問 St r u c t u r e , Ch a r a c t e r i s t i c s , Fu n c t i o n
3.物質を他の物質に変化させる反応を取り扱う学問 Re a c t i o n , K i n e t i c s , Dy n a m i c s
化学 → 物質の変化(化学反応) → 物理と化学の本質的な違い
①物質による分類
分析化学・地球化学
無機化学
放射化学・核化学
無機化学・錯体化学
化学
有機化学
有機化学
高分子化学
生物化学
②物質の法則性による分類
(物理学分野との対応)
構造論(構造)
量子力学 M i c r o s c o p i c
物理化学
物性論(性質)
統計力学 M e s o s c o p i c
反応論(反応)
熱力学
Mac rosc opic
1.分子論 M o l e c u l a r T h e o r y
物質の究極的構成単位である原子・分子の性質、挙動 から物質の構造、性質を解明しようとする立場 → 微視的 M i c r o s c o p i c
2.現象論 Ph e n o m e n o l o g i c a l T h e o r y
物質の挙動を我々の感覚に訴えるありのままの姿で把え、その中から規則性と普遍性、いわゆる法則性を見いだそうとする立場
→ 巨視的 M a c r o s c o p i c
<力学体系とは?>
①エネルギ−保存則 → 「量」への還元
②質的な差異を量的関係に還元することを本質とした数学的定式化 → 方程式
エネルギ−原論 →解析力学(エネルギ−保存則を基盤とした数式的論理の整合性)
質点とエネルギ− → 古典力学(静止状態をエネルギ−に換算する)
運動とエネルギ− → 古典力学(運動状態をエネルギ−に換算する)
熱とエネルギ− → 熱力学(熱現象をエネルギ−に換算する)
電気とエネルギ− → 電気力学:電磁気学(電気をエネルギ−に換算する)
波の伝搬とエネルギ− → 波動力学(波の伝搬をエネルギ−に換算する)
素粒子の振る舞いとエネルギ− → 量子力学(素粒子の振る舞いをエネルギ−に換算する)
流体の振る舞いとエネルギ− → 流体力学(流体の振る舞いをエネルギ−に換算する)
粘弾性の振る舞いとエネルギ− → レオロジ−(粘弾性の振る舞いをエネルギ−に換算する)
質量とエネルギ− → 相対論(質量をもエネルギ−に換算する)
重力の振る舞いとエネルギ− → 宇宙物理学(重力の振る舞いをエネルギ−に換算する)
分布とエネルギ− → 統計力学(分布の振る舞いをエネルギ−に換算する)
近代物理学とは、「エネルギ−に換算できるものを『全て』取り扱えること」を実践した歴史を「意味」している。
(02)静と動
<時空とは?>
我々は、空間という概念と時間という概念を有している。即ち、物質は、この両者の概念の中
で、様々な変化が存在する。そして、その変化において、何かしからの普遍性が存在している。
我々、人類は、その「事実」を知り始めた訳である。但し、それは、まだ、発展段階なのである。
例えば、一般的に、時空間と言えば、時間←→空間という二項対立概念で考えてしまう。
時間(動) ← (二項対立概念) → 空間(静)
しかし、この考え方は、正しいのだろうか?直感的には 、「静」は 、「動」の範疇に入り得るも
のと考える方が自然である。即ち 、「静」は「動」の一部である。上述したように 、「近代」物理
学は 、「エネルギー」というキーワードを軸に発展した。即ち、この時空間に存在している物資に
関わる現象を全て、スカラー量に換算すれば、方程式が書けて、定量的な議論ができる、それが
「近代」物理学の骨子であった。結果的に、時間を含んだ議論は、難航を極めたという歴史的な
事実がある。最近では、方程式化できない時間を含んだ議論を、シミュレーションで突破すると
いう方法論が登場した。
概念の関係は、右図で示した3通りが考えられる。多分、静と動の関係から、時間と空間の関
係も、3番目の包含関係のようなイメージを持った方がよいのかもしれないが 、「静と動」と「空間と時間」は、対応関係にないかも
しれない。しかし、その場合の k e y p o i n t になるのが、「物質」である。物質が存在すること自体、空間が必然的に付随する。物質の
科学を扱うのは、化学の領域であるから、正に、時空の議論は、物理学と化学の両者に、またがった領域に位置している。少し、真面
目に、時空間ということを、「論理的」に考えてみよう。
<ダイナミックスとは?>
では、我々の回りで起こる動態現象(Dy n a m i c s )は、どのようなものがあるのか?を考えてみよう。
(1)物質の運動 → 古典力学体系(近代物理学)
M o t i o n 、M o v e m e n t
(2)物質の拡散 → 統計物理(近代物理学)
Di f f u s i o n
(3)化学反応系 → 物理化学(近代化学)
Re a c t i o n
(4)触媒反応系・酵素反応系 → 物理化学(近代化学)
Re a c t i o n
(5)相転移現象 → 統計物理(近代物理学)
Transit ion
(6)生態系の遷移 → 統計物理(近代物理学)
Transit ion
(7)協同現象と生物 → ????(後近代物理と後近代化学か?)
Co o p e r a t i v e Ph e n o m e n o n
これらの現象を考えるには、時間と空間と物質、この3つの概
念を切り離して、考えることはできない。イメージとしては、上
図のような感じである。で、何故、このような現象が重要なのか?
と言えば、 Dy a n a m i c s →協同現象→生物様現象→生物、という
イメージの連鎖があるからである。即ち、無方向的な運動が、あ
る方向へ収斂される、そのイメージは、生物現象へとつながる訳である。又、一般的にも、物性論において、M a t e r i a l → Pr o p e r t y 、
St a t i c s → St r a c t u r e 、Dy n a m i c s → Fu n c t i o n の対応関係があり、物質の性質を議論するには、構造だけでは、不充分で、機能
まで議論する必要があるが、機能という概念は、 Dy a n a m i c s の立場に立たないと、理解できないものなのである。現在、分子構造
が殆ど解明され、更に、シミュレーションで様々な分子構造まで予測して、合成されている。しかし、機能を理解する為の Dy n a m i c s
の側面は、まだ、方法論が確立されてはいない。研究者の視点が、徐々に、Dy n a m i c s の視点へ移り始めている。
以上のような視点から、本授業「分子動態化学」を構成して、説明を行う。
本授業の目的と方法
本授業では、以下の5つの視点から、動態現象を考える。
(1)物質の運動及び拡散現象
(2)物質の変化、即ち、反応現象
(3)相の変化、即ち、相転移現象
(4)生態系の変化、即ち、生態の拡散現象
(5)生物と協同現象
(1)授業形態: Power
Poi
nt
の講義: 60分
Di
scussi
on: 15分
Test
等: 15分
(2)出席: Test
及び感想で出席とする。
(3)評価: 出席を加点し、試験の点に加える。
(4)試験: 4種類の試験形態を設定する。
(イ)普通の試験
(ロ)問題が公表された筆記試験
(ハ)問題が公表されたレポ−ト
以上を、06月初旬に、各自に申告してもらう。
(5)以上を総合して、評価する。
(03)運動と拡散
物事が変化する、即ち、Dy n a m i c s の概念の範疇には、
以下の現象がある。
(1)運動:M o t i o n , M o v e m e n t
(2)拡散:Di f f u s i o n
(3)反応:Re a c t i o n
(4)転移:T r a n s i t i o n
で、これらの現象において、Co o p e r a t i v e Pr o p e r t y を示
す場合があり、この現象は、e n t r o p y 的には負の方向なの
で、一見して 、「生物様」を連想させる。 Dy n a m i c s は、
Co p e r a t i v e な現象を通して、L i v i n g s への道につながっ
ているかのように見える(右図を参照)。
先ず、本章では、運動 M o t i o n 、拡散 Di f f u s i o n 、反応
Re a c t i o n 、転移 T r a n s i t i o n 、そして、協同性 Co o p e r a t i v e
の概観を説明する。
(ニ)自ら問題を設定したレポ−ト
<運動>
物質の運動は、物理の分野において、運動方程式で表される。
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E9 % 8 1 % 8 B % E5 % 8 B % 9 5 % E6 % 9 6 % B 9 % E7 % A 8 % 8 B % E5 % B C% 8 F
運動方程式
運動方程式(うんどうほうていしき)とは、物理学において運動の従う法則を数式に表したもの。英語の e q u a t i o n o f m o t i o n か
ら EOM と表記されることもある。
以下のようなものがある。
(1)ニュートンの運動方程式 (古典力学)
(2)ラグランジュの運動方程式、ハミルトンの正準方程式(解析力学)
(3)オイラー方程式、ナビエ-ストークス方程式(流体力学)
(4)ハイゼンベルクの運動方程式(量子力学)
有名なランダウの物理学教程の中に 、「物理的運動学」という巻がある。この時代で、彼は、時間を内包した時空現象の記述と体系
化を意識していた。
ランダウ物理学教程
第 I 巻: 力学
第 I I 巻: 場の理論
第 I I I 巻: 量子力学(非相対論的)
第 I V 巻: 量子電磁気学
第 V 巻: 統計物理学(第1部)
第 V I 巻: 流体力学
第 V I I 巻: 弾性理論
第 V I I I 巻: 連続体の電気力学
第 I X 巻: 統計力学(第2部)
第 X 巻: 物理的運動学
やはり、最後の巻で、運動学の体系化を考えてしたようです。即ち、当時においても、発展的な分野の一つだった訳ですね。この第 X
巻:物理的運動学の中身は、以下です。
第 X 巻:物理的運動学
第1章 気体分子運動論
第2章 拡散近似
第3章 無衝突プラズマ
第4章 プラズマ中の衝突
第5章 磁場中のプラズマ
第6章 不安定性の理論
第7章 誘電体
第8章 量子液体
第9章 金属
第10章 非平衡系に対するダイアグラム法
第11章 超伝導体
第12章 相転移の運動学
ここでは、運動、拡散、転移の3つの概念が物理的に詳しく説明されている。
<ニュートンの運動方程式>
ここでは、高校の物理で習った、近代物理学の幕開けを行ったニュートンの運動方程式を概観してみよう。
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運動の第 1 法則
運動の第 1 法則(うんどうのだい 1 ほうそく) は、慣性系における力を受けていない質点の運動を記述する経験則であり、慣性の
法則とも呼ばれる。ガリレイやデカルトによってほぼ同じ形で提唱されていたものをニュートンが基本法則として整理した。
静止している質点は、力を加えられない限り、静止を続ける。運動している質点は、力を加えられない限り、等速直線運動を続ける。
慣性の法則は、どのような座標系でも成立するわけではない。例えば加速中の電車内に固定された座標系では、力を受けていない空
き缶がひとりでに動きだすことがある。慣性の法則が成立するような座標系を慣性系という。
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h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E3 % 8 3 % 8 B % E3 % 8 3 % A 5 % E3 % 8 3 % B C% E3 % 8 3 % 8 8 % E3 % 8 3 % B 3 % E3 % 8 1 % A E% E9
% 8 1 % 8 B % E5 % 8 B % 9 5 % E6 % 9 6 % B 9 % E7 % A 8 % 8 B % E5 % B C% 8 F
ニュートンの運動方程式
運動方程式(うんどうほうていしき、Eq u a t i o n o f m o t i o n )は、物体の運動を記述、決定するための(微分)方程式。物体は、
質点であったり、原子、分子(或いは他の素粒子)、より巨視的な運動をする対象、物体など様々である。
運動する対象や条件によって、異なった運動方程式が採用される。
一例として、古典力学における一質点の運動を記述する運動方程式(ニュートンの運動方程式)は、
となる(運動の第 2 法則)。m は質点の質量、r は質点の位置ベクトル、a は質点の加速度、F は質点にかかる力、t は時間である。F,a
はベクトル量、m はスカラー量。
この方程式では力が質量と加速度の積に等しいことを示している。しかし厳密には力が一定であっても加速度は一定にはならない。
なぜなら加速度が常に一定であれば、その物体の速度はいつかは光速をも簡単に越えてしまうからである。したがってニュートンの運
動方程式を適用できる範囲は物体の速度が光速に比べて十分に小さいときのみである。とはいっても実際にはほとんど全ての物体は秒
速 1 0 0 k m にも満たない速度で運動している(光は秒速約 3 0 万 k m )のであり、この式に数値をあてはめて計算しても誤差はまった
く生じないと考えてよい。いっぽう物体の速度が光速に近い場合には相対性理論の運動方程式を適用しなければならない。
ニュートンの運動方程式から質量 m ≠ 0 で力 F = 0 ならば加速度 a = 0 が導けるが、これは運動の第 1 法則の意味を表わして
いるようにも見えるため、運動の第 1 法則は運動の第 2 法則に含まれるとの考え方も根強い。しかし、そもそも運動の第 1 法則(慣
性の法則)が成立する系(慣性系)で無ければ運動の第 2 法則も成立しない事に注意せよ。(非慣性系をニュートン力学で取り扱う為
には、その影響を「慣性力」として経験的に導入しなくてはならない。) そのために運動の第 1 法則は、ニュートン力学を適用する
ための前提となる慣性系の存在を宣言していると現在では解釈されている。
ニュートンは、運動の3つの法則をまとめて、(0ー01)式の運動方程式を示した。
(0−01)
ここで、Fは力、mは質量、αは加速度、rは距離、tは時間、vは速度である。これは、高校時代の物理学で、習ったと思う。
< L a n g e v i n 方程式>
次は、質量mの微粒子の液体の中での運動を考える。取扱いを簡単にする為に、運動を1次元に限るとし、運動方程式を(0ー02)
式とする。ここで、vは粒子の速度、ーfvは液体の粘性に基づく抵抗力で速度に比例するもの、例えば、St o k e s の法則:fは比例
係数で、粒子の半径aの球とし、液体の粘性率をηとしれは、f=6πηaである。X(t)ははこの粒子が液体分子の衝突のよって
受ける力の揺らぎに起因するものとする。
(0−02)
この運動方程式を L a n g e v i n 方程式と言う。X (t )は平均からのズレ、即ち、揺らぎに基づくもので、その時間的変化は、確率的にの
み起こるものである。 X (t )はこの意味で、tのみの関数とし、粒子の位置やや速度には無関係であるとする。X (t )の時間平均は0で
ある。
<ブラウン運動>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E3 % 8 3 % 9 6 % E3 % 8 3 % A 9 % E3 % 8 2 % A 6 % E3 % 8 3 % B 3 % E9 % 8 1 % 8 B % E5 % 8 B % 9 5
ブラウン運動
ブラウン運動( - うんどう、B r o w n i a n m o t i o n )とは、1 8 2 7 年(1 8 2 8 年という記述もあり)、ロバート・ブラウンが、花粉が
水の浸透圧で破裂し水中に流失し浮遊した微粒子を顕微鏡下で観察中に発見した現象。液体中のような媒質中(媒質としては気体、固
体もあり得る)に浮遊する微粒子(例:コロイド)が、不規則(ランダム)に運動する現象である。
長い間原因が不明のままであったが、1 9 0 5 年、アインシュタインにより、熱運動する媒質の分子の不規則な衝突によって引き起こ
される現象であるとして説明する理論が発表された。
ブラウン運動はかなり広い意味で使用されることもあり、類似した現象として、電気回路における熱雑音や、希薄な気体中に置かれ
た、微小な鏡の不規則な振動(気体分子による)などもブラウン運動の範疇として説明される。
アボガドロ定数との関係
ブラウン運動について以下の式が成り立っている。
ここで、上式左辺は、ブラウン運動する物体の平衡位置 x 0 からのずれの 2 乗の平均である(系は 1 次元とする)。R は気体定数、T
は絶対温度、f は易動度(媒質の粘性に関係し、ブラウン運動する物体の速度を v とすると、f v
はその速度に比例する抵抗力となる)、t は十分経過した時間(極限としては、t → ∞)である。
そして、N A がアボガドロ定数である。アボガドロ定数以外は、観測によって求められる量であ
り、フランスの物理化学者ジャン・ペラン(J . B . Pe r r i n 、1 8 7 0 - 1 9 4 2 )が、N A = 6 .5 × 1 0 2 3
(資料により値が異なる)という値を得ている。
教科書での誤記
学校の理科の教科書では、水中で浸透圧により破裂した花粉から流出した微粒子ではなく、花
粉そのものがブラウン運動すると間違って書かれていたことがあり、批判された。インターネッ
ト上の検索サイトで検索すると大学のウェブ上のアインシュタインの業績説明は誤ったままの説
明になっていることが多い。
数理モデル
ブラウン運動の数学的に厳密なモデルとして、ノーバート・ウィーナーの名を冠してウィーナ
ー過程と呼ばれる連続型確率過程がある。ウィーナー過程は離散型である乱歩の極限となる確率
過程として確率論、確率解析において非常に重要な概念である。ウィーナー過程のランダムさは、
ブラウン運動のモデルに相応しく至る所通常の意味では微分不可能なほどであるが、その軌跡(サ
ンプルパス)は連続性を持ち、ある種の測度としてウィーナー過程の存在を肯定する。そしてこ
れが微分(殊に二次の微分)によってある種の無限小余剰項を生むという規約を設けた(伊藤清
による伊藤型やルスラン・ストラトノビッチ e n によるストラトノヴィッチ型などの規約がよく
知られる)特別の微分(確率微分)を考えることにより、確率積分などの概念が定式化され、確
率解析と呼ばれる一分野が展開される。非常に多くの粒子の影響がブラウン運動の不規則さを生
むという考え方は、やはり多数の原因によって複雑な変動を示す株取引などの経済活動などにも
応用することができるため、ウィーナー過程や確率微分を応用した確率解析は、金融工学などの
分野でも盛んに用いられている。
簡単のため 1 次元ウィーナー過程について述べる。
<拡散>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E6 % 8 B % A 1 % E6 % 9 5 % A 3
拡散
拡散(かくさん、英語:d i f f u s i o n )とは、粒子、熱、運動量などが自発的に散らばり広がる物理現象である。この現象は着色した
水を無色の水に滴下したとき、煙が空気中に広がるときなど、日常よくみられる。これらは、化学反応や外力ではなく、流体の乱雑な
運動の結果として起るものである。
細胞生物学では、特定の物質が選択的に細胞膜を透過する現象(促進拡散)をも含む。
理論的背景
拡散は輸送現象の一種であり、拡散方程式で表現される。たとえば巨視的な分子の拡散はフィックの法則(第 1 法則)に、また巨視
的な熱エネルギー(H e a t )の拡散はフーリエの熱伝導の法則に従う。電場中での電子の拡散は基本的にはオームの法則に従う。いず
れの場合も流束密度(それぞれ分子、エネルギー、電子の流れ)は、勾配(濃度勾配、温度勾配、電位勾配(電場))に、物理的性質を
示す係数(拡散係数、熱伝導率、導電率)をかけた値に等しい。
以上は平衡状態の場合であるが、一般的な過渡的状態にあてはまる拡散方程式は時間に依存する。
いずれの場合にも、勾配があるときにのみ明らかな拡散が見られる。たとえば熱拡散では、温度が一定のときには熱は 1 方向とそ
の逆方向に同じ速度で移動するから、全体としては変化は見られない。
いろいろな拡散
生物学における拡散
細胞膜を通しての拡散は単純拡散と促進拡散に分けられる。単純拡散は特異的なチャンネルタンパク質を必要としない一般的な拡散
である。一般に単純拡散において、膜の脂質部分を拡散する速度は、極性分子よりも非極性分子の方が高い。
促進拡散
促進拡散は、特定の物質が、それに特異的なチャンネルタンパク質を通して濃度の高い方から低い方へ移動する現象である。極性分
子やイオンの拡散は主として促進拡散によって行われる。単純拡散と促進拡散を合わせて受動輸送と呼ぶ。それに対して、濃度勾配に
逆行して移動する現象(エネルギーの供給を要する)を能動輸送という。
イオンの拡散は濃度勾配と膜電位に(あるいは電気化学ポテンシャル勾配に)依存する。イオンの正味の流束はイオンチャネルが開
閉することで変化する。
呼吸器での拡散
動物の肺では肺胞において気体の単純拡散が起こる。肺胞膜の両側での分圧差により、酸素は内側の血液中に拡散し、二酸化炭素は
外側に拡散することによってガス交換が行われる。
物質の拡散
物質の拡散とは、各分子(または原子)の熱運動に基づく物質の運動であり、固体、液体、気体、また超臨界流体中でも起きる。以
下のような例がある:
ヘリウムを詰めた風船は数日置くとわずかにしぼむ。これはヘリウム原子が風船の壁を通して拡散するからである。
スパゲッティをゆでると水分子が内部へ拡散し、スパゲッティは膨張し柔らかくなる。
におい物質は気体として拡散し部屋に充満する。
水中に入れた砂糖はかき混ぜなくてもゆっくり溶解し砂糖の分子が拡散して水全体に広がる。
原子の拡散
これは、固体中の原子が熱によってランダムに跳躍し、結果として正味の原子の移動が起きる過程である。たとえば風船の中のヘリ
ウム原子は風船の壁を通して拡散し逃げることが可能であり、そして風船は少しずつしぼむ。他の空気中の分子(たとえば酸素、窒素)
は移動度がもっと低いので、風船壁を通しての拡散速度は低い。風船内にはヘリウムが詰められ、外気にはヘリウムはわずかしかない
ので、壁には濃度勾配ができている。移動速度は拡散係数と濃度勾配に支配される。カーケンドール効果も参照。
ブラウン運動
ブラウン運動は不連続的な粒子が液体中で拡散するときに起きる。熱エネルギーによるものであるから、運動が観測できる()ため
には、対象粒子の質量は非常に小さいものでなければならない。運動の方向はランダムで常に変化している。ブラウン運動は原理的に
は気体中でも起きるが、気体中の微粒子の運動はふつう拡散のほか乱流に支配されているため観測しにくい。
電子の拡散
ほとんどの導体において、電子の流れ(電流)は拡散によって起きる。電荷キャリアー(ふつうは電子)は電場がない場合にはラン
ダムに動いている。電場をかけるとキャリアーは流れ出し、正味として電流になる。移動速度は導体の電気伝導度と電場に支配される。
運動量の拡散
固体の表面を流れる流体の層流では、運動量が表面近くの境界層を通して拡散する。この場合には、表面と接する流体(全く運動せ
ず運動量はゼロ)と表面から離れた流体の間に運動量勾配ができ、運動量は流れの速度に比例する。運動量の輸送速度は流体の粘度と
運動量勾配に支配される。
浸透
浸透とは、溶媒が半透膜を通して拡散する現象である。
光子の拡散
光学的深さが大きく平均自由行程が非常に短いような物質内を光子が進行するときには、そのふるまいは散乱に支配され、各光子の
経路は事実上ランダムウォークとなる。
この状況では、光子のアンサンブル(統計力学的集団)としてのふるまいは拡散方程式で表現できる。
逆拡散
一般に拡散は勾配を下る方向(例えば濃度の高いところから低いところへ)の移動として起る。が、必ずしもそうとは限らない。相
分離の過程では、物質が高濃度の方へ拡散することもある。これは 2 相間での濃度勾配が安定的に成立するからである。この現象を
逆拡散という。
熱伝導(H e a t Co n d u c t i o n )
熱が温度勾配のある物質中を移動する(たとえばコーヒーを入れたカップの外側がだんだん熱くなる)場合、移動の速度は熱伝導率
と温度勾配に支配される。熱拡散現象とは異なる現象である。
<拡散散方程式>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E6 % 8 B % A 1 % E6 % 9 5 % A 3 % E6 % 9 6 % B 9 % E7 % A 8 % 8 B % E5 % B C% 8 F
拡散方程式
<フィックの法則>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E3 % 8 3 % 9 5 % E3 % 8 2 % A 3 % E3 % 8 3 % 8 3 % E3 % 8 2 % A F% E3 % 8 1 % A E% E6 % B 3 % 9 5 % E5
%89%87
フィックの法則
フィックの法則とは、拡散に関する基本法則である。1 8 5 5 年、アドルフ・オイゲン・フィックによって発表された。気体、液体、
固体(金属)どの拡散にも適用できる。フィックの法則には、第 1 法則と第 2 法則がある。
< Fo k k e r -Pl a n k 方程式>
B r o w n 粒子の運動が全くランダムであって、その粒子が時刻tにおいて位置xにある確率が、その粒子がそれまでにどのような行
動してきたかということには無関係であると考える場合は、以下の関係が成り立つ。
(0−03)
s は十分に小さく、P (x ,t )は| x |及び| t |が大きくなると、共に、十分小さくなると仮定すれば、P (x ,t +s )及び P (x -l ,t )を s =0 ,
l =0 で T a y l o r 展開して、P (l ,s )の0、1、2次モーメントを1、b、Dとおくと、次式の Fo k k e r -Pl a n k 方程式が得られる。
(0−04)
b は B r o w n 粒子が、例えば、重力のような外力の作用の下にあるときには0でない値をとるが、そのような力を考えないときには。P
(l ,s )は、l について偶感数であるから、b は0となる。
(0−05)
これは、Dを拡散係数とする拡散方程式と同じものであり、この解は、次式となる。
(0−06)
この時、次式の関係を Ei n s t e i n の関係と言う。
(0−07)
<運動と拡散の相関図>
確率過程 マルコフ過程
↓
↓
ニュートンの運動方程式 → L a n g e v i n 方程式 → → → → → Fo k k e r -Pl a n k 方程式
↑
↓
ブラウン運動 → 揺らぎの項 → 拡散 → 拡散方程式 → → → ガウス関数 → 拡散係数(Ei n s t e i n の関係)
↑
フィックの法則
(04)化学反応系
<化学反応>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E5 % 8 C% 9 6 % E5 % A D% A 6 % E5 % 8 F% 8 D% E5 % B F% 9 C
化学反応
化学反応(かがくはんのう、英語:Ch e m i c a l r e a c t i o n )とは、原子間の結合の生成、あるいは切断によって異なる物質を生成す
る変化のことである。 化学変化 (c h e m i c a l c h a n g e )と同義である。 一般に化学の領域、分野で扱われる。 化学反応は、一個の
分子内で起こる場合もあれば、同種あるいは異種の分子間で起こる場合もある。
反応する物質を反応物あるいは基質 (s u b s t r a t e )、反応によって生ずる物質を生成物と呼ぶ。
化学反応に伴う反応熱は、核反応に伴う反応熱よりも一般には低い。だが三態間の状態変化のような物理変化に伴う熱よりは高い。
例
古代以前に人類が認識していた様々な変化の中で、化学変化であるものには次の例がある。これらは日常世界で人が認識できる化学
変化の実例でもある。古代以前から、これらの変化では物の材質が変化すると認識されていたと考えられる。
燃焼
錆 金属の酸化
金属の精錬 鉱石(酸化物、硫化物など)から金属への変化
陶磁器の窯焼き
石鹸の製造
加熱による調理 タンパク質の変成などは化学変化。溶解などは物理変化。
腐敗
発酵
呼吸
消化
なお、呼吸、消化、その他の生命現象の大部分は化学変化に他ならないが、フリードリヒ・ヴェーラーにより初めて無機化合物から
有機化合物が合成されるまでは、生命に関する化学変化には生命力が関与しているとして、無機的な化学変化とは区別する考えもあっ
た。また腐敗や発酵に生物が関与していることは、パスツールの研究により初めて明確に認識された。
表記
化学反応は化学反応式で表される。
左辺に反応物 (r e a c t a n t )、右辺に生成物 ( p r o d u c t ) を示し、右向き矢印で式とする。
Re a c t a n t (s ) → Pr o d u c t (s )
可逆反応を強調したい場合は両向き矢印を使用する。
Re a c t a n t (s ) ←→ Pr o d u c t (s )
種類
化学反応は電子の移動にともなって結合の切断と生成が行われる。化学結合と電子の移動方法に着目して化学反応を分類すると、イ
オン反応 (i o n i c r e a c t i o n )、ラジカル反応 (f r e e -r a d i c a l r e a c t i o n )、ペリ環状反応 (p e r i c y c l i c r e a c t i o n ) に分けることが出
来る。イオン反応は、空のσ軌道に対して一方の分子から電子対が供与されて結合が生成する化学反応で、電子求引性や電子供与性な
ど原子間の電荷の偏りにより反応の方向が支配される。また、ラジカル反応は空のσ軌道に対して双方の分子から 1 電子ずつ電子が
供与されて結合が生成する化学反応である。一方、ペリ環状反応はエネルギー準位の近い異なる分子のπ軌道同士がσ軌道に転化する
ことで結合が生成する化学反応である。
あるいは有機反応機構および反応物と生成物の構成で化学反応を分類する場合、置換反応、付加反応、脱離反応、転位反応が重要で
ある。
加水分解、脱水反応、付加重合、縮合重合(縮重合)、酸化反応、還元反応、中和反応は化学反応の用途を意識した分類で、上記 4
反応機構の一つあるいは複数から構成される。
ほかにも光化学反応や重合反応など、反応の特性に応じた分類も存在する。
化学反応論
化学反応を説明付ける理論は、化学反応事例が集積から導出される経験則とそれを物理学的に説明づける物理化学理論が構築される
ことにより進展して行く。それ故、物理学の展開と歩調を合わせて化学反応論も段階を経て発展して行った。
1 8 世紀から 1 9 世紀に元素がラヴォアジエやドルトン等に発見されるのと同時に、化学反応する反応物と生成物との重量比に関し
て法則性が見出されている。これら化学反応に関与する成分の量的関係に関する理論は、化学量論として体系付けられている。化学量
論は一般には経験則である定比例の法則、倍数比例の法則として知られている。
1 9 世紀後半に定量分析法が確立し 2 0 世紀にかけて発展することで化学物質の変化量が測定できるようになると、化学平衡や反応
の進行する速度について、反応速度式として定式化され物質量やモル濃度そして温度が化学反応の成分量やその変化量に強く影響を及
ぼすことが明らかとなった。熱力学により分子(あるいは)原子に共通な振る舞いが物理学的に説明付けられる様になり、化学平衡や
反応速度について物理化学的な理論が確立されるに至った。化学反応における成分量の決定因子とその変化の早さは、化学ポテンシャ
ルで代表される広義の熱力学と反応速度論により体系付けられる。化学ポテンシャルは熱力学第二法則を物理化学的に解釈した指標で
あり、反応(あるいは平衡)の進行方向を決定付ける。反応速度論により、反応速度が物質量や温度により受ける影響を分子などの微
視的な振る舞いとして説明づけられるようになった。
反応速度論、特に遷移状態理論により化学反応を熱力学や統計力学のような集団についての理論ではなく、反応物の分子同士の作用
として理論付けることが可能になった。今日では反応の種類ごとに分子構造と化学反応を関連付ける反応機構モデルを構築することで
化学反応が研究される。
反応機構モデルを構築する基礎原理として、電子が帰属する価電子または共有結合の移動として化学結合を扱い、半経験的原理とし
て有機電子論が体系付けられた。有機電子論や H SA B 則において経験的に仮定された電子対の振る舞いは量子化学の分子軌道法で定
式化することが可能である。また、ペリ環状反応等いくつかの立体特異的な反応機構は古典的な電子の振る舞いでは説明づけることは
できず、分子軌道の結合規則に関する原理を扱うフロンティア軌道理論により反応機構が説明付けられる。
以上のようにして構築された反応機構は化学反応動力学・分子動力学の手法によりモデルの妥当性や反応の振る舞いについて検証さ
れるが、コンピューターの演算性能の急速な拡大と計算化学的手法の発展により、今日では簡単な系であればコンピュータ・シミュレ
ーションで化学反応を予測することも可能である。
有機反応に影響する因子
実際に反応を行う、あるいは反応系を開発する場合、その反応を取り巻くさまざまな因子・条件の影響により、速度や成否が左右さ
れることは少なからずある。この節では、特に有機反応について影響を考慮すべき因子・条件を、定性的、経験的な観点から概説する。
反応機構は反応により多様であるため、以下の議論にあてはまらない例ももちろんある。詳細が分かっている反応については、反応速
度式なども考慮に入れより定量的な考察を行うべきである。
温度 ? 多くの反応は、より高い温度で行えば、系により多くのエネルギーが与えられるために速度が増加する。一般に、反応温度
が 1 0 ℃ 上がれば反応速度は約 2 倍になる、というのが目安とされる。ただし、副反応を誘発する、中間体が分解する、反応の暴走
を招く、など、温度を上げた結果として反応が失敗することもある。
濃度 ? 多次反応の場合、反応混合物の濃度が高くなると、反応物同士の衝突の頻度が増すことによって反応が起こる確率が高くなり、
速度が増加する。連鎖反応の場合は顕著となる。大員環合成などの場合では、分子内反応を分子間反応に対して優先させるために、し
ばしば高希釈下条件で行われる。また、0 次、1 次反応では濃度の効果は系の温度変化へ影響するだけにとどまる。濃度を調整する場
合についても、副反応や暴走など、温度の調整の際と同様の問題を考慮する必要がある。
圧力 ? 通常、気体が関与する反応は、圧力を上げると速くなる。気体の場合では圧力の上昇は事実上濃度の増加に等しいため、濃度
と同様の議論も成り立つ。始原系と生成系でモル数が異なる場合は、平衡状態に達したときの各化合物の割合に圧力が影響する。
光 ? 光はエネルギーの一形態である。また、反応の経路に影響を及ぼすこともある。反応によっては、副反応を防ぐために遮光しな
ければならないものもある。光を積極的に利用する光反応では、用いる光の波長や強さを考慮しなければならない。
触媒 ? 反応に触媒を加えると、より活性化エネルギーの低い反応経路をとることができるようになり、正反応・逆反応の速さがとも
に増加する。触媒反応は当量反応とは異なり、触媒サイクルを円滑に回転させるため、触媒の活性化と安定化について考える必要があ
る。
表面積 ? 不均一系触媒などを用いた表面反応においては、表面積が大きくなると反応速度も増加する。体積に対する表面積の割合
が増せば反応の起こる位置が増え、反応はより速く起こる。固 -液、気 -液などの複相系、水層 -油層などの複層系でも同様に、異なる
相/層が接触する地点、あるいはその近傍で反応は起こるため、表面積や撹拌が重要になる。
<反応速度>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E5 % 8 F% 8 D% E5 % B F% 9 C% E9 % 8 0 % 9 F% E5 % B A % A 6
反応速度
反応速度(はんのうそくど、r e a c t i o n v e l o c i t y )とは化学反応の反応物あるいは生成物に関する各成分量の時間変化率を表す数
値で、通常、反応速度を表現する式は濃度のべき関数として表現される。
単純反応と複合反応
反応速度の全反応次数は反応の原系の成分数と合致することが反応速度式の解釈から期待されるが、実際の反応では成分数よりも少
ない反応次数の速度となることが多い。その原因の多くは目的の反応が反応式で書き表されている反応物から生成物が直接生成する単
純反応(たんじゅんはんのう、s i m p l e r e a c t i o n )ではなく、反応式には現れない反応中間体(はんのうちゅうかんたい、r e a c t i o n
i n t e r m e d i a t e , i n t e r m e d i a t e p r o d u c t )を介した複数の反応過程を経由する複合反応(ふくごうはんのう、c o m p l e x r e a c t i o n )
であることによる。反応中間体は単に中間体と呼ばれることもある。
反応を考えるとき、物質変化する 1 つの過程を素反応(e l e m e n t a r y r e a c t i o n )と呼ぶ。この場合で、物質変化が物理変化の場
合は、反応素過程(e l e m e n t a r y p r o c e s s o f r e a c t i o n )と呼ばれ、反応中間体に相当する物理状態が遷移状態である。反応素過程
も含んで素反応と言い表す場合もある。
言い換えると、単純反応の場合は単一の素反応で構成されるが、複合反応は複数の素反応と反応中間体を含んで反応が構成されるこ
とになる。素反応を介して反応物から反応中間体を経て生成物に至るので、複合反応は連続反応(れんぞくはんのう、s u c c e s s i v e
r e a c t i o n , c o n s e c u t i v e r e a c t i o n )、逐次反応(ちくじはんのう、c o n s e c u t i v e r e a c t i o n )、連鎖反応(れんさはんのう、c h a i n
r e a c t i o n )とも呼ばれる。
ある反応中間体(あるいは反応物)から 2 つの素反応が分岐する場合の連続反応は平行反応(p a r a l l e l r e a c t i o n )と呼ばれる。
平行反応はラジカル反応等ではしばしば見られる素反応構成である。
複合反応を構成する素反応のそれぞれの反応速度が同一であることは少なく、(道路の自然渋滞の先頭車両を見出すことができない
ことと同様で)反応進行度の変化点である反応中間体は反応系内に存在するものの観測しにくいことが多い。それ故、反応中間体の存
在は直接観測されるのではなかった。 反応中間体は、各種の分光法による直接観測や立体障害などで後続の反応を妨害することによ
る安定化、反応中間体と選択的に反応する試薬によるトラップなどの方法を使い、反応速度や反応機構からその存在が推定される場合
が多かった。しかし近年は、分析技術の向上により反応中間体を直接観測できるようになりつつあり、または計算機実験による反応経
路の評価などによって存在が推定されている。
律速段階
逐次反応において最も遅い素反応(過程)を律速段階(りっそくだんかい、r a t e -d e t e r m i n g s t e p )と呼ぶ。あるいは律速過程と
も言う。それは最も遅い素反応(過程)が、複合反応の反応速度に対してつよい影響を及ぼし、その反応の振る舞い決定づける為であ
る。
測定方法
前述の定義のように、反応速度を決定するには物質変化を定量分析することで測定する。反応速度がかなり遅い場合は反応系をサン
プリングして容量分析することも可能であるが、大抵の場合は測定時間が短い分光法分析による定量分析が必要になる。反応速度が早
い場合は反応装置や反応系にも工夫が施される。近年では高速のレーザーパルスを利用することでフェムト秒やアト秒の物質状態を分
光測定することも可能になり極めて高速の反応過程も観測できる。
高速流通法
高速流通法(こうそくりゅうつうほう、r a p i d -f l o w m e t h o d )では反応器とそこから引き出された管路の先に固定された分光定量
装置を用意する。反応器にシリンジで反応成分を注入混合されてスタートした反応液は、引き続き管路から流出させる。そのことによ
り測定器の前を連続的に反応液が通過するので成分の経時変化が測定できる。連続フロー法 (c o n t i n u o u s f l o w m e t h o d ) とも呼
ばれる。高速流通法では大量の反応液が必要なため、反応液の通過を止めて測定する場合はストップトフロー法 (s t o p p e d f l o w
m e t h o d ) と呼ばれ、種々のプローブを使ういくつかの方法が開発されている。特に円偏光二色性を利用する場合には蛋白質の 2 次
構造の変化を、X 線溶液散乱法と結合されたときには蛋白質のコンパクトネスを観測するのに有効である。
緩和法
また、平衡状態にある反応に対して反応系の温度や圧力等を変化させ、新たな条件での平衡点へと化学反応が進行する過程を解析す
る反応速度の測定方法を緩和法(かんわほう、r e l a x a t i o n m e t h o d )と呼ぶ。温度変化を利用する場合は温度ジャンプ法(おんど ?
ほう、t e m p e r a t u r e j u m p )、圧力変化を利用する場合は圧力ジャンプ法(あつりょく ? ほう、p r e s s u r e j u m p m e t h o d )と呼ば
れる。
レーザーを使って温度を上げる装置を用いる場合はレーザー温度ジャンプ法という。これは非常に短時間(およそ 1 0 ナノ秒程度)
で温度を上げることができるので、速い反応の解析に用いられる。特に最近では蛋白質のフォールディングの初期反応の解析に用いら
れて大きな成果をあげている。
<反応速度論>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E5 % 8 F% 8 D% E5 % B F% 9 C% E9 % 8 0 % 9 F% E5 % B A % A 6 % E8 % A B % 9 6
反応速度論
反応速度論(はんのうそくどろん、c h e m i c a l k i n e t i c s )とは反応進行度の時間変化(速度)に関する物理化学の一分野である。
物体の速度を扱う力学との類推で、かつては化学動力学と呼ばれていた。反応速度論の目的は反応速度を解析することで、反応機構や
化学反応の物理学的本質を解明することにあった。今日においては原子あるいは分子の微視的運動状態は、巨視的な反応速度解析に頼
ることなく、量子化学などの理論に基づき計算化学的な手法で評価する分子動力学によって解明できるようになっている。それ故、今
日の反応速度論は学問的真理の探求よりは、実際の化学反応を制御する場合の基礎論理として利用されている。
反応速度のモル濃度依存性
化学において、反応速度が系統的に研究されたのは 1 9 世紀中旬以降であり、1 8 5 0 年ドイツの化学者ウィルヘルミーによる酸触媒
存在下にショ糖の加水分解反応の速度についての研究が反応速度研究の先駆けとされる。ウィルヘルミーは加水分解によりショ糖の旋
光度が右旋性から左旋性へと連続的に変化する性質を利用して物質量変化を観測した。その結果、実験条件を一定にすると反応速度は
ショ糖濃度に比例することを見出した(反応速度・擬 1 次反応を参照)。
1 8 6 2 年にはフランス人化学者マルセラン・ベルテロと L ・サンジルが酢酸エチルのエステル化反応と加水分解反応の反応速度を解
析して、酢酸とエタノールから酢酸エチルが生成する速度は酢酸濃度とエタノール濃度の積に比例し(反応速度・2 次反応を参照)、
酢酸エチルが加水分解する速度は酢酸エチル濃度に比例する(反応速度・擬 1 次反応を参照)ことを実験的に見出した。
遷移状態理論
衝突説を基に構築された反応速度論は、分子の反応させる原動力であるエネルギーがどのように供給されるかを明確にしたり巨視的
な反応速度式の振る舞いを導出できたものの、実際に分子の結合がどのように組み変わって新しい分子が生成するかという化学反応の
本質部分については明確な示唆を与えることができない。すなわち、反応速度式の立体因子や活性化エネルギーの成り立ちについては
別のモデルによる理論構築が必要となる。
反応において活性錯合体の存在を想定して、活性錯合体が存在する遷移状態(せんいじょうたい、t r a n s i t i o n s t a t e )の振る舞い
に関する物理化学的理論体系を遷移状態理論(せんいじょうたいりろん、t r a n s i t i o n s t a t e t h e o r y )と呼ぶ。遷移状態理論による
熱力学的な解析により、立体因子と活性化エネルギーが持つ意味や反応機構の物理学的妥当性を明確にすることができる。遷移状態理
論の成り立ちにおいては古典的な熱力学により定式化されたが、遷移状態理論で用いられたモデルを量子化学的に拡張することで、分
子動力学へと展開した。
活性錯合体
活性錯合体(かっせいさくごうたい、a c t i v a t e d c o m p l e x )とは遷移状態理論においてモデル化された、化学反応の素反応(過
程)において原系(反応物側の系)と生成系(生成物側の系)へと連続的に変化する分子(または原子)の複合体(一時的な結びつき
を持った集合体)である。反応中間体や遷移状態と呼ばれる状態がこれにあたる。
活性錯合体では結合あるいは乖離する分子(または原子)間の距離は様々に変化するが、その距離の変化に応じて、様々なポテンシ
ャルエネルギーの値をとる。ポテンシャルエネルギーは厳密にはエントロピー変化を考慮して、ギブス自由エネルギー(定圧過程の場
合)あるいはヘルムホルツ自由エネルギー(定積の場合)で表される。
一般に反応の遷移状態を表現する原子配置(内部座標)とポテンシャルエネルギーの関係を表したポテンシャルエネルギー曲面にお
いて、化学反応は原系から生成系へとポテンシャルエネルギーが局所的に最小となる経路を通過する。この反応が通るポテンシャルエ
ネルギー曲面の経路が反応座標(はんのうざひょう、r e a c t i o n c o o r d i n a t e )であり、狭義では活性錯合体は反応座標におけるポテ
ンシャルエネルギーの極大点の状態を指す。
<アレニウスの式>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E3 % 8 2 % A 2 % E3 % 8 3 % A C% E3 % 8 3 % 8 B % E3 % 8 2 % A 6 % E3 % 8 2 % B 9 % E3 % 8 1 % A E% E5
% B C% 8 F
アレニウスの式
<平衡定数と反応速度定数>
N
G = H − T S
A
+
1
△ G+
-1
G
△ G
B
−TS
−TS
N
H
△ G
2
+ 3 △
2
→ 2 ● △
3
H
●
ξ
反応系: A+B → C (k1,k−1)
平衡定数: K=[A][B]/[C]
反応速度: v1 =k1 [A][B], v−1=k−1[C]
ここで,平衡の関係,v1=v−1より,
K=
A
B
C
=
(0−08)
(0−09)
(0−10)
k−1
(0−11)
k1
一方,アレニウスの関係式は次式であるから,
k=Aexp −
△G+
RT
→
lnk=lnA−
△G+
RT
(0−12)
よって,平衡定数は次式となる.
+
K=
k−1
k1
Aexp −
=
Aexp −
△G−1
RT
△G
1+
+
=exp −
△G−1 −△G1
RT
+
=exp −
△G
RT
(0ー13)
RT
従って,平衡定数Kとギブスの自由エネルギ−差△Gの関係式が得られる.
lnK=−(△G/RT) → −△G=RTlnK
(0−14)
即ち,平衡定数Kは活性化エネルギ−に依存しない.平衡は時間に無関係なのである.
(05)相転移現象
P/atm
<相図>
融解曲線
臨界点
一般の相図は(T,P)で表され,その曲線の傾きはdP/dTである.それ
故に,物質の三態(気体,液体,固体)を区切る曲線の傾きは全て
Cl a p e y r o n -Cl a u s i u s 式で議論することが可能なのである.
1
蒸発曲線
★相転移(α相→β相)
液相
Clapeyron−Clausius式
dP/dT=△ αβSm/△ αβV m=△αβHm/T(Vmβ−V mα) (0−15)
固相
★昇華
g
g
g
g
s
dP/dT=△ s Sm/△ s V m=△s Hm/T(Vm −V m ) (0−16)
気相
三重点
昇華曲線において,V mg>>V ms,且つ,必ず熱を吸収(△ sgH m>0)する
ので,dP/dT>0,即ち,相図では必ず右上がりの曲線となる.昇華圧は温
度上昇に伴って増大する.
昇華曲線
★融解
l
l
l
l
s
Tb
Tf
T/K
dP/dT=△ s Sm/△ s V m=△s Hm/T(Vm −V m ) (0−17)
融解曲線の場合も必ず熱を吸収する(△slHm>0).
一般的には,Vml>Vmsなので,dP/dT>0,即ち,圧力の増加と共に融点は上がる.一方,H2O,ビスマス,アンチモン,ガ
リウム,などでは,Vml<Vmsなので,dP/dT<0,即ち,圧力の増加と共に融点は下がる.
★相図
上記の Cl a p e y r o n -Cl a u s i u s 式と対応した水の相図を右上図に示す.
昇華曲線:右上がり曲線
蒸発曲線:右上がり曲線
融解曲線:左上がり曲線 (水素結合あり、Vml<Vms )
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E7 % 9 B % B 8 % E5 % 9 B % B 3
相図
相図(そうず、p h a s e d i a g r a m )は物質や系(モデルなどの仮想的なものも含む)の
相と熱力学的な状態量との関係を表したもの。状態図とも呼ばれる。例として、合金や化
合物の温度や圧力に関しての相図、モデル計算によって得られた系の磁気構造と温度との
関係(これ以外の関係の場合もある)を示す相図などがある。
金属工学においては工業的に制御が容易な組成-温度の関係を示したものが一般的で、合
金の性質予測に使用される。
また、物理学で位相空間をグラフ化したものを相図と呼ぶ場合もある。これについては
位相空間 (物理)を参照。
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E7 % 9 B % B 8 % E5 % B E% 8 B
ギブズの相律
ギブズの相律( -そうりつ)は系の自由度を規定する式で、相と成分で次のように規定さ
れる。ギブズが発見した式で、単に「相律」ともいう。
F は自由度、C は成分の数、P は相の数をいう。
相律の式の中の定数“2 ”は、温度 T と圧力 P の二つの示強性の変数から来ている。
例:
1 成分 1 相の場合は、自由度 2 。つまり 2 個の状態量で状態を記述できる。
2 成分 1 相の場合は、自由度 3 。すなわち状態量に加えて 1 成分の割合を規定すればよい。
1 成分 2 相(気相と液相が共存)の場合は、自由度 1 。従って、温度を決めれば飽和蒸気圧が決まる。
1 成分 3 相の場合は、自由度 0 。これは三重点を表す。
なお、相律を相図における幾何学的法則とみれば、オイラーの多面体定理に対応することがわかる。
<相転移>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E7 % 9 B % B 8 % E8 % B B % A 2 % E7 % A 7 % B B
相転移
相転移(そうてんい、p h a s e t r a n s i t i o n )とは、化学的、物理的に均一な物質の部分である相 (Ph a s e ) が他の形態の相へ転移
することの熱力学あるいは統計力学上の概念であり、それらを発生機構とする物理現象の総称でもある。相転移の発生は特定の原因に
由来せず、原子あるいは分子間の相互作用を初めとし、結晶構造や局所構造あるいは磁場や温度・エネルギー分布など、場合に応じて
複数の要素が複合的に作用して発生する現象である。
次に代表的な相転移の例を示す。
構造相転移(気相、液相、固相間の転移など)
磁気相転移(常磁性、強磁性、反強磁性などの間での転移)
金属-絶縁体転移(モット転移など)
常伝導-超伝導転移(超伝導)
常誘電体-強誘電体転移
真空の相転移(宇宙論)
転移点
相転移を起こす温度や圧力などの状態量の値を転移点と呼ぶ。特定の物質において転移点は熱力学的状態により決定される値であり、
たとえば特定の成分系の液相-気相転移点では圧力値など状態値が指定されれば、残りの状態値である温度、すなわち沸点は一意に決
定される。このように相転移の状態値を相平衡図上で俯瞰すると転移点は図上では連続した線分を形成する。
転移点の例を次に示す。
沸点、融点、昇華点、(凝固点)
キューリー温度、ネール温度
ガラス転移点
相転移の種類
相転移は大別すると準安定状態を持つ「第一種相転移 (p h a s e t r a n s i t i o n o f t h e f i r s t k i n d )」と、それを持たない「第二種相転
移 (p h a s e t r a n s i t i o n o f t h e s e c o n d k i n d )」に分類される。
これとは別にポール・エーレンフェストは自由エネルギーの温度あるいは圧力の 1 階微分が不連続点を有する場合を「一次相転移
(f i r s t o r d e r t r a n s i t i o n )」、2 階微分が不連続点を有する場合を「二次相転移」と呼んだ。転移点が一次相転移か二次相転移かの別
により「一次相転移点」、「二次相転移点」と呼び分ける場合もある。
一次相転移と第一種相転移とは一致するが、エーレンフェストの二次相転移の定義に該当しない高次相転移も第二種相転移には含ま
れる。
相転移は自発的に生じる場合もあるが、一次相転移のように準安定状態を持ちうる場合は、過熱状態や過冷却状態のように転移点を
越えても相転移を生じない場合がある。このような準安定状態では何らかの外的要因で核となる新しい相が発生し、それが引き金とな
って系全体に相転移が波及する。
物理学的性質
一次相転移点の前後では,エントロピーやモル比熱などが不連続である。そして、前後の化学ポテンシャル μ 1 , μ 2 とは一致し、
相転移の状態にある 2 つの相にはクラウジウス-クラペイロンの式が成立する。
第一種相転移は準安定状態を持つので固体表面や空間に浮遊する吸湿性の微小粒子やイオンなどの刺激するものが存在しないことが
原因で過熱状態や過冷却状態のように転移点を越えても相転移を生じない場合がある。すなわち電子レンジで過熱した水が突沸したり
放射線検出器の霧箱・泡箱の原理はこの第一種相転移の準安定状態に由来する。
物性としての蒸発のし易さ、し難さを「揮発性 」「
・ 不揮発性」という。液体の表面張力に打ち勝つ熱運動エネルギーを持つ分子は
蒸発することができる。言い換えると、蒸発する分子は液体表面への付着についての仕事関数を超える力学エネルギーもっている。し
たがって蒸発は液体の温度が高かったり、表面張力が低かったりするほど早く進行する。
また、理想気体あるいは理想液体では圧力に依存してその振る舞いを変えることはないが、実際の物質の場合には高圧になると気相
と液相の振る舞いに相違がなくなる。その限界の転移点を「臨界点」と呼ぶ。その臨界点を超えた相の状態を超臨界状態と呼ぶ。
転移熱
熱的現象としては第一種相転移が進行中の一成分系は圧力が一定の場合、系の温度が一定のままでの系外への熱の放出あるいは吸収
が見られる。このような機構で生じる熱を転移熱(てんいねつ、h e a t o f t r a n s i t i o n )または潜熱(せんねつ、l a t e n t h e a t )とよ
ぶ。そもそも熱の定義は物体に作用することで温度変化をもたらす物理量であり、一次相転移点以外の状態では熱の作用は温度変化を
もたらすのでこの場合を顕熱(けんねつ、s e n s i b l e h e a t )とよび、一次相転移点において作用により温度変化を生じない場合を潜
熱と呼び分けたことに由来するので、顕熱と潜熱とで物理量である熱として違いがあるわけではない。
相転移前後を状態 1 、状態 2 とした場合、それぞれの相の生成エンタルピー H 1 , H 2 の総量の差分だけ、転移熱が発生する。
転移熱の単位は質量あたりの熱量 (J /g ) または物質量あたりの熱量 (J /m o l ) で示される。例えば、水の融解熱は 3 3 3 .5 J /g 、気
化熱は 2 2 5 6 .7 J /g である。
次に転移熱に該当する熱現象を次に示す。
蒸発熱(気化熱、凝縮熱) - 気相・液相間の第一種相転移
融解熱(凝固熱)- 液相・固相間の第一種相転移
第二種相転移
代表的な第二種相転移である理現象としては、構造相転移、磁気相転移、常伝導から超伝導状態への転移、液体ヘリウムの超流動状
態などが挙げられる。一般に第二種相転移はある秩序変数が秩序‐無秩序へと転移する現象である。秩序変数としては結晶内の原子配
列の規則化や磁性体の磁気的秩序等多岐に渡る。
二次あるいは高次の相転移では化学ポテンシャルの一次導関数も連続である為、転移熱は発生せず、比体積の不連続点も発生しない。
一方、二次相転移では、化学ポテンシャルの二次導関数等は不連続で比熱や磁化率が転移点で不連続性を示す。そのほかにも第二種
相転移点付近では物理量の異常性が現れ、それらは臨界現象と総称される。たとえば、比熱が第二種相転移点付近でギリシャ文字の
λ の形のグラフを示して発散するケースはλ転移と呼ばれる。
<物性物理>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E7 % 8 9 % A 9 % E6 % 8 0 % A 7 % E7 % 8 9 % A 9 % E7 % 9 0 % 8 6 % E5 % A D% A 6
物性物理学
物性物理学(ぶっせいぶつりがく)は、物質のさまざまな巨視的性質を微視的な観点から研究する物理学の分野。量子力学や統計力
学を理論的基盤とし、その理論部門を物性論(ぶっせいろん)と呼ぶことも多い。これらは日本の物理学界独特の名称であるが、しば
しば英語の Co n d e n s e d m a t t e r p h y s i c s (凝縮系物理学)に比定される。狭義には固体物理学を指し、広義には固体物理学(結晶
・アモルファス・合金)およびソフトマター物理学・表面物理学・物理化学などの周辺分野を含む。
歴史
1 8 世紀以前において、物理学は物体の運動や天体の運行など解析学や幾何学によって説明できる分野を中心としていた。これに対
して化学は物質の性質をあるがままに、すなわち博物学的に記述することが一般的であった。
1 8 世紀に発展した熱力学は、物質としての気体の性質を巨視的な観点から現象論的に体系づけたものであり、これが物性物理学の
基礎となった。1 9 世紀後半になると物質の熱力学特性を、より微視的な立場から体系的に記述する統計力学の考え方が本格的に導入
され、現象論に過ぎなかった熱力学に基礎付けがなされた。さらに 2 0 世紀前半には量子力学が確立し、固体の結晶構造や化学反応を
記述できるようになった。
また最近では高分子や液晶、コロイド等を対象とするソフトマター物理学も物性物理学の一つの分野となっている。ただし、日本に
おいて物性論あるいは物性物理学という言葉が使われるようになったのは 1 9 4 0 年代以降である。
関連分野
物理化学:気体、液体の性質を記述する。
固体物理学:固体の性質を記述する。
表面物理学:表面・界面の性質を記述する。
ソフトマター物理学:ソフトマターの性質を記述する。
物性論を扱う高等教育機関
日本の大学では、物性物理学は理学部の物理学科の一講座として研究がなされることが多い。例えば、京都大学理学部では、物理学
第一教室が物性物理学全体をカバーしている。
また、工学部など、理学部以外で物性物理学を扱っている所も多い。
かつては、物理第二学科(東北大学、名古屋大学)、物性学科(広島大学)として、独立の学科組織を持ったところもあった。
1 9 6 3 年に創設された広島大学の物性学科は、物性物理学以外に、生物物理学といった化学との境界領域の研究、教育が行われたが、
物理系講座の増加で独立学科としての存在意義を失って学科募集を停止し、講座は物理科学科と化学科(生物物理化学系のみ)に吸収
された。
東京大学では理学部・工学部・教養学部の他、大学院新領域創成科学研究科、物性研究所でも物性物理学の研究が行われている。こ
の中で物性研究所は、文部省と科学技術庁が日本学術会議の勧告を元に共同で設立した物性物理学分野の全国共同利用研究所であり、
理論・実験の両分野にわたって幅広く教育研究が行われている。この他の全国共同利用研究所では、東北大学金属材料研究所、京都大
学基礎物理学研究所に物性物理学関連の研究室がある。
<ソフトマター>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E3 % 8 2 % B D% E3 % 8 3 % 9 5 % E3 % 8 3 % 8 8 % E3 % 8 3 % 9 E% E3 % 8 2 % B F% E3 % 8 3 % B C% E7
% 8 9 % A 9 % E7 % 9 0 % 8 6 % E5 % A D% A 6
ソフトマター物理学
ソフトマター物理学(? ぶつりがく)とは物性物理学の一分野で、高分子や液晶、コロイド、両親媒性分子などの物質系を対象と
する。伝統的な物性物理学と化学、生物学との境界領域にある。
1 9 9 2 年に出たピエール=ジル・ド・ジャンヌ (Pi e r r e -Gi l l e s d e Ge n n e s ) のノーベル物理学賞受賞講演の論文タイトルが
" So f t M a t t e r " だった。
構成分子が大きいこと、あるいは秩序に異方性を持つことから、ナノスケール(メゾスケール)の構造を持つことが多い。そのため
剛性率が固体よりも小さく、外力に対して大きな応答をする。それが「ソフト」な物性を示す一因である。
(06)生態系
<生態系>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E7 % 9 4 % 9 F% E6 % 8 5 % 8 B % E7 % B 3 % B B
生態系
生態学における生態系(せいたいけい, Ec o s y s t e m )は生物群集やそれらをとりまく環境を、ある程度閉じた系であると見なした
とき、それをさしてこう呼ぶ。
定義
ある一定の区域に存在する生物と、それを取り巻く非生物的環境をまとめ、ある程度閉じた一つの系と見なすとき、これを生態系と
呼ぶ。
生態系は生態学的な単位として相互作用する動的で複雑な総体である。
生態系という語は 1 9 3 5 年にイギリスの生態学者アーサー・タンズリーの著書に初めて現れる。しかし、実際にこの語を作り出し
たのはタンズリーの同僚のロイ・クラファンだった (1 9 3 0 年)。
生態系の成り立ち
生態系は大きく、生産者、消費者、分解者に区分される。植物(生産者)が太陽光から系にエネルギーを取り込み、これを動物など
が利用していく(消費者)。遺体や排泄物などは主に微生物によって利用され、さらにこれを食べる生物が存在する(分解者)。 これ
らの過程を通じて生産者が取り込んだエネルギーは消費されていき、生物体を構成していた物質は無機化されていく。それらは再び植
物や微生物を起点に食物連鎖に取り込まれる。これを物質循環という。
ある地域の生物を見たとき、そこには動物、植物、菌類その他、様々な生物が生息している。これを生物群集というが、その種の組
み合わせは、でたらめなものではなく、同じような環境ならば、ある程度共通な組み合わせが存在する。 それらの間には捕食被食、
競争、共生、寄生、その他様々な関係がある。捕食-被食関係のような生物間のエネルギーの流れを食物連鎖と呼ぶが、近年ではその
複雑さを強調して食物網(f o o d w e b )が用いられることが多い。
食物網を見渡すとき、植物、それを食べる植食者、さらにそれを食べる肉食者というように生きたものを起点とする食物網がある。
これに対して、生物の遺体や排出物を起点として微生物がこれを利用し、さらにそれを他の生き物が利用する食物網がある。前者を生
食食物網(g r a zi n g f o o d w e b )、後者を腐食食物網(d e t r i t a l f o o d w e b )と呼ぶ。実際には両者は所々でつながっており完全に独立
したものではない。
どちらの食物網においても植物による光合成を起点として、エネルギーが何段階もの生物を経由していくことがわかる。これらを生
産者、一次消費者、二次消費者あるいは一次分解者、二次分解者というように呼び、このような段階を栄養段階(t r o p h i c l e v e l )と呼
ぶ。
通常ある生態系における生物群は他の生物間や環境とバランスのとれた関係になっている。新たな環境因子や生物種などの導入は著
しい変化を及ぼし、生態系の崩壊や在来種の絶滅などを引き起こす事も考えられる。
物質循環とエネルギーの流れ
生態系内の物質は、様々な形で循環していると考えられる。
個々の元素を見ると、このような関係の中で、食物連鎖や分解によって生物環を移動し、ある時は非生物的な環境を経由して生物の
ところに戻る、大きな循環をなしている。これを物質循環という。
これを炭素を中心に見れば、光合成で作られた有機物が食う食われるの関係の中を移動し、また動植物遺体や排泄物等を通じて分解
者へ流れる。また、個々の生物の呼吸によって有機物は二酸化炭素として排出され、一部は光合成に利用され、また一部は大気に逃げ、
あるいは水に溶ける。これらを炭素の循環という。
窒素や硫黄を中心に考えた場合、炭素とはやや異なった循環がある。特に窒素は生物体にとってタンパク質の材料に必須の元素であ
る。動物は窒素同化能が低いので、無機窒素を排出する。植物は無機窒素を吸収して有機窒素化合物を合成できる。したがって、動物
は植物が合成した有機窒素化合物に依存している。大気中には気体窒素が多量にあるが、生物はほとんどこれを利用できず、落雷など
の際に合成されるアンモニアの形で、あるいは一部の窒素固定能のある微生物の働きを通じて利用可能となる。
物質は生態系の中を循環しているが、エネルギーは流れている。動物の活動のエネルギーは、元をたどれば植物の光合成によって合
成されたものに依存している。光合成は太陽エネルギーによっている。
様々な生態系
生態系は広大な森林から小さな池まで様々な大きさのものがある。それぞれの生態系は砂漠や山地、海や川など地理学的な障壁で分
離されていることが多い。あるいは、このような障壁で分離されている場合に、その内部をひとつのまとまりと見なしやすい。これら
の境界は絶対的なものではないため、生態系どうしが混ざりあう。その結果、スケールの視点を変えることで、地球全体を一つの生態
系と見たり、逆に湖をいくつかの生態系に分割したりすることができる。
一般には、見かけのはっきり違う自然環境は、それぞれを独立の生態系と見なす。例えば森林生態系とか、海洋生態系などと呼ぶ。
池沼などは、輪郭がはっきりしているので、それを独立したものと見なすのは何となく納得がいくが、実際には多くの物質が流入放出
され、また多くの生物が出入りする。そのことを前提にして考える必要はある。
生態系を構築する試み
生態系は、理想的には外部からの太陽エネルギーの供給のみで、その中に生物群集の生存を維持するしくみと見ることができる。こ
のことは、その群集の構成員として人間を捉えれば、人類が生き延びるしくみそのものである。
たとえば、空想的ではあるが、他の星までの宇宙旅行を考える。当然ながら長い年月がかかるので、その間に必要な食料、水、空気
をすべて持参することはできない。これを解決する方法として、当然考えられるのが、生態系を作ればよい、というものである。宇宙
船内で植物が育ち、それを食べて動物が育ち、それらの一部を食料とし、排泄物などの処理もそれらに任せるわけである。 想定外の
様々なトラブルを起こしながらも、1 9 9 1 年からアリゾナ州オラクルで行われた「バイオスフィア 2 」をはじめ、実際にこのような意
図での実験が行われてもいる。しかし、理論的にはできるはずであるが、実験的にこのような系を構成することは、なかなかに困難で
あって、次第にバランスを崩すことが多い。これらの実験における失敗例では、分解者などとして機能している微生物の活動量を低く
見積もりすぎ、次第に閉鎖環境内の酸素濃度が低下して、実験打ち切りに至っていることが多い。
ところが、物質の出入りを完全に排除し、出入りするのはエネルギーのみとすることを意図しなければ、このような系を作るのは実
に簡単である。たとえば藁の煮出し汁などをフラスコに入れ、池の水を一滴垂らす。たちまち細菌類が増殖し、水は濁るが、1週間も
すると水は澄んできて、原生動物が出現したことがわかる。そのまま放置すれば藻類やワムシなど、出現種数は次第に増加し、そのま
ま口を閉じておいても、長い間これらの生物は共存し続ける。これは、ごく簡単な生態系の再現である。なお、この際、瓶の口を綿栓
などで覆った場合は空気の出入りは自由になるので、密閉容器内にこれを入れれば真に隔離した系が得られる。この場合、囲い込まれ
た空気の量が多いほど、安定が長く維持される傾向があるという。内部における微小な変動を弾力的に受けとめられることによるとも
言われる。
<生態学>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E7 % 9 4 % 9 F% E6 % 8 5 % 8 B % E5 % A D% A 6
生態学
生態学(せいたいがく、e c o l o g y )とは、生物と環境の間の相互作用を扱う学問分野である。
生物は環境に影響を与え、環境は生物に影響を与える。生態学研究の主要な関心は、生物個体の分布や数に、そしてこれらがいかに
環境に影響されるかにある。ここでの「環境」とは、気候や地質など非生物的な環境と生物的環境を含んでいる。わかりやすく言い換
えるならば、生物界における" 歴史学" が進化論なら、" 経済学" にあたるのが生態学である。
なお、生物群の名前を付けて「○○の生態」という場合、その生物に関する生態学的特徴を意味する場合もあるが、単に「生きた姿」
の意味で使われる場合もある。
語源
英語の " e c o l o g y " は、 1 8 6 6 年に ドイツのダーウィン主義生物学者エルンスト・ヘッケルにより作られた。 o i k o s ( = 家
" h o u s e " )と、l o g o s (= 科学 " s c i e n c e " )とを組み合わせたものである。
生態学の定義
非常に頻繁になされる定義、とくに人類生態学で用いられる定義では、 以下の三角関係についての研究が生態学とされている。
種内の個体間の関係 --- 例: 1 匹のウサギは他のウサギとどのように関係しているか。繁殖率が高ければ、ウサギの個体数は増加
する。
種の組織的な活動 --- 例: ウサギの食物消費量の増加が環境に与える影響はどのようなものだろうか。食物を大量に消費すれば、
結果として食物不足が起こり、個体群が維持できなくなるだろう。
この活動の環境 --- 例: ウサギにとっての環境の変化の結果、ウサギたちは上に述べた状況により死に絶えてしまう。従って、環
境はこの活動の(すなわち、ウサギの生存の)生産物であると同時に、この活動を取り巻く状況でもある。
e c o l o g y (生態学、エコロジー)という語は、誰がその語を用いているかによって意味するところが異なる。多くの科学者にとって、
e c o l o g y は基本的な生物科学に属しており、生物個体やそれ以上の生物の集団、およびその環境を研究対象とする。
たとえば、いわゆる生物濃縮の現象は、生態学の理論によってのみ説明が可能な現象である。
科学者でない多くの人にとって 、「エコロジー」とは、科学の一分野ではなく、何よりもまず、人間およびその活動から自然と環境
を保護することであるが、これは人間対自然という二項対立の見地によるものである。 必ずしも一般的ではないが、生態学を科学と
しての生物学以上のものとして見る見方もある。その考えによると、生態学とは、自分たち以外の生物と調和して存在し、また我々を
取り巻く他の生物群を単なる物として利用すべきではなく、むしろより大きな一貫したシステムに属するそれぞれの要員ととらえ、ひ
とつの組織であると考える、ある種の世界観である。
<エコロジー>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E3 % 8 2 % A 8 % E3 % 8 2 % B 3 % E3 % 8 3 % A D% E3 % 8 2 % B 8 % E3 % 8 3 % B C
エコロジー
エコロジーとは、狭義には生物学の一分野としての生態学のことを指すが、広義には生態学的な知見を反映しようとする文化的・社
会的・経済的な思想や活動の一部または全部を指す言葉として使われる。後者は英語の Ec o l o g y m o v e m e n t や Po l i t i c a l e c o l o g y
などに相当する。以下の記事では主に後者の説明をする(狭義のエコロジーの説明は生態学を参照 )。後者の内容は 、「環境に配慮し
ていそう」なファッションなどから 、「地球に優しい」と称する最先端技術や企業活動、市民活動 、「自然に帰れ」という現代文明否
定論まで、きわめて広範囲にわたる。
生態学とエコロジー
生態学 (Ec o l o g y ) は、生物学の一分野と見なされている。ただし、生態系として生物を取り巻く物理化学的環境を扱う場合もあ
るので、生物学の範囲を超える場合もあり得る。いずれにせよ、生態学は生物と環境の関係を取り扱う学問である。ここで言う環境は
生物の主体の取り扱いによって変わり、同種の他個体、他種の個体、周辺のさまざまな生物、物理化学的環境までを含む。
生態学は自然の中での集合としての生物を対象とする生物学であると言ってもよく、その意味では非常に古い伝統を持つが、一つの
学問であるとの立場が成立したのはごく新しい。生態学の名そのものは、エルンスト・ヘッケルが 1 8 6 6 年に手紙の中で使用した
Ok o l o g i e が最初であるとされる。これは、自然界の生物の生存のための活動を、古代ギリシアの市民の家政機関であるオイコスに
たとえて、オイコスを成立せしめる論理を究明する学問を意味する。この点で、生態学は同じオイコスを語源とする経済学(エコノミ
ー)との共通性も大きい学問なのである。
しかし、2 0 世紀以降の現代生物学においては、生物体内の物理化学的過程の解明と、その側面を探求する分野が急成長すると、生
物学の研究の主流は生理学・生化学・遺伝学に重心が移り 、、生態学は分類学・解剖学・博物学などとともに、もはや古くさい学問で
あるとの印象を持つ傾向も生じた。
ところが、環境破壊や公害問題が表面化するにつれ、それを解決する学問分野であるとして生態学が注目を受けるようになった。そ
こから、生態学的判断によって、それらの問題に対して必要と考えられる対抗策や、それまでの方法論への変更、見直し等を行なう運
動が起こり、それらをまとめて表す言葉としてエコロジー運動(エコロジズム、エコロジスト)といった言葉が使われるようになった。
そこから、次第にそれらの方向における運動や活動にエコロジーという言葉が使われるうちに、次第に生態学そのものとは必ずしもか
かわらない言葉として一人歩きするようになり、現在に至る。
エコロジーという言葉そのものではなく、それをもじった造語や、その頭を取ってエコとのみ単独で用いる例もある。あるいはそれ
を頭につけた造語なども多く使われる。特に日本ではエコが 2 1 世紀に入ってよく使われるようになった。
歴史
二十世紀前半から中盤にかけては、人間の工業技術の発達とその成果が、自然環境に大きな影響が与えるようになった時期といって
よいだろう。具体的には化学、特に有機化学の進歩による、取り扱う物質の多様化と、新たな合成物質の増加、そして電気や動力関係
の進歩による人間の活動の大規模化の影響が大きい。
たとえばプラスチックの合成はポリ塩化ビニルが 1 8 3 5 年に合成されたのが最初といわれるが、商業的に生産が始まったのは 1 9 1 0
年以降になる。DDT の合成は 1 8 7 3 年だが、農薬として効果が認められたのは 1 9 3 9 年である。DDT はしばらく後に抵抗性を持つ
害虫の出現によって使えなくなり、より強力な農薬の開発と害虫側の抵抗性の出現とのいたちごっこが続くことになる。
そのような原因の蓄積によって、様々な環境問題が表面化し始めるのは、少し遅れて 1 9 6 0 年代に入ってからである。先進国周辺
の各地で、工場廃液による汚染や農薬汚染などが様々な形で表面化し始めた。それにつれて、これまでは成功を収めていた従来の方法
への疑問や異議の声も出始めた。
特に海洋生物学者レイチェル・カーソンの「沈黙の春」(1 9 6 2 年)が与えた影響はとても大きかった。それらの問題や疑問の声が
無視できなくなったとき、そしてこのような問題の解決手段として生態学が浮上したのである。たとえば DDT のいわゆる生物濃縮に
は食物連鎖や生態ピラミッドの概念がなければ説明が難しい。農薬に代わる害虫駆除法と言えば、天敵利用や不妊虫放飼など、生態学
的知識を必要とするものであったからであり、これまで考慮されなかった立場からの新しい見方を提示できるものと期待されたからで
ある。
ただし、当時の生態学は生産生態学・生理生態学や個体群生態学が主流であった。それぞれの生態系における物質循環やエネルギー
の流れを調べ、生産力を測定する、あるいは生物の増加速度や個体数・生物量の決定要因を探求する等の研究からは、上記の問題意識
に関しては個体群生態学が不妊虫放飼の理論的支柱になったほかはこの分野に貢献する所は必ずしも多くなく、食糧危機に係わって地
球全体の生産力を求める世界的プロジェクトが実現した程度である。勢い、エコロジー運動は生態学の学問的実態を離れて行くことに
なる。
そうした中で、一方ではエコロジーは現代文明を否定するヒッピー運動などと一定の流れを作る。その極端は、現代の文明のあり方
を否定し、古くからのやり方へと戻ることを求めるものとなり、あるいは非西欧的な、世界各地の先住民族の伝統的な生活や思想への
共感への傾倒へと向かう。他方では、それまでの公害や環境問題を生み出したやり方に対する新たな道として、あるいはその外見を変
えるために、経済界や行政が打ち出すさまざまな部分を飾る看板ともなっていった。
1 9 7 0 -8 0 年代には、欧州を中心にエコロジーは政治的な動きとなり、その多数派は緑の党を結成した。また、この時期には反原発
・反核や反捕鯨などがエコロジーの主要なテーマであった。同時期には日本でも複数の大学などに「エコロジーを考える会」といった
サークルが組織され、その主な主張は反原発であった。
地球温暖化の問題が表面化した後は、いわゆる温室効果ガスの削減が新たな重点となった。フロンガスの代替については、専門的部
分が大きく、一般市民は係わる面が少ない。しかし、二酸化炭素については、それを削減できればエコであるとの風潮が生まれた。こ
うした観点から原子力発電所は発電時の温室効果ガス排出が相対的に少ないと評価されるが、放射性廃棄物の処理という新たな問題も
生み出し、別の点で環境に負荷を与えているのではないかとする懸念もある。
地球環境問題がブームとも表現されるほど広く高い関心を集めたことで、それまでのエコロジー、エコロジストという言葉が持って
いた、反企業・反政府・反体制という印象も薄れ、逆に企業や政府が環境配慮を積極的に商品や政策として、エコという言葉とともに
利用するようになってきた。持続可能な開発という概念に基づいた自然の商品化の手法のひとつがエコツーリズムである。循環型社会
という方向が打ち出されて以降は、リサイクルがまた新たな重点として浮上した。そこから、再利用商品や、再利用しやすい仕組みを
含んだものをエコという場合も生まれた。2 0 0 0 年頃より、このような活動を推進するものとして、「地球に優しい」という表現が盛
んに喧伝されるようになった。
ただ、このような風潮をグリーンウォッシングだとして批判する声もある 。「環境」といっても何にとっての環境なのか。「地球に
優しい」といっても地球自体が大きなダメージを受けるわけではないし、人類の生存のためという目的をぼかし美辞で飾っている傾向
がないか。イメージアップのために「環境」「クリーン」(これは清廉潔白という意味にも通じる)などという言葉が商業主義の道具に
なっているという面も否定できない。
しかしながら人類の生存に関わる問題になってきているのも事実で、その点で「持続可能な開発」や「環境保護」の流れは私達の進
むべき方向を示しているといえよう。
地球規模の活動
人間と自然との間の互恵的な関係に関する知識の普及を目的として、1 9 7 1 年、ユネスコは「人間と生物圏 (M a n a n d B i o s p h e r e ,
M A B )」と呼ばれる研究計画を開始した。その数年後、生物圏保護の概念が定義された。
1 9 7 2 年、国際連合はストックホルムで人間と環境に関する最初の国際会議を開いた。準備には Re n e Du b o s とその他の専門家
が関わった。「地球規模で考え、地域で活動しよう」というフレーズはこの会議が起源である。
続く 1 9 8 0 年代における主要なイベントは、生物圏の概念の発展と、生物多様性という用語の登場であった。 1 9 9 2 年リオ・デ・
ジャネイロで開催された環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)中で、これらの用語が発展した。また、同サミットにより
生物圏の概念が主要な国際機関に認知され、生物多様性の減少に伴う危険が広く知られることになった。
1 9 9 7 年の京都会議では、生物圏が直面している危機が(特に温室効果に焦点を絞って)国際的な観点から認識された。 世界のほ
とんどの国家は、地球規模の視野で生態学を考えることや、人間の活動が地球環境に与える影響の重要性を認識した。
言葉の内容
現在においてエコロジーという語に含まれる内容としては、以下のようなものがある。実際には複数の項目にわたるものもある。
公害を出さない(最近では「環境への負荷」を減らすという)ためのものとして
従来の公害源であった部分の改良
二酸化炭素の排出削減
燃料や電気の消費抑制
太陽熱・太陽光や風力などの自然エネルギーの利用促進
再利用された素材の使用
再利用のしやすい構造の採用
水質浄化や有害物質の除去
その他、なんらかの意味で健康に良好
自然保護に関わる活動として
自然に親しむ活動をする
野外の廃棄物やゴミを片づける・環境浄化の作業を行う
自然の再生や多様性の増加を目指す作業をする
希少な自然を守る
(07)生物と協同性
<タンパク質>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E8 % 9 B % 8 B % E7 % 9 9 % B D% E8 % B 3 % A A
タンパク質
タンパク質(蛋白質、たんぱくしつ、p r o t e i n )とは、L -アミノ酸が多数連結(重合)してできた高分子化合物であり、生物の重要
な構成成分のひとつである。学術用語としては「タンパク質」と表記する。
連結したアミノ酸の個数が少ない場合にはペプチドもしくはポリペプチドと呼ばれることが多いが、名称の使い分けを決める明確な
アミノ酸の個数が決まっているわけではないようである。
なお「蛋白質」の「蛋」とは卵のことを指し、卵白(蛋白)がタンパク質を主成分とすることによる。
栄養学者の川島四郎が「蛋白質」では分かりにくいとして「卵白質」という語を使用したが、一般的に
利用されるにはいたらなかった。
構造
タンパク質は以下のような階層構造をもつ。
一次構造 - アミノ酸配列
二次構造 - αヘリックス、βシート、ランダム構造
三次構造 - タンパク質全体の構造
四次構造 - 多量体
一次構造
タンパク質はアミノ酸のポリマーである。このアミノ酸の配列をタンパク質の「一次構造」とよぶ。
あるアミノ酸のカルボキシル基 ( ? COOH ) が別のアミノ酸のα -アミノ基( ? N H 2 )と脱水縮合して
酸アミド結合( ? CO?N H ? )を形成することでアミノ酸がポリマーとなりタンパク質を形成する。こ
のタンパク質のアミノ酸の連結にみられる酸アミド結合をとくにペプチド結合とよぶ。このポリマーの
末端の結合していないα-アミノ基 側を N 末端、カルボキシル基 側を C 末端とよぶ。
アミノ酸の配列は、遺伝子( DN A )の配列により決定される( 3 つの塩基配列により、1 つのアミ
ノ酸が指定される )。ペプチド結合してタンパク質の構成成分となった単位アミノ酸部分( ? N H ? CH
(? R )? CO? )をアミノ酸残基と呼ぶ。それぞれの残基は、側鎖置換基 R の違いによって異なる性質
をもつ。
二・三・四次構造
残基間の相互作用(水素結合)により、単なる直鎖であったペプチドが折りたたまれて(この畳み込みをフォールディングと呼ぶ)
αヘリックス(螺旋)構造やβシート構造などの二次構造をとり、さらにはタンパク質全体としての「三次構造」をとることになる。
三次構造の中には二次構造の特定の組み合わせが見られ、このような単位を超二次構造と呼ぶ場合がある。また、三次構造の中でも、
立体的に見てまとまった領域をドメインと呼ぶことがある。タンパク質の中には、複数(場合によっては複数種)のポリペプチド鎖が
まとまって複合体を形成しているものがあり、このような関係を四次構造と呼ぶ。
一次構造と高次構造の関係
タンパク質の立体構造は、そのアミノ酸配列(一次構造)により決定されていると考えられている(A n f i n s e n のドグマ)。また、
二次以上の高次構造は、いずれも一次構造で決定されるアミノ酸配列を反映している。例えば Gl u 、A l a 、L e u が連続するとαヘリ
ックス構造をとりやすい。I l e 、V a l 、M e t はβシート構造をとりやすい。また各構造の継ぎ目の鋭角なターンの部分には Gl y 、Pr o 、A s n
が置かれる、などの例がある。さらに、疎水性アミノ酸残基同士は引き合い(疎水結合)、Cy s 同士はジスルフィド結合を形成して高
次構造を安定化させるなど。
プロテオーム
生体のタンパク質を構成するアミノ酸は 2 0 種類あるが、それが 3 つ連結したペプチドだけでも約 2 0 3 =8 0 0 0 通りの組み合わせ
があり得る。タンパク質については、その種類は数千万種と言われる。生物の遺伝子(ゲノム)から作られるタンパク質の一そろいの
セットは、プロテオームと呼ばれるが、ヒトゲノムの塩基配列解読が終わった今、プロテオームの解析(プロテオミクス)が盛んに進
められている。
タンパク質の構造と機能
タンパク質の機能は上記の三次構造・四次構造(立体構造)によって決定される。これは、同じアミノ酸の配列からなるタンパク質
でも、立体構造(畳まれ方)によって機能が変わるということである。たとえば B SE の原因となるプリオンは、正常なプリオンとは
立体構造が違うだけである。なお、多くのタンパク質では、熱や圧力を加えたり、溶液の p H 値を変える、変性剤を加えるなどの操
作により二次以上の高次構造が変化し、その機能(活性)を失う。これをタンパク質の変性という。変性したタンパク質においては、
疎水結合、水素結合、イオン結合の多くが破壊され、全体にランダムな構造が増加したペプチド鎖の緩んだ状態になることが知られて
いる。タンパク質の変性は、かつて不可逆な過程であると考えられてきたが、現在では多くのタンパク質において、変性は可逆的な過
程である事が確認されている。なお、変性したタンパク質を元の高次構造に戻す操作をタンパク質の再生という。タンパク質の再生は、
原理としては、畳み込まれたペプチド鎖を一旦完全にほどき、数時間かけてゆっくりと畳み込むよう条件を細かく調整・変化させるこ
とで行われている。
タンパク質の折り畳み
特定のアミノ酸配列に対して、存在しうる安定な高次構造が複数存在するにもかかわらず、生体内では特定の遺伝子から特定の機能
を持つ高次構造をとったタンパク質が合成できるかは、必ずしも明らかではない。多くのタンパク質が、変性した後にもその高次構造
の再生が可能なことから、一次構造それ自体が、高次構造のかなりの部分を決めていることは疑いがない。しかし、先のタンパク質の
再生は数時間かかる操作(実際には、二次構造の畳み込みはかなり迅速に起こっていて、三次構造の確定に時間がかかるらしい)であ
るのに対し、生体内でのタンパク質の合成は長くても数秒で完了することから、他にもタンパク質分子を高速に畳み込み、正しい高次
構造へと導く因子の存在が考えられている(例:タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ、プロリンシストランスイソメラーゼ、分子シ
ャペロン)。また、生体内では間違った立体構造をしているタンパク質はそのタンパク質の L y s のアミノ基にポリユビキチンが共有結
合で結合した後に、プロテアソームによって分解される。
タンパク質は周囲の環境の変化によりその高次構造を変化させ、その機能を変えることができる。タンパク質である酵素は、その触
媒する反応の速度を条件に応じて変化させることができる。
立体構造の決定
上記のようなタンパク質の高次構造は、X 線結晶構造解析、N M R (核磁気共鳴)、電子顕微鏡などによって測定されている。また、
タンパク質構造予測による理論的推定などによる推定も行われている。タンパク質の立体構造と機能は密接な関係を持つことから、そ
れぞれのタンパク質の立体構造の解明は、その機能を解明するために重要である。いずれ、ほしい機能にあわせてタンパク質の立体構
造を設計し、合成できるようになるだろうと考えられている。
これまでの研究により構造が解明されたタンパク質については、蛋白質構造データバンク (PDB ) [1 ]によりデータの管理が行われ
ており、研究者のみならず一般の人でもそのデータを自由に利用、閲覧できる。
タンパク質の例: カゼイン、コラーゲン、ケラチン、フィブロイン、プリオン
物性
熱力学的安定性
タンパク質はそれぞれのアミノ酸配列に固有の立体構造を自発的に形成する。このことから、タンパク質の天然状態は熱力学的な最
安定状態(最も自由エネルギーが低い状態)であると考えられている(A n f i n s e n のドグマ)。
タンパク質の立体構造安定性は天然状態と変性状態の自由エネルギーの差 Δ Gd (変性自由エネルギー)で決まる。なお、温度依
存性を議論する場合には、安定性の指標として e x p ( ? Δ Gd / k T ) が用いられることもある。通常、タンパク質の安定性は、温度、
圧力、溶媒条件等に依存する。従って、それらの条件をある程度変化させると、タンパク質は変性する。
タンパク質の安定性を決める要因として、ファン・デル・ワールス相互作用、疎水性相互作用、水素結合、イオン結合、鎖エントロ
ピー、ジスルフィド結合などがある。これらの寄与の大きさは、温度等により変わる。
多くのタンパク質は、 室温近傍で数十 k J /m o l 程度のΔ Gd をとる。この非常に小さなΔ Gd は変性状態に対して天然状態が絶妙
なバランスで安定であることを示しており、この性質は m a r g i n a l s t a b i l i t y と呼ばれている。
温度が変化すると、変性エンタルピーΔ H d や変性エントロピーΔ Sd は急激に変化するが、それらの変化の大部分は相殺して Δ
Gd に寄与しない(エンタルピー・エントロピー相殺)。変性熱容量変化Δ Cp ,d は正の値を持ち、タンパク質内部のアミノ酸残基(疎
水性アミノ酸が多い)の水和に伴う水和水の熱容量変化によるものであると考えられている。
モルテン・グロビュール状態
タンパク質はその変性の途中で、二次構造はあまり変化しないのに三次構造が壊れた状態を取ることがある。これをモルテン・グロ
ビュール(m o l t e n g l o b u l e )状態とよぶ(東京大学の和田昭允教授の命名)。この状態は高塩濃度下かつ低 p H の条件で安定に存在
することがあり、蛋白質の折り畳みの初期過程を反映したものであると考えられている。
熱変性・低温変性
タンパク質は高温になると変性する。これは熱変性と呼ばれる。また、低温でも変性を起こすが、通常のタンパク質が低温変性を起
こす温度は 0 ℃以下である。タンパク質の安定性は変性自由エネルギーΔ Gd で決まる。変性熱容量は室温付近でほぼ一定値である
ため、Δ Gd の温度依存性は上に凸の曲線になる。この曲線とΔ Gd = 0 の交点が低温変性と熱変性の温度である。
酸変性・アルカリ変性
タンパク質は p H の変化によっても変性する。p H が極端に変化すると、タンパク質の表面や内部の荷電性極性基(Gl u 、A s p 、L y s 、
A r g 、H i s )の荷電状態が変化する。これによりクーロン相互作用によるストレスがかかり、タンパク質が変性する。
圧力変性
タンパク質は圧力変化によって変性することが知られている。通常のタンパク質は常圧( 0 .1 M Pa )近傍でもっとも安定であり、
数 1 0 0 M Pa 程度で変性する。キモトリプシンは例外的であり、1 0 0 M Pa 程度でもっとも安定である。そのため、温度によっては変
性状態にあるものが加圧によって巻き戻ることがある。圧力変性は天然状態よりも変性状態の体積が小さいために起こるものであり、
ルシャトリエの原理で説明できる。
変性剤による変性
尿素やグアニジン塩酸はタンパク質の構造安定性を低下させる作用をもつため、その溶液中で蛋白質は変性する。このようにタンパ
ク質を変性させる作用をもつ物質は変性剤と呼ばれる。また通常は変性剤とは呼ばれないが、界面活性剤も蛋白質を変性させる作用が
ある。
機能
タンパク質は生物に固有の物質である。その合成は生きた細胞の中で行われ、合成されたものは生物の構造そのものとなり、あるい
は酵素などとして生命現象の発現に利用される。また、類似のタンパク質であっても、生物の種が異なれば一次構造が異なることは普
通である。タンパク質はアミノ酸が多数結合した高分子化合物であるが、人工的な高分子のように単純な繰り返しではなく、順番がき
っちりと決定されている。これは、そのアミノ酸の種と順番が DN A に暗号で記述されていることによる。遺伝子暗号は往々にしてそ
の形質に関係するタンパク質の設計図であると考えられる(一遺伝子一酵素説)。エンゲルスは「生命はタンパク質の存在様式である」
と言ったが、故のないことではない。
タンパク質の生体における機能は多種多様であり、たとえば次のようなものがある。
酵素:代謝などの化学反応を起こさせる触媒である。
生体構造を形成するタンパク質:コラーゲン、ケラチンなど
生体内の情報のやりとりに関与するタンパク質:タンパク質ホルモン、受容体や細胞内シグナル伝達に関わるものがある。酵素作用を
持つものも多い。
運動に関与するタンパク質:筋肉を構成するアクチン、ミオシンなど
抗体:抗原に対し特異的に結合することで免疫に重要な役割を果たす。
栄養の貯蔵・輸送に関与するタンパク質:卵、種子、乳(カゼイン)などに含まれそれ自体が栄養として用いられるものや、血液中で
低分子の栄養分やホルモンを結合しているアルブミンなど。
これらのタンパク質が機能を発揮する上で最も重要な過程に、特異的な会合(結合)がある。酵素および抗体はその基質および抗原を
特異的に結合することにより機能を発揮する。また構造形成、運動や情報のやりとりもタンパク質分子同士の特異的会合なしには考え
られない。この特異的会合は、基本的には二次∼四次構造の形成と同様の原理に基づき、対象分子との間に複数の疎水結合、水素結合、
イオン結合が作られ安定化することで実現される。
組成
タンパク質は炭素、酸素、窒素、水素(重量比順)を必ず含む。どのようなアミノ酸から構成されているかによって、組成比は多少
異なる。しかしながら、生体材料においては窒素の重量比が 1 6 % 前後の値をとることが多いため、窒素量 N の 6 .3 倍を粗蛋白量と
定義する。
このほか、システイン、シスチン、必須アミノ酸であるメチオニンに由来する硫黄の組成比が高く、さらにリン酸の形でタンパク質
に結合されているリンも多い。ジブロモチロシンに由来する臭素、ジヨードチロシン、トリヨードチロシン、チロキシンに由来するヨ
ウ素がわずかに含まれることがある。ヘモグロビンや多くの酵素に含まれる鉄、銅や、一部の酸化還元酵素に含まれるセレン(セレノ
システインの形をとる)などもある。
蛋白質の栄養価
タンパク質の栄養素としての価値は、それに含まれる必須アミノ酸の構成比率によって優劣がある。これを評価する基準としては、
動物実験によって求める生物価とタンパク質正味利用率、化学的に、タンパク質を構成するアミノ酸の比率から算出するプロテインス
コア、ケミカルスコア、アミノ酸スコアがある。
化学的に算定する後三者の方法は、算定方法に細かな違いがあるが、最終的には必須アミノ酸各々について標品における含量と標準
とされる一覧とを比較し、その中で最も不足しているアミノ酸(これを第一制限アミノ酸という)について、標準との比率を百分率で
示すもの。この際、数値のみだけでなく、必ず第一制限アミノ酸の種類を付記することになっている。
蛋白質の定量法
栄養学では蛋白質全体の量を測定することが重要であり、また生化学で特定の蛋白質を分離精製した際にも、それがどの程度の量で
あるかを求める必要がある。これらのために一般的な蛋白質の定量分析法が多数開発されている。
精度の高い方法としては、燃焼後に窒素量を測定するデュマ法、硫酸分解後にアンモニア量を測定するケルダール法などがある。
またより簡便な方法としては、紫外部吸光度法、アミド結合の検出を用いたビウレット法、それにフェノール性水酸基等の検出を組
み合わせたローリー法、色素との結合を観測するブラッドフォード法などがある。
<蛋白質の構造>
生物を構成する中間的要素は高分子である → 生命現象と高分子の特徴は密接な関係があるはずである
→ 微視的から巨視的へは構造化が必須である ← 高分子
例:蛋白質の高次構造
蛋白質のような複雑な巨大分子の構造は次の4つに分類し,考える.
1次構造
ポリペプチドの構成アミノ酸の結合順序の構造: それ以外の結合は考えない.
(例:チロシジン(ペプチド抗生物質))
L−Val−L−Orn
−L−Leu
−D−Phe−L−Pro
|
|
L−Tyr−L−Glu(NH 2 )−L−Asp(NH 2 )−D−Phe−L−Phe
2次構造
ポリペプチド鎖近傍におけるアミノ酸残基同士の水素結合による構造
①ヘリックス: 310ーヘリックス,αーヘリックス,πーヘリックス
②ひだ状シート構造:反平行β構造,反平行3本鎖β構造,平行3本β構造
C
αー炭素
N
Cψ
O
H
H
αー炭素
H
N
C
φ
C
αー炭素
C
R
O
③超2次構造:二次構造の会合体,βξβ構造,βαβ構造,など
5まわり
27
18残基
5.1
26
5.4
3.6残基
1.5
αーヘリックス
逆平行β−波型構造
平行β−波型構造
/残基
310 - ヘ リ ッ ク ス
πー ヘ リ ッ ク ス
α- ヘ リ ッ ク ス
3次構造
ホリペプチド鎖の比較的離れたアミノ酸同士の相互作用による構
造
(静電結合,水素結合,疎水的相互作用,双極子間力,S−S結
右巻き
左巻き
2個の右巻くβαβ構造が続いて現れる
合,など)
βξβ構造
Rossmannの折れたみ構造
4次構造
2以上のサブユニットからなるタンパク質の会合による構造
(均一4次構造,不均一4次構造:ヘモグロビン(α2β2))
プロトマ− → オリゴマー
静電結合
疎水的相互作用
水素結合
疎水的相互作用
双極子間力 静電結合
疎水的相互作用
SS結合
β屈曲構造
[Protain Folding]
Coil States
→ (Helix,β−sheet)
→ Secondary Structures
→ (Superhelix,Superβ−sheet,βξβ
→ Supersecondary Structures
→ Domains → (S−S bonds)
→ Tertiary Structures
Coil
Folding
type)
Protein
<アロステリック効果>
h t t p ://j a .w i k i p e d i a .o r g /w i k i /% E3 % 8 2 % A 2 % E3 % 8 3 % A D% E3 % 8 2 % B 9 % E3 % 8 3 % 8 6 % E3 % 8 3 % A A % E3 % 8 3 % 8 3 % E3
%82%AF
アロステリック効果
アロステリック効果(アロステリックこうか)とは、タンパク質の機能が他の化合物(制御物質、エフェクター)によって調節され
ることを言う。主に酵素反応に関して用いられる用語である。
アロステリー(a l l o s t e r y 、その形容詞がアロステリック a l l o s t e r i c )という言葉は、ギリシア語で「別の」を意味する a l l o s と
「形」を意味する s t e r e o s から来ている。これは、一般にアロステリックタンパク質のエフェクターが基質と大きく異なる構造をし
ていることによる。このことから、制御中心が活性中心から離れた場所にあると考えられたのである。
しかし下記のヘモグロビンにおける酸素分子のように、同じ分子がエフェクターかつ基質となる例もあり、アロステリック効果は一
般にヘモグロビンのようなオリゴマー構造でモデル化することができる(「アロステリック制御のモデル」の項参照)。
このため、アロステリック効果は
タンパク質と化合物が一対多の複合体を形成する際に、前の段階の複合体形成によって次以降の複合体形成反応が促進・抑制される
こと、あるいはその複合体による反応が加速・減速されること。
と拡張定義されることも多い。
アロステリック制御
アロステリック効果により酵素やタンパク質の機能が制御される現象をアロステリック制御と呼ぶ。酵
素の活性中心以外の部分(アロステリック部位)に対してエフェクター分子(反応に関係する物質でもそ
うでなくてもよい。)が会合して酵素のコンフォメーションが変化し、酵素の触媒活性や複合体形成反応の
平衡定数が増減することを表す。
タンパク質の活性を促進するエフェクターはアロステリック・アクティベーターと呼ばれ、逆にタンパ
ク質の活性を抑制するエフェクターはアロステリック・インヒビターと呼ばれる。アロステリック制御は
フィードバック調節の一つの例である。
例
血液中のヘモグロビンは酸素と結合する鉄中心を持つヘムを四つ持ち、各々の酸素との結合には一定の
平衡定数が存在する。しかし、ヘモグロビン中の一つのヘムが酸素と結合を作るとヘモグロビン全体の構
造が変化し、他のヘムと酸素との結合が促進される。すなわち、酸素濃度の高い所では単独のヘムよりも
効率的に酸素を取り入れることができる。一方で、細胞中のミオグロビンのそれぞれのヘムにはヘモグロ
ビンのような協同効果は無いので、酸素との結合生成反応は酸素濃度に一次で比例するだけである。この
結果、ヘモグロビンは酸素の多い肺では酸素を吸収し、酸素の少ない各細胞では酸素を放出することがで
きるのである。
アロステリック制御のモデル
多くのアロステリック効果はジャック・モノー、ワイマン、ジャン・ピエール・シャンジューの唱えるモノー・ワイマン・シャンジ
ューモデルとダニエル・コシュランド、ネメシー、フィルマーの提唱する逐次モデルの両方で説明できる。どちらの説でも酵素サブユ
ニットは緊張(T 状態)か弛緩(R 状態)のどちらかの状態にあると仮定し、弛緩状態のサブユニットは緊張状態のサブユニットより
も基質に結合しやすいとしている。二つのモデルは、サブユニット同士の関係と、両方の状態に至る前の状態に関する仮定の面で異な
っている。
協奏モデル
アロステリックに関する協奏モデルは対称モデルともモノー・ワイマン・シャンジュー (M WC ) モデルとも呼ばれるが、一つのサ
ブユニットの構造変化が他のサブユニットに影響を与えると仮定している。つまり、全てのサブユニットが同じコンフォメーションを
取る。このモデルはリガンドがなくても成り立ち、T 状態と R 状態のコンフォメーションが均衡を保っている。一個のリガンド(も
しくはアロステリックエフェクター)がアロステリック部位に結合すると、均衡は R 状態もしくは T 状態に移行する。
逐次モデル
アロステリック制御の逐次モデルでは、一つのサブユニットのコンフォメーション変化が他のサブユニットに同様の変化を引き起こ
すとは考えない。つまり全てのサブユニットが同じコンフォメーションをとっている必要はない。さらに逐次モデルでは、基質分子が
誘導適合モデルによって結合するとしている。一般的には、サブユニットがランダムに基質分子と衝突した時、活性中心が基質を包み
込まなければならない。この誘導適合はサブユニットを T 状態から R 状態に移行させるが、近接サブユニットの構造を変化させるこ
とはない。その代わり、一つのサブユニットに基質が結合すると他のサブユニットの結合部位も基質に結合しやすいように徐々に構造
を変えていく。要約すると、
サブユニットは同じコンフォメーションを取っている必要はない。
基質分子は誘導適合モデルで結合する。
コンフォメーション変化は全てのサブユニットに伝播することはない。
基質結合は近接サブユニットの基質親和性を高める。
アロステリック促進
酸素分子がヘモグロビンに結合する時のように、アロステリック促進はリガンドの結合が基質分子と他の結合サイトの反応性を高め
る現象である。ヘモグロビンの例では、酸素は基質であると同時にエフェクターとして、効率的に働いている。アロステリックサイト
は、隣のサブユニットの結合部位である。一つのサブユニットに酸素が結合すると、構造が変化し、残りの結合部位の酸素親和性を高
める。
アロステリック抑制
アロステリック抑制は、リガンドの結合によって結合部位の基質親和性が低下する現象である。例としては、2 ,3 -ビスホスホグリセ
リン酸がヘモグロビンのアロステリック部位に結合すると、他の全てのサブユニットの酸素への親和性が低下する。
代謝系の生産物が、その系の中間反応を触媒する酵素の活性を抑制する場合、負のフィードバック制御の生体内における例であると
みなせるため、フィードバック阻害と呼ばれる。
エフェクターのタイプ
多くのアロステリックタンパク質は自身の基質によって調節される。これらはホモトロピックアロステリック分子と呼ばれ、多くは
アロステリック促進を示す。非基質の制御分子はヘテロトロピックアロステリック分子と呼ばれ、促進作用を示すものも抑制作用を示
すものもある。自身の基質と非基質分子の両方で調節されるアロステリックタンパク質もある。このようなタンパク質はホモトロピッ
ク作用もヘテロトロピック作用も受ける。
<分子動態化学と Dy n a m i c s 概念の構造化の概観>
Dy a m i c s 概念の展開
Motion と Diffusion 概念の結合→ Transition 概念への基礎
確率過程・マルコフ過程
ニュートン運動方程式
↓
+ → Langevin 方程式→ Fokker-Plank 方程式→分布関数→
揺らぎの項
↑拡散概念
ブラウン運動
相転移現象・形態形成への応用
ベキ数則
↑
フラクタル →不均一系→協同性→・・生物系
カオス
↓
積分変換法
生態学への応用
Reaction と Diffusion 概念の結合→リズム現象と散逸構造概念への基礎
化学反応速度論→常微分方程式論
↓
触媒反応系→酵素反応速度論→アロステリック効果→制御性と機能性
↓
↓
BZ 反応系→リズム現象→散逸構造→協同性→・・・生物系及び生態系
↑
拡散項
時空を含めて 、「物質が、 Ch a n g e するとは何か? 」、それも、これまでの個々の構造だけではなくて、システムとして、体系的に
理解するのか?これが問われる。正に、環境資源問題の理解の「原点」である。気分とか、ムードでだけでは、現実はそうならないこ
とは、我々は学んだ筈である。Dy n a m i c s 概念を確立することと 、「生物のエッセンスに学ぶ」ということは、ほぼ、同値の概念な
のだと思う。
Laboratory of Molecular Dynamics and Complex Chemical Physics,
Department of Environmental and Natural Resource Science
Faculty of Agriculture,
Tokyo University of Agriculture and Technology,
3-5-8, Saiwai-cho, Fuchu-shi, Tokyo 183-8509, Japan.
Tel +81 (0)423 67 5616 , Fax +81 (0)423 67 5616
E-mail: [email protected], http://www.tuat.ac.jp/~ushiki/
分子動態化学
<分子動態化学の目次>
第0章 ダイナミックスとは何か?
(01)化学と物理学
(02)静と動
(06)生態系
(07)生物と協同性
(03)運動と拡散
(04)化学反応系
(05)相転移現象
第1章 常微分方程式論の概観
(08)微分方程式
(09)変数分離形微分方程式
(10)同次形微分方程式
(11)1階線形微分方程式
(12)2階線形微分方程式
(13)定数係数の同次線形微分方程式
(14)2階非同次線形微分方程式
(15)階数低下法
第2章 運動と拡散の概観
(16)運動方程式
(17)拡散現象
第3章 化学反応速度論
(19)熱力学的制御と速度論的制御
第4章 非線形化学反応速度論
(23)非線形現象と化学反応
(26)BZ反応と拡散項
(18)拡散方程式
(20)古典的反応速度論
(24)化学的リズム現象
第5章 生態学と拡散
(27)生態学における拡散の数理
(29)生物拡散の数理的取扱い
第6章 生物と協同現象
(30)蛋白質の構造と機能
(21)絶対反応速度論
(22)酵素反応速度論
(25)BZ反応
(28)生態系での受動的な拡散
(31)化学反応系の転移現象
-1-
(32)自己組織化現象
<分子動態化学と Dynamics 概念の構造化の概観>
Dyamics 概念の展開
Motion と Diffusion 概念の結合→ Transition 概念への基礎 (日本:物理系)
確率過程・マルコフ過程
相転移現象・形態形成への応用
ニュートン運動方程式
↓
ベキ数則
↑
+ → Langevin 方程式→ Fokker-Plank 方程式→分布関数→ フラクタル →不均一系→協同性→・・生物系
揺らぎの項
↑拡散概念
カオス
↓
ブラウン運動
積分変換法
生態学への応用
Reaction と Diffusion 概念の結合→リズム現象と散逸構造概念への基礎 (日本:化学系)
化学反応速度論→常微分方程式論→化学反応システム→グラフ理論、等→ネットワーク論(関係論)
↓
↓
↓
触媒反応系→酵素反応速度論→アロステリック効果→・・・・・・・・制御性と機能性
↓
↓
BZ 反応系→リズム現象→散逸構造→協同性→・・・・・・・・・・・生物系及び生態系
↑
拡散項
時空を含めて、「物質が、Change するとは何か?」、それも、これまでの個々の構造だけではなくて、システムとして、体系的に
理解するのか?これが問われる。正に、環境資源問題の理解の「原点」である。気分とか、ムードでだけでは、現実はそうならないこ
とは、我々は学んだ筈である。Dynamics 概念を確立することと 、「生物のエッセンスに学ぶ」ということは、ほぼ、同値の概念な
のだと思う。
-2-
第1章
常微分方程式論の概観
本章では、Dynamics 概念を考える上で、これまで、議論されてきた Motion、Diffusion、Transition、Reaction において、
必ず登場する微分方程式について、先ず、概観する。ここでは、あくまで数学的な手段について、解説する。①微分方程式の意味を理
解すること、②初等的な微分方程式が解けること、それを目指す。
(08)微分方程式
<微分方程式>
(1)未知の関数とその導関数及び独立変数を含む方程式を微分方程式と言う。
(2)独立変数が1個の場合は常微分方程式、2個以上の場合は偏微分方程式と言う。
(3)微分方程式を満足する未知の関数を求めることを微分方程式を解くよ言い、得られた関数を解と言う。
一つの現象を微分方程式によって表し、その解の存在を調べ、性質を知ることは科学的研究における一つの重要な数学的手段である
。
n
独立変数を x、x の未知の関数を y、y の累次導関数を y'、y''、・・・、y( )とする時、
F(x、y、y'、・・・、y )=0
(n)
(1−01)
のような形の方程式を n 階の常微分方程式と言う。ここに F は N+2 変数の既知の関数である。特に、
y(n)= f(x、y、y'、・・・、y(n-1))
(1−02)
を n 階常微分方程式の正規形という。
(4)n 階微分方程式において、任意の値を取りうる定数を n 個含む解を一般解と言う。
(5)それらの定数(助変数)を任意定数又は積分定数と言う。
(6)任意定数に特殊な値を入れて得られる解を特殊解と言う。
<例:微分方程式>
力学系の問題を例にすれば、地球の表面の近くで質量 m の質点が落下する現象に共通な性質として運動方程式が、次式の微分方程
式によって与えられ
る。
d2y
m
=-mg
2
dt
(1−03)
又、重力のみの作用の下で地表に垂直な平面内で起こる運動の方程式は、質点の座標 x、y に対する連立微分方程式によって与えられ
る。
2
2
d x
d y
=-mg
m
=0 , m
2
2
dt
dt
-3-
(1ー04)
(09)変数分離形微分方程式
<変数分離形>
次式の微分方程式を変数分離形と言う。
dy
=P x Q y
dx
(1−05)
これは正規形であるが、Q(y)≠0ならば、次式と同値である。
1
P x dx=
dy
Q y
(1−06)
これを解くには、両辺を積分して、次式から解 y =Φ(x)を求めればよ。
1
P x dx=
dy+C
Q y
(1−07)
<例:y'= xy >
y >0、又は、y <0の場合は、次式となる。
1
dy+C1
xdx=
y
(1−08)
よって、| y |= exp(-C1)・exp(1/2x )、y = C2exp(1/2x )、(C2 ≠0)となるが、自明な解 y =0を加えれば、一般解は次
式となる。
2
1
x2
y=Ce 2
2
(1−09)
-4-
(10)同次形微分方程式
<同次方程式>
次式の形の方程式を同次微分方程式と言う。
dy
y
=f
dx
x
(1−10)
ここに、z = y / x とおく時、f(z)は、r1 < z < r2 で連続で、f(z)ー z ≠0とする。即ち、解曲線は原点を通る2直線 y = r1x、y = r2x
によって囲まれる範囲内で考える。従って、dy / dx = x・dz / dx + z であるから、方程式は、次式となる。
dz f z -z
=
dx
x
(1−11)
これは、変数分離形微分方程式であるから、以下の形になる。
dz
dx
=
+C1
f z -z
x
,
Cx=exp
dz
, C≠0
f z -z
(1−12)
これから、z =φ(x)の形に表せば、y = x φ(x)が与えられた方程式の解である。
<例:y'=(x +3y )/(2xy)>
z = y / x とおけば、
2
2
1+3z2
dy f z -z 1+x2
y'=
=f x ,
=
=
(1−13)
2z
dx
2zx
x
2z
dx
dz=
+C1 , z=± Cx-1 C≠0 (1−14)
2
x
1+z
従って、一般解は、次式となる
y=±x
Cx-1
C≠0
(1−15)
-5-
ここで、f(x)は z =0を含まない z の区間で連続で、f(z)-z ≠0であるから、xy ≠0、即ち、x 軸と y 軸を除いた平面内の任意の点
を通って解曲線
y =≠± x √ Cx-1 の一つが通ることが解る。(1−15)式は、次式の正規形であって、この方の解曲線は3次曲線
2
2
群 y = x (Cx-1)と直線 x =0である。
<同次1次分数方程式>
同次1次分数方程式
dy ax+by
=
dx cx+dy
, ad-bc≠0
に重要な同次微分方程式があって、
cx+dy y'- ax+by =0,
(1−16)
ax+by dx- cx+dy dy=0
(1−17)
の正規形と考えられる。
ここで、z = y / x とおけば、
c+dz dz
dx
=
+C
2
z
a+ b-x z-dz
(1−18)
両辺は初等関数で表される。これから解が導かれるが、それは x ≠0、cx + dy ≠0、a +(b ー c)z ー dz ≠0なる原点を通る
直線のよって分れる範囲内で定義される。
2
(11)1階線形微分方程式
<1階線形微分方程式>
y(n)+P1 x y(n-1)+......+Pn x y=Q x
(1−19)
のような方程式をn階線形微分方程式と言う。Q(x)=0ならば同次、Q(x)≠0ならば非同次であると言う。
ここで、n =1の
場合を考える。
y'+P(x)y=Q(x)
ここに P( x)、 Q( x)
(1−20)
y'+P(x)y=0 は、区間 I:a < x < b で連続とする。同時に、同時方程式を考える。
(1−21)
これの正規形は変数
y=Cexp -
x
x0
P(x)dx
分離形で一般解は次式である。
-6-
ここに x0 ∈ I とす
次式となる。
従 っ て 、 y-Y は 同 次
(1ー21)
y-Y '+P(x) y-Y =0 る。今、(1−20)式の一つの解を Y とし、任意の解を y とすれば、
y-Y=Xexp -
x
xo
(1−23)
と表されるから 、(1
y=Y+Cexp -
(1−22)
方程式(1−21)式の解である。よって、
P(x)dx
x
x0
P(x)dx
−20)式の一般解は次式となる。
(1−24)
これで問題は一つの特殊解 Y を求めることに帰着された。所謂、定数変化法によって求めることができる。
同次方程式の一般
解において、任意定数 C の代わりに適当な x の関数 u(x)
x
で置き換えて、次式
が(1−20)式の解となるようにするのである。即ち、
これを代入してみれ
ば、
x0
u'(x)=Q(x)exp
であればよいことが
として、
u(x)=
x
x0
Q(x)exp
Y=v(x)exp =exp -
P(x)dx
x
x0
x
x0
x
(1−25)
x0
P(x)dx dx+C1 , C1=0 解る。従って、
(1−26)
P(x)dx
P(x)dx
x
x0
Q(x)exp
が得られる。従って、求める一般解は次式となる。
-7-
x
x0
P(x)dx dx
(1−27)
y=exp x
x0
x
x0
P(x)dx X
Q(x)exp
x
xo
(1−28)
P(x)dx dx+C
従って、(1−28)式を単に、一般解として、以下のように書く。
- Pdx
y=e
< y'+ y = sinx >
y=e
- dx
Q(x)e
e
dx
Pdx
dx+C
sinxdx+C1
x
-x
=e
e sinxdx+C
-x ex
=e
sinx-cosx +1+C1
2
-x
1
=
sinx-cosx +Ce
(1−30)
2
-8-
(1−29)
(12)2階線形微分方程式
d2y
dy
p0(x)
+p1(x)
+p2(x)y=p3(x)
2
dx
dx
(1−31)
ここで、p0(x)≠ 0 ならば、(1ー31)式は、両辺を p0(x)で割って、次の正規形がえられる。
d2y
dy
+p(x)
+q(x)y=r(x)
2
dx
dx
(1ー32)
<同次線形微分方程式>
p3(x)≠ 0 の時は、(1−31)式を非同次であると言い、P3(x)= 0 の時は、(1−33)式となり、同次であると言う。
d2y
dy
+p(x)
+q(x)y=0
2
dx
dx
(1−33)
同次線形微分方程式(1−33)の解の性質(重畳原理)
(1)φ 1(x)、φ 2(x)が解ならば、φ 1(x)+φ 2(x)も解である。
(2)φ(x)を解とする時、c φ(x)(c は定数)も解である。
(3)又、二つの解、φ 1(x)、φ 2(x)の任意の1次結合、c1 φ 1(x)+c2 φ 2(x)も解である。
<非同次微分方程式>
非同次線形微分方程式(1−32)式の1つの解をψ 0(x)、任意の解をψ(x)とすれば、
(1−34)式となるから、ψ(x)-ψ 0(x)
は、同次微分方程式(1−33)の解になる。
d2
d
ψ-ψ0 +p(x)
ψ-ψ0 +q(x) ψ-ψ0
dx2
dx
d 2ψ
dψ
d 2ψ 0
d ψ0
=(
+p
+p
+q)-(
+q)=r(x)-r(x)=0
dx
dx2
dx2
dx
-9-
(1−34)
従って、非同次線形微分方程式の任意の解は、その特殊解に同次線形微分方程式の1つの解を加えて得られる。
ψ(x)=ψ0+φc
(1−35)
ここで、φ c は同次線形微分方程式の一般解で、(1−33)式の余関数と言う。
<共役複素関数との関係>
同次線形微分方程式(1−33)式において、p(x)、 q(x)が実の時、複素関数φ(x)= f(x)+ig(x)が解ならば、f(x)、g(x)とも
解になる。
φ''+p(x)φ'+q(x)φ = f''+p(x)f'+q(x)f+i(g''+p(x)g'+q(x)g) = 0 (1−36)
となるから、実部と虚部が0となり、f(x)、g(x)は解である。従って、共役複素関数 f(x)-ig(x)も解である。
例
y''+k2y=0 (k は定数)は、exp(ikx)を解とする。
exp(ikx)= cos(kx)+isin(kx)から、cos(kx)、sin(kx)は解である。従って、exp(-ikx)= cos(kx)-isin(kx)も解である。
このように、同次線形微分方程式の係数、p(x)と q(x)が実関数の時は、複素関数の解から、実関数の解が得られ、逆も言える。
(13)定数係数の同次線形微分方程式
微分方程式(1−37)において、a、b は定数とする。
d2y
dy
+a
+by=0
2
dx
dx
(1−37)
方程式の左辺を L[y]又は Ly とおけば、
L[exp(λ x)]=(λ 2 + a λ+ b)exp(λ x) (1−38)
となる。λの多項式 L(λ)=λ 2 + a λ+ b を L の固有多項式、代数方程式λ 2 + a λ+ b = 0 を微分方程式(1−37)の固有
方程式という。
性質1
定数係数の同次線形微分方程式
L[y]= y''+ ay'+ by = 0
- 10 -
(1−39)
固有方程式の根をλ 1、λ 2 とする。
λ 1 ≠λ 2 ならば、
は相異なる一組の解である。
λ 1 =λ 2 ならば、
が相異なる一組の解である。
性質2
L[λ]=λ 2 + a λ+ b = 0 (1−40)
φ 1(x)= exp(λ 1x)、φ 2 = exp(λ 2x)
(1−41)
φ 1(x)= exp(λ 1x)、φ 2 = xexp(λ 1x)
(1−42)
L[y]= y''+ ay'+ by = 0 (1−39)
L[λ]=λ 2 + a λ+ b = 0 (1−40)
φ 1(x)= exp(px)cos(qx)、φ 2 = exp(px)sin(qx)
定数係数の同次線形微分方程式において、a、b は実数とする。
固有方程式
の根が虚ならば、p ± iq(q ≠ 0)とすれば、
(1−43)
性質3
y''+ ay'+ by = 0 (1−39)
固有方程式の根をλ 1、λ 2 とする。
L[λ]=λ 2 + a λ+ b = 0 (1−40)
φ 1(x)= exp(λ 1x)、φ 2 = exp(λ 2x)(λ 1 =λ 2 ならば、φ 2 = xexp(λ 1x))とおけば、
全ての解は、c1 φ 1(x)+c2 φ 2(x) の形となる。c1、c2 は定数とする。
定数係数の同次線形微分方程式
(14)2階非同次線形微分方程式
f(x)を区間 a < x < b で連続な関数とし、方程式(1−44)を考える。
L[y]= y''+ p(x)y'+ q(x)y = f(x)
(1−44)
ここで、ψ 0(x)を(1−44)式の特殊解、φ(x)を任意の解とすれば、ψーψ 0 は、同次線形微分方程式 L[y]= 0 を満足するの
で、(1−45)式を得る。ここで、φ 1、φ 2 は L[y]= 0 の基本解、c1、c2 は定数とする。
ψ(x)=ψ 0(x)+ c1 φ 1(x)+ c2 φ 2(x)
(1−45)
特殊解ψ 0 を求める為に、定数変化法を用いる。即ち、2階同次線形微分方程式の一般解
- 11 -
c1 φ 1(x)+c2 φ 2(x) の定数 c1、c2
の代わりに、関数 u1(x)、u2(x)をとって、
φ 1、φ 2 が L[y]= 0 の解であるから、
u1(x)φ 1(x)+u2(x)φ 2(x)が L[y]= 0 の解になるようにする。
(u1 φ 1 + u2 φ 2)''+ p(u1 φ 1 + u2 φ 2)'+ q(u1 φ 1 + u2 φ 2)= f(x)
(φ 1u1''+φ 2u2'')+ 2(φ 1'u1'+φ 2'u2')+ p(φ 1u1'+φ 2u2')= f(x)
ここで、φ 1u1'+φ 2u2'= 0 とすれば、(1−46)式を経て、(1−47)式が得られる。
(φ 1u1''+φ 2u2'')+(φ 1'u1'+φ 2'u2')=(φ 1u1'+φ 2u2')'=0 (1−46)
(φ 1'u1'+φ 2'u2')= f(x) (1−47)
連立方程式(1−46)と(1−47)を解けば、特殊解を求めることができる。
(φ 1u1'+φ 2u2')'=0 (1−46)
(φ 1'u1'+φ 2'u2')= f(x) (1−47)
-φ2f(x)
φ1f(x)
u1'=
,
u2'=
W φ1,φ2
W φ1,φ2
x
x
φ2(t)f(t)
φ1(t)f(t)
u1=dt u2=
dt (1−48)
x0 W
x0
W φ1(t),φ2(t)
φ1(t),φ2(t)
従って、特殊解は、次式となる。
ψ0(x)=
x
x0
[φ1(t)φ2(x)-φ1(x)φ2(t)]f(x)
dt (a < x0 < b)
W(φ1(t),φ2(t))
(1−49)
- 12 -
< y''+ 4y = exp(2x)>
y''+ 4y =0の基本解として、φ 1 = cos(2x)、φ 2 = sin(2x)を取る。
cos2x sin2x =2
W(φ1,φ2)=
(1−50)
-2sin2x 2cos2x
2t
x 1
ψ0(x)= x0 [cos2tsin2x-cos2xsin2t]e dt
2
sin2x x 2t
cos2x x 2t
=
e cos2tdte sin2tdt
x0
xo
2
2
x cos2x
sin2x 1 2t
=
e (cos2t+sin2t)
2
x0
2
4
1 2t
x
e (sin2t-cos2t)
x0
4
1 2x
= e +φ0 (1−51)
8
ここで、φ 0 は、y''+ 4y'= 0 の一つの解である。従って、非同次線形微分方程式 y''+ 4y'= exp(2x)の一般解は、次式である。
1 2x
e +c1cos(2x)+c2sin(2x)
(1−52)
8
- 13 -
(15)階数低下法
L[y]= y''+ p(x)y'+ q(x)y = f(x)
において、y =φ(x)u(x)とおけば、
(1−44)
φ u''+(2 φ'+ p φ)u'+(φ''+ p φ'+ q φ)= f(x)
となる。そこで、φ(x)を同次線形微分方程式 L[y]= 0 の解とすれば、
(1−53)
φ u''+(2 φ'+ p φ)u'= f(x)
(1−54)
これは、u'に関する1階線形微分方程式であるから、求積法によって解くことができる。同様にn階線形微分方程式の一つの解を知
れば、階数をnからn−1に低下できる。
同次線形微分方程式
L[y]= y''+ p(x)y'+ q(x)y = 0
を考える。y =φ u が解であるとし、
2 φ'+ p φ= 0
となるようにφを選ぶ。即ち、
であるから、
(1−55)
(1ー56)
1
pdx
φ=e 2
(1−57)
1
p2
φ''+pφ'+qφ= q- p'φ
2
4
1
1
u''+Iu=0,
I=q- P'- P2
2
4
となる。u'の項を欠く方程式で、これを(1−55)の標準形と言う。
- 14 -
(1−58)
(1−59)
Laboratory of Molecular Dynamics and Complex Chemical Physics,
Department of Environmental and Natural Resource Science
Faculty of Agriculture,
Tokyo University of Agriculture and Technology,
3-5-8, Saiwai-cho, Fuchu-shi, Tokyo 183-8509, Japan.
Tel +81 (0)423 67 5616 , Fax +81 (0)423 67 5616
E-mail: [email protected], http://www.tuat.ac.jp/~ushiki/
分子動態化学
<分子動態化学の目次>
第0章 ダイナミックスとは何か?
(01)化学と物理学
(02)静と動
(06)生態系
(07)生物と協同性
(03)運動と拡散
(04)化学反応系
(05)相転移現象
第1章 常微分方程式論の概観
(08)微分方程式
(09)変数分離形微分方程式
(10)同次形微分方程式
(11)1階線形微分方程式
(12)2階線形微分方程式
(13)定数係数の同次線形微分方程式
(14)2階非同次線形微分方程式
(15)階数低下法
第2章 運動と拡散の概観
(16)運動方程式
(17)拡散現象
第3章 化学反応速度論
(19)熱力学的制御と速度論的制御
第4章 非線形化学反応速度論
(23)非線形現象と化学反応
(26)BZ反応と拡散項
(18)拡散方程式
(20)古典的反応速度論
(24)化学的リズム現象
第5章 生態学と拡散
(27)生態学における拡散の数理
(29)生物拡散の数理的取扱い
第6章 生物と協同現象
(30)蛋白質の構造と機能
(21)絶対反応速度論
(22)酵素反応速度論
(25)BZ反応
(28)生態系での受動的な拡散
(31)化学反応系の転移現象
-1-
(32)自己組織化現象
<分子動態化学と Dynamics 概念の構造化の概観>
Dyamics 概念の展開
Motion と Diffusion 概念の結合→ Transition 概念への基礎 (日本:物理系)
確率過程・マルコフ過程
相転移現象・形態形成への応用
ニュートン運動方程式
↓
ベキ数則
↑
+ → Langevin 方程式→ Fokker-Plank 方程式→分布関数→ フラクタル →不均一系→協同性→・・生物系
揺らぎの項
↑拡散概念
カオス
↓
ブラウン運動
積分変換法
生態学への応用
Reaction と Diffusion 概念の結合→リズム現象と散逸構造概念への基礎 (日本:化学系)
化学反応速度論→常微分方程式論→化学反応システム→グラフ理論、等→ネットワーク論(関係論)
↓
↓
↓
触媒反応系→酵素反応速度論→アロステリック効果→・・・・・・・・制御性と機能性
↓
↓
BZ 反応系→リズム現象→散逸構造→協同性→・・・・・・・・・・・生物系及び生態系
↑
拡散項
時空を含めて、「物質が、Change するとは何か?」、それも、これまでの個々の構造だけではなくて、システムとして、体系的に
理解するのか?これが問われる。正に、環境資源問題の理解の「原点」である。気分とか、ムードでだけでは、現実はそうならないこ
とは、我々は学んだ筈である。Dynamics 概念を確立することと 、「生物のエッセンスに学ぶ」ということは、ほぼ、同値の概念な
のだと思う。
-2-
第2章
運動と拡散の概観
本章では、Dynamics 概念を構成する Motion、Diffusion、Transition、Reaction における Motion と Diffusion に関する
概念を概観する。分野としては、主に、物理学の力学から、運動学を経て、非平衡統計力学への流れを概観する。
(16)運動方程式
<運動概念に関わった近代物理学の展開の概観>
我々は、物体が動く(motion)現象を、日常茶飯、経験している。で、そういう運動において、どのような普遍性が存在しているの
か?その最初の契機は、やはり、ニュートンの運動方程式からであろう。そう、このニュートン力学の登場が近代物理学の誕生へとつ
ながって行った訳ですが、では、どのような展開をしたのか?先ず、その概観を考えてみましょう。
運動概念の展開の概観(力学系)
ニュートンの運動方程式(Isaac Newton, 1642-1727)
↓ 第1法則(慣性の法則) + 第2法則(F=m α) + 第3法則(作用・反作用の法則)
↓
↓
↓
↓
↓
エネルギー保存則
運動を決めるもの→力
運動量保存則
↓
力学エネルギー概念(位置エネルギー+運動エネルギー) → 万有引力
↓
ケプラーの法則(惑星の運動)(Johannes Kepler, 1572-1630) → 角運動量保存則
↓
フックの法則(弾性力と振動)(Robert Hooke, 1635–1703) → 振動概念
↓
ラグランジュ力学(解析力学、力学の一般化)(Joseph-Louis Lagrange, 1736-1813) → 統計力学
↓
ハミルトン力学(解析力学、力学の一般化)(William Rowan Hamilton, 1805-1865) → 量子力学
↓
ジュールの法則(熱の仕事当量)(James Prescott Joule, 1818-1889) → 熱も含めたエネルギー保存則の確認
↓
マイケルソン・モーリーの実験(光速度不変の原理)(Albert Abraham Michelson, 1852-1931)→ 量子光学
↓
特殊相対性理論(運動と質量の関係)(Albert Einstein, 1879-1955) → 宇宙物理学
→
摩擦力
第0章で説明したように、近代物理学は、全てをエネルギーに換算できるという「思想 」(=力学体系)により、成立している。即
ち、保存則概念の確立が、近代物理学の源流なのである。
-3-
<ニュートンの運動方程式>
ニュートンの運動の法則
第1法則: 外から力が働かない限り、質点は静止し、又は、等速直線運動を続ける。
慣性の法則 →エネルギー保存則
第2法則: 外から力が働けば、加速度を生じ、その大きさは力の大きさに比例し、方向は力の方向に一致する。
F=m α → 運動を決めるもの → 力
第3法則: 作用と反作用は、必ず同じ作用線上にあり、その大きさは等しく、方向は互いに反対である。
作用・反作用の法則 → 運動量保存則
<運動方程式>
質点の位置ベクトルを R、速度ベクトルを v、加速度ベクトルをα、外から働く力のベクトルを F をすれば、ニュートンの運動の
第2法則は、次式となる。
dv
d2r
mα=m
=m
=F
2
dt
dt
(2−01)
ここで定数 m は質点に固有の量で、質量と呼ばれる。この式を運動方程式と言う。
運動方程式は、又、運動量ベクトルを p = mv として、次式と表す。
dp d
=
(mv)=F
dt dt
(2−02)
<仕事とエネルギー:力学エネルギーの保存則>
運動方程式、(2−01)式の両辺に、vdt = dr をかけて、時刻 t1 から、t2 まで積分すれば、次式を得る。
1
1
P2
2
2
mv2 - mv1 =
Fdr (2−03)
P1
2
2
(1/2)mv2 を質点の運動エネルギー、W=∫ Fdr を力 F のなす仕事と言う。即ち、運動エネルギーの増し高は外力 F のなした仕事に
等しい訳である。
-4-
力 F が位置エネルギー U(r)から、(2−04)式が導かれる場合、即ち、F の直角座標成分を(X,Y,Z)として、(2−05)式と表
される時、F は保存力と言う。
F =ー grad U (2−04)
∂U
∂U
∂U
X=, Y=, Z=∂x
∂y
∂z (2−05)
この時、(2−06)式が得られ、従って、(2−03)式は、U(P1)ー U(P2)となり、(2−07)式に至る。
∂U
∂U
∂U
Fdr=Xdx+Ydy+Zdz=dx+
dy+
dz =-dU
∂x
∂y
∂z
1
1
2
mv1 +U(P1)= mv22+U(P2)=E (constant)
2
2
(2−06)
(2−07)
即ち、質点に働く力が保存力であれば、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれる。
<力積>
運動方程式、(2−01)式の両辺を時間について、t = 0 から、t =τまで積分すれば、(2−08)式を得る。
△p=p(τ)-p(0)=
τ
0
Fdt
(2−08)
右辺の積分を、時間τの間に働いた力 F の力積と言う。即ち、運動量の変化は、その間に働く力の力積に等しい。
< D'Alembert の原理>
運動方程式(2−01)を書き直して、F ー m α=0と表すならば、実際に質点に働く力 F の他に、-m αだけの力が働くとすれ
ば、各瞬間で、力の運動が釣り合っていると考えられる。これを、D'Alembert の原理と言う。即ち、これによって、運動の問題を
釣り合いの問題にできる。仮想的な力-m αを慣性の力、又は、慢性抵抗と言う。円運動の求心力に釣り合うべき慣性の力を遠心力と
言う。
-5-
<落体の運動>
質点が重力の作用を受けて、鉛直線にそって運動する場合を考える。鉛直上に y 軸をとり、重力の加速度を g とすれば、運動方程
2
式は、(2−09)式となる。
d y
m
=-mg
2
dt
(2−09)
初期条件を、t = 0 の時、y = y0、v = v0 として、(2−09)式を積分すれば、以下の式が得られる。
v = v0 ー gt (2−10)
y = y0 + v0t ー(1/2)gt2 (2−11)
重力ポテンシャルは、次式である。
U=-
y
0
(-mg)dy=mgy
従って、エネルギー保存則から、次式を得る。
(2−12)
v02 ー v2 = 2g(y ー y0)
(2−13)
<自由振動>
質点が弾性力、即ち、x 軸上の定点 O からの距離 x に比例する引力、ー kx(k > 0)を受けて、x 軸上で行う運動を単振動という。
運動方程式は、次式である。
2
この解は、次式である。
d x
m
=-kx
dt2
(2−14)
x=acos(ω0t+δ),
ω0=
k
m
(2−15)
ここで、a を振幅、(ω 0t +δ)を位相、δを初相と言い、a とδは初期条件によって決まる。(2−15)式は、T = 2 π/ω 0 だ
けの時間を経ると、同じ状態に戻るから、T を周期、その逆数 n = 1 / T =ω 0 / 2 πを振動数、ω 0 を円振動数という言う。
-6-
弾性力の位置エネルギーは(2−16)式、運動エネルギーは(2−17)式である。
1
1
2
U=- (-kx)dx= kx = ka2cos2(ωt+δ)
0
2
2
1
dx 2 1
T= m
= ka2sin2(ωt+δ) (2−17)
2
dt
2
x
(2−16)
従って、全エネルギーは、(2−18)式となり、振幅の2乗に比例する。
1
1
2
E=T+U= ka = mω02a2
2
2
(2−18)
<減衰振動> → 2階同次線形微分方程式
質点が弾性力ー kx の他に、粘性抵抗、即ち、速度の大きさに比例する抵抗力ーγ dx / dt(γ>0)を受ける場合、運動方程式は、
(2−19)式となる。
2
d x
dx
m
+γ
+kx=0
2
dt
dt
この運動方程式の解は、以下となる。
(1)γ 2 > 4mk の時、
(2−19)
-αt
-βt (2−20)
βt
x=e
(C1e +C2e
)
1
γ
, β=
α=
γ-4mk (2−21)
2m
2m
-7-
-αt
(2−22)
X=(C1+C2t)e
(3)γ 2 < 4mk の時、
-αt
X=ae
cos(ωt+δ) (2−23)
2
1
γ
4mk-γ2 = ω0ω=
2m
4m2
(2)γ 2 = 4mk の時、
(2−24)
<強制振動> → 2階非同次線形微分方程式
質点が弾性力ー kx とーγ dx / dt(γ>0)の他に、周期的な力 fcos ω t を受ける場合、運動方程式は、
(2ー25)式となる。
d2x
dx
m
+γ
+kx=fcosωt
2
dt
dt
(2−25)
この解は、外力が働かない時の(2−19)式の解、(2−20)式、(2−22)式、(2−23)式と(2−25)式の特解の和
で表される。(2−25)式の特解は、(2−26)式である。
f
x=
m
1
cos(ωt-φ)
2
2
γ
ω
(ω02-ω2)2+
m2
1
γω
-1
, ω0=
φ=tan
2
2
m ω0 -ω
-8-
(2−26)
k
m
(2−27)
(2−19)式の解は、それぞれ exp(-α t)を含むから、充分長い時間では、固有振動は減衰するので、実際の運動は、
(2−26)
式の強制振動だけとなる。
強制運動の振幅は、外力の振動数ω/2πの関数である。
f
A=
m
1
2
2
γ
ω
(ω02-ω2)2+
m
ここで、γ 2 < 2mk ならば、
(2−28)
2
f
γ
2
A
=
ω= ω0 2m2 の時、極大値 max γ
1
2
γ
ω024m2
(2−29)
もし抵抗が無く、γ= 0 ならば、外力の振動数が固有振動数ω 0 に一致する時、振幅 A は無限大となる。この時の特解は、tcos
ω 0t に比例する。この現象を共振、又は、共鳴と言う。γ 2 ≧ 2mk の時、A は極大値を持たない。
<運動の例>
(1)等速度運動:
(2)等加速度運動:
(3)正弦運動(単振動):
(4)過減衰:
(5)減衰振動:
x = a + bt
x = a + bt + ct2
x = csin(ω t +φ)
x = aexp(ーγ t)
x = aexp(ーγ t)sin(ω t +φ)
-9-
<エネルギー保存則>
エネルギー保存則:
△E=△T+△V+△U=Q+W
T:
V:
U:
Q:
W:
(2−30)
運動エネルギー
位置エネルギー(ポテンシャル・エネルギー)
内部エネルギー
熱
仕事
< Lagrange の運動方程式>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A5%E3
%81%AE%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F
- 10 -
運動エネルギーを q1、q2、q1'、q2'で表したものを、T = T(q1, q2, q1', q2')とすれば、Lagrange の方程式は、次式である。
d ∂T
∂T
=Qr
dt ∂ q r ∂qr
(2−31)
L = T ー V = L(q1, q2, q1', q2')
d
∂L
∂L
∂L
=0 (2−32)
=0,
dt ∂ q 2 ∂q2
∂q1
ここで、r = 1, 2。 特に、力がポテンシャル V(q1, q2)から導かれる場合は、Lagrange 関数
を用いて、(2−31)式は次式となる。
d
∂L
dt ∂ q 1
< Hamilton の運動方程式>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E6%BA%96%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F
- 11 -
<相対論的運動方程式>
粒子の質量 m は速度と共に変わり、静止している時の質量を m0(静止質量)とすると、次の関係がある。
m=
m0
1-β
(2−33)
2
従って、運動方程式は、この m を用いて、次式となる。
d
dv dm
F=
mv=m
+
v
dt
dt
dt
(2−34)
ここで、両辺に v をかけると、次式が得られる。
dm
v2
Fv=m v v+
dt
(2−35)
ここで、F がなす仕事は、Fdr =(Fdr)dt、即ち、Fv は単位時間に粒子になされる仕事である。
dm d
=
dt dt
m0
1-β2
=
m0
1-β2
3
であるから、(2−36)式を(2−35)式の右辺の第2項に代入すると、
Fv= m+
m0
1-β
β vv=
2
2 3
vv
c2
(2−36)
m0
1-β
2 3
Fv =(dm/dt)c2 が得られる。
E= Fvdt= c dm=mc2 (2−38)
ここで、(2−36)式と(2−37)式を比べると、
従って、
2
次の有名な式を得ることができる。
E = mc2
(2−39)
- 12 -
vv
(2−37)
E から静止エネルギー m0c2 を引いたものは、粒子の運動エネルギーを意味する。
E-m0c2=m0
1
1
v2
-1 = m0v2 1+o
2
c2
1-β
(2−40)
これは、c →∞に対して、古典力学の運動エネルギーに一致する。
エネルギーと運動量
p = mv との間には、次の恒等式が成り立つ。
E2
p2=m02c2
c2
(2−41)
p と E / c は、「4元運動量」であり、外力の働いていない粒子の集まりに対しては、粒子についてのこれらの和が保存されることに
なる。
(17)拡散現象
物体の運動(motion)は、上述してきたように、近代物理学の運動学(運動方程式)の発展共に、より深く認識されてきた。一方、
そのような「視点」とは別に、物質の移動は、拡散現象( diffusion)の認識へと共に、理解されてきた側面もある。此処では、決定
論的な運動方程式の motion の議論とは、違った流れである diffusion の議論を概観する。
< Motion と Diffusion の関係>
古典力学体系
量子力学体系
Newton 力学
気体分子運動論
Lagrange 力学
統計力学体系
Hamilton 力学
「揺らぎ」とブラウン運動
平衡からのズレ
相対論的力学体系
非平衡統計力学体系
Reaction/Transition
- 13 -
熱力学体系
非平衡熱力学
Livings
この相関図を見れば、近代物理学を基盤として、「生物」を考えようとすれば、どのような分野の勉強をしなくてはならないか?が
推定できるであろう。このような相関図を書くことを Ambigram、関係論(構造主義)、ポストモダンの一つ、体系化、反没アカデ
ィズム、反米国文化、と言っているのである。何故ならば、この Ambigram を書くには、この分野の10冊以上の本と InterNet の
情報を掌握していないと、無理である。即ち、この図を創るのに、膨大な時間がかかる、否、簡単にはできない、専門家と言えども、
できない人が殆どであること意味している。現実、授業ノートを公開している人は、皆無である。PassWord で出している人は、そ
れなりにいるけど、何故、PassWord なのか?は、変ですね。堂々と出せば、いいじゃないですか。だって、我々は、営利目的で、
生きている訳じゃないですからね。
< Diffusion 概念の展開>
気体分子運動論 → マックスウェル分布(James Clerk Maxwell, 1831-1879) → エネルギー等分配則
ボルツマン方程式(輸送概念)(Ludwig Eduard Boltzmann , 1844-1906) → H定理 → マスター方程式
ランジュバン方程式(Paul Langevin, 1872-1946) ← 揺らぎ
チャップマン・コルモゴロフ方程式
フォッカー・プランク方程式 ←←← ウィーナー過程・マルコフ過程 → 確率過程論
散逸揺動定理 → 非平衡統計物理
ブラウン運動に関するアインシュタインの式(Albert Einstein, 1879-1955) ← ブラウン運動(Robert Brown, 1773-1858)
拡散係数の意味 ← フィックの法則(拡散概念の登場)(Adolf Eugen Fick, 1829-1901)
拡散方程式 →→ ・・・・・ →→ ナビエ-ストークス方程式 → 流体力学
様々な生物活動 →→→ 生態系 →→→ 人間活動(社会学) →→→ 人類共生科学
- 14 -
<フィックの法則と拡散>(高分子物理の授業ノートより)
フィックの法則
溶液中で、溶質分子は濃度の高い所から低い方に向かって拡散していく。これ
は溶質分子のブラウン運動に起因するものである。溶液中で、任意の微少面積d
Sを単位時間に通過する溶質の量は、この面の法線ベクトルをnとすると、J・
ndSで与えられる。Jは、拡散よるこの地点での流束ベクトルである。例えば、
x軸に垂直な単位平面を単位時間に通過する溶質の質量はJ x であり、拡散は濃
度勾配▽cに起因しているので、流束ベクトルは次式の比例関係で示される。こ
れをフィック法則と呼ぶ。−記号は、拡散が濃度c小さい方向に向かうことを、
比例定数Dは、拡散定数と呼ばれる。
dc
=-D▽c
J=-D
dx
(2−42)
自己拡散
上図(a)を参照する。ここでは、溶液中の座標xの所にx軸に垂直な仮想平面を想定して、この平面の微少面積dSの部分を正負の
方向に行き来する溶質分子の数を数える。溶質分子はブラウン運動をする。ここで、分子は微少な時間τごとに微少な距離aだけあら
ゆる方向に等しい確率で変位するものと仮定する。3次元空間では3つの座標があり、それぞれに±方向があるから、全分子の1/6
がx軸の正方向に変位する。従って、時間τの間に仮想平面を正の方向に横切る分子の数は面素dSの左側の筒状の体積adSの中の
分子の1/6であるから、正方向に通過するこの体積中の分子の数密度は、次式となる。
1
a
n x- ,t ads
6
2
(2−43)
ここで、正負方向の差をとり、面積で割れば、単位時間、単位面積当りにx軸の正方向に流れる分子の総数を導き出すことができる。
1
1
a
a
a2
Jx=
n x- ,t -n x+ ,t a ∼
6
2
2
6τ
τ
∂n
∂x
この式の両辺に分子の質量をかけたものがフィックの法則となる。(2−44)式を(2−42)式と比較すると、
- 15 -
(2−44)
a2
D=
6τ
(2−45)
が得られ、拡散定数Dは、分子の熱運動による変位の基本ステップ長aの2乗を、変位にかかる時間τで割ったものである。このよう
に、一つの分子に着目して、その運動を追跡して得られる拡散定数は、自己拡散定数と呼ばれる。
濃度拡散
フィックの法則の拡散定数Dは、分子全体の濃度について定義されているので、濃度拡散定数と呼ばれる。濃厚な溶液で溶質分子間
の相互作用の強い場合には、分子が独立に熱運動していると仮定した自己拡散定数の導出方法は正しくなくなり、この2つの拡散定数
は、一般に一致しない。
上図(b)を参照する。単位時間に単位面積当り、左からJ x(x、t)の質量が流入し、右からJ x(x+dx、t)だけの質量が流
出するから、両平面間の領域の溶質の質量の変化は次式となる。
∂
∂Jx dx
(cdx)=Jx(x,t)-Jx(x+dx,t)∼
(2−45)
∂t
∂x
(2−45)式に(2−42)式を代入して、整理すると、拡散方程式が得られる。
∂c
∂c
∂
∂
∂2c
Jx=-D
=D
(2−46)
∼2
x
x
x
t
x
∂
∂
∂
∂
∂
ブラウン運動している分子の変位を長時間tにわたって観測すると、その軌道は基本ステップ長a、ステップ数n=t/τの高分子
鎖のランダム・フライト・モデルと等価となる。従って、変位Rは、ガウス鎖と同じ式となり、以下の関係が得られる。
<R2>=na2=
ta2
τ
=6Dt
拡散定数と摩擦係数の関係
(2−47)
拡散定数は、溶質分子が移動する時に起こる溶媒との摩擦にも関係しており、アインシュタインは、溶媒に対する摩擦係数ζとの関
係を次式で示した。
D = kBT /ζ
(2−48)
- 16 -
ここで、k
表される。
B
はボルツマン定数である。半径aの剛体球粒子が溶媒中を運動する場合、並進運動の摩擦係数は、スト−クスの抵抗則で
ζ= 6 π a η 0
(2−49)
ここで、η0は溶媒の粘性率である。高分子の場合、半径R
の分子量依存性があることが解る。
H
の等価球で置き換えられるとすれば、ζ=6πη 0 R
溶質
分子量
溶媒
D[10 cm /s]
塩化ナトリウム
ポリスチレン
ポリスチレン
ポリスチレン
58
10600
67000
606000
水
ベンゼン
ベンゼン
ベンゼン
80.0
11.7
4.1
1.5
-7
H
となり、ζ∼Mν
3
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E6%B3%95%E5
%89%87
フィックの法則
フィックの法則とは、拡散に関する基本法則である。1855 年、アドルフ・オイゲン・フィックによって発表された。気体、液体、
固体(金属)どの拡散にも適用できる。フィックの法則には、第 1 法則と第 2 法則がある。
- 17 -
- 18 -
(18)拡散方程式
<ランジュバン方程式>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%90%E3%83%B3%E6
%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F
質量 m の微粒子の液体中での運動を考える。此処では、取扱いを簡略化する為に、一次元とする。運動方程式を次式で表す。
dv
m
=-fv+X(t)
dt
(2−50)
此処で、v は粒子の速度、-fv は液体の粘性に基づく抵抗力で、速度に比例するもの、f は比例係数で、粒子半径が a の球とし、液体
- 19 -
の粘性率をηとすれば、Stokes の法則から、f = 6 πη a の関係がある。X(t)は、この粒子が液体分子の衝突によって受ける力の
揺らぎによるものとする。-fv の力も粒子と液体分子との衝突によって生ずる力であるが、平均されて、巨視的な法則に従う。
運動方程式(2−50)は、X(t)のような力が、外からエネルギーを供給してくれることに基づく粒子 m の粘性液体の中での運動
を記述するもので、Langevin 方程式という。
確率変数
X(t)は平均からズレ、即ち、揺らぎに基づくもので、その時間的変化は、確率的に起こるものであ
ると考える。X(t)は、この意味での t のみの関数とし、粒子の位置や速度には、無関係であるとする。X
(t)の平均時間は零である。
X(t) =0
(2−51)
X(t)が時間変化について、上記のような性質を持つことを、時間についての確率変数であると呼ぶ。
数学的には、X(t)の時刻 t における値の代わりに、t において、X(t)の値がある値 X と X + dX の
間にある確率 P(X,t)dX が与えられているものと考える。
ブラウン運動としての仮定
(1)P(X,t)は、X について、ガウス(Gauss)分布である。
(2)ある X の値の出現確率 P(X,t)が、その時刻の t のみによってきまるものとしたことが、既に、
一つの仮定である。この仮定の下では、2つの異なる時刻 t1, t2 における X(t)の値、X(t1)と
X(t2)の間には、関連が全くない。即ち、X(t1)と X(t2)の相関が 0 である。
X(t1)X(t2) =0 (t1≠t2) , X(t1)X(t2) =Aδ(t1-t2)
仮定(1)は X(t)が、粒子に衝突する多数の分子による力の和であり、個々の衝突による力は、互いに関係がないものと考えるこ
とから、中央極限定理から導き出すことができる。即ち、一次元酔歩運動は、ガウス分布になる。仮定(2)は、粒子の液体分子の衝
突時間、即ち、両者が接近して、互いの力の到達距離の中に入っている時間がきわめて短いと考えられることに基づく。
又、Brown 粒子 m は巨視的なものとして、出発したので、この過程が熱平衡状態にあるものとすれば、上記の時間平均は、設定
した母集団での平均と考えることができるので、< X(t)>、
< X(t1)X(t2)>と書く。
X(t)が、上記で説明した確率変数 X(t)とすれば、(2ー50)式から、t = 0、v = v0 とすれば、次式が得られる。
-γt 1 -γt t γt'
f
v=v0e
+ e
e
X(t')dt', γ=
0
m
m
此処で、v = dx / dt とおいて、t = 0、x = x0 として、更に、積分すれば、次式を得る。
- 20 -
(2−52)
-γt
1
)+
x=x0+ (1-e
mγ
γ
v0
t
0
γ(t-t')
(1-e
)X(t')dt'
(2−53)
此処で、上述した平均<>は、積分の中で行うことができるから、次式が得られる。
<v>=v0exp(-γt) (2−54)
v0
<x>=x0+ (1-exp(-γt))
γ
(2−55)
更に、分散も考えれば、以下となる。
<(v ー< v >)2 >=(1/m2)exp(-2 γ t)∫∫ exp{γ(t1+t2)}<X(t1)X(t2)>dt1dt2
-2γt
A
(1-e
=
)
2
2m γ
(2−56)
<(x ー< x >)2 >=(1/m2 γ 2)∫∫[1-exp{-γ(t-t1)}]・[1-exp{-γ(t-t2)}]<X(t1)X(t2)>dt1dt2
=
A
m2
2
γ
t-
2
γ
(1-e
-γt
此処で、充分に時間がたった後と考えて、t →∞とする。
<v2>=
A
A
=
2
2m γ 2mf
x-x0-
1
-2γt
)+
(1-e
)
2γ
v0 2
γ
=
A
m2
2
γ
t
(2−57)
(2−58)
1/2m<v2>= 1/2kT であるから、A = 2fkT が得られ、v0 = 0
Brown 粒子に対しても、エネルギー等分配則が成り立つとすると、
を(2−58)式に適用すると、(2−59)式が得られる。
- 21 -
x-x0 2
2kT
=
t
f
(2−59)
X(t)がガウス型の確率変数である場合、これと1次の関係で結ばれている v 及び x もガウス型である。分散が与えられれば、ガウ
ス分布は決まるから、x ー x0 の分布、即ち、t = 0 で x = x0 にあった Brown 粒子が時刻 t において、x にある確率は、
(2−60)
式で与えられる。これは、Brown 粒子について、多数回の測定で確かめることができる。
1
- x-x0 2
exp
4kTt
4πkTt
f
f
P x0|x,t =
(2−60)
(2−59)式の右辺にアボガドロ数 N0 をかけて、N0k = R(気体定数)から、巨視的な変数及び定数だけの式に変換できる。
x-x0
2
2RT
t
=
N0f
(2ー62)
N0 以外の変数及び定数は、実測することが可能である。ペラン(Perrin)は、この方法から、N0 = 6.5x10^23 を得た。即ち、溶媒
分子の実在が証明されたという訳である。
< Fokker-Plank 方程式>
Brown 粒子の運動が、完全にランダム過程であって、その粒子が時刻 t において、位置 x にある確率が、その粒子の運動過程と全
く無関係であると考えられる場合、次式の関係が成り立つ。
P(x,t+τ)=
∞
-∞
P(x-l,t)P(l,τ)dl
(2−63)
ここでは、t = 0 の時の表記を P(0 | x, t)→ P(x, t)とした。
で、P(x, t)は| x |及び| t |が大きくなると、共に、充分小さくなるものと、仮定すれば、P(x, t+τ)及び P(x-l, t)をτー 0、
l = 0 でテーラー展開して、以下の式のの定数化を行うと、(2−65)式が得られる。
- 22 -
∫ P(l, τ)dl = 1,
(1 /τ)∫ lP(l, τ)dl = b,
2P
∂P
∂P
∂
=-b
+D
∂t
∂x
∂x2
(1 /2τ)∫ l^2P(l, τ)dl = D
(2−64)
(2−65)
これを Fokker-Plank 方程式と言う。b は Brown 粒子が、重力のような外力の作用下にある時は、0 ではないが、一般には、
P(l,τ)は l についての偶関数であるから、b は 0 となる。その場合、(2ー66)式となる。
∂P
∂2P
=D
∂t
∂x2
(2−66)
これは、フィックの法則から得られる拡散方程式と全く同じ形をしている。解は次式である。
x2
P(x,t)=
exp (2−67)
4Dt
4πDt
此処で、(2−60)式と(2−67)式を比較すると、D = kT / f の関係が解る。これを Einstein の関係と言う。拡散係数の意
1
味が出てきたという訳である。これは、揺らぎー散逸定理の一断面である。
<拡散方程式>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8B%A1%E6%95%A3%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F
- 23 -
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%96%E3%83%A9
- 24 -
<拡散概念の認識のまとめ>
気体分子運動論(物理・化学)
現象論的拡散過程(物理)
運動方程式(物理)
確率過程論(数学)
Boltzmann 方程式(輸送過程)
Fick の法則(拡散)
Langevin 方程式(揺らぎ)
Fokker-Plank 方程式
Master 方程式
拡散方程式(ガウス分布)
揺らぎー散逸定理
- 25 -
分子の実在の証明
不可逆過程の熱力学
非平衡統計物理
Laboratory of Molecular Dynamics and Complex Chemical Physics,
Department of Environmental and Natural Resource Science
Faculty of Agriculture,
Tokyo University of Agriculture and Technology,
3-5-8, Saiwai-cho, Fuchu-shi, Tokyo 183-8509, Japan.
Tel +81 (0)423 67 5616 , Fax +81 (0)423 67 5616
E-mail: [email protected], http://www.tuat.ac.jp/~ushiki/
分子動態化学
<分子動態化学の目次>
第0章 ダイナミックスとは何か?
(01)化学と物理学
(02)静と動
(06)生態系
(07)生物と協同性
(03)運動と拡散
(04)化学反応系
(05)相転移現象
第1章 常微分方程式論の概観
(08)微分方程式
(09)変数分離形微分方程式
(10)同次形微分方程式
(11)1階線形微分方程式
(12)2階線形微分方程式
(13)定数係数の同次線形微分方程式
(14)2階非同次線形微分方程式
(15)階数低下法
第2章 運動と拡散の概観
(16)運動方程式
(17)拡散現象
第3章 化学反応速度論
(19)熱力学的制御と速度論的制御
第4章 非線形化学反応速度論
(23)非線形現象と化学反応
(26)BZ反応と拡散項
(18)拡散方程式
(20)古典的反応速度論
(24)化学的リズム現象
第5章 生態学と拡散
(27)生態学における拡散の数理
(29)生物拡散の数理的取扱い
第6章 生物と協同現象
(30)蛋白質の構造と機能
(21)絶対反応速度論
(22)酵素反応速度論
(25)BZ反応
(28)生態系での受動的な拡散
(31)化学反応系の転移現象
-1-
(32)自己組織化現象
<分子動態化学と Dynamics 概念の構造化の概観>
Dyamics 概念の展開
Motion と Diffusion 概念の結合→ Transition 概念への基礎 (日本:物理系)
確率過程・マルコフ過程
相転移現象・形態形成への応用
ニュートン運動方程式
↓
ベキ数則
↑
+ → Langevin 方程式→ Fokker-Plank 方程式→分布関数→ フラクタル →不均一系→協同性→・・生物系
揺らぎの項
↑拡散概念
カオス
↓
ブラウン運動
積分変換法
生態学への応用
Reaction と Diffusion 概念の結合→リズム現象と散逸構造概念への基礎 (日本:化学系)
化学反応速度論→常微分方程式論→化学反応システム→グラフ理論、等→ネットワーク論(関係論)
↓
↓
↓
触媒反応系→酵素反応速度論→アロステリック効果→・・・・・・・・制御性と機能性
↓
↓
BZ 反応系→リズム現象→散逸構造→協同性→・・・・・・・・・・・生物系及び生態系
↑
拡散項
時空を含めて、「物質が、Change するとは何か?」、それも、これまでの個々の構造だけではなくて、システムとして、体系的に
理解するのか?これが問われる。正に、環境資源問題の理解の「原点」である。気分とか、ムードでだけでは、現実はそうならないこ
とは、我々は学んだ筈である。Dynamics 概念を確立することと 、「生物のエッセンスに学ぶ」ということは、ほぼ、同値の概念な
のだと思う。
-2-
第3章
化学反応速度論
本章では、Dynamics 概念を考える上で、これまで、議論されてきた Motion、Diffusion、Transition、Reaction において、
日本では、主に、化学分野で扱われる Reaction の概念の概観を考える。
<化学反応の概念の展開>
化学量論(Stoichiometry)の概念の成立
質量保存の法則(Antoine-Laurent de Lavoisier,1743-1794)
定比例の法則(Joseph Louis Proust, 1754-1826)
倍数比例の法則(John Dalton, 1766-1844)
アボガドロの法則(Amedeo Avogadro, 1776-1856)
質量作用の法則(Cato Maximilian Guldberg, 1836-1902)
Δ G = − RTlnK (熱力学)
(Josiah Willard Gibbs, 1839-1903)
反応速度論の展開
定常状態法
(Frederick Alexander Lindemann, 1886–1957)(J. A. Christiansen)
アレニウスの式(Svante August Arrhenius, 1859–1927)
ミカエリス・メンテン式(酵素反応)
(Leonor Michaelis, 1875-1949)
(Maud Leonora Menten, 1879-1960)
遷移状態理論の展開 → 有機電子論(Gilbert Newton Lewis, 1875-1946)
アロステリック酵素
絶対反応速度論(Henry Eyring, 1901–1981) → 量子化学 → 光物理化学 → 分子動力学
ベロウソフ・ジャボチンスキー反応(1961 再発見)
散逸構造(Ilya Prigogine, 1917-2003) → 非線形反応系 → カオス現象 → 複雑系科学
-3-
Protein Folding
(19)熱力学的制御と速度論的制御
-4-
(20)古典的反応速度論
<1次反応速度式>
反応次数
aA+bB+・・・+nN → a A +b B +・・・+n N
(3−01)
dCA
=kCAaCBb・・・CNn=[A]a[B]b・・・[N]n
dt
素反応
反応速度
(3−02)
1次反応速度式
A (a−x) → B (x) + C (x) (3−03)
dx
dx
=k1(a-x) →
= k1dt → ln(a-x)=k1t+C
a-x
dt
ここで,初期条件(t = 0 のとき,x = 0)を設定すれば,
C =− lna より,
a
ln
=k1t → x=a(1-exp(-k1t))
a-x
平衡反応の速度式
A(a−x) → B(b−x)
(3−05)
-5-
(3ー04)
(3−03)
dx
=k1(a-x)-k-1(b+x)=(k1+k-1)(m-x)
dt
m
k1a+k-1b
=(k1+k-1)t
m=
→ ln
m-x
k1+k-1
(3−06)
(3−07)
<2次反応速度式>
A (a−x) + B (b−x) → C (x) + D (x) (3−08)
dx
dx
=k2(a-x)(b-x) →
= k2dt
(a-x)(b-x)
dt
1
ln(a-x)-ln(b-x) =k2t+C (3−10)
a-b
ここで,初期条件(t = 0 のとき,x = 0)を設定すれば,次式を得る。
1
a
ln ,
C=
a-b b
b(a-x)
1
=k2t
ln
a-b a(b-x)
特別な場合,a = b では上式は使えない。
2A (a−x) → C (x) + D (x)
-6-
(3−12)
(3−11)
(3−09)
dx
=k2(a-x)2 →
dt
dx
1
= k2dt →
=k2+C
2
(a-x)
a-x
ここで,初期条件(t = 0 のとき,x = 0)
を設定すれば,C = 1 / a より,次式を得
る。
x
=k2t
a(a-x)
(3−14)
<連続反応の速度式>
A
x
k1
→
B
y
k1'
→ C
z
-7-
(3−15)
(3−13)
dx
dy
=k1x
=-k1x+k1'y
dt
dt
dx
=k1x → lnx=k1t+C
dt
ここで,t=0のとき,x=aより,
-k1t
(3−18)
x=ae
よって,
-k1t
dy
(3−19)
=-k1'y+k1e
dt
微分方程式の解法
特殊解
一般解
代入すると,
dy
+P(t)y=Q(t)
dt
dy
+P(t)y=0 →
dt
dz
=k1'y
dt
(3−17)
(3−20)
y=Cexp
y=u(t)exp - P(t)dt
P(t)dt
(2−21)
(2−22)
P(t)dt
- P(t)dt
=Q(t) → u'(t)=Q(t)e
u'(t)e
-8-
(2−23)
(3−16)
u(t)= Q(t)e
P(t)dt
dt+C (2−24)
従って,
P(t)dt
- P(t)dt
dt+C)
( Q(t)e
y=e
(2−25)
ここで、
P(t)= k1', Q(t)= k1aexp(-k1t)を代入すると、
-k1t
-k1t k1'
y=e
( k1ae
e dt+C)
-k1't k1a (k1'-k1)t
e
=e
+C
k1'-k1
t = 0 のとき,y = 0 より,
従って、y は、次式となる。
(2−26)
k1a
C=k1'-k1
(2−27)
k1a -k1t (k1'-k1)t
y=
e
(e
-1)
k1'-k1
一方,初期条件より、(a = x + y + z)、z を求めることができる。
-9-
(2−28)
z=a-x-y
-k1t k1a -k1t (k1'-k1)t
e
(e
-1)
=a-ae
k1'-k1
-k1t
k1'
k1
-k'1t
e
(2−29)
+
=a 1e
k1'-k1
k1'-k1
<定常状態近似(steady state approximation)>
k1
→
k1'
A
B
→ C
(3−15)
x
y
z
dx / dt =-k1x → x = aexp(-k1t)
dy / dt = k1x ー k1'y
(3−16)
dz / dt = k1'y
ここで、dy / dt = 0 とすると、
k1
k1a -k1t
k1x-k1'y=0 → y=
x=
e
k1'
k1'
更に、
x + y + z = a より
- 10 -
(3−17)
z=a-x-y
-k1t k1a -k1t
-k1t k1 -k1t
=a-ae
=a 1-e
e
e
k1'
k1'
(3−18)
(21)絶対反応速度論
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E9%80%9F%E5%BA%A6%E8%AB%96
遷移状態理論
衝突説を基に構築された反応速度論は、分子の反応させる原動力であるエネルギーがどのように供給されるかを明確にしたり巨視的
な反応速度式の振る舞いを導出できたものの、実際に分子の結合がどのように組み変わって新しい分子が生成するかという化学反応の
本質部分については明確な示唆を与えることができない。すなわち、反応速度式の立体因子や活性化エネルギーの成り立ちについては
別のモデルによる理論構築が必要となる。
反応において活性錯合体の存在を想定して、活性錯合体が存在する遷移状態(せんいじょうたい、transition state)の振る舞い
に関する物理化学的理論体系を遷移状態理論(せんいじょうたいりろん、transition state theory)と呼ぶ。遷移状態理論による
熱力学的な解析により、立体因子と活性化エネルギーが持つ意味や反応機構の物理学的妥当性を明確にすることができる。遷移状態理
論の成り立ちにおいては古典的な熱力学により定式化されたが、遷移状態理論で用いられたモデルを量子化学的に拡張することで、分
子動力学へと展開した。
活性錯合体
活性錯合体(かっせいさくごうたい、activated complex)とは遷移状態理論においてモデル化された、化学反応の素反応(過
程)において原系(反応物側の系)と生成系(生成物側の系)へと連続的に変化する分子(または原子)の複合体(一時的な結びつき
を持った集合体)である。反応中間体や遷移状態と呼ばれる状態がこれにあたる。
活性錯合体では結合あるいは乖離する分子(または原子)間の距離は様々に変化するが、その距離の変化に応じて、様々なポテンシ
ャルエネルギーの値をとる。ポテンシャルエネルギーは厳密にはエントロピー変化を考慮して、ギブス自由エネルギー(定圧過程の場
合)あるいはヘルムホルツ自由エネルギー(定積の場合)で表される。
一般に反応の遷移状態を表現する原子配置(内部座標)とポテンシャルエネルギーの関係を表したポテンシャルエネルギー曲面にお
いて、化学反応は原系から生成系へとポテンシャルエネルギーが局所的に最小となる経路を通過する。この反応が通るポテンシャルエ
ネルギー曲面の経路が反応座標(はんのうざひょう、reaction coordinate)であり、狭義では活性錯合体は反応座標におけるポテ
ンシャルエネルギーの極大点の状態を指す。
- 11 -
絶対反応速度論
遷移状態理論のモデルに基づいて、ハンガリー生まれのマイケル・ポランニーとイギリスのエヴァンス (M. G. Evans) あるいは
ハンガリー生まれのウィグナー (E. P. Wigner) と合衆国のヘンリー・アイリングは反応速度論を発展させた。特にアイリングは
1935 年に、 反応速度の絶対値が理論的に求められる反応速度論であることから絶対反応速度論(ぜったいはんのうそくどろん、
theory of absolute reaction rates)と呼んだ遷移状態理論で体系付けた。今日の分子動力学はアイリングの絶対反応速度論にそ
の源流を求めることができる。
- 12 -
(22)酵素反応速度論
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%85%B5%E7%B4%A0%E5%8F%8D%E5%BF%9C
酵素反応の定式化
1913 年 L・ミカエリスと M・メンテンは酵素によるショ糖の加水分解反応を測定し、「鍵と鍵穴」モデルと実験結果から酵素基質
複合体モデルを導き出し、酵素反応を定式化した。このモデルによると、酵素を用いた系では以下の式で反応が進行する。
酵素 (E) + 基質 (S) 酵素基質複合体 (ES) → 酵素 (E) + 生産物 (P)
すなわち、酵素反応は、酵素と基質が一時的に結びついて酵素基質複合体を形成する第 1 の過程と、酵素基質複合体が酵素と生産物
とに分離する第 2 の過程とに分けられる。
この理論から導かれるミカエリス・メンテン式によって、酵素反応の反応速度が求められる。ミカエリスとメンテンによる最初の理
論は E + S と ES との間の平衡を仮定しており、ゆっくりと生成物へと反応が進行する場合の近似だったが、のちにブリッグスとホ
ールデンがより一般的な定常条件を仮定し、その場合でも同様の式が成り立つことを示した。
酵素と基質が酵素基質複合体を形成する過程(上記の式の第 1 の過程)は、可逆過程として扱うことができる。この反応が定常状
態である時の平衡定数はミカエリス・メンテン定数と呼ばれる酵素反応の重要なパラメータで、 Km と表記される。この定数は酵素
と基質の親和性を表すパラメータであり、以下の性質を持つ:
Km 値が低いと酵素と基質の親和性は高く、素早く複合体形成するが生成反応の進行は遅い。
Km 値が高いと酵素と基質の親和性は低く、ゆっくりと複合体形成するが生成反応の進行は素早い。
なお、Km の実測値は、酵素反応の反応速度が最大速度 Vmax の 2 分の 1 となるときの基質濃度と同じ値になる。
また、Vmax と関連した分子活性 kcat という値が存在する。これはタンパク質 1 分子あたり、1 秒間に何個の基質を触媒するか、
と言うパラメータである。式は以下のように表される。
kcat = 基質分子濃度 (M)/酵素分子濃度 (M) × 秒
ここで右辺は分子と分母に濃度の単位を持つのでこれを約すと、kcat は s−1 という単位で現される。例を挙げれば、酵素 1 分子
あたり 1 秒間に 100 個の基質分子を触媒すれば 100 s−1 となる。極めて分子活性の高い酵素にカルボネートデヒドラターゼという
酵素があるが、この酵素は 1 秒当たり百万個の二酸化炭素を炭酸イオンに変化させる (kcat = 106 s−1)。
<ミカエリスーメンテン(Michaelis-Menten)型反応>
酵素反応のスキーム
k1
E + S → ES
k-1
k2
→ E+P
定常状態近似
-d[ES]/ dt =(k-1 + k1)[ES]ー k-1[E][S]=0 (3−19)
境界条件
- 13 -
[E]0 =[E]+[ES], [S]0 =[S]+[ES] (3−20)
(k-1 + k1)[ES]ー k1[E][S]=(k-1 + k1)[ES]ー k1([E]0 ー[ES][S])
k1[S][E]0
[ES]=
(k-1+k1)+k1[S]
(3−21)
(2−22)
従って、生成物ができる速度は、以下となる。
[S]
d[P]
k1k2[S][E]0
=
VMAX
v=
=k2[ES]=
dt
(k-1+k1)+k1[S] Km+[S]
Km =(k-1 + k2)/ k1、Vmax = k2[E]0、である。
Lineweaver-Burk plot
ここで、
1
1
1
Km
=
+
v VMAX VMAX [S]
阻害様式と酵素反応速度
酵素の反応速度は、基質と構造の
似た分子の存在や、後述のアロステ
リック効果により影響を受ける(阻
害される )。阻害作用の種類によっ
て、酵素の反応速度の応答の様式(阻
害様式)が変わる。そこで、反応速
度や反応速度パラメーターを解析し
て阻害様式を調べることで、逆にど
のような阻害作用を受けているかを
識別することができる。
阻害様式は大きく分けると次のよう
に分類される:
拮抗阻害(競争阻害)
- 14 -
(3−24)
(3−23)
拮抗的ではない阻害 非拮抗阻害
不拮抗阻害
混合型阻害
拮抗阻害の場合は Vmax は移動せず、Km が移動する。一方、非拮抗阻害の場合は Km は移動せず Vmax が移動する。混合型
阻害の場合は図に示さないが両方の寄与が見られる。
多くの場合、阻害剤が基質に類似している場合は拮抗阻害を示す。またアロステリック阻害は拮抗的ではない阻害に該当する。
<グラフ理論による解析>
定義
①
②
③
反応速度,即ち,不可逆的に最終産物ができる速度は次式となる.
ここで,k r は反応の速度定数,Pは生成物の濃度,F r は酵素の状態を示す.
dFr / dt = 0 ならば,n-1 個の濃度に対する一様な反応
Ft
式が得られる.係数 atr,ast は,速度定数と,そのときのS,I,A,・・・の
定常状態では,つまり,
濃度の関数である.
酵素の全濃度は次式である.
n
r=1
④
dP n
v=
= krFr ( 3 − 2 5 )
dt r=1
Fr=E
n
r=1
atr=
n
s=1
(3−27)
ある基点rに向かう基点木の値の積をD r で表し,グラフ
の基点行列式と言う.電気回路で表すグラフでのメイソンの
規則を使って,酵素反応の速度を得ることができる.
E
V=
n
r
n
r
- 15 -
krDr
(3−28)
Dr
astFs
(3−
26)
Michaelis−Menten型酵素反応速度式
基点行列式
D1 = k-1 + k2
D2 = k1S (3−29)
反応速度式
v = E(k2D2)/(D1 + D2)= Ek2k1S /(k-1 + k2 + k1S)
= Vmax(S / Km + S)
(3−30)
非拮抗阻害反応速度式と拮抗阻害反応速度式
非拮抗阻害反応速度式
基点行列式
D1 =(k2 + k-1)k-3
D2 = k1Sk-3
反応速度式
D3 = k1Sk3I
(3−31)
v = Ek2D2 /(D1 + D2 + D3)=(Ek2k1Sk-3)/{(k2 + k-1)k-3 + k1Sk-3 + k1Sk2I}
v=
k2ES
Km+S+KISI
(3−32)
拮抗阻害反応速度式
基点行列式
D1 =(k2 + k-1)k-3
反応速度式
D2 = k1Sk-3
D3 =(k2 + k-1)k3I
v=Ek2D2/(D1 + D2 + D3)=(Ek2k1Sk-3)/{(k2 + k-1)k-3 + k1Sk-3 +(k2 + k-1)k2I}
k2ES
v=
Km+S+KmKI
(3−33)、
- 16 -
Km =(k-1 + k2)/ k1、KI = k3 / k-3 である。
2つの同等な活性中心をもつ協同的な酵素反応速度式
基点行列式
D1 =(k2 + k-1)2(k4 + k-3)
D2 = 2k1S2(k4 + k-3)
D3 = 2k1Sk3S
反応速度式
k2K2S+k4S2
v=2E
v=E(k2D2 + 2k4D3)/(D1 + D2 + D3)
K1K2+2K2S+S2
ここでは、
K1=
(3−34)
k-1+k2
k-3+k4
, K2=
k1
k3 とした。
此処で、K1 = 1、K2 = 1、k4 / k2 = 1 とした場合、次式となり、ミハエリス−メンテン型の酵素反応速度式に帰着する.
S+S2
S
v=
x2VMAX=
x2VMAX
2
1+2S+S
1+S
- 17 -
(3−35)
<非定常状態への展開>
次に,グラフ理論を非定常状態の過程に展開することを考える.このとき,次式のような動力学微分方程式の組が得られる.
F t(τ)+Ft(τ)
n
r=1
atr=
n
s=1
astFs(τ), (t=1,2,.....,n-1)
(3−36)
係数 atr、ast が時間に依存するときには,これらの方程式は非線型であり,厳密に解析的な解は得られない.しかし,ある場合に
は,反応の過程でS,I,A.・・の濃度が一定であるとみなすことができ,これらの因子の濃度が,酵素の濃度に比べて,はるかに
大きいか,人為的に一定に保たれる場合がある.
初期条件として,何も付いていない酵素の濃度だけが0でないとする,つまり,初期条件として次式を採用する.
F1(0)=E, Ft≠1(0)=0
(3−37)
このとき,線型になった方程式の組をラプラス変換すると,時間の関数F(τ)はF*(q)となり,F(τ)の時間微分はqF*(q)
−F(0)で置き換えることができる.ここで,qという量は,時間の逆数の次元をもつ.
ラプラス変換
F*(q)=
導関数のラプラス変換
∞
0
-qτ
e
F(τ)dτ=L{F(τ)}
(3−38)
-qτ d
d
∞
L
e
F(τ) =
F(τ)dτ
0
dτ
dτ
-qτ
∞
-qτ
∞
F(τ) 0 +
e
F(τ)dτ=qL F(τ) -F(0) ( 3 − 3 9 )
= e
0
従って、(3−36)式をラプラス変換すると、次式が得られる。
F*t(q)
n
r=1
a*tr=
n
s=1
a*stF*s(q)
- 18 -
(3−40)
ここで,係数a*は定常状態のときの係数aと,ほとんどの段階で一致するが,ただ一つの例外は,初期状態に導く係数である.
a*ij=
aij
j≠1
aij+q J=1
(3−41)
非定常状態の反応に関するグラフは,定常状態の反応のグラフで,全ての頂点から初期頂点1に向かって,新しく枝を付け加える
ことによって得られる.新しい枝の値はqである.
非定常状態での酵素反応速度式
ミハエリス−メンテン型酵素反応
基点行列式
D1 =(q + k2 + k-1)
D2 = k1S
反応速度式
v*(q)=
Ek2D2
Dr
=
Ek2k1S
q+k2+k-1+k1S
v(τ)= L-1{v*(q)}= Ek2k1S・exp{(k2 + k-1 + k1S)τ}
(3−42)
非拮抗阻害型酵素反応
基点行列式
D1 =(q + k2 + k-1)k-3 + k3Iq +(q + k2 + k-1)q
反応速度式
v*(q)=
此処で、
Ek2D2
Dr
=k1k2ES
D2 = k1Sk-3 + qk1S
q+k-3
q2+2Aq+B
D3 = k1Sk3I
2A = k2 + k-1 + k-3 + k3I + k1S、B =(k2 + k-1)k-3 + k1Sk-3 + k1Sk3、である。
- 19 -
L-1
q1+C
q2+C
A
B
q+C
-1
-1
A=
, B=
=L
+L
q-q1
q-q2
(q-q1)(q-q2)
q-q1
q-q2
(3−43)
したがって,
q1+k-3
q1τ q2+k-3 q2τ
v(τ)=v-k1k2ES
e
+
e
(3−44)
q1(q2-q1)
q2(q1-q2)
A2-B は、q^2 + 2Aq + B の根である。この根は両方とも負である.ここでは,常に A^2 − B
此処で、q1,2=A±
≧ 0 であり,関数 v(τ)の値は,v(0)= 0 から v(∞)= vsteady まで単調に増加する.
拮抗阻害酵素反応
基点行列式
D1 =(q + k-3)(q + k2 + k-1)
反応速度式
v*(q)=
Ek2D2
Dr
D2 =(q + k-3)k1S
=k1k2ES
q+k-3
q2+2Aq+B
D3 =(q + k2 + k-1)k3I
2A = k2 + k-1 + k-3 + k3I + k1S、B =(k2 + k-1)k-3 + k1Sk-3 +(k2 + k-1)k3、である。
A^2 ー B =(1/4)(k-1 + k2 ー k-3 + k1S + k3I)^2 ー k3I(k-1 + k2 + k-3)
此処で、もし、k-1 + k2 > k-3 ならば、A^2 ー B は、ある条件で負になることができ、ω=√ B ー A^2 の振動が可能になる。
-Aτ
e
sinωτ
v(τ)=v-k1k2SE
(Ak-2-B)
+k-2cosωτ (3−45)
B
ωτ
此処で、
- 20 -
一般にグラフを解くことによって得られるのは,反応速度のラプラス変換 v*(q)である.それは有理分数式となる.ここで,n はグ
ラフの中にある頂点の数である.
2qn-2+α3qn-3+.....+αn-2
α
v*(q)=E
qn-1+β2qn-2+.....+βn-1
(3−46)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%85%B5%E7%B4%A0%E5%8F%8D%E5%BF%9C
酵素反応の調節機構
生体が酵素活性の大小を制御するには、酵素の量を制御する場合と、酵素の性質を変化させる場合とがある。それらは次のように分
類される:[3]
1.酵素タンパク質の合成量制御による酵素量の増大
2.酵素タンパク質が他の生体分子と可逆的に作用することによる酵素活性の変化
3,酵素タンパク質が修飾されることによる酵素活性の変化
1 の調整は遺伝子の発現量の転写調節により実現する(詳しくはオペロンおよびラクトースオペロンを参照。ただし原核生物のみ)。
例えば、細胞内のコレステロール量が減少すると、コレステロール代謝の律速段階である HMG-CoA リダクターゼが遺伝子より翻訳
生産され、コレステロールの生産量を増大させる(詳しくは記事 コレステロール#調節を参照のこと)。ただし、一度生産された酵
素がタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)により分解消失するまでには一定の寿命期間があることと、遺伝子からタンパク質が生産さ
れるにはある程度時間が必要であることから、この調節には時間がかかる。
2 や 3 については酵素の質的な変化であり、1 の転写制御より素早い応答を示す。
2 や 3 の調節の例として、フィードバック阻害が挙げられる。一般に触媒反応の反応速度は基質濃度と生成物濃度により影響を受
けるが、酵素反応の場合、ある複数の段階からなる代謝経路において、酵素の直接の基質あるいは生成物以外の代謝生成物が酵素の反
応速度を制御する場面が良く見られる。特に、代謝生成物が過剰になったときに、生成物が何段階か上流過程の酵素反応を阻害するこ
とで産生を抑制する調節過程を、フィードバック阻害と呼ぶ。アロステリック効果などフィードバック阻害がかかる場合、生産物が過
剰になると酵素活性が低減し、生産物が減ると酵素活性は復元する。
あるいは、細胞内キナーゼで酵素タンパク質がリン酸化されて酵素活性が発現する場合は、リン酸化された酵素が分解消失したり、
他の酵素によりリン酸基の修飾が除去されるまでは酵素活性は維持される。また、消化酵素のトリプシンは、トリプシノーゲンとして
膵臓から分泌されたあと、十二指腸表面に存在する酵素エンテロペプチダーゼ (EC 3.4.21.9) によりペプチド鎖の Lys6-Ile7 間を
分解切断されてトリプシンとなり活性を発現する。また、熱ショックたんぱく質を代表とする分子シャペロンは酵素の高次構造を変化
させることで酵素を不活性型から活性型へと変化させる。
アロステリック効果
アロステリック効果は、生体内におけるフィードバック阻害の一例である(詳しくはアロステリック効果を参照)。アロステリック
酵素は活性中心近傍の基質結合部位とは異なる場所に低分子物質を結合させ、その活性を変化させる。そうしたアロステリック効果を
誘導する低分子物質をアロステリックイフェクターと呼ぶ。
例えば、アスパラギン酸からリジンを合成する反応系では、最終産物のリジンがアロステリックイフェクターとなる。リジンが少量
- 21 -
であるときは、アスパラギン酸キナーゼは盛んに触媒作用を発揮するが、リジン過剰になるとアスパラギン酸キナーゼのリジン結合部
位にリシンが結合し、アスパラギン酸キナーゼの活性が低下する。
逆にアロステリックイフェクターが正の方向に作用するケースもあるが、反応最終生産物の関与するアロステリック効果はほとんど
の場合に活性を低下させる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%83%E3
%82%AF%E5%8A%B9%E6%9E%9C
アロステリック効果
アロステリック効果(アロステリックこうか)とは、タンパク質の機能が他の化合物(制御物質、エフェクター)によって調節され
ることを言う。主に酵素反応に関して用いられる用語である。
アロステリー(allostery、その形容詞がアロステリック allosteric)という言葉は、ギリシア語で「別の」を意味する allos と
「形」を意味する stereos から来ている。これは、一般にアロステリックタンパク質のエフェクターが基質と大きく異なる構造をし
ていることによる。このことから、制御中心が活性中心から離れた場所にあると考えられたのである。
しかし下記のヘモグロビンにおける酸素分子のように、同じ分子がエフェクターかつ基質となる例もあり、アロステリック効果は一
般にヘモグロビンのようなオリゴマー構造でモデル化することができる(「アロステリック制御のモデル」の項参照)。
このため、アロステリック効果は
タンパク質と化合物が一対多の複合体を形成する際に、前の段階の複合体形成によって次以降の複合体形成反応が促進・抑制される
こと、あるいはその複合体による反応が加速・減速されること。
と拡張定義されることも多い。
アロステリック制御
アロステリック効果により酵素やタンパク質の機能が制御される現象をアロステリック制御と呼ぶ。酵素の活性中心以外の部分(ア
ロステリック部位)に対してエフェクター分子(反応に関係する物質でもそうでなくてもよい。)が会合して酵素のコンフォメーショ
ンが変化し、酵素の触媒活性や複合体形成反応の平衡定数が増減することを表す。
タンパク質の活性を促進するエフェクターはアロステリック・アクティベーターと呼ばれ、逆にタンパク質の活性を抑制するエフェ
クターはアロステリック・インヒビターと呼ばれる。アロステリック制御はフィードバック調節の一つの例である。
例
血液中のヘモグロビンは酸素と結合する鉄中心を持つヘムを四つ持ち、各々の酸素との結合には一定の平衡定数が存在する。しかし、
- 22 -
ヘモグロビン中の一つのヘムが酸素と結合を作るとヘモグロビン全体の構造が変化し、他のヘムと酸素と
の結合が促進される。すなわち、酸素濃度の高い所では単独のヘムよりも効率的に酸素を取り入れること
ができる。一方で、細胞中のミオグロビンのそれぞれのヘムにはヘモグロビンのような協同効果は無いの
で、酸素との結合生成反応は酸素濃度に一次で比例するだけである。この結果、ヘモグロビンは酸素の多
い肺では酸素を吸収し、酸素の少ない各細胞では酸素を放出することができるのである。
アロステリック制御のモデル
多くのアロステリック効果はジャック・モノー、ワイマン、ジャン・ピエール・シャンジューの唱える
モノー・ワイマン・シャンジューモデルとダニエル・コシュランド、ネメシー、フィルマーの提唱する逐
次モデルの両方で説明できる。どちらの説でも酵素サブユニットは緊張(T 状態)か弛緩(R 状態)のど
ちらかの状態にあると仮定し、弛緩状態のサブユニットは緊張状態のサブユニットよりも基質に結合しや
すいとしている。二つのモデルは、サブユニット同士の関係と、両方の状態に至る前の状態に関する仮定
の面で異なっている。
協奏モデル
アロステリックに関する協奏モデルは対称モデルともモノー・ワイマン・シャンジュー (MWC) モデル
とも呼ばれるが、一つのサブユニットの構造変化が他のサブユニットに影響を与えると仮定している。つ
まり、全てのサブユニットが同じコンフォメーションを取る。このモデルはリガンドがなくても成り立ち、T 状態と R 状態のコンフ
ォメーションが均衡を保っている。一個のリガンド(もしくはアロステリックエフェクター)がアロステリック部位に結合すると、均
衡は R 状態もしくは T 状態に移行する。
逐次モデル
アロステリック制御の逐次モデルでは、一つのサブユニットのコンフォメーション変化が他のサブユニットに同様の変化を引き起こ
すとは考えない。つまり全てのサブユニットが同じコンフォメーションをとっている必要はない。さらに逐次モデルでは、基質分子が
誘導適合モデルによって結合するとしている。一般的には、サブユニットがランダムに基質分子と衝突した時、活性中心が基質を包み
込まなければならない。この誘導適合はサブユニットを T 状態から R 状態に移行させるが、近接サブユニットの構造を変化させるこ
とはない。その代わり、一つのサブユニットに基質が結合すると他のサブユニットの結合部位も基質に結合しやすいように徐々に構造
を変えていく。要約すると、
サブユニットは同じコンフォメーションを取っている必要はない。
基質分子は誘導適合モデルで結合する。
コンフォメーション変化は全てのサブユニットに伝播することはない。
基質結合は近接サブユニットの基質親和性を高める。
アロステリック促進
酸素分子がヘモグロビンに結合する時のように、アロステリック促進はリガンドの結合が基質分子と他の結合サイトの反応性を高め
る現象である。ヘモグロビンの例では、酸素は基質であると同時にエフェクターとして、効率的に働いている。アロステリックサイト
は、隣のサブユニットの結合部位である。一つのサブユニットに酸素が結合すると、構造が変化し、残りの結合部位の酸素親和性を高
める。
アロステリック抑制
アロステリック抑制は、リガンドの結合によって結合部位の基質親和性が低下する現象である。例としては、2,3-ビスホスホグリセ
リン酸がヘモグロビンのアロステリック部位に結合すると、他の全てのサブユニットの酸素への親和性が低下する。
代謝系の生産物が、その系の中間反応を触媒する酵素の活性を抑制する場合、負のフィードバック制御の生体内における例であると
みなせるため、フィードバック阻害と呼ばれる。
エフェクターのタイプ
- 23 -
多くのアロステリックタンパク質は自身の基質によって調節される。これらはホモトロピックアロステリック分子と呼ばれ、多くは
アロステリック促進を示す。非基質の制御分子はヘテロトロピックアロステリック分子と呼ばれ、促進作用を示すものも抑制作用を示
すものもある。自身の基質と非基質分子の両方で調節されるアロステリックタンパク質もある。このようなタンパク質はホモトロピッ
ク作用もヘテロトロピック作用も受ける。
- 24 -
Laboratory of Molecular Dynamics and Complex Chemical Physics,
Department of Environmental and Natural Resource Science
Faculty of Agriculture,
Tokyo University of Agriculture and Technology,
3-5-8, Saiwai-cho, Fuchu-shi, Tokyo 183-8509, Japan.
Tel +81 (0)423 67 5616 , Fax +81 (0)423 67 5616
E-mail: [email protected], http://www.tuat.ac.jp/~ushiki/
分子動態化学
<分子動態化学の目次>
第0章 ダイナミックスとは何か?
(01)化学と物理学
(02)静と動
(06)生態系
(07)生物と協同性
(03)運動と拡散
(04)化学反応系
(05)相転移現象
第1章 常微分方程式論の概観
(08)微分方程式
(09)変数分離形微分方程式
(10)同次形微分方程式
(11)1階線形微分方程式
(12)2階線形微分方程式
(13)定数係数の同次線形微分方程式
(14)2階非同次線形微分方程式
(15)階数低下法
第2章 運動と拡散の概観
(16)運動方程式
(17)拡散現象
第3章 化学反応速度論の概観
(19)熱力学的制御と速度論的制御
第4章 非線形化学反応び概観
(23)非線形現象と化学反応
(18)拡散方程式
(20)古典的反応速度論
(24)BZ反応
第5章 生態学と拡散
(25)生態学における拡散の数理
(27)生物拡散の数理的取扱い
第6章 協同現象
(21)絶対反応速度論
(28)相転移の基礎
(26)生態系での受動的な拡散
(29)蛋白質の構造と機能
-1-
(22)酵素反応速度論
<分子動態化学と Dynamics 概念の構造化の概観>
Dyamics 概念の展開
Motion と Diffusion 概念の結合→ Transition 概念への基礎 (日本:物理系)
確率過程・マルコフ過程
相転移現象・形態形成への応用
ニュートン運動方程式
↓
ベキ数則
↑
+ → Langevin 方程式→ Fokker-Plank 方程式→分布関数→ フラクタル →不均一系→協同性→・・生物系
揺らぎの項
↑拡散概念
カオス
↓
ブラウン運動
積分変換法
生態学への応用
Reaction と Diffusion 概念の結合→リズム現象と散逸構造概念への基礎 (日本:化学系)
化学反応速度論→常微分方程式論→化学反応システム→グラフ理論、等→ネットワーク論(関係論)
↓
↓
↓
触媒反応系→酵素反応速度論→アロステリック効果→・・・・・・・・制御性と機能性
↓
↓
BZ 反応系→リズム現象→散逸構造→協同性→・・・・・・・・・・・生物系及び生態系
↑
拡散項
時空を含めて、「物質が、Change するとは何か?」、それも、これまでの個々の構造だけではなくて、システムとして、体系的に
理解するのか?これが問われる。正に、環境資源問題の理解の「原点」である。気分とか、ムードでだけでは、現実はそうならないこ
とは、我々は学んだ筈である。Dynamics 概念を確立することと 、「生物のエッセンスに学ぶ」ということは、ほぼ、同値の概念な
のだと思う。
-2-
第4章
非線形化学反応の概観
本章では、Dynamics 概念を考える上で、これまで、議論されてきた Motion、Diffusion、Transition、Reaction において、
日本では、主に、化学分野で扱われる Reaction の概念の概観を考える。
<化学反応の概念の展開>
化学量論(Stoichiometry)の概念の成立
質量保存の法則(Antoine-Laurent de Lavoisier,1743-1794)
定比例の法則(Joseph Louis Proust, 1754-1826)
倍数比例の法則(John Dalton, 1766-1844)
アボガドロの法則(Amedeo Avogadro, 1776-1856)
質量作用の法則(Cato Maximilian Guldberg, 1836-1902)
Δ G = − RTlnK (熱力学)
(Josiah Willard Gibbs, 1839-1903)
反応速度論の展開
定常状態法
(Frederick Alexander Lindemann, 1886–1957)(J. A. Christiansen)
アレニウスの式(Svante August Arrhenius, 1859–1927)
ミカエリス・メンテン式(酵素反応)
(Leonor Michaelis, 1875-1949)
(Maud Leonora Menten, 1879-1960)
遷移状態理論の展開 → 有機電子論(Gilbert Newton Lewis, 1875-1946)
アロステリック酵素
絶対反応速度論(Henry Eyring, 1901–1981) → 量子化学 → 光物理化学 → 分子動力学
ベロウソフ・ジャボチンスキー反応(1961 再発見)
散逸構造(Ilya Prigogine, 1917-2003) → 非線形反応系 → カオス現象 → 複雑系科学
-3-
Protein Folding
(23)非線形現象と化学反応
<線型関数>
一般的な関数
線型性の性質
y = f(u) (4−01)
f(au)= af(u)、 f(u1 + u2)= f(u1)+ f(u2)
(4−02)
<マルサス(Malthus)方程式>
時刻 t における人口を N とし,n を出生率,m を死亡率とすると,N(t)の変化は、次式となる。
dN / dt = nN ー mN =(n ー m)N =α N
N(t)= N0exp(α t) (4−04)
(4−03)
<域値のある微分方程式(非線形)>
1次反応速度式に自己の濃度の2乗に比例して x が増加するプロセスを付け加える.自己自身で自らが増えるようなプロセスのこ
とを「自己触媒的」過程という.
初期条件:(x, t)=(x0, 0)
x
x0
dx
=-kx+λx2=(-k+λx)x
dt
dx
x 1
λ
-k+λx x
x0
(k>0, λ>0)
-
1
k -k+λx x
dx=
t
0
dt
(4−05)
(4−06)
1 x0(-k+λx)
1
-k+λx
x
dt=
ln
-ln
= ln
0
k
-k+λx0
x0
k x(-k+λx0)
t
-4-
(4−07)
kt
x0(-k+λx)
=e
→
x(-k+λx0)
k
x=
k
kt
e
λ- λx0
(4−08)
此処で、(4−08)式は、次の3つに場合に分けることができる.
① x0 > k/λの場合:
1
t=tc= ln
k
λ
k
λx0
(4−09)
上記の値で x は発散する。
② x0 = k/λの場合:
x = k /λ
x 値は時間的に変動しない.
lim x=0
値は単調減少する. t→∞
③ x0 < k/λの場合:
(4−10)
(4−11)
x
このように,初期値 x0 = k /λを境にして,解の様子が全く異なる。(4−08)式は非線型微分方程式である。
<logistic方程式(非線形)>
(4−05)式では x の項が負で,x^2 の項が正であった.この符合が入れ替わった場合を考える.
dx
=kx-λx2=(k-λx)x
dt
初期条件:(x, t)=(x0, 0):
-5-
(k>0, λ>0)
(4−12)
x=
kx0e
kt
kt
k+λx0 e -1
(4−13)
x の初期値が k /λよりも小さくても大きくても,常に一定値 k
/λに接近していく.非線型微分方程式では「初期条件に無関係に
ある一定の状態に落ち着く」現象がよく出てくる事象である.
<振動解の現れる微分方程式(線形)>
x,y の2種類の変数が一次である場合の一般的な表現は次式である.
dx
=Ax+By
dt
dy
=Cx+Dy
dt
(4−14)
dx
dy
-B
D
=(AD-BC)x (4−15)
dt
dt
d2x
dx
-(A+D)
+(AD-BC)x=0 (4−16)
2
dt
dt
(4ー16)式は線型二階微分方程式であり,次の特性方程式の2根λ 1,λ 2 の値に依存して種々の解を示す.
λ^2 ー(A + D)λ+ AD ー BC =0
(4−17)
-6-
(A+D)± (A+D)2-4(AD-BC)
λ1, λ2=
2
(4−18)
例:渦心点 center
条件
−λ 1,λ 2:純虚数
A + D = 0,
:
方程式:
dx
=ωy
dt
AD − BC >0
(4−19)
dy
=ωx
dt
(4−20)
d2x
=ω2x (4−21)
dt2
x = asin(ω t)、 y = acos(ω t) (4−22)
これらの解は x^2 + y^2 = a^2 となり,解の軌跡が円となる。
<Lotka−Volterraの方程式:生態系>
次のような生態系を考える。ウサギは草を食べて生長し,増殖するが,キツネに出会うと食べられてしまう.キツネはウサギがいな
いと死ぬばかりである.
dX
=q1X-rXY
dt
dY
=-q2Y+rXY
dt
(4−23)
草をA,ウサギをX,キツネをY,キツネの死骸をBとすると,自己触媒系の化学反応式にも変換できる.
A + X → 2X (k1)
ここで,a >> x、y とすると,
X + Y → 2Y (k2)
dx
=k1ax-k2xy
dt
Y → B
dy
=-k3y+k2xy
dt
-7-
(k3)
(4−24)
(4−25)
定常解
k1
a (4−26)
k1ax-k2xy=0 → y0=
k2
k3
-k3y+k2xy=0 → x0=
(4−27)
k2
定常解のまわりでは,次式の仮定を置くことができる.
基準モ−ドの方法
x = x0 +ξ
y = y0 +η
(4−28)
定常解のまわりの解の安定性や,振動的性質を比べることができる.
特性方程式
dx
dξ
=k1a(x0+ξ)-k2(x0+ξ)(y0+η)=-k3η=
dt
dt
dy
dη
=-k3(x0+η)+k2(x0+ξ)(y0+η)=k1aξ=
dt
dt
dξ
-k3η
dt
0
-k3
M=
k1a 0
dη
=k1aξ
dt
→
(4−30)
(4−31)
M-λI =0 → λ2=-k1k3a
-8-
(4−29)
(4−32)
λは純虚数である.
る。
ξ, η∼e
→
λt
振動的な振る舞いをする可能性があ
∼exp ±
k1k3a
(4−33)
ξ=ξ 0,η= 0 とすると,
ξ=ξ0sin k1k3a t (4−34)
k1a
cos k1k3a t
η=-ξ0
k3
k1a
π
=ξ0
sin k1k3a t+
2
k3
ここで,初期条件として,
(4−35)
増減は周期的であるが,η(キツネ)の揺らぎの増加はξ(ウ
サギ)の揺らぎの増加より1/4周期遅れている.
大域的な変化
ここで,新しい変数を導入する.
u = logx → x = exp(u) → du / dx = 1 / x、 v = logy → y = exp(v) → dv / dy = 1 / y
v
du
=k1a-k2y=k1a-k2e
(4−37)
dt
-9-
(4−36)
u
dv
=-k3+k2x=-k3+k2e
dt
(4−38)
よって、
k2
dv
du u dv v
du
e +
e -k3
=0
-k1a
dt
dt
dt
dt
(4ー39)
I = k2(x + y)ー k3log(x)ー k1alog(y)= const
I / k2 =(x + y)ー x0log(x)ー y0log(y)
(x-1)2
+..........
ここで、logx=(x-1)+
2
(4−40)
(4−41)
より、
I
=x2-2x0x+2x0+y2-2y0y+2y0+2
2k2
I0
=x02-2x02+2x0+y02-2y02+2y0+2
2k2
I-I0 2
x-x0 2+ y-y0 2=
2k2
これが,Lotka(1920)が持続振動に関して最初に示した理論モデルである。
- 10 -
(4−44)
(4−42)
(4−43)
(24)BZ反応
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%8
2%AC%E3%83%B3%E3%82%B0%E7%8F%BE%E8%B1%A1
リーゼガング現象
リーゼガング現象(— げんしょう、Liesegang phenomenon)は、ゲル化した電解
質溶液に、その電解質と混合すると沈殿を生じる別の電解質溶液を接触させると、ゲル中
に沈殿が規則的な縞模様を描いて生成する現象である。
1896 年にドイツの化学者であるラファエル・エデュアルト・リーゼガングによって初
めて報告されたためこの名がある。リーゼガングは二クロム酸カリウムを含ませたゼラチ
ンゲルと硝酸銀溶液を用いてこの現象を発見した。
実験方法
混ぜ合わせると沈殿を生じるような組み合わせの 2 種類の電解質溶液を用意する。1 種
類は濃度を薄くし、もう 1 種類は濃度を濃くする。濃度の薄い方の電解質をゲル内部の電
解質(内部電解質)とし、濃度の濃い方の電解質を外部から添加する電解質(外部電解質)
とする。内部電解質の溶液にゲル化剤を加えて、試験管やシャーレに移しゲル化させる。
シャーレを用いる場合にはゲルが薄すぎたり厚すぎたりすると良い結果が得られない。
試験管ではゲルの上に外部電解質の溶液を静かに注ぎいれ、そのまま静置する。注いだ
電解質溶液がゲルに浸透するに従ってゲル中に沈殿が縞模様を描いて生成するのが観察で
きる。この縞模様をリーゼガングバンドという。
シャーレではゲルの中央に外部電解質の溶液を静かに数滴垂らしてそのまま静置する。注いだ電解質溶液がゲル中を拡散するに従っ
てゲル中に沈殿が同心円状の模様を描いて生成するのが観察できる。この同心円をリーゼガングリングという。
性質
リーゼガング現象にはいくつかの規則性があることが知られている。
まず第一に各バンド(あるいはリング、以下同じ)が生じはじめる位置に関する規則性がある。n 番目のバンドが生じる位置 xn
は等比級数となる。すなわち xn+1/xn = p (p は定数)。これは spacing law と呼ばれている。
第二に各バンドが生じはじめる時間に関する規則性がある。n 番目のバンドが生じはじめる時間 tn はバンドの位置 xn の 2 乗に
比例する。すなわち tn = qxn2 (q は定数)。これは time law と呼ばれている。
第三に各バンドの幅に関する規則性がある。n 番目のバンドの幅 wn はバンドの位置 xn に比例する。すなわち wn = rxn2 (r
は定数)。これは width law と呼ばれている。
また、p については内部電解質の濃度 cin と外部電解質 cex の濃度によって決定されることが知られている。その式は p = f(cin)
+ g(cin)/cex という形で表される(f, g は cin の関数である)。これを Matalon-Packter law という。また r は p の 0.9–0.95
乗で表される。
理論
リーゼガング現象は散逸構造の一種である。沈殿の生成とイオンの拡散の速度の非線形性が原因で生じる現象である。そのため現象
の定量的な解析は困難であり、現在でも決定的なモデルはできていない。
リーゼガング現象が発見された翌年 1897 年にヴィルヘルム・オストヴァルトが最初に現象の原因を沈殿の過飽和とするモデルを
提案している。
沈殿を作る 2 つのイオンの濃度が溶解度積で定まる限界を越えたとしてもすぐには沈殿は生じない。固体粒子が生成する時には界
- 11 -
面を生じるため、余分な表面過剰エネルギーを必要とするためである。質量あたりの過剰エネルギーは粒
子が小さいほど大きくなるため、固体が新たに析出する際には新しく小さい粒子ができるよりも、すでに
生成している粒子が大きく成長する方がエネルギー的に有利になる。
その結果近くに沈殿がすでに生成した領域がある場合には、過飽和になっても沈殿は生じず、すでに沈
殿がある場所にイオン対が移動してから沈殿が生成することとなり、沈殿のある部分とない部分の縞模様
ができるとしている。
オストヴァルトのモデル以外にも多数のモデルが提案されている。
鉱石のリーゼガング現象
メノウなどの鉱物中にしばしば見られる縞模様は鉱物が熱水から析出する途中でリーゼガング現象が起
こったものとされている。
関連項目
ベロウソフ・ジャボチンスキー反応 - この反応もシャーレなどの中で静置状態で行なうと縞模様が観察できる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%A3%E9%80%B8%E6%A7%8B%E9%80%A0
散逸構造
散逸構造(さんいつこうぞう、dissipative structure)とは、平衡状態でない開放系に生ずる定常的な構造。イリヤ・プリゴジ
ンが提唱し、ノーベル賞を受賞した。定常開放系、非平衡開放系とも言う。
開放系であるため、エントロピーは一定範囲に保たれ、系の内部と外部の間でエネルギーのやり取りもある。生命現象は定常開放系
としてシステムが理解可能であり、注目されている。また、社会学・経済学においても、新しいシステムとして研究されている。
従来の熱力学は主に平衡熱力学を扱うものが中心であったが、定常熱力学が新たに注目を集めている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/BZ%E5%8F%8D%E5%BF%9C
ベロウソフ・ジャボチンスキー反応
ベロウソフ・ジャボチンスキー反応(-はんのう、Belousov-Zhabotinsky reaction、略して BZ 反応とも呼ばれる)とは、セ
リウム塩などの金属塩と臭化物イオンを触媒としてマロン酸などのカルボン酸を臭素酸塩によりブロモ化する化学反応のことである。
系内に存在するいくつかの物質の濃度が周期的に変化する振動反応の代表的な例として知られている。 反応溶液の色が数十秒程度の
周期で変化する点が示演実験向きであるためしばしば利用されている。また、この反応は
リーゼガングリング現象に大きく類似しているとも言われている。
発見
ソ連のボリス・パヴロヴィッチ・ベロウソフがクエン酸回路の研究を行なっている際
に、クエン酸と臭素酸塩をセリウム( IV)塩の存在下に反応させると反応溶液の色が無色
と黄色の間を周期的に変化することを 1951 年に見出した。 しかし当時は化学反応は最
終的な平衡状態に向かって進行していくだけのものであると考えられており、このような
周期的な現象があるとは受け入れられなかったため論文は受理されなかった。その後
1958 年に短い報告が雑誌に発表されたが広く知られることは無かった。 アナトール・
マルコヴィッチ・ジャボチンスキーが 1961 年にこの反応を再発見した。 この反応に興
味を持ったジャボチンスキーは 1964 年ごろから詳しい検討を行ない、クエン酸の代わり
にマロン酸でも同様の反応が起こること、セリウム以外に鉄やマンガンの塩もこの反応を
触媒することを報告した。 1968 年にプラハで行なわれた生物学会でこれらの結果が発
表され広くこの反応が知られるようになった。
- 12 -
概観
マロン酸における反応は以下の反応式で表される。
反応液の色の変化は触媒となっている金属塩の酸化還元反応に伴うものであり、用いた金属種によってその色は異なる。 セリウム塩
では無色と黄色に変化するが、フェロイン(鉄のフェナントロリン錯体)を用いると赤と青の間で変化する。 反応液を良く撹拌した状
態では一定の時間ごとに反応液全体の色の変化が起こる。 一方、反応液をシャーレのような浅い容器に静置した状態におくと、まず
数箇所に色の変化した点が現れ、そこから同心円に色の変化が広がっていく様子が観察できる。 このような熱平衡に無い状態で時間
的、空間的な規則性が生成する(散逸構造)現象は生体においてしばしば見られることから、その方面からの興味が持たれた。
- 13 -
余談
名称や内容から、困難な実験とうたわれているが、実際は容易な実験であり、中高生なども学校の部活などで、多く取り上げている。
力学系としての化学反応
熱平衡とその近傍の状態にとらわれず広い視点から反応系をみる1つの方法は、化学反応を支配する速度論的現象論の方程式を、純
然と数学的な立場に立って、1つの力学系とみることである。此処で言う、力学系とは、着目する1組の物理量の変化速度をそれらの
物理量の関数として与える方程式の組を意識することである。
力学系の可能な軌道の集まりは、速度場の連続変化に対して、構造安定の幾つかの領域に分けられ、軌道の小僧を異にする二つ以上
の領域の境界には、構造不安定な箇所が現れることが知られている。
簡単な例として、2自由度の自律系を考える。今、X、Y 両成分は、それぞれ固有の空間的拡散係数 Dx、Dy を持っているとすれ
ば、このような力学系を支配する方程式は、次式で表すことができる。
∂X
=Dx▽2X+C1X(X,Y)
∂t
∂Y
=DY▽2Y+C1Y(X,Y)
∂t
(4ー45)
(4ー46)
此処で、上式の右辺に独立変数 t が現れないことが自律系の意味
である。この系の空間的に一様な定常点(X0, Y0)は、次式から求
められる。
C1X(X0, Y0)= C1Y(X0, Y0)= 0
(4−47)
今、この解の安定性を調べてみよう。その為に、以下の式をおく。
X = X0 + x
Y = Y0 + y
(4−48)
此処で、微小変位(x, y)について線形化した方程式は、以下で与
えられる。
Kxx-Dx▽2 Kxy
d x
=
Kyx
Kyy-Dy▽2
dt y
x
y
(4−49)
- 14 -
Kij =(∂ C1i /∂ Xj)X0 である。
此処で、空間的な1次元系を考え、x ∝ y ∝ exp(λ t ー ikr)とすれば、特性方程式とその解は、(4−50)式となる。
1
2(4−50)
λ Γλ+Δ=0 → λ=
Γ± Γ2-4Δ
2
ここでは、
此処では、以下の関係がある。
Γ=Γ 0 ー(Dx + DY)k^2
Γ 0 = Kxx + Kyy
△=△ 0 ー(DXKyy + DYKxx)k^2 + DXDYk^4
△ 0 = detK = KxxKyy ー KyxKxy
以上の結果より、(Γ、△)平面で定常点の性質を分類すれば、上記の図となる。
Brusselator(Brussel 模型)
2自由度反応系の模型として、Prigogine 等の Brussel 模型を紹介する。
A→X
2X + Y → 3X
B+X→Y+D
X→E
(4−51)
この反応系のイメージを左図に示す。この反応スキームから、一般論の式、(4−45)と(4−46)式を
踏襲して、次式が得られる。
C1X(X、Y)= X^2Y ー BX + A ー X (4−52)
C1Y(X、Y)=ー X^2Y + BX (4−53)
従って、定常状態は、X0 = A、Y0 = B / A となり、この状態からの微小なズレ(x, y)についての線形化し
た方程式は、次式となる。
B-1+DxΔ2 Δ2
∂ x
=
-B
-A2+Dy▽2
∂t y
x
y
(4−54)
Γ 0 = B ー1ー A^2、△ 0 = A^2 である。今、空間的に、1次元的と仮定して、
x ∝ y ∝ exp(λ t ー ikr)とおけば、永年方程式は、次式となる。
此処で、
- 15 -
B-1-Dxk2-λ A2
=0
2
2
-B
-A -Dyk0 -λ
λ^2 ーΓλ+Δ= 0 (4−56)
Γ=Γ 0 ー(Dx + DY)k^2
△=△ 0 ー(Dx(-A^2)+ Dy(B-1))k^2 + DxDyk^4
多重結節点に相当する「安定性の交代」或いは Soft Mode
Instability の起こる条件は、△= 0 であるから、B をパラメー
ターとして、最も容易に、この転移の現れる場合を考慮して、
dB
=0
2
dk
dk2
=∞
dB
(4−55)
(4−56)
(4−57)
となる条件は、次式となる。
B≧Bs= 1+
2
Dx
A
Dy
(4−58)
この時、波数(4−59)式によって、特徴づけられる静的なパ
ターンが発生する。これが空間的な縞模様となる。
ks=
A
1/2
DxDy
(4ー59)
一方、多重渦状点に相当する「過剰安定性」或いは Hard Mode Instability の現れる条件は、Γ≧ 0 であるから、B をパラメー
B ≧ Bh = 1 + A^2
k^2 = 0
ターとすれば、
となり、この時の波数は、
であるから、空間的には、一様なリズムが発現する。
パラメーター B を小さい方から、しだいに増加した場合、パターンが実現するか、リズムが実現するかは、Bs と Bh の大小関係で
決まり、この値の小さい方が実現する。Dx = Dy では、パターンは発現しない。Bs と Bh の条件を比較すれば、パターンの実現の
条件は、次式となる。
Dx
1
1+A2 -1
(4−60)
≦
Dy
A
- 16 -
B-Z(Belousov-Zhabotinsky)反応
B.P.Belousov
(1959)は、希硫酸中の
クエン酸に、KBrO3 を
加えて、酸化する際に、
Ce4+( 橙 赤 色 ) ← →
Ce3+(淡青色)なる変
化に基づいて、触媒の
働 き を す る Ce4+の 濃
度が時間と共に、約1
分程度の周期で、振動
的に変化する現象を見
出した。
1964 年 以 降 、
A.M.Zhabotinsky 等
は、この種の反応の研
究を行い、クエン酸を
マロン酸に変えても、
又、Ce4+の代わりに、
Fe3+や Mn2+を 用 い
ても、同種の現象が起
こることを見出した。
又、Br を他のハロゲン
に置き換えると、この
現象は起こらない。彼
等は、臭素酸イオン、
ブロモマロン酸、マロ
ン酸の濃度のある特定
の領域でのみ、この現
象が現れることを見出
した。
Busse( 1969)は、 B-Z 反応において、濃度勾配が存在すると、
濃度が層状に繰り返す空間構造の現れることを見出した。
Field-Koros-Noyes(1972)によって、B-Z 反応の素過程が、十
個の反応に、要約された。その結果、B-Z 反応のスキームが解明さ
れ、Oregon の Noyes のグループによって、Oregonator が提唱
され、B-Z 反応の概略は、解明された。
- 17 -
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3
%83%9E%E3%83%88%E3%83%B3
セル・オートマトン
セル・オートマトン (Cellular automaton, CA) とは、格子状のセルと単純な規則からなる、離散的計算モデルである。計算可
能性理論、数学、理論生物学などの研究で利用される。非常に単純化されたモデルであるが、生命現象、結晶の成長、乱流といった複
雑な自然現象を模した、驚くほどに豊かな結果を与えてくれる。
正確な発音に近い"セルラ・オートマトン"とも呼ばれることがある。"セル"は「細胞 」「小部屋」、"セルラ"は「細胞状の」、"オー
トマトン"は「からくり」「自動機械」を意味する(オートマタ参照)。複数形はセルラ・オートマタ (cellular automata) である。
セル・オートマトンは無限に広がる格子状のセル(細胞のような単位)で構成されており、各セルは有限種類の(多くは 2 ∼数十
種類の)内部状態を持ち、時間が進むと共に内部状態は変化していく。また、ここでの時間は離散的(不連続的)なものであり、時刻
t + 1 における 1 つのセルの内部状態は、時刻 t における、そのセル自体および近傍(2 次元の場合、8 つ)のセルの内部状態によ
って決定される。全てのセルに等しく「規則」が適用され、セルが更新されると、新たな「ジェネレーション」(世代)になった、と
考える。
概要
2 次元の(つまり面状の)セル・オートマトンの例として、無限に広がる方眼紙を考える。方眼紙のひとつのマス目がセルにあたる。
それぞれのセルは「黒」と「白」の 2 つの内部状態をもつ。あるセルの近傍には 8 つのセルが隣接している。これら 9 つのセルが取
ることができる状態は全部で 29 = 512 個存在する。セル・オートマトンがどのように時間発展していくかのルールは表として与え
られる。すなわち次の時間ステップ(t+1)で、中心のセルが「黒」「白」いずれになるかは、現在の時間ステップ(t)でとり得る 512
個のパターンそれぞれについての一覧表によって決定される。
2 次元のセル・オートマトンで最も有名なものがライフゲームである。ライフゲームは以下のようなルールで記述される。
誕生: 死んでいるセル(「白」)の周囲に 3 つの生きているセル(「黒」)があれば次の時間ステップでは生きる(「黒」になる)。
維持: 生きているセル(「黒」)の周囲に 2 つか 3 つの生きているセル(「黒」)があれば次の世代でも生き残る(「黒」のままである)。
死亡: 上以外の場合には次の世代では死ぬ(「白」になる)。
このライフゲームのルールは細菌などの生物の繁殖のアナロジーである。すなわち、孤独でも人口過密でも死んでしまう。最も快適
な人口密度では子孫を残し繁栄するというものである。実際ライフゲームは生物の増殖のような複雑で多様な振舞いを示す。
一般に、各セルは同じ状態から開始し、一部の有限個のセルだけがそれ以外の状態から開始する。これを「コンフィギュレーション」
と呼ぶ。また、全体が周期的なパターンを形成していて、一部がそのパターンから外れた状態で開始す
るということもある。後者は 1 次元のセル・オートマトンでは一般的である。
セル・オートマトンのシミュレーションには有限の格子を使うことが多い。2 次元の場合、無限の平
面ではなく、有限の四角形で表される。有限の格子での明らかな問題は端のセルをどう扱うかである。
端をどう扱うかが格子全体のセルの状態に影響を与える。1 つの手法は、端のセルを全て変化しない定
数を状態として持つとするものである。別の手法は端のセルの近傍を一般のセルとは違う内容にすると
いうものである。つまり、端のセルの近傍を通常より少なく定義することもできるが、その場合は規則
も新たに定義しなければならない。別の手法として、 2 次元の場合に四角形の平面の端の上下と左右を
繋げて、トーラス形にすることもある。これは、ある意味で無限の平面が同じ四角形で平面充填されて
いることになる。1 次元であれば、線の端を繋いでループにすることになる。
化学における例
ベロウソフ・ジャボチンスキー反応はセル・オートマトンを使ってシミュレートできる。1950 年代、A・M・ジャボチンスキーは
ソ連の B・P・ベロウソフの研究成果をさらに進め、マロン酸、酸化した臭素酸塩、セリウム塩の混合物の薄い均一な層を置いておく
と、同心円や渦巻き模様などの幾何学的模様が生じることを発見した。1988 年 8 月、Scientific American (日本では日経サイ
- 18 -
エンス)誌上の "Computer Recreation" という記事で、A. K. Dewdney はベロウソフ・ジャボチンスキー反応に非常によく似
た挙動を示すセル・オートマトンを紹介した。ベロウソフ・ジャボチンスキー反応が、分子レベルでそのセル・オートマトンと同じよ
うな仕組みで発生しているのかどうかは不明である。これまで、セル・オートマトン的な化学反応が自然界で観察されたことはない。
そのような化学反応は全て研究室や実験室でのみ観測されている。
- 19 -
Laboratory of Molecular Dynamics and Complex Chemical Physics,
Department of Environmental and Natural Resource Science
Faculty of Agriculture,
Tokyo University of Agriculture and Technology,
3-5-8, Saiwai-cho, Fuchu-shi, Tokyo 183-8509, Japan.
Tel +81 (0)423 67 5616 , Fax +81 (0)423 67 5616
E-mail: [email protected], http://www.tuat.ac.jp/~ushiki/
分子動態化学
<分子動態化学の目次>
第0章 ダイナミックスとは何か?
(01)化学と物理学
(02)静と動
(06)生態系
(07)生物と協同性
(03)運動と拡散
(04)化学反応系
(05)相転移現象
第1章 常微分方程式論の概観
(08)微分方程式
(09)変数分離形微分方程式
(10)同次形微分方程式
(11)1階線形微分方程式
(12)2階線形微分方程式
(13)定数係数の同次線形微分方程式
(14)2階非同次線形微分方程式
(15)階数低下法
第2章 運動と拡散の概観
(16)運動方程式
(17)拡散現象
第3章 化学反応速度論の概観
(19)熱力学的制御と速度論的制御
第4章 非線形化学反応び概観
(23)非線形現象と化学反応
(18)拡散方程式
(20)古典的反応速度論
(24)BZ反応
第5章 生態学と拡散
(25)生態系での受動的な拡散
(27)生物拡散の数理的取扱い
第6章 協同現象
(21)絶対反応速度論
(29)相転移の基礎
(26)「臭い」と「味」の拡散
(28)動物の拡散の例
(30)蛋白質の構造と機能
-1-
(22)酵素反応速度論
<分子動態化学と Dynamics 概念の構造化の概観>
Dyamics 概念の展開
Motion と Diffusion 概念の結合→ Transition 概念への基礎 (日本:物理系)
確率過程・マルコフ過程
相転移現象・形態形成への応用
ニュートン運動方程式
↓
ベキ数則
↑
+ → Langevin 方程式→ Fokker-Plank 方程式→分布関数→ フラクタル →不均一系→協同性→・・生物系
揺らぎの項
↑拡散概念
カオス
↓
ブラウン運動
積分変換法
生態学への応用
Reaction と Diffusion 概念の結合→リズム現象と散逸構造概念への基礎 (日本:化学系)
化学反応速度論→常微分方程式論→化学反応システム→グラフ理論、等→ネットワーク論(関係論)
↓
↓
↓
触媒反応系→酵素反応速度論→アロステリック効果→・・・・・・・・制御性と機能性
↓
↓
BZ 反応系→リズム現象→散逸構造→協同性→・・・・・・・・・・・生物系及び生態系
↑
拡散項
時空を含めて、「物質が、Change するとは何か?」、それも、これまでの個々の構造だけではなくて、システムとして、体系的に
理解するのか?これが問われる。正に、環境資源問題の理解の「原点」である。気分とか、ムードでだけでは、現実はそうならないこ
とは、我々は学んだ筈である。Dynamics 概念を確立することと 、「生物のエッセンスに学ぶ」ということは、ほぼ、同値の概念な
のだと思う。
-2-
第5章
生態学と拡散の概観
数理生態学の展開の概観
個体群生態学の非線形連立微分方程式(Lotka(1924), Volterra(1926))
ミニマックス定理(John von Neumann(1928))
ゲームの理論と経済行動(Oskar Morgenstern(1944))
生物個体群のランダム分散の理論(Skellam(1951))
非協力ゲーム/ナッシュ均衡(John Forbes Nash(1950))
進化的に安定な戦略(John Maynard Smith(1973))/進化生物学/動物行動学
数理生態学の展開
数理経済学(Reinhard Selten, Thomas Crombie Schelling)
カオス理論(James A. Yorke, Tien-Yien Li(1975))
コンピューターの発展
数理生物学の展開
数理生態学の始まりは、Lotka(1924)と Volterra(1926)と言える。この流れが、Skellam(1951)の生物個体群のランダム分散
の理論へ展開され、そして、Neumann が言い出した「ゲームの理論」の流れを受け継いだ John Maynard Smith の進化生物学が
登場する。「ゲームの理論」は、経済学と生物進化/生態学に、多大な影響をした。
-3-
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%B0%E7%90%86%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6
数理生物学
数理生物学(すうりせいぶつがく、mathematical biology)、または生物数学(せいぶつすうがく、biomathematics)とは、
学問の学際領域の一つで、生物学の過程を数学を道具として使ってモデル化することを目的とする。生物学の研究の実験的な面でも理
論的な面でも用いられる。
重要事項
生物学への数学の応用は昔から行われてきたが、近年特に興味深い分野となっている。これには次のような理由が挙げられる。
ゲノミクス革命により、解析的な道具なしには理解するのも困難な情報を持つ分野が表れてきた。
カオス理論などの近年の数学の進歩により、生物学の複雑な、非線形的な領域まで扱えるようになった。
コンピュータの能力が飛躍的に向上し、以前はできなかったような計算やシミュレーションが可能となった。
動物や人間に関する研究が複雑化してきたため、In silico での実験に対する関心が高まってきた。
研究領域
次に挙げるのは、数理生物学の研究領域のリストである。これらの例はどれも複雑で非線形のメカニズムを含むものであり、これら
の結果は数学的且つ数値計算的なモデルを使わなければ得られないものであると徐々に分かってきた。必要な知識が多岐に渡るため、
数理生物学の研究は通常、数学者、物理学者、生物学者、生理学者、動物学者、化学者らがチームを組んで行われる。
個体群変動(個体群動態)
個体群変動の研究は、昔から数理生物学が活躍する分野だった。この分野の研究は 19 世紀頃から始まり、ロトカ=ヴォルテラの方
程式は有名な例である。ここ 30 年来、ジョン・メイナード=スミスによって発展した進化ゲーム理論によって補完された。個体群変
動に対しては、進化生物学の理論が使用する数学の形を決める。個体群変動の分野は、人口に対する感染症の影響を研究する数理疫学
の分野と重なっている部分がある。感染症の拡散に関してはいくつかのモデルが提案され研究されていて、公衆衛生の政策決定に対し
て重要なデータを提供している。
分子生物学のモデル化
分子生物学の重要性が高まるにつれて、この分野の研究は急速に拡大してきた。
ニューロンや発癌のモデル化
生物学的組織の機構
酵素学や酵素反応速度論の理論化
癌のモデル化とシミュレーション
細胞同士の間の運動のモデル化
傷病組織の形成の数学的モデル化
細胞間動態の数学的モデル化
生理学的システムのモデル化
動脈疾患のモデル化
心臓のマルチスケールなモデル化
数学的な手法
「モデル」という言葉はしばしば方程式に対応したシステムと同義語として使われるが、生物学的なシステムのモデル化というのも方
程式に対応したシステムを作ることである。 解析的手法あるは数値的手法により求められた方程式の解は、その生物学的システムが
通時的に、または平衡時において、いかに振る舞うのかを記述する。 様々な方程式と様々な行動があり、結果はモデルと方程式に依
存する。 モデルはしばしばその対象となるシステムに関する仮定を設ける。方程式群もまた発生しうる事象の性質に関し仮定をおく
ことがある。
次に挙げるものは数学的な描写と仮定の例である。
-4-
決定論的過程(力学系)
初期状態と最終状態の間の固定的な対応。ある初期条件より開始し、時間的に前方に進行する、ある決定論的なプロセスは、状態空
間において常に同じ軌道を生成し、二つの軌道が交差する事態も存在しえない。
常微分方程式(連続的な時間と空間からなる。空間的な導関数の非在。)
偏微分方程式(連続的な時間と空間からなる。空間的な導関数の存在。)
マップ(不連続な時間と連続的な空間からなる。)
確率論的過程(ランダム力学系)
初期状態と最終状態の間のランダムな対応。そのシステムの状態は対応する確率分布とともにランダムな変数に依存する。
非マルコフ過程 汎用マスター方程式(過去の出来事が蓄積された連続的な時間と不連続な空間からなる。事象の待機期間(または
状態間遷移)は離散的に発生し、一般化された確率分布を有する。)
離散マルコフ過程 マスター方程式(過去の出来事を蓄積しない連続的な時間と不連続な空間からなる。事象の待機期間は離散的に
発生し、指数関数的に拡散する。)
連続マルコフ過程 確率微分方程式またはフォッカー=プランク方程式(連続的な時間と空間からなる。事象はランダムなウィーナ
ー過程によって連続的に生じる。)
空間的モデリング
この分野における古典的な仕事のひとつが 1952 年、Philosophical Transactions of the Royal Society に発表された形態
形成の化学的基礎(The Chemical Basis of Morphogenesis)と題されたアラン・チューリングによる形態形成に関する論文であ
る。
創傷治癒試験(wound-healing assay)における移動波 [1]
群れの振舞い [2]
形態形成のメカノケミカル理論 [3]
生物学的パターン形成 [4]
(25)生態系での受動的な拡散
乱流拡散方程式
乱れの中の1点 x の周りに微小体積を考えて、その中での粒子の瞬間濃度を S(x, t)で表す。乱れにより S の値はランダムに変動
するので、乱れの状態を同じとして、無限に実験を繰り返した場合の統計平均値 S~を考える。乱れの為に、微小部分の瞬間速度 u(x,
t)もランダムに変動する。この速度による x の正方向への粒子の瞬間フラックスは uS である。又、拡散による x 方向への瞬間フラ
ックスは、フィックの法則より、ー D ∂ S /∂ x である。x 方向への瞬間全フラックスは、次式となる。
Jx = uS ー D ∂ S /∂ x
(5−01)
従って、微小体積内の瞬間濃度の1次元の拡散方程式は、次式となる。
∂
∂S ∂Jx
∂
∂S
=(uS)+
D
=∂t
∂x
∂x
∂x
∂x
-5-
(5−02)
此処で、瞬間量 u、S を、その統計平均量 u~、S~と、変動 u'と S'に分解する。
すれば、
u = u~+ u'、S = S~+ S'を(5ー02)式に代入
∂S
∂
∂
∂
∂S
=( u S )+
(- u'S' )+
D
∂t
∂x
∂x
∂x
∂x
(5ー03)
が得られる。平均濃度の時間変化は、平均速度による正味の輸送率(移流)と、乱れによる正味の輸送率(乱流拡散)と、分子拡散の
和に規定される。そして、この乱流輸送項は、一般に、分子拡散項に比べて、きわめて大きい。しかし、乱流輸送項は、濃度と速度の
変動の積の平均を含み、未知の量である。
乱流の輸送理論において、気体分子運動論のアナロジーにより、(u'S')~の項を平均濃度の勾配∂ S~/∂ x と関係づけている。
∂S
u'S' =-K
∂x
(5−04)
此処で、K は乱れによる x 方向への拡散率で、乱流拡散率、又は、うず拡散率と呼ばれる。
∂S
∂
∂
∂S
=( u S )+
(D+K)
∂t
∂x
∂x
∂x
(5−04)
輸送理論において、K は粒子の混合距離 l と乱れの速度変動の大きさ u*との積で表される。
K =(1/2)lu*
(5−05)
植物群落内外の拡散
群落周辺部を除く内部での炭酸ガス濃度の分布は、水平方向の変化と鉛直移流を無視して、鉛直方向の拡散だけに着目すると、次式
を得る。
∂C ∂
∂C
=
Kz
-(εI-r)B
∂t ∂z
∂z
(5−06)
此処で、C は CO2 濃度、εは光合成効率、I は日射強度、r は呼吸速度である。上式の右辺第2項は、非保存項である。
-6-
定常状態では、左辺が零となるから、次式となる。
d
dC
Kz
=(εI-r)B
dz
dz
(5ー07)
此処で、Kz を Av(鉛直うず粘性率)に等しいと見なし、風速変化を(5−08)式として、lz(混合距離)= const とすれば、
(5
−09)式を得る。
z
u=uHexp -a 1H
z
Kz=KHexp -a 1H
,
(5−09)
此処で、uH は群落の高さ H での風速、CD は
抵抗係数、B は葉面積密度、KH は高さ H で
の Kz 値、である。
葉面積密度が高さによらず一定ならば、日
射強度は、次式である。
z
I=IHexp -β 1H
(5−10)
此処で、IH は高さ H での日射強度、βは葉面
積密度に関係する定数、である。
群落上部では、光合成が呼吸を凌駕すると
仮定して、CH を高さ H での CO2 濃度とす
れば、次式を得る。
z
H2εBIH
C=CH1-exp- β-α 1(
)K
H
ββα H
(5−11)
-7-
CDB 1/3
a=H
2lz2
(5−08)
群落下部では、呼吸が光合成を凌駕すると仮定して、Kz の高度変化を無視すれは、次式を得る。
dC
J0
1 rB
2
C=C0zz , J0=- Kz
Kz 2 Kz
dz 0
(5−12)
此処で、C0 は Z = 0 での CO2 濃度、J0 は土壌の呼吸による CO2 の供給率である。
海洋中の栄養塩の拡散
海洋生態系を構成する環境化学要素として第1次生産生物の活
動に直接関係するものに栄養塩がある。栄養塩の分布は、物理的
な移流や拡散に加えて、生化学的な変化で決まる。後者は、非保
存項を代表するもので、表層(混合層)では植物プランクトンの
摂取、深層では沈降する動植物プランクトンの死骸からの溶出が
卓越する。
海の栄養塩の鉛直分布の拡散モデルとして、定常状態を仮定し
て、鉛直拡散率 Kz と鉛直移流 w を一定にすると、次式となる。
d2S
dS
Kz
-w
+R=0
2
dz
dz
(5−13)
此処で、S は栄養塩濃度、z は海面から鉛直下方の距離、である。深層水において、生物死骸からの溶出の為に、R > 0 となる。R の
関数形として、
(6−14)式を仮定する。即ち、溶出は上層から始まるので、R は深さとともに減る。a = 0 の時、R = R0 として、
(6−14)式を(6−13)式に代入して解くと、(6−15)式を得る。A と B は境界条件で決まる。
-az
R=R0e
w
z
S=A+Be Kz +
(5−14)
R0
w
2
Kza 1+
Kza
-8-
-az
e
(5−15)
胞子の拡散
此処では、病原菌伝搬に関連して、胞子の大気拡散の拡散モデルで考えてみる。座標の原点を胞子源に置き、2次元(x 軸を地面に
沿って風下に、z 軸を鉛直方向にとる)空間を考えて、移流を拡散
率を一定にすると、定序状態の拡散方程式は、次式となる。
∂S
∂S
∂2S
-ws
u
=Kz
∂x
∂z
∂z2
(5−16)
此処で、u は風速、ws は胞子の沈降速度、S は胞子の大気濃度、Kz
は鉛直拡散率である。R 項と x 方向の拡散は無視する。
原点に、N0 胞子、地面では沈降を別として、胞子の拡散による
フラックスはないと仮定して 、(5−16)式を解くと、次式を得
る。
wsz
N0
ws2x
uz2
S=
exp +
+
4uKz 4Kzx 2Kz
πKzx 1/2
u
(5−17)
地上 z の高さ以上に存在する胞子の量 N は、上式を積分すればよ
い。Φは誤差関数である。
N=
∞
z
z
Sdz=N0 1-Φ
2
Kzx
u
ws
+
2
Kzu
x
(5−18)
N が胞子の源の量 N0 の半分を胞子伝搬の境界と定義すると、その境界を表す
曲線は、上式の誤差関数の値が 1/2 になる、Φ(0.4769)= 1/2、の条件から、
次式のような原点を通る放物線となる。
z
2
Kzx
u
ws
+
2
Kzu
x
=0.4769
(5−19)
-9-
(26)「臭い」と「味」の拡散
昆虫フェロモンの拡散
昆虫の移動速度を u として、昆虫を原点とした時の道しるべ中
の物質濃度分布は、定常状態の拡散方程式で論じることができる。
∂S
∂2S ∂2S
=D
u
+
2
∂x
∂y
∂z2
(5−20)
此処では、x 軸方向(進行方向)の拡散は無視している。
Q をフェロモンの放出速度とした時の(5−20)式の解は、
次式で与えられる。
Q
u(y2+z2)
S(x,y,z)=
exp 2πDx
4Dx
(5−21)
此処で、限界濃度 C で道しるべの境界を定義すると、その境界は、
上式で S = C とおいた立体面である。
蛾などの性誘引フェロモンが伝達する有効距離は、蟻のフェロ
モンと比べて、桁違いである。それだけの距離を伝えるには、環
境の力(風)を借りなければならない。風は、フェロモンの運搬
だけではなく、乱れも起こすので、拡散は簡単ではなく、乱流拡散の領域に入り、風速や地表の境界層の構造に依存する。
限界濃度 C で決まる性誘引フェロモン・ブルームの長さ X、最大横幅 Y、最大高度 Z は、以下の式となる。
2Q
1/(2-n)
X=
Y=cy
Cπcyczu
2Q
Z=cz
Cπcyczue
2Q
Cπcyczue
(5−22)
- 10 -
(27)生物拡散の数理的扱い
Patlak のモデル
Patlak は、ランダム歩行のモデルを大幅に拡張して、あいつづく歩みの方向に相関があり、環境が等方性ではなく(不均一)、外
力が働いている場合のランダム歩行を考えた。其処では、それぞれの粒子の歩みの速度 c や歩みの時間τも一定ではなくて、ある分
布をとっていると考えた。
Jx(x0,t)=
( c τ )d
τ0
∂ 1 c2τ2
S(x0,t)S(x,t)
∂x 2 τ
0
(5−23)
此処で、(c τ~)0 は右に行く粒子の C τ~と左に行く粒子の c τ~の差であり、その内容を以下とした。
(c τ~)d =(c τ~)1 +β(x, t)(c τ~)
(5−24)
(c τ~)1 は生物が x の正方向に進む平均の歩幅(c τ~)+から、方向に無関係な平均の歩幅 C τ~を引いたもので、外力の為にある
方向に歩幅が増える効果β(x, t)は、生物の進む方向に持続性があったり、刺激などの外力が働いている為に、ある方向により、多く
向きを変えることに起因する非対称運動の度合いを表す。此処では、(c τ~)1<<c τ~、|β|≦1を仮定している。
で、上式のフラックスの方程式を書き直せば、拡散方程式が得られる。
( cτ )1 β(x,t) cτ
∂
∂2 1 c2τ2
(5−24)
=+
S +
S
2
x
2
x
∂ S /∂ t
∂
τ
τ
∂
τ
走性への応用
此処では、バクテリアの走化性の拡散モデルを考える。誘引化学物質の濃度に応じて、バクテリアのランダム運動の頻度が変わる(ク
リノキネシス)。今、バクテリアのランダム歩行の歩幅 l、その歩みの方向が変わる頻度 f は、化学物質の濃度 C(x)に依存すると考え
f = 1/τ= f|C(X)|
∂2
∂ S /∂ t =
∂x2
る。
。C は場所で変わるから f も場所で変動する。
このクリノキネシスのモデルは、(c τ~)1 = 0、β= 0、(c^2 τ^2)/τ~= l^2 /τ*= l^2f()C と置くと、拡散方程式は、
dC
1
∂
∂
∂S
2
l f(C(x))S =S +
χ
μ
2
dx
∂x
∂x
∂x
- 11 -
(5−
25)
此処で、χを走化性係数、μを運動度という。
1 df
χ=- l2
2 dC
1
μ= l2f(C)
2
(5−26)
(5−27)
バクテリアの走化性は、化学物質濃度に依存する運動度(拡散
率)で規定される拡散と、化学物質濃度の勾配に依存する移流に
よって決まる。バクテリアの方向を変える頻度が濃度と共に増す
時は、濃度の減る方向に向かう移流があり、逆に、頻度と共に減
る時は、濃度の増える方向に向かう移流がある。
指向走性のないキネシスだけでも、動物個体群の分布は空間の
特定の場所に偏ることは、Patlak の式や Fokker-Plank 方程式
で説明できる。例えば、(5−24)式で、(c τ~)1 = 0、β= 0
とおけば、拡散方程式は、以下となる。
1 c2τ2
∂S
∂
S
=
2
∂t ∂ x 2 τ
(5−28)
動物個体群を有限の空間に入れ、不均一な刺激を与えたとする。動物はそれに応じて、キネシスによって、ランダム運動を始める。
長い時間を経て、分布が定常状態に達する。
(5−28)式を積分すると、(5−29)式となり、この式はフラックスの式であり、閉じた空間では、動物が外に向かうフラッ
クスは無いので、A = 0 である。
d 1 c2τ2
S =A(const)
dx 2 τ
(5−29)
此処で、再び積分すると、次式を得る。
1 c2τ2
τ
S=B(const) , S=2B
2 τ
c2τ2
- 12 -
(5−30)
(c^2 τ^2)~
S = 2B /(c^2 τ^2)~
定常分布は
に反比例し、τ~に比例する。オルトキネシスでは、τ~が一定で、
(5−30)式は、
と書けるから、動物は歩行速度の小さい所に集まる(運動が遅くなる所に集まる)。クリノキネシスでは、c~が一定で、τ~の小さい
所、即ち、方向を変える頻度の大きい所に集まる。
(28)動物の拡散の例
行動圏における動物の分散(食物を摂取しながら動くランダム歩行)
1次元のランダム歩行者が、各格子点にあらかじめ割り当てられ
た食物量を摂取しながら動き回ることを考える。これは漂浪移動の
簡単なモデルである。原点 O から出て、歩幅 l、歩行時間τ、m(x)
を各点の食物量、歩行者は各点で m に依存する量 f(m)を摂取する。
動物が t 時間後に、x 点に到着して、それまでに Q だけの食物(エ
p(x, Q, t)dxdQ とする。この確率密
∂p
∂p
∂2p
=-F(m(x))
+D
∂t
∂Q
∂x2
ネルギー)を摂取した確率を
度 p を満足する拡散方程式は、次式である。
∂
∂2p
=(F・p)+D
∂x2
∂Q
(5−31)
lim(f/τ)= F(m(x))、lim(l^2/2 τ)= D
ここで、
である。つまり、F
(m(x))= F(x)を座標軸 Q の方向の速度成分、それが x 座標に依存
するシアーを持つと見なせばよい。D という拡散率で x 方向に拡散
する粒子が各点に特有な流れ F で Q の方向に流され、全体として、x、
Q 方向に p の確率で分散すると考えればよい。F(m(x))を適当に仮
定して上式を解けば、p が求まる。t 時間後の x や Q に適当な制限を加えれば、個体の生存確率などの計算が可能である。
∂S
∂2S
個体密度
は、次式の関係がある。
=D
(5−32)
2
S(x, t)=∫ p(x, Q, t)dQ
∂t
- 13 -
∂x
Laboratory of Molecular Dynamics and Complex Chemical Physics,
Department of Environmental and Natural Resource Science
Faculty of Agriculture,
Tokyo University of Agriculture and Technology,
3-5-8, Saiwai-cho, Fuchu-shi, Tokyo 183-8509, Japan.
Tel +81 (0)423 67 5616 , Fax +81 (0)423 67 5616
E-mail: [email protected], http://www.tuat.ac.jp/~ushiki/
分子動態化学
<分子動態化学の目次>
第0章 ダイナミックスとは何か?
(01)化学と物理学
(02)静と動
(06)生態系
(07)生物と協同性
(03)運動と拡散
(04)化学反応系
(05)相転移現象
第1章 常微分方程式論の概観
(08)微分方程式
(09)変数分離形微分方程式
(10)同次形微分方程式
(11)1階線形微分方程式
(12)2階線形微分方程式
(13)定数係数の同次線形微分方程式
(14)2階非同次線形微分方程式
(15)階数低下法
第2章 運動と拡散の概観
(16)運動方程式
(17)拡散現象
第3章 化学反応速度論の概観
(19)熱力学的制御と速度論的制御
第4章 非線形化学反応び概観
(23)非線形現象と化学反応
(18)拡散方程式
(20)古典的反応速度論
(24)BZ反応
第5章 生態学と拡散
(25)生態系での受動的な拡散
(27)生物拡散の数理的取扱い
第6章 協同現象
(21)絶対反応速度論
(29)相転移の基礎
(26)「臭い」と「味」の拡散
(28)動物の拡散の例
(30)蛋白質の構造と機能
-1-
(22)酵素反応速度論
<分子動態化学と Dynamics 概念の構造化の概観>
Dyamics 概念の展開
Motion と Diffusion 概念の結合→ Transition 概念への基礎 (日本:物理系)
確率過程・マルコフ過程
相転移現象・形態形成への応用
ニュートン運動方程式
↓
ベキ数則
↑
+ → Langevin 方程式→ Fokker-Plank 方程式→分布関数→ フラクタル →不均一系→協同性→・・生物系
揺らぎの項
↑拡散概念
カオス
↓
ブラウン運動
積分変換法
生態学への応用
Reaction と Diffusion 概念の結合→リズム現象と散逸構造概念への基礎 (日本:化学系)
化学反応速度論→常微分方程式論→化学反応システム→グラフ理論、等→ネットワーク論(関係論)
↓
↓
↓
触媒反応系→酵素反応速度論→アロステリック効果→・・・・・・・・制御性と機能性
↓
↓
BZ 反応系→リズム現象→散逸構造→協同性→・・・・・・・・・・・生物系及び生態系
↑
拡散項
時空を含めて、「物質が、Change するとは何か?」、それも、これまでの個々の構造だけではなくて、システムとして、体系的に
理解するのか?これが問われる。正に、環境資源問題の理解の「原点」である。気分とか、ムードでだけでは、現実はそうならないこ
とは、我々は学んだ筈である。Dynamics 概念を確立することと 、「生物のエッセンスに学ぶ」ということは、ほぼ、同値の概念な
のだと思う。
-2-
第6章 協同現象
(29)相転移の基礎
生物と協同性
DNA → DNA配列がアミノ酸の配列の一次構造を決定 → 蛋白質の一次構造から三次構造が決まる(平衡系熱力学). →
生体秩序の全ての根源はDNAにある. → それで全てがわかるというわけではない. → DNAの情報をもとにしてつくられ
た蛋白質のもつ機能が秩序維持の最前線ではたらいている.
蛋白質
→
温度,pH変化
→
変性
→
元の状態
→
再生
→
可逆変化の発見
→
Anfinsenと伊勢村
散漫転移と生物機能
生物
形態に依存する
物性がある条件のと
ころで急に変化する
ことが特徴である.
→ 不連続的な変
化 → 散漫転移
→ 協同現象
x0以下では,直
線型はxの僅かな変
化に応じて,yも変
化する.
一方,散漫型は一
定値に近づき、機能は正常に保たれる.散漫型は機能の恒常性を保つのに有効なのである.
生命現象 → 協同的な作用を持つ意味 → 協同現象
相転移の分類
一つの相から他の相に移ることを相転移と言う.相転移は転移により起こるいろいろな量の不連続の度合いによって分類される.
-3-
∂G
∂G
, V=
S=(6−01)
∂T P
∂P T
水と水蒸気,水と氷の転移の場合は蒸発熱や融解熱が存在し,
エントロピーが不連続であり,体積変化(密度変化)がある.こ
のような転移を第1次相転移 (phase change of the first
order)と言う.
一方,液体ヘリウムは2.19Kで2つの異なる相が共存する.
その転移にはエントロピー変化も体積変化も伴わない.合金や磁
性体が強磁性から常磁性に移る場合や磁場がないときの金属の超
伝導状態への転移にはこのような相転移が存在する.このような
場合を第2次相転移(phase change of the second order)と言う.この場合はG関数に高次の不連続を伴う。第1次相転移と第
2次相転移の区別をG関数と温度の関係を図で示す.
第1次相転移と臨界点
<相図と臨界点>
気体はある温度以上ではいくら圧力を加えても液化しない.即ち,この温度以下では気体を圧縮すると凝結して液化する.この温度
を臨界温度(critical temperature)と言う.低い温度の等温線にはそれぞれ2つの不連続点があり,その間は水平になっている.こ
れらの不連続点を結んだ線の頂点が臨界点(critical point)であり,これを通る等温線を臨界等温線(critical isotherm)といい,そ
の温度が臨界温度である.臨界点の体積・圧力を臨界体積・臨界圧力と言う.
-4-
<準安定平衡>
一つの等温線について考える.図の点Gと点Lでは1モルのギブスの自由エネルギーが等しい.このときの圧力をPとすると,
FL + PVL = FG + PVG (6−02)
∂F
∂F
∂F
FLVG-VL
VL=FGVG → FL-FG=∂V T
∂V T
∂V T
(6−03)
即ち,直線LGは気相のFーV曲線,液相のF−V曲線の共通接線になっている.F−V図の傾斜によってP−V図が決められている
と言える.蒸気を静かに圧縮していくとき点Gに達しても液相が現れず,その延長上の点Aまでいくことがある.点Aと等しいP,T
をもつ点は液相の領域の点A である.G−P図で点A の方がAよりもギブスの自由エネルギーが小さいから,点Aから点A に移
った方が自由エネルギーは小さくなる.もしも,温度と体積を一定に保つならば,P−V図の点A ,即ち,点A
が点Aよりもヘ
ルムホルツの自由エネルギーFが小さいので,体系は点Aから点A
に移り,液相の状態L,気相の状態Gの共存する状態(線分G
A
と線分LA
の比)となる.
点Aの状態は小さな変化に対しては安定であるが,ある大きさ以上の液滴が生ずるぐらいの変化に対しては不安定であることになる.
このような状態を準安定な状態と言う.
<臨界点>
臨界温度は気相と液相がちょうど消えるときで,図のP−V図のC点,又は図での点Lと点Gが一致する場合にあたる.点Cを通る
等温線がT<T c に対する等温線の極限のものであるならば,点Cでの傾きは0でなければならない.点Cでの付近で展開すれば,
P-PC=A(V-VC)2+B(V-VC)3+..........
-5-
(6−04)
∂P
=2A(V-VC)+3B(V-VC)+.........
∂V T
(6−05)
したがって,V<VCでもV>VCでも(∂P/∂V)T<0(安定条件)であるためには,A=0,B<0でなければならない.即ち,
臨界点Cでは次式の条件が満たされなくてはならない.
∂P
=0 ,
∂V TC
∂2P
=0 ,
2
∂V TC
∂3P
<0
3 TC
V
∂
(6−06)
臨界点付近での等温圧縮率(臨界温度の等温線に沿った)
臨界点の条件,
∂P
=3B(V-VC)2 より,等温圧縮率は次式となる.
V
T
∂
1
1 ∂V
1
k==V ∂P T V 3B(V-VC)2
(6−07)
<臨界点とファン・デル・ワールス定数>
臨界点はファン・デル・ワールス(Van der Waals)定数と関係づけることができる.ファン・デル・ワールスの状態方程式は次式
である.
a
P+
V2
V-b =RT (1 mol)
(6−08)
これをVについての3次方程式として表せば,
V3-
RT
ab
a
2
b+
V + V=0
P
P
P
(6−09)
一方,臨界点ではVは3つの根が等しく臨界体積V C となるはずであるから,
V-VC 3=V3-3VCV2+3VC2V-VC3=0
この一致点をV C,T C,P C とするば,未定係数法により,
-6-
(6−10)
RTC
a
ab
2
3
3VC=b+
, 3VC =
, VC =
PC
PC
PC
(6−11)
この連立方程式を解けば,臨界定数はファン・デル・ワールス定数で表すことができる.
a
8a
, TC=
VC=3b , PC=
2
27b
27Rb
a/dm 6 atmmol −2
He
H2
N2
O2
CO 2
H2O
b/dm 3 mol −1
0.034
0.244
1.39
1.36
3.59
5.46
0.0237
0.0266
0.0391
0.0318
0.0427
0.0305
P C/atm
2.26
12.80
33.5
49.7
73.0
217.7
第2次相転移
<合金の第2次相転移>
第2次相転移の特徴はエントロピー変化も体
積変化も伴わないものであるが,第2次相転移
の行われる温度は圧力に異なる.これをλ点,
キュリー点(Curie point)と言う.
βー真鍮はCu50%とZn50%の合金で
あり,低温では単純立方格子をつくり,互いに
Cu原子(Zn原子)がZn原子(Cu原子)
の立方格子の中心に位置する.温度が高くなる
にしたがってCu原子とZn原子が入れ換わり,
本来Cu原子が占めていた格子点にもZn原子
がくるようになる.比較的低温ではB図のよう
に元々のZn原子の格子点にはZn原子の占め
-7-
(6−12)
V C/cm 3 mol −1
57.6
65.0
90.0
74.4
95.7
45.0
T C/K
5.3
33.3
126.1
153.4
304.3
647.2
る確率が高く,同様に,本来のCu原子の格子点にはCu原子の占める確率が大きい.しかし,ある温度T C になるとC図のように
1つの格子点を占める確率がZn原子とCu原子とで等しくなる.この場合,両立方格子に区別がなくなり結晶型が以前と異なること
になるが,両立方格子には区別がないという点は変わらない.
<エーレンフェストの関係式>
第2次相転移ではエントロピー変化や体積変化を伴わないから,次式が成立する.ここでは,圧力Pを変えると転移点Tも変わる.
これが転移点の線をつくる.
エントロピーの関係式
体積の関係式
1
S'(T, P)= S''(T, P)
V'(T, P)= V''(T, P)
(6−13)
∂S''
∂S'
∂S'
∂S''
dT+
dT+
dP (6−14)
dP=
T
P
P
T
T
P
∂
∂
∂
∂
V''
1
V'
1
∂
∂
CP'dTdP= CP''dTdP (6−15)
T
T
∂T P
∂T P
dP
1
ΔCP
∂V'
∂V''
=
CP'-CP'' dT=
(6−16)
dP →
dT
TV
T
Δβ
∂T P ∂T
∂V''
∂V
∂V'
∂V''
dT+
dP=
dT+
dP (6−17)
T
P
P
T
T
P
P
T
∂
∂
∂
∂
dP Δβ
1 ∂V'
∂V'
∂V''
∂V''
=
dT=dP →
dT Δk (6−18)
V
∂T P ∂T P
∂P T ∂P T
V
(6ー16)式と(6ー18)式より,
(Δβ)2
ΔCP=TV
Δk
(6−19)
ここで,βは体膨張率,kは圧縮率である.
(6ー16)
(6ー18)
(6ー19)式をエーレンフェスト(Ehrenfest)の関係式と言う.
-8-
<ヘリウムの相図>
HeⅠとHeⅡは両方とも液相である.HeⅠの方は通常の液体の性質を持つが,HeⅡの
性質は非常に特異で毛細管を通るときに抵抗がない超流動という性質を持っている.HeⅠと
HeⅡの転移が第2次相転移になっている.
図のλ曲線から,
点A(1.743K,29.1atm)
点B(2.19K,0.0608atm)
点C(5.25K,2.26atm)
dP/dT=ー81atm/K
一方,λ点から,T=2.19K, 6.84cm 3/g, HeI(C P=1.2cal/gK,β=0.02/K),HeII(C P=2.9cal/gK,β=-0.04/K)より,
となる.
dP/dT=ー78atm/K
(30)蛋白質の構造と機能
<高次構造と戻性実験>
立体構造
例えば,100残基の蛋白質を想定すると,
回転異性体はトランスT,ゴーシュG +・G −の3種類であるから,
全立体異性体の数は次式となる.
W=3^100=(3^2)^50=9^50∼10^47.7
(6−20)
180億年
=1.8×10^10×365×24×60×60×10^9
=5.7×10^26回 (6−21)
宇宙創世以来,
リボヌクレアーゼ:リボヌクレアーゼの分子内架橋は四つのS−S
結合がある.
-9-
<可逆変性と揺らぎの測定>
溶液中での蛋白質の変性と再生
熱・圧力・酸・塩基・塩・アルコ−ル・界面活性剤,など
可逆変性の実験例:
(a)温度による旋光性の変化
(b)pHによるソ−レ−領域の吸収の変化
(c)尿素による円二色性の変化
(d)温度による比熱の変化
左図はリボヌクレ
ア−ゼの変性・再生
をpHジャンプ法(吸
収:240nm)で
調べたものである.
条件によって,一様
ではないが,だいた
いの傾向はmsec
程度の速い変化とs
ec程度の遅い変化
があり,前者の速い
速度で変化する割合
は,後者に比べて小
さい.このように,
速度の非常に異なる二つの変化があることは比較的安定な中間状態が存在していることを
示唆している.しかし,中間状態が存在するといっても,それが直接,再生に特別の道筋
があり,途中に特定の構造(種または核)を経過しなければ元に戻らないという結論には
結びつかない.
同位元素交換によるリゾチ−ムの揺らぎの研究
リゾチ−ムの重水素交換
(a)交換過程の片対数プロット
(b)変性過程のファントホッフ・プロット
リゾチ−ムの44個のペプチド水素は,分子内で水素結合しているため,重水中で重水
素化される速度が遅く,その過程は赤外線吸収スペクトルにより測定できる.
N:水素結合をつくっていて重水素交換できない状態
D:水素結合が切れて交換できる状態
①交換速度N←→Dが溶媒中の重水素との交換速度より十分速い場合
見かけの交換速度
- 10 -
K=
[D]
ke
[N]+[D]
(6−22)
各温度での交換速度は常に一つの一次反応の形で表現される.
②交換速度N ・ Dが溶媒中の重水素との交換速度より十分遅い場
合,
直線は折れ曲がり,D状態にあるものが交換し,N→Dへの律
速が現れる.
結論:実験結果は一定温度でN・Dの変換が十分速く起こっていることを示し,分子1個で見れば,N−D間の構造の揺らぎが十分起
こっている.
(6−22)式で求めた[N]/[D]を1/Tに対して目盛ると,55℃付近で交わる2つの直線となる.
高温側でのN→Dの変換: エンタルピ−△H=127 kcal/mole
エントロピ−△S=364 eu
低温側でのN→Dの変換: エンタルピ−△H=2.2 kcal/mole
エントロピ−△S=−19 eu
高温側では変性・再生の揺らぎ,低温側ではN状態付近の部分的な揺らぎ
<統計力学的モデル>
リボヌクレア−ゼの戻性の実験からもわかるように,鎖間の共有結合の架橋であるS−S結合はむしろ立体構造ができた結果として
生ずるものであり,それが安定化に大きく寄与しているのではない.実は,水素結合,イオン結合,疎水結合といった非共有性の弱い
二次的結合のエネルギ−とアミノ酸鎖のエントロピ−とのバランスで,秩序構造をつくっているのである.一般に,二次結合の強さは,
結合の種類,距離,まわりの環境などにより決まる.
格子モデルの要約
- 11 -
①蛋白質はN個の同等な二次的結合の格子で,一つの二次的結合は結合状態と非結合状態の二つの状態のみとる.
②これらの二次的結合の全部の状態は蛋白質の微視的な「構造」を指定する.結合状態にある二次的結合(Nb個)の割合Nb/Nで指
定される蛋白質の巨視的状態を「構造状態」と呼ぶ.一つの「構造状態」には数多くの「構造」が存在する.また,一つの「構造」
には,その構造での鎖の自由度に相当するだけの「コンフォメ−ション」が含まれる.ここでの「コンフォメ−ション」とは,全て
の原子の位置が指定された状態を示す意味に用いている.
③0Kでは全ての二次的結合は結合状態にあり,アミノ酸鎖のエントロピ−は零である.したがって,「構造」も「コンフォメ−ショ
ン」もただ一つである.温度の上昇とともに,二次的結合は結合状態から非結合状態に変化し,一つの二次的結合当たりの結合エネ
ルギ−εと鎖のエントロピ−mαだけ増大する.ここで,αはアミノ酸残基当たりのランダム・コイル状態での鎖のエントロピ−,
mは二次的結合当たりのアミノ酸残基数である.
④二次的結合間には相互作用があり,状態の異なる二次的結合が隣接すると,エネルギ−Jだけ損をする.また,一つの二次的結合の
最近接数はzである.
格子モデルにおける分子場近似
蛋白質の構造に関する自由エネルギ−
(6−23)
ここで,Nb,Nuはそれぞれ,結合状態,非結合状態にある二次的結合の数,最後の項は結合状態に関する混合エントロピ−である.
構造状態
で変形すると,
(6−24)
この自由エネルギ−よりさまざまな熱力学関数を計算して,蛋白質の安定性を議論することができる.但し,溶媒効果を取り扱う場合
には疎水結合は別個に考えなければならない.(真空中のモデル)
構造状態の転移変化と揺らぎ
(6−24)式をXで偏微分をして0とおくことにより,ある温度Tで最も確からしい構造状態Xm(T)は次式により求まる.
(6−25)
ここで,A=ε/zJ,B=2k/zJ,C=mα/2kである.次式の交点がXmを与える.
- 12 -
(6−26)
(6−27)
Xmの温度変化は点P(−C,−A)を通る直線((6−27)式)の勾配BT
の変化として表現され,点Pの位置により次のように分類される.
<K領域内>
点PがK領域内(C> tanh −1A)にある場合,構造転移のあと構造状態はよ
り秩序ある方向になだらかな変化をする.
<K又はL領域内>
点PがK又はL領域内(C>A)にある場合,BT t=A/Cで一次の相転移
が起こる.これを「構造転移」と呼ぶ.
<点PがX=x上>
点PがX=x上(C=A)にある場合,二次の相転移が起こる.
<領域M内>
点Pが領域M内(C<A)にある場合,相転移は起こらず,なだらかな変化
をする.
現実の蛋白質はN∼10 2程度であり,最大値近似Xmでは不十分である.他
の構造も全て考えた平均値X(T)は次式となる.
(6−28)
(6−29)
一般の物理量Sの平均値は次式である.
(6−30)
二次的結合の数が直接影響するエンタルピ−の場合,
(6−31)
- 13 -
よって,比熱を求めることができる.
(6−32)
構造転移が起こる場合(K又はL領域内)
のモデル計算
(a)自由エネルギ−G0(T,X)
(b)確率密度ρ(T,X ):天然状態と変
性状態の2状態転移が示されている.
(c)構造状態の最大値近似X m(T)と平
均値X(T)
(d)比熱CP(T)
自由エネルギ−(6−25)式は第1次
近似として一様な格子モデルを採用してい
るため,高次構造を反映するパラメ−タと
してはXのみしか含んでいない.したがっ
て,例えば,特定のn個の二次的結合の切
れた「構造」とエネルギ−が殆ど等しい(差
がkTに比べて十分小さい)二次的結合の
組又は「構造」の数は多数存在するであろ
う.この多数の「構造」のなかからどの「構
造」をとっているかは,熱力学的には決ま
らない.ただ,各「構造」に対応する「コ
ンフォメ−ション」の数に比例した割合で,
各「構造」にばらまかれるはずである.即
ち,「構造」はけっして一つに決まらない.
実際の系のように,温度一定といった外
部条件では,エネルギ−が他の構造よりも
高くても,その「構造」に対応する「コン
フォメ−ション」の数が多ければ,その「構
造」に存在する確率が多くなる.
「構造状態」
とはこのような多数の微視的「構造」を反映する適当なパラメ−タで代表させ,一括したものである.
- 14 -
揺らぎ
構造状態の揺らぎは,一般に次式で表せる.
(6−33)
ここで,平衡点付近の自由エネルギ−の谷が二次曲線であると近似すれば,
(6−34)
①C=Aで二次の相転移をする場合
転移点ではXm=0,BTd=A/C=1であるから,この近似のもとでは揺らぎ(△X)2は無限大になる.
②C>Aで一次の相転移をする場合
転移点付近では二つの平衡点があり,蛋白質分子はその間を転移できるから,(6−33)式で計算した揺らぎ(△X)2は大き
くなる.
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Laboratory of Molecular Dynamics and Complex Chemical Physics,
Department of Environmental and Natural Resource Science
Faculty of Agriculture,
Tokyo University of Agriculture and Technology,
3-5-8, Saiwai-cho, Fuchu-shi, Tokyo 183-8509, Japan.
Tel +81 (0)423 67 5616 , Fax +81 (0)423 67 5616
E-mail: [email protected], http://www.tuat.ac.jp/~ushiki/
分子ダイナミックス特論(修士課程)
<分子ダイナミックスの目次>
第07章 ダイナミックスとは何か?
第08章 スペクトル解析の概観
第09章 スケーリングの概観
第10章 フラクタルの概観
第11章 ベキ数則の概観
第12章 カオスの概観
第13章 複雑系の概観
第14章 ダイナミックスの意味論
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